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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
53/149

60 安請け合いの代償

 午後も雨。

「シャルロのところに行くの?」

「うん」

 今度は真っ直ぐ行こう。

「パッセの店にはシャルロたちと行く?」

 そっか。今からシャルロさんの家に行くなら、こっちに戻って来る時間がなさそうだもんね。

「そうする」

「わかったわ」

「それなら、このショコラも少し持って行くと良いよ」

「うん」

 買い過ぎちゃったから。

「何を買いたかったの?」

「ショコラティーヌに使うショコラを買いに行ったの。三十日にマリーに作っていくって約束したんだ」

「明日?忙しいね」

 これから剣術大会も始まってしまうし、のんびりする暇ってなさそうだな。

「ショコラを分けておいてあげるから、着替えておいでよ」

「リリー、私の部屋に行きましょう」

 そうだった。


 ※


 キャロルが選んでくれたのは、鮮やかなシアン色のワンピースに、青いニットのカーディガン。

 ワンピースは花の模様が入っていてすごく可愛いものだ。

 ニットのカーディガンもあたたかい。

 胸元には翼のペンダント。

 キャロルが私の髪を解いて、カチューシャをつける。

「似合うわ。リリー」

「髪を下ろすのは、慣れないよ」

「じゃあ、ゆるく結んでおいてあげる」

 髪の一部をキャロルが結い上げてくれる。

「うん。良い感じだわ。またレインコートを着ていくの?」

「そのつもりだけど」

「傘にすれば良いのに」

「傘だと、雪姫が濡れちゃうから」

『王都で戦うことを警戒するなんてどうかしてるよ。剣術大会の間は戦っちゃいけないんだろ?』

 そうだった。

 まだバロンスには入ってないけど……。

『リリーは目立つんだから、大人しくしてなよ』

「……やっぱり、傘にしようかな」

「わかったわ。傘って雨の日しか使えないから貴重だものね」

 雪姫は置いて行こう。


 ※


 傘を差して、シャルロさんの家へ向かう。

 明るいオレンジ色の傘に雨が当たる音が楽しい。

 中央広場からイーストストリートに入ったところで、道の脇に停まっていた馬車から人が降りるのが見えた。

『あの人、こっちに来てない?』

 そうかも。

 走って来た人が、私の目の前で止まる。

「リリーシア様ですね?」

「はい」

 レインコートを着た人が、顔を上げる。

 女の人?メイドさん?

「あの、少々お時間頂けないでしょうか」

『知らない人について行っちゃだめだよ』

「あなたは?」

「その……。さる高貴なお方の使いの者です」

『アレクの使いっぽくはないよね』

「名前を教えてください」

「お教えするわけには……。あの、すぐに済みますから。主に会っていただきたいのです。あちらの馬車まででよろしいので、どうか一緒にいらしていただけませんか?」

 すぐに終わる用事なのかな。

「わかりました」

『リリー……』

 メイドさんがほっとした顔をする。

「ありがとうございます。どうぞ、こちらへ」

『何かあっても知らないよ?』

 王都で戦うことを警戒するなんて馬鹿げてるって言ったのはイリスなのに。

 案内されて馬車まで行くと、メイドさんが馬車の扉を開く。

 乗れば良いのかな。

「傘をお預かりいたします」

 傘を預けて馬車に乗ると、扉が閉まる。

「リリーシア様ですね」

『また緑の髪?』

 緑の髪の女の人だ。

 彼女の向かいに座る。

「はい。あなたは?」

「私はヴァジュイル辺境伯の妻のエレンと申します」

『ヴァジュイル辺境伯だって?』

 イリス、知ってるのかな。

「エレンさん?」

「はい」

『伯爵夫人が、リリーに何の用かな』

「あなたはイレーヌとお知り合いと聞きました」

「はい」

『良く知ってるね。リリーが王都に帰って来たのは昨日なのに』

 イレーヌさんと一緒に歩いてるところ、見てたのかな。

 王都に帰ってからも、シャルロさんの家と三番隊を行ったり来たりしてたから、見てたのかもしれない。

 緑の髪って珍しいし。

「どうか、これをイレーヌに渡して頂けないでしょうか」

 エレンさんから包みを預かる。

 なんだろう。このじゃらじゃらした感じは……、お金?

