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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
57/149

64 赤い薔薇

 薄暗い地下道を、フェリックス王子の光の精霊が照らす。

 城の外に続いてるなら、ここって堀の下なのかな。

 いくつか分かれ道もある。

 フェリックス王子とはぐれたら大変だ。

「掴んでも良いですか?」

「ほら」

 手を差し出される。

 どうしよう。

「嫌なら好きなところ掴んでろ」

 フェリックス王子の腕を掴む。

「エル以外とは手を繋ぎたくないのか」

 そんなことはないんだけど。

「男の人と手を繋ぐのは苦手です」

『リリーはあんまり男の人と接点なかったからね』

「そんなことないよ」

 女王の娘の部屋に出入り出来る魔法使いは女性だけだったけど、街に出れば男の人も居たし、師匠は男の人だ。

 ただ、出会い頭に手を握って来るような人は居なかったから……。少し苦手。

「グラシアルのお嬢様だって?」

「違います」

「上級市民はグラシアルで貴族だ。マリーの家で作法見習いしてたことになってるだろ」

「どうして知ってるんですか?」

「俺を誰だと思ってる」

 ええと……。

 マリーに関係のある事だから知ってる?

「あの……。マリーのことが好きなんですよね」

「もちろん」

「どうして、婚約しないんですか?」

 マリーは今、誰とも婚約してない。

 なのに、フェリックス王子とマリーが婚約しないのは……。

「なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ」

「マリーを庇ってるからですか?」

「庇う?」

「フェリックス王子が、」

「リックで良い」

 この国の偉い人って、愛称で呼ばせたがるのかな。

「リックさんが、」

 リックさんが突然笑う。

「何ですか?」

「いや、それが普通だよな」

「?」

「何でもない。続けて良いぞ」

「リックさんがマリーを好きだから、オルロワール伯爵はマリーの婚約者を選べないって聞きました。でもそれって、リックさんがマリーと婚約すれば解決するはずです。そうしないのは、リックさんにそのつもりがないからですよね?」

「俺は誰かと婚約するつもりはない」

 やっぱり。

「それって、マリーの意思を尊重してるからですよね?」

 マリーは自分で結婚する人を選びたいから。

「振られるってわかってるのに何度も目立つ場所で求婚してるのは、マリーが好きじゃない人と結婚しなくて済むように、他の人をけん制してるからじゃないんですか?」

『そうなの?』

「おい。無礼なこと言ってるってわかってるんだろうな」

 無礼?

「誰が、振られるってわかってるのに、だ」

 あ。

『まぁ、振られてるのは事実だから仕方ないんじゃない?』

「揃いも揃って失礼極まりないな」

「あの、すみません……」

「マリーは俺のものだ。誰にも渡すつもりはない」

「えっ?でもマリーは、」

「マリーが欲しければ、俺から勝ち取って見せるんだな。俺は売られた喧嘩はいつでも買うぞ」

 それって、やっぱり……。

『それでこの前、リリーと戦ってたの?』

 そうだった。

「あの。この前はすみませんでした」

 喧嘩を売ったわけじゃないけど。

 先に剣を抜いたのは私だよね。

「あれか。背後を取られたのなんて久しぶりだ。剣術のセンスは褒めてやる。でも、あの剣はお前に向かない。軽すぎるんだろ。エルにでもくれてやれ」

 はっきり言われちゃったな。

 気に入ってたんだけど。

 剣術大会、どうしよう。

 あれ?

「どうして私とリックさんが戦ったこと、イリスが知ってるの?」

『えっ?』

「……思い出した。お前のせいで、エルに殴られたんだ」

「えっ?」

 エル、リックさんを殴ったの?

「良い迷惑だぜ」

『自業自得だよ』

「あの……。すみませんでした」


 ※


「出口だ」

 梯子を上って、出口に出る。

 暗い。

 どこかの家の……、倉庫?

