僕の世界はHPで出来ている
初めて作ったので、まだまだな点が多数あると思いますが、ご了承お願いします。
評価があれば、続きを出したいと思います。
【僕の世界はHPで出来ている】
この世界は単純にして明快、そして厳しいものである。-この世界はHPでできている-
そう僕に教えてくれたのは僕の父だ。僕の名前は中川 徹。僕が13歳のころ、父は病で入院中だった。僕はそのころ毎日のように病院に通っていた。病院に行く途中に買った花を置き、学校の話をする。父と話して何も疲れることはないし、飽きることもない。空が暗くなり、いつも通り帰ろうとしたとき、父さんは僕の手を握り問いかけてきた。
「もしも、この世の何もかもが見えるとしたら?」
その時の僕は、父さんが何を言っているのか分からなかった。
「この世の何もかも..?」
「あぁ、そうさ。お前にもいつか分かる時が来る。それは、自分にとって都合のいいこともあれば、都合の悪い時もあるさ」
その時の僕はまだ13歳。アニメやドラマ、ゲームの主人公なんかに憧れる、いわゆる中二病な時期で、将来僕に何らかの特別な力が入り、それは僕にとって良いことでもあるし、僕を狙う悪の存在によって、都合の悪い時もあると、自己解釈していた。だが実際は違った。確かにこれは<特別な力>なのかもしれない。
<特別な力>に目覚めたのは15歳のころだった。
「このポンコツ野郎!早く小銭を渡しやがれ!!」
僕の持っている<特別な力>というのは、<物のHPを見れる能力>だ。HPは、ヒットポイント(hit point)の略で、RPGゲームなんかによくある、敵の体力を表したり、見方や自分の体力を表したりするゲージだ。僕がHPゲージをみたい<物>に目を向け集中すると、その<物>のHPゲージが分かるんだ。HPゲージの最大は様々で、物によってHPは変わる。ただの看板や紙などに表示されるHPは<破壊HP>って呼んでる。ただ壊すだけで0になる。傷が付くほどHPは減っていって、破壊されると0になる。ただの紙であれば、破るだけで0になる。だけど、0になったところで何も起こらない。だから、破壊HPって呼んでるんだ。そしてこのゲージは僕以外の人間には見えない。僕と同じ能力を持つ人はいるのだろうか。
そして僕が今立ち向かっている相手こそ、現段階で最強の敵である自動販売機だ。こいつは破壊HPではなく、HPが0になると何らかのアクションが行われる。僕はアクションHPって呼んでいる。安値で売っている自販機(100円未満)では小銭が出る。主に10円や20円、多ければ50円だ。そこそこの値段(100円~200円以上)の販売機は、主に100円や200円、超絶ラッキーなときは500円手に入る。前者は下級アクションHPで、後者は上級アクションHPとなる。報酬が良いほど上級で、報酬が悪いほど下級だ。この成功報酬は、自販機のお釣り口から出てくる。あの音が、疲れた僕を癒してくれる。
「よし、もう一回だ。今度こそ..やってやるからな...」
自販機のHPを0にする方法は、そう簡単にいくものではない。まず普通に飲み物1つを購入。購入した飲み物が出てくるまでに、自販機の飲み物購入ボタンをできるだけ多く、違うところを押すのだ。同じボタンを連打しても意味ないし、売り切れの表示が出ているボタンを押してもだめだ。さらに、他の人に手伝ってもらってもダメ、購入者自身がやらなければいけない作業で、僕のようなHPの見える能力を持つ人以外は何度やっても意味がない。これは、この力が芽生えてからいくつもの時日を経て何度も挑戦して得た僕だけの情報だ。
「ママー、あの人変なことしてるよー」
「見ちゃダメ!変な人もいるものねぇ」
変な人ですみませんね。確かに、他人からしたらHPゲージなんて知らないわけだし、高校生が必死になって自販機のボタンを一つ一つ丁寧に押している光景は、ある意味カオスだろう。だがお母さん、僕は変な人ではない!立派な小銭稼ぎ目的の労働者だっ!って、変な人ですよね、すみません。
