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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
51/149

58 備えあれば憂いなし

『どうするの?リリー』

 カミーユさんに好きな人が居るって言うべきなのかな。

 今は恋人もいるはずだ。

 でも……。

 言えない。

 好きな人に何も言う前に、結果を伝えるようなことはしたくない。

 カミーユさんのエレインへの気持ちを私は何も知らないから。

―カミーユともう一度会いたい。

 エレインから頼まれた協力は、それだけ。

 エレインは、シャルロさんの家に来てからずっとカミーユさんと会っていないらしい。

 会いたいなら錬金術研究所に一緒に行こうと言ったら、断られてしまった。

 忙しいのに、仕事を邪魔するのは気が引けるらしい。

 ……当然だよね。

 みんなが慌ただしく走り回っていた研究所の様子を思い出す。

 プリーギに対抗する薬は開発されたはずだけど、薬が出来たからって患者さんがすぐに居なくなるわけじゃない。その薬の量産が必要だ。私が王都を出る時、近衛騎士のヴェロニクさんが薬の量産を手伝うって言ってたぐらいだから、まだまだ研究所は忙しかったんだろう。

 今はどうなのかな。

『錬金術研究所だね。何か作戦でもあるの?』

 とりあえず、会ってから考えよう。

『あるわけないよね』


 錬金術研究所に入って、カミーユさんの研究室まで案内してもらう。

 前みたいに走り回ってる人は居ない。少しは落ち着いてるのかな。

 階段を上って……。ここ?

 ノックを二回。

「どうぞ」

 セリーヌの声だ。

 扉を開く。

「こんにちは」

「あら。リリーじゃない。どうしたの?」

「えっと……」

 研究所の人ってみんな白衣を着てる。

 あの人とあの人は会ったことないよね?

「アシューとノエルは初めてじゃないのか?」

 この人は会ったことがある。

「ジャンルードさん」

「ルードで良いですよ」

「初めまして。僕はアシュリック。アシューで良いよ」

「俺はノエル。アップルパイは美味かったぜ」

 食べてくれたんだ。

「ありがとうございます」

「カミーユ、アリシア、リリーシアさんが来たぜ」

 ルードさんが奥に向かって声をかけると、二人が顔を出す。

「リリーシアちゃん?」

「リリー?」

「アリシア、カミーユさん」

「ちょうど良い。少し聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと?」

「転移の魔法陣について。エルから何か聞いてないか?」

「え?私、詳しくないですけど……」

「これの意味だよ」

 カミーユさんが見せてくれたのは、前にエルから聞かれたことのある言葉。

「コールポは体とか本体、プピーオは瞳、ナイリは爪、コッロは心臓です」

「変わった意味だな」

 カミーユさんがメモしてる。

 全部、転移の魔法陣に関係のある言葉だってエルが言ってたよね。

「それ、髪を意味するハラーロもあるみたいです」

「髪か……。どこで聞いたんだ?」

「エレインのお姉さんのイレーヌさんが使ってて……」

「エレインの姉?もしかして、エレインを迎えに来たのか?」

「そうみたい」

「そうか。王都を案内するって約束してたんだけどな。もう帰るのか」

「ずっと忙しかったからね」

「ようやく予防薬の製造がひと段落したところだからな」

「予防薬?」

「プリーギの感染予防の薬です。まだ受けてないなら、接種しておいてくださいね」

「今なら、どこの医療機関でも無償で受けられるわ。研究所の下のフロアでも受け付けてるから、帰りに受けていったら?」

「うん」

 予防薬があるってことは、もう、あの病気を怖がらなくて良いのかな。

「リリーシアちゃん、エレインはいつ帰るんだ?」

「十八日です」

「十八?ってことは剣術大会の間は居るのか」

「はい。だから、それまでに王都の案内をしてあげてください」

「そうだな。どこか行きたいって言ってたところでもあるのかい」

「えっと……」

 聞いておくんだった。何が好きかも全然知らない。

「ねぇ。私も遊びたいわ、エレインと。せっかくだから、明日の夜にみんなで集まりましょう」

「みんなって?」

「あんたたち全員よ。マリーとユリアも気になるって言っていたし。アリシアも来るわよね?」

「あぁ。参加させてもらおう」

「リリー、エレインとイレーヌに言っておいてくれる?場所はパッセの店よ」

「うん。わかった」

 二人きりじゃないけど、これでエレインとカミーユさんが会えるよね。

『リリー、二人は菜食主義者だよ。大丈夫なの?』

「あ」

「どうしたの?」

「あの、エレインとイレーヌさんは菜食主義者なの。肉や魚料理は食べないんだけど……」

「そうなの?菜食主義者って、どこまで徹底してるのかしら。卵や乳製品もダメ?」

「乳製品は大丈夫だと思う」

 今日、クリームの入ったものを食べてたから。

「卵は解らないけど……」

「卵もだめって言ってたぜ」

「詳しいわね」

「エレインと一緒に旅してきたからな」

 そっか。

 エルとカミーユさんは二人で遺跡へ行って、エルが転移の魔法陣で帰って来たから、帰りはエレインと二人で来たんだよね。

「それよりも、エレインはパッセの店なんてわからないんじゃないか?」

「シャルロに案内させれば良いじゃない」

「えっと、シャルロさんも誘えば良い?」

「そうね」

『リリーはパッセの店に迷わず行けるの?』

 たぶん……?

