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姫様勘弁してよっ! 短編集  作者: 木庭 秋水
あたオカ美食国家 水島領

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あたオカ美食国家 水島領 その五

明日も投稿あります。




 太助が絶望的な顔をしているのを見て、大変満足した。


 あれから、そろそろ十日程経つ。


 毎日報告させているから、日に日にボロボロになって行っているのは十分承知している。だが、まだ修正を入れる時期じゃない。あの指示は、単なる悪ふざけではなく本気だからだ。


 使い捨てにする気などさらさらない。


 口には出せんが、多分俺はとても良い拾い物をしたのだろう。世間では、千賀が俺を拾ったことで豪運な姫様だなどと揶揄(やゆ)されているが、俺自身もそのうち同じことを言われる気がする。


 あいつらは、ガチで俺の家を支える者になっていく……そんな気がする。ただし、十年後の話だ。


 その間、将としての修練も積んでもらわねばならないし、政治も学んでもらわなければばならない。俺がもう、水島家の重臣という立場を放り投げられなくなっているので、俺の臣下である以上は同じ道を歩んでもらうしかない。


 でも、俺よりはだいぶマシな条件なんだから頑張れと言いたい。


 なにせ太助らは、俺と違ってこちらの世界で生まれ育っている。しかも、揃ってヤンチャ坊主なので体もすでにそこそこ鍛えられてはいる。この世界で刀や槍を振るえる素地は持っているのだ。


 この世界は脳筋ワールドすぎて、俺のいた世界とでは基礎体力の格差が激しすぎた。うん、あれを察した時の絶望感は半端なかった。字面通りの意味で『ここで生きていけんのか』と思わずにはいられなかったもんな……。頭脳勝負ができなかったら、マジで詰んでいた。


 だから、そこそこ体力に自信のあった俺が、こっちに来て即武力で生きることをあきらめた。そう決断するのに迷いが出ない程度には決定的な差があったからだ。


 でも、そこを考えなくていい分、あいつらは恵まれている。選択肢が沢山あるってことだからだ。なればこそ、俺とは違って武の可能性も閉ざすべきではない。


 だから、信吾らに頼んでビシビシと基礎を作ってもらうことにした。


 少なくとも才能なしということはなく、最低でもそれなりにはなるとお墨付きももらっているから無駄にはならないはずだ。


 その一方で、やはり(まつりごと)も学ばせなくてはならない。


 元々、二水をしっかりと治められるようにするために連れてきたようなものなのだから、こちらを捨てさせるのは本末転倒というものだろう。


 なら、どうすべきか。


 無論、『両方』真剣にやらせるべきだ。


 ただ、俺のその鬼方針のせいで太助らは文字通り毎日ヒイヒイ言っている。だが、あいつらの持つ最大の才能がこれを乗り越えさせている。


 あいつらには、一般人ならドン引きするくらいの根性がある。これは手放しで褒め称えたい。間違いなく一級品だ。


 だから、毎日ギャーギャー文句を言うが、()を上げることはない。ガッチリついてくる。


 まあ、そう見込んでいるからこそ、こんな無茶をやらせている訳だが。


 でも、あいつらはその俺の期待にしっかり応えてくれている。




「もうダメ。死ぬ……」


「んがぁ~~~。もういっそ死んで来いと言ってください……」


「………………」


 朝から夕方までは藤ヶ崎の屋台村で商売をし、夕方日が暮れる前あたりに館へ帰ってくると、満面の笑みで待ち構えている鬼教官らの鬼畜なシゴキが始まる。


 そんな生活を送れば、まあこうなる。逃げ出さず続いているだけでも十分立派である。


 信吾らにシゴかれた後、今日の報告にやってきた三人は、俺の部屋に入るなりぶっ倒れた。


 太助は突っ伏し、吉次は殺せと懇願し、八雲に至っては倒れたままピクリとも動かない。


「おお、おお。今日もいい感じに死んでるな。結構、結構」


 カカと笑い、ぶっ倒れている三人を見る。


「結構、結構ぢゃねーって。こんなの続けていたら、本当に死んでしまうわっ!」


 太助が噛みついてきた。


 だが、俺は涼しい顔のまま答えてやる。


「あのな。古今東西、死ぬ死ぬと元気にわめきながら死んだ奴はいねぇんだよ。お前らは、まだまだ大丈夫だ。覚悟決めて頑張ってこい」


 もちろん、本当に死なせる気などこれっぽっちもない。これでも慎重に観察している。毎日、報告させているのはそのためでもある。


 あくまでも目的は限界を超えさせること。


 限界を超えると見えてくるものがある。なにせ俺自身、無理矢理限界の果てに挑戦させられ続けて、今の自分を知ることになった身だ。乱暴ではあっても効果が抜群であることは、これ以上なく知っている。


