表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
98/149

107 得手不得手

 みんなで馬車から降りて、宿に向かおうとしたところで、マリーに変装中のエルが私の腕を掴む。

「どうしたの?」

「宿の女将に顔を見られるわけにはいかないだろ?気分が悪いふりをするから……」

 えっと。顔を見られないようにするには……。

「リリーシア様。マリアンヌ様は御気分が優れないようですから、抱えて頂けますか?」

 そっか。

「はい」

「そこまでしなくても、」

 ローズさんに言われた通り、エルを抱える。

「ふふふ。それっぽく見えるわよ」

 エルが私の方に頭を預ける。

 なんだか不機嫌そうだ。


 エルの顔が見えないように抱えながら宿に入って、二階へ行く。

「ここで良いよ」

 エルを降ろして、私たちが使っている奥の部屋まで行く。

『中に誰か居る』

「え?」

 居るの?

「人数は?」

『手前の部屋には誰も居ない。奥の部屋に一人。……他にも人間の気配がするが、人数は上手く探れない』

「……バルコニーにも居そうだな」

 この前、マリーの部屋に入ろうとした人と同じなのかな。

 護衛の冒険者はずっと私たちと一緒に居たみたいだから、誰も居ない間に勝手に入ったってことだよね。

 エルが口元に手を当てて何か考えてる。

 もしかして……。

「俺が何とかするから、皆は手前の部屋で待機してくれ」

「私も行く」

「一人の方が、」

「一人は駄目だよ。絶対ついて行く」

 やっぱり、一人で何とかするつもりだったんだ。

 どうしていつもそうなの。

 エルがため息を吐く。

「わかったよ。闇の魔法で隠していく」

 良かった。

「ありがとう」

『諦めるのが早かったね』

「エルって、本当にリリーに弱いのね」

 弱い?

「うるさいな。……リリー。絶対に名前は間違えるなよ」

「はい。マリー」

「俺が許可するまでは大人しく待機していること」

「危なくなっても?」

「マリー相手に、そこまで手荒なことはしないだろ。大人しくして居られるか?」

 大人しくしてるって言わないと連れて行ってくれなさそうだ。

「はい」

 でも、私の主命はエルを守ることだから、危なくなったらエルを守ることを優先して良いんだよね。

「レインコートを預かるわ」

「うん」

 借りていたレインコートをマリーに返してリュヌリアンを背負い直すと、エルが私に闇の魔法を使う。

「なるべく俺の右側に居てくれ」

「はい」

『転ばないようにね』

 今は誰からも私の姿は見えないはずだから、気を付けなくちゃ。

「ローズ、クララを頼む」

「わかりました」

「メラニー。トラップがないか気を付けてくれ」

『了解』


 エルに続いて、部屋の中に入る。

『この部屋に何か仕掛けられている気配はないな』

 ローズさんが部屋に明かりをつけると、エルがレインコートを脱いでコート掛けにかける。

 エルの右側……。

 誰にもぶつからないようにするのって少し大変だ。

「今日は疲れたからもう休みます。皆さんもお休みください」

『マリーはそんな口調じゃないわ』

 そうだよね。

 マリーが笑いを抑えるように口元に手を当てて、頭を下げる。

「かしこまりました。ごゆっくりお休みください」

 声は笑ってない。皆、こういうことに慣れてるんだ。

 エルの腕が少し私に当たる。

 私が居るか確認してるのかな。

 私も、ちゃんと頑張らなきゃ。

 エルに続いて、奥の部屋に行く。


『トラップは無い。クローゼットの中に一人。バルコニーに二人だな』

 全部で三人。

 何とかなるかな。

 敵の中に魔法使いが居たら少し大変かもしれないけど。

 暗い部屋の中で、エルが私の腕を引く。

 ここに座れば良いのかな?

 私がベッドに座った後、エルがランプに明かりをつける。

『リリー。気を付けてねぇ』

『あまり光に近づくと闇の魔法が解ける』

『ここで大人しくしてれば良いみたいだね』

 これぐらい近くに居るなら、何が合っても大丈夫。

『僕がここに居るよ』

 ありがとう、アンジュ。

 アンジュが、ジュレイドを外して着替えてるエルを照らす。

 あれ?上の服は全部脱いじゃうの?

