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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
55/149

62 秘密の贈り物Φ

 茜色の闘技場の中央で、アレクさんがエイルリオンを持って立っている。

 アレクさんがエイルリオンから手を離すと、エイルリオンが刃を下にした状態で浮く。

「聖母ヴィエルジュよ。アークトゥルスの契約代行者、アレクシス・サダルスウドの名の元に、契約の終了を宣言する。エイルリオンをその御手に返還し、エイルリオンと共に在った、すべての精霊の解放を願う」

 契約、終了?

 急に立っている場所が揺れて、思わず膝を突く。

 地面から現れた輝く蔦がエイルリオンに絡まって、花を咲かせる。

 あの姿は、剣花の紋章。

 蔦がエイルリオンの全身を覆うと、光を放って……。消えた?

 消えると同時に揺れも収まる。

「さぁ、これで因縁も消えた。・ェ・・ュ・・。私は完全に人間が支配する、人間の為の世界を創ることを約束しよう」

 アレクさん……?

 どういうこと?

 アレクさんが、宙に向かって手を伸ばす。

「アレク!だめだ」

 エルがアレクさんの傍に駆け付ける。

 そして……。

 アレクさんの持つサンゲタルが。

 エルの、体を……。

『エル!』

「エルっ!」

 嘘だ。

 アレクさんが崩れるエルの体を掴んで、その剣を抜く。

 走って。

 走って、そのままリュヌリアンを振る。

 けど、血を流すエルを盾にされて動きを止める。

「嘘って、言って」

 碧眼と、不自然に閉じる片目。

 そこにはレイリスとの契約の証であるはずの菫の瞳がない。

「嘘じゃないよ」

 嘘だ。

 アレクさんがこんなことするわけない。

 だって……。


『起きて』

 起きて?

 ほら、やっぱり夢……。

『リリーシア』

 夢?

 この声は、前に聞いた……。

「あなたは、誰……?」

 目を開く。

 誰も居ない。

 今のも夢……?

 ここは、どこ?

 遠くで何かが光って、金属音が鳴っている。

 誰かが戦ってる?

 え?

 嘘。

 エルとアレクさん?

 どうして二人が戦うの?

 これも夢?

 ……エルが、怪我してる。

 エルを追い詰めたアレクさんが、エルに向かって、煌びやかな装飾のドレスソードを突きつける。

 夢と違って、サンゲタルじゃないけど……。

「降参するかい」

「しない」

 アレクさんとエルの声が響く。

「困ったね」

「俺は自分の主張を曲げる気もないし、自分の生き方を変えるつもりもない」

「殺すよ」

 殺す……?

「良いよ」

 エル……?

 そんなの、だめ!

「でも……」

―リリー。光の玉をイメージして、光れって言ってみて。


「光れ!」


 叫ぶと同時に、エルの居た場所に向かって走る。

 まばゆい光で真っ白になった世界で、金色の光だけが見える。

 その光を抱き寄せる。

 お願い。

 今度は嘘って言って。

 光が収まって顔を上げると、目の前でアレクさんが微笑んでる。

 良かった……。

 やっぱり、あれは夢だったんだ。

「私の負けだね」

「負け……?」

 抱きしめていたエルの向きを変えて、その頬を叩く。

「エルの馬鹿!」

 エルが驚いた顔で私を見る。

「リリー?」

 どうして、あんなこと言ったの?

 自分が殺されても良いなんて。

「もう、見たくない」

 こんなの。

「もう、終わりにして」

 こんな怖いこと。

「何を?」

「エルが死ぬところなんて、もう、見たくないよ……」

 もう、何度目かわからない。

 エルが死ぬ夢を見たのが。

 それが全部、夢じゃなかったらどうしようって。

 本当に起きたことだったらどうしようって。

 今だって、夢だったらエルはアレクさんに……。

「すまなかったね、リリーシア。……エルを助けてくれて、ありがとう」

 やっぱり、アレクさんは最初からエルを攻撃する気なんてなかったんだ。

「エルを殺す気なんてない癖に。どうしてこんなことするんですか」

「君が何とかしてくれると思っていたから」

 私が?