「……そうはおっしゃいますがね。流石に無茶すぎですよぉ。朝起きたら、いきなり仏様の後光が見えるのは絶対無茶しすぎてると思うんですぅぅ」


 八雲がむくりと起きて無表情に訴える。涙目だった。


 でも、にっこりと笑って答えてやる。


「それはただの朝日だ。問題ない」


 その後も、しばらくギャーギャーとわめく三人。


 このところの日課になっている。なので、程ほどにガス抜きをしてから、本命の藤ヶ崎の話に切り替える作業も段々スムーズになってきた。


「はいはい。今日の文句はそこまでな。また、明日聞いてやるから。それで? 各々の店の方は順調か?」


 俺がそう聞けば、ブチブチ言いながらも黙る三人。うん。やっぱ、こいつら根は真面目なんだ。菊も『良い子たちね』なんて言ってたから間違いない。


「俺のところはまずまずかな? やっぱ、バター焼きと同じように屋台向きなのが功を奏していると思う」


 しゃっきりした表情に戻って太助が言った。


 太助は、『焼きおにぎりと具だくさんの汁』を出す店を任せている。


 作り置きで冷えても問題ない。焼くから客に出すときは、毎回作り立てだ。醤油、味噌、にんにく味噌の三種を用意し、それと根菜をたくさん入れた味噌汁を出す。おそらく自前で豚を飼うようになる前に獣屋から猪肉を仕入れるようになると思うが、その頃にはトン汁にスイッチしてもいい。


 焼きおにぎりは匂いがかなり客を誘う。バター醤油に誘引力で引けはとるまい。


 作り置きからの料理のしやすさ、バター焼きや肉串と違って、客が食べ慣れた素材であることもアドバンテージが大きい。


 圧倒的に屋台向けの店だと思う。


 だから、テキ屋に才能が有りそうな太助を使って、一気に屋台村のメジャーに駆けあがる野望を持って仕掛けてみた。


「俺の方は日が経つごとによくなっていますね。やっぱりバターなんて見慣れない物は、いくら良い匂いでも避ける者の方が多かったようで。でも、ジワジワと増え続ける客を見て好奇心に負ける者も多く……売り上げは伸び続けています。少しずつですけどね」


 吉次は嬉しそう言った。


 吉次には引き続き『焼き物』の屋台を頼んでいる。俺にとっては、今現在の本命はバターを使っているこの屋台なので、なんとかこのまま頑張ってもらいたいものだ。


 とりあえず今は、ザリガニ・川エビのバター焼き、獣屋経由で仕入れた山鳥の串焼きあたりが主力商品だが、いずれはここに二水の牧場で育てた鶏や牛も並べたい。その次は養豚にチャレンジだな。


 それに今のメニューでもう少し戦えるようになったら、満を持して祭りで出した『タレもの』も検討したいところだ。あれは、砂糖やハチミツに金がかかるからどうしても単価が上がる。最初から庶民向けの商品として出すのはかなりリスキー……ある程度の目途がついてくれないとチャレンジもできやしない。


 館の連中と違って、庶民の財布は領内の経済状況をそのまま映す。そこから考えると、いきなり訳の分からん高い食い物になど食いついてはくれないだろう。やるなら信用を得てからだ。


「僕の方は正直いまいちですね。たぶん、夜に遊郭が並んでいるあたりで売った方が成果は出るでしょう。でも……、それでは売り上げにはなりますが、商人(あきんど)たちへの宣伝として弱い。こればかりはどうしようもありません」


 八雲が苦笑いをしながら、両手を小さく上げている。お手上げだと言いたいらしい。


 まあ、言いたいことは分かる。


 八雲には、シンプルに『ゆで卵』を売ってもらっている。


 こちらでのゆで卵の需要というと、真っ先にあがるのは『男と女の夜の一勝負』前の精力剤になると思う。もちろん、体力が落ちた時の栄養補給にという食べられ方もしているが、やはり夜の需要は毎日必ず一定量ある訳で。目的が明確なだけにきっちり売れるという強みがある。なにせ、男側だけじゃないからな。遊郭の女の子たちは毎日体力勝負だ。日々の体力維持に卵が欠かせないなんて話も聞こえてくるほど、女の子側でも需要がある。


