皇帝の企みは大騒動
童話風に書いてみたかったんです。
とある国にそれはそれはお顔の整った皇帝陛下がおられました。
かの皇帝陛下は賢王とも知略の王とも呼ばれ、とても頭が良かったのです。お顔も良くて、頭もいいとなればご令嬢は黙っておりません。それはもううるさいぐらいに騒がれました。縁談の数も両手両足の指では足りません。
しかし、当の皇帝陛下であられる細君は女子に見向きもしなければ、手を出しもしません。
これに周りは焦りました。
世継ぎができないからです。
最初に、嫁を見つけようと画策したのは皇帝陛下の母君でいらっしゃる王妃様です。
王妃様は、自慢の息子にふさわしい嫁をと張り切りました。
傾国の美姫、頭のいいご令嬢、女騎士などなど。
頑張りすぎて最後はおかしな方向に突っ走った王妃様ですが、頑張り虚しく息子は見向きもしませんでした。
なぜなのかしら?あの年でナニの欲がないなんておかしいわ。
王妃様は高く澄んだ歌うような声で呟きながら、首を傾げます。まさかもう心に決めた女性が?と周囲をそれとなく探らせましたが、ちりひとつ出てきません。
王妃様の画策は、あえなく失敗となりました。
次に画策を始めたのは、父君であらせられる元皇帝陛下です。今は、指南役となって息子の治世を見守っています。
彼は、令嬢と見合いをさせるだけでは駄目だと思い、積極的に皇帝陛下と会話することにしました。
会話でそれとなく女性関係を聞き出そうとしたのです。
いいと思う方はいないのか?
興味のある方は誰だい?
それとなく会話に挟みました。
しかし皇帝陛下は、彼の思惑など気付いていようといまいと関係ありません。
さて、私には分からぬことでございますれば。
まだ若輩の身、そんな余裕などありますまい。
無碍もありません。
戦場において嗜みとされている部分もあるデリケートな問題を愕然とした父君は、思わず聞いてしまいました。
好きになるのは、子を産める方かね?
そんな質問に対して息子は、表情も変えずにさらりと答えました。
さてはて、ご想像にお任せするしかありませんな。
軽く流されました。
否定も肯定もしない息子に、危機感を抱いた父は戦場でのことをそれとなく探らせました。しかし何ひとつみつかりませんでした。
もうどうしていいのか分からない元皇帝陛下です。
次に立ち上がったのが、この国の宰相閣下と騎士団長です。この二人は、皇帝陛下の幼馴染として幼い頃より仲間として仲も良かったのです。
両親の見られない部分を見てきたという自負もありました。
幼い頃と同じように砕けた口調で、二人は口を揃えてズバリ聞きました。
好きな女性はいないのか?
皇帝陛下は、ぽかんとした後笑い出しました。
立て続けに色々な人々からそれとなく聞かれていたのが、ついに確信をついた質問に変わったのです。
呆気にとられた宰相と騎士団長は、訝しげな表情を浮かべました。
なぜ笑う必要がある?
いやいや、すまない。ようやく来たかと思ってな。やっと私も好いた人と一緒になれるな。
は?
ククククと笑う皇帝陛下に二人は呆然としました。
そんな二人を楽しそうに眺める彼は言います。
これまで彼に直接婚姻を勧めるものは驚くことに誰もいませんでした。
政が絡む政略結婚などに誘う者ですら彼にそれとなくしか言わなかったのです。それに幼い頃から気付いていた皇帝陛下は企みました。
誰かが直接尋ねるまで、何もしない《・・・》でおこうと思ってな。いやー、長かったが楽しかったぞ。皆勘違いだらけであんな面白い噂までたつとはな。笑いを堪えるのに必死であった。
笑いながらそう宣った彼は、僅か数か月後賢姫とされる隣国の王女を娶りました。
そして、婚姻すると賢姫まで一緒になった皇帝陛下の悪巧みに、国の重鎮たちは振り回されることになりました。
しかし、これが後に賢王と言われた彼の治世だったのですから、振り回された重鎮にも何かしらの意味はあったのかもしれません。
おしまい