「私、さっき起きたばっかりです。ここがどこかだって……」

 あれ?アレクさんの周りに誰も居ない。

 そういえば、イリスの声だってしないし、エルの精霊の声もしない。

「どうして誰も居ないの?」

「ここは精霊が苦手な空間だからね。みんな外で待ってるんだよ」

 そんな場所があるんだ。

 だったら、さっき聞こえた声も気のせい……?

「リリーが何とかしてくれるってどういう意味だよ」

「そのままだよ。私はエルよりもリリーシアのことを信頼してるんだ。困った時は助けてくれるってね」

 アレクさんのばか。

 私が起きなかったらどうするつもりだったんだろう……。

「最初から負ける気だったのか?」

「まさか。自分では決められない選択を運命に委ねただけだよ。その結果、リリーシアは私の剣を砂に変え、私は戦闘不可能になった」

 アレクさんの持っていたドレスソードの刃の部分が無くなってる。

 私……。

 また、魔法を使っちゃったんだ。

「全然元気じゃないか」

 アレクさんを見る。

 確かに、怪我もしてないし、まだ戦えそうだ。

「エルは勘違いしてるよ」

「勘違い?」

「エルにレイリスの魔法は効かない。エルは私の魔法を防御する必要はなかったんだ」

「あ」

 アレクさんが使える月の魔法は、エルには効かない。エルも知ってるよね?

「それに、短剣の技術でエルに勝とうとは思ってないよ」

 アレクさんはドレスソードで、エルは短剣で戦ってたの?

 短剣だけで長剣の人と渡り合えるのかな。

 ……私ならちょっと自信がない。

「良い勉強になっただろう。これが王家の敵との戦い方。彼は魔法を使いながら剣を振る」

「あんなこと出来る奴が、アレク以外に居るって?」

「そうだよ」

「うん」

 もしかして。アレクさん、あの人と戦うためにエルと特訓してたの?

「リリーシア。エルを借りても良いかい」

「もう、危ないことはしませんか?」

「しないよ」

「わかりました」

 大丈夫だよね。

 エルと一緒に立ち上がる。

「リリー、返すよ」

 エルが出したのは、カーネリアン。

「カーネリアンを使ってたの?」

「カーネリアンって言うのか。これ」

 ……こっちの名前、エルには言ってなかったんだっけ。

「これはね、イリデッセンスとお揃いなの。同じ素材で作ってるんだ」

 あの時、イリデッセンスを作った後に、余った素材で作った短剣。

 エイダがくれた精霊玉が付いている。

 エルは短刀の逆虹を持ってるはずだから、カーネリアンと二刀流で戦ってたのかな。

 それなら長剣とも渡り合える……?

 急にエルが、私の両肩に手を置く。

「絶対、イリデッセンスは取り返すから」

「えっ?……あの、無理しないで。欲しいならまた作るよ」

「この短剣と対になるのはあれだけだ。イリデッセンス以外欲しくない」

 どう、しよう……。

 すごくドキドキする。

「剣はエルを守る為のものだよ。エルが無事ならそれで良いの」

 エルが私の体をきつく抱きしめる。

 どうしよう。すごく、嬉しくて……。

「ありがとう。リリー」

「うん」

 エルが私の頭を撫でる。

「待ってて。すぐ、戻るから」

「はい」

 エルが、アレクさんの方に行く。

「アレク。何をするんだ?」

「簡単な儀式だよ」

「儀式?」

「エイルリオンよ。その主の元へ」

 前と同じ。アレクさんが召喚すると、エイルリオンが現れる。

 そして、アレクさんがエイルリオンをエルに差し出す。

「触ってごらん」

「え?」

 普通の人には触れないんじゃ?

「ほら」

 エルがエイルリオンに手を伸ばすと、その指が、エイルリオンに触れる。

 透けない。

 どうして、触れるの?

「なんで?」

 アレクさんが、エイルリオンの刃を下に向ける。

「エル。選択して欲しい。このままリリーシアと共に大陸を去るか。私と共に戦うか」

 えっ?大陸を去る?

「俺が勝ったのに、どうしてここを去らなきゃいけないんだ」

 そんなことを賭けて戦ってたの?

