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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
66/149

73 天気も良くて誰も居ないから

 バロンスの十日。

 午前中からオルロワール家で稽古をして、今はメルと一緒にランチを食べているのだけど……。

「お願い。もーぅ、我慢の限界なの」

『メル、我儘はだめだよ』

『そうだよ』

「ザレアもイリスもうるさーい!」

「でも、メルに何かあったら大変だよ」

「アリシアが居ない今しかないの!」

 アリシアは今朝から錬金術研究所に出かけているらしい。

「ポリーは?」

「遊びに出かけてるよ!」

『あー。だから余計に外に出たいのか』

「だから、王都で遊べるのは今日しかないの。大会が終わったら帰らなくちゃいけないし」

『リリー、聞く必要ないからね』

「イリスは黙ってて!ちょっと出かけてくるだけだよ。すぐに帰る。だから、それまで私のふりしてここに居て?」

「でも……」

 上手く行くのかな。

 私と着ている服を交換して、髪型を変えて。

 私がメルのふりをしてここに居る間に、メルが私のふりをして出かけるらしいのだけど。

「フィオにも内緒にするんだよね?」

「フィオったら、アリシアから頼まれてるから協力できないって言うんだもん」

 協力者が一人も居ないんじゃ、難しい気がするけど……。

『だからって、部屋から追い出すなんて可哀想だよ』

『珍しく一緒に居ないと思ったら。気に入らないからって追い出したの?』

「だって、アリシアの味方するんだもん」

『フィオはメルを心配してるんだよ』

 メルがザレアから顔を反らす。

『っていうか、一人で出かける気?』

「ザレアが一緒だよ」

『そんなの一人と変わらないだろ』

「一人はだめだよ」

「ちょっと出かけて来るだけだってば!もう、屋敷の中に居るのも、貴族に会うのもうんざり。私も遊びに行きたいよ。リリー、お願い」

 メルも可哀想だけど……。

『ここで甘い顔見せちゃだめだからね』

 どうしよう……。

 そうだ。

「メル、オルロワール家って広いんだよ。オルロワール家の庭を散歩するんじゃだめ?」

「えー、庭ー?」

「池があるんだって」

「池?」

「この前聞いたんだ。ランチを食べたら、一緒に行こう」

「仕方ないなぁ」

 メリブ、今日も居るのかな。


 ※


 ランチが終わって、ロジーヌさんに庭を散歩したいと言ったら、そのまま庭を案内してもらうことになった。

 荷物を持ったメイドさんが三人に、近衛騎士も二人。遠巻きにもメルを護衛している人が居る。

 オルロワール家の敷地内でも、こんなに護衛がつくなんて。メルが窮屈に思うのも無理はないよね。

「こちらが水の庭園でございます」

 広い池。

 周りには花が植えられていて、大きな木が一本ある。

 その木陰で寝転んでいた人が顔を上げて、こちらに手を振る。

「リリー。なんであいつがここに居るの?」

『あれはエルじゃないからね』

「え?」

『違うの?』

『ちょっと黙ってて』

「お茶の御用意をいたしましょうか」

 メイドさんが持ってる荷物って、お茶のセットだったんだ。

「のんびりしたいの」

「かしこまりました。側に控えておりますので、御用がございましたら何なりとお声かけください」

 ここで待っててくれるってことなのかな。

