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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
73/149

81 あなたを信じて待つ

『ただいま』

『ただいまー』

「おかえり、みんな」

 窓から皆が入って来る。

『エル、寝てるの?』

 ナターシャがエルの顔を覗き込む。

 眠っているエルの頬をつつくと、エルが眉をしかめて向きを変える。

「寝てるみたいだよ」

『欠伸ばっかりしてたものね』

 エル、そんなに眠い状態で剣術大会を勝ち進んだんだ。

『リリー。本当にエルと戦うのー?』

「ジオ」

『ボクが全部話したんだよ』

『エルはリリーが参加してるなんて全然気づいてないわよ』

『気づくわけないわよぉ。メラニーが何も言わないものぉ』

 そうだ。メラニーには変装の意味がない。

『聞かれなければ答える必要はない』

 黙っててくれてるんだよね。

「ありがとう、メラニー」

『ねぇ。リリーはエルが大会に内緒で出場すること、怒ってないの?』

「だって、エルはアレクさんの為に優勝を狙ってるんだよね」

『そおねぇ。アレクがロザリーとの婚約を願うって疑ってないみたいだものぉ』

 疑ってないんだ。

 ……疑うわけないよね。エルは信頼してる人を疑ったりしない。

 私が出場することに気付いてないのだって、私が大会には出ないって言ってるからだ。

『でも、本当は違うのよね。何を願うのかしら』

『あれの考えていることなど、読もうとするだけ無駄だ』

 バニラは、フラーダリーと一緒に居たからアレクさんのことは良く知ってそうだよね。

 アレクさん……。

 本心がわかりにくいのは、自分が思ってる通りに行動できない人だからなんだろうな。

 どうして、エドムントさんが言ってたことを守ってるんだろう。

 アレクさんの先生だったから?

『リリーに怪我させたら、エルは落ち込むんじゃないかな……』

 アンジュ……。

『そぉねぇ』

 エルと戦うっていうことは、そういうこと。

『相手に怪我をさせるような戦い方はしないだろうが。真剣勝負だからな』

『リリー、気を付けてね』

「うん……」

 私が怪我することは、エルを傷つけることになってしまうんだ。

『ライーザだ』

 ノックの音がする。

「どうぞ」

 扉が開いて、ライーザさんが入って来る。

「エル、起きて」

 エルの頭を撫でる。

『起きないわねぇ』

『エル!』

『起きてー』

『起きなさーい!』

『起きろよ、エル!』

 エルが目を開く。

「うるさいな」

「ライーザさんが来たよ」

「リリーシア様の御支度に参りました」

「……わかったよ。リリー。また後で」

「うん」

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 精霊と一緒に部屋を出るエルを見送る。

『またねー』

 行っちゃった。

 ……剣術大会でやることが増えちゃった。

 怪我をせずにエルに勝たなきゃいけない。

 私の出場をエルに内緒にしてる皆も、エルが落ち込んだら悲しむだろう。

「こちらの御召し物をどうぞ」

 動きやすい服、用意してくれたんだ。

「ありがとうございます」

「お手伝いいたしましょうか?」

「いえ、大丈夫です」

 これぐらいなら、一人でやった方が早いよね。

 ワンピースを脱ぐのだけ手伝ってもらって、ライーザさんが用意した服に着替える。

 うん。良い感じ。

「稽古はオルロワール家でなさる予定ですか?」

「はい」

「私も同行いたします」

「え?皇太子席に行かなくて良いんですか?」

「リリーシア様の御世話を任されておりますから」

『アレクも、リリーがすぐ迷子になるから心配なんじゃないの?』

 昨日だって迷子になったわけじゃないのに。

 着替え終えて荷物を装備していると、ノックが鳴る。

「どちら様でしょうか」

 ライーザさんが応える。

「エミリーです。ロザリー様をお連れ致しました」

「どうぞ」

 扉が開いて、ロザリーとエミリーさんが入って来る。

「こんにちは」

「こんにちは、リリーシア」

 ドレスに着替えに来たんだよね。

『本当にタイミング悪いよね。もう少し早ければエルに会えたのにさ』

『別に、エルに会うことなんて期待してないわよぉ』

「リリーシア、お願いがあるんです」

 ロザリーが私に近づいてきて、私の腕を掴む。

「剣術大会で優勝してください」

「えっ?」

「エルが優勝すれば、アレクは私との婚約を願うのだとエミリーから聞きました」

「えっと……」

 今は事情がちょっと違うんだけど……。

 エミリーさんは知らない?それとも言ってない?