 見られても大丈夫なのかな。

 クローゼットやバルコニーの方には背を向けてるし、サイドテーブルにあるランプの明かりだけなら、薄暗くて他の人からは見えないのかもしれないけど……。

 下の服はそのまま、上にシャツだけ着てエルがベッドの中に入ると、布団の中に入ったエルの足が当たる。

 ちゃんと居るよって合図したいけど、私から動いちゃだめだよね。

『大人しくしてるんだよ』

 わかってるよ。

 何かあるならこれから。

 エル……、じゃなくて。マリーがこの部屋に一人きりで居るって敵に思わせないといけないんだよね。

 落ちついて。深呼吸。

 なんだかドキドキする。

『大丈夫か?』

『リリーは、こういうのは向いてないよね』

 だって。何が起こるかわからないから。

 待ってる時間って、どうしてこんなに長いの。


『動いたな』

 来た。

 クローゼットの扉が開く音がした後。誰かの足音が近づいてくる。

 良かった。魔法使いの光はないみたいだ。

 バルコニーの人たちは、まだ動いてない。

 あれ?この香り……。

『何?あれ』

 ランプの明かりに照らされたベッドの前に、薔薇の花束を持った男の人が立つ。

「マリアンヌ様」

 名前を呼ばれて、エルがゆっくり体を起こす。

「あなたは、誰?」

「怪しい者ではありません」

 魔法使いじゃないみたいだし、武器も持ってなさそうだけど……。

 男の人が、サイドテーブルのランプを持って、エルの顔に近づけると、エルが少し眉をしかめて身を引く。

「その美しい瞳。まさに、光の祝福を受けるお方に間違いない」

 マリーのとは少し違う色なんだけど、見たことがなかったらわからないのかもしれない。

 男の人がランプをサイドテーブルに戻す。

「部屋に護衛の冒険者を頼んだ覚えはありませんが」

「私は冒険者ではありません。名は、グレゴールと申します」

 グレゴールさん?

「王弟殿下でしょうか?」

「その通りです」

 えっ。王族なの?

「王弟殿下が、何故、このような時間に……」

「失礼なことは承知です。ですが、どうしてもお話しをしたいことがあって参りました」

「ここ最近、私の部屋に侵入しようとしたのも貴方ですか」

「マリアンヌ様と二人きりでお話しする機会を得ようとしていたのは間違いありません」

 あれ?マリーを誘拐しようとしてたのって、王妃様じゃなかったっけ?

「しかし、マリアンヌ様に危害を加えようと思ったことは、神に誓って一度もありません。どうか、お話しだけでもさせて頂けますか」

 マリー、他にも色んな人から狙われてたってこと?

「わかりました。ただし、何かあればすぐに悲鳴を上げて人を呼びます」

 エルが悲鳴を上げる所って想像つかないけど。

 その前に、私がエルを守らなきゃ。

「構いません。私は神の導きによって、ここに参上しただけですから」

「神の導き?」

「私の前に現れた神は、私こそがこの国の真の王であると仰いました」

 真の王?

「国王陛下は御健在ですし、王太子殿下はハルトヴィヒ様でしょう」

「いいえ。神は、間違いなく、この国を導く存在は私であると仰られたのです。しかし、教皇猊下ですら、私が真の王であることを神は示されていないと仰るのです」

 この人も、ドロテアさんみたいに神様を信じてるんだ。

「私は、教皇猊下に神託を証明する必要があります。……そこへ、光のお導きによってマリアンヌ様がこの国へいらっしゃったのです。光の使者たるあなたが私と結ばれることで、私が真の王であることを教皇猊下も、国民も認めることでしょう」

 結ばれるってことは……。

「マリアンヌ様。私とあなたは神によって結ばれる運命を与えられているのです。どうか私と結婚して下さい」

 グレゴールさんがエルに赤い薔薇の花束を向ける。

 この人、マリーにプロポーズしに来たんだ。

「そのようなお話しを受けるわけには参りません。私は誰とも結婚をするつもりはありませんから」

「いいえ。これは運命によって決められていたことなのです。そうでなければ、このタイミングで貴方が私の前に現れるはずはない」

『思い込みが激しいね』

 マリーはこの薔薇の花束を気に入るのかな。部屋に飾ってた薔薇とは全然違う感じのものだけど。

「私には関係のないことです」

「関係あることなのです。何故なら、あなたは光の祝福を受けたお方。私と共に、世界の危機に立ち向かう使命を負っているのです」

「世界の危機?」

「すなわち、ラングリオンの皇太子が中途半端な封印を施しているアンシェラートを完全に封印し、世界に平和をもたらす使命です」

 え?