 アリシアが苦笑する。

「自信がなさそうだな。迷うような場所なのか?」

「あー。じゃあ、ルイスとキャロルも誘ってみたらどうだ?」

「それが良いわ」

「かなりの人数になるんじゃないのか?これ」

「貸し切りにするって言っておいた方が良いぞ」

 賑やかになりそう。

「仕事が終わったらパッセに聞いておくわ」

「ありがとう」

「リリー。予防薬の接種をやってる部屋に案内してあげるわ。行きましょう」

「うん」


 セリーヌと一緒に研究室を出て、階段を下りる。

「リリー」

「何?」

「エレインって、もしかしてカミーユのことが好きなの?」

「えっと……」

「そうなのね」

『ばれちゃったね』

 ごめん、エレイン。

「どうしてわかったの?」

「今日は何の用事で来たの?」

「えっと……」

 セリーヌが笑う。

「良いのよ。リリーが遊びに来てくれるのは大歓迎だもの。それよりも、あの子が王都に来て何日経ってると思ってるの?」

「え?何日?」

「カミーユがエレインを王都に連れて来たのは十四日よ」

「十四日?」

 今日が二十八だから、半月ぐらい居るんだ。

「それなのに、王都を案内してあげてなんて変じゃない」

 ……知らなかった。

 でも、それぐらい経ってるはずだよね。

「カミーユさんにも気づかれたかな」

「気づかれてないんじゃない?」

 良かった。

「好きだって言われれば、あいつはどんな相手でも付き合うわよ」

「そうなの?でも、カミーユさんって恋人が居るよね?」

「今は居ないわ」

「え?」

「いつのことかわからないけど、とっくの昔に別れてるわよ。長続きしないの」

「どうして?」

「別れたいって切り出したら簡単に別れるのよ。引き留めて欲しかったって、何人も泣かされてるわ」

 それって、カミーユさんが本当に好きな人が別に居るからだと思うんだけど……。

 どうして好きでもない人と付き合うんだろう。

「だから、やめておいた方が良いと思うけど」

 やめるって。出来る事なのかな。

「好きな気持ちってどうしようもないよ。エレインの今の気持ちを大切にしてあげたいと思う」

 簡単に押し殺すことが出来る想いでも、諦められる気持ちでもないと思うから。

 だから。応援してあげたいと思う。

「それに、エレインは故郷に帰らなくちゃいけないから。思い残すことがないようにしてあげたいんだ」

「そう。彼女、故郷に帰らなくちゃいけないのね。……さっきも言った通り、あの馬鹿を落とすのは簡単よ。問題は、あいつに何を望むか。故郷に連れ帰りたいの?」

「それはないと思う」

「じゃあ、帰るまでの間に楽しい思い出を作りたいだけ?」

「えっと……」

 タイムリミットは十八日。

―それまでに、その好きな相手を落としなさい。

―出来ないなら帰る。それで良い?

―里の掟は知っているでしょう。外で誰かと結ばれたなら、里には帰れないわ。

 結ばれるって何を指すんだろう。

―夫婦になるってどんな感じ?

