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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
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87 月の絆

「あれ、アンシェラートなの?あれが出てきたら……」

「心配するな。神の問題は神に任せておけば良いんだ」

 レイリスが私を地上に降ろす。


「おかしいな。先回りされている。ポラリスの奴。今度は誰の味方をしているんだ」


 ポラリス?

「リリー。封印解除の呪文は絶対に使うな。俺の力で封印している限り、あいつに干渉されることはない。わかったか?」

 それ、隊長さんにも言われたよね。

「はい」

「封印した状態でも、リリーが願えばアレクと俺の契約の解除が出来るはずだ。アレクが気を失ったらアレクの菫の瞳を抉れ」

「え?」

「頼んだぜ」

 レイリスがエルとアレクさんの方に飛んでいく。

 アレクさんの菫の瞳はレイリスとの……。


「月の大精霊。あれを止めるのはお前の役割だろう」

「なんで俺がお前の言うこと聞かなきゃならねーんだよ」

「残念ながら、今の私にはあれを止めることはできない」

「馬鹿だな。封印の棺を回収し損ねたのか」

「一つぐらいは竜の山に隠していると思ったのだが。当てが外れたな」

「自業自得だ。とっととアンシェラートに飲み込まれて来い」

「駆け引きをしている暇があるのか?お前にも世界が終わったら困る理由があるのだろう」


―アレクと俺の契約解除の方法を教えてやろうか。

 どうして、アレクさんと契約解除しなければいけないの?

 レイリスがエルからイリデッセンスを貰って、空を飛ぶ。

 空には、ルーベルとニゲルが飛んでる。

 ドラゴンが居るってことは、アンシェラートが出て来た場所って竜の山なの?

 ニゲルがレイリスを連れて飛んでいく。

 レイリス……。

 そうだ、フォルテは?

 リュヌリアンを持って、フォルテの方に走る。

「隊長さん!」

「おぉ、リリーシア。無事だったか」

「はい!行きます!」


―「ルーベル。封印の棺はお前が持っていたのではないのか」


 隊長さんの攻撃に続いてフォルテに向かって攻撃を仕掛けると、私に気付いたフォルテが大きく口を開けて迫ってくる。

 同じことは、繰り返さない。

 砂の魔法で跳躍してフォルテの頭を斬りつけると、フォルテの体が消えた。

 ……跡形もなく。


―「お前もまた、私の敵となるのか」


 敵……?

 本当に、フォルテは敵だったの?

 フォルテは、自分が持っている神の力をあの人に渡したくなかっただけなのに?


 遠くで閃光が煌めく。

 地上から伸びたアンシェラートの手を突き刺すように天から降った金色の光は、そのままアンシェラートの手の根元へと降りていく。

 そして。

 大きな地鳴りと共にアンシェラートの手が消えた。


 アンシェラートの手が消えたってことは、レイリスが勝ったってこと?

 ……あの人は?

 見上げると、エルとアレクさんがあの人と戦ってる。

 あれ?さっきと何かが違う。

―レイリスが援護してるみたいだね。

 淡い金色の光が無くなってるんだ。

 ……私にも、使えるのかな。

 レイリスの援護がどんなものだったのかなんて、全然わからないけど。

 でも、レイリスが出来ることは、私にも出来るってことだよね?

「お願い。……エルとアレクさんを助けて」

 私の力が何なのかわからないけれど。

 きっと、攻撃的な使い方ばかりじゃないはずだ。

 誰かの力になる使い方もできるはず。

 お願い……。

 見上げると、二人が居る辺りが淡く金色に光る。

 さっきと同じ色。

 出来た……?

 空中に居るアレクさんとエルが、一度だけ私を見て、笑った。

 ……エル。

 私、役に立てたのかな。

「ここからじゃ見てることしかできないな」

「隊長さん」

「何の魔法を使ってるんだ?」

「月の魔法だと思うんですけど……」

「わからないのか?」

「私が持ってる力を封印してるのがレイリスで、私が魔法を使う時ってレイリスと同じ魔法になるみたいなんです」

「さっき飛んで行った月の大精霊か」

「……はい」

 ここに居る人は皆見ていたし、聞いていたよね。

 エルにそっくりなレイリスが月の大精霊だって。

「リリーシア。アレクはレイリスと契約してるの?」

「ヴェロニクさん?」

 近衛騎士の皆が集まって来てる。

「アレクは菫の瞳を持つ大精霊と瞳を交換する契約を交わしているはずなんだ」

「知ってるんですか?」

 エルも知らなかったのに。

「私も初代オルロワールに関する古い文献でようやく見つけた内容だよ。知ってるなら、詳しく教えてくれない?」

 私が知ってること。

「信頼関係がなければできない特殊な契約で、お互いの魔力の共有と意識の共有が出来るんです。瞳を交換すれば、どちらも一生瞳を戻すことはできないし、人間は他の精霊と契約できなくなるんです」

「魔力の共有って、お互いの魔力を自由に使えるってこと?」

「はい。だから、魔力を奪うことで片方を簡単に殺すことが出来る契約だって……」


「そろそろ余興も終わりだ。ここを私の土地として利用させてもらう」


 え……?

