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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
67/149

74 花の都

『本当にフィオを置いていく気?』

「良いんだよ。ぞろぞろ歩いてたら目立つんでしょ?」

『そうだけど』

『メルは本当に我儘なんだからさ。リリーだったら、絶対にソニアを置いて行ったりしなかったよ』

「もーぅ。せっかく外に行けるんだから、説教なら後にして!」

 そうだよね。日没までには帰らなくちゃいけないんだから、たくさん遊ばなくちゃ。

「メル、行きたい所って?」

「まずは甘いもの!」

『まずは、って……。外に出たらやりたいことはたくさんあったみたいだね』

「当然だよ。リリーのお勧めはどこ?」

「この時間なら、カフェか、パティスリーか、クレープガレットのお店か……」

「クレープ!」

「それならイーストのオリゾンってお店にいつも行ってるよ」

「どこにあるの?」

「えっと……」

 オルロワール家から、あそこに行くには……。

『リリー、いつも行ってるところなのにわからないの?』

「わかるよ。イーストの……」

「オリゾンは美味しいよね。王都なら裏道も全部知ってるから、良いルートで案内できるよ」

「お願い、クロード」

「はい」

『リリーは当てにならないよね』

 そんなことないのに。

「それから、花屋さんにも行きたいんだ」

「花屋ならフローラのお店かな」

「フローラの店はウエストだから逆方向だね。イーストのオリゾンでお茶をしたら、中央広場でお祭りを見て、ウエストのショコラトリーに寄って、フローラの花屋に寄るっていうのはどう?途中で可愛いお店があったら寄ってみても良いね」

「お祭り見たい!すごく良いよ、それ。でも、ショコラトリーって何?」

「チョコレートの専門店だよ」

「わぁ!素敵!」

「王都に来て、ウォルカの店に行かないなんて勿体ないからね」


 ※


 オリゾンでクレープを食べて、お祭りで少し遊んで。ウエストのウォルカさんの店へ。

「やぁいらっしゃい。こんなに素敵な御嬢様にいらっしゃっていただけるとは光栄の至りでございます。ではお近づきの印にベリーの入ったトリュフなんていかがですか」

「食べて良いの?」

「どうぞ皆様で」

『相変わらず、試食が多いよね』

「うん」

 ウォルカさんがメルに色んなショコラを出してる。

「美味しーい。こっちのは凄く上品で、こっちのは凄く濃厚だった。あぁ、この酸味もすごく合う!ショコラが芸術品って呼ばれるのがわかるよ」

「お褒め頂き光栄でございます」

「こんなに食べたらお腹いっぱいになっちゃいそう」

『メル、そんなに食べて大丈夫なの?』

『さっきクレープ食べてお腹いっぱいって言ってたの、誰だっけ』

「甘いものは別腹だもん」

『え?クレープも甘いものだよね?』

「あれとこれは違うよ」

『メルの別腹は一つじゃないから』

『うわぁ』

「こちらのショコラは雪をイメージした塩の結晶をあしらったものでグラシアルの姫君がいらっしゃっる記念に制作した新作のショコラでございます」

「素敵!」

『っていうか、良くウォルカの言葉を全部聞き取れるね』

『ほとんど聞いてないんじゃない?メルは雰囲気で受け答えできるから』

「ほら、リリーも食べて」

「えっと……。うん」

 メルが私の口にショコラを入れる。

「美味しい」

 塩気が良い刺激で、すごく合う。

 けど、今日は遠慮しておこう。

「ねぇ、これは?」

「そちらは……」

 メルから少し離れて、入口の近くに居たマリユスの傍に行く。

「マリユスは食べないの?」

「僕は護衛任務中だよ。リリーこそ、あまり食べてないみたいだけど。ショコラはそんなに好きじゃないの?」

「そんなことないよ。いつも食べ過ぎちゃうから」

「食べ過ぎる?」

「ほら。ウォルカさんって、たくさん試食させてくれるから」

「それ、本当?ウォルカがあんなに試食を出してるの、見たことないよ」

「そうなの?」

「今日はメル様の為にサービスしてるみたいだけどね」

「え?ばれてるの?」

「やっぱり、何も聞いてなかったんだ」

『馬鹿だな。グラシアルの姫を護衛一人で外に出すわけないだろ』

「え?じゃあ……」

「案内する予定の場所は人払いを頼んで、オルロワール家で護衛を配置済み。守備隊にも連絡して協力してもらってるよ。オリゾンだって、メル様のお席を用意するのに少し遠回りして時間を稼いでたんだけど……」

「遠回りしてたの?」

『まぁ、リリーは気付かないよね』

『とんだ方向音痴だな。同じ交差点を二回通ったんだぞ』

 全然気づかなかった。

 マリユスが苦笑する。

「うん。リリーが一緒だから上手く行ってるのかな」

「えっ?」

「今回の目的はお忍びの御遊覧だからね。メル様が楽しまれるよう、警備に気付かれてはいけないんだ。オリゾンで時間を潰してる間に、これから回る予定の場所の安全は確保済み。お祭り会場も三番隊に頼んで一部を封鎖してもらっていたんだ。不自然にならないように人を配置しているけど、皆、一般人を装って護衛をしている人だからね」

『抜かりないね。流石オルロワール家だ』

―オルロワール家は視界に入る位置での護衛は禁止。

―俺も護衛についてやるが、正式な書類が届く前にやっておくことがあるんじゃないのか?