 リックさんが出て来た場所の扉を閉める。

 違う。

 扉じゃない。床そのもの。

 色は他と変わらないし、取っ手と言えるものは何もついてない。これ、たぶん上から開けるのは難しいんじゃないかな。

 リックさんが階段を上って扉を開くと、廊下に出た。

「ここって、誰の家なんですか?」

「今はガラハドの屋敷じゃなかったか?」

「えっ?」

「誰かと顔を合わせるのも面倒だ。窓から出るぞ」

 リックさんが近くの窓を開いて、外に出る。


 良いのかな。

 屋敷の裏庭を抜けて、高い塀の傍へ。

「この塀、上れるか?」

『無理だよね』

「やってみます」

『え?』

 エルと同じ魔法。使えるかな。

 加速や飛ぶ感じは、体感したことがあるから大丈夫。

 思いっきり、高く飛ぶ。

 この、体が軽くなる、ふわっとした感じ……。

 塀の上に着地する。

『レイリスの魔法?』

「うん」

 使えた。

 上手くやれば、エルみたいに加速したり、高く跳躍したりできるかも。

 リックさんが私の隣に飛んでくる。

「ほら、行くぞ」

「はい」

 今度は塀の下へ。

 着地も……。できた。

 魔法って、本当にイメージが大事なんだ。

「大丈夫か?」

 スカート、どこもひっかけてないよね?

 こういうことするなら、もう少し服装を考えたんだけど。

「はい。大丈夫です」

 ここ、どの辺だろう。

 人が全然歩いてなくて、周りは高い建物ばかり。綺麗に舗装された通りはセントラルっぽいんだけど、見たことのない場所だ。

「どこかわかってないんだろ」

「初めて来た場所です」

「裏口から入るぞ」

 また裏口?

 リックさんが隣にある屋敷の門を開く。

『リリー、置いて行かれるよ』

「待ってください」

 慌てて追いかけて、リックさんの腕を掴む。

 歩くの、早い。

「あの、勝手に入って良いんですか?」

「良いんだよ。その内メイドが走って来るだろ」

 メイドさん?

『本当だ』

 イリスの方を見ると、リックさんが言った通りメイドさんが走って来た。

「ようこそ、フェリックス様。お荷物をお持ちいたします」

「このバスケットを頼むぜ。ショコラティーヌが入ってる」

「かしこまりました」

 リックさん、いつもここ通ってるのかな。

「リリーシア様ですね」

「え?……はい」

 私のこと、知ってる?

「ようこそ、オルロワール家へ。アルベール様がお待ちです」

「ここ、オルロワール家なの?」

 リックさんが笑う。

「ようやく気づいたか」

「だって、こんなところ歩いたことありません」

「この辺りは使用人の居住区だからな。客人を入れるような場所じゃない」

 オルロワール家って広すぎる。

「マリーはどこに居るんだ?」

「御兄弟でテラスにいらっしゃいます」

「アルベールとレオナールも一緒か」

「はい」

「レオナール?」

「二番目だよ。マリーは末っ子だ」

 マリーって、お兄さんが二人も居たんだ。


 メイドさんに案内されて、テラスへ向かう。

「ようこそ。フェリックス王子、リリーシア」

 テラスに居たマリーたちが立ち上がって、礼をする。

「あの、お招きいただきありがとうございます」

 慌てて頭を下げる。

 オルロワール家の子息令嬢が頭を下げるなんて。

 ……この国の王子様なんだから、当然か。

「もうすぐ剣術大会だっていうのに、のんびりしてるじゃないか」

「万事、予定通りですから」

 アルベールさんが微笑む。

「優秀なことだな」

「はじめまして、リリーシアさん。レオナールと申します」

「はじめまして」

 アルベールさんと同じ、コーラルオレンジ色の瞳。

「リリー。待ってたわ」

 マリーが微笑む。

「遅くなってごめんね。マリー」

「赤も似合うわ。素敵ね」

 そうかな。

『可愛い』

 ナインシェ。

「マリーもな」

「ごきげんよう。リック王子」

 マリーが眉をしかめる。……やっぱり、一緒に来ない方が良かったかな。

 リックさんがマリーに花束を向ける。

「ほら。そんな顔をしていたら薔薇がしおれる。華やかな赤い薔薇に似合うのは笑顔だろ?」

 マリーが花束を受け取る。

 やっぱり受け取るんだ。

 あ。笑顔になった。

「素敵な香り」

「今日こそは色良い返事をくれるんだろうな」

「何度も言ってるわ。私、行く気はないもの」

『リリーシア。こっちに来い』

 光の精霊?

