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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
47/149

54 ぐらつく道Φ

 とても気持ち良い空気を感じる。

 目を開くと、エルが魔力の集中をやってる。

 久しぶりに見たな、それ。

 静かに体を起こして、エルの方を見る。

 エルの精霊たちも気持ち良さそう。

 そういえば、レイリス。エルに教えてあげなかったのかな。

 魔力の集中は、朝よりも、月の力が強い夜にやった方が良いって。

 

 エルがゆっくりと目を開く。

「さてと」

 エルが私の方を見て、微笑む。

 柔らかい微笑み。

「おはよう、リリー」

「おはよう、エル」

「朝食作るから待ってて」

「うん」


 部屋を出て行くエルを見送って、身支度を済ませる。

 料理を手伝っても良いけど……。

 ここ、綺麗に片づけた方が良いよね。

 エルが出しっぱなしにしていた本を本棚に戻す。

 エルが昨日読んでた本、竜の山の鉱物に関する本だ。

 そういえば、竜の山って珍しい宝石がたくさん採れるんじゃなかったかな。


 ※


 掃除を済ませて、エルが部屋に置きっぱなしにしていたリュヌリアンを持って部屋を出ると、食欲をそそる匂いが鼻につく。

 あぁ、お腹すいたかも。

 階段を下りて、台所に居るエルの傍に行く。

「すごいスパイスの匂い。何を作ってるの?」

 リュヌリアンはテーブルの脇に立てかけておこう。

「ニョッキとカレースープ」

「カレースープ?」

「スパイシーなスープだよ。林檎ジャムを入れたから少しまろやかになってると思うけど」

 スープに林檎ジャム?

