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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
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05 光を求めて

「ルイスとキャロルちゃんを保護しなくちゃ」

「そうね」

「待って、エルのところに行きたい」

「だめぇ」

「足手まといよ」

 そうだけど……。

「リリーシア!」

 ルイスとジニーが走って来る。

「早くセントラルに避難しよう。守備隊が誘導してる」

「キャロルは?」

「裏口から、聖歌隊の皆と一緒に避難してるはずだよ。僕たちも急ごう」

「でも、エルが礼拝堂に入って行ったの。きっと、上に……」

 何かが割れるような大きな音が鳴る。

 見上げると、空中の氷の盾に大きな亀裂が入っている。そして、盾が砕けた。

「あ……」

 砕けた破片がきらきらと宙に舞って消える。

「そこで何をしている。早く避難しろ」

「レティシアさん?」

 王都魔法部隊の隊長さんだ。

「手伝うわ」

「私もぉ。ルイス、ジニー。リリーを、お願いねぇ」

「わかった」

「任せて下さい」

「えっ、」

 ルイスとジニーに引っ張られて、走る。

「待って、エルが……」

 強い明かりに照らされて礼拝堂を見上げると、礼拝堂の上から炎の魔法が放たれているのが見える。

 あれは、エルの魔法だ。

「エルなら大丈夫だよ」

「早く安全な場所に逃げましょう」

 ルイスとジニーと一緒に、人の流れに沿って走る。

 ……エル。

 

 中央広場は、イーストから逃げて来た人で溢れている。守備隊がセントラルにある避難場所に誘導しているけど、皆、ここで立ち止まってドラゴンを見てるみたいだ。

「ルイス、リリーシアさん。私、ちょっと行ってきます」

「行くって、どこへ?」

「研究所の皆が、防御魔法の準備をしてるみたいなので、加勢して来ます」

「わかった。気を付けてね」

「うん」

 走って行くジニーを見送る。

 こんな時なのに。

 私、本当に何もできない……。

「リリーシア。キャロルを探しに行こう」

「うん」

 

「飛んだぞ!」

 

「え?」

 ドラゴンが空高く飛翔する。

 そして、ドラゴンが宙返りした瞬間、その背に見慣れた金色の光が見えた。

「エル……?」

「え?」

「エルが、ドラゴンに乗ってる」

「嘘」

 ドラゴンは、空の高いところで暴れるような飛び方を繰り返す。

 エルを振り落とそうとしてる?

 どうしよう。ここからじゃ何もできない。

 助けに行けない。

 暴れたドラゴンは、今度は急降下を始めた。

 その背で、別の光が煌めく。

 あれは、まさか……?

 ドラゴンの咆哮が上がる。

 苦痛に悶える叫び声。今の攻撃が入ったんだ。

 ……また、エルが一人で戦ってる。

 どうして。

 どうして、いつも一人で戦うの。

 もう一度、ドラゴンが悲鳴を上げる。

 そして。

「あっ!」

 暴れたドラゴンの背から、金色の光が落ちた。

 ……ように見えたけど、途中で止まった。

 良かった。

 何かに捕まってるみたいだ。

 胸を撫で下ろしたのも束の間。

 すぐに、周囲から悲鳴が上がる。

「落ちた!」

「降ってくるぞ!」

 ドラゴンが、落下する……!

「放て!」

 大きな掛け声が上がると、中央広場が緑色の光で覆われた。

「魔法の盾……?」

 この色。大地の盾だ。

 歓声が上がったけど、魔法の盾を通して見えた景色は……。

「だめ……」

 大きく羽を広げてブレスの予備動作をするドラゴンと、落下する金色の光。

 そのエルに向かって、ドラゴンがブレスを吐く。

「エル!」

 上空で、金色の光と共に何かが煌めいた。

 

 斬撃はドラゴンのブレスを切り裂き、すべてを氷結させた。

 

 凍りついたブレスが散り、細氷のように輝く。

 あれは、間違いなくリュヌリアン。

 エルがリュヌリアンを使ってる。

 落下し続けるエルの傍を、矢のような光が通り過ぎた。

 ……違う。

 

 金色に輝く大剣。

 

 魔法の剣がドラゴンを貫く。

 ドラゴンは苦痛に悶えるように声を上げながら上昇していった。

 そして、夜空に花火が上がる。

「え?」

 花火?

 エル。

 エルは……?

 見つけた。

「ルイス、ごめん」

「え?」

 皆からは見えないんだ。

 でも、私にはわかる。

「キャロルをお願い。私、エルのところに行く」

「リリーシア!」

 金色の光が落ちていく方向は、お城の方だ。

 急がなきゃ。

 

 人が多過ぎて、上手く前に進めない。

「ごめんなさい」

 ぶつかった人に謝りながら、城の方を目指す。

 走って、走って、はしって……。

 

「こら、ここから先は……」

 誰かが何か言った気がするけど、構わず走る。

 

「止まれ!」

 妨害しようとする人の剣を避け、盾を避けて、走る。

 

 エル。

 お願い。

 無事でいて。

 

 遠くで、何かが水に落ちる音がした。

 

 まさか、水に落ちた?