 これって、アレクさんの指示だったのかな。

「ウエストはメル様が気に入りそうな店を何件か回る予定だから、リリーもメル様をそれとなく誘導してもらえる?」

「気に入りそうな店って、どうやって調べたの?」

「魔法研究所へ行ってマリアンヌ様に助言を頂いたそうだよ。その時に、クロードも協力してくれることになったんだ」

「クロードって魔法研究所の人なの?」

「違うよ。姉のユリア様に会いに魔法研究所に来ていて、メル様の御案内役を買ってくれたんだ」

「そうだったんだ」

 言われてみれば、ユリアと何となく似てるかも?


 ※


「こんなに荷物が増えるなら、フィオに来てもらった方が良かったな」

 クロードが案内してくれた通りにあったのは、私がメルを誘導する必要もないぐらい、メルが進んで入って行くお店ばかり。

 流石マリーだよね。メルの好みも完全に把握してる。

 でも、おかげでマリユスの両手がふさがるぐらいの荷物になってしまった。

「マリユス、手伝おうか?」

「平気だよ。重いものはないから。……剣を抜くのが遅くなってしまいそうだけどね」

 両手に、そんなにかさ張る荷物を持った状態で戦うの?

「何かあった時は私も戦うから大丈夫だよ」

「その装備で戦う気?」

 バーレイグを持ち出すわけにはいかないから、今は短剣しか持ってないけど。

「大丈夫。メルを守るぐらいなら出来るよ」

 動きやすい服装だし。

「だめだよ。今日はリリーも護衛対象なんだから、大人しく僕とクロードに任せて」

「私も?」

「そうだよ」

『メルリシアはリリーに懐いてるんだろ?お前に何かあったら黙ってないだろ』

『確かに。リリーを置いて逃げることは絶対にしないだろうね』

「そっか」

 私が率先して戦うと、メルを守れなくなっちゃうんだ。

「心配しなくても、何か起こる前にレイリス様が守ってくれるよ。あの方はアレクシス様が信頼されている方だから」

『そういうわけだ。だから、ちゃんと大人しくしてろよ』

「わかった」

『ねぇ、マリユスってレイリスが精霊なこと知ってるの?』

『俺は何も言ってないぜ。こんな近くで護衛してるなんて思ってないだろ』

「あのさ、リリー」

「うん?」

「レイリス様って、エルロックさんとどういう関係か知ってる?」

「えっ?その……」

「兄弟とか?」

『兄弟、ねぇ』

『メルには双子って言われてたよね』

 見た目じゃ親子には見えないもんね。でも。

「兄弟じゃないことは確かだよ」

『余計なこと言わないでよ』

「そうだよね。エルロックさんは孤児のはずだし。でも、他人の空似って感じはしないんだよな」

 エルが歳をとったら、レイリスよりも年上にみられちゃうのかな。……なんだか不思議。

『アレクは一体なんて説明してるの?』

『説明なんてしてないぜ。近衛騎士の連中は、アレクが言わないことには突っ込まないからな』

「リリー!ここのマカロンってそんなに美味しいの?」

 呼ばれて、メルの方を見る。

「すごく美味しいよ」

「じゃあ、マカロンもお願いします」

 もうすぐ買い物も終わりそうだ。

「女の子ってマカロンが好きだよね。そんなに美味しい?」

「うん。すごく美味しいよ」

「……そうなんだ」


 ※


 フローラの店で買い物をして、陽が暮れる前に皆でオルロワール家へ戻る。

 レイリスはオルロワール家の屋敷に入る前に帰ってしまった。

『無事に帰れたね』

 何もなくて良かった。

「おかえりなさいませ、メルリシア様」

「ただいま、ロジーヌ」

「本日はお楽しみいただけましたか?」

「とっても素敵な一日だったよ。ありがとう」

「それは素晴らしいことです。では、荷物はこちらで御部屋まで御運びいたしましょう」

 メイドさんたちがマリユスから荷物を受け取る。

「お疲れでしょう。すぐにお部屋へ……」

「メル!」

「アリシア」

 アリシアが走って来る。

「おかえり。無事で良かった」

「……うん」

「マリユス様、クロード様、リリー。今日一日、メルの我儘にお付き合いいただき、ありがとうございました」

 アリシアが頭を下げる。

「とんでもない。騎士としてメルリシア姫様にお仕えさせて頂き、光栄です」

「私も今日一日、姫様にお仕えさせて頂き、光栄でございます」

「あの……」

 メルが姿勢を正して、マリユスとクロードの方を見る。

「マリユス様。クロード様。今日一日、大変楽しませていただきました。貴重な体験をさせて頂き、本当に感謝しています。王都を視察させていただくことで、ラングリオン王国の素晴らしさを改めて確認することが出来ました。私が学んだことはグラシアルへ伝えることを御約束いたします。どうかアレクシス様に、私が感謝していたと、よろしくお伝えください」

