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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
91/149

100 Je l'aide

『アイフェル!』

 ナインシェが嬉しそうに、眩い黄色の光を持つ人の方に飛んでいく。

「ナインシェじゃない。なんでこんなところに居るの?」

『なんでって。ラングリオンからマリーと一緒に来たのよ』

「マリー?……おぉ!マリアンヌじゃない!ずいぶん大きくなったねー」

 一瞬で近づいてきたその人に抱き上げられたマリーが、小さな悲鳴を上げる。

『何馬鹿なこと言ってるの。マリーとは初対面じゃない』

 子供みたいにぐるぐると振り回されていたマリーが、ようやく降ろされる。

「何言ってるの。こんな美人がそうそう居ると思ってるの?」

「初めまして。アイフェル様。マリアンヌ・ド・オルロワールと申します」

 少しふらつきながら、マリーが丁寧に礼をする。

「礼儀正しくなっちゃって。……ほら見ろ。本人だ」

『だーかーらー。アイフェルの知ってるマリーなわけないでしょ。一体、何百年前の話ししてるのよ』

 あっ。

 この人、右が碧眼、左がコーラルアイだ。

 ってことは……。

「もしかして、あなたは初代オルロワールと瞳を交換した光の大精霊なの?」

「初代?あー、そんな呼ばれ方してたっけねぇ」

「オルロワール家と繋がりの深い光の大精霊、アイフェル様。その名前は、代々、オルロワール家に語り継がれているの」

 だから、マリーも名前を知ってたんだ。

「様なんて要らないって。まさか、異国の地であいつの娘に会えるとはねぇ」

『だから、違うって言ってるでしょ』

『もしかして、この光の大精霊ってナインシェの親なの?』

『そうよ』

『そうだ』

「お。メラニーも一緒?相変わらず仲良いじゃない」

『ふざけてる場合じゃないの。いい加減、私の話も聞いてよ』

「聞いてるって。まぁ、私にとっちゃ、孫だろうと娘だろうと関係ないってことだよ。なんせこんなに可愛いんだからね」

 アイフェルが楽しそうに笑う。

 ……その奥に、斑の光が見えて、思わず後ずさる。

「ん?どうかした?」

 奥の部屋。つまり、光の間にあるあれは……。

「封印の棺……」

「もしかして、これを探しに来たの?」

「えっと……。それもあるんですけど、それよりも、もっと大事な用があって。エルが悪魔になってしまうかもしれなくて……」

「穏やかじゃない話しだね」

「お願い。助けて」

「悪魔祓いをしていたのは光の魔法使いだもの。光の大精霊なら、きっと悪魔になった人間を元に戻すことが……」

「残念ながら、私にそんな力はないよ」

『無理なの?』

「穢れた魂を浄化するなんて、精霊には不可能だ」

「でも、この地に居た悪魔は、」

「あいつらがやっていたのは悪魔祓いじゃない」

「え?」

「穢れた魂は死者の世界に行くことを許されない。その魂は分割され、永遠に現世を彷徨う存在となる。あいつらが悪魔祓いと称してやっていたことは、その魂を集め、死者の神の御使いに捧げること。穢れた魂を死者の世界に送れるのはそいつだけなんだ」

 そうだ。昔、悪魔の魂を浄化していたのは、光の魔法使いと神の御使い。

 その御使いは、死者の神の御使いだったんだ。

「つまり、救いたいなら、悪魔になった魂を死者の神の御使いに捧げるしかないってことなの?」

「そういうことだね」

「そんな……」

 他に方法は……?

「あの、神さまなら誰にでも出来るってこと?」

「さてねぇ……。何とも言えないな。少なくとも、死者の神には可能だったってことさ」

 死者の神の力。

 私の中に封印されてる力には、死者の神の力なんてなさそうだよね。

 他の神の力では無理なのかな。

 試してみる?でも、その為にはレイリスがかけてくれた封印を解かなきゃいけないのかもしれない。

「あ。もう一つ、方法があったね」

「方法?」

「教えて」

「本来あるべき姿に戻す剣を使うんだ」

「!」

「リリー、知ってるの?」

「うん。アイフェル、それがあればエルは元に戻るの?」

「昔、アークとリフィアが戦った奴が、二人の剣で元に戻ったんだよ。本人が悪魔になるつもりがないなら、その魂が完全に穢れるまでに時間がかかる。そいつがまだ人間なら人間に戻るし、悪魔なら悪魔のままってことなんだろうね」

 本来あるべき姿に戻すから?