 目で追うと、アルベールさんが屋敷の方に歩いて行くのが見える。

 アルベールさんと契約している光の精霊かな。

『こっちはレオに任せておけ』

 もう一人、別の声。

 レオナールさんの肩に乗ってる子は、レオナールさんと契約してる光の精霊だよね。

 ……ええと、良いのかな。


 アルベールさんを追いかけて屋敷の中に入ると、さっき私を呼んだ光の精霊がアルベールさんの中に戻る。

「本当に、便利な力だな」

 便利なのかな……。

 精霊に会う度に変わってるって言われちゃうけど。

「向こうは、しばらく放っておいて良いぞ」

「良いんですか?」

「いつものことだ。レオが上手くやるだろう」

 舞踏会でも揉めてたんだっけ?

「顔を合わせる度に同じ話してるんですか?」

「困ったことにな……。マリーも、花束の意味ぐらい解ってるはずなんだが」

「花束の意味?花言葉ですか?」

 薔薇って、情熱的な意味が多いよね。

「それもあるが。本数にも意味はあるんだ。……グラシアルにはないのか?」

「そういうのに詳しくなくて」

 ラングリオンは他の国よりも、花を贈る習慣のある国みたいだよね。

 結婚した二人に、知り合いじゃなくてもドライフラワーを贈る習慣があるぐらいだから。

「暢気だな。赤い薔薇だけの花束をもらう時は気をつけた方が良い。大抵が愛の告白だ」

 リックさんがマリーに渡した花束も、色んな種類の薔薇が混ざってたけど、色は赤だったよね。

「私、結婚してますけど」

「結婚してるからと言って花が贈られないとは限らないだろう」

 そうなのかな。

「グラシアルの姫君が間もなく到着するって話しは聞いてるか?」

「え?もう?」

 確か、明日……、バロンスの朔日に到着予定って言ってなかったっけ。

「予定が早まったんだ。会いたいなら、到着前に鎧を合わせておこう」

「はい」

『リックに捕まったせいで、ばたばたしてるね』

 そうかな。

 ……私が早起き出来なかったせいだよね。

 

 ※

 

