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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
82/149

91 武勇の誉れ

 今日はお城に行く日。

 せっかくだから、ロザリーが作ってくれた服を着て行こう。

 えっと……。

 これにしようかな。

 着替えて、鏡の前に立つ。後ろのリボン……。

 エルは、こうやって結んでたと思うんだけど。

「イリス、どう?」

『エルに直してもらったら?』

 ベッドの方を見る。

「おはよう、リリー」

 エルが欠伸をしながら起き上がって、大きく伸びをする。

「おはよう、エル」

 今、起きたとこなのかな。

「明日から、しばらく出かける」

「……うん」

 クエスタニアに行くって、教えてくれないのかな。

「大した用じゃないから、すぐ帰って来る予定。イリスは連れて行くから、何かあったら教えて」

「うん。わかった」

 エルが、私の後ろのリボンを直す。

「これで良い?」

 鏡でリボンを確認する。やっぱり、エルの方が上手だよね。

「ありがとう。先に行ってるね」

 ブリジットさんはもう台所に居るはずだ。

 

 ※

 

 台所は良い匂い。

「おはようございます」

 顔を出すと、ブリジットさんとキャロルが居る。

「おはようございます、リリーシア様」

「おはよう、リリー。朝ご飯、エルも食べるのよね?」

「うん」

 昨日、隊長さんの家に戻った時間は、かなり遅かったらしく、ブリジットさん以外とは誰とも会えなかった。

 エルと一緒にレストランで夕飯を食べて来ただけなのだけど、そもそもオルロワール家を出た時間も遅い時間だったのかもしれない。

 時計がないと、ちょっと不便になってきた気がする。

「今日は、朝ご飯を食べたら一緒にお城に行く予定なんだ」

「相変わらず忙しいわね、エルって」

 キャロルが棚の上のブリキ缶を見る。

「あれをみんなで食べるのはいつになるのかしら」

「大丈夫。熟成させればさせるほど美味しくなるから」

 キャロルが笑う。

「エルが居ない分だけ美味しくなるなんて、不思議ね」

 なんだかとっても複雑だ。


 ※


 朝ご飯を食べて、エルと一緒にお城に向かう。

『カミーユが居るな』

「カミーユ?」

 辺りを見回すけど、歩いてるのは鎧を着た衛兵ばかりだ。

 そういえば、いつもこの辺に居るはずのコートニーが居ない。

『魔法部隊の宿舎に居る』

 確か、魔法部隊の宿舎って、お城の中にあるんだよね。

「先に魔法部隊の宿舎に寄る」

『行くのぉ?エル』

「あぁ。ちょっと気になることがあるんだ」

 エルに手を引かれて、左の道を歩く。

 あの塔が、魔法部隊の宿舎なんだ。


 中に入ると、カミーユさんとレティシアさんが居る。

「エルロック、リリーシア」

「こんなに早くに、どうしたんだ?」

「お前たちは殿下に呼ばれてるはずだろう」

「急ぎの用じゃないから良いんだよ。何かあったのか?」

「ちょっとな」

「イレーヌの里の者を送ったきり、昨日からアンドレが帰らないんだ」

 エルがカミーユさんたちの方に行く。

 あれって、転移の魔法陣?

「おはよう、リリーシア」

「イレーヌさん」

 扉の近くに居たイレーヌさんの方へ行く。

「何があったんですか?」

「あの魔法陣、使えないみたいなのよ」

 転移の魔法陣って、王都にもあったの?

 前は、なかったはずだよね?

 エルとカミーユさんが新しく作ったのかな。

「ここが使えないと、帰るのが少し難しそうね」

「エレインは?」

「まだ王都に居るわ。変なことが起きてるみたいだし、頼まれたこともあるから。状況が落ち着いてから帰ることにしたのよ」

 エレイン、カミーユさんに言ったのかな。

「帰ったら、エレインは、ここに来れなくなっちゃうんですか?」

「一人で来るのは難しいでしょうね。見ての通り、自分じゃ何もできないような子だから」

 そうかな。

『そうだね。リリーだって一人にはしておけないぐらいだし』

「一人で旅ぐらいできるよ」

「まだまだ経験が足りないわ」

『東の街に行くはずが、西の街に行ってるって落ちが見えるよ』

「そんなこと……」

「周囲に居るのが良い人間ばかりとは限らない。身の守り方も知らずに旅するなんて、危険よ」

「王都は安全だと思います」

「そうは思わないわ。私たちにとって、地上はすべて敵の土地なのよ」

 それは……。違う種族だから?