「エルが戦うと言えばリリーシアはついて来るだろう。彼女を危険な目に合わせても良いのかい」

 エルが私の方を見る。

「リリー」

 何も言わないで。

 ……もう、置いて行かないで。

「一緒に来て」

 え……?

 本当に?

 エルが差し伸べた手を取る。

「はい」

 大丈夫。

 一緒に居たら怖いことなんてない。

「意外だね」

「リリーは俺より強いんだ。一緒に居れば心配なんて要らないよ」

 認めてくれた……?

「俺は、大切なものは全部守りたい。これまで俺を大切にしてくれた人の為に何もしないで逃げ出すなんて考えられないだろ?」

 それって、すごくエルらしい。

「アレクは俺の、たった一人の兄だ。一緒に戦わせてくれ」

 アレクさんが視線を下に落として。

 そして、顔を上げる。

「そうだね。私も、迷いを捨てよう」

「迷い?アレクが迷うことなんてあるのか?」

「あるよ。新しい神を据えた人間の為だけの社会を目指すべきか、初代国王の意思を継いで王家の敵と戦うべきか。どちらも国の為になることだからね」

「え?」

―さぁ、これで因縁も消えた。

―私は完全に人間が支配する、人間の為の世界を創ることを約束しよう。

 さっきの夢と同じ……?

「何言ってるんだよ」

「心配しなくても、結論は出たんだ。エルが一緒に来てくれるなら私も戦うよ。彼は必ず王都に来るからね」

「王都に?なんでそんなことがわかるんだ」

「彼が私に接触したことは二度あるんだ。一度目はリリーシアと共に戦った時。二度目は、アルファド帝国の皇帝のように啓示を受けた時。神として崇めよ、とね」

 その時は戦わなかったってことだよね。

「彼は、その答えを聞きに来る。そう遠くない日に。……だから、戦うための準備をしなければならない」

「準備?」

「すでに進めている準備もあるけれど」

「用意周到だな。迎合するつもりでいたくせに、迎え撃つ準備もしてるのか」

「どんな選択を取っても、良い結果を導けるようにする為の準備は必要だよ」

「流石だな」

 アレクさん、本当にすごい人だよね。

「エル。エイルリオンには、一般の剣には必ずついている、あるものがないんだ。わかるかい」

「必ずついてるもの?」

 もしかして、あれかな。

 ちょっと気になってたのだ。

「リリーシアはどうかな」

「鞘です」

「正解」

 持ち歩くのに不便そうだなって思ってたんだよね。

 いつでも召喚できるなら、持ち運ぶ必要はないのかもしれないけど。

「その理由はね。エイルリオン自身が鞘だからだよ」

「鞘?」

「え?これって、剣じゃないんですか?」

「剣としても使えるけれど。本当の剣は鞘の中にあって、持ち主が抜くことは出来ないんだ」

 剣としても使える鞘なんて。

「なんで?」

「理由はわからないな。リリーシアはわかるかい」

「えっと……」

 アレクさんには抜けない剣がエイルリオンの中にあるってことは……。

「一人で戦うなってことじゃないですか?」

 アレクさんが笑う。

「そうだね。きっと、それが正解だ」

 ……アレクさん。本当に何でも一人でやろうとする人だから。

 初代国王もそんな人だったのかな。

 建国に携わった英雄だって、国王陛下を含めてわずか七人の精鋭だったみたいだし。

「エル。この鞘に収まった剣を受け取ってくれるかい」

「もちろん」

 エルがエイルリオンの柄を握る。

 どうしてエルはエイルリオンに触れられるのかな。

 私には触ることが出来なかったもの。

「エルが、精霊が私たちにとって敵ではないと言ってくれたから。私も精霊を信じ、精霊と共に戦うことを誓おう」

「信じてくれてありがとう。アレク」

「お礼を言うのは私だよ。ずっと、答えを出せずに居たから。一緒に選んでくれて、ありがとう」

 もしかして、エイルリオンの中身を抜けるのって……。

「もう、一人になんてさせない」

 エルがエイルリオンの柄を引くと、エイルリオンが眩く輝く。

 眩しくて何も見えなくて。

 不安で、エルの服の裾を掴む。

「あ、」

 エルが声を上げると同時に、光が止む。

 エイルリオンは全く変化してないのに、エルの手には新しい剣がある。

 これは、剣?