 鎧の下に着る防具まで用意してもらっちゃった。

 これだけでも充分、防具として成り立つぐらい丈夫で動きやすい服だ。

 こういう服が好きなんだけどな。

「お手伝い致しましょうか」

「大丈夫です」

 鎧って重たいから、メイドさんに持たせるのは申し訳ない。

 椅子に座って、膝上まであるブーツを履く。

『どうなの?』

 足蹴りの動作を数回して、ジャンプをする。

「うん。曲げ伸ばしもしやすいし、動きやすいよ」

 胸部を覆うキュイラスを身に着けて、両肩に肩当をつける。マントは着けなくて良いよね。

 腰にフォールドとタセットをつける。後ろに下がってる布がスカートみたいだ。

 肘当てとガントレットをつけると、傍に居たメイドさんが鏡を持って来てくれた。

「どうぞ」

 白銀の鎧。

 胸の中央にルビーが埋め込まれてる。

「名前、あれにしようかな」

『決めたの?』

「うん」

 炎の眼差しを持つ者。

「アルベール様、お支度が整いました」

 メイドさんがパーティションを取り払う。

「良い仕上がりだな。動くのに問題はないか?」

「はい」

 軽く体を動かす。

『リリー、あんまり暴れないでよ』

 暴れてるつもり、ないんだけどな。

「体術を駆使できるなら合格だな」

「はい。とても軽くて動きやすいです」

 流石、プラチナ鉱だ。

 テーブルの上に置いてあった兜をかぶる。

 頭部全体を覆ってくれるみたいだけど。

「少し大きい?」

「兜の下に鬘を被ってもらう。黒髪じゃ、ばればれだからな」

 そっか。

「座っていただけますか」

「はい」

 兜を外して椅子に座ると、メイドさんが私の髪を結って、栗色の鬘をつける。

「整いました」

 兜をかぶる。

 だいたい、良いサイズなのかな。

 視界を覆う部分は開閉が可能になってるみたいだ。

 完全に閉じても、穴から外が見える構造になってる。……でも、視界は広くないよね。

 戦う時は開いておいた方が良いだろう。きっと、大会で戦う相手は、狭い視界で戦えるような相手じゃない。

「これ、開いてたら私だってばれますか?」

「遠目でばれる可能性は低いだろうが、対戦相手が知り合いなら、ばれる可能性はある」

 鏡を見る。

 兜から栗色の髪が見えている。後ろから見たらきっと私だって気づかれないだろうけど。

「エルって、当日はどこに居るのかな」

「アレクの席に居るはずだ」

「え?」

 当日、私はアレクさんの近くで観戦してることになってるんだよね?

「心配しなくても、アレクが上手くやる。どこかで鉢合わせする方がまずいんだから、アレクと一緒に居た方が良いだろう」

「顔を隠していれば大丈夫じゃないですか?」

「ブーツで上げ底してるとはいえ、こんなに小さい剣士なんてそうそう居ないぞ」

 そんなに小さいかな。私。

「それに、何か聞かれたらどうするんだ?声を出した時点で気づかれるだろう」

 喋らないのもまずいよね。

 声を変えられたら良いんだけど。

 低い声とか……。

「あー、あー」

 アルベールさんとメイドさんが笑う。

「無理があるな」

『本当に』

「男声を女声に変える薬ならあるんだけどな」

「そんなものがあるんですか?」

「あぁ。エルが養成所時代に作った薬だ。でも、逆は聞いたことがないな」

 ルイスも知ってるのかな。その薬。

 そうだ。

「あの、剣術大会で使う武器なんですけど……」

「武器?アレクが用意するんだろ?」

「え?」

「聞いてないのか?」

 聞いてない。

「俺も詳しくは聞いてないが、リリーシアに持たせるなら大剣が良いって言ってたぞ」

 用意してくれるの、大剣なんだ。

 どんなのかな。

「近い内に連絡があるだろう。剣術大会に向けた稽古をしたいなら、オルロワール家の演習場を使って良い。手ごろな相手が欲しいなら、暇な騎士が相手になる」

「良いんですか?」

「こっちも、良い訓練になるだろう」

「ありがとうございます」

 良かった。稽古の場所が出来た。

 予選が始まるまでの間、しっかり鍛錬しよう。

「それより、明日は忘れずに登録に行くんだぞ。偽名で出場するにしても、本人がサインして登録しないといけないからな」

「はい」

 サインするだけで登録が完了なのかな。

「知り合いに会う可能性もあるだろうから、変装して行った方が良いだろう。登録の場所はわかってるのか?」

「オルロワール家じゃないんですか?」

「違う。守備隊一番隊宿舎だ」

 セントラルの警備を担当してる一番隊。隊長はカミーユさんのお兄さんだよね。

「どこにあるんですか?」

「中央広場の北東。広場を挟んだ三番隊の向かいって言えば分るか?」

 三番隊から真っ直ぐお城の方に向かったところ?