「アレクを止めて下さい。吸血鬼種を誰も反対できない方法で婚約者にするなんて。そんなことをすれば、すべての責任をアレクが負うことになってしまいます。皇太子の立場を悪くするどころか、神聖王国からも名指しで非難されかねません。アレクが今まで皇太子として努力してきたことが、すべて消えてしまう」

「ロザリー……」

 そんなに、アレクさんのことを想ってるのに。

「愛する人との戦いをお願いするのは申し訳ないのですが……。頼れる人がリリーシア以外に居ないのです」

『愛する人との戦い、ね』

 それは問題ないんだけど。

「私、エルに勝ちたいんだ」

「本当ですか?」

「でも、今のままじゃ勝てる気がしないの」

 エルがアレクさんの為に戦うなら。

 私にも、もっと勝利を貪欲に目指せる動機が欲しい。

「だから、ロザリー。私のお願いも聞いて」

「お願いですか?」

「私が優勝したら、ロザリーはアレクさんに返事をするって約束して」

「……無理です」

「お願い。私に力を貸して」

 二人が幸せになれるかもしれないなら。もっと頑張れる気がする。

「リリーシア。逆です。私が力を貸して欲しいのに」

「違うよ。私が力を貸して欲しいの」

 ロザリーが口元に手を当てる。

「なんだか変です。でも、何が変なのでしょうか。……エミリー、ライーザ、わかりますか?」

「リリーシア様はとてもお強い方です。間違いなくロザリー様の願いを叶えて下さることでしょう」

「エルロック様の優勝を阻止できるのは、リリーシア様以外におりません」

「えっ。私、全然強くなんてないよ。本気のエルがどれだけ強いか想像もつかない」

「エルはそんなに強いのですか」

「うん。……エルって、戦うのが好きじゃないんだけど」

「戦うのが好きではないのに、強いんですか?」

「誰かの為に何かをするのって、強くなきゃ出来ない事だから」

「強くなければ出来ない事……?」

「エルが戦うのは、いつも誰かの為なんだ。今はアレクさんの願いを叶える為に優勝を目指してる。アレクさんに幸せになってもらいたいから。……エルはアレクさんの為に絶対優勝するつもりなんだ。だから私は、ロザリーの為に戦いたい」

「リリーシア……」

 お願い、ロザリー。

 ロザリーが祈るように手を組んで私を見る。

「どうか私にも、貴女の強さを、勇気を分けてください」

「勇気?」

「リリーシアが優勝したら、私もアレクに愛を伝えることが出来る気がするんです」

「それって……」

「貴女のお願いを聞きます。どうか、私の為に優勝して下さい」

「うん!」

 ロザリーの両手を握る。

「ありがとう、ロザリー。私、頑張るよ。必ず優勝するから見ていて」

「はい」

 勝たなきゃ。

 勝つんだ。

 絶対に。


 ※


 ライーザさんと一緒に闘技場を出る。

『あんなこと約束して、エルに勝てる見込みあるの?』

 だって。他に方法がなかったんだもん。

『本当、何にでも首突っ込んで、安請け合いするんだからさ。これはアレクとロザリーの問題だって言ってるのに』

 だって、このままじゃ絶対に駄目だって思って……。

『あーもう。落ち込んでる暇があったら頑張ってよ。約束したんだからさ』

「うん」

 ありがとう。イリス。

「ライーザさん、行きたい場所があるんですけど」

「どちらでしょう」

「三番隊です」

「かしこまりました」

 忙しいっていうのは解ってるんだけど。

 相談できるの、隊長さんしか居ない。


「誰か!助けて!」


「え?」

 子供の声?