下級アクションHPの自販機だと、5個程度押すだけで小銭を獲得できるが、出てきたとしても1円や5円が殆どだ。それなら100円単位から手に入る上級アクションHPの自販機で、時間がかかってでもいいから取りたい。こんな労働作業をすることになったのは、僕が通っている学校の友達、池上 達也から借りていた小説に水をかけてしまい、弁償という形になったのだ。その小説の値段は680円。今の僕の財布の中は一銭たりとも入っていない。一日でも早く返さなければ、達也との関係も崩れかけない。結果、自販機の前から離れられない状況になってしまっている。達也も含め僕以外、僕がHPゲージを見ることができるのを知らない。最初は優越感があった。僕だけの力で、ほかの人は持っていない力。中二病の血が騒いだ。だが、父さんのいう通りだった。<都合のいいこともあれば、都合の悪い時もあるさ>まったくその通りだった。ただ自販機のボタン押しをやり続けて極めれば、それこそ小銭稼ぎの王者だ。だがしかし、そんなに甘くはなかった。ボタン押しに失敗して、小銭を獲得できなかった場合、もう一度チャレンジするためには50円がプラスされる。失敗するごとにだ。挑戦一回に、最低でも何か飲み物を一つ買わないとボタン押しチャレンジはできないのに、失敗するたびに50円プラスされるとは、完全ないじめだろう。24:00を回るとリセットされ価格が元通りに戻るが、買う気なくす。もちろん、他の人はボタンを押しても何も起きないし、値段が上がることもない。僕の場合、100円のジュースを買ったとして、チャレンジに1回失敗すると次からは150円、5回失敗すると次からは350円からになる。鬼畜だ。ただし、普通に購入して、ボタンを一回も押さなければチャレンジしないという判定になり、失敗回数としてカウントされないし、値段も上がらない。ただし、ボタンを押し購入してから、一度でも押すとチャレンジが開始する。正直なところ、下級アクションHPの自販機のほうが、小銭のもらえる数こそ少ないが、失敗確率も少ないし、万が一失敗しても安いから値上げしてもそこまで痛くもならない。下級の自販機でやったやった方がいいのか..?
「上級でやり続けるか...」
下級はすぐ成功するが報酬が少ない。よって達成感などない。上級は難易度が高いが、報酬が僕にとって宝だ。それに今の僕の年齢は18だ。力に目覚めてから3年、どれだけ練習してきたことか。未だに失敗もあるが、成功確率は確実に高くなってきている。これぞ練習の成果。下級は五個程度ボタンを押すだけで成功するが、上級は10個で成功するときもあれば、20個押しても達成しないときもある。つまり、上級の自販機のHPは、毎回HPゲージの上限が変わるのだ。
「完全に上級自販機は気まぐれ運営だな。」
報酬も、10個押して500円のときだってある。報酬もHP上限もランダムなのだ。今の僕の唯一特技はこの<自販機のボタン早押し連打術>だが、どこから見ても拍手されるようなものでもなく、時折虚しくなる。
「よし!これで1000円たまったぞ!」
やっとだ。小説の値段680円と、頑張った自分へのおこづかい320円。よく頑張ったな僕。
「さっきはポンコツとか言ってごめんな。僕の人生、お前が頼りなんだよ。」
僕はゆっくりと頭を自販機に向かい深々と下げる。僕の言っていることは嘘ではないが、この自販機にどれだけ金を吸い取られたか気が知れない。今のように人生を救われた瞬間もあれば、壊された瞬間だってある。お願いだからおとなしく小銭くれ。
達也への小説を買い、明日学校で渡そう。残りは貯金。ちまちま貯めていかなければ、またあの自販機に頼って金を吸収されてしまう。
「僕と同じような人いないかなぁ」
何気にぶつぶつ呟いてみる。こんな独り言が、現実で起こしてくれたりもするのだ。......ま、そんなことは滅多にないか。僕の家は一軒家、父さんは僕が16歳の時に死んだ。母さんは深夜に帰ってくるし、僕は一人っ子だ。何度か、妹や弟がほしいと思ったことがあるが、もしいたとすれば、僕と同じ能力を持つのだろうか。お母さんはHPを見れる能力は持っていない。男だけの特別能力だったりして。
そろそろ自販機頼りは終わりたい。いつまでも自販機に頼っていてはこの先不幸なことしか起きないような気がしてならない。もっと効率のよい、報酬の良いところ...探しているうちに、空が暗くなる。人通りの静かな僕の家の近くにある一本道。その静けさと肌寒さに、多少の恐怖で鳥肌が立つ。この力を他のことにも使いたい。何か良いものはあるか、手に持っているスマホでただ黙々と探し続けた。小銭を稼げれそうな物...破壊HPでは何も手に入らないし、あの自販機のような失敗したら金を吸収するようなセコイ物はお断りだ。
「...これだ!」
僕の脳裏にピカピカ光る豆電球が一瞬のうちに飛んできた。これぞ、天才の頭というものなのか。自販機以外にこの能力を使えるかもしれない。