 レストラン・シエルの近くかな。

「当日は人が並んでるから、すぐに分かるだろう」

「はい。ありがとうございます」


 ※


 メイドさんに着替えを手伝ってもらって、元通り赤いワンピースに着替える。

 ……着替え、持ち歩くべきだよね。

 旅をする時に着てる服ぐらいは、持っていても邪魔にならない気がする。

 この恰好は動きにくい。

 ノックが二回あって、パーティションの向こうで扉の開く音が聞こえる。

「グラシアル女王国より、メルリシア姫の御一行が到着されております。リリーシア様との会食を御希望されていますが、いかがいたしましょう」

「会いたいです」

「かしこまりました。お支度が済みましたら、ご案内いたします」


 さっきよりも、兵士の数が増えてる。空気も緊張してるし。

『なんだか、物々しい雰囲気だね』

 警備が厳重になってるんだ。

 グラシアルの姫である、メルが来てるから。

「リリーシア様をお連れいたしました」

 メイドさんが開いた部屋の中に入ると、アリシアが居た。

「アリシア」

「リリー。丁度良かったな」

「うん」

 今日はオルロワール家に来る予定だったから。

「メルは?」

『隣の部屋で着替えている』

 リウムが目の前に飛んでくる。

「着替え?」

『なんで?』

「伯爵との会談は正装だったからな。もう横になりたいとぼやいていたよ」

 オルロワール伯爵と会談してたんだ。

『お姫様してるね』

「お姫様のメルも見たかったな」

 きっと可愛いに違いない。

「剣術大会も正装だよ。私もメルの傍で観戦する予定だ。リリーはどうするんだ?」

「えっと……。アレクさんの傍で観戦することになってるんだけど……」

「アレク?それは、皇太子殿下の傍ということか?」

「うん。でもね、内緒で大会に参加するんだ」

「大会に?」

『ちゃんと順を追って説明しなよ』

「えっと……。私、大会に参加したいんだけど、エルからは反対されてるの。だから、アレクさんの傍で見てることにして、大会に参加するんだ」

「大会の参加など、エルロックの許可が必要なことでもないだろう」

「そうだけど……。心配してくれているのもわかるから」

「内緒で出場する方が、後味が悪くないか?」

 ばれたら、エル、怒るかな。

 でも。

「他にも出場したい理由があるんだ。だから、エルに止められたくないの」

 アレクさんとロザリーの為に勝ちたい。

 それに、アレクさんが稽古をつけてる人と戦ってみたい。

「ならば、自分の身の安全を第一に考えることを忘れるな。危険だと思ったら早々に棄権するように」

「はい」

「リリーに何かあれば、エルロックは悲しむ」

「……はい」

 わかってる。

 エルが、どれだけ私を大切に思ってくれてるか。だから、私に戦って欲しくないんだって。

 でも……。

 アリシアが私の頭を撫でる。

「リリーは強い。応援しているよ」

「ありがとう、アリシア」

 続き部屋の扉が開く。

「あー、おなかすいた。アリシア、ランチは……」

「メル。ザレア、フィオ。久しぶり」

「リリー?」

 黒髪に青い瞳の可愛い女の子。

 メルリシア・ザレア・クォ・ブランシュ。

『リリー、イリス。久しぶりだね』

『久しぶり』

「お久しぶりです」

 氷の精霊のザレアと、昔からメルのお世話をしてる魔法使いのフィオも一緒だ。

「嘘」

「メル?」

 メルが私に近づいて来て、私の両腕を掴む。

「違うよ!こんなのリリーじゃない」

「え?」

「メル、」

「どうしちゃったの?いつものかっこいいリリーは?こんなの、全然リリーっぽくないよ!」

「こら」

 アリシアがメルの頭を叩く。

「いったぁ」

「大丈夫?メル」

「助けて、リリー」

 抱き着いてきたメルの頭を撫でる。

「リリーも、少しは言い返したらどうだ」

「え?でも……」

 こういう服が似合わないのは知ってるから。

「今日も可愛いよ。リリーによく似合う」

「違うよ、リリーは、」

「メルリシア?」

「……そんな怖い声出さないでよぉ」

 メルが私にしがみつく。

『いつも通りだね』

『本当に』

「仮にも一国の姫が、情けない声を出すな」

「だって、アリシア、怖いもの」

「失礼なことを言っているのは誰だ」

「だって、リリーは私の王子様なんだから」

「リリーが結婚したことも教えただろう」

