90 その手をとる
バロンスの十八日。
キャロルと一緒に、ブリジットさんの買い物を手伝う為に、街に出る。
隊長さんの家は今、大所帯になっている。
私たちと、フランカさんとファル、そして、もう一人、女の子が一緒に住むことになったのだ。名前はプリュヴィエ。貴族の養女らしいけど、いろいろ事情があって、隊長さんの家に預けられることになったらしい。
ピアノが好きな女の子で、近所の貴族の家に習いに行くのが日課だ。
ブリジットさんは、子供が好きだから嬉しいと喜んでいたけれど。手伝えることは、なるべく手伝った方が良いよね。
セントラルを抜けて、三人でイーストストリートに出ると、昨日と同じ場所で揉めている人たちが居た。
今日は三番隊も居る。
「みなさん、避けて下さい。馬車は一台ずつ通しますから、順番を待ってください!」
『馬車が詰まってるみたいだね』
本当だ。
「大型の馬車は通れません!迂回路を案内しますから、こちらへ!」
「冗談じゃない。裏道なんて狭い場所を通れるか」
「このままじゃ資材を運べない」
「この木をどうにかしてくれ」
「大樹は切りません!これは王都を守護しているんです!」
「こんなところに人だかりが出来てたら、よけい邪魔だぞ!早く向こうに行ってくれ!」
急に、馬が大きく嘶く声がしたかと思うと、悲鳴が上がる。
『危ないなぁ。向こうで荷馬車を引いてる馬が暴れてる。早く裏道に行こう』
「キャロル、ブリジットさん、逃げた方が良いかも」
『うわ。御者が落ちた』
「誰か!馬車には子供が乗ってるんだ!」
子供?
「止めなくちゃ!」
「リリー!」
「リリーシア様!」
『馬鹿!どうやって止める気だよ!』
どうやって?
どうしよう。馬の手綱をつかめればどうにかなるのかな。
暴れる馬車に向かおうとしたところで。
「!」
突然地面から生えた蔦が、走る馬と馬車に絡みつく。
『今の、リリーの魔法?』
「違う。私じゃない」
動きを止めた馬と馬車に絡んでいた蔦が解けると、三番隊の人が走って行って、中の人を助け出す。
良かった。無事みたいだ。
でも、植物ってことは……。
大樹の方を見ると、さっきよりも膨らんだ幹の洞の中に女の人が居る。
「ヴィエルジュ。あなたが助けてくれたの?」
「お前は、契約の証を持っているだろう」
「契約の証?」
それって……。
首から下げている剣花の紋章を出す。
「これのこと?」
「その持ち主を守るのも私の役目だ」
剣花の紋章の中央に輝く石は、ヴィエルジュとの契約の証?
本当に私が持ってて良いのかな。これ。
『リリーが飛び出したから助けてくれたの?良く見てたね』
「大樹はすべて私の体。大抵のことはわかる」
もしかして、ここで揉めてた話しも全部聞いてたのかな。
「あの、この大樹って別の場所に動かせませんか?」
「邪魔ならば斬り倒すが良い」
「えっ?切って良いの?」
「木を切り、加工することは、人間が当たり前のようにやることだろう」
そうだけど……。
「あの、切っちゃったら、何かあった時に……」
「再び同じ場所に木を生やせば良いだけだ」
いくらでも生やせるってこと?
『それ、根本的な解決になってないよね』
……そうだよね。
「大樹を生やすの、別の場所じゃだめですか?」
「構わないが。一つの大樹で守護できる範囲は、オルロワール家やノイシュヴァイン家の敷地程。それに見合う場所を用意することだ」
『結構広い範囲だね』
「どこが良いのかな……」
見る限り、イーストストリート沿いで、この大樹が生やせそうな場所はない。アリス礼拝堂前の広場には、もう大樹があったよね。
「必要なら、いくらでも増やすことも可能だぞ」
『何それ。王都を森にする気?』
「森は困るかな……」
『リリー。まずは、どこにどれだけ生えてるのか調べないと』
「どこに生えてるか?」
「リリーシア様」
呼ばれて、振り返る。
「ブリジットさん」
「オルロワール家に御相談されてはいかがでしょう。王都の復旧作業の指揮をされておりますから、大樹の位置にもお詳しいのでは?」
「そっか。それじゃあ……」
「リリーシア、来い」
「え?」
ヴィエルジュが私に手を差し伸べる。
「オルロワール家まで連れて行ってやろう」
「連れて行くって……」
手を引かれて、木の洞に入る。
もしかして、ここから?