 ……結婚するって意味だったらどうしよう。こんな短い間に決められることなのかな。

「時間がないのだし、そこははっきりさせておいた方が良いでしょうね」

「うん」

「私にできることがあるなら協力するわ」

「ありがとう、セリーヌ」

 私なんかよりずっと頼りになるよね。

「さ、予防薬の接種はここよ」

 錬金術研究所の一階。

 研究所って広いよね。

 この辺りは、なんだか病院みたい。

 あれ?もしかして。

「ここって、色んな検査が受けられる?」

「えぇ。医療設備は一番充実してるわよ」

「あの、調べたいことがあるんだけど……」

「何?」

 セリーヌを手招きして、耳元で小声で言う。

「大丈夫よ。私が調べてあげる」

「ありがとう。セリーヌ」

『何を調べるの?』

 ずっと、気になってること。

「エルには言わないで」

「わかったわ」

『良いけど……』


 ※


 シャルロさんの家に逆戻りして、カーリーさんに明日のことを伝える。

「かしこまりました。お伝えいたします。ですが、エレイン様とイレーヌ様は外出中です」

「三番隊に行ったの?」

「いいえ。エレイン様はイレーヌ様に王都の案内をされるとおっしゃっておりましたが」

『入れ違いになっちゃったね』

「わかりました。また明日来ます」

「はい。では、お気をつけて」

「ありがとうございます」

 あ。指輪つけてる。

「どうかされましたか?」

「あの、カーリーさんって、シャルロさんといつ結婚したんですか?」

「気になりますか?」

「指輪、いつからしてたのかと思って」

「そうですね。指輪をつけるようになったのは最近ですよ」

 やっぱり。

「どうして今までつけなかったんですか?」

「必要なかったからです」

「どうして今はつけているの?」

「秘密です」

 秘密なんだ。


 ※


「おかえり、リリーシア」

「おかえりなさい、リリー」

「ただいま、ルイス、キャロル」

 二人の顔を見るととても安心する。

 エルもこんな感じなのかな。

「エルに会えなかったの?」

「会えたよ。でも、エルは急ぎの用事があるみたいで、真っ直ぐアレクさんのところに行ったの」

「そっか。ドラゴンとは戦った?」

「戦ってないよ」

「残念だな。薬の効果を聞こうと思ってたのに」

「もう。戦わないなら戦わない方が良いじゃない」

 でも、紫竜フォルテがいつ現れるかはわからない。

 ルイスが作ってくれた薬、ドラゴンと戦うことになったら使えそうだよね。

「あのね、明日の夜、皆で集まることになったの」

「皆って?」

「カミーユさんの研究室の人たちと、マリーとユリアと、シャルロさんと、エレインとイレーヌさんと……」

「大勢だね」

「あの、二人も一緒に行って欲しいの」

「私たちも?」

「うん。場所がパッセさんの店なんだけど……」

 ルイスがくすくす笑う。

「わかったよ。一緒に行く」

『ばればれだね』

「その代り、リリーシアが着る服はキャロルに選んでもらってね」

「えっ?」

「それ、良い案だわ。何にしようかしら」

 キャロルがすごく楽しそうだ。

『相変わらずルイスの方が上手だね。リリー、エルから預かってるお土産渡さなくて良いの?』

 そうだった。

「あのね、エルから預かってるお土産があるの」

 オルゴールと翡翠のついたバングルを二人に渡す。

「わぁ、オルゴール!」

「珍しいね」

「どうして?」

「いつも私は髪飾りで、ルイスはポーラータイなんだもの。オルゴールなんて初めて。綺麗な音色」

「一緒に買い物したの?」

「うん。でも、選んだのはエルだよ」

「きっと楽しかったのね」

「そうだね」

 楽しかったのかな?あれ。

 買い物はあっという間だった気がするけど。

「リリーも何か買ってもらわなかった?」

「これを……」

 翼のペンダントと、白い花のついたカチューシャ。

「可愛い。服はこれに似合うのにしましょう」

 楽しそうに、キャロルが私の腕を引く。


「そうだ。私、リリーに用事があったの」

「うん?」

 キャロルの部屋には行かずに台所に入ると、キャロルがブリキの缶を出す。

「リリーに言われた通り、ラム酒を塗ってるのよ。リリーのイメージ通りになっているかしら」

 ずっと続けてくれたんだ。

「良い香り。……うん。すごく良い感じに熟成してきたね。ありがとう」

 熟成ケーキらしい香りになってきた。

 今すぐ食べたいけど、もう少し我慢しなくちゃ。

「エル、次はいつ帰って来るの?」

「ルイスの誕生日には帰るって言ってたよ」

「良かった。ルイスの誕生日にもケーキを作るの?」

「もちろん」

「私も手伝うわ。どんなのにするつもり?」

「トゥンク村で、美味しいタルトタタンの作り方を教えてもらったんだ」

 ヴィアリさんから教えてもらったレシピを出す。

「トゥンク村って?」

「北の……」

「北?リリー、セズディセット山に行ったんじゃなかったの?」

「えっと……」

『南のセズディセット山に行って、北のカトルサンク山に向かって、竜の山に行って、遺跡に行ったんだよ』

「色んなところに行って来たんだ」

 後で地図で確認してみよう。

「このレシピの通りに作るの?」

「エルからポワールのケーキを頼まれてるんだ。だから、林檎じゃなくてポワールを使おうと思う。……それから、このブリゼ生地にはアーモンドプードルを混ぜようと思ってるよ」

 梨を使うなら、アーモンドが入った生地の方が合う気がする。

 これに香りの良いクリームでも添えようかな。

「それから、こっちが林檎ジャムの作り方。そのレシピで作ってみたのがこれだよ」

 竜の山で作った林檎ジャムをキャロルに渡す。

「林檎とシナモンの良い香り」

 香りを楽しんだ後、キャロルが瓶に蓋をして、私に向かってほほ笑む。

「さ、リリーの服を選びましょう」

「……はい」

 忘れてないよね。

 


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