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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
58/149

65 公平至誠

 バロンスの朔日。

 王都守備隊一番隊宿舎の前。宿舎に入りきれずに広場まで伸びている列の先頭を、着慣れないローブのフードの端を持ち上げて見る。

 周囲には冒険者らしい軽装の人から重装備の戦士まで、色んな人が居る。

 そういえば、黒髪の人もちらほら見かける。

 ムラサメさんもどこかに並んでるのかな。

『ばれるんだから顔は隠しておきなよ』

「うん」

 変装はしてるんだけど、気をつけなくちゃいけないよね。

 今は、アルベールさんから借りた栗色の鬘を被って、全身を覆うローブを着て、口元も隠している。なんだかポラリスみたいな恰好だ。

 これだけ変装すればばれないと思ったのだけど、ルイスには剣術大会の参加者に見えなくて目立つと言われてしまった。

「もっと早くに来れば良かったかな」

 こんなに並ぶことになるとは思わなかった。

「いつもこんな感じだよ。並ばずに登録が完了することって、そんなにないんじゃない?」

「そっか」

 一緒に並んでいるルイスは、マントを羽織って深い帽子をかぶって、雪姫を背負ってる。

 冒険者らしい服装のセンスがルイスっぽくなくて、まさに変装という感じだ。こうすれば、大会参加者はルイスで私は付添いに見えるだろうから、誰かにばれる可能性は低いだろうって、ルイスが一緒について来てくれたのだ。

「帰りは、お祭りを見て行こうか」

「うん」

 剣術大会が始まる日だからか、中央広場には出店が並んで賑わっている。

「くそっ、剣を抜け!」

 突然、大きな声が聞こえて振り返る。

「上等だ!」

 列の後ろの方で、決闘が始まった。

「だめだよ」

『だめだからね』

「うん」

 わかってる。

 すぐに騒ぎを聞きつけた一番隊の隊員が駆けつけて、決闘を始めた二人を連行する。

 あの人たち、大会が終わるまで牢屋から出て来られないんだよね。


 ようやく順番が回って来て、受け付けをしている部屋に通される。

「紹介状です」

 アルベールさんからもらった紹介状を見せる。

「確認致します。……オルロワール家の紹介状ですね。大会の参加はバロンスの五日からです」

「はい」

「参加に当たっての注意事項をお読みください。こちらの内容に異論がなければ、サインを。質問があればどうぞ」

 これ、剣術大会のルールだ。



参加資格


 成人していること。

 犯罪歴がないこと。

 過去に剣術大会での優勝経験がないこと。



「参加資格ってどうやって調べるんですか?」

「オルロワール家の紹介状があるなら問題ありません」

 大丈夫なんだ。

『冒険者ギルドに所属してるなら犯罪歴がないから、わかるんじゃない?』

 そっか。

 大会に参加するような人って、冒険者が多いよね。



剣術大会の禁止事項


 盾装備禁止。

 毒物の使用禁止。

 回復行為の禁止。



使用武器


 剣、もしくは剣に類するものに限る。

 装備武器は審判、および対戦相手に宣言すること。

 武器を二点以上使用する場合は、主となる武器を審判に宣言すること。



「武器って、短剣も含みますか?」

「もちろんです。身に着けている武器は、使用する、しないに関わらず、すべて知らせて下さい」

 忘れないようにしなくちゃ。

「盾装備禁止って、ガントレットは大丈夫ですか?」

「はい。防具は基本的に自由です。盾は武器としての使用も可能なものですので、禁止されています」

 確かに。

 剣以外の武器を禁止する為に、盾の使用も禁止なんだ。



敗北条件


 敗北の宣言。

 事前に宣言していない武器の使用。

 主となる武器を手放す。

 試合場の外へ出る。

 魔法を使って相手に攻撃をする。

 魔法を使って防御する。

 審判が瀕死の判定を下す。

 以上の敗北条件が整っているにも関わらず、試合を続行する。

 相手を殺す。

 その他、禁止事項を行う、審判の判断に従わない等。



 ……敗北の条件になるから、自分のメイン武器を宣言しておかなきゃいけないんだ。

 書かれてるのは勝利条件じゃなくて敗北条件。

 この中のいずれかの条件を満たして、相手を敗北させれば勝ちなんだよね。

 殺人は敗北条件。……たぶん、そうなる前に審判が判断を下すのだろう。瀕死の状態なら、見てわかるだろうから。

 魔法は、攻撃や防御以外なら使って良いみたいだ。

 エルみたいに風の魔法で加速したり、高く跳躍する人が居るってことだよね。

 闇の魔法で残像を作るのも、きっとありなんだ。

「剣に精霊を宿すのは禁止ですか?」

「いいえ。魔法属性効果のある武器は禁止されていません」

 良いんだ。……気をつけなくちゃ。

『リリー。本当に戦闘のことには頭が回るよね』

 それ、どういう意味?