 上空に、複数の黒い槍が現れる。


「人と精霊が色濃く存在するこの地ほど使いやすい場所はない。死体も多く手に入ることだしな。……さぁ、私の糧となれ」


 一斉に、槍が王都に向かって降り注ぐ。

 どうしよう。

 守らなきゃ。

 魔法、使わなきゃ。

 えっと……。

「聖母ヴィエルジュよ。アークトゥルスの契約代行者、アレクシス・サダルスウドの名の元に、今、大地の守護を求める!」

 空から降って来たアレクさんが大地にエイルリオンを突き刺す。すると、地面が大きく揺れて、思わず膝を突く。

 地面が割れてエイルリオンを飲み込むように大樹が伸びると、淡い光をまとった木の葉が上空に舞った。

 王都の全域を覆った光の木の葉は、王都に降り注ごうとしていた黒い槍の一つ一つを包んで消す。


「ヴィエルジュ」


 大樹の中央の洞に、一人の女性が現れる。

「去れ」


 また、人間?

 ヴィエルジュって初代国王にエイルリオンを渡した御使いだよね?

 空を見上げると、あの人が空高く昇って行くのが見える。

 ……見えなくなっちゃった。

 宙に居たエルがアレクさんの傍に降りて来る。

「アレク!」

 エルが、倒れてるアレクさんを抱えてる。

 ……気絶してる?

 これって……。

「エルロック」

 ヴィエルジュの声だ。

「レイリスは今、月の神の助力も請えぬ地中深くで死を待つだけの存在となっている」

「……死を?」

「そうだ。その力でアンシェラートを封印している。レイリスの力が尽きた時こそ、世界の終わり」

 世界の終わり……?

「しかし、アレクシスがそれを長らえる役割を担っている」

「どういう意味だ」

「人間の魂は魔力を集めることが可能だ。アレクシスは今、外部からレイリスへ魔力を捧げる存在となっている」

「なんだよ、それ……」

 外部から魔力を送るなんて、昔の私みたい。

「私を召喚する為にすべての魔力を捧げ、レイリスに魔力を奪われ続けるアレクシスが目覚めることはもうない。このままその身を捧げよ。私の力で、レイリスが死ぬまでアレクシスの肉体ごと魂を保存してやろう」

「何言って……。お前、何者なんだ」

「私はヴィエルジュ。水の神より生まれた植物の祖にして妖精の女王」

「妖精の女王……?」

「さぁ、アレクシスの体をここへ」

―アレクが気を失ったらアレクの菫の瞳を抉れ。

―頼んだぜ。

 レイリス……。

「だめだ。渡すことはできない」

「何故」

「命を捧げるなんて、俺が許さない」

「……エル」

「リリー?」

 どうするのが良いんだろう。

 エルの傍に行って、アレクさんの右の瞼をなぞる。

「エルは、アレクさんを目覚めさせたい?」

「あぁ」

「私、たぶん出来るんだけど……」

「どうやって?」

「菫の瞳を抜き取るの」

 レイリスから教わったこと。

「他人の契約に干渉することは普通の方法じゃ不可能だけど、私なら……。私に封印されてる力があれば出来るって、レイリスが言ってたの」

―封印した状態でも、リリーが願えばアレクと俺の契約の解除が出来るはずだ。

「でも……。そうすると、アレクさんとレイリスの繋がりは消えて、レイリスが……」

 このままだと……。


 アレクさんを救うためには、菫の瞳を抉ってレイリスの契約を破棄させるしかない。

 レイリスを救うためには、アレクさんは目覚めることのないまま契約を続けるしかない。


 二人を救う方法ってないのかな。

 エルが唇を噛む。

 ……また、難しいこと考えてる。

 私の持ってる神の力で、どうにかならないのかな。

 この力を誰かに渡すことが出来れば良いのに。

 ……違う。もっと、上手く使いこなせるようになるべきなんだ。

 黒い槍が王都に降り注ぐと思った時、私はとっさに何もできなかった。

―この先、同じようなことがあっても、誰かの死を望んだりしないで。

 エルが言っていたこと。

 きっと、それがすごく大事なこと。

 誰かを攻撃するのではなく、常に誰かを守ることを考えて、この力を使うべきなんだ。

 そうすれば、さっきみたいにエルとアレクさんを援護するような魔法も使えるのかもしれない。

 急に、エルの表情が変わる。

 そして、アレクさんの手の甲に何か描く。

「世界を創りし神の同胞よ。我は同調する者である。天上と地上を繋ぐ自然の和。すべての元素、命に感謝する」

 アレクさんの手の甲が淡く光る。

 これって、魔力の集中だ。

 前にエルが私にしてくれたことがあったっけ。

 目を閉じて、自然に同調して。

 呼吸をする。

 あぁ、空気が澄んでいく。

 気持ち良い……。

 なんだか、すごく落ちついて、気分がすっきりする。

「消えてる……」

 目を開くと、アレクさんの手の甲の光が消えてる。

 前の私と同じ。

 魔力はすべて奪われてしまうんだ。

 エルが口元に手を当てる。

 何か、他にも方法があるのかな。

 今なら、私にも何かできそうな気がする。

「月の石」

「月の石?」

 月の石があれば何かできる?

