84 前後不覚
優勝決定戦。
バーレイグを下段の構えで持つ。
……勝たなきゃ。
エルは何故か刀を構えずに、観客席の方を見上げる。
皇太子席を見てる?
「レクス、構えを」
エルが刀を上に振り上げる。
それが、構え?
「準備はよろしいですか」
「良いよ」
隙だらけの無防備な構え。
何の意味が?
……だめ。考えてる暇はない。先手を打つんだ。
「始めっ!」
合図と共にエルに向かってバーレイグを突き刺そうと踏み込んだ瞬間、エルが持っていた刀を……。
「!」
投げた?しかも上に?どういうこと?
……だめ、危ない!
持っていたバーレイグは捨てたけど、勢いをつけて踏み出したせいで止まれない。
そのままエルにぶつかって、一緒に転んだ。
「いってぇ」
すぐ近くで声が聞こえて、顔を上げる。
……ここ、エルの腕の中だ。
私、鎧装備なのに。抱きとめられた……?
エルが仮面を外して、遠くに投げる。
「アレク!俺が協力できるのはここまでだからな!後は自分でどうにかしろ!」
「あの……」
兜を外される。
ばれてたんだ。私だって。
「ごめんなさい。その……」
エルが私の髪を撫でる。
……あぁ。そんなに優しくしないで。
「ほら、あっち見てみろよ」
エルが見上げた方。皇太子席で、アレクさんとロザリーが向かい合ってる。
アレクさんが、さっきまでエルが持っていた刀を持っている。
……エル、アレクさんに向かって投げたんだ。
アレクさんがロザリーの黒いベールを上げると、周囲がざわつく。
「ロザリー。私が、私の姫として選ぶのは君だけだ」
アレクさん……?
アレクさんがロザリーの前に跪く。
「ラングリオンの騎士として、騎士の誇りと忠誠を貴方に捧げる。……私の愛を受け入れてくれると言うのなら、誓いの証として、その御手に口づけることを許して欲しい」
左手を胸に当てて、頭を下げて右手をお姫様の前に。
物語の、王子様とお姫様だ。
差し出されたアレクさんの手をロザリーがとると、アレクさんがロザリーの手の甲にキスをする。
「ロザリー。君に永遠の愛を誓う」
「はい」
……ようやく。
ようやく、想いが通じたんだ。
アレクさんがロザリーの手を取ったまま立ち上がる。
「騎士の誓いは成立した。今、この時より、彼女が私の愛を捧げる唯一の女性であり、私が選ぶ唯一の伴侶である」
伴侶?って、えっと……。奥さんだよね?
今ので、二人の婚約が成立したってこと?
「彼女は黒髪に紅の瞳。この容姿は吸血鬼種と呼ばれ、長く謂れなき差別の対象とされてきた。……しかし、これは騎士の国において恥ずべき伝統である。吸血鬼とは遥か昔に滅んだ種族であり、悪魔とは全くの無関係であることは疑う余地のない事実」
―悪魔が全く存在しないこの時代で、何故吸血鬼種が差別されるのですか。
―黒髪というだけで吸血鬼種と言われるのはなぜですか?
―全く関係ない事で差別を受ける人が居るじゃないですか。
ロザリー……。
「騎士の国に生まれた諸君に問う。奴隷制度を撤廃し、自由、平等、博愛の精神の元、手を取り合って国を興して来た我々が、同じ場所に生きる同胞にこのような仕打ちを続けることは、誇れる行為であるのか」
それは、この国に根差すこの国の精神。
「私が目指す国は、誰もが自由に自分の未来を選び取れる社会。差別が根強く残る場所では、それは叶わないだろう」
アレクさんの夢……。
「それでも、彼女が未来の王妃となることに異を唱える者が居るならば、起立して欲しい。この場に一人でも彼女を否定する者が居たならば、私はラングリオンの騎士として、そして彼女の騎士として、誓いを全うする為、皇太子を辞し、この国を去る覚悟がある」
え……?
アレクさん、皇太子を辞めちゃうの?
違うよね。だって。
―この国の人々なら、それが出来ると信じているんだ。
信じてるんだよね?
この国の人たちを。
信じてるから、そんなこと言ったんだよね?