『褒めてるんだよ』

 褒められてる気がしないけど。

 質問はこんなところかな。

 登録者名の所に、考えておいた偽名をサインをする。

「承りました」

 何も言われない。

 案外、偽名で参加する人って多い?

「こちらの腕章をお持ちください」

 番号のついた腕章だ。

「予選のトーナメント表は、大会会場にて番号でお知らせしております。腕章を身に着けてご参加ください」

「はい。わかりました」


 腕章と大会の要項について書かれた書類を貰って、一番隊の宿舎を出る。

 思ったよりも時間がかかってしまった。

「ルイス、大会の会場ってどこかわかる?」

「セントラルの東だよ」

「どの辺にあるの?」

「魔法研究所の近くなんだけど……。そう遠くない場所だし、見に行こうか。ノーヴァストリートからもそう離れてないよ」

「ノーヴァストリート?」

「中央広場から城までの通りだよ」

 ノースじゃないんだ。

「ノーヴァって?」

「新しい市民、って意味」

「新しい市民?」

「ラングリオンの歴史の話しだよ。ほとんど伝説みたいになってる話しだから、どこまで真実かは分からないけど。聞きたい?」

「うん」

「リリーシアは、アルファド帝国最大領地がどれぐらいだったかは知ってる?」

 ええと……。

『現在のラングリオン、砂漠、ティルフィグン王国、ラ・セルメア共和国の大部分、ディラッシュ王国東部、神聖王国クエスタニアの北東部だよ』

「うん。大丈夫」

 グラシアルには届かなかったけど、オービュミル大陸全土を支配する勢いだったんだよね。

「それじゃあ、初代国王がアルファド帝国を打倒して引き継いだ土地がどれぐらいだったかは知ってる?」

「全部じゃないの?」

「違うよ。皇帝崩壊直後の旧アルファド帝国領地は、平和とは程遠い状態だったんだ。各地で内戦が勃発した上に、アルファド帝国として周辺国との戦争も続いていたからね」

「皇帝が崩御したのに?」

「強力な皇帝が崩御したからこそ、周辺国にとっては攻め入るチャンスだったんだよ。帝国が広げた領土は、もともと他国の領土だったからね。……そして、帝国の端の人たちは、自分の土地を守るための戦いをやめることは出来なかったって言われてる」

『降伏を受け入れたところで、良い未来はなかったんだろうね』

 戦争って、本当に暴力しかない。

「国内では、帝国への忠誠を捨てない有力者が皇帝の後継者を立てたり、地方で独立を宣言して勝手に国を立ち上げる人が出てきたりで、どこが誰の土地かもわからない状態だったんだ。国名はラングリオンに改名して、初代国王に味方する勢力ももちろん居たけれど、あまり多くはなかったみたいだね。だから、初代国王が帝国から引き継いだ土地は現在のアルマス地方だけって言われてる」

 なんだか滅茶苦茶。

 トップが居なくなることで一気に内戦状態になるなんて。それぐらい情勢の不安定な国だったのかもしれないけれど。

『あれだけ強引に広げた広い土地が、そのまま次の王に引き継がれるなんて都合の良い話しはないか』

「でも、アルファド帝国が所有していた財産はすべて、初代国王が手に入れることになったんだ」

『おぉ。すごいね。良いとこ取りだ』

 アルファド帝国って、ずっと戦争を続けられるぐらい、お金持ちの国でもあったんだよね。秘密の金鉱を持っていたとか、錬金術によって金を作り出せたとか、金にまつわる伝説があったはず。

「初代国王の異名の一つに、解放王っていうのがあるのは知ってる?」

「うん。世界で初めて、奴隷解放を宣言した人だからだよね?」

「初代国王は帝国の遺産を使って、奴隷をすべて買い上げると宣言したんだ」

「えっ?買ったの?」

 解放したんじゃなく?

