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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
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83 すれ違う想い

 バロンスの十六日。決勝戦。

 最初は、エルと、セザールという人の戦い。

 ライーザさんと一緒に観戦席へ行くと、対戦する二人がもう並んでいた。

 エルも仮面をつけて顔を隠しているけど、相手の人も頭部を布で隠してる。この前会ったシュヴァイン家の人みたいだ。

「これより、皇太子殿下の名代、レクスと、ダミアン子爵の名代、セザールの試合を開始する」

 エルが直刀を右手で構える。

 セザールさんは幅広で湾曲した片手剣。あれは、カトラスかな。

「始めっ!」

 開始の合図と共に、セザールさんが先制攻撃を仕掛ける。

 速い!

 一気にエルとの間合いを詰めたセザールさんが、至近距離で武器を振る。

 間合いとしては近すぎる気もするけれど、そのせいでエルが防戦一方になってる。

 ……あの人。エルに怪我させるつもりで攻撃してる。剣術大会の戦い方じゃない。

 エルが腰から短刀を抜いて装備を二刀流に切り替える。確かに接近戦なら短刀の方が……。

「え?」

 セザールさんがエルの持つ直刀の刃部分を掴んで、エルごと振り回す。

 そして、カトラスでエルを……。

「あっ……」

 良かった。エルは上手く回避したみたいだ。

『リリー。落ち着いて見られないの?』

 思わず立ち上がろうとしていた私の腕を、ライーザさんが掴んでいる。

「すみません……」

「お気持ちはわかります。ですが、剣術大会の出場が危険であることは御承知でしょう」

 エルが私に出場して欲しくなかったのは、私に怪我して欲しくないからだ。

「……はい」

 エルが怪我する可能性なんて、全然考えてなかった。

 あれだけ回避と防御に特化した動きを出来る人が、怪我なんてするわけないって思い込んでたんだ。

 エル……。

 今度はエルが攻勢に出る。

 相手の剣を弾き、アレクさんみたいな素早い斬り返しでセザールさんの胴体をなぎ払う。

 え?相手を斬った?

 嘘。エルがそんな攻撃……?

『今の、どういうこと?』

「あれ……?」

 斬られたはずのセザールさんは全く血を流さずにエルと戦ってる。

「亜精霊ですね」

『亜精霊だって?』

 確かに、亜精霊は斬られても血を流すどころか、姿が変わったりしない。

 でも。

「亜精霊も参加できるんですか?」

「規定上、問題はないかと」

『問題ないの?』

 エル、相手が亜精霊だって気づいてるから、あんな攻撃をしたんだ。

「ただ……。これは、少し厄介です」

「どういうこと?」

「エルロック様の勝利条件が限られます。これまでのように敗北宣言をさせることは難しいのではないでしょうか」

 亜精霊が負けましたって言うところなんて、想像がつかない。

 戦いはエルが優勢のように見えるけど……。

 剣術大会は勝利条件が決まっているし、時間も無制限。

 どうやって勝つんだろう。

 突然、大きな咆哮が聞こえて、思わず耳を塞ぐ。

 獣特有の声。これ、亜精霊の……?

「あっ」

 腰を低くした亜精霊が、ものすごいスピードでエルとの間合いを詰めてエルに剣を振り、そして、左手でエルの肩を掴んだ瞬間、エルの右腕から血が出る。

『エル!』

「エルっ……!」

 エルがずっと右手で持っていた直刀を左に持ち替えて応戦する。

「怪我……」

 あの亜精霊、左手に武器でも持ってたの?……違う。自分の鋭い爪で攻撃したんだ。

「どうしよう、ライーザさん」

「試合中の治療行為は禁止です」

 そうだ。

 どうしよう。

 ここからじゃ見てることしかできない。

 あのまま戦って平気なの?

 ……エル。

 エルが相手の頭部を攻撃すると、頭部を覆っていた布が落ちる。

「狼の耳……。あれは、人狼ですね」

「人狼……」

 人狼って、赤帽子という物語に出てくる、人間のふりをして子供を騙す亜精霊だ。

 あの素早い動きは狼だから?

 でも、今は序盤のような繊細な剣士の動きはしていない。理性を失ったような滅茶苦茶な動き。あんな相手にエルが負けることなんてないと思うけど、怪我の具合が心配だ。

 右腕を見る限り、かなり深い傷に見える。早く治療しないと……。

『あれ?ジオだ』

 ジオ?

 エルから出たジオが、エルの剣に宿る。

 エルが両手で直刀を持ったかと思うと、それを下段から人狼めがけて斬り上げた。

「え……?」

『飛んだね』

 どういうこと……?

 斬ったのに、吹き飛んだ?

