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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
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86 災いを引き起こす者

 フォルテの上。光の柱の傍に、エルとアレクさんが居る。

 その光の柱が消えたかと思うと、上空の雲から放たれた雷光がフォルテのすぐそばに落ちて、浮遊する人間が現れる。

 あれ……?

 違う。

 この人、前に会った人じゃない。

 王家の敵、ベネトナアシュじゃないの?


「思ったよりも力が戻ってこなかったな」


 良く響く男の人の声。

―アーク、リフィア。

 あの時、脳内に響いた声と同じなのに。

 持っている武器もベネトナアシュと同じ紅の剣なのに。

 どうして姿が違うの?

 白髪で。右眼は紅で、左眼は閉じていて。

 そして、斑の光を持った人……。


「そういえば、今の人間は私のことを知らないんだったな」

 彼が空高く飛ぶ。

「さぁ、歓迎するが良い。お前たちの神の復活を」

 脳に直接響くかのような高らかな声。

「私こそが、この地上を支配する神。お前たち人間を祝福する人間の神だ」

 

 人間の神?

「あの人、神さまなの?」

『ボクには人間にしか見えないけど』

「面倒なのが現れちまったなぁ」

 ここに居ないはずの声が聞こえて、振り返る。

「隊長さん?どうして、ここに?」

「どうしてって。俺は向こうでフォルテの移動を手伝ってたんだぜ」

 

「封印の棺を貫ける剣が存在したとはな。私が力を取り戻す手伝いをしてくれたこと、感謝するぞ」


 剣?

 あ、隊長さんが背負ってるのって。

「バーレイグ?」

「あぁ。ちゃんとフォルテから回収して来たぜ」

 隊長さんが抜いてくれたんだ。

「あの人が言ってる剣って……」

「こいつじゃないぜ。エルの剣のことだろう」

「イリデッセンス?」

「俺じゃ抜けなかったんだ。……今、エルが抜いたんだろうな」

 エルが抜いた?それで、さっきの光が?


「ベネトナアシュ?……あぁ、あれか。お前の前に現れたのはただの御使いだ」


「あいつが殿下とお喋りしてる間に、配置を決めておくぞ」

 あの人、アレクさんと話してるんだ。

 声しか聞こえないけど。

「グリフは左、ツァレンとローグは右。シールとロニーは後方支援を頼んだぜ」

「了解!」

 近衛騎士が一斉に返事をして、走って行く。


「灰にならない限り、死体はすべて私が自由に使える傀儡だぞ。お前たちが死体を棺に入れるのは、魂の抜けた死体を私に捧げているからだろう」


「隊長さん、」

「今は団長だぜ」

 隊長さんが、襟を指す。

「アレクさんの、ビオラのブローチ?」

「俺たちはエトワールって団体なんだよ。意味は分かるな?」

 そっか。

「はい」

 近衛騎士の人たちも皆、アレクさんからエルのことを任されてる人だったんだ。


「いかにも。しかし、私が自由に動かす為には神の力を注ぎ続けなければならない。ベネトナアシュも神の力を失えば砂のように崩れるだけの存在だ。他の神の御使いと違って言葉一つ発せられないのでは不便だが。私の代理を務められる分、ただの死体よりは使い道があると言うわけだ」


「死者をそんな風に扱うなんて……」

 そんな人が神さまなの?


「人の願いを叶えることに変わりはないぞ。ベネトナアシュはその野望の為に私の力を欲した。願いの代償として、死んだ後の人間をどう使おうと私の勝手だろう」


「全然神さまっぽくない」

『あんなのが神なわけないだろ』

「あいつはオーから分割された存在じゃないからな」

「神さまじゃないんですか?」


「亜精霊はすべて、過去に生き物であったもの。生き物は簡単に他の力の影響を受けるというだけだ。最初の亜精霊が何であったかなど知らないな。私の力の影響を受けたものばかりではないだろう」


「神の力を手に入れ、神に近い存在になった人間。本当に封印されていた奴なら、だが」


「その通り。これこそが私の本当の体。神の力のすべてを宿すことのできる本体だ」


「本体で間違いないみたいだな」

 本体って、コールポ?