「初代国王は、買い上げた奴隷や帝都に居た奴隷をすべて市民として開放すると、彼らを新しい市民、ノーヴァと呼んで、聖地グラム湖の近くに王城を建設させる労働者として雇用したんだ」

「王城って、あれ?」

 目の前にあるお城。

「そうだよ」

 このお城って、その時に作られたものなんだ。

「えっと……。それは、奴隷解放って言うの?強制労働じゃないの?」

「違うよ。彼らには財産の所有と職業選択の自由、所在の自由が約束されてるんだ。好きなところに行って良いし、好きなことをして良いって」

 そっか。それがないのが奴隷と呼ばれる身分だよね。

「でも、戦争は続いていたし、奴隷だった彼らが仕事を探すのは大変なことだったらしいよ。奴隷に逆戻りした人も居たみたい。だから、初代国王は仕事を作って、労働に対する対価を公正に支払ったって言われてる」

 働いた分だけ、お金をちゃんと貰えたんだよね。それって当たり前のことなんだけどな。

「集まったのは元奴隷だけじゃないよ。初代国王に賛同した人々もまた、新しい市民と呼ばれたんだ。元奴隷というだけで差別されてしまう中、彼らと同じ場所で働き、寝食を共にし、同じ対価を得ることに不満を唱えなかった人たちだね」

 それだって、すごく当たり前な気もするけど。

 ……当たり前のことが、どれだけ当たり前じゃなかったのか。

 初代国王は、その感覚をみんなにわかってもらいたかったのかもしれない。

「人が増えれば産業が増える。築城に従事した人以外にも、田畑を耕す人、漁を行う人、木を切る人、資材を運んでくる人、商売をする人……。とにかく、働けば働くほど対価が得られるシステムだったからね。色んな人が集まって、彼らが住む家が作られて、食事を提供する施設や、旅人を迎える宿が作られて。どんどん街として発展して行ったんだ」

「それが、この王都?」

「そうだよ。ラングリオンの王都は、世界で初めて奴隷制度を廃止した場所。すべての人が自らの意思で手を取り合って作り上げた都市。自由、平等、博愛。ここは初代国王の理想が詰まった場所なんだ」