 エルがニョッキをお皿に盛って、とろみのあるスープをその上にかける。

「どうぞ」

「ありがとう」

 エルから受け取ったお皿をテーブルに並べて、スプーンを用意する。

「コーヒー豆ってどこにあるんだ?」

「そっちの棚だよ」

 エルが棚から豆と豆挽きを出す。

「食後に淹れよう」

「うん」

 エルが引いた椅子に座って、エルが隣に座るのを待って手を合わせる。

「いただきます」

「いただきます」

 スープに絡んだニョッキを口に入れると、独特の香りが口の中に広がる。

 色んなスパイスが入ってそう。林檎が入ってる感じはしないけど。

「すごく香ばしい」

「昨日の余りだよ」

 余りで作ったんだ。

「美味しいよ」

「辛くないか?」

「大丈夫。体が温まりそう」

 昨日の余りで、こんなに美味しいものが出て来るなんて思わなかった。

 残していくことは出来ないから、全部使い切れるように計算して作ったのかな。

「部屋の掃除はしてきたよ。置いてあった本は本棚に戻しておいて良かった?」

「あぁ」

 一通り確認して来たから、忘れ物もないはず。

「朝食を食べたら、山頂を目指そう」

「山頂?」

「ルーベルが居るんだ」

 赤竜ルーベル。

「ドラゴンに会いに行くの?」

「そっちはついで。山は涼しくて紅葉が早いから、きっと綺麗だよ」

「本当?楽しみだね」

 紅葉を見るのは初めて。

 季節を体感できるって、すごく素敵なことだ。

 会ってから、一緒に居る期間が季節と一緒に重なって行く。


 ※


 山を登るにつれて、木々が色づいて行く。

 初めてすべてが紅に染まった木を見た時には、思わず見惚れて立ち止まってしまった。

 なんて、綺麗な紅。

 やっぱり赤色が好き。


「紅葉って綺麗だね。本当に葉っぱが真っ赤になってる」

 登って行くにつれて、色がどんどん鮮やかになる。

 染まらない緑色の木と、紅の葉、黄色の葉。

 これが見られるのは、秋だけなんだよね。

「あっ、」

 木々を見上げながら歩いたせいで体勢を崩した私を、エルが支える。

「前を見て歩かないと転ぶぞ」

「そうなんだけど……」

「そんなに気に入ったのか?」

「だってすごく綺麗だよ。こんなに鮮やかな色に囲まれてるなんて不思議」

 とっても素敵なんだけど。少し気になってることがある。

「でも、精霊が全然居ないね」

「居ない?」

 エルが隣で立ち止まって、目を閉じる。

 ……空気が変わった。

 魔法使いが精霊の気配を探す時って、魔力の集中みたいなことをするのかな。

 辺りを見回すけど、やっぱり精霊は居ない。

 こんなに自然に溢れているところで精霊が居ないなんて違和感がある。

 それはカトルサンク山でも感じたことだけど、あれはニゲルの為に居なかっただけで、たぶん今はまた精霊に溢れてるはずだ。

「少し怖い」

 炎の精霊が言っていたことも気になるし。

「そうだな。ルーベルに会ったら、まっすぐ帰ろう」

 帰るまで、何も起こりませんように。


「エル、橋があるよ」

 地面が裂けたみたいに、並行してある断崖絶壁の両脇にかけられた橋。

「この橋を越えれば、山頂まではすぐのはずだ」

 谷底には、大きな音を立てながら、すごい速さで流れている川。

 橋に足を乗せると、思った以上に揺れてびっくりする。

「すごく揺れる……。落ちないかな」

「落ちないよ。かなり丈夫に作られてるから」

 丈夫なのかな、これ。こんなに揺れるのに。

 手すりになるロープと、エルの右手に捕まって、少しずつ歩く。

「抱えるか?」

「大丈夫。手を繋いでて」

 大丈夫。

 エルは普通に歩いてるし。

 歩き方を工夫すれば怖くないかも。

 ……あれ?この水の音。川の流れの音じゃないよね?

 顔を上げると、左側に滝があって……。

「あ!見て、エル。虹のリングだよ」

 一番外側が赤くて、一番内側が菫色の円。

「本当だ。珍しい。……綺麗だな」

「うん。綺麗だね」

 あれって、綺麗な輪になっているけど、虹って呼んで良いものなのかな。

「どうしてアーチじゃないの?」

「これが本来の虹の姿だよ。地上からだと、下半分は見えないってだけで」

「普段は埋まってるってこと?」

「そんなところ」

―虹の中心は必ず観測者なんだ。

―だから、僕が見ている虹は、僕を中心に弧を描いた虹。

―リリーシアが見る虹は、リリーシアを中心に弧を描いた虹。

「あの虹も、エルと私が見てるものでは違うの?」

「厳密に言うとそうなるな。虹は一人一人の前にしか現れないから」

 同じものを見てるのに、本当は同じものを見ていないなんて、少し寂しいな。

 エルと私は、同じ方向を見てるのに。

 本当に見てるものって同じものじゃないのかな。

 エルが振り返って、私を見る。

「一緒に見ることが出来ないってわけじゃないかもな」

「?」

 エルが言うなら、見られるのかな。

 ……そういえば。

「この前、エルがお城で騒ぎを起こした時に虹が出たの知ってる?」

 あの満月の日。

「月明かりが強かったからな。俺も見たよ」

「その時に、見たことのない精霊が飛んでいたの」

「見たことのない精霊?何色だったんだ?」

「虹と重なってたから、色がわからなくって」

「え?その精霊、リリーの目からも透けてたのか?」

「透けてた、のかなぁ」

 とても薄い色だったのか、夜の色だったのか、それとも光に近い色だったのか……。

 虹と重なってる印象が強くてわからない。

「もしかしたら、虹の精霊だったのかな」

「虹の精霊か」

 きっと、特別な時にしか現れない精霊なんだ。

「虹の精霊は砂の精霊と対になる精霊だって知ってたか?」

「え?そうなの?」

「月の大精霊が地上において砂の大精霊と呼ばれるように、太陽の大精霊は地上において虹の大精霊と呼ばれるらしいんだ。でも、誰も見たことのない精霊らしい」

 虹の……?