「キャロル、ブリジットさん、行って来るね」
「いってらっしゃい、リリー」
「いってらっしゃいませ」
二人に手を振ると、木の洞が閉じて真っ暗になる。
この感覚……。
これって、転移の魔法陣と同じ?
もう一度、木の洞が開く。
「着いたぞ。オルロワール家の敷地だ」
目の前には大きな屋敷。
敷地のどの辺りなんだろう。
屋敷の窓の中に居るのは……。
「エル?」
どうしてオルロワール家に?
アレクさんと一緒にお城に居るんじゃなかったの?
『たくさん居るね』
マリー、アリシアと、メルとフィオも一緒だ。
手を振ると、中に居た皆が手を振ってくれて、窓辺に近づいて来たマリーが窓を開く。
「誰か!リリーを玄関まで案内して頂戴!」
木から降りると、マリーに呼ばれた兵士さんが私の傍に来る。
「御案内いたします」
「ありがとうございます。あの、ヴィエルジュ、少し待っていてもらえる?」
「いつでも呼ぶと良い」
ヴィエルジュが木の洞を閉める。
木の幹が膨らんでる間は、ここに居るってことなのかな。
兵士さんにオルロワール家の玄関まで案内してもらって、屋敷の扉を開く。
「ようこそ、リリーシア様」
「こんにちは、ロジーヌさん」
ロジーヌさんが頭を下げる。
「マリアンヌ様の元へ御案内いたします」
「あ、違うんです。マリーに会いに来たわけじゃなくて、オルロワール家で王都の復旧作業を行ってるって聞いて……」
「復旧作業は、当家で主導しておりますが……。何か急を要することでもございましたか?」
「メインストリートにある大樹を、ヴィエルジュが移動させてくれるそうなんです。でも、どこに移動させれば良いかわからなくて」
「かしこまりました。レオナール様の元へ御案内いたします」
レオナールさん。マリーの下のお兄さんだよね。
ロジーヌさんに案内されて、部屋に入る。
「リリーシア様をお連れいたしました」
「こんにちは」
「こんにちは、リリーシア。どうしたのかな」
「メインストリートの大樹を移動して頂けるそうです。詳細はリリーシア様からご確認ください」
「それはありがたいね。ロジーヌは仕事に戻って良いよ」
「かしこまりました」
ロジーヌさんが頭を下げて出て行く。
「具体的に、どこの大樹を移動してもらえるのかな」
「頼めば全部、できそうです」
「それは、君がヴィエルジュ様に頼んだら、ということかな」
『ヴィエルジュの話しだと、剣花の紋章を持ってないとだめみたいだよね』
「はい」
「わかった。こちらで検討してみよう。それまで君はメルリシア姫の所でのんびりすると良い。案内するから、ついておいで」
レオナールさんと一緒に部屋を出る。
「いくつか聞きたいことがあるのだけど」
「はい」
「一つの大樹が、どれぐらいの範囲をカバーできるかは聞いているかい」
「オルロワール家の敷地ぐらいって言ってました」
「大樹を増やすことは可能かな」
「いくらでも大丈夫みたいです」
「ありがとう」
『そういえば、本当に移動なの?ヴィエルジュは、邪魔なら斬れって言ってなかった?』
「あっ」
「どうかした?」
「あの……。もしかしたら、移動じゃないかもしれないです。すでに生えてる木は、切らないといけないかも……」
「じゃあ、切った大樹の移動と保管も考えておかなければね」
切るのも大変そうだけど。あれを運ぶのも相当大変そうだよね。
『あ、エルとマリーだ』
目の前から二人が歩いて来る。
『何?あれ。喧嘩中?』
揉めてるみたいだ。
「エル!マリー!」
「リリー。迎えに来たわ」
マリーがにっこりほほ笑む。
「ありがとう」
迎えに来てくれたんだ。
……あれ?今は怒ってない?