 誰もが自由に選択出来て、差別なく平等で、誰とでも手を取り合える博愛に満ちた場所。

「今はあまり呼ばれないけれど、ラングリオンの王都はアヴェクノーヴァって呼ばれてたんだって」

 新しい市民が一緒に作った街だから。

 その言葉が、お城に続く通りの名前として残ってるんだ。

 ……もしかして。

 マリーや、アレクさんやリックさんが私に愛称で呼ぶように言って来るのって、そういう考えが根底にあるからなのかな。

 親しい人に愛称で呼んで欲しいって思うのは、自然なことだから。

 これも、本当は当たり前のことなのかもしれない。


「ここが剣術大会の行われる闘技場だよ」

「大きい……」

 こんなに大きな建物があったんだ。

 幅のある壁は緩やかに湾曲している。上から見たら、円形をしているのかもしれない。

「セントラルの主要な建物って、ノーヴァストリートを挟んで左右対称になる場所に作られてるんだよ」

「そうなの?」

「魔法研究所と錬金術研究所は、通りを挟んで並んでいるよね?」

「うん」

「闘技場と対になってるのは音楽堂。同じぐらいの広さの建物が西側にもあるんだ」

 ここから真っ直ぐ西に進めばあるってことだよね。

 セントラルの西側って、墓地があることぐらいしか知らないけど、他にもあるのかな。

「図書館は?」

 セントラルの東側にある建物だ。

「対になってるのは、王立魔術師養成所だよ」

「え?養成所って図書館ぐらい広い建物なの?」

「そうだよ」

『流石だね……』

「オルロワール家とノイシュヴァイン家もそうだね」

 流石、ラングリオンの二大名家。ノイシュヴァイン家もオルロワール家と同じ広さがあるってことだよね。

「後は、礼拝堂や広場、給水塔なんかもそうだけど、地図を見た方が早いかな」

 結構たくさんあるんだな。対になってるもの。

 ってことは、もしかして西側にも王城の裏口があるのかな。隊長さんの家みたいな建物がノイシュヴァイン家の裏にあるなら、きっとその家にあるってことだよね。

「お腹すいた?」

「うん」

 もうすぐランチの時間だ。

「お祭りで何か見ても良いし、どこかお店に入っても良いし。どうしようか?」

「えっと……。お祭りが見たい」

「じゃあ、中央広場に戻ろうか」

「うん」


 出店がたくさん出てる。

 大道芸人たちの芸をやっていたり、音楽隊が音楽を鳴らして居たり。

 食べ物屋さんの他にも、遊びのコーナーや、異国の雑貨を置いてあるお店なんかがある。

 新年のお祭りを思い出す賑わいだ。

 でも、剣術大会だからか、武器を扱っている店が多い。

「そういえば、今日はジニーと約束してないの?」

「ジニーは伯爵家に滞在する貴族をもてなさなきゃいけないからね」

「伯爵家に滞在する貴族って?」

「剣術大会に参加する貴族や、観覧する貴族が国中からやって来るんだ。王都に別邸がない貴族は、王都の貴族がもてなすのが習わしだよ。今年はオルロワール家がグラシアルの姫君の一行をもてなすから、他の貴族をオルロワール家で受け入れることが出来ないらしくて、ノイシュヴァイン家に滞在してる貴族も多いんだって」

『あれでも、グラシアルの代表だからね』

「お城じゃだめなの?」

「お城に滞在するのなんて、王族だけだよ」

「そうなんだ」

「剣術大会に合わせて、マルグリット姫やヌサカン子爵が来るはずだからね」

 フェリックス王子もそうだったよね。お城に居ない王族も結構居るみたいだ。

「あ。カミーユとエレインじゃない?」

「本当だ」

 デートかな。

「エレイン、カミーユさん」

「……誰?」

 フードを外して、顔を出す。

 隣に居たルイスも、顔を見えるように帽子の位置をずらす。

「リリーシア。ルイス君」

「別に、変装なんてしなくても良いだろ」

「まだエルが死んだことになってるからね。こういう場所に来ると怪しまれるでしょ?」

 そうだった。

「そろそろ、その噂にも限界があると思うけどな」

 限界というか。意味あるのかな、その噂。少なくとも、私の知り合いにはエルが死んだって思ってる人は居ない。

 アリシアが噂を聞いて、心配して駆けつけてくれたぐらいだ。

 ……もしかして、王都の外に向かって発信されてる噂?

「見て、リリーシア」

 エレインが持っていたぬいぐるみを出す。色違いの羊のぬいぐるみが三つ。

「わぁ。可愛い」

 羊って、今年のテーマだよね。

 そういえば、フェーヴ……?

「すごいのよ。これ全部、カミーユが的当てで取った景品なの」

「流石だね」

「俺の得意分野だからな」

 あれ……?

「どうしたの?リリーシア」

「フェーヴが」

 おかしい。この袋に入れっぱなしのはずなのに。

「なくなったの?」

「うん……。どこかで落としたのかな」

「良かったじゃないか」

「え?」

「危険から守ってくれたってことだよ。フェーヴは災厄の身代わりになって砕けるんだ」

 砕けたの?いつの間に?

「それってタリスマンみたいね」

「タリスマン?」

 タリスマンって、私がエレンさんからもらったものだよね。

「皆は持ってないの?私のはこれよ」

 エレインが、自分の胸に付けているブローチを指す。

「卵の中に入ってる、精霊の祝福の結晶よ」

「卵の中?」

 その卵って、もしかして……。

『リリー、エレインが余計なこと言う前に止めないと』

「えっ?あのっ、えっと、」

 どうしよう。

「それって、ドラゴンの卵か?」

「ドラゴンの卵には滅多に入ってないと思うけれど。ドラゴンは精霊の祝福をすべて体内に宿すもの。死んだ後にカーバンクルが残るでしょう?」

「カーバンクルは、ドラゴンが卵から孵る時に得た精霊の祝福の名残なのか」

「そうよ。奇跡を起こせるのなんて精霊だけだもの。命の誕生って、最高の奇跡だわ」

 死んだ人間を復活させることが出来るのも、精霊の奇跡だもんね。

「そろそろ昼時だな。エレイン、さっきの店まで戻ろう」

「そうね。……ねぇ、二人はこれからどうするの?暇なら一緒に行かない?」

「え?」

 二人はデート中じゃないのかな。

「僕たちも行きたいところがあるから」

「そうなの。それじゃあ、また今度ね」

「うん。またね」

「楽しんでね」

「ルイスとリリーシアちゃんもな」

 カミーユさんとエレインを見送る。

『リリーにしては、空気を読んだんじゃない?』

 ひどい。

 ……でも、ルイスが断ってくれて良かった。

 邪魔しちゃ悪いよね。

「本当に行きたい所があるの?」

「そうだね……。ピッツァの出店があったから、キャロルのお土産に買って行こうか」

「うん」

 フェーヴ。いつ壊れちゃったんだろう。

 私、そんなに危険にさらされたことあったかな。

 


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