「かしこまりました。姫君が大変楽しまれたとあれば、主君もお喜びになることでしょう。必ずお伝えいたします」

「どうか残り少ない御滞在もお楽しみください。私たちはこれで失礼いたします」

 二人が礼をして、オルロワール家を出て行く。

「あの、アリシア……」

「今のお礼の言葉は素晴らしかったよ。メルもしっかり役目をはたしているな」

「怒らないの?勝手なことしたのに」

「話しは聞いたよ。アレクシス様の御配慮だと。良かったじゃないか」

 アリシアがメルの頭を撫でる。

「ごめんなさい」

「珍しく殊勝だな」

「すごく楽しかったけど、たくさんの人に迷惑かけたのもわかるから……」

「それがわかれば十分だよ。アレクシス様に、一緒にお礼の手紙を書こうか」

「うん。……あのね、これ、アリシアにあげる」

 メルが、芍薬のブーケをアリシアに渡す。

「美しい花じゃないか。ありがとう。メル」

 あの花、アリシアに贈りたかったんだ。


 ※


「リリー、途中まで送るよ」

「アリシア」

「裏口から帰るんだろう?」

「うん」

 隊長さんの家には、オルロワール家の裏口を使えばすぐだから。

 遅くなっちゃったから、ルイスとキャロルはもう寝ているかもしれない。

「今日はメルを連れ出してくれてありがとう」

「レイリスがアレクさんに頼んでくれたんだ」

「詳細はロジーヌから護衛計画と共に聞いたよ。レイリス様もご一緒じゃなかったのか?」

「レイリスは屋敷に入る前に帰っちゃったんだ」

「そうか。……お礼を言える機会があれば良いのだが。リリーも、レイリス様に会ったら、改めてお礼を言っておいてくれないか?」

「うん。わかった」

「頼んだよ」

『本当に怒ってないの?』

「これでも、メルには重役を任せ過ぎたと思っているんだよ。窮屈な想いをさせているのは承知している。少しぐらい遊ばせてやりたい気持ちもあるが、私ではそれを許可できないからな」

『甘い顔を見せればすぐに図に乗るからな』

 リウム。

『あー。わかるよ。フィオも蔑ろにしてたからね』

 アリシアが笑う。

「あれは、メルなりの気づかいなんだよ」

「気づかい?」

「メルは姫になってから、いつ、誰から命を狙われてもおかしくない立場になってしまったんだ。四六時中監視されるのは当たり前。そのストレスをフィオにぶつけてるのは、メルもわかってるんだよ」

「じゃあ、メルはフィオを休ませてあげようとしたの?」

「そういうことだ」

『もう。天邪鬼なんだからさ』

「フィオもわかってるんだよ」

 そうだよね。

 ずっと一緒に居たから、言わなくてもわかることはたくさんある。

 今日、メルがフィオの為に選んでた帽子、ちゃんとあげられたかな。

「メルは楽しんでいたか?」

「うん。すごく楽しんでたよ」

『満喫してたよね』

 私も楽しかったな。

「なら良かった。花の種は以前から自分で買いに行きたいと言っていたからな。……そういえば、メルが私にくれた花が何か知っているか?」

「芍薬だよ」

「芍薬というのか。本当に美しい花だな」

 フローラの店に行った時のことを思い出す。

 メルが花屋に行きたかった理由。

 一つは、グラシアルの気候でも育つ花の種を買うこと。自分で調べた知識もあったみたいだけど、フローラにも相談して花の種や球根をたくさん買っていた。

 それから、もう一つ。メルがフローラに相談して作ってもらったもの。

「あれはね、感謝したい人に贈るブーケなんだって」

「感謝?」

 メルはアリシアに、こっそり気持ちを伝えたかったんだよね。

「本当に、この国は気持ちを花で表現するのだな」

 花って貰えるだけでも嬉しいのに、それに特別な意味があったら、もっと嬉しいよね。

「あ、妖精だ」

 妖精が飛んでる。

 暗い中で妖精や精霊が飛んでいると、その淡い光が目立って見える。

「この国は本当に妖精が多いな。私が旅をしたどの国よりも、妖精が居るように感じる。特に王都は多いと思わないか?」

―新しい薔薇が生まれれば、新しい妖精が生まれるんだ。

「ここで生まれた妖精もたくさん居るからじゃないかな」

「ここで生まれた妖精?」

「えっと……。人間が品種改良をしたり、手を加えることで、植物がアンシェラートと新しい繋がりを作れることがあるんだって。そうすると、新しい妖精が生まれるって」

「そんなことがあるのか」

 でも、ここに居るのは新しく生まれた妖精ばかりじゃないよね。

 ラングリオンは、妖精に愛されてる国ってことなのかな。

 


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