「イレーヌさんはシャルロさんの所に居ます。シャルロさんの家に行けば、」

「シャルロ様には御内密にしていただきたいのです」

「どうしてですか?」

「どうか、何も聞かずに渡して頂けないでしょうか。リリーシア様だけが頼りなのです」

『怪しいね。シャルロに内緒なんて』

 でも……。

 エレンさん、悪い人には見えないよね。

「わかりました。イレーヌさんになんて言って渡せば良いですか?」

「エレンから預かったと。このブローチと共に見せて頂ければわかるはずです」

 変わった石。素材はなんだろう。

「初めて見る石です」

『リリーが?』

「これはタリスマンと呼ばれる守り石です」

「タリスマン?」

 って、お守りのことじゃなかったっけ。

「はい。お礼としてお受け取りください。きっと災厄からリリーシア様をお守りして下さいます」

 災いから守る石なんて。なんだかフェーヴみたい。

「タリスマンと共に、エレンから預かったと言えばイレーヌは解ると思います」

『怪しいものじゃないんだよね?それ』

「これ、お金ですよね?」

「はい。……これは、私が里に返すべきものなのです」

『里?』

 あ。

「もしかしてエレンさんは、エレインとイレーヌさんと同じ里の人なんですか?」

「……はい」

「外で伯爵と結ばれたから、里に帰れなくなった人?」

 エレンさんが驚いた顔をする。

「ご存知でしたか。……その通りです。私はワイン商として地上に出ていた時に伯爵と結ばれ、そのまま里に帰るすべを失ってしまったのです」

 イレーヌさんと同じ仕事をしてたのかな。

 ロマーノ・ベリルワインを扱ってる商人。

「これはその時に里に納めることのできなかったワインの代金。どうかイレーヌに渡して頂けないでしょうか」

「二人に会わなくて良いんですか?」

「できません。私は、もう二度と里の人間と関わってはいけないのです」

「そんなに厳しい掟なの?」

「はい」

 里に帰ることもできないし、里の人に会うこともできないんだ。

「寂しくないですか?」

 エレンさんが微笑む。

「それが私の選んだことですから。優しい夫と可愛い娘に囲まれて、私は幸せです」

 ……そっか。

「伝えておきます」

「ありがとうござます」

「でも、どうしてシャルロさんに言っちゃいけないんですか?」

「伯爵にご迷惑をかけたくないのです」

「迷惑?」

「私の出身は公にできるものではございません。私を妻として迎える為にとった伯爵の行動は少々強引なものでした。些細なことかもしれませんが、伯爵の妻である私がエレインやイレーヌと接触するという意味を、シャルロ様に知られたくはないのです。あの方は勘が良いですから……」

 法律に触れる手段を使ったってことだよね。

『リリー、黙っててあげなよ』

 シャルロさんが弁護士だから悪い事をしたってばれたくないのかな。

「わかりました」

「お心遣いに感謝いたします。どうか、宜しくお願い致します」

 エレンさんが頭を下げる。

「はい。任せてください」

「リリーシア様がお帰りです」

 エレンさんが声を上げると、馬車の扉が開いて、傘が開く。

 馬車から降りて傘を受け取ると、メイドさんが馬車を閉める。

「ずっとここで待ってたんですか?」

「リリーシア様が本日シャルロ様宅に伺うと聞いておりましたから」

 ずっと私がここを通るのを待ってたの?