 ライーザさんと顔を見合わせて、声のする方に走る。

『見てくる』

 イリスが空高く飛ぶ。

 どこ?

 こっちの方だったと思うけど……。

『リリー、あっちだ』

 戻ってきたイリスを追って、角を曲がった先。

 鎧を着た人が数人と、布を巻いた覆面の人が数人、武器を構えて向かい合っている。

 しかも、その間に居るのは、うずくまっている小さな男の子。

 これって……?

「助けて!」

 私の方に向かって走ってきた男の子を抱き留める。

「その子供を渡せ」

「その子供はこちらで預かります」

 どういう状況?

 ライーザさんが私の耳元で、小声を出す。

「剣花の紋章はお持ちですか?」

「うん」

「剣花の紋章を掲げ、この子は私が預かると仰って下さい」

 首から下げていた紋章を出すと、その場に居た人たちが驚いた顔をする。

「双方、剣を納めなさい!」

 ライーザさんの声で、目の前に居た人たちが剣を納めてひれ伏す。

 えっと……。

「この子は私が預かります」

 これで良いのかな?

「異存ありませんね」

 誰も何も言わない。

 ライーザさんが男の子の前に跪く。

「貴方はリリーシア様の保護下に入りました。これは王家による決定と同義。貴方が何者であろうと、貴方に害為すものは王家の敵となるでしょう」

 男の子が私を見上げる。

「王族……?」

 ライーザさんが自分の口に人差し指を付ける。

 何も言わない方が良いのかな。

「参りましょう」

「えっと……。手を繋ぐ?」

 頷いた男の子と手を繋いで、ライーザさんの後に続く。


「ライーザさん。さっきの人たちって?」

「守備隊の一番隊と、シュヴァイン家の方々です」

「えっ?」

 一番隊?しかも、シュヴァイン家って……。

「シャルロさんの?」

「いいえ。シャルロ様の御父上が当主を務められる子爵家に御仕えの方々です。皆様、王家に忠誠を誓っておられる身。剣花の紋章に守られているリリーシア様の命令に背くことは致しません」

『すごいんだね。その紋章って』

 こんなの、私が持ってて良いの?

「リリーシア様がご一緒で助かりました。この方はベルクト様。アレクシス様が御探しのお子様です」

「アレクさんが?」

 私の手を握っている男の子の手が強くなる。

「俺を捕まえたって、何も出て来ないぞ」

「ご心配なく。アレクシス様の目的は、ベルクト様の保護でございます。そして、今はリリーシア様に守られているお方。誰もあなたに害為すことはできません」

「だって、俺は……」

「何もお話しにならなくて結構です」

『なんだか訳ありの子みたいだね』

「どうしてアレクさんはこの子を探してたんですか?」

「エドムント様に関係あることでございます」

「!……父さんは何処?」

「え?この子、エドムントさんの子供なの?」

「複雑な事情があるのです」

 エドムントさんは囚人だから……?

「アレクシス様の元で保護される事がベルクト様にとって最善であることをご理解ください」

『まぁ、さっきの様子を見る限り、子供相手に容赦なさそうだったもんね』

 あの人たち、この子を捕まえてどうするつもりだったんだろう。

 きっと、アレクさんなら酷い事なんてしないよね。

「リリーシア様を三番隊へお送り後、私はベルクト様を城にご案内します。私が戻るまで、三番隊でお待ちいただけますか?」

「急ぐなら私一人で行くよ」

 三番隊なら、ここからも近いはず?