「エル、久しぶりだね」
「久しぶり、レオナール」
エルってオルロワール家の人、全員と知り合いなのかな。
「なんでリリーの案内なんてしてるんだ?」
「リリーシアは、僕に用があって来たんだよ。リリーシアが頼めば、ヴィエルジュ様が大樹の移動に協力して下さるみたいだからね」
「大樹の移動?」
「エルは見ていないのかな。メインストリートのあちこちに大樹が生えているんだ」
「は?あんな大きな木が道を塞いでたら、邪魔で仕方がないだろ。良く、今まで切られなかったな」
……切っちゃうの?エル。
「切らないように要請はしていたけれど。時間の問題だっただろうね」
『切ろうとしてた人と残そうとしてた人で、ずっと揉めてたよね』
王都を守ってくれた木を切るなんて気が引けるけど。
ヴィエルジュは切って良いって言ってたよね。
「マリー、こちらの準備が終わるまで、リリーシアを頼んだよ」
「はい。……リリー、メルリシア姫のところに行きましょう」
「うん」
「俺はヴィエルジュのところに行ってくる」
え?行っちゃうの?
「エル」
「ん?」
「あの……。今度はいつ帰って来るの?」
剣術大会は終わったけど……。
「また、しばらく忙しそうなんだ」
……そうだよね。
全然、日常に戻れるような雰囲気じゃない。
「わかった。無理しないでね」
「あぁ」
「リリー、行くわよ」
「うん」
いつ、一緒にケーキが食べられるのかな……。
「リリーも、少しは怒っても良いと思うけれど」
「え?」
「勝手すぎるじゃない。エルって」
怒ってる?
「マリー、エルと喧嘩してるの?」
「喧嘩?」
「さっき、二人が歩いてる時にそう見えたから」
「……あれね。今度、エルと一緒にクエスタニアに行くのよ。その打ち合わせをしていただけ」
『打ち合わせには見えなかったけど』
エル、また旅に出るんだ。
「クエスタニアって、どれぐらい遠いの?」
「陸路しか使えない場所だから、普通に行けばかなり時間がかかる場所よ。でも、移動には転移の魔法陣を使う予定だから、すぐに帰って来るわ」
「そうなんだ」
良かった。
また、ひと月以上会えなかったらどうしようかと……。
「リリーは、自分を置いて、ふらふらしてるような相手を許せるの?」
「一緒に連れて行って欲しいけど……。寂しくなったら追いかけて良いって言ってくれたから、大丈夫」
「追いかける?そんなの女の子のすることじゃないわ」
「そうかな」
「エルって本当にリリーのこと大切にしてるのかしら」
「私は、大切にされてると思う」
『エルはリリーのことが大事だよ』
『そうね』
「どうして?」
「それを教えてくれたのはマリーだよね?」
「私?」
「エルの周りの人は、みんなエルが私のこと好きだって言ってくれたよ」
「……そうだったわね」
「エルは一緒に居ても居なくても、私のこと想ってくれてる。教えてくれないこともたくさんあるし、他の人みたいに信頼してもらえないこともたくさんあるけど、エルが私に対して一生懸命でいてくれるのはわかるから」
だから、危険が伴う時には連れて行ってくれないんだってことも。
……守られたくないのに。
「そうね。それはすごく正しいわ」
マリーがため息を吐く。
「リリーは強いわ」
……マリー?