「どうか、主の願いを叶えて下さい」

「はい」

『本当、安請け合いするんだからさ』

 傘を持って、シャルロさんの家に向かう。

「どうしても渡したかったんだよ」

『そうだね。シャルロに秘密にしながらイレーヌに確実に渡す方法が、リリーだけだったんだろうね』

「私だけ?」

『エレインにもイレーヌにも直接会ってはいけない上に、二人はシャルロの家に居る。誰かに頼もうとすれば必ずシャルロの家の関係者に当たるんだ。でも、イレーヌを直接知ってるリリーなら、シャルロの家の関係者と接触せずに直接イレーヌに渡せるだろ?』

 そっか。

『誰にもばれないように、ちゃんと本人に渡さなくちゃね』

「うん」


 ※


 シャルロさんの家に行くと、カーリーさんがエレインとイレーヌさんが居る応接室に案内してくれた。

「コーヒーと紅茶、どちらに致しましょうか?」

「紅茶をお願いします」

「かしこまりました」

 そう言って、カーリーさんが出て行く。

 部屋に居るのはエレインとイレーヌさんだけ。

 今の内に渡さなきゃ。

「イレーヌさん。これ、エレンさんから預かって来たの」

 エレンさんから預かった袋をイレーヌさんに渡す。

「エレン?」

「エレンですって?」

 預かったブローチをイレーヌさんに渡す。

「エレンのタリスマンだわ」

「里に帰れなくなったから、渡して欲しいって頼まれたんだ」

「いつ?」

「さっき」

「さっき?随分急ね。まだ近くに居るの?」

「えっと……。シャルロさんには内緒にして欲しいみたいで」

「複雑な事情がありそうね。詳しい事は言わなくて良いわ。……これはあなたが持っていて」

 イレーヌさんがタリスマンを私に渡す。

「良いの?」

「あなたが貰ったんでしょう?」

「お礼にって言われたけど……」

「だったら持っていて。きっとあなたを守ってくれるわ」

 特別な意味があるのかな。

「エレンって結構前に居なくなった商人よね?殺されたんじゃないかって言われてたのに」

「行商の途中で誰かと結ばれたのよ」

 イレーヌさんが袋の中身をエレインに見せる。

「お金?」

「里に納めるはずだったお金よ。里のことなんて気にしなくても良いのに。掟にはそういう意味もあるのだけど」

 そうなんだ。

 それでも、ずっと渡したかったんだろうな。

「ありがとう、リリーシア。あなたに会ってから良い事ばかりだわ」

「え?」

 ノックが二回。

 イレーヌさんが包みを懐に仕舞った後、カーリーさんが入って来る。

「失礼いたします。紅茶をお持ちいたしました」

 カーリーさんが紅茶とお菓子を並べる。

 砂糖がまわりについてるサブレだ。

「ディアマンという、卵の入っていないサブレでございます」

 黒い方はショコラが練り込んであるのかな。

 あ。ショコラ。

「カーリーさん。これ、お土産です」

「まぁ。ありがとうございます」

 カーリーさんがショコラの入った包みを持って部屋を出る。

「美味しそう」

 エレインがサブレをつまむ。

「美味しいっ!」

「もう。考えなしに食べるんだから」

「だって、カーリーは卵が入ってないって言ってたわ」

 菜食主義って、もしかして里の掟なのかな。

 本当は色んな物を食べたいのかもしれない。

「あのね。もう一つ伝えたいことがあるの。……エレンさんは今、幸せにしてるって。優しい夫と、娘に囲まれて幸せにしてるって言ってたよ」

「そう。……良かったわ」

「外で幸せになったのね」

「エレインも、カミーユさんと結ばれたいんだよね?」

 エレインの顔が赤くなる。

「私、ブラッドのことが良くわからないから……。結ばれるっていうのが、その、どうすることなのかわからないのだけど」

「ブラッド?」

 イレーヌさんが咳払いする。

「私たちと違う民族っていう意味よ。私たちとしきたりが違うの」

『違う民族、ね』

 ブラッドなんて民族、聞いたことがないけれど。

 掟とかとても厳しくて閉鎖的な場所みたいだから、二人の里でだけそう呼ばれているのかもしれない。

「じゃあ、結ばれるって、結婚したいって意味で良いのかな」

「そうね。だいたい合ってるんじゃないかしら」

「じゃあ私、カミーユと結婚したい。……でも、どうすれば良いの?」

「えっと……」

「その、男の人が全部やってくれるって聞いたのだけど」

 プロポーズのこと?