だって……。
ここに居る人たちは、誰も立ち上がろうとしない。
「アレクシス」
「はい。陛下」
国王陛下だ。
「そのやり方は少し問題があるな」
だめなの……?
「皆よ。ようやく、この国の皇太子が婚約者を決める日が来たようだ。二人を祝福する者は起立し、拍手を」
一斉にわき上がる歓声と拍手。
あぁ。この国の人たちは、本当に優しい人ばかり。
おめでとう。ロザリー。
良かった。本当に……。
「リリー?なんで泣いてるんだよ」
「だって、アレクさんとロザリーが、ちゃんと想いが通じて、皆から認められて……」
これ以上、幸せなことってない。
エルが私の頭を撫でる。
「こっちはまだ片付いてないぜ」
「え?」
エルが私の腕を引きながら一緒に立ち上がる。
「審判。試合の結果は?」
結果?
審判が私たちの側に来て、私の腕を上げる。
「エルロックは武器を放棄。よって優勝者、リリーシア!」
「えっ?」
「優勝おめでとう、リリー」
「ま、待って。私、戦ってないです」
「剣術大会のルールでは、得物を失った方が負けだろ」
「私も武器を手放したのに」
「先に手放したのは俺だ」
「でも!」
「リリーの勝ちだよ」
「せっかく決勝まで勝ち上がって来たのに!」
ロザリーとアレクさんが幸せになったのは嬉しいけれど。
エルと戦えなかったなんて。
「残念だったな。優勝者は二度と大会に参加できないんだぜ」
あっ……。
もしかして、私が大会に出場してることに気づいていても何も言わなかったのは、こうして私を優勝させるため?
エルが私の頬をつつく。
……ひどい。
空の上で大きな音が鳴る。
開会式と同じ。剣術大会の終わりを告げる花火だ。
「全然勝った気がしない。エル、もう一回勝負しよう」
「嫌だよ。優勝者はもう決まったんだ。リリーと戦う理由なんてない」
『いつリリーだって気づいたの?』
「さっき」
「え?さっきって……」
「リボンが可愛かったから」
「えっ?」
どういうこと?
「最近、後ろでリボンを結ぶ服を良く着てただろ?何度も見た後姿だったから」
さっきって、観戦席から試合会場に行く廊下ですれ違った時?
それでばれちゃうなんて……。
「ほら、優勝者は陛下に願いを叶えてもらえるんだ。このまま陛下の御前に行くぜ」
「待って」
落ちていたバーレイグを鞘に戻す。
優勝した実感なんて全然ない。完全に不完全燃焼。
兜は……。
『ライーザだ』
え?
「リリーシア様、エルロック様」
「ライーザさん」
ライーザさんがこっちに来る。
鬘を取った、いつものライーザさんだ。
「御預かりしていたものをお持ちいたしました」
「ありがとうございます」
ライーザさんに預かってもらっていたものを受け取って、身に着ける。
「俺のも?」
「はい。マリユス様から御預かり致しております。……兜は私が御預かり致しましょう」
「お願いします」
少し重いけど、大丈夫かな。
栗色の鬘が付いた兜をライーザさんに渡す。
「陛下の御前では失礼のないよう、お気を付け下さい」
「……はい」
緊張する。……大丈夫かな。
「行くぞ」
「うん」
エルが差し出した手を取ると、遠くで叫び声が聞こえた。
何?
『うわぁ』
『来たねー』
『あいつ、よっぽど花火が好きなのねぇ』
エルと見上げた先。
前より、はっきり見える位置。
斑の光を持ったドラゴンが、こっちに飛んでくる。
……フォルテだ。
「リリー、ライーザと逃げろ」
「一緒に行く!」
走り出したエルに続いて、上空を見上げながら走ると、フォルテに向かって黄金の剣が放たれる。
あれはアレクさんの魔法だ。アレクさんが戦ってる?
フォルテがアレクさんを標的に捕らえ、ブレスの予備動作をする。
「リリー」
「わっ」
エルに腰を抱かれて、宙に浮く。
飛んでる?
