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《灰色編》16話:人権なんて言葉はこの世に存在しません


気がついたことがある。


とても大切なことに。


彼女のことだ。


また、会えた。


もう、会えないと思っていた彼女と。


この際、理由なんてどうだっていい。


何故、彼女が生きているのかとか、あの頃とは見た目も性格も違うのかとか、そんなことはどうだっていい。


どうだっていいんだ。


そんなことより大切なことがある。


たとえ、彼女がどう変わっても俺は彼女とした『約束』を守らなきゃいけない。


それは、誓いであり、呪いだ。守らなきゃいけない。絶対に。


俺が俺で有る限り。彼女が彼女で有る限り。絶対に。


それが、全てだ。




――と、まあ……少しカッコつけてみたんだが……なんともマヌケなことに彼女は、どうやら俺のことに気がついていないようなのです。


まあ、俺もあの頃と比べたら大分変わってしまったから、それも仕方ないことかも知れないけど……。


それでも、俺は姿形が変わってしまっていた彼女に気がついた。勿論、愛の力だ。俺は幼なじみとの大切な約束を忘れる優柔不断な主人公のように忘れっぽくはない。甘く見てもらっては困る。


さて、どうしたものかと考えて黙っていることにした。


――なんとなくだが……そのことについて、触れてはいけないような気がしたからだ。


だから俺は彼女がこのことについて話すまで何も言わないつもりでいる。


それに、俺としては彼女の傍にいられるのなら、それで幸せだから、別に構わないわけなんだがな。





「コンニチハ〜」


外の異様さとは異なり部室の中は案外普通の文化部の部室と大差ない。


部室の中には長テーブルを囲んで5人の部員がパイプ椅子に腰掛けていた。


その全員の視線が一斉に俺と千亜に向けられた。


「ああ、俺で最後ですか」


「おせぇ〜よぉ〜、ワカメぇ〜。もうとっくにみんな集まってんぞぉ〜。なぁ〜にやってたんだぁ〜?」


今、返事をしてくれたのは、机を挟んで左側一番手前の席に座っていたイケメン。


「それはですね副部超。女の子とイチャイチャしてたんで遅れました」


「…………はぁん?」


ギロリと4人の男子部員の鋭い視線が俺に向けられる。


「女の子とイチャイチャしてただと?調子にのるなよこの腐れ■ン■がッ!!!全員奴を囲めぇぇええ!!!裏切り者にはデット・オア・ダイッ!!!あの糞野郎に明日の朝日を拝めさせるなッ!!!」


叫んだのは机を挟んで左側一番奥の席に座っていた。眼鏡。我らが隊超(部超)だ。


「ワカメさんの裏切り者ッ!!!僕、ワカメさんのこと信じてたのにッ!!!」


続いて叫んだのは机を挟んで右側一番手前に座っていた、中性的な顔付きの男だか女だかよくわからないようなやつが、部員A君。


「隊超ッ!!!ジュリアの使用許可をッ!!!」


それで、机を挟んで右側の手前から二番目の席に座っていたマッチョが部員B君。


「許可する!あの裏切り者を逃がすな!確実に捕らえろ!」


「あざっす!よし!来い!ジュリア!」


「キシャァァァァァアアアアア!!!!!」


B君が叫ぶと、テーブルの下から、この世の者とは思えない叫びとともに、数多の触手が現れる。凄くウネウネしてる。


「お、おい、ワカメ!なんだありゃ!?」


俺の後ろで様子を伺っていた千亜は、謎の触手の出現に驚きの声をあげる。


「うーむ。これはまずいですね……ここは一旦撤退しますよ千亜ちゃん」


「そうはいかねぇ〜よぉ〜。ワ・カ・メちゃ〜ん♪」


ガシャン。副部長の声とともに俺の背後から何かが閉まる音がする。


「なっ!?これは対S級巨大生物用の防壁!?」


後ろを振り返るとそこにあったのは、入って来た時の木製の引き戸ではなく、頑丈な鋼の壁だった。


「くっ……!やむおえませんね……千亜ちゃんは下がっててください」


「何をカッコつけてやがる!この糞ボケカスが!彼女連れで部活に来るとはいい度胸だなワカメ三等兵!」


「おい!そこの糞眼鏡!誰がこいつの彼女だ!ふざけんじゃねーぞ!」


「あ、そうなの?」


「そんなことはありません。俺と千亜ちゃんはもう切っても切れない深い仲です」


「やっぱりかぁぁああ!!もはや弁明の余地はない!!死刑確定!!じわじわ痛ぶったうえで晒し首だ!!」


「ワカメ!てめぇはやっぱり死ね!」


「はぁ……皆さんやたらとアグレッシブですねぇ……」


「野郎ども!殺っちまいな!」


「ワカメさん……残念です……短い付き合いでしたがここでサヨナラですね」


「ワカメくん。あんたがいけないんだ。俺達を裏切るから……!ジュリア!」


「キシャァァァァァアアアアア!!!!!」


懐から極太の注射器を取り出したA君が俺に飛び掛かってくる。


それに続くかたちではB君の的確な指示をうけてジュリアの触手が襲い掛かってくる。


それらを避けようと後ろに下がろうとして、後ろから尋常じゃない殺気が放たれているのを感じとって、思わず振り返る。


「ち、千亜ちゃん!?」


そこにいたのは怒りに拳を震わせている千亜だった。


やばい!逃げ道が……ッ!