「要は、悪魔になり切る前なら元に戻せる可能性があるってわけ」

「ありがとう!アイフェル」

 急いでエルの元に行かなきゃ。

「マリー、急ごう!」

「え?リリー、待って」

「ちょっと待ちな」

 アイフェルが光の魔法で、倒れている人たちを目覚めさせる。

「……あっ、アイフェル様」

「うちのじゃじゃ馬が迷惑をかけたね。あれは私の客人だ。丁重にもてなしてやって欲しい」

「かしこまりました」

「王宮を出るなら神官に案内してもらった方が早いんじゃないのかい。通常の方法でここに来たわけじゃないんでしょ」

「そうね。リリー、さっきのマントをつけて頂戴。途中で誰かに見つかったら、余計な時間がかかるわ」

 そっか。

「わかった」


 アイフェルと別れて、ローグから借りた衣装で変装をして。

 神官の一人に門まで案内してもらう。

「アイフェル様の客人とは知らず、御無礼をお許しください」

「いえ、御気になさらないで下さい。私こそ、とんだ失礼を」

「何をされたのかはわかりかねますが、こちらの不手際に変わりありません。どうか御気になさらずに」

 アルラウネの悲鳴を聞いたこと、忘れてるのかな。

「今は非常事態で、あの部屋には何人も通せないのです。光の間に立ち入ったことは、たとえ王族であろうとも口外されぬよう、お願いいたします」

「わかりました、御約束します」

『相当、出入りに厳しいところだったみたいだね』

「次に訪れる際には、精霊を光の間へ遣わせて下さい。あの聖堂は、精霊が自由に出入りできる穴が天井に開いておりますから。連絡を頂ければ、私が御迎えに上がります」

『アイフェルの所なら、私が行くわ』

 ナインシェ。

「わかりました。ありがとうございます」

 エルが探していた光の大精霊にも会えたし、聖櫃が封印の棺だったこともわかった。

 後は、エルを元気にするだけだ。


 ※


 途中で変装を解いて、マリーと一緒に教会に行く。

 エル、どこに居るんだろう。

『エルは、この教会の奥に居るみたいだな』

 礼拝堂には居ないってこと?

 マリーが近くの神官さんに話しかける。

「こんにちは、神官様。こちらに私の連れのクロエとローズが居ると伺っているのですが」

「はい。お話しは伺っております。どうぞ、こちらへ」


 案内された先の部屋で、神官さんが扉をノックする。

「どちら様でしょう」

 ローズさんの声だ。

「私よ」

 マリーの返事の後、ローズさんが内側から扉を開く。

「どうぞ」

「では、私は失礼します」

 案内してくれた神官さんに礼をして、マリーと一緒に中に入る。

『リリー、遅いよー』

「ごめん」

 ベッドの上で横になってるエルの傍に行く。

 眠ってるみたいだ。

「ローズ、状況を説明してくれる?」

 ローズさんがエルの傍に行って、エルの口を開く。

 エルの歯が二つ、尖ってる……?

「何よ、この牙みたいなの」

『吸血鬼になった証拠よぉ』

「吸血鬼の証だそうです」

 あ……。

 ルイスの治療の後、ユールがエルの口の中を確認してたっけ。

―大丈夫みたいねぇ。

 あの時、確認してたのは、エルの歯だったんだ。

 ローズさんがエルの口を閉じる。

「メディシノとして無理な治療を続けた結果。完全に悪魔になったようです」

「え……?」

 完全に……?

「なったようです、って。あなた、それを横でずっと見てたって言うの?」

「おかしくなったら眠らせてくれ、と言われておりましたから。言葉通りに、今は闇の魔法で眠らせています」

「どうして途中で止めなかったのよ!」

「マリアンヌ様なら止めることが出来ましたか?」

 マリーが俯く。

 ……無理だよね。きっと。

 エルがやりたいと思ってることを止めるなんて。

「エル……」

 エルの頬に触れる。

 額に、うっすら汗をかいていて。

 悪夢にでもうなされているみたいに、苦しそうに表情がゆがむ。

 その右手は、ジュレイドを掴んでる。

 これって……。

―本人が悪魔になるつもりがないなら、その魂が完全に穢れるまでに時間がかかる。

 エルはまだ、悪魔になってないんじゃ……。

 エルの右手に触れる。


 視界が真っ暗になる。

 何も見えないし、何も聞こえない。

 エルの右手に触れている感覚だけが残っていて。

 怖くて、その手に力を込める。

 エル。


「本当に、悪魔になることが、俺の望むこと?」


「違う!エルは、悪魔になりたいなんて思ってない!」


 視界が戻る。

「リリー?どうしたの?」

 今の……。

「まだ、間に合う」

 エルは悪魔になってない。

「エルを元に戻す」

「出来るの?」

「この剣とエイルリオンがあればできるの。この剣が、アイフェルが言ってた本来あるべき姿に戻す剣なんだ」

「これが?」

 持てるかな。

 ジュレイドを持つエルの手ごと、ジュレイドを引く。

 良かった。

 エルが手にしてる限り、ジュレイドも使えるんだ。

「だから、今すぐラングリオンに戻ってアレクさんに……」

「その必要はありません」

 ローズさんが、盾と共に背負っていた剣を抜く。

「えっ?」

「エイルリオン……」

 あれ、エイルリオンだったの?