「探す必要なんてない、様々な情報を管理できる万能なこのスマホで稼げるかもしれない!」
僕は完全に金にしか目がない人なのかもしれない。金と恋どちらを取るかなら、僕は即座に金をとる。だがしかし、絶対に金をとれる保証はないし、どちらかといえば、何も起こらない可能性の方が高いだろう。破壊HPかもしれない。だが、事は試しだ。僕は手に持っているスマホを見て、集中する。すると、スマホの上にうっすらと、フェードインをかけてスマホのHPゲージが見えてきた。ただ見るだけではHPゲージは見えない。未だに自分でも説明できないが、体ごとその物に集中させる感じだ。
「どうすれば良いんだ...」
そうだ。問題は、どうすればこのHPゲージを減らせるかだ。破壊HPだとスマホを壊さない限り減らないし、何も起きないので、試しにスマホに傷をつけてみる。破壊HPは、傷をつけるだけでHPは減る。破壊するとHPは0になるが報酬などない。自販機のようなアクションHPは、傷をつけたって破壊したってHPは0にならないし、その物に定められている<法則>を見つけて実行して成功しないと、報酬は手に入らない。
「減らないか..ということは、アクションHP...?」
スマホに少しの傷をつけてみたが、HPゲージは一寸も動かない。ということは、想定できるのはアクションHPだろう。だとすると、スマホに定められた報酬を獲得できる<法則>を見つけ出さないと、何もできない。
「スマホはガラケーと違って画面を手で触るのが一般的、自販機の法則はボタンを押すこと....そうか!!」
事は試しだ!スマホで検索画面を開く。すると、いつものように文字入力画面が自動で表示される。画面には、「あ・か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ」と表示されており、ガラケー同様、「あ」を1回押すと「あ」が入力され、二回連続で押したら「い」と表示される、いわゆる<トグル入力>というやつだ。
「自販機の法則はそれぞれ違うボタンを押しまくること!それならスマホも、ボタンを押しまくったらいいんだ!」
そう、「あ・か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ」で表示されているこの各ボタンを、50音中どれだけ入力できるかだろう。<トグル入力>だから、最初は「あ・か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ」を一個ずつ押したらそのまま入力されるけど、「い」を入力するには「あ」を二回連続で押さなければ入力されない。つまり、「お」だと「あ」を5回連続押さないと入力できないことになる。
「難易度高いな...」
たぶん、ボタンを一回でも押したらチャレンジ開始になるだろう。失敗したら何らかのペナルティで損をすることになるだろう。今までペナルティも一回も受けなかったのは、HPゲージを表示してなかったからだろう、HPゲージを表示しない限りチャレンジすることにはならない。だが今は違う。HPゲージも表示しているし、このスマホの法則は自販機同様ボタンを押すことで確定だろう。
「いくぞ、僕のスマホォ!」
今思えば、喉から血が出てくるくらい気持ち悪い表情と発言だったのかもしれない。「あ」から順番に、なるべく多く50音全てを入力できるように、丁寧に押し間違えのないように....1分ほどたったはずだが、HPゲージを確認してみると、何も変わっていない。試しに、50音全て入力してみた。しかし、HPゲージは依然として減るつもりはないようだ。つまり、スマホの法則は、また別の法則なのだろう。やって損した..だが諦める気などない。法則を見つけ出して、報酬を得る。それが僕のやり方だ。
押す、という概念は法則の中にあるはずだ。<トグル入力>がダメだったのか?それとも50音に近づけるようになるべく多く入力する、というのがダメだったのか?いや、違うはずだ。後者がダメなのであれば、達成条件は決まった配列に入力するとかになるだろう。もしそうだとしたら、失敗のペナルティを食らうはずだ。僕はただ多く入力すればいいと思い、とにかく多く入力したが、決まった配列で入力が法則であれば、配列が正しくないため失敗のペナルティをもらうはずだ。自販機の失敗したらプラス50円みたいな。だが、特に変わった様子はない。だとすると、トグル入力がダメなのか?だとすれば....