「そんなこと……」

 レイリスでも大変なことを、人間が出来るとは思えないけど……。

「可能なのです。神は仰った。選ばれし者だけが、その奇跡の力を扱えるのだと」

 奇跡の力……?

「グランツシルト教に伝わる聖櫃を開き世界を救うのは、真の王たる私と、光の導きを受けるマリアンヌ様なのです」

 聖櫃って、封印の棺だよね?

 この人、封印の棺を開く気なの?

「神と、どんな取引を?」

「取引?」

「願いの代償に、契約を結んだのでは?」

「とんでもない。願いを叶えると甘言を抜かすのは悪魔と相場が決まっております。神は、私の目の前に現れて神託を与えて下さるだけなのです。私は神の導きに沿って行動しているだけです」

「お話しはわかりました。しかし、自分の一生を決めるお返事をすぐに出すことはできません。一晩考えさせて頂けませんか」

「何を迷うことがありますか。神はすべて正しいのです」

「グランツシルト教徒ではない私には、神の奇跡は信じられないものです。どうか、今日はお引き取りを」

「それならば、今すぐ神の奇跡をご覧に入れましょう」

 神の奇跡?

「神は、王たる私に応えて下さるのですから!」

 薔薇の花束を捨てて、グレゴールさんが急にバルコニーの方に飛び出していく。

「グレゴール様!」

 バルコニーに居るのは二人。

 どちらも魔法使いじゃない。

 グレゴールさんの部下?

 腕を引かれて、ジュレイドを持ったエルと一緒にバルコニーに出ると、グレゴールさんが魔法の玉を割る。

 眩しい……。光の玉?

 でも、光は一瞬で消えた。

「神よ!その奇跡をここに!」

 まだ降り続いている雨の中、グレゴールさんが空に向かって両手を上げると、周囲の精霊のざわつきが聞こえる。

『嫌な感じ……』

 周りの精霊がそう感じるってことは……。

 雲が、あの時と同じように渦巻いていく。

『これって……』

 渦巻いた雲の中央から雷が落ちたかと思うと、目の前に人間が現れる。

 この人は……。

『こいつ、この前の奴だ!』

「ベネトナアシュ……」

 どうして、ここに?

 この人が呼んだの?

 さっきの魔法の玉で?

「マリアンヌ様。あの方こそが、光の神、グリッツェン様の御使いです!」

 違う。

 ……戦わなきゃ。

 でも、どうやって?

 リュヌリアンじゃ、この人に攻撃できない。

 また封印解除の呪文を唱える?

『避けろ』

 セシル?

 慌ててエルの腕を引くと、風の魔法で加速したローズさんがエイルリオンでベネトナアシュを斬りつける。

 そして、バルコニーの淵に立ったかと思うと、グレゴールさんとその部下に魔法を使う。

 眠りの魔法だ。三人は、そのまま折り重なるように倒れる。

「何、呆けてるんだよ」

 ローズさんがエイルリオンを持ち直す。

 あの人に攻撃できるのは、エイルリオン。

 ってことは、ジュレイドも……?

「行くぞ」

「了解」

「あっ、私も、」

「そっちは頼む」

 それだけ言って、エルがローズさんと一緒にベネトナアシュと戦いに行ってしまう。

「どうしよう……」

『封印解除の魔法は使っちゃだめだからね』

 レイリスもダメって言ってた。

「リリー、どうなってるの?」

「マリー、クララ」

 振り返ると、二人が私の方に来る。

「この三人が侵入者?」

「うん」

「それで、あれは何?」

 なんて言ったら良いんだろう。

「えっと……。王家の敵なんだ」

「王家の敵?それって、ラングリオンの?どうして、そんなのがクエスタニアに現れるの?」

「私にもわからない。でも、エイルリオンと、エルの持ってる剣じゃないと戦えなくて」

「だから、ローズが飛び出して行ったのね」

 外を見ると、黒い槍が降って来るのが見える。

「二人とも、危ないから下がってて」

 エルが下から炎の魔法を使ってる。

 ……私も、一緒に戦いたい。

 ?