 レイピアのような細身の直剣。だけど、剣先は何故か丸みを帯びていて、刺突武器としては使えなさそうだ。刀身と柄の間にあるはずの鍔もない。

 不思議な剣。

「慈悲の剣。初代国王の王妃、リフィアの剣として知られるね」

「あれか」

 そういえば、リフィア王妃が持っていたのは、細身の剣だったよね。

 あれは、こんなに特別な剣だったんだ。

「この剣は誰でも触れるのか?」

 アレクさんが触れると、エルの剣が精霊のように透き通る。

 触れないんだ。

「リリーは?」

「えっ?私?」

 エルの剣に触れる。

「触れない……」

「エルを選んだからね」

 エルを選んだのはアレクさんだよね?

 エルが、慈悲の剣をイリデッセンスに納める。

 ……ぴったりだ。

 イリデッセンスの形状は、刀身の造りも長さもすべてエルの為だけに作ったものなのに。

 それと全く同じだなんて。

 慈悲の剣の方が、エルに合わせてる?それとも、最初からエルにぴったりの剣だった?


 ※


 みんなで皇太子の棟に戻って。

 アレクさんと別れて、エルと一緒にエルの部屋に行って、さっきのことを精霊の皆に話す。

 と言っても、説明してるのはエルだけど。

「リリー、聞いて欲しいことがあるんだ」

「うん?」

「リリー。俺はリリーとの間に子供が欲しい」

「うん。私も欲しいよ」

 ようやく教えてくれた。

 林檎の産地で聞いたこと。

「でも。子供を産む時に、リリーが俺の母親みたいにならないか……」

「大丈夫だよ、エル」

 エルが、エルの気持ちを話してくれるなんて。

 嬉しい。

「じゃあ、もし私がエルのお母さんみたいに大変なことになったら、エルが助けて」

「俺が?レイリスだって俺の母親を救えなかったのに」

「どうして自信がないの?エルは天才錬金術師で、こんなにたくさんの精霊が力を貸してくれるんだよ」

 精霊に出来ないことだって、エルなら出来る。

「私はエルを信じてる」

 エルが頭を抱える。

「リリーを絶対に救う。約束するよ」

 大丈夫だよ。

 二人で居れば怖いことなんてない。


―どこにも、行かないで。

―リリー。ずっと、傍に居て。俺がリリーを愛し続けることを許して。


 だから、もう。

 怖がらないで。

 

「卵だったら、こんな心配要らなかったのかな」

「卵?」

「うん。だって、エレインたちは卵を産むんでしょ?クレアはそうだって……」

 イレーヌさんが言ってたと思うけど。

「違うの?」

「詳しく教えて」

「エレインはイレーヌさんの子供で、卵から生まれたんだって」

「子供?」

 エルも知らないことだったのかな。

「でも、クレアはブラッドの男の人と交わると、ブラッドになって赤ちゃんを産むんだって」

 あ。それなら、私がクレアだったとしてもエルと結ばれて子供を産むなら変わらないのかな。

「どうやって卵を産んで孵すんだ?」

 卵の産み方……?

「イレーヌさんは、ブラッドがすることなんて知らないって言ってたから、クレアドラゴンみたいに卵を産んで、大精霊が孵すんじゃないかな」

―奇跡を起こせるのなんて精霊だけだもの。

―命の誕生って、最高の奇跡だわ。

 エレインがそう言ってたってことは、そうだよね。

 じゃあ、ブラッドはどうして精霊が居なくても赤ちゃんを産めるのかな。

 ちょっと不思議。

 でも、精霊が奇跡が起こせるように、生き物も奇跡を起こせる力があるのかも。

 エルを見上げる。

 この顔。

 また、難しい事でも考えてるのかな。

 いつも、いつも、何も教えてくれない。

「エルのばか」

「……ごめん」

 エルが素直に謝るなんて。

 なんだか、いつもと立場が逆みたい。

 


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