67 学ぶ余地
バロンスの四日。
あの後、夜遅くまで稽古をしたせいで、エグドラ家に泊めてもらうことになってしまった。
疲れ果てて、ぐっすり寝て。
そして、朝からまた稽古に付き合ってもらっている。
「さっきの、こんな感じで剣を振ってたの、どうやってるの?」
「こんな風に……」
「その前からお願いできる?」
「一手前のは、フェイント。勢いをつけているように見せかけているだけだよ。ほら、足元を見れば本当は力を入れている場所が違うってわかるだろ?」
こうかな?
難しい。
「マリユス様、リリーシア様。お茶の準備が整いました」
「シルヴィ」
「シルヴィさん」
エグドラ家のメイドのシルヴィさんだ。
剣を下ろして、マリユスと一緒にシルヴィさんの方へ向かう。
「そもそも、これは大剣向きの技じゃないよ。リリーがやるなら、振り降ろすふり、までだ」
「それじゃ、ただのフェイントだよ」
「だから、フェイントだって……」
「本気の攻撃に見える。すごく上手いよ。だから、なかなか手を出せないんだ」
「それ、言われるまで気づかなかったな。それよりも、さっきの……」
シルヴィさんが笑う。
「お二人とも、コーヒーが冷めてしまいますよ」
「休憩にしようか」
「うん」
『あっという間に仲良くなったな』
『なんか似てるよね。リリーとマリユスって』
そうかな。
テーブルにあるコーヒーを一口飲む。
あったかくて美味しい。
『なんだか他の人を見かけないけど。剣術大会の時期って、お客さんが来てるんじゃないの?』
「あの、こんなにお世話になって大丈夫ですか?」
急に押しかけて、お世話になりっぱなしだ。
「もちろんです。どうぞ、ごゆっくり御寛ぎくださいませ」
「エグドラ家にも剣術大会の為にお客さんが来てるんですよね?」
「御心配はいりません。当家で受け入れるのは、親族のみとなっておりますから」
「親族のみ?」
「もてなせるのが母だけだから、他家の受け入れはしてないんだ。どうぞ」
「ありがとう」
マリユスからもらった焼き菓子を食べる。
ドライフルーツがたくさん入っていて美味しい。
「父が近衛騎士として不在で、クロフト兄さんも一番隊の仕事が忙しいからさ」
そっか。警備を厳重にしなきゃいけない時期だから、騎士は家に居ないよね。
マリユスも近衛騎士だから、本当だったら今の時期は家に居ないはずなんだ。
「カミーユさんは?」
「兄は……」
「カミーユ様が御帰りになる御予定はありません」
「勘当されてるから?」
「違うよ。誰が広めた噂か知らないけど、父は兄を勘当していないんだ」
「そうなの?」
エルもそう思ってたみたいだけど。
「父が兄を勘当したなら、兄がエグドラの名を名乗れなくなってしまう」
勘当って、そういう意味なんだ。
「ただ……。クロフト兄さんが、カミーユ兄さんに出て行けと言ったらしいんだ。僕はその場に居なかったから知らないんだけど」
『意外だな。エグドラ家の兄弟は、仲が良いことでも知られていたのだが』
「そうなの?」
「僕は従騎士になるまで本家に居たから」
『先日、カミーユが居酒屋でマリユスのことを頼むと懇願していただろう』
カミーユさん、マリユスのことを心配してるんだ。
『ボク、その場にいなかったよ』
『そうだったか』
厨房で話してたのかな。
カミーユさん、アレクさんとエルが厨房に居たの知ってたよね。
『カミーユとクロフトはどうなの?』
