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1話:それは大層な地雷であるはずがないわけがない


「しかたない、今回だけは見逃してやろう」


「当然ですね。人命救助に一役買った俺を遅刻扱いなんてしたら天誅ですよ。天誅」


「ちっ、まぁいい。若林、授業始めるから席につけ」


担任の田中姫子はあからさまに舌打ちして、俺に席につくように急かす。


反抗する理由もないので俺はさっさと席につく。


これでなんとか留年は回避したか。ヘッドホン娘様々だなまったく。


事の顛末を簡潔に説明すると気絶させたもとい、気絶していたヘッドホン娘を保健室まで運び、教室に向かった。教室には案の定、何がそんなに嬉しいのか満面の笑みを浮かべた田中が待ち受けていた。田中は俺が教室に入るや否やいきなり。


「はーい、若林くん、留年けってーい!先生と一緒に仲良くもう一年すくーるらいふをエンジョイしよーなー♪」


なんて、20代前半の初老の婆の分際で語尾に音符マークをつける大変痛々しいものを見せられた。


そこで俺はこう言ってやった。


「通学路に倒れていた女生徒を運んでいて遅くなりました」


完璧だった。


目を丸くして驚く田中、さらに俺はこう続けた。


「信じられないって顔してますね先生。それなら保健室にいってきたらどうですか?」


俺が喋り終わるや否や教室から飛び出す田中。しばらくして帰って来た田中は苦虫を噛み潰した表情を浮かべていた。


「ち、遅刻は遅刻だ……」


その声にいつもの覇気はなく弱々しい。


「……そうですか……先生は遅刻したら留年するとわかっていたのにも関わらず、目の前で困っている人を見捨てなかった優しさの塊のような俺を見捨てるんですね?」


最後の一押し、俺はこの時すでに勝利を確認していた。


無茶苦茶な言い訳な気がしないでもないが、田中姫子という先生はこれでなかなか義理人情にあつい。俺には何故か厳しいところが多いが。おまけに美人でスタイルもいいため男女問わず生徒人気は絶大だ。ちなみに俺は初老の婆に全く興味無し。女性はやっぱり小学生が一番だろ。


そんなわけで、今回ばかりは田中も遅刻を大目にみてくれたわけだった。


その後の授業中、終始悔しそうに田中が俺のことを睨んでいた。



午前の授業を終え昼休み。

売店で買ってきた。まずいけど何故か止められない『かすみパン』をもさもさと食べていた。

相変わらずまずいけど止められない。


不意にバシャと勢いよく教室のドアが開いた。


「おい!若林ってやついるか!?」


そこにいたのは今朝のヘッドホン娘。


もう起きたのか。あのヘッドホン娘、朝の俺の一撃を耐えたことといいなかなかのしぶといな。放課後まで目覚めないと思っていたんだがなあ。


「えーと、若林?あー、ワカメか。それなら、あそこにいるけど」


そういってドアの近くにいた竹田がこちらを指差す。


ヘッドホン娘がこちらを向いて目があった。心なしか目が血走っている。


俺を捉えたヘッドホン娘はズカズカとこちらに歩いてくる。


「見つけたぞ、このワカメ男が!」


「あらあら、お嬢さんどうかしたんですか?」


「とぼけてんじゃねえぞ、てめぇ!」


「そんなわめきたてると、かわいい顔が台なしですよ?」


「なっ!?え、えぁ……」


途端、顔を真っ赤にして狼狽するヘッドホン娘。おっ、悲惨な言葉遣い(人のこと言えないが)のわりに可愛いな。


「とりあえず、落ち着いてそこに座りなさい」


「お、おう……」


幾分、落ち着いたのか素直に机を挟んで向かいの席に座るヘッドホン娘。


「それで、いったいどうしたんですか?」


「……てめぇ朝、俺のこと殴ったろ」


……やっぱりそれか。


殴った衝撃で記憶無くしてるなんてご都合主義なことを考えていたんだが……そう、うまくいくほど現実は甘くはなかった。


仕方ない。謝っておくか。このヘッドホン娘のおかげで助かったのも事実だ。ここで不平不満を言うのは筋違いだしな。


「ああ、そのことですか。俺にも事情があったとはいえ、やりすぎました。すいません」


「……謝るだけですむと思うなよ、てめぇ」


「おまえ、身体と一緒で器もちっちゃいですね」


「てめぇ!ちっちゃい言うな!それに俺はおまえじゃない!後藤千亜って名前があんだよ!」


「それなら俺にもてめぇではなく若林惠って名前があるんですけどね」


「うっせえぞ、誰もてめぇの名前なんか聞いてねーんだよ」


「ワカメと読んでくれて構わないですよ」


「はっ、ワカメか!てめぇみてぇなワカメ頭にはお似合いだな!」


「後藤千亜ですか……なかなか、かわいらしい、いい名前じゃないですか」


「え、あっ……あ、ありが、とう……」


顔を赤く染めてお礼を言うヘッドホン娘もとい、後藤千亜。案外素直でいい子なのかも知れない。


「それで後藤さん、俺はどうしたらいいんですか?」


「あぁ、うーん……そうだな……」


この時、俺はこの事態を少し軽く考え過ぎていたんだと思う。


「ワカメ」


この後藤千亜という存在を何処にでもいるただの女子高生だと思ってたんだ。


「俺に」


だから――




――魂をよこせ――




そう続いた後藤千亜の言葉に唖然として――


「はぁ?」


――と、間抜けな返事しか出来なかった。


「俺、悪魔なんだよ」


そういって無邪気に笑う後藤千亜はとても悪魔なんかには見えず、天使の様にかわいかった。

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