「あれ?でも、前にエイダが虹の女神って言ってた気がする」

「虹の女神?」

「虹の女神は、世界を繋ぐ架け橋。真実を繋ぐ女神って」

―あなたは虹の女神の御使いなのかしら。

「エイダが?」

「うん」

『精霊は神にはなれない。その所業が神に近いものだったから、そう呼ばれているだけだろう』

『そうねぇ。地上の精霊にとって、レイリスや虹の大精霊はぁ、あたしたちよりも神様に近い存在だものねぇ』

「それって、御使いじゃないのか?」

『精霊を御使いとは呼ばないわぁ』

 役割が違うんだっけ?

「エイダは、虹の大精霊と直接会ったことがあるのかな」

『炎の大精霊なら、その可能性はあるだろうな』

『アンジュはエイダから記憶を貰ってるー?』

『うーん。ちょっとわからないかも』

『会ってみたいわ。どこに居るのかしら』

『エルとリリーと一緒に居れば、会えそうな気がするよ』

 会えるかな。

 会えるなら、会ってみたい。

 せめて、どんな色の精霊かわかれば良いのだけど。

「虹の精霊。もう一度会ってみたいな」

「今はいないのか?」

 んー。本当に、ここは精霊を見かけないから。

「見えないけど……」

『……』

 あれ?

 エルと一緒に振り返る。

 そして、エルと顔を見合わせる。

「今、何か言った?」

「今、何か言ったか?」

 気のせい?


 ※


 山頂に居たのは、真っ赤な身体のドラゴン。

 赤竜ルーベル。

『リリーって、この短期間で竜の山のドラゴンに全部会ったんだね』

 赤竜ルーベル、黒竜ニゲル、緑竜ウィリデ。

『リリーは、ドラゴンの言葉はわかるのぉ?』

「うん。少し苦手だけど」

 横でちゃんと聞いていれば翻訳できるけど、こうして精霊とお喋りしてたら、エルとルーベルの会話を翻訳するなんて器用なことは出来ない。

『ちょっと意外ね』

『古代語だってろくに勉強しなかったからね』

「単語ぐらいならわかるけど」

『そんなのばっかりだよね』

「イリスはドラゴンと話せるの?」

『失礼だな。ボクは精霊なんだから、ドラゴンとの意思疎通が出来るに決まってるだろ』

 学ばなくても話せるって便利だな。

 あれ?イリスの後ろに精霊が居る。

 ルーベルの傍には精霊が居るんだ。

 目が合った。

「えっと……」

 炎の精霊と光の精霊。

『エルロックの知り合いか?』

「リリーシアです。エルのこと知ってるの?」

『ルーベルが気に入ったからね』

 エル、ドラゴンにも気に入られたんだ。

『約束を果たしてニゲルを連れ帰った』

「約束?」

『ルーベルから頼まれてたんだよ。ニゲルを見かけたら、竜の山に顔を出すように伝えて欲しいって』

「そうだったんだ」

 エル、竜の山にも来てたんだ。

 そういえば、砂漠にも行ったって言ってなかったっけ?

「は?」

 突然、エルが驚いた声を上げる。

―「良い目をした騎士だったからな。少しもてなしてやった」

 騎士?

―「あれはアレクの騎士だぞ。あんまり苛めるな」

―「アレクシスも良い卵を見つけたな」

 近衛騎士?誰が来たんだろう。知ってる人かな。

―「エルロック。ニゲルを見つけだし、ウィリデを助けて卵を孵したことに礼を言う」

―「卵を孵したのはレイリスだぞ」

―「あれも人間に味方する大精霊だろう。私は静観を構えるつもりでいたが、もし人間にとっての危機が訪れるならば、一度だけ人間に味方することを誓おう」

―「どういう意味だ?」

―「時が来ればわかる。……おそらく、そう遠くないだろう」

 怖い。

―「色々ありがとう。ルーベル」

 


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