『カミーユがアレクの近衛騎士になることを一番期待していたのが兄のクロフトだったんだ』
「じゃあ、クロフトさんは、カミーユさんが騎士にならなかったから出て行けって言ったの?」
「そうじゃないかな。……気分を害すと思うから聞き流してくれて構わないけど。カミーユ兄さんが騎士の道を捨てたのは、エルロックさんのせいなんだ」
「エルのせい?」
「マリユス様……」
「あの人と出会わなければ。あの人が兄を錬金術の道に引きずり込まなければ、兄は間違いなく騎士の道を歩んでいたのに」
『もしかして、私怨ってそれが理由なの?』
『エルロックに突っかかっていたのはそういうわけか』
「じゃあ、私に戦いを挑んだのって、」
「僕がリリーに怪我をさせたって聞いたら、エルロックさんが怒って勝負を受けてくれると思ったんだ」
『真剣勝負を挑んだって聞いただけで怒りそうだけどね』
内緒にしよう。
「リリーはエルロックさんの大切な人だからさ」
『それ以前に、アレクが気に入っている娘に手を出す方が問題だ』
「えっ?」
『これだけアレクに色々してもらって、自覚ないの?』
「怪我させようなんて思ってごめん」
『誰の為にバーレイグを取り寄せたと思っている』
「結局、リリーにも勝てなくて、エルロックさんにも勝つ見込みがなくなったわけだけど」
『エルに勝つつもりだったんだ』
『そう思って良いほどの実力はある』
えっと……。
「あの、恨みがあるのはわかったよ。でもそれって、エルに勝てば満足できることなの?」
『逆恨みでしょ?』
『誤解を解いてやらないのか』
私が解ける誤解なのかな……。
「どうだろう。エルロックさんに会ったら、ずっと恨みを晴らそうって思ってただけだから。ほら、あの人って自由人で、アレクシス様の後ろ盾もあって、痛い目に合ったことなさそうだし」
「それは……」
『浅はかだな』
『リリー。余計なこと言わないでよ』
わかってるけど。
マリユスは知らないのかな。フラーダリーのこと。
「でも、カミーユさんは自分で錬金術研究所に入ることを選んだんだよね?」
「選んだ?違うよ。リリーは知らないと思うけど、あの人に会ったせいで、どれだけの人が道を踏み外したと思う?」
「え?」
道を踏み外した?
「兄と同期の人が研究所に入ることが多かったのは、あの人に影響されたからだ」
そういえば、研究所ってエルの同期の人が多いよね。この前、パッセさんの店に集まったのもそうだ。
「本家に帰らなければならない人だって居たのに。マリアンヌ様が婚約者を失くしたのも、シャルロ様がシュヴァイン家の跡継ぎにならなかったのも、全部あの人のせいだ。アレクシス様が婚約者を持たないのだって、あの人のせいだって言われてるじゃないか」
マリーは婚約者が嫌いだったはずだし、アレクさんは自分の意思で婚約者を作らなかったんだよね。
シャルロさんはどうだったんだろう。弁護士は自分で選んだ仕事じゃないのかな。
『くだらない噂だ』
『噂を鵜呑みにしてるの?』
『エルロックもカミーユも、貴族の間での評判は高くない』
王都では、そんな感じしなかったけど。
「僕は兄を尊敬してる。父もクロフト兄さんも、カミーユ兄さんが養成所を卒業すれば、間違いなく魔法剣士として優秀な騎士になると言っていたのに。……どうして、魔法使いの素質を持っていながら錬金術?関係ないじゃないか」
あれ?錬金術って魔法も使うよね?