飛んだ先は、アレクさんとレイリスが居る場所。
皇太子席だ。
「近衛騎士は?」
二人以外、誰も居ない。
「観客の避難を優先しているよ」
ロザリーも無事に逃げたのかな。
レイリスが張っていた魔法の盾にフォルテのブレスが当たった瞬間、攻撃が反射する。
流石、大精霊だよね。
ドラゴンの攻撃なんて全然気にしてない。
―「まさか、月の大精霊?」
―「そうだよ。久しぶりだな。フォルテ」
会ったことあるんだ。
「レイリス、リュヌリアンをくれ」
「ほらよ」
背中にリュヌリアンを背負っていたレイリスが、リュヌリアンをエルに渡す。
―「何故、月の大精霊が人間に味方する」
人間に味方する精霊なんてたくさん居ると思うけど。
―「俺が何しようと勝手だろ。お前も協力したらどうだ」
―「人間と協力して上手く行くことなどあるものか」
―「いつの話ししてるんだよ」
―「人間は永遠に私の敵だ」
フォルテは、そんなに人間が嫌いなの?
―「頭の固い奴だな」
「交渉の余地はないようだね」
「エル、行って来い」
エルがリュヌリアンを振る。
……そんな持ち方で、大丈夫かな。
エルの攻撃を回避して空に飛びあがったフォルテを、エルが追う。
「アレク、リリーを頼む」
「エル!待って!」
フォルテに飛び乗ったエルと一緒に、フォルテが高く飛んでいく。
……置いて行かれた。
「エルを追いかけたいんだね」
「はい」
「なら、レイリスに魔法で飛ばしてもらったら良い」
「魔法で?」
「何言ってるんだよ。リリーは魔法もろくに使えないのに、上に行ってどうするんだ」
「大丈夫だよ。援軍も来たようだからね」
空を見上げると、赤いドラゴンが飛んでる。
「ルーベル?」
自分と同じ種族と戦うのに、助けに来てくれたの?
「俺はフォルテ殺しは手伝わないぞ。フォルテを狙ってあいつが来る確率も高いんだし」
「そうだね」
「あいつって?」
「リリーシアも会っただろう。王家の敵だよ」
王家の敵が、フォルテを狙ってる?
どういうこと?
「こら。お前らが会ったのは本体じゃないぞ」
「なんだ。本体じゃないから殺さなかったのかい」
「あれが存在する限り、力を放出し続けなきゃいけないからな。本体がまだ封印されているなら、あれを野放しにして力を使い果たしてもらった方が良いんだよ」
「そんなに得策なことには聞こえないけれど。精霊は殺戮を嫌うからね」
……何の話し?
「でも、ブラッドドラゴンは野放しにできない。あれは精霊にとって無害でも、私たちにとっては害のあるものだ。……それに、このままエルを一人にしておくわけにもいかないだろう」
レイリスが溜息を吐く。
「リリーをルーベルに向かって飛ばせば良いのか?」
でも、ここから飛ぶなら……。
「レイリス、フォルテに攻撃したいからフォルテに向かって飛ばして」
鞘から抜いたバーレイグを構える。下段から斬り上げる感じで行けば良いかな。
「俺の話し、聞いてたか?」
「え?」
「俺はリリーを飛ばした後、助けに行けないって言ってるだろ。ルーベルに拾われなかったらどうするんだよ」
「えっと……」
『エルが助けてくれるんじゃない?』
「大丈夫だよ。エルがリリーシアを落っことしたりするわけないだろう」
「……ったく。落ちても知らないからな」
体に魔法がかかって、宙に浮く。
「いってらっしゃい。リリーシア」
「いってきます」
「ほら、飛べ」
真っ直ぐ空に向かって飛ぶ。
自分が矢になったみたいだ。
前にも体感したことのある砂嵐。でも、視界は良好だ。位置も良い。
まっすぐフォルテに向かって飛んで、バーレイグで攻撃する。
レイリスの魔法の勢いでドラゴンの皮膚を斬りつけた攻撃は、ドラゴンの肉を完全に切り裂くには至らず、途中で止まってしまった。
「あ……」
どうしよう。
こんなに深く突き刺さった場所で止まるなんて。
バーレイグに捕まってぶら下がる私に、何かが巻きついた。
『エルだ』
エルの魔法のロープだ。
急いでバーレイグを回収しなきゃ。