※
「リリー!会いたかったよ!」
走って来たメルを抱きしめる。
「メル。元気にしてた?」
「うんっ」
「エルロックはどうしたんだ?」
「ヴィエルジュに会いに行くって言ってたよ」
「そうか。相変わらず忙しい奴だな」
『本当にね』
「勉強してたの?」
本棚の並ぶ部屋の中央、大きな机の上には本やノートが置いてある。
「そんなところ。リリーの話しをしてたら、リリーが来てくれたから、びっくりしちゃった」
「私の話し?」
「リリーのガレットデリュヌが食べたいって」
「良いよ。今度作って来るね」
「ありがとう!」
『今度って。メルはもう帰らなきゃいけないんじゃないの?』
「そっか。剣術大会が終わったから……」
「もうしばらく居られることになったんだよ」
「オービュミル大陸会議が招集されるからな」
オービュミル条約加盟国が集まって行う会議だっけ?
『色々あったからね。招集をかけるのは当たり前か』
盟主のラングリオンが、会議の招集を行うんだっけ。
「メルリシア姫とアリシアは、グラシアルの代表として参加予定なの」
『お姫様やってるねー』
「グラシアルからは、亜精霊の現状と、神の台座の観測状況を報告する予定だよ。大陸会議が始まるまでには資料が届く予定だ」
「亜精霊の現状って?」
「亜精霊の活動が活発化しているみたいなのよ。外は以前より危険な状況になってるわ。安全な街道沿いでも亜精霊の報告があるみたいなの」
イリスと顔を見合わせる。
イーストエンドのことと言い、やっぱり変なんだ。
あの人の影響……?
「神の台座の観測状況って?」
「紫竜フォルテは、氷の大精霊パスカルが、太古に封印したドラゴンではないかと言われている。パスカルが消滅し、神の台座にも何らかの変化が起きている可能性が高いんだ」
―あれは、神の台座に封印されてたドラゴンらしい。
―パスカルの力が消えて、神の台座の氷が溶けて出て来たんだと思うけど。
そういえば、エルも言ってたよね。
「他にも、封印されているものがなければ良いが」
封印されてるもの……。
あの人って、どこから来たのかな。
フォルテから出た神の力を吸収したみたいだけど。あの人自身がフォルテの体の中から出て来たわけじゃないよね?
だったら、神の台座から来た……?
「ねーぇ。暗い話しばっかりじゃつまんないよ。……そうだ!リリー、剣術大会優勝おめでとう!」
「ありがとう」
でも……。
「優勝したと言うのに、嬉しくなさそうだな」
「だって、あんなの優勝したなんて言えないから……」
決勝戦は不戦勝だったから。
「そんなことないよ。リリー、とってもかっこ良かったよ!」
「そうね。エルよりも良い戦いをしていたんじゃないかしら」
「でも……」
「優勝者が優勝を誇りに思わなければ、敗者が浮かばれないだろう。ルールに則って優勝したんだ。胸を張ると良い」
剣術大会で戦ってきた人たち。
……皆、強くて礼儀正しくて、素敵な人ばかりだったよね。
「うん。……ありがとう。皆」
私、ラングリオンの剣術大会で優勝したんだ。
エルとは戦えなかったけれど、優勝を狙えるぐらい強い人たちとたくさん戦えて、その人たちに勝てたのは確か。
「あら。何の音かしら」
窓を見ると、外から窓ガラスをノックしている手が見える。
あれって、エル?
マリーが窓を開く。
「エルじゃない。何か用?……バイオリン?今すぐ必要なの?」
マリーが振り返る。
「誰か!バイオリンを持って来てちょうだい」
「かしこまりました」
すぐにメイドさんの一人が部屋から出て行った。
エル、バイオリンを弾くの?
「楽団を用意させましょうか?」
「……楽団っ?あいつ、何をする気なの?」
『さぁ?』
「手配するわ。……でも、ヴィエルジュ様がいらっしゃる時じゃないと」
扉が開いて、バイオリンケースを持ったメイドさんが戻ってくる。
もう持って来たんだ。
「そうなの?」
「マリアンヌ様、バイオリンをお持ちいたしました」
「ありがとう」
バイオリンの保管場所って、この部屋の近くなのかな。
「エル、これで良い?」
マリーが、メイドさんから受け取ったバイオリンケースを窓の外のエルに渡す。
「リリー!エルが呼んでるわ」
窓辺に行って、窓からエルを見下ろす。
こういう位置からエルを見ることって、あんまりないかも。
ちょっと新鮮。
「何?」
「今日は帰るよ」
「本当?」
帰って来てくれるんだ!