違ったかな。
「カミーユさんの作った薬のおかげでたくさんの人が救われてるよ」
「それは研究所の成果であって兄の成果じゃない。集団で行うものなんて、誰がやっても同じだ」
「そんな言い方はないと思う」
「誰もカミーユ兄さんの本当の凄さを知らない。兄さんの力を最も生かせる場所は、そんなところじゃないのは明らかなのに」
『本当の凄さって言われてもね』
カミーユさんは頼りにされてて、すごい人だって、王都の人は知ってると思うんだけど……。
「でも、カミーユさんは名声の為に仕事してるわけじゃないよ。エルは、カミーユさんは好きなことやってるって言ってたよ」
「好きなこと?今やってることが、兄さんが僕たち兄弟の夢を捨ててまでやりたかったことだって言うのか」
「夢?」
「僕たちの夢は、騎士として、国を支える存在となること。兄が目指していたのはアレクシス様の近衛騎士だったのに」
「それなら、マリユスが叶えたんじゃ……」
「違う。こんなの、叶えたなんて言えない。カミーユ兄さんが捨てた夢なんて」
マリユスが俯く。
そっか。
マリユスは騎士としてのカミーユさんをずっと応援していて、三人で騎士になる未来をずっと思い描いていたんだ。
『複雑な事情があるみたいだね』
『複雑か?ただの我儘だろう』
『我儘って、マリユスが?』
『ラングリオンでは、市民は職を自由に選べる権利を持っている。個人の進むべき道は個人が決めるものだ』
でも、カミーユさんの周囲に居た人は皆、カミーユさんが騎士になるって思ってたんだよね。
そして、カミーユさんも。そう思ってたんじゃないかな。
「マリユスの言いたいこと、わかるよ。カミーユさんは皆が期待してた道を選ぶべきだったって」
「そう思うだろ?」
「でも、カミーユさんが選んだのは錬金術師だよ。それが結果。その答えを出すために、どれだけ悩んだか、わかってあげないの?」
「否定に至った要因は明らかだ。エルロックさんとさえ出会わなければ……」
「違う!カミーユさんは絶対、エルを理由になんてしない。自分で選んだに違いないよ」
「何故そんなことが言えるんだ」
「私も同じだったから」
「同じ?」
「私の生き方は最初から決められてて、その生き方は国の為になることで、その生き方が推奨されていて、逆らうことなんて許されなかった」
逆らうには、死ぬしかなかった。
『リリー……』
「でも私は、それに逆らうことにしたの。たとえ全く褒められる内容じゃなくても、自分の生き方を貫こうって」
女王の娘として、城を出た時に。
「選んだ後も、ずっと悩んだよ。私の選択は間違ってるって。ずっと、怖かった。でも……」
エルと一緒に居たかったから。
「私には私の夢があったから。それを叶えるために、運命に逆らうって決めたの」
エルが一緒に居てくれたから。
エルを信じてたから。
だから今、ここに居る。
「私の姉妹は、誰も私の生き方を責めたりしなかったよ。むしろ、みんな応援してくれた。マリユスはカミーユさんが選んだ結果を応援してあげないの?」
「カミーユ兄さんが、リリーと同じだったなんて言えないじゃないか。だって、兄さんの夢は……」
「なら、聞きに行こうよ」
「え?」
「どうしてカミーユさんが錬金術の道を選んだのか」
ちゃんと理由があるはずだ。
『本当に、エルと同じだな』
『なんにでも首を突っ込みたがるからね』
「リリー、本気?」
「うん。研究所に行こう」
今日は平日だから、錬金術研究所に居るはずだよね。
「兄は仕事中だ」
「忙しそうだったら、休憩時間まで待とう」
立ち上がって、マリユスの腕を引く。
「ね?」
「……でも」
『私はバーレイグと共に残るぞ』
「シルヴィさん、バーレイグをお願いします」
「かしこまりました」
『頼むよ、コートニー』
『健闘を祈る』
「ありがとう。……行こう、マリユス」
「待って、リリー」
「リリーシア様、」
呼ばれて、シルヴィさんの方に振り返る。
「当家の正門はあちらでございます」
「え?」
『リリーってこういう時、絶対はずすよね』
……笑われた。
「その噂は聞いたことがあるよ。迷子のリリーシア」
『リリーにぴったりの二つ名だ』
ひどい。
そんなの、誰が付けたの?
「……可愛い」
※
「こんにちは」
「ようこそ、リリーシア様。……マリユス様?」
「カミーユさんに会いたいの」
「かしこまりました。御案内いたします」
「はい」
「いえ、急用ではありませんから。ここで待たせていただけますか」
「では、応接室へ御案内いたします」
『マリユスってさ。思ってたよりずっと真面目だよね』
初めから、真面目な人だったと思うんだけどな。
応接室って初めて入る。
「研究所なんて初めてだ」
『ここは医療施設でもあるのに、来たことないんだね』
「マリユスは予防薬を接種した?」
「城の医務室で受けたよ」
「そっか」
「なんだか落ち着かないな。外で待っていた方が邪魔にならないんじゃないか?」
「大丈夫だよ」
『本当に慣れてないみたいだね』
もしかして、マリユスって錬金術のこと何も知らない?