 エルの光は……。

 見当たらない。

 きっと、城の堀に落ちたんだ。

「止まれ!」

 腕を掴まれる。

「離せ!」

 私の腕を掴む手をひねり、相手を蹴って走る。

 横一列に並んだ人の壁に向かって跳躍し、盾に手をついて、宙返りしながら飛び越える。

 痛っ……。

 地面に手をついた瞬間、今朝、包丁で切った指の傷が開いた。

 けど、これぐらいなら無視しても平気。

 飛び越えた先、剣を構える人の群れに隙間を見つけて、そこに滑り込むようにして、くぐる。

 誰かに後ろから髪を引かれた。

 引かれた方に側転し、地面に手を付いて相手を蹴り上げる。

 急いでるのに!

 ……と。

 急に、行く手を塞いでいた人たちが道を空けた。

 その先に居たのは。

「マリー!」

 走って、マリーのところへ行く。

「リリー。あなた、本当に無茶苦茶ね」

「エルは?」

「落ちつきなさい」

「どこ?」

「落ちついて」

 どうして、誰も探してないの?

 堀に向かって走ろうとすると、マリーに腕を引かれる。

「落ちつきなさい!」

 そして、頬をぶたれた。

 マリーが私を睨む。

『ごめんなさいね、リリー。でも、落ちついて周りを見て』

 ナインシェ。

 周りって……?

「リリーシアちゃん、良くここに来れたな」

「カミーユさん?」

「女の子一人止められないなんて、一番隊の面目丸潰れね」

「一番隊?」

 何の話し?

 一番隊って、王都守備隊一番隊?

 確かセントラルを守ってる……。

「本当に、困ったお嬢さんだ」

 振り返ると、騎士の出で立ちをした人が立っている。

「クロフト」

「兄貴」

「え?」

 カミーユさんの、お兄さん?

 確かに、カミーユさんと顔が似てる気がするけど……。

「皆、花火を止めてくれ」

 周囲の人が返事をして、花火が止む。

「皆、カウントダウンを楽しんでいるかい」

 アレクさんの声だ。

 マリーたちが見上げている方向、城門の上を見上げると、アレクさんが居た。

「せっかくの楽しみに邪魔が入ってしまったね。けれど、ドラゴンの来訪など、騎士の国たるラングリオンにとっては些細なことだろう。恐れる必要はない。さぁ。私からのプレゼントを受け取って欲しい」

 アレクさんがそう言うと、さっきドラゴンを貫いた金色の剣が夜空に現れる。

 あれ、アレクさんの魔法だったんだ。

 金色の剣から、今度は花が咲く。

 その美しい光景に、遠くから歓声が上がる。

「剣花の紋章よ」

 それって、ラングリオンの王家の紋章だ。

 剣と花は、今度は蝶に姿を変えて夜空に舞う。

「皆、祭りの続きを楽しもう」

 思わず見惚れてしまう光景。

 この人の言葉は、王都の人たちの気持ちを一気に変える。

 王族として人を惹きつけるだけの魅力と才能を持った人。

 周囲からは歓声が上がり、ドラゴンの襲撃を受けた直後の場所とは思えないほど、一瞬で王都の活気が戻った。

 そして、花火が上がる。

「さ、俺たちは仕事の続きをするか」

「そうね」

「待って、エルは?」

「何かが堀に落ちたみたいね」

 やっぱり、堀に落ちたんだ。

「助けなきゃ」

「その必要はないわ」

「どうして?マリー」

「アレクシス様が探せとおっしゃっていないからよ」

「え……?」

 どうして?

「マリー、エルを探したいの」

「無理よ。今は夜だし、探すのは難しいわ」

「カミーユさん、」

「いいかい、リリーシアちゃん。ここは王都だ」

 王都のやり方に従えと言うの?

 アレクさんの言葉がそんなに絶対?

「……探す」

「え?リリー、」

 マリーとカミーユさんの脇を抜けて走る。

「誰か、止めて!」

 暗い堀には、何も浮かんでいない。

 エルの光も見えない。

 水中なら見えるかも。

「リリー!」

「リリーシア!」

 堀の中に飛び込む。

 そして、目を凝らす。

 ……見えない。

 エル、どこに居るの?

 堀に落ちたはずなのに。

 一度水面に戻って、もう一度水の中に潜る。

 居ない。

 見えない。

 どこにも、エルの光がない。

 どうして?

 堀に落ちたんじゃないの?

 それとも、魔力を使い果たして見えない?

 そんな。

 それって……。

『リリー』

 メリブが私の目の前に現れる。

 マリーと契約している水の精霊だ。

『エルは、ここに居ないわ』

 居ない?