「あの、結婚より先に、お互いの気持ちを確認しなくちゃ」

「気持ちを?」

「お互いに好きだって確認しなくちゃ」

「私がカミーユを好きなだけじゃいけないのね」

「うん」

「カミーユに好きになってもらうにはどうすれば良いのかしら。でも、好きじゃなくても結婚って出来るものじゃないの?」

「何を馬鹿なことを言っているの。そんなのは結ばれたとは言わないわ」

「エレンは幸せにしてるって、リリーシアが言ってるわ」

「あの、それは、お互いに愛し合ってるからだと思うよ」

「あなたとエルロックも?」

「私、エルのこと愛してるし、エルも私のことすごく大切にしてくれてるよ」

『エルはリリーのこと大好きだよね』

「エレイン。愛してくれない人と結ばれてどうするの?そんなことを考えてるなら、今すぐにでも連れて帰るわよ」

「ごめんなさい」

『なんだか心が痛むね』

 セリーヌが言っていたことを思い出してしまう。

 カミーユさん。結婚してって言われたら、好きでもない人と結婚できるのかな。

「でも私、カミーユともっと一緒に居たいの。このまま里に帰っても、きっと会いたいって気持ちはずっと残るわ」

「また遊びに来ることってできないの?」

「私は商人じゃないから、簡単に外に出ることはできないの。きっともう、卵を産むまで出してもらえない。だったら、私もブラッドになって同じ時を生きたいの」

「エレイン!」

「どういうこと?」

『あー。もう、無理だね』

「え?」

 イリス?

『説明するよ。リリー。この世界には、草食のクレアドラゴンと肉食のブラッドドラゴンが居るね?』

「うん」

『その種族は、ドラゴンだけじゃなく人間にも居るんだ。意味は大体一緒。エレインとイレーヌはクレア。そして、リリーが会ったエレンって人は、元クレアのブラッドなんだろうね』

「クレア?」

「リリーシア、あなたも知ってるの?」

「えっと……」

『少し知ってる』

「少しだけ、知ってるの」

「そう。……私たちはあなたたちと違う。クレアという、あなたたちより長寿の種族よ」

 もしかして。

「エルは全部知ってるの?」

「知ってるわ」

『知ってるよ。ボクはこの話しを他の皆から聞いたんだから』

 みんなって、エルの精霊だよね。

 エルのばか。

 何も教えてくれないんだから。

「卵って?」

「私たちは卵を産んで、卵から孵った子供を育てるの」

 卵を産む?

「私はエレインの姉って言ったけれど、本当はエレインの母親よ」

「えっ?」

 全然、そう見えない。

「私たちクレアは、ブラッドに変化するわ」

 ブラッドって、私たちのことだ。

「肉や魚を口にすることで変化する可能性もあるけれど、一番多いのはブラッドと結ばれること。私たちはクレアからブラッドになり、あなたたちと同じように出産するわ」

『えっ?』

 え?

「里に入ることが出来るのはクレアだけ。外でブラッドと結ばれたなら、クレアであったことを捨てるのが里の掟よ。エレンもそう。……それに、あなたの身近にも居たはずよ。緑の髪の女性はクレアが産んだ子供だもの」

「イーシャのこと?」

「イーシャって言うの?あなたのお姉さんの母親はクレアに違いないわ」

 だから、私と血が繋がってないって思ったんだ。

「ねぇ、リリーシア。結婚する方法を教えて」

「えっと……」

 イレーヌさんの方を見る。

「私は知らないもの」

「知らないの?」

「ブラッドがすることなんて知らないわ」

 どうしよう。

 何て言えば良いの。

 


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