 エルが私に聞いたこと。

 あの人と私に関係ある事。

「私、あの人と同じ力を持ってるんです。今は、封印されててるんですけど……」

「なら、封印は解かない方が良い。あいつに奪われるぜ」

「はい」


「私のことはヴェラチュールと呼んでもらおう。これより先、再び人間を導く神として崇めるが良い」


「ヴェラチュール」

 神の章。

「隊長さん。あの人って色んな名前ありますか?」

「有名なのならサンゲタルにユッグ。バーレイグもあいつの名前だ」

 その言葉なら全部知ってる。

 サンゲタルは、真実をおしはかる者の章。

 ユッグは、恐ろしき者の章。

 バーレイグは、炎の眼差しを持つ者の章。

「名もなき王」

「それもあいつの名前の一つだな」

「本当の名前はなんて言うんですか?」

「さぁねぇ。本人も忘れたんじゃないか?」

 本の通り。

 あの物語に出て来る名前。そして、名剣の名前。

 それは全部、あの人を指す名前だったんだ。

「リグニス、アルディア、ルミエール。この三人が、その技術の結晶として作り上げるのは、あらゆる魔法に対抗できる剣なんだ」

 それってリュヌリアンと同じ。

「バーレイグも魔法が斬れるんですか?」

「もちろん。神の力に対抗するために作られた剣だ」

 リュヌリアンも、あの人の力に対抗できる剣なんだ。


「素晴らしいぞ。その知識欲。探究心。真実をおしはかるその姿勢。当に私の眷属に相応しい」

 眷属?

「ブラッドが精霊の力を必要とせずに、新しい命を誕生させることが出来るのは何故か」

―奇跡を起こせるのなんて精霊だけだもの。

「その血肉を与えることでクレアをブラッドに変化させることが出来るのは何故か」

―私たちクレアは、ブラッドに変化するわ。

「愛しい子供たちよ」

―一番多いのはブラッドと結ばれること。

「私こそがブラッドの祖。神の力を手に入れ、クレアに最初のブラッドを生ませたブラッドの父。まぎれもない人間の神だ」


 エレインとイレーヌさんが言ってたのと同じ。

 あの人が言ってることは、本当のことなの?

「あいつは大昔に人間と精霊によって、封印の棺に封印された人間の本体なんだ」

「封印の棺って……」

 エイダのはレプリカだって言っていた。

「神が、あいつを封印する為に創った箱だ」

 それが、本当の封印の棺の役割?


「わかっただろう。お前たちは根源的に精霊とは相容れない、太古の種族を駆逐する運命を持った存在なのだ。さぁ、私と共に来い。古い神を、精霊を凌駕し、人間の為だけの世界を作るのだ」


 そんなこと、絶対ない。

『ねぇ、どうしてガラハドはそんなに詳しいの?』

「どうしてそんなに詳しいんですか?」

「俺は初代国王と一緒に、バーレイグでベネトナアシュ討伐に関わってるからさ」

 やっぱり。

「寿星の英雄は、隊長さんだったんですか?」

「なんだ。驚かないのか」

 ジラールさんが言ってた。バーレイグは寿星の英雄の剣だって。

 それに……。

「オルロワール家で見た七人の英雄の絵が、髭のない隊長さんの顔だったから」

「あの絵、まだ残ってたのか」

「ロザリーみたいに眠ってたんですか?」

「不老なんて色んな理由でなるからな」

 違う方法なんだ。

「あの人と戦うには、どうすれば良いんですか?」

「あいつに攻撃を与えられるのは、エイルリオンと慈悲の剣だけ。慈悲の剣が存在しない以上……」


「不要か。……確かに、神も精霊もすべて不要な存在だ。私もまた、排除される側の存在だと言うのならば。その力を私の前に示すが良い」


「それ、エルが持ってます」

 アレクさんが、慈悲の剣って言ってたよね。

「は?」

「エルが、エイルリオンから抜いたんです」


「それは、リフィアの剣……」


 隊長さんが笑う。

「そいつは傑作だな。てっきり、リリーシアが抜くもんだと思ってたぜ」

「私が?」

「……ほら、始まったぜ」

 ヴェラチュールを追って、エルとアレクさんが飛ぶ。

 え?飛びながら戦うつもりなの?