 相手は亜精霊だ。斬っても吹き飛ばすなんて不可能。

 何をしたの?魔法?……そんなことないよね。魔法で攻撃なんて禁止だ。

 じゃあ、風属性の武器だから?でも、リンの力が宿る武器であることに変わりはない。

 エルが吹き飛ばした相手に向かって飛ぶ。そして、吹き飛ばして落下する人狼に向かってもう一度、刀を振ると、亜精霊が、また吹き飛んだ。

 ……今度は良く見えた。あれ、刀の斬れない方、刃のない内側を使ってるんだ。

 吹き飛んだ人狼は皇太子席に向かって飛び、アレクさんの前方を警護していたグリフさんとツァレンさんが抜いた剣に刺された。

 亜精霊が消える。

「セザールは場外。よって勝者、レクス!」

 エルが勝った。

 次は、私の試合だ。

「リリーシア様。私はエルロック様と会うわけには参りませんので、ここで見送らせていただきます」

「うん。……エルの怪我、大丈夫かな」

「心配には及びません。マリユス様がいらっしゃいますし、何かあれば救護班は充実しておりますから」

『バニラも居るんだし、大丈夫だよ』

 ……大丈夫だと良いけど。

「いってきます」

「はい。ご武運を」


 ライーザさんと別れて観戦席から降りると、目の前からエルとマリユスが歩いて来る。

 怪我……。そんなに酷くないのかな。

『エル、観戦席に来るみたいだね』

「え」

 こっちに来るの?

 試合会場までは一本道。

 どうしよう。逃げ場がない。

『喋っちゃだめだよ。目元も隠して』

 兜の目元を覆う部分を下げて、少し俯いて歩く。

 心臓の音が外まで聞こえちゃいそうなぐらいドキドキしてる。

 どうか、ばれませんように。

「頑張って下さい」

 マリユスの声に顔を上げる。

 目の前に、エルが居る。

 軽く礼をしてから、エルとすれ違う。

 ……大丈夫?ばれなかった?

『振り返っちゃだめだよ。こっちを見てる』

 走って逃げたい衝動を抑えて、歩く。

 試合直前で、こんなに緊張することになるなんて。


 試合場で目元を覆う部分を上げ、深呼吸をする。

「ばれなかったのかな」

『さぁ。どうせ、ばれたところでどうしようもないんじゃない?』

 そうだよね。

 今更降りることなんて不可能。

 私には私の目的がある。

 試合場から皇太子席を見上げる。

 ロザリー。頑張るね。

 ムラサメさんに勝って、エルに勝つんだ。


「これより、ムラサメとバーレイグの試合を開始する」

 ムラサメさんが刀を構える。

 下段の構え、通用するのかな……。

 いかに隙を見せず、私の間合いに入られないようにするかが大事だと思うんだけど。

 というか。ムラサメさんも、攻撃を積極的に仕掛けるような人じゃないよね。

 なら、こっちから。

「始めっ」

 下段から真っ直ぐムラサメさんに向かってバーレイグを突き刺す。

 ムラサメさんが一歩引く。けど、刃は私の方を向いたまま。

 あれに当ててみる?

 バーレイグを斬り返して、なぎ払う。

 かわされた。

 ……隙を見せてはいけない。

 バーレイグを振り切らずに途中で止め、半歩下がる。

 あの構え、全然崩れないよね。

 少し誘ってみよう。

 甘い斬り込みを入れると、ムラサメさんが一歩踏み込んで入って来る。

 予想通り。

 バーレイグを刀に当てるように攻撃を繰り出す。けれど、絡め取らせてくれるような様子は全くなく、柔らかくかわされる。

 こっちの攻撃が読まれた?

 いや。あの構えがどんな動きにも対応可能なんだ。

 姿勢も構えも全然崩れてない。

 あの構えを崩す方法……。何か、あるかな。

 ゆっくり右に移動すると、ムラサメさんも私に合わせて移動する。

 ……なんて静かな戦いなんだろう。

 これって完全に相手のペースだ。

 どうにか、私のペースに持ち込まなきゃ。

 構えを中段に変えて、相手に向かって踏み込む。

 私の動きに合わせてムラサメさんが刀を動かす。……あの動き。私に攻撃する気がない。

 なら、この間合いは私の間合い。

 思い切りバーレイグでなぎ払うと、予想通りムラサメさんが回避する。そのまま振り切って……。

 途中から、砂の魔法で高速で回転する。

「!」

 見えた。

 バーレイグのくびれの部分でムラサメさんの刀を捕らえて、勢いのまま斬り払う。

 いけっ!

 ムラサメさんの刀が、飛ぶ。

『おー』

 審判が私の傍に来る。

「ムラサメは武器喪失。よって勝者、バーレイグ!」

 勝てた。

 ムラサメさんが私の傍に来て、手を差し出す。

「素晴らしい剣技。御見それしました」

 その手を取って、握手する。

「いえ。私こそ、すごく勉強になりました」

「……リリーシア様?」

『馬鹿』

「あっ。……あの、えっと……」

 ムラサメさんが苦笑する。

「噂が当てになることもあるのですね。優勝は目前。健闘を祈ります」

「はい。ありがとうございます」

 ここまで、来れた。

 


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