フォルテの体に足を着けて、バーレイグを動かしながら抜こうとするけど、全然抜けない。フォルテも暴れていて、上手く力も入らない。
『いつまでもしがみついてないで、エルのところに行きなよ』
エルが放った魔法のロープに引かれるまま、バーレイグを手放す。
あぁ。
「バーレイグが……」
ここで武器を失うなんて。
『エルがリュヌリアンを持ってるだろ』
貸してくれるかな。
ロープで引かれてルーベルの背の上に居るエルの傍に着地する。
「何やってるんだよ!」
何って……。
「レイリスに頼んで飛ばしてもらったの」
「はぁ?」
そんなに怒らなくても良いのに。
『流石リリーね』
「何考えてるんだよ!」
「だって、どこにでも連れて行ってくれるって言ったよ」
『エルが置いて来るからこんなことになるんだよ』
もう、エルを一人で戦わせることなんてしない。
それはアレクさんとレイリスの意思でもある。
「あのまま落ちてたらどうするんだ」
「大丈夫だったよ」
「俺が助けるのが間に合わなかったら、」
「エルは、ちゃんと助けてくれるよ」
「当たり前だ。俺が言ってるのは……」
『二人とも、喧嘩してる場合じゃないよ』
イリスの声に振り返ると、フォルテがブレスの予備動作をしてる。
戦闘中だった。
エルがため息を吐く。
「リリー。俺が援護するからフォルテの翼を斬り落とせ」
「でも、バーレイグはフォルテの首に刺さっちゃって……」
あれを取りに行くのは無理そうだ。
「だから、その……」
「これを使え」
エルがリュヌリアンを出す。
「ありがとう!」
良かった。
これで戦える。
―「ブレスは回避するか?」
ルーベル。
ドラゴンのブレスならリュヌリアンで斬れるだろうけど、空中での位置取りは難しそうだ。下手をしたらルーベルに当たってしまう。
―「俺が防ぐ」
『真っ向勝負する気か』
エルが魔法を使う。
綺麗……。
いろんな形の結晶が空中に浮かぶ。
この前見た巨大な氷の盾とは違うけど、これで防ぎきれるのかな。
フォルテがブレスを吐いた瞬間、エルが更に吹雪の魔法を使う。
吹雪で視界が不良になって、体勢を低くする。
『大丈夫?』
「うん」
氷の盾が砕ける音だけが聞こえる。
……耐えた?
吹雪が止んで顔を上げると、今度はエルが炎と闇の鎖でフォルテを縛っている。
―「二度も同じ手が通用すると思うな」
フォルテ、魔法で縛られてるのに飛んでいられるんだ。
「借りるぞ」
「え?」
「こんな場所でリリーと離れるわけにはいかないからな」
エルが私のウエストのリボンを解く。
そして、私とエルの体をリボンで結んだ。
―「ルーベル、フォルテの上空に飛んでくれ」
―「わかった」
―「リリーと一緒にフォルテに飛び移る。俺とリリーが落ちそうになったら、また援護してくれ」
―「良いだろう」
ルーベルが旋回しながらフォルテの背を目指す。
目が回る……。
酔いそう。
エルが私を抱きしめながら、フォルテに向かって飛び降りる。
こんな上空でも酔うなんて……。
『大丈夫?リリー』
「うん」
足手まといにはなれない。
エルから頼まれたこと、やりきらなくちゃ。
リュヌリアンを振り上げて、フォルテの翼めがけて振り降ろす。
足元が傾く。……けど、エルが私の体を支えてくれる。
もう一度、攻撃を加える。
けど、こんな方法じゃ時間がかかりそうだ。もっと効果的な攻撃手段……。
そうだ。
荷物の中から薬の瓶を出してエルに見せる。
「あのね、これ使ってみても良い?」
「なんだそれ」
―ドラゴン退治に使えそうな毒薬でも作ろうか。
「ルイスがドラゴン用に作ってくれた毒薬」
エルが眉をひそめる。
あ……。
もしかして、エルには言わない方が良かった?
ルイス、ごめん。
「傷口にかけてやれ」
「わかった」
毒薬をかけると、フォルテが大きな咆哮を上げて暴れる。
さっきよりも足場が安定しない。
『もしかして、酔ってる?』
「少し……。でも、大丈夫だよ。吐きそうな感じはしないから」
『それ、大丈夫って言うの?』
「大丈夫!」
剣を振り降ろすだけの簡単な作業。
翼を斬り落とすぐらい、やらなきゃ!
