あたオカ美食国家 水島領 その二
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「ふわぁ……」
昨夜、思いっきり大妄想大会(秋)を開催してしまったわけだが……。やはり、これは考えを改める必要がある。もったいなさすぎる。
朝、いつも通りに菊に起こしてもらって、自室で朝食をとりながら決意を新たにする。
今朝の飯は、玄米ではあるが炊き立てのお米に味噌汁。大根の漬物。そして、豪華にも岩魚を焼いたものも付いていた。
「もう。食べながらあくびなんて……。はしたないです。しっかりしてください」
あくびをする俺をたしなめる菊。怒っている恋人というより、ダメな息子を叱る母ちゃんのような顔をしている。俺は、この顔には大変造詣が深い。間違いないと確信できる。
「いや、そうなんだけどさ」
箸を振り上げ、昨晩の興奮の一部でも伝えたいと頑張ったのだが……。
「もう! 箸は振り上げるものではありませんっ!」
また怒られた。
『頬をふくらませ』て怒ってますとアピールする菊。
申し訳ございません。なにせ、育ちがあまり良くありませんもので……。これでも毎回一応は反省しているんですよ?
コホンと一つ咳払い。とにかく、ごまかしの一手だ。
しかし、そんな俺の心のうちなど読むまでもありませんとばかりに、すぐに呆れ顔でため息を吐かれました。ぐすん。
でも、俺は強い子。この程度ではへこたれません。
「いやあ、昨晩ちょっと考え事をしていてさ」
元気に再起動。
「金崎のことですか?」
菊ももう慣れたもので、すぐに切り替えてくれる。
菊は俺の仕事を直接手伝ってくれているので、いま俺が金崎領侵攻計画を詰めていることを知っている。だから、金崎のことだと思ったのだろう。
「いや、違う違う。ちょっとね。五年後、十年後の水島領について考えていたんだ」
「五年後、十年後?」
「そう。まあ、金儲けの話なんだけどね。でも、今後の水島にとって、これは超重要なことなんだ。他国に左右されない俺たちでいるためには、やっぱ俺ら自身が強くあらねばならない。主導権を握ること以外に、自身の安寧を確定させる方法はない。断言できるよ。弱いのなんて論外、周りと同じでも話にならない。明確に強くないと、自分が何もしなくても火の粉が飛んでくる」
「…………」
俺は力いっぱいに力説する。そんな俺の話を、菊は黙って興味深げに聞いていた。まっすぐに俺の目を見て、時折小さく頷いている。
「簡単に言えば、他国を攻めるのも自国に籠って守りに徹するのも、国に力があってこそなんだよ。自分たちに力がなければ、攻めるのも守るのも自分の意志だけではできなくなる。周りの状況に左右される。当たり前だよね。だけど、力があればそうはならない。そして、その力の一つは間違いなく金で、それをどうやって稼ごうかと考えていたんだ」
言葉が溢れ出る。そんなに熱く語るつもりなんかなかったんだが、語りだしたら止まらなくなった。
俺の目をジッと見つめたまま黙って話を聞いていた菊は、急にクスッと笑った。
「え?」
俺、何か変なことでも言ったか?