 全然気が付かなかった。

 っていうか、どうしてエイルリオンに触れることが出来るの?

 ローズさんと目が合う。

 まさか?でも、光は同じだし?

 あれ?でも、女の兄弟も居たような?

「これをどう使うんですか?」

 考えてる暇はない。

 今は、エルを助けなきゃ。

「これで、エルを斬るんです」

「えっ?何言ってるの、リリー」

「大丈夫。私も斬られたことあるけど、エイルリオンって人は斬れないから」

 マリーが頭を抱える。

「その状況がさっぱりわからないわ」

 私も、あの時の状況はあまり思い出したくないけど。

 エルの手を握って、ジュレイドを鞘から抜いて。それをエルの心臓に刺して目を閉じる。

 エル……。


「リリー、助けて」


 エル、どこに居るの?

 声が聞こえるのに、探せない。

 手は触れてるのに。

 お願い。届いて。

 エルが居る場所に。


「エル!」


 ……見つけた。

 目で確認することは一切できないけれど。

 エルに触れてる感覚がある。

 その温もりを、ちゃんと感じる。

 絶対に離さない。

 離してしまえば、失ってしまうような気がするから。

「エル」

 お願い。

 この声が届くなら、帰ってきて。

 間に合って。

 急にエルの体が動いて、エルが口から血を吐く。

「エルっ」

「リリーシア、避けろ」

 ローズさんが、ジュレイドと同じ場所にエイルリオンを突き刺す。

「……っ」

 エルの両目が開いて、起き上がったエルが咳き込む。

『エル!』

『エルっ!』

「エル、」

 咳き込むエルの背を叩く。

 エル……。

 一通り吐いたエルが口元を拭う。

「エル、大丈夫……?」

「リリー」

 エルが私の腕を強く引く。

 そのままエルの方に倒れると、エルが私を優しく抱きしめる。

「ただいま」

 あぁ……。

 私、間に合ったんだ。

「おかえりなさい」

 エルは、ずっと戦ってたんだ。

 あの真っ暗な場所で。

 私、エルが悪魔になる前に、エルの傍に来れたんだ。

「泣かないで」

 そんなの、無理。

「もう良さそうですね」

 ローズさんがエイルリオンを抜いて背中に戻す。

「エイルリオン……?」

 エルが首を傾げて、自分に刺さっていたジュレイドを鞘に戻す。

『エル、口開けてぇ』

 エルが口を開く。

 あれっ?歯が、戻ってる?

『ふふふ。成功ねぇ』

「成功?」

 そっか。

 本来あるべき姿に戻ったんだ。

「何をしてたんだ?」

「リリーが……」

「秘密の儀式です。エルは知らない方が良いでしょう」

『そうねぇ』

 ……そうだよね。

 これで治るってわかったら、エル、また危ないことしちゃいそうだもん。

 エルを抱きしめる。

「エルの、ばか」

 もう、二度としないで。

 あぁ、もう、だめ。

 涙が止まらない。

「泣かないで」

 そんなの無理。

 足音と、扉が開く音が聞こえて。部屋が静かになる。

 マリーたち、出て行ったのかな。

「リリー」

 エルに腕を引かれて顔を上げると、エルが私の目元に触れて。

 そして、私を抱き寄せて、きつく抱きしめる。

「ごめん。リリー」

 もう、聞き飽きた。

 でも。

「無事で、良かった……」

 こうしていると、安心する。

 鼓動の音が聞こえて。

 ……落ちつく。

 いつも通りの、エルの腕の中。

「来てくれて、ありがとう」

「うん」

「リリーが居るから、こうしていられる」

「そんなことないよ。エルが悪魔にならなかったのは、エルが悪魔になりたくないって抵抗していたからで、それから……」

 ジュレイドとエイルリオンの力が……。

「俺に必要だったのは、リリーだけだ」

「え?」

 エルが、紅の瞳で真っ直ぐ私を見る。

「俺が、この身も魂もすべて捧げて為すべきことは決まってるんだ」

 為すべきこと?

「リリーの夢を叶えたい」

「私の、夢?」

「約束しただろ?だから、俺は悪魔になるわけにはいかないんだよ」

「エル……」

 どうして、そういうことを言えるんだろう。

 私の夢なんて、願いなんて、本当に些細なことなのに。

 エルが、全てを捧げる必要なんてないことなのに。

 なのに……。

 なのに。

「エルじゃなきゃ、だめなの」

 エルが微笑む。

「わかってるよ」

 もう一度、エルの腕の中で胸に頭をくっつける。

 ……エルが私を選んでくれたから。

 だから、叶うことなんてないと思っていた夢を捨てずに居られたんだ。

 エルが、こんなに真っ直ぐ私を好きでいてくれるから。

 エルが、こんなに私を幸せな気持ちにしてくれるから。

 私の夢を叶えられるのは、エルしかいない。

 


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