「リリーシア様の御世話を任されておりますから、お送りいたします」

 ライーザさんが微笑む。

「よろしいですね?」

『リリー。返事は』

「……はい」

 

 ※

 

「こんにちは」

「おぉ。リリーシアに、ライーザ?……なんだ。迷子でも拾って来たのか?」

「ガラハド様、私が戻るまでリリーシア様をお預かり下さい。私はベルクト様を城へご案内しなければなりませんから」

「は?今、何て言った?」

「では、宜しくお願い致します」

「待て待て。おい!パーシバルを呼んで来い」

「了解」

 隊長さんに言われて、誰かが走って行く。

「どうせ、選択権なんてないんだろ」

 私と手を繋いでいた男の子が私の手を放して、ライーザさんが差し出した手を取る。

 怖いのかな。

 ……怖いよね。知らない大人に囲まれて、これからどうなるかもわからないんだ。

 そうだ。エルに渡しそびれちゃったあれ……。

「えっと……。ベルクト?」

「……何」

「これ、あげる」

 ポケットから、フランボワーズのキャラメルを出す。

「何?これ」

「キャラメルだよ。……心配しないで。アレクさんは良い人だし、エドムントさんだって元気にしてたよ」

「父さんに会ったの?」

「うん。昨日会ったばっかり。チェスをやってたよ」

「そうなんだ」

「隊長、何っすか?」

 パーシバルさんだ。

「小部隊を連れて、ライーザとその子を城まで護衛して来い」

「了解っす」

「ガラハド様。お気遣い、感謝いたします」

「じゃあ、行きましょうか」

 ベルクトが私を見上げる。

「キャラメル、ありがとう。……またね」

「うん。またね」

 ライーザさんがベルクトの手を引いて、パーシバルさんと一緒に部屋を出る。

「一体、どこであの子を見つけたんだ?」

「えっと……」

『闘技場からそんなに離れてないし、セントラルだと思うよ』

「セントラルだと思うんですけど……」

「状況を説明してくれないか?」

「闘技場を出て歩いてたら、助けてって声が聞こえて。ライーザさんと一緒に声がする方に行ったら、あの子が、一番隊とシュヴァイン家の人たちに囲まれてたんです」

「一番隊とシュヴァインねぇ……。そいつで連中を黙らせて保護したってわけか」

「あ」

 剣花の紋章、出しっぱなしだった。

「私、この紋章がこんなにすごいなんて知らなかったです」

「そいつは国宝の一つだぞ」

「国宝っ?」

『国宝なの?』

 隊長さんが笑う。

「知らなかったのか」

「だって、エルがフラーダリーから貰った形見じゃ……。え?国宝って、王家の紋章って一つしかないんですか?」

「当然だ。そいつはエイルリオンと対になるもの。紋章の正式な所有者は、常にエイルリオンの所有者だ」

 ってことは、今の持ち主はアレクさん。

 ……そして、前の所有者は国王陛下。

 国王陛下がフラーダリーに渡して、エルがそれを形見として持っていたってこと?

「あの……。私が持ってて良いんですか?」

 国宝なのに。

「ちょっと貸してみな」

 首から下げていた紋章を外して隊長さんに渡す。

「あれ?」

 紋章の中央の光が消えた。

「資格なき者が触れると紋章は光を失う。逆に、光を灯していれば紋章はその効力を存分に発揮するってわけだ。リリーシアは殿下の許可を得てこれを持ってるってことだよ」

―その紋章が中央に命を灯す限り。

―王家に忠誠を誓っている人間は、紋章の持ち主に逆らえない。

 そういえば、ツァレンさんが言ってたっけ。

 隊長さんから渡された紋章を私が手に取ると、紋章が光を取り戻す。

『不思議だね』

 本当に不思議な石……。

 精霊玉とも違うってことだよね。

「この国の人間は、聖剣エイルリオンと王家を表す剣花の紋章に忠誠を捧げる。リリーシアに逆らえる人間はそうそう居ないってことだ」

 剣花の紋章に守られてるって、そういうことなんだ。

 あれ?