「ごめんなさいね、言い過ぎたわ。あなたたちにはとても感謝してるし、人それぞれだってわかってる。その上で、油断大敵なことの方が多いって言っているの。幸運が続くなんてことは滅多に……」

 イレーヌさんが笑う。

「?」

「そうね。あなたに会ってからは良いことばっかりだったわ」

「待て!」

 カミーユさんの声が聞こえて、エルの方を見る。

「一応、俺の精霊も連れて行け。何かトラブルがあった可能性が捨てきれない」

『ついて来るのぉ?』

 エル、どこかに行くの?

「わかったよ」

 置いて行かれちゃう。

「エル!私も、」

「リリーはここに居てくれ」

『エルに帰ってきて欲しいなら、ちゃぁんと待っててねぇ』

「すぐ戻る」

 待ってた方が良いってこと?

「わかった」

 エルが魔法陣に乗る。

「スタンピタ・ディスペーリ・セントオ・メタスタード」

 転移の魔法陣が輝いて、エルが消える。

「使えるみたいね」

「いや。転移できたとしても失敗する可能性があるんだ」

「その話しは聞いたことがあるけれど」

「昨日、出かけた奴が帰って来ないってことは、知らない場所に出た可能性がある。エルが何処に出たか分かれば足取りも掴めるだろう。検証結果を待ってくれ」

 扉が開く音が聞こえて振り返る。

「おはようございます。皆様」

「ライーザさん」

 ライーザさんが頭を下げる。

「リリーシア様のお迎えに上がりました」

「え?私?」

「はい」

「あの、私、エルに待ってるように言われたんですけど……」

「大丈夫だぜ。リリーシアちゃんが王都に居れば問題ない。アレクシス様が待ってるんだろ?あの馬鹿が帰ってきたら伝えておくから行ってきな」

『リリーに用があるみたいだし、行ったら?』

 良いのかな。

「では、こちらへ」

「リリーシア、また今度ね」

「はい」

 イレーヌさんと別れて、魔法部隊の宿舎を出る。


 ※


 えっと……。

「あの、これって?」

『良く見る服だよね、それ』

 案内された部屋で着替えたのは、少し大きめの服。

「サイズのお直しが間に合わず、申し訳ありません」

 ライーザさんが、服を引っ張ったりしながら調整する。

 ぶかぶかって程じゃないから問題はないのだけど。

「いかがでしょう」

 ライーザさんが私の前に姿身を持って来る。

「わぁ。かっこ良い。騎士の正装みたい」

「はい。騎士の正装でございます」

「え?」

「では、この剣を……」

「あっ、私が持ちます」

 置いておいたリュヌリアンを背負う。ライーザさんには重いよね、これ。

 カーネリアンと他の荷物も身に着ける。

「では、謁見の間へ参りましょう」

「謁見?」

「はい。国王陛下が、剣術大会優勝者の願いをお待ちでございます」

「国王陛下……?」

 どうしよう。一気に緊張して来た。

 これから、国王陛下に会うの?