「よっぽど良い案を思いつかれたのですね。それが何かは私などには想像もできませんが、とっても楽しそう。なんか童みたいで可愛いです。貴方はすぐに顔に出ますから」
そう言いながら、菊は上品に口元を隠しながらコロコロと笑い続ける。
って、俺そんなに顔に出てるの? もし、本当なら軍師として由々しき事態なんですが。
「顔に出るって……そんなに? 軍師としては、それは大変まずいんだが……」
思わず聞いてしまいましたよ。恥ずかしがっている場合じゃありません。
そんな俺に、菊はますます面白そうに笑った。
「はい。お役目の時の貴方のことはわかりませんが、私と話されている時の貴方のお顔はとっても素直ですよ?」
そう答えて、また笑う。
俺は、思わず両掌でごしごしと顔を擦ってしまった。それを見た菊にさらに笑われたのは言うまでもない。
ただ、そうして笑う菊は、とても優しい目をしていた。
そんな菊を見て俺は思う。
どうやら、俺に浮気は無理そうだ……と。する気など元からないが、やったところですぐにバレるのではなかろうかと思わずにはいられない。
怖い怖い。
そんなことを考えていたら、襖の外から声がかかった。
「神森サマ。なんか呼んでるって聞いたんだけど?」
太助がそう言いながら、俺の返事を待つことなく襖を開ける。太助の後ろに、吉次と八雲もいた。
確かに昨日、明日の朝一番で部屋に来るよう伝えてくれと館の者に頼んだ。
部屋の中に菊がいることに気付いた太助は、とてもバツの悪そうな顔をする。油断をするからだ、未熟者め。
「お、おはようござます。菊様」
当然のように俺は挨拶の対象から外されたが、まあいつものことだ。いい加減慣れた。
「はい。おはようございます。太助、襖をいきなり開けてはいけませんよ?」
「は、はい……」
流石の太助も、菊には反抗できないらしい。さっきの俺同様、あっさり白旗を上げていた。頭をかきかき、ペコペコと頭を下げて謝っている。吉次と八雲も巻き添えになって一緒に謝っているのもいつもの光景だ。
大変心癒されるひと時である。俺ばかりが怒られるのは、やはり不公平だと思うのですよ。くけけけ。
とは言うものの、まあ、そろそろ助け舟を出してやろう。
「おっ、来たな。ちょっと頼みたいことがあってな。まだメシの最中だが入ってくれ」
目の前の膳から大根の漬物を一枚箸でつまんで口に放り込みながら言う。パリパリと良い音がした。塩加減も程よく旨い。
太助らは助かったとばかりにパッと顔を明るくした。そして、そそくさと俺の近くまで寄ってきて思い思いに畳の上に胡坐をかく。
「ん。じゃ、話そうか。この前の祭りの名物作戦。あれは、俺も想像していなかったくらいに上手くいった。お前らの努力の賜物だ。よくやった」
成果を出したなら、まずは褒める。これ大事。
部下がやり遂げたことをきちんと評価する。これは、人の上に立つなら絶対に疎かにしてはいけないことだ。上に立つ人間がこれを疎かにしたら、どんな優秀な部下でもいずれは腐っていくだろう。それに、実際よく頑張ってくれたのだから手放しで褒め讃えたい。
太助も自分たちの頑張りを認められ、とても満足そうな顔をしている。吉次と八雲などは、互いに裏拳を重ねて喜びを表していた。
菊も俺の傍に座って黙って話を聞いているが、三人を見る目がとても優しい。三人が、俺のために頑張って褒められていることを嬉しく感じているようだった。
喜ばしい。こいつらの主として、菊もこの三人を大事に思ってくれているのを感じて何よりだと思う。いずれは、菊にもこの三人のもう一人の主になって欲しいと思っているから……。
まあ、もっとも、菊がこいつらをどう思っているのかは分かっているつもりだが。
菊は、この三人を紹介して以降ダメな時はダメときちんと叱る。さっきの太助の時の様に。だから、菊はこの三人をきちんと『身内』と認識していると思う。
俺は、その事がとても嬉しい。
ただ、今から俺は暖かなこの空間に冷や水を差さなくてはいけない。
「まあ、それ程でもないけどよ。でも、あれなら二水で売っても少しは希望が持てそうだ」
太助は、言葉のニュアンス以上に期待しているのだろう。目を輝かせながら言った。
でも……。
「それなんだがな……。ちょっとやり方を変えるつもりだ。『料理』はしばらく二水では出さない」