「フリック入力か!!」
二度目のピカピカに輝いた豆電球が脳裏を通りすぎる。<フリック入力>は、ガラケーにはない、スマホに搭載されている新しい入力方式だ。入力画面の文字の配列は「あ・か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ」でトグル入力を変わりはないが、「あ」を押したときに、指を離さず上下左右どちらかに動かすことで、残りの「い」「う」「え」「お」を打てる。「あ」を押した状態から指を左に移動させれば「い」になるし、下に移動させれば「お」になる。指を移動させず「あ」を押すだけなら、ただ単に「あ」と入力される。この<フリック入力>が法則であれば、フリックするのが条件、指を移動させなくても入力できる「あ・か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ」だけだとチャレンジしたことにはならないはずだ。フリックして入力できる文字を入力したうえで、「あ」などのフリック不要文字もカウントされるはずだ。
「フリック、頼んだ!」
まだ中二病の血は騒ぐんですよ、特に豆電球が脳裏を通ったときは。急いでスマホの入力設定を<トグル入力>から<フリック入力>に変更する。
「いくぞ、僕のスマホォ!」
二回目のセリフ。思い出したくもないセリフだ。フリックで文字を打ってみる。制限時間はわからない。自販機の制限時間は、購入した飲み物が出てくるまでの間。スマホだと、きっちり時間が決まってたりするのだろうか。だが、自販機の制限時間を考えてみると、5秒~10秒程度だろう。
「おおお!HP減ってるぅぅ!」
興奮の絶頂。入力するたびにスマホのHPゲージは減っていく。HPゲージは半分を切り、ついには0になった。
「っしゃぁぁぁぁぁ!」
思わず出てしまった奇声。僕の喜びの叫びは、学校では<情緒不安定が安定してる奇声>というわけの分からない名前になっている。誰だこんな名前つけたの、喜ぶのは勝手じゃないか!
(チャリン)
何か金属性のものが落ちたような、少し高い音。その音に聞き覚えがあった.....金。僕が使っているスマホは数か月前に発売された新型のスマホだし、報酬は良いはずだ。急いで自分の財布を取り出し、小銭入れを見てみる。
「クソが...この糞スマホがぁぁぁぁぁ!!」
<情緒不安定が安定している奇声>は本日も絶好調なようで。小銭入れに入っていたのは、1円。自販機での収入は別の場所で貯金してあるし、チャレンジする前に一度確認して、財布の中は空っぽということを確認した。つまりこの1円は、スマホの成功報酬なのだろう。やって損したよ。諦め半分、財布を隅々まで確認してみる。
「...ん?これは...」
目に飛びこんできたのは紛れもない千円札。僕は千円札など持っていない。スマホでの成功報酬は1円のはず...もしかして、成功報酬は1001円ということなのか?それってもしかして、凄い発見かもしれない。
「スマホ最高ぅぅぅ!」
僕の<情緒不安定が安定している奇声>は、近所の寝ていた人たちを飛び起こさせる絶好超なものだった。
「俺は勝ち組だ!このスマホがあれば札束を量産できる!」
それからの数日、手持ちのスマホで札束を大量生産。1日やりこんだだけで5万円たまった。頑張ればもっと行けるのだろうが、僕の指の安全面を考え、一日5万という制限をつけた。二日たてば10万、一週間で35万だ。こんなの、働かなくてもやっていける。そう確信した。
「買い物するかぁ」
それは、今まで欲しかった、最新型の高性能PCと、今月発売された新型のスマホだ。スマホに関しては今のところ買う必要は全くないが、スマホの質が良いほど良い報酬がもらえるはずだと考え、あえてプレミアム版を買う。まだ慣れてないから手は付けないが、そのうちPCでもできるはずだ。所持金は65万ある。まったく、今までの自販機生活は何だったんだ。さらば、自販機よ。
「えっと、ここかな?ヨガ橋キャリアは」