『大丈夫?リリー』

「あの、私、謁見の作法とか知らないんですけど……」

「アレクシス様の精霊の補佐があると伺っております」

「アレクさんも居るんですか?」

「はい」

『エル、謁見のこと知ってたのかな』

「エルって謁見のこと知ってたんですか?」

「いいえ。謁見は今朝、陛下がお決めになられたことですから」

「今朝?」

「アレクシス様との御朝食の際に、本日、リリーシア様がいらっしゃるとお聞きになられ、お決めになられたと伺っております」

『忙しいから、時間が空いてる時にって感じだったのかな』

「謁見の間に向かう間に、謁見の作法を御説明いたしましょうか?」

「はい。お願いします」

『ライーザにはお世話になりっぱなしだね』

「何か不測の事態が起こっても、アレクシス様が同席されております。どうか肩の力は御抜きになって下さい」

「はい」

 深呼吸……。


 ※


 謁見の間の扉が開く。

 中央の玉座に座っているのは国王陛下。

 その隣で侍女と一緒に立っている、ティアラをつけた人が王妃様。

 アレクさんは向かって右側の玉座に座っていて、その後ろにはマリユスとローグバルさんが居る。

 左手に居るのはアルベールさんと……、オルロワール伯爵かな。

「剣術大会優勝者、リリーシア様がいらっしゃいました」

『しっかりしてよ』

 小さく頷いて、近衛騎士が左右に並んでいる赤い絨毯の中央を真っ直ぐ進む。

 ……真っ直ぐ、歩けてるかな。

 緊張してるから、ちょっと自信がない。

『カートだ』

 ライーザさんが歩みを止めるように教えてくれた場所。剣花の紋章の模様が描いてある場所にカートが居る。

『ここで止まれよ』

 補佐してくれるのって、カートだったんだ。

 立ち止まって、国王陛下の前で膝を突いて頭を下げる。

『挨拶』

「リリーシア、参上いたしました」

『声がひっくり返ってるぞ』

『まぁ、しょうがないよね』

 だって。こういうの、初めてだから……。

「良く来た。顔を上げてくれ」

 顔を上げる。

「本来ならば、優勝決定と共に勝者の願いを聞くのが私の役目。その機会が遅れたことを詫びよう」

「とんでもないです」

 閉会式どころじゃなかったのは良くわかるから。

「では、貴殿の願いを申すと良い」

「はい。私を、アレクさ……」

『おい!ここをどこだと思ってるんだよ』

 あっ。

「アレクシス様の近衛騎士にしてください」

『しっかりしてよね』

『こんなところでアレクを笑わせてどうするんだよ』

 アレクさんが笑いをこらえてるのが見える。

 ……笑わなくても良いのに。

「その願いはアレクシスも承知済み。優勝者、リリーシアの願いはラングリオン国王、アントワーヌの名において叶えられると約束しよう」

「ありがとうございます」

 えっと……。

 これで良いんだよね?

「さて、リリーシア」

「はい」

「剣術大会での奮闘、紫竜フォルテとの戦い、並びに王家の敵の撃退、見事であった。国の危機に立ち上がり、ラングリオンの為に戦ったことに礼を言う」

 ……本当に、色んなことがあったよね。

『返事は?』

「はいっ。……ありがとうございます」

「貴殿に、私が預かっているものを返却致そう」

 預かってるもの?

「マリア、あれを」

「はい」

 王妃様が侍女を連れて私の前に来る。

「どうか、御立ちになって下さい」

「はい」

 促されて立ち上がる。

「まず、リリーシア様に私からも感謝を。あなたはアレクシスの命を救ってくださったと伺っております。本当にありがとうございました」

 王妃様が頭を下げる。

「それは、」

『大人しく、光栄ですって言っておけよ』

「……はい。光栄です」

 私はエルを手伝っただけなんだけどな。

 頭を上げた王妃様が、侍女の持つ箱の中から一つの宝石を出す。

「こちらは紫竜フォルテの眉間より取り出したカーバンクル。竜殺しの異名を持つリリーシア様に相応しい品となっております」

「あの……」

『いちいち話の腰を折るな』

「このままお持ちになっても構いませんが、よろしければ、こちらで加工を承りたいと考えております。いかがでしょう」

『お願いしますって言えよ』

「お願いします」

「では、後程、御相談致しましょう」

「はい」

 王妃様はカーバンクルを箱に戻すと、侍女と一緒に陛下の元に戻る。

 カーバンクル、私が貰っちゃって良いのかな。

『座れ』

 また、その場に膝を突く。

「リリーシア。その数々の武勲は、我が国の騎士として迎えるに相応しい働きと言えよう。貴殿が望むのならば、名誉騎士の叙勲を行う用意がある。如何か」

「名誉騎士……?」

『ちゃんと返事しろ』

「はい。光栄です」

『名誉騎士って?』

『従騎士をやらずに騎士にしてやるってことだよ』

 アレクさんが言っていた抜け道って、このこと?

「アレクシス、立会人を」

「はい」

『騎士の叙勲って、どうするの?リリーは何も知らないよ』

『叙勲を受ける方は大してやることはないから心配すんな。俺の言う通りにやれ』

 大丈夫かな……。

 陛下が私の前に立って、アレクさんが私の横に来る。

「リリーシア。君はラングリオンの騎士としての叙勲を受ける。誓いの剣はリュヌリアンで良いかい」

 誓いの剣?

「えっと……。はい」

『は?大剣でやるのか?』

 後は短剣しか持ってないけど……。

「借りるよ」

 アレクさんが私の背からリュヌリアンを抜いて、それを陛下に渡す。

 ……リュヌリアンを片手で持てるんだ。

 陛下もアレクさんみたいに強い人なんだろうな。

 陛下が、剣先を上に向けてリュヌリアンを持つ。

「これより、騎士の叙勲の儀を行う」

「はい」

 このまま跪いていれば良いのかな?