―「何故、精霊が人間に味方するのだ」
もう一度斬ると、フォルテが叫ぶ。
この調子なら……!
―「今と昔では違うんだよ!」
「いっけー!」
力を込めてリュヌリアンを振り降ろすと、さっきまで上を向いていた翼が力を失くしたように落ちる。
―「おのれ……」
急に、背後で大きな音が鳴る。
何の音?花火?
「リリー、落とすぞ」
何かの合図だったのかな。
「離れるなよ」
「うん」
エルの体に腕を回す。
……あれ?周囲に起こってる風って、エルの魔法?
いつの間にか風の魔法陣が描かれている。
もしかして、翼を失ったドラゴンが飛べるのはエルの魔法があるから?
―「エルロック。真下に落とすというのなら、手伝ってやろうか」
ルーベルだ。
―「頼む」
エルが私を抱きしめたままフォルテの背から降りる。
一気に落下すると思ったけど、エルが砂の魔法を使っているのか、落ちる速度は緩やかだ。
頭上で、ルーベルがフォルテの尻尾を咥えて、フォルテを地面に向かって投げつけてるのが見える。
真下は闘技場。
観客席に人はほとんど居ない。何人かが弓を持ってるから、兵士なのかも。
観客の避難は、もう終わってるんだ。
ルーベルが飛んできて、私とエルを背中に乗せる。
―「あの翼では、もう飛べないだろう」
―「手伝ってくれてありがとう、ルーベル。俺たちはこのまま地上に降りるよ」
―「では、さらばだ」
もう一度ルーベルの背からエルと一緒に魔法で飛びおりながら、ルーベルを見送る。
闘技場では、飛べなくなったフォルテと、兵士や魔法使いたちが戦っている。
飛べなくなってもブレスの威力は健在だ。複数の魔法使いが防御魔法を使っているのが見える。
エルがリボンを解いて、私の腰に結び直す。
「イリス、ナターシャ。リュヌリアンに宿ってリリーを援護してくれ」
『了解』
『わかったわ』
イリスとナターシャがリュヌリアンに宿る。
そういえば、エルが初めてフォルテと戦った時。フォルテのブレスを斬った瞬間、ブレスが氷結してたよね。
それはリュヌリアンに二人を宿してたからなんだ。
深呼吸。
地上なら酔うことはないから全力で戦える。
「行ってくる」
きっと、今のリュヌリアンはフォルテに対して一番効果のある属性になってるに違いない。
真っ直ぐ、フォルテに向かって走る。
「通して!」
兵士が開いた道をまっすぐ駆けて、フォルテの首に向かって攻撃を仕掛ける。けど、フォルテが首を振り回す。……簡単には狙わせてくれないよね。フォルテの攻撃をかわし、その頭に向かって攻撃すると、フォルテが傷のついていない翼を羽ばたかせて風を起こす。
リュヌリアンを地面に突き刺してその風に耐え、風が止むと同時に翼を斬りつける。回避行動を取られたせいでダメージは浅そうだ。
「撃て!」
誰かの号令に合わせて矢が降り注ぐ。
翼を羽ばたかせてフォルテがその攻撃に対抗してる。
下段からリュヌリアンを振り上げて斬りつけると、フォルテが私を睨む。
もう一度……。
攻撃を加えようとしたところで、足元が真っ黒になるのが見えて、その場から離脱する。
前も見たことのあるエルの魔法。
地面から溢れた闇がフォルテの体を縛って動きを封じる。
もがけばもがくほど絡む闇。
対抗するようにブレスの予備動作をしたフォルテめがけて氷の魔法が突き刺さり、フォルテがその衝撃で首の付け根を私の目の前にさらす。
―首の付け根に心臓があるよ。
付け根めがけて、リュヌリアンを突き刺す。
ドラゴンの大きな頭が地面に落ちて砂埃を上げる。
その瞳は閉じたまま開かない。
なんだか、悪い事をしているみたい。
こう思ったのは二度目だ。
一度目は、紫竜ケウスがブラッドに堕ちた理由をアレクさんから聞いた時。
フォルテは、どうしてブラッドに堕ちたんだろう。
それも人間のせいだったとしたら……?
こうする以外に方法はなかった?
私がしたことって、良かったの?