「予防薬を作ったのがカミーユさんのチームだって知ってる?」
「え?兄さんが?」
『知らないの?』
ノックが二回鳴る。
「どうぞ」
扉が開いて現れたのは……。
「カミーユさん」
「兄さん」
受付けの人、呼びに行ってくれたんだ。
「リリーシアちゃん、こんにちは。……マリユス、なんでここに居るんだ」
なんだかいつもと雰囲気が違う。
「近衛騎士がこの時期に主君の傍を離れるなんてあり得ない。何があった」
「それは……」
怒ってるんだ。
カミーユさんが怒ってるの、初めて見た。
「来い。アレクシス様に会いに行く」
「兄さん、」
「カミーユさん、マリユスは城に入っちゃいけないの」
「まさか、近衛騎士を解任されたのか?」
「いいえ。停職処分中です」
カミーユさんが溜息を吐く。
「良かった……。なら、家で大人しくしているんだ。一体何をしたんだ?」
「私のせいなの」
「リリーシアちゃんの?」
「いえ、違います。僕が、」
「違うよ。私が……」
「あー、わかったよ。理由は言わなくて良い。アレクシス様の御慈悲に感謝するんだ」
『言わなくてもわかったみたいだね』
『アレクにからかわれたって話しを聞いたばかりだからな』
ブレストがカミーユさんの肩に座る。
からかわれたって、何をしたのかな。
「どうして俺に会いに来たんだ?」
「急を要することでは……」
「カミーユさんに聞きたいことがあるの」
「なんだい」
「どうして錬金術研究所に入ったんですか?」
「は?」
『はぁ?』
「それを聞きに来たの」
『暇人だな、お前』
「本当に、君はいつも唐突だな」
ノックの音が二回。
「ちょっと待っててくれ」
カミーユさんが振り返って扉を開く。
「コーヒーをお持ちいたしました」
「ありがとう。みんなには休憩に入ってくれって言っておいてくれ」
「かしこまりました」
扉を閉めて、カミーユさんがコーヒーを持って戻って来る。
「どうぞ」
カミーユさんがコーヒーを並べて、私とマリユスの正面に座る。
「俺の専門が薬学なのは知っているだろ?」
「はい」
「ラングリオンは薬学の分野で他国にかなり遅れをとっているんだ。魔法使いが充実していれば薬学の必要性は低いからな。だから、ここも専門家が居ない状態が続いていた。俺たちが来るまで薬学を扱っていたのはナルセスだけだ」
ナルセスさんって、確かジニーの上司で、同じ研究チームだから……。
「水の研究をしてる人?」
「あぁ。ナルセスの専門は水に関する研究だ。つまり、専門外。……俺たちは卒業後、薬学を専門にしたチームを作る為に養成所で勉強して、錬金術研究所に入ったんだ。俺がこの歳で室長をやっているのも、ある程度の権限がないとできないことが多いからだよ。それが研究所に入った理由。これで良いかい」
「兄さんは、そんなに以前から研究所に入ることを決めていたんですか?」
「中等部に入る頃には、進路を決めなきゃいけないからな」
「騎士を目指しながら?」
「騎士になるのは兄貴との約束だ」
あれ?