「リリーシア。礼節を重んじ、正義と寛大な心によって行動せよ。裏切りと欺きを恥とし、自由、平等、博愛の精神の元、同胞を守る盾となり、敵に臆することなく、気高く勇ましくあれ。ラングリオン王家と剣花の紋章に忠誠を」

 これが、騎士の心得。

 陛下がリュヌリアンを下ろす。

『その刃に口づけをするんだ』

 リュヌリアンの刃にキスをする。

『次。俺の言葉を復唱しろ。……ラングリオン王家と剣花の紋章に忠誠を』

「ラングリオン王家と剣花の紋章に忠誠を」

「では、リリーシア。騎士となる上での誇りを示せ」

『良く聞けよ。……正義、武勇、高潔、誠実、慈愛、礼節、寛容。これが騎士が示すべき誇りだ。好きなのを選んで、誓いますって言うんだ』

 騎士が示す誇り……。

 なんだか難しい。

 この中で私が自信が持てるのって……。

「武勇を、誓います」

『うん。リリーっぽいんじゃない?』

「誓いを受け入れよう。騎士としての誇りを忘れず、己の誓いに忠実であれ」

 隣に居たアレクさんが私の髪を持ち上げる。

「?」

 リュヌリアンの刃の腹が、肩に当たる。

『リリーの髪が斬れないよう、持っててくれてるみたいだよ』

 リュヌリアンの刃は、私の首に当たりそうな位置に置かれている。少し冷やりとするけど、これが忠誠を誓った相手への信頼の証なのかもしれない。

「ラングリオン一等騎士、アントワーヌの名の元に、リリーシアを名誉騎士に叙する」

 陛下が剣を引く。

「立て」

『立って、剣を受け取って、礼』

 立ち上がって陛下からリュヌリアンを受け取って、頭を下げる。

『剣を鞘に納めろ』

 陛下に当たらないかな。

 一歩引いて、リュヌリアンを背中の鞘に納める。

「アレクシス、勲章を」

「はい」

 アレクさんが私の服に勲章をつける。

 これが名誉騎士の勲章なのかな。

 隊長さんも持ってるんだよね。

「以上で騎士の叙勲の儀を終了する」

「はい」

「おめでとう、リリーシア」

 アレクさんが微笑む。

「はい。ありがとうございます」


 ※


 謁見の間から控えの間に戻って、深呼吸をする。

 ……終わった。

『まぁまぁの出来じゃねーか?』

「カート」

『なんでついて来たの?』

『すぐにアレクが来るから、ちょっと待ってろよ』

「アレクさんが?」

 謁見の間の扉が開いて、アレクさんとマリユス、ローグバルさんが来る。

「お疲れ様。無事にラングリオンの騎士になったね」

「はい」

「近衛騎士の叙勲は、私の部屋でやろう」

「皇太子の棟ですか?」

「今は別の部屋を使ってるんだ。他の皆も紹介したいから、一緒に行こう」

「はい」

 アレクさんの後に続いて、謁見の間の控えの間を出る。


「紹介と言っても、リリーシアは私の従者には一通り会っているのかな」

 全員会ってる?

「あ。会ったけど名前の分からない人が居ます」

「誰かな」

「私にマントを貸してくれた女の人……。年始に、マリーに会いに王都に来てたリック王子を迎えに来た人です」

 アレクさんが口元に指を当てて、苦笑する。

「あの子か」

 まだ、ちゃんと挨拶したことないよね。

「なんて名前の人ですか?」

「ローグ、マリユス、心当たりはあるかい」

「近衛騎士ですか?」

「近衛騎士は皆会ってます。マリーも近衛騎士じゃないって言ってたから……」

「メイドでも、秘書官のお二人でもないんですよね?」

「はい」

 あれ?マリユスもローグバルさんも知らない?

『リリー、顔見てないの?』

「顔は一瞬しか見てないから。ストレートの綺麗な金髪で、碧眼だったことは覚えてるんだけど……。背は私より高かったかな」

「一人、心当たりがあります」

「ローグはわかったようだね。マリユスは?」

「申し訳ありません。僕には全く……」

 マリユスの知らない人?

「早く会えたら良いね」

「アレクさんの従者じゃないんですか?」

「そうとも言えるし、違うとも言えるかな」

「?」

 


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