 メルと一緒に、池のほとりに居るレイリスとメリブの傍に行く。

『こんにちは、リリー。メルリシア』

「こんにちは」

「こんにちは。貴方、確かマリーの精霊よね?マリーと一緒に居なくて良いの?」

『一緒の時もあれば離れることもあるわ。私、水の傍が好きなのよ』

「精霊って自由で羨ましいな」

 メル……。

『お姫様がこんなところをうろうろしてて良いのか?』

「ずっと屋敷の中に缶詰めなんて飽きちゃうもん。それより、あなた、本当にエルロックじゃないの?」

『瞳の色が違うだろ。俺の名前はレイリス』

「そういえば、エルロックは紅色だっけ。……あ。その瞳ってアレクシス様と同じ?」

『ふふふ。エルとそっくりだけど別人なのよ』

『逆だって言ってるだろ。エルが俺に似てるんだよ』

「あなたも精霊が見えるの?」

『まだ気づいてないのか?俺は精霊だぞ』

「え?……ええぇっ?」

「どうかなさいましたか?」

「なっ、なんでもないです!」

「大丈夫!なんでもないよ!」

 駆けだそうとしていた近衛騎士とロジーヌさんを止めて、頭を下げる。

『もう。大げさ過ぎるよ』

 メルがレイリスの顔を覗き込む。

「だって、そっくりってレベルじゃないよ。同じ顔にしか見えない。もしかして、あなた……、もともと人間だったの?」

 レイリスが目の前で盛大に笑う。

『元人間、ねぇ』

『なんでそうなるかなぁ』

「エルロックと双子じゃないの?実は王族でアレクシス様の弟とか」

『あー。もう。それ以上笑わせるな』

『物語の読み過ぎだよ』

『面白い子ね』

「ひどいよ。真面目に話してるのに!」

『レイリスは大精霊だからね』

「わかるよ。人の姿なんだから」

『わかってないね』

 人の姿をした精霊は、大精霊と強い精霊の二通りいる。

 大精霊とは神から生まれた精霊のこと。

 強い精霊とは、大精霊から生まれた精霊の中で、大きな力を持った精霊のこと。精霊は魔力の大きさによって姿が変わるのだ。イリスも一度、人の姿をとれるぐらいの力を持ったことがある。

『で?俺に何か用か?』

「用なんてないよ。リリーに外に行きたいって言ったら、オルロワール家の庭で我慢しろって言うんだもん」

『外に行きたいから身代わりになれって、リリーにせがんだのは誰だよ』

『馬鹿だな。そんなの、すぐにばれるぞ』

「どうして?瞳の色さえばれなきゃ大丈夫だよ」

『お前を監視してる人間が何人いると思ってるんだ。子供の浅はかな考えが通用する相手じゃないぜ。どうせ我儘お姫様の思考パターンぐらい、アリシアだってオルロワール家に連絡済みだろ』

『確かに』

 そうだよね……。

「むぅ」

 メルが頬を膨らませる。

『そんなに外に出たいなら、アレクに頼んでやるか?』

「アレクシス様に?」

『ん……。まぁ、俺が面倒見てやっても良いぜ。……あぁ、そいつが良い。……ん。待ってな。すぐに手配するってさ』

「手配?」

 メルが首を傾げる。

『俺はどこに居てもアレクと意思疎通できる方法を持ってるんだよ』

「ラングリオンってどうなってるの?大精霊に守護されてる国だなんて聞いてないんだけど」

「えっと……」

『他言無用だぜ。さてと』

 レイリスが周囲に砂嵐を起こしながら、顕現する。

「メルリシア姫様!」

 近衛騎士たちが走って来て、レイリスに剣を向ける。

「悪いな。驚かせて」

「レイリス様」

「失礼いたしました」

 近衛騎士が剣を下ろして礼をする。

 レイリスって、偉い人なの?