「月の大精霊か。余計な真似を」


 二人が居る辺りが、淡く金色に光ってる。

『レイリスが援護してるみたいだね』

「そっか」

 レイリスの力で満たされた場所なら、エルとアレクさんは平気なはず。

 魔法で飛ぶのも楽になるのかな。


「仕方ない。多勢に無勢だからな。屍に働いてもらうことにしよう」

 彼が腕を掲げると、ドラゴンの咆哮が響く。


 フォルテが体を起こす。

「生き返った?」

『嘘だろ?』

 でも、斑の光がない。


「私の言うことなど聞かないぞ。あれは私の御使いとなる契約はかわしていない。あれは、過剰な精霊の力で満たされた存在。自然に反し無理やり魂を戻された、破壊の衝動だけで生きる亜精霊だ」


 あの人の光は斑色……。

 フォルテの持ってた光を、あの人が吸収したってことだよね。

「殿下の足は引っ張れないからな。こっちは俺たちで片づけるぞ」

 隊長さんが、バーレイグを抜いて大きく振り回す。

「はい!」

 隊長さんに続いて、フォルテに向かって走る。

『リリー。こっちは任せて大丈夫?』

「うん」

『ボクはエルに加勢するよ』

 その方が良い気がする。あ。

「待って、イリス」

『何?』

「役に立つかわからないけど……」

 あの人の、斑の光。それが精霊の光と同じものなら。

 斑の光は混ざってないからわかりやすい。

 赤は、炎の精霊の色。

 水色は、氷の精霊の色。

 黄色は、光の精霊の色。

 黒は、闇の精霊の色。

 青は、水の精霊の色。

 緑は、大地の精霊の色。

 紫は、雷の精霊の色。

 白は、雪の精霊の色。

 黄緑は、風の精霊の色。

 だから。あの人の持っていない色は、金色と銀色。

「エルとアレクさんに伝えて。あの人は、ほとんどの魔法を使える。でも、真空の魔法と月の魔法は使えない。そして、たぶん合成魔法も使えない」

 普通の魔法使いと違って色が混ざってないから。そんな気がする。

『わかったよ。リリー、何かあったらすぐに呼んで』

「うん」

 イリスが飛んでいく。

「リリーシア。ブレスに気をつけろよ」

「はい」

 フォルテがブレスの予備動作をしてる。

「斬ります」

 リュヌリアンを抜く。

「おぅ。いっちょやるか」

 以前は輝く美しさだったブレスも、今は毒々しい色をした紫色のブレスに変わってる。

 隊長さんと並んで、フォルテが吐いたブレスを一緒に斬る。

 同時にフォルテの悲鳴が聞こえた。

 ここから見て、右手にシールとツァレンさん、ローグバルさん。

 左手にグリフさんとヴェロニクさん。

 両翼から攻撃してるんだ。

 走り出した隊長さんの攻撃に続いて、隊長さんが攻撃したのと同じ場所をリュヌリアンで斬る。

 ……斬っても、斬れない。

 本当に亜精霊になったんだ。

「援護します」

 隊長さんが笑う。

「逆だろ?俺が援護するから好きにやりな」

「はい」

 どこが弱点なんだろう。

 大柄な巨体の首の付け根に斬りつけると、フォルテが足を振り上げる。

 それを防ごうとしたところで、横から誰かがフォルテの足を攻撃した。

 ローグバルさん。

「この翼はもう動きません。私とツァレンは裏に回ります」

「はい」

 ローグバルさんが移動したのを見計らって、リュヌリアンでフォルテに攻撃して数歩引くと、隊長さんが続けて攻撃する。

「耐久力がやたらと高いだけだ。総攻撃で一気に攻め落とすぞ」

「はい」

 間髪入れずにフォルテを攻撃する。

 生きている頃とは全然違う。

 単に暴れているだけのような動き。

 そういえば、人狼もそうだったよね。咆哮を上げる前と後で動きは全然違った。

―破壊の衝動だけで生きる亜精霊だ。

 それが亜精霊の本質?

 それとも。

――人間は永遠に私の敵だ。

 その気持ちだけで動いてる?

 ブレスの予備動作をしたフォルテの頭めがけてリュヌリアンを振ると、フォルテが咆哮を上げながら、リュヌリアンに噛みつき、私を振り回す。

「っ」


「素晴らしいな。これこそ、人間の奇跡。私が目指したもの。神をも凌駕出来る力」


 大きく宙を舞って。

 エルとアレクさんが戦ってる場所が見える。


「しかし。私もここで果てるわけにはいかない。そろそろ、邪魔者を始末するとしよう」

 彼が紅の剣を掲げると、大きな地響きが鳴る。


「リリー」

「レイリス!」

 空中に居た私をレイリスが抱き留めて飛ぶ。

「怪我はないか?」

「大丈夫」

 遠くで、大きな爆発音と共に火柱が上がったのが見えた。

「あれは?」

「アンシェラートだ」

「アンシェラート……?」


 大地から伸びた手が世界を終わりに導く。



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