 そんな間違いのない客を外して勝負をしているわけだから、八雲が半ば諦めているのも納得というものだ。


 でも、だから遊郭周りで夜売りましょうと言ってこないところが頼もしい。さすがは新・三バカの参謀役である。よく分かっていると思う。


 俺は、三人の報告を聞いて頷いた。


「よっしゃ。それなりに順調だな。もうしばらく、このまま行こうか」


「ちゃー。やっぱ、そう来ますかあ」


「そう嘆くなよ、吉次。確かに二足の草鞋(わらじ)を履かせているから大変だと思うが、ここの踏ん張りは二水の発展に直接響くんだぞ?」


「もちろん、わかってますよお。でも、言わないとツライんですって」


 吉次は大袈裟に泣きわめいて見せる。しかし、その目は決して後ろを向いていない。だから、俺も空気を読むことができる。


「ったく。ごちゃごちゃ泣き言言う元気があるなら、バター寄こせと言ってくる太客(ふときゃく)を箱詰めいっぱいにして連れて来いや。そしたら、今すぐにでもこの仕事は完了だ」


「横暴だ!」


 吉次は逆らって声を上げた。


 しかし、俺の答えなど一つだ。


「そうだよ? そうじゃないなんて言ったことないだろうが。お前らの主は暴君なんだよ。わかったら、腹括って仕事してこんかい!」


 俺がそう言うと、吉次はガクッと肩を落とすマネをする。そして、そのすぐ後ニヤと笑った。俺も、それに応えてニヤリと悪い笑みを作って見せる。


 ま、ちょっとしたおフザケだ。だが今日は、そこに少々おまけが付いた。


「お前はまだ良いよな、吉次。お初ちゃんという楽しみがあるんだから……」


 ぼそりと太助が呟く。


「な、ちょ、太助!」


 吉次は慌てた。


「あん? なんか面白そうな話じゃねぇか。ご主人様にもそっと詳しく報告してみんさい」


 ゲシゲシと太助を蹴る吉次。三人は俺の前に並んで胡坐をかいているというのに、なかなかに器用なことだ。


 蹴られている太助はどこ吹く風だ。すっかり悪ガキの顔に戻って吉次を煽って喜んでいる。その横で八雲は、ヤレヤレと言わんばかりにため息を吐いていた。だが、この八雲とて悪ガキ三人衆の一人な訳で……。


 俺の方を見た八雲は、


「なに、ただの屋台村で知り合った吉次の『コレ』ですよ」


 と大暴露。ズビムと音がしそうな勢いで小指を立てた裏拳を俺の目の前に突き出してきた。


「八雲! 俺とお初ちゃんはまだそんな関係じゃねぇ!」


 今度ばかりは吉次は本気で照れている。顔が真っ赤だ。


「ふ~ん。『まだ』ねぇ……」


 八雲はいつもはあまりしない悪い顔をしてやぶ睨み。女顔で美形の八雲がこういう顔をすると似合ってしまうのが何とも言えない。


 太助の方はいつも通りにガキ全開だ。顔の真横で握った両拳から小指を天に届けとばかりに突き上げ吉次を煽りまくって喜んでいる。って、お前。茜ちゃんで仕返しされても俺は知らんぞ。


 まあ、いいや。そん時は俺も便乗して楽しむとしよう。とりあえず、今日は吉次だな。


「なるほどね。なんだ、吉次。悪いことばっかじゃなさそうじゃん。季節は秋だというのに、ここは春だねぇ」


 菊のことで将兵問わずにからかわれまくっている俺には、こんな時くらい他人をからかう権利があると思う。否、権利があろうとなかろうと、たまにはからかう方に回りたい。


 だから、俺もしばらく吉次をからかって楽しんだ。大満足だった。




 この日から五日後────三人はいつも通りに報告にやってきた。


 しかし、この日はいつもの三人ではなかった。


 太助と八雲は吹き上がる感情を無理やり抑え込んでいるような無表情で、残りの吉次は右目のあたりに明らかに殴られた跡だとわかる青あざを作っていた。

お読みいただきありがとうございました。


できましたら、すぐ下にある評価フォームからポイント・感想などをいただけましたら幸いです。良かったら良かった、悪かったなら悪かったとそのまま評価していただければ結構です。


もちろん、リアクションだけでも結構ですので、ぜひよろしくお願いします! 無茶苦茶作者のモチベーションが変わります。


【姫様勘弁してよっ! 関連リンクアドレス】

・異世界戦国奇譚シリーズ

 『姫様勘弁してよっ!』の世界観で書かれたシリーズが載っているアドレス。

  :https://ncode.syosetu.com/s5643j/

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