 居ないってどういうこと?

『だから、早く水の上に出て』

 泳いで水面に出る。

「居たわ」

 堀が明るい。

 光の精霊たちが、明かりを灯してるんだ。

 誰かが風の魔法のロープで私を縛って、上に引き上げた。

「泳げるのね、リリー」

「マリー、エルはどこ?」

「……いらっしゃい」

 マリーが、着ていたマントを私にかける。

「カミーユ、後は任せたわよ」

「あぁ。リリーシアちゃんを頼むぜ」

「えぇ」

「お送りします」

 クロフトさん。

「お願いするわ」

 マリーに肩を抱かれながら、クロフトさんについて歩く。

「リリーシアさん」

「はい」

「あなたが行ったことは、一番隊への業務妨害。以後、お気を付け下さい」

 そういえば。無我夢中で走ってたから、何をしたのか覚えてない。

「何言ってるのよ。女の子一人の侵入も防げなかった癖に」

「我々の任務はセントラルの警備。武器も持たない市民を攻撃することではありません。彼女がエルロックを追っていたのは明らかです。ご相談いただければ、城門前までご案内いたしましたが」

 あぁ。私……。

 一番隊が警備していた場所を突っ切って来ちゃったんだ……。

「すみませんでした」

「ご理解頂き、感謝致します」

 私がしたことって、捕まってもおかしくないことだったよね……。

「マリー。エルは……」

「情報を待ちましょう」

 情報?

「エルがどこに居るかわからないってこと?」

「今はわからないわ」

「エルは……」

「心配しなくても、エルは無事よ。アレクシス様がエルを死なせるなんてあり得ないもの」

 その自信はどこから来るんだろう。

 アレクさんは、確かにエルを気にかけているし、エルを守る理由があるとは思うのだけど……。


「リリーシア!」

「リリー!」

「ルイス、キャロル。……それに、隊長さん?」

 ルイスとキャロルが私の方に走ってくる。

 隊長さん、二人を連れて来てくれたんだ。

「悪いな、クロフト。リリーシアが迷惑をかけた」

「市民を守るのは守備隊の役目だ。問題はない。ドラゴンによる被害は?」

「今のところ二次被害の報告ばかりだ」

「礼拝堂は使えるのか」

「怪我人の救護には問題なく使えるぜ。魔法部隊の連中が修復してくれたからな」

「それぐらい働いてもらわなければ困る」

「相変わらず魔法使いを目の仇にしてるな」

 隊長さんが笑う。

「不要な部隊だ」

 クロフトさんは、魔法部隊に反対なんだ。

「セントラルの警備に戻って良いぜ。マリーとリリーシアは俺が預かろう」

「了解した」

「送ってくれて、ありがとう。クロフト」

「あの……。ご迷惑をおかけしました」

 頭を下げる。

「いいえ。お怪我がなくて何よりです」

 怪我の心配までされてしまった。

 本当に、申し訳ないことばかり。

「では。失礼致します」

 クロフトさんが踵を返して歩いて行く。

「じゃあ、シャルロの家にでも行くか」

「え?」

「違うのか?」

「シャルロの家に行きましょう」

 皆で、隊長さんについて行く。

「リリー、どうしてずぶ濡れなの?」

「堀に飛び込んだのよ」

「相変わらず無茶なことをするね」

「だって……。エルが堀に落ちたと思ったから」

「エルは落ちてないわ。エルが消えた瞬間、岩が降って来たのよ。たぶん、大地の魔法ね」

 それが、水の音の正体?

「エルが消えたって、どういうこと?」

「私の目からは、空中で消えたように見えたわ。闇の魔法じゃないわね。何か魔法陣を描いていたもの」

 魔方陣を使って消えた?

 それって、転移の魔法陣を使ったってこと?

 でも、あれを使うには色んな条件が必要なはずだ。

 

 転移の魔法陣は、入口と出口が必要な魔法陣。そして、入口と出口は安定的な魔力で繋がっていなければならない。

 グラシアルでは、強大な力を持つ女王の魔力によって、転移の魔法陣の条件を実現していた。魔法使いたちは、女王が張り巡らせた魔力の道を借りて、転移を可能にしていたのだ。

 今は、女王が崩御したから、転移の魔法陣は使えなくなっているはずだけど。

 

 エルは、その原理を理解していて、自分の魔力で転移の魔法陣を作ることができる。

 でも、魔方陣の利用には、入口と出口が必要だ。

 使おうと思えば誰にでも使えてしまう転移の魔法陣の出口を、何の防御能力も持たないような場所に描きっばなしにすることは危険だと言っていたから、出口なんて作ってないはずだ。

 だから、エルが空中で転移の魔法陣の入口を描いたところで、出られる出口なんてない。

 じゃあ、エルが消えたのは何故?

 一体、どこに転移したの?

 


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