俺が宣言すると、太助はポカンと呆けた顔になった。吉次と八雲も目を見開く。
「ちょっ……神森様。いくらなんでも、それはあんまりでしょう?!」
まず最初に口を開いたのは吉次だった。最初に噛みつくのは太助だと思っていたが吉次だった。
だが、想定内の反応である。だから、その反応に驚きなどはなく、静かに手を振りながら落ち着けとジェスチャーをする。
「吉次、早合点するな。これは、二水から取り上げようってんじゃない。より二水を富ませるための一手として、敢えてそう変えるべきだと考え直したんだ」
「と、言いますと?」
今度は八雲聞いてくる。太助も何かを言おうとはしていた。だが、俺の言葉にその言葉を飲み込んだのが見て取れた。
三人ともついこの間と違って、まず俺の話を聞こうとするようになったのが大きな変化だ。
「今回の『バター』な。俺が考えていたよりもずっと『力』があった。人々に『ウケる力』な。だから、より大きく『人の流れ』を作るのに貢献してもらおうと思うんだ」
今回の『バター』にしても、まだお出ししていない俺の頭の中にある『あっちの世界ですでに勝者となっている品々』にしても、ただ二水に『置く』だけでいいのかと考え直させられたのだ。それは惜しすぎるだろと。
これ程に人に訴求し集めるだけの力があるなら、二水のような人の少ないところでデビューさせるのは好ましくない。もっと人の多いところで知名度を上げた上で、その『知っている人間』を呼び寄せた方がはるかに効率よくなるだろう。
二水で『料理』を出すのは、そのタイミングだ。二水を『通る人』が増えた後でよいのである。
なにも、二水を通る人を増やすための名物が『二水でデビューさせた品』である必要はない。デビューは余所でもいい。作ろうとする名物に力があればあるほど、もったいないことになってしまう。
「……つまり、どういうことだ?」
吉次は、まだ少し不信を覚えているようだった。表情に不満も出ている。しかし、それ以上に話が理解できなくて困惑してるようだった。隣の八雲を肘で小突いている。
「たぶん……、今の二水には人がいないということを言ってるんだと思うよ」
八雲が答えた。
それに、俺は大きく頷いて見せる。
「正解! 流石だな、八雲」
素直に褒めたら、八雲は少し照れくさそうな顔をした。でも、満更でもなさそうだ。
「人がいないから、人を呼べるようにするって話じゃなかったか?」
太助も聞いてきた。でも、二水の時の様に噛みついてきている訳ではない。ただ単純に、まだ理解が追いついていないようだった。
「そうだよ、太助。でも、今回の祭りの成功から見て、より効率よく二水で金儲けを成功させるには、こう変えた方がいいと考え直したんだ」
この三人の存在は、二水の再建計画のキモである。そしてその再建された二水は、未来の水島家において大きな武器となっているだろう『大和の国の大経済圏』において、重要な役割を担う予定だ。
だから、トップダウンではなく、こうしてきちんと理解を求める必要があった。
「効率よく……」
太助は視線を空に彷徨わせながら必死で考え込んでいる。
こいつらも、こいつらなりに真剣なのだ。
これを軽んじてはならない。そんな事をしたら必ずこの計画は失敗に終わる。だから、今わからなくても分かるまで教える。その価値は十分にある三人なのだから。
「そうだ、太助。人のいない『今』の二水で、『今』名物料理を作っても、そこそこ以上の成果を上げるのは難しかろう。だって、たとえ人気が出ても、客になってくれる人の数が『今』の二水ではたかが知れている」
「あっ……なるほど。物に買ってもらえるだけの力があることが分かったから、どうせならより多くの人に対して売り込める方法に切り替えようってことなんだ。神森様、そうですよね?」
ハッとした表情をした八雲。すぐに食い気味で問うてくる。
「そういうこと。まず始めは二水『で』売るのではなく、二水『に』呼べるように頑張る。と言っても、原料である『バター』は二水で売るつもりだがな」
俺は、自信を持ってニヤリと笑って見せた。
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