「全然、知りませんでした」
「知ったところで、大した意味はないだろ」
「あります。それが……。家を出てまでしたいことだったのですか?」
「誰にも相談せずに決めたからな。家を出る以外に、責任を果たす方法が思いつかなかったんだよ」
「責任?」
「アレクシス様から、近衛騎士に誘われたことがあるんだ」
「え?」
「え?」
誘われてたんだ。
「親父も兄貴もそれを知ってる。その誘いがどれだけ名誉なことかも、お前ならわかるだろう」
「何故、誘いを断ったんですか?」
「理由は話した通り。俺は研究所に入ることを決めた。アレクシス様は、どちらを選んでも俺の選択を歓迎すると仰られたからな」
「アレクシス様は兄さんが近衛騎士を選ぶことを期待されていたんじゃないですか?」
そうかな。
「リリーシアちゃんはどう思う?」
「アレクさん、カミーユさんを近衛騎士にしたかったなら、カミーユさんに選択肢を与えないと思います」
『そりゃそうだ』
「俺もそう思うぜ。近衛騎士に任命されたんだから、マリユスはもう少しアレクシス様のことを知った方が良い」
『リリー。アレクと何かあったの?』
……そういう人だよね。
「僕は、未熟です」
「心配するな。それはアレクシス様も御存知だ」
マリユスが落ち込む。
「大丈夫?」
「……うん」
「アレクシス様が許して下さったとはいえ、俺の選択は歓迎されることじゃないのは事実だ。俺が選んだ結果はエグドラ家の名を傷つける。それがどういう意味か、従騎士として城に居たならわかるだろう」
「酷い噂です」
―くだらない噂だ。
―エルロックもカミーユも、貴族の間での評判は高くない。
マリユスがエルを恨むことになった理由って……。
「だから家を出たんだよ」
「クロフト兄さんと仲違いしたんじゃなかったんですか?」
「兄貴とは喧嘩中だ」
「喧嘩中なの?」
「そうだ。あれにはびっくりしたぜ。ずっと会ってなかったのに、いきなりリリーシアちゃんが連れて来たからな」
「リリーが?」
「私、連れていった覚えなんて……」
「ほら。カウントダウンの時に、一番隊を突っ切って来ただろ」
それって。
『何それ?』
「あれ、リリーだったの?」
「そうだよ」
「体術だけで鎧装備の一番隊をなぎ倒してノーヴァストリートを突っ切って、堀に落ちたのが?」
「ええっ?」
『正に猪突猛進って奴だ。面白かったぜー』
『リリー、そんなことしてたの?』
「あの、だって、エルが落ちたから、堀を目指してただけで……」
急いでたから途中で何をしたかは覚えてない。
『あの時、エルは城壁の上に居たんだよ』
『アレクの傍か』
「そんな近くに居たの?」
「本当、無茶なことばっかりするよな。エルが心配するのも無理ないぜ」
「カミーユ兄さん。兄さんは、クロフト兄さんと仲直りしたんですか?」
「まさか。俺はまだ兄貴に認められるほど結果を残してないからな。国を支えられるぐらいの結果を残すまでは帰れない」
「それって……」
「そういうことだよ」
カミーユさん。
夢を捨てたわけじゃないんだ。
「僕は、間違ってました。……本当のことを知る努力もせず、周囲の言葉に振り回されて……」
「良いんだよ。いくらでも間違って。失敗によって学ぶことの方が大きい」
「……っ。はい」
「そろそろ昼だ。ランチに行こうぜ。リリーシアちゃん、行きたいことろはあるかい」
「あの、聞きたいことがあるの」
「……次は、なんだい」
『警戒されてるね』
どうしてかな。
「カミーユさんって騎士なんですか?」
カミーユさんが笑う。
『お前、馬鹿だろ』
「あ、あの?」
まだ笑ってる。
「参ったな。マリユスには遠く及ばないが、これでも下級騎士の叙勲はもらってるんだぜ」
「下級騎士?」
「そんなことはありません。騎士としての精神も、技能も、兄さんたちに遠く及ばないのが僕です」
「下級騎士なんて騎士の最下層だ。マリユスは上級騎士に列せられる三等騎士。爵位がなくとも、騎士の階級としては伯爵と同じだ」
「伯爵と同じなの?」
「騎士の階級と爵位はまた別の話しです」
ええと……。
今度、エルに聞いてみよう。
「マリユスの噂は聞いてるぜ。剣術の腕をまた上げたんだってな」
「そんなことはありません。リリーにも勝てないのに」
「それはリリーシアちゃんを過小評価し過ぎだ。普段からガラハドと稽古をしてる相手だぜ」
「ガラハド隊長と?」
「私もマリユスには全然勝てないよ」
「なんだ。停職を良いことに二人で稽古をしてるのか。いつの間にそんなに仲良くなったんだ?……エルをからかって遊べそうだな」
『大会前に稽古してたなんてばれたらまずいんじゃないの?』
「エルには言わないで下さい」
「どうしてだい」
「その……。いろいろ理由があって」
『ふーん』
『ブレスト。言うなよ』
「お願い。言わないで」
『カミーユ。大会が終わるまでは黙ってろってさ』
「そうだな。詮索しないでおくか」
絶対、ばれたよね。