 何の音?

 誰か、上って来る!

「何者だ!」

 背中からリュヌリアンを抜く。

「おいおい、こんな狭いところで大剣振り回すのはやめてくれ」

「あなたは……」

 バルコニーの下から顔を出したのは、エルが護衛を頼んだ人だ。

 慌てて剣を引いて、バルコニーに上るのを手伝う。

「ここに転がってるのは全員、回収して良いのか?」

「回収?」

「誘拐犯なら、こっちで兵士に引き渡しておくぜ」

 誘拐犯というか……。

『引き渡しても良いの?』

「この人、グレゴールさんって言って、王弟殿下みたいなんですけど」

「王弟ねぇ。また面倒なのが出て来たな。まぁ、何とかなるだろ」

 手際良くロープでぐるぐる巻きにされた三人が、バルコニーから下の仲間の元へ降ろされていく。

 この人になら、頼めるよね?

「マリーたちの護衛、任せても良いですか?」

「加勢しに行くのか?」

「はい」

 エルの護衛が私の仕事だから。

「仕方ないな。頼んだぜ」

「はい!」

 状況は……。

 宙に浮かぶベネトナアシュを縛っているロープの先に、ユールとジオ、ローズさんが居る。まずは、そっちを手伝わなきゃ。

『リリー、上』

 見上げた空には複数の黒い槍。

 ベネトナアシュに攻撃出来なくても、リュヌリアンで魔法を斬ることはできる。

 バルコニーから跳躍して、黒い槍に向かってリュヌリアンを大きく振る。

 ……打ち漏らしはないよね。

 黒い槍が全部消えたのを確認しつつ、エルの近くに着地する。

「援護するよ」

「リリー」

 ローズさんの方に走って行ってロープを思い切り引くと、ベネトナアシュが地面に落ちる。

『流石、リリーねぇ』

「マリーたちは?」

「任せて来たから大丈夫!」

 出来るだけ早くこっちを片付けなくちゃ。

 エルがベネトナアシュの方に走って行く。

「リリーシア、任せたぞ」

「はい!」

 ローズさんがエルに合わせて、ベネトナアシュに攻撃する。

『あいつは、このロープを斬ることはできないはずよぉ』

『力ずくで飛ばれちゃったら、どうしようもないけどねー』

「大丈夫。私が、ちゃんと繋ぎ止めておく」

 ユールとジオが作った真空と風のロープに力を込める。

 ローズさんとエルが戦ってる間、絶対に逃がさないんだから。

 エルが、魔法で宙に舞う。

 そのエルを追って、ベネトナアシュの左腕が伸びる。

「エル……」

 腕と追いかけっこをしていたエルが、今度は急降下する。

「ローズ!」

 エルがベネトナアシュの左肩を斬りつけると、ベネトナアシュと鍔迫り合いをしていたローズさんが、すかさず同じ場所をエイルリオンで斬り上げる。

 すると、伸びていた左腕がすべて、亜精霊のように霧散した。

 エイルリオンとジュレイドは、本来あるべき姿に戻すんだよね?

 消えてしまうってことは……。

「そろそろ限界じゃないのか?お前の弱点ぐらい知ってるぜ」

 ローズさんがベネトナアシュを斬る。続けてエルが同じ個所を斬ると、斬られた部分から砂のようにベネトナアシュが消えて行く。

 最後に残った紅の剣と右腕が、地面に落ちると同時に消えた。

「本当に、あいつを倒したのか?」

 エルが紅の剣の在った箇所を見る。

「さぁな。少なくとも、死体ですらなくなったのは確かだろ」

―ベネトナアシュも神の力を失えば砂のように崩れるだけの存在だ。

 もう、あれは肉体ですらなかったんだ。

 エルの方を見ると、エルがまだベネトナアシュが消えた場所を見ている。

 服が完全に濡れてる。

「エル。……風邪ひいちゃうよ」

 マントをかけると、エルがフードを被りながら空を見上げる。

「ヴェラチュールの気配は?」

 精霊たちは周りに居るけれど、さっきみたいに騒いでる感じはもうしない。

「嫌な感じはもうないみたい」

 エルが頷いて、もう一度空を見上げる。

 雨はまだ続いてるけど、渦巻いた雲はなくなっている。

 ……あの人は今、どこに居るんだろう。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