「あぁ。待ってて」
「うん」
また後で。
「マリー。何をするつもりなの?あいつ」
「ヴィエルジュ様に演奏するみたい。ヴィエルジュ様は音楽がお好きらしいの」
そうなんだ。
「近い内に楽団を呼んで演奏するわ。王都を守ってくださった方だものね」
エルがヴィエルジュの前でバイオリンを奏でる。
綺麗な音色……。
※
「あの……。王都の中で、馬なんて乗って良いんですか?」
「許可は取ってあるから平気だよ」
「私、人が居る場所で上手く乗れる自信がないんですけど……」
「歩いていたら一日じゃ終わらないよ。ついておいで」
「……はい」
大丈夫かな。
レオナールさんの後に続いて、低速で馬を走らせる。
当たり前のことなのだけど。ヴィエルジュは地図を見ただけで大樹を生やす場所を特定することは不可能らしい。
生やして欲しい場所に行って呼んでくれたら、そこに行くって言ってくれたのだけど。それはやっぱり、剣花の紋章を持つ私じゃないと応えてくれないらしくて。
こうして、レオナールさんと一緒に大樹を生やす代替地巡りに行くことになったのだ。
『あ。あれって、ムラサメじゃない?』
「本当だ」
ムラサメさんが大樹を一本斬り倒すと、周囲から歓声が上がる。
『すごいね。あ、あっちに居るのはペレアスじゃない?』
剣術大会の初戦で戦った人だ。
ペレアスさんも大樹を斬ってる。
「王都に留まってくれている大会参加者に、大樹の伐採を頼んでいるんだよ。面白いイベントにもなるだろうからね」
大樹が斬られると、周囲からまた歓声が上がった。
『すごいね。あんなに太い大樹を、あっさり斬っちゃうなんて』
みんな、すごい人たちだもんね。
「さて、ここからは馬を置いて脇道に入ろう。最初にヴィエルジュ様に頼む場所は、少し狭い路地を抜けた場所なんだ」
「はい」
私も、出来ることをやらなくちゃ。
※
一通りヴィエルジュに頼んでオルロワール家に戻る。
……お腹すいたな。
エル、もう帰ってるのかな。
今って何時だろう。
礼拝堂の鐘が鳴っていたから、日暮れの時間だと思うけど。
天気が悪くて、時間が全然わからない。
馬をオルロワール家の兵士さんに預けて、レオナールさんと一緒に歩く。
「ありがとう、リリーシア。助かったよ」
「いえ。私、ヴィエルジュを呼んだだけなので……」
「大陸会議が始まるまでには、なんとかしたい問題だったからね。すごく助かったよ」
『あー。確かに、大会参加者が馬車で来て、メインストリートを使えなかったら大変だもんね』
そっか。
偉い人がたくさん来るんだもんね。
「それじゃあ、私……」
「少し寄って行くと良い」
「え?でも……」
レオナールさんが屋敷の玄関扉を開く。
「おかえりなさいませ。レオナール様、リリーシア様」
「ただいま、ロジーヌ。……まだ居るのかな」
「はい」
「きっと、すぐにここに来るんじゃないかな。リリーシア、今日はありがとう。では、またね」
レオナールさんが行ってしまう。
えっと……?
「リリーシア様。アニエス様より、伝言を承っております。明日はエルロック様とご一緒に、王城にお越しくださいませ」
明日?
「わかった。ありがとうございます」
何かあるのかな。
あれ……?
薄暗い廊下の、その先に。見慣れた金色の光が見える。
「エル?」
「はい。本日は、終日アルベール様のお仕事の手伝いをして頂いていたのです」
そうだったんだ。
「おかえり、リリー」
エルが差しのべた手を繋ぐ。
「ただいま、エル」
エルが微笑む。
あぁ、幸せ。
ご褒美をもらったみたい。