そこは、日本最大級の電化製品を主に売っている家電量販店だ。入ってみると、外の空気とは違い、少し重みのある雰囲気に、高級感が出ている。決して金持ちじゃないと入れないような雰囲気ではないが、買う目的のない人が入る場所ではないだろう。店員さんに教えてもらい、最新型の高性能PC、新型のスマホを、所持金で足りる限界まで条件を良くして購入した。決して損はない。いろいろ契約を済ませるのに時間がかかった。一番緊張したのは、会計のときだ。分割も可能だったが、あえて一括払いの道を選んだ。合計で61万。すべて1000円札だ。610枚の千円札。両替することを完全に忘れていた。店員は驚いた表情をしてたが、すぐに笑顔に戻り、大量の千円札を見て目を細く濁らせた。そう、何かを疑っているような。しかし、何事もなかったようにその店員は610枚もの千円札を複数人で数えていた。途中、僕に聞こえない声で、何かコソコソと千円札を見ながら話していた。よっぽど、こんな大量の千円札を出してくる客はいないだろう。色々と誤解されそうだったので、僕は店員に、
「すみません、手間掛けさせてしまって。ずっと貯金してきて、両替するのを忘れていたんですよ」
嘘は言っていない。少しの間貯金して、両替するのを忘れていたんだ。チートな方法で手に入れたのは秘密だ。その言葉に店員は「分かりました」と僕に告げ、また他の店員と数えながらコソコソ話している。まぁ、どんだけドジな客なんだよ、とでも言っているのだろう。どうとでも言ってくれ。僕は勝ち組だし。金なんて1か月あれば100万たまるんだよ。
「お待たせしました」
店員のその言葉に、やっと終わった。と、方の力がすっとほぐれた。その後、店を出て、にやにやしながら帰った。新しいスマホは、きっともう1000円ほど追加してくれるはず。そう思いつつも、今日は疲れたので寝ることにした。
翌日、まだ朝の6時だというのに、家のインターホンの音と同時に外からドアをノックする音が聞こえた。
「誰だよこんな時間に」
気を苛立たせながら、インターホンに向かって
「誰ですか?こんな時間に」
モニターに移っていたのは30代ほどの男が二人。何か、見たことあるような服装をしている。眠気と苛立ちのせいか、少し怒鳴った声で言ってしまった。
「警察の者です。ドアを開けてください」
警察?僕何かやった?いや、やっていない。最近ここら辺で不審者が出ているとか聞いたから、その聞き込みだろう。だとしても、夕方くらいに来てほしいな。そう思いながら、服装を整え、コンディション完璧な状態でドアを開けた。ドアの先にはモニターに映っていた男二人と、もう一人若い女性がいた。男二人の体が大きくて、モニターからは見えなかったんだろう。僕が「何か言えよ」とアイコンタクトを送っていると、それに答えたように、男は俺に一枚の紙を顔の前に押し付けてきた。
「お前を不正物大量使用罪で逮捕する」
なんだこれは?夢か?不正物大量使用罪?そんなの聞いたことねぇぞ。それを察したのか、若いその女性は口を開いた。
「あなたは先日、ヨガ橋キャリアにて、合計61万円の大量の偽札を使用したとして、逮捕します。証拠は監視カメラや、偽札とわかる部分があるので言い逃れは出来ませんよ」
「ちょ、待ってさい。あの金は俺が一生懸命スマホでため...いや、仕事で頑張って貯めた大事な金です!もし偽札なら、偽札の給料を渡した側にあるんじゃないでしょうか!私が逮捕される理由はないはずです!」
俺のバカ。どこに610枚全部1000円で払う会社があんだよ。っていうか俺仕事してないし。
「今一瞬、スマホでためたと言いかけましたね?それに、あなたは現在どこの会社で働いているのでしょうか?我々が調べた限り、あなたは無職のはずです。それとも、レジのお釣りで偽札が毎回のように出てきたとでも?」
もうやめて。それ以上やめてください。そうです。無職でスマホで偽札を大量生産した現行犯ですよ。もう言い逃れできない。どれだけ反抗しても、裁判所で証拠をどしどし出されて終わるんだろう。俺は夢を見ていた。フリック入力で文字打っただけで千円手に入る魔法のスマホ。んなわけあるはずない。それ以前にお世話になっていた、あの上級自販機、見捨ててごめん。お前は小さながらも偽ではない本物の金を出してくれていた。父さん、今までありがとう。HPの能力なんて、ない方が安全に暮らしていける。僕は渋々前に出て、警察官の男一人が僕を逃げないように痛いくらいに抑え、もう一人は僕の手に手錠をつけた。完全に僕が作った偽札だ。お釣りに交じってたんでもない。自分で作って使用した場合は犯罪になるらしいのだ。無念。今恨んでいるのは、自分自身でもない。警察官でもない。自販機でもなく、僕のHPを見れる力でもない。
「この、糞スマホがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
今日も、<情緒不安定が安定している奇声>は威勢よく響きわたる。