そこで立ち止まってしまったのが俺の敗因だった。


千亜におもいっきりぶん殴られ、ジュリアの触手に捕まり、A君に注射器を打たれた俺は完全に身体の自由を失った。


「……俺としたことが、まんまと捕まってしまいました」


「ヒャーハッハッハッー!さーてワカメ!覚悟はいいだろうなぁ!!!」


隊超が声高く笑い声をあげる。


「痛いのは嫌ですから、易しくしてください」


「ワカメ、ボーリングは好きか?」


「ハイスコア56の男にそれは愚問というものです」


「いやいや、そっちのボーリングじゃないから」


「ん?どういうことです?」


「ボーリングはボーリングでも、穴掘りのほうのボーリングだから」





「しくしくしくしく……俺、もう、お嫁にいけない……」


大事なものを失った。男として。


てゆーか、汚された。


ジュリアの触手はなんのための触手なのか……そんなものは決まっている。


なんとなくわかるだろ?


……だから、お願い。さっき俺がジュリアの触手で、されたことを忘れさせてください……。


そんなこんなで、俺は今、部室の奥にある手術室に設置された手術台の上に寝かされている。両手、両足。それと首と腰を鎖に巻かれ逃げられないようにガッチリと手術台に固定され、身動きがとれない状況だ。


その手術台を囲む影が6つ。


隊超、副部超、A君、B君。それに、あんな乱闘があろうと眉一つ動かさず読書していた、生物研の5人目の部員である飛田美空先輩。そして、最後は我らが後藤千亜。


「俺はこのあと、どうなるんですか?」


「ワカメぇ〜、昨日サボったのが運の尽きだったなぁ〜」


「どうゆうことですか?」


「ワカメさん、実は昨日の会議でですね、今度は人体改造をすることに決まったんですよ」


「それで、手術をする飛田先輩を除いた男四人の中から、人柱を一人出さなくてはならなくなった」


「それで、満場一致でサボりのワカメにけってぇ〜い、したわけよぉ〜」


「アハハハハハ!よかったなぁ!ワカメ!」


腹を抱えて笑い転げている千亜。


「……なんか、微妙に和んでますね、千亜ちゃん」


「あぁ?そうか?まぁ、俺もこの部活にはいることにした!ここなら退屈できなそーだしな!」


俺が気絶している間にすっかり打ち解けている千亜だった。ちょっと嫉妬。


千亜は新しい玩具を見付けてはしゃぐ子供のように無邪気に笑っていた。


「まままぁ♪それはめでたいですねぇ。とゆうことで今日は千亜ちゃんの歓迎会をやりましょう!ささ、こんなとこで人体改造してる場合じゃありません!だから早くこの鎖を外してください!」


俺はこの危機的状況を打破すべく苦し紛れにそんなことを言った。すると、それを聞いた飛田先輩の眉がピクリと反応した。


「…………」


「お、おい!飛田!なんで鎖を外そうとしてる!?」


がちゃがちゃと俺を封じる鎖を弄りはじめる飛田先輩。


「…………歓迎会」


ぼそりと呟いた。


「駄目だ!今日はワカメを改造することを優先する!後藤の歓迎会は明日だ!」


「「チッ……」」


俺と飛田先輩の意味合いが違う舌打ちが重なった。


「さーて、人体改造といっても…まだ何に改造するか決まってないんだが…一応、ワカメの意見も聞いてやる、何になりたい?」


「人体改造するのは決定事項なんですね……」


「候補としては――人狼、吸血鬼、半魚人、後天的全身性特殊遺伝多種変性症つまり人妖とか、他いろいろ、あるが何がいい?」


「人間がいいです」


「…………却下」


「めんどくさいので、すべて飛田ちゃんに任せることにしまぁ〜す」


「…………」


ニヤリッと笑う飛田先輩。


「俺は飛田先輩のこと信じています!だから、こんなことはもうやめてください!」


俺の必死の懇願。流石に俺だってわけのわからない人外に改造されるのは嫌だ。


「…………麻酔」


飛田先輩はニヤニヤとA君から注射器を受け取ると、それを迷わず俺に突き刺した。


薄れ行く意識。


こうして人間としての若林恵の一生が終わった


いまいち説明不足な気がします。なにかわからないことや、おかしなところがあれば気軽に言ってください!また、評価・感想もお待ちしてます!       次回予告!      実は現時点で何にも決まってなかったりします!? 第17話:予定なんて言葉はこの世に存在しません!まて!次回!

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