「ロジーヌ。アレクから連絡だ。こいつの支度をしてやってくれ。マリユスが来たら王都に出かけてくる」

「王都へ?」

「アレクの主命だ。マリユスは日没までメルリシアの王都視察に同行。オルロワール家は視界に入る位置での護衛は禁止」

「レイリス様。御言葉ですが、」

「オルロワール伯爵にも一筆書いてもらうんだ。俺も護衛についてやるが、正式な書類が届く前にやっておくことがあるんじゃないのか?」

「……かしこまりました。メルリシア姫様。お出かけのお支度を致しますので、こちらへ」

「良いの?本当に?」

「今日一日、思う存分遊んだら、後はオルロワール家の言うことをちゃんと聞けよ」

「もちろん!」

「良い返事だ。さっさと支度して来い」


 ※


 モスグリーンの花柄ベロアワンピースに、同じベロア素材でリボンのついた帽子。

 頭は変装の為に栗色の鬘をつけて、カラーレンズの眼鏡をつけている。

「可愛い。すごくお洒落だよ」

「えへへ。ありがとう。リリーも素敵だよ」

 私まで着替える必要あったかなって思うけど。

「ありがとう」

『素敵って。メルが選んだんじゃないか』

『最初の服の方が可愛かったのにな。趣味が悪いぞ』

『メルはリリーをいつまで王子様だと思ってるのさ』

「これで良いの!」

 今は支度が終わって、メル、フィオ、私でマリユスを待っているところだ。

 レイリスは顕現を解いてる。

「リリーシア様。メルリシア様に付き合わせてしまい、申し訳ありません」

「え?すごく良い感じだよ」

 動きやすい服は歓迎だ。

 バーレイグを持ち出すわけにはいかないから、装備が短剣しかないのが不安だけど。

「そういえば、近衛騎士のマリユス様って、リリーに薔薇を贈った人だよね」

「うん」

「あれって結局なんだったの?」

「感謝の気持ちだって」

 七本の意味は誰も教えてくれないけど。赤じゃないし、メッセージカードにもお詫びと感謝って書いてあったから、合ってるんだよね。

「感謝かぁ……。ねぇ、マリユス様ってどんな人?ツァレン様みたいな感じ?」

「え?ツァレンさんとは全然雰囲気が違うと思う。私と同い年ぐらいの人だよ」

「そうなんだ。かっこいい?」

「真面目で素敵な人だよ」

「本当?早く会いたいな。まだかなー?」

「メルリシア様、あまりはしゃぎ過ぎないでください」

「むぅ」

「皇太子殿下の御好意あってのお出かけです。マリユス様にもご迷惑をかけないようにしてくださいね」

「わかってるよ。あ!出かけてる間は敬語は禁止。私のことはメルって呼んでよ」

「そんな恐れ多いことは……」

『姫の名前を堂々と呼ぶのは良くないだろうし、メルで良いだろ』

「ほら!……っていうか、今って顕現してない?」

『今気づいたの?』

『ぞろぞろ歩いてても目立つだけだろ。傍で護衛してやるから俺には話しかけるなよ』

「わかった」

『リリーもな』

「うん」

「……私の知らない精霊が居ますか?」

 フィオにはレイリスは見えないんだよね。

「すごい精霊が居るんだよ。私を守ってくれるって」

「そうでしたか。どうか、メルリシア様をよろしくお願いします」

『あぁ、まかせとけよ』

「まかせて、だってさ。フィオよりも頼りになるんだから」

「それは頼もしい限りです」

 フィオが優しく微笑む。


「マリユス様が到着されました」

 部屋の中にマリユスとロジーヌさん、それからもう一人、魔法使いの光を持った子が入ってくる。

「お待たせいたしました、メルリシア姫様。皇太子近衛騎士のマリユスと申します。我が主君、アレクシス様より姫様の護衛を仰せつかり、参上いたしました」

 マリユスが深くお辞儀をする。

「待っていたよ。よろしくね」

「はい」

 今日は近衛騎士の恰好はしていない。お忍びのお出かけだからかな。

「はじめまして、メルリシア姫様。クロードと申します」

 クロード。初めて会うよね。金髪碧眼で、ルイスみたいな恰好をした子だ。

「本日は姫様の御案内役を務めさせて頂く為、参上いたしました」

「案内?オルロワール家の護衛はなしじゃなかったの?」

「クロード様はオルロワール家の者ではございません。姫様の御遊覧に役立つかと思い、王都に詳しい方をお連れ致しました」

『どうせ右も左もわからないんだから、案内ぐらい連れて行け』

「じゃあ、フィオの代わりに連れて行く。フィオはお留守番ね」

「留守番ですか?」

『メル、どうしてそういうこと言うのさ』

『フィオが可哀想だよ』

「もう決めたの。フィオは一日、オルロワール家で待ってて」

「かしこまりました。……マリユス様、クロード様、どうかメルリシア様をよろしくお願いいたします」

「お任せください」

「仰せのままに」

「二人とも、今日は堅苦しい敬語はなし。私のことはメルって呼んでくれる?」

「では、メル様と」

「もーぅ」

「よろしく、メル」

 メルがにっこりほほ笑む。

「よろしく、クロード。行こうか」

 


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