―俺が忠誠を誓っているのは、アレクシス様ただ一人だ。

―紋章に忠誠を誓ってるわけじゃない。

「近衛騎士は除く?」

「知ってるんじゃないか。近衛騎士だけは、その紋章で言うことを聞かせることが出来ないんだよ」

 私、ちゃんとツァレンさんに最初に教えてもらってたんだ。

「まぁ、無暗に見せるもんじゃないから、しまっておきな」

 紋章を服の中に仕舞う。

「で?ライーザが来るまでどうするんだ?稽古でもしていくのか?」

 そうだった。

「あの、私、どうしてもエルに勝たなきゃいけないんです」

「本気で戦えば勝てると思うぜ」

「からかわないで下さい。エルはアレクさんに稽古してもらってるんです。この前の決闘でも勝てなかったのに……。エルに勝つ自信がないです」

「この前の決闘ねぇ。あの技の対策なんて考えなくて良いぜ」

「どうしてですか?」

「あんなの子供騙しだ。あの構えでエルが出てきたら、大剣のリーチを生かした突き攻撃でもすれば良い。剣を逆手に構えれば、武器のリーチを生かした攻撃が不可能になるからな」

 確かに。普通に持った時のようなリーチはない。

「逆手で構える行為はメリットがないってことですか?」

「そんなことはないさ。ナイフなら逆手に持った方が致命傷を狙えるだろう」

 そっか。私も短剣を使う時は、逆手が多いかも。格闘と組み合わせると使いやすい。

「それに、逆手持ちは防御に向いた構えでもある。こんな風に盾として使うこともあるだろう」

 隊長さんが自分の片手剣を逆手に持って、剣先に足を当てる。

「普通に持つよりも、自分を防御できる範囲が広がるってことですか?」

「そういうことだ。リリーシアも無意識にやってるんじゃないのか?」

 あんまり考えたことないかも。

『この前もやってたよね』

「……そっか」

 やってたのかな?

「まぁ、どちらにしろ大剣相手に防御特化の戦法をとっても仕方がない。あいつがやろうとしてることは限られてたんだよ」

 エルの攻撃を思い出す。

「最初から相手の降参を狙ってたのは明らかだ。狙いは、リリーシアが振り降ろそうとした大剣に自分のレイピアを当て、真空の魔法で引き寄せて大剣ごとリリーシアの体勢を崩すこと。ただし、エルの力じゃリリーシアの力には勝てない。だから風の魔法の勢いを利用することにしたんだろう。逆手なのは、普通の持ち方じゃ大剣に武器を当てて風の魔法で走り抜けるなんて出来ないからだ」

「……はい」

「それに、リリーシアの初撃は必ず右から左に流す攻撃。エルが左でレイピアを逆手に構えていたのも、リリーシアの攻撃の勢いを利用できるって利点もあったからだ」

 完全に私の初撃も読まれてたんだよね。

 隊長さんが突攻撃にしたら良いって言ってたのは、これもあるからなんだ。

「短刀を逆手に持ってたのは、すぐに納刀する為と、相手から死角の位置にあっても違和感がない持ち方だからだろう」

 そうだ。逆手なら私の方から短刀の刃が見えなくても違和感はない。

「後は、いつもと違う構えで現れたら混乱するのが普通だ。それも狙ってたんだろうな」

 あぁ。完全な敗北。

 私があそこに立った時点で、私の負けは決まっていたんだ。

 そして、隊長さんなら絶対に勝っていた。

「おさらいも済んだことだし、オルロワール家に行くか」

「え?」

「稽古をしたいんだろ?」

「でも、忙しいんじゃ……」

「俺も体を動かしたいと思っていたところだ。夕方ぐらいまでなら付き合ってやるぜ」

「ありがとうございます」

 やった。稽古して貰えるんだ。

「なぁに。バーレイグの扱いなら、ちょっとは教えてやれるってだけだ」

「え?隊長さん、バーレイグを使ったことあるんですか?」

「昔、ちょっとな。……そうだな。あいつと戦うなら、ちょっと構えを変えてみたら良いかもしれないぜ」

「構えを変える?」

「いつもは中段の構えだろ。下段の構えにしてみな。初撃のパターン化から抜け出せるかもしれないぜ」

 やっぱり、隊長さんには私の駄目なところがばればれだ。

『リリー。ライーザが戻ってくるまでここに居なくて良いの?』

 あ。

「あの、私、ライーザさんにここに居るように言われたんですけど……」

「俺と一緒にオルロワール家に行くって言っておけば大丈夫だろ」

『また、ふらふら迷子になるって言われても知らないからね』

 だって……。

 今は、少しの時間も惜しい。

 


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