 ……でも、今は持ってない。

 あ。そうだ。これも月の石で出来てる。

「……だめだ」

 エルが暗い雲で覆われた空を見上げて、ため息を吐いたエルに、ヴィエルジュが応える。

「あの雲は、あの男の魔法。太陽と月の力を完全にさえぎり、地上から神の力を請えない状況を作りだしているのだろう」

 あれも魔法……?

 雲を作る魔法なんてあるんだ。

 でも、エルも昼を夜に変えることが出来るんだから、魔法で出来るのかな。

「エル。月の石があれば、アレクさんを目覚めさせることが出来るの?」

「それだけじゃだめだ。……満月が見えないと」

「月の石と、満月があれば良いんだね」

 私も、役に立てるかもしれない。

「まかせて」

「……リリー?」

 鞘に納めていたリュヌリアンを抜いて、地面に刺す。

「月の石って、これでも良いかな」

「リュヌリアン?……そうか」

 これは、月の石で出来ている剣だから。

「使えるかもしれない」

 良かった。

「後は、月が見えれば良いんだよね」

 空を見上げる。

「あの雲って魔法なんだよね?」

「あぁ」

 大丈夫。あの人が出来るなら、私にも出来るはず。

「私も魔法を使ってみようと思う」

「魔法?」

 さっきも、エルとアレクさんの役に立つ魔法を使うことが出来たから。

「お願い。私の中に神の力があると言うのなら。それが私の願いを叶えてくれると言うのなら」

 目を閉じて、祈る。

 お願い。

 あの雲を押しのけて。

 ……月の女神の力を地上に届けて。

「今すぐ、あの雲を払って輝く月を見せて!」

 目を開いて、空に向かって叫ぶ。

 

 天上に向かって真っ直ぐに伸びた光は、遥か遠くの雲に小さな穴を穿つ。

 そして。

 輝く光は更に雲を押しのけ、その隙間から美しい満月が姿を現した。

 

 出来た。

「エル。これで良い?」

 月の石と月の光は、揃ったよね?

 エルが頷く。

「ありがとう、リリー」

 エルが、リュヌリアンの前に跪く。

「月の女神よ。どうか祈りを聞いてくれ。アレクを目覚めさせたいんだ。レイリスを救いたい。どうか、その力を貸して欲しい」


 天上で輝く月から一筋の光が月の剣に降りる。

 そして、煌めく月の剣から、輝く一輪の花が芽吹いた。


 なんて、綺麗な花なんだろう。

 月の光を浴びて淡く光る花。

 エルがアレクさんの腕を掴んで、その手に月の花を触れさせる。

 輝く花はアレクさんの手の中に項垂れて、光を失う。

「アレク……」

 エルがアレクさんの頬に触れると、アレクさんが、ゆっくり目を開く。

「アレク!」

「エル……?」

 良かった。気が付いた。

「レイリス、俺が見える?アレクが気を失わないように、上手く魔力の調節をできないか?」

「……あぁ、そういうことか。大丈夫だよ。私も自分で魔力の調節が可能だし、月の女神の力がレイリスにも届いて、レイリスも回復したからね」

「良かった……」

 アレクさんが、いつも通りの顔で微笑む。

「これは月の花だね。……ありがとう。エル、リリーシア」

 エルと目が合って、微笑む。

 私もエルのことを手伝えたんだ。

「ヴィエルジュ。レイリスはアンシェラートの一時的な封印に成功したよ。月の女神の力も充分に得たし、しばらくは大丈夫そうだよ」

「そうか。では、この世界とレイリスを守る為にも、私はしばしお前の守護を請け負うことにしよう」

「ありがとう」

 ……アレクさんは目覚めたけど、まだ、何も終わってない。

「雨?」

 エルが空を見上げる。

 ……本当だ。雨が降って来た。

「これもヴェラチュールの魔法なのかい」

「あの男は雲と雨を自在に操ることが出来るからな」

 神の力で?

「案ずることはない。雨は私の糧となる力だ」

 なんだかとっても優しい雨だ。

 これって、本当にあの人が降らせてるのかな。

 そういえば、名もなき王の愛しい人って……。

 


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