「私の知らない人よ。リリーに相応しいかどうかは私が決める。とんでもない相手だったら、リリーをグラシアルに連れて帰るって決めてるんだから」

「エルは素敵な人だよ」

『メルは、相手が誰であろうと、リリーをグラシアルに連れて帰りたいんじゃないの』

「そんなことないよ」

 グラシアルにも行きたいけど……。

「リリー。メルが我儘を言うようなら、私が責任を持ってグラシアルに連れて帰るから心配しなくて良いぞ」

「アリシアはしばらくラングリオンに居るんじゃなかったの?」

「一国の姫の自覚がないなら、一から教育をやり直さなければならないだろう」

「嫌よ。助けて、リリー」

「教育って?」

「他国の王侯貴族と渡り合うための礼儀作法だ。下手なことを言えば簡単に国際問題に発展する立場だからな」

「メル、頑張ってるんだね」

「そうだよ」

「偉いね」

「えへへ」

「リリー。甘やかすな」

「でも、頑張ってるみたいだよ」

「アリシアも、もう少し誉めてくれても良いと思うな」

「褒められるような態度なら誉めても良いが」

「アリシアだって、リリーが心配だからラングリオンに残りたいんじゃないの?」

「あいつがリリーを好きなのは良くわかるよ」

「むぅ。それなら早くエルロックを連れて来てよ」

『それはちょっと難しいよね』

 今は死んだことになってるから。

「お城に行けば会えるんじゃないかな」

「謁見っていつだったかしら」

「日取りは到着後に決める手はずだ。先方の都合もあるからな」

「早く会いたいな」

「エルロックは皇太子殿下の秘書官をしているんだろう?今日は休みじゃないのか?」

「忙しそうだったよ。他の秘書官の人も、休みなんてないって言ってたぐらいだから」

 メルティムさん、年始の舞踏会の日も働いてたよね。

「秘書官で錬金術師で魔法の才能もあるなんて、本当?武芸はだめなの?」

「剣術もすごいよ。この前、リュヌリアンで負けちゃったんだ」

「なんだって?」

「嘘」

『本当だよ』

「信じられない。リリーより強い人が居るなんて」

「たくさん居ると思うよ」

 アレクさんも隊長さんも、私よりずっと強い。

「何か弱点ないの?」

「えっと……」

『リリー。余計なこと教えないでよ』

 甘いものが苦手なことぐらいかな。

 後、泳げないって言ってたっけ。

「イリスの馬鹿」

『なんだと!』

『わぁ、イリス、落ちついて』

『喧嘩をするな』

「ん?誰か来たな」

 ノックの音が二回鳴る。

 メルが私から離れる。

「どうぞ」

 扉が開いて、メイドさんが礼をする。

「お待たせいたしました。隣室に御昼食の準備が整いましたので、御案内いたします」

「ありがとうございます。では、参りましょうか」

 メルが優雅に礼をする。

『おぉ。流石だね』

『変わり身の早さは天下一品だ』

『あんまり言うと機嫌が悪くなるからやめてよ』

『リリーが居れば大丈夫じゃない?』

『リリーはメルに甘いからな』

 だって、メルは私の可愛い妹だから。


「どうぞ、こちらへ」

 案内された部屋に入る。

『あ、リリーのショコラティーヌもあるんじゃない?』

 本当だ。

『相変わらず菓子作りはしてるんだな』

『マリーに頼まれてたんだよ』

『メル、もう少し我慢してよ』

「食事のサービスも結構だよ。のんびりさせてくれないか」

「かしこまりました。外に控えておりますので、何か御用がございましたらお申し付けください」

 部屋に居たメイドさんと、私たちを案内してくれたメイドさんが外に出ると、メルがため息を吐く。

「あー、もう。なんてところなの。四六時中監視されてるみたい」

「監視じゃなくて護衛だ」

 窓の外にも警備をしてる兵士の姿が見える。

「メルはグラシアルの姫なんだ。ラングリオン国内、しかも王都でメルに何かあれば、ラングリオンの威信に関わる。軽率な行動は慎むように」

「わかってるよ。……他の皆はもっとのんびりしてるのかな」

「他の従者は別室で休んでるよ。メルの我儘で旅を急いだらしいから、相当疲れているようだ」

「アリシアが先に行っちゃうからだよ。あちこちで歓迎受けながら、とろとろ移動しなきゃいけない私の身にもなって欲しいな」

「メルリシア?」

「……はい。私はグラシアルの姫です」

 お姫様って大変だな。

 


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