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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
44/149

51 人と亜精霊と精霊が守るもの

「どういう意味でしょうか」

「今日、私と一緒にタルトタタンを作ったよね?」

「えぇ。覚えていますよ」

「その時にどんな話したか覚えてる?」

「……えぇ」

「じゃあ、どうして私の呼び方を変えたの?あの時に、話したよね?」

「そうでしたね。色々なことがあって、つい……」

「あなたの名前は?」

「……ヴィアリです」

「違う。ヴィアリさんのはずないよ。だって、ヴィアリさんは、」

 相手の右手を掴む。

 やっぱりない。

「ここに、火傷をしてたの」

「もう治りました」

「私、薬を塗ったからわかるよ。すぐに、こんな綺麗に治るような怪我じゃなかった」

 相手が言葉を失って、俯く。

「教えて。あなたは誰?」

「……ヴァイラと申します」

「ヴァイラさん?ヴィアリさんの姉妹?」

「はい。ヴィアリと私は双子です」

「双子?だからそっくりなの?」

「……あなたは異国の方でしたね」

「え?……うん」

 何か、関係があるの?

「どうして嘘を吐いたの?」

「ここから先に冒険者を通さないようにするのが、私の役目です。ヴィアリと顔見知りの冒険者は、この先にアラクネの巣しかないと知ると、私を助けて村に戻って下さいます。先に進んだ冒険者も居ますが、この先は本当にアラクネの巣になっていますから、アラクネが撃退してくれるんです」

「アラクネとあなたたちは、仲間なの?」

「はい。同じ目的を持った仲間です」

「同じ目的って?」

「それを、言うわけには……。あの方が何故進まれたのか、リリーシア様は御存知ではないのですか」

「わからない。でも、エルは戦わないって言ってたよ。来る途中に居たアラクネにだって攻撃しなかったから、アラクネと戦う気はないんだと思う」

 アレクさんもそうだった。

「本当に、戦う目的で来たのではないのでしょうか。あんなに大きな剣をお持ちになっているのに」

「あれを持ってるのは……」

 紫竜フォルテと戦う為なんだけど。

『リリー。余計なこと言わないでよ』

 なんて言ったら良いのかな。

「……?」

 あ。この音。

 鎧の擦れる、金属音。

 さっき聞いたの、気のせいじゃなかったんだ。

 音の鳴る方を見ると、灯りが見える。

『誰か来るね』

 ヴァイラさんの前に立って、雪姫に手をかける。

「リリーシア様?」

「誰か来る。たぶん、人間」

 しばらくして姿を現したのは……。

「あれ?エルと一緒に居たお嬢ちゃんに、宿のメイドじゃないか」

「ブルースさん?と……」

「こんにちは。変なところで会いますね」

 宿に居た四人も一緒だ。

「どうしたんですか?」

「なんか眩しい光が見えたから、来てみたら、洞窟があるからさ。探検しようって話しになったんだよ」

「私たちも気になったものですから。一緒に来たんですよ」

 眩しい光って、洞窟の前で使った魔法のことだよね。

「そうだったんですか」

 雪姫にかけていた手を降ろす。

「エルは一緒じゃないのか?」

「エルは先に行っちゃったんです」

「先?」

「この先は危険です。どうか、このまま引き返してください」

「何かあるのか?」

「アラクネの巣になっています。私も今、逃げて来たところなんです」

 ヴァイラさん……。

「そりゃあ大変だったな。エルは大丈夫なのか?」

「すぐに戻られると仰られていましたから、きっと大丈夫だと思います」

 少し、遅い気がする。

「どっちに行ったんだ?」

 確か、あの入口だよね。

「そっちに行ったのか。俺が様子を見て来てやるよ。あんたたちはここで待ってな」

「危険です」

「なぁに、やばそうだったら、あいつを抱えて逃げてくるよ。これだけ人数が居れば、逃げられるだろ」

「私も行きます」

「亜精霊、怖いんだろ?心配するなって」

「お待ちください!」

「あの、待ってください」

 ヴァイラさんの声も、私の声も無視して、ブルースさんはエルが進んだ入口に行ってしまった。

「あぁ……。こんなに人が来るなんて……」

「ごめんなさい」

 私が、エルが進んだ方を教えちゃったから。

『リリー、様子が変だ』

 ……囲まれてる?

 周りの四人組が、何故か私とヴァイラさんを囲むように移動する。

 光の玉が浮遊する短剣を地面に刺して、雪姫に手をかける。

「ヴァイラさん。気をつけて」

「え?」

 一人が剣を抜いたのに合わせて、雪姫を抜く。

「大人しくしててくれないか」

「どういうことですか」

「悪いが、あんたたちには人質になってもらう」

「人質?」

「エルって言ったか。あいつに用があるんだよ。暴れるなら、傷の一つや二つ、覚悟してもらうぜ」

 エルが狙い?

 だから、ブルースさんが先に行ったんだ。

 エルが危ない。

 ……行かなくちゃ。

 雪姫を両手で握って構える。

「急いで片づけて、エルを追いかけよう」

『了解。顕現するよ』

 イリスが顕現して、氷の刃を全員に浴びせる。

「うわっ!」

「魔法っ?」

「ヴァイラさん、援護するので逃げて下さい」

「……はい」

「逃がすか!」

 そう叫んだ相手を、真横から薙ぎ払う。

 なんて良く斬れる刃なんだろう。

 相手がその場に倒れる。

「くそっ!かかれ!」

 振り下ろされた剣をかわして薙ぎ払う。不恰好にその一撃を避けた相手に、すかさず雪姫の刃を返して突く。

 手加減してる余裕なんてない。急がなきゃ。

 残り二人。

 次は左……、いや、後ろ。右足を軸に時計回りに体を回し、勢いをつけて背後に居た相手に向かって斬りかかる。相手が剣で受け止めたけれど、無理やり押し通して、相手に攻撃を入れる。けど、これじゃ少し浅い。

『後ろ、左から来るよ』

 目の前の相手を蹴り飛ばして、左から振り返って、雪姫で相手の攻撃を受け止める。

 鍔迫り合いを押し切って相手の剣を弾き、薙ぎ払う。

「くっ、」

 そのまま雪姫で相手の胴体を突き、さっき蹴った勢いで転がっている相手を刺す。

「まだ、やる?」

 相手が首を横に振った。

 四人。終わったよね。

 ヴァイラさんは無事に逃げたのかな。

 エルを追いかけなきゃ。

 えっと……、エルが向かった入口って……。

『リリー!危ない!』

「え?」

 すぐ横にイリスが氷の盾を張る。

 と同時に、誰か男の人の悲鳴が聞こえた。

「間に合ったみたいですね」

「ヴァイラさん?」

 と。

 思わず、叫び声を上げてしまう。

『リリー。せっかく助けてくれたのに、それはないんじゃないの?』

「だ、だって……」

「この子は私の友達のアラクネです」

 友達っ?

「あの……。ありがとう、ございます」

「ごめんね。リリーは蜘蛛が苦手なんだ」

「まぁ、そうだったんですか」

 ヴァイラさんの隣に居るアラクネが、四人組を糸でぐるぐる巻きにしてる。

 私の足元に、剣が落ちてる。

 誰かが私に向かって投げた剣を、イリスが氷の盾で防いでくれて、アラクネが私を攻撃しようとした人を捕獲してくれたんだ。

「イリス、エルを追いかけなきゃ」

『こっちだよ』

「うん。……ヴァイラさん、その人たちお願いします!」

 急がなきゃ。

 イリスの後に続いて、たくさんある入口の中に入る。

 確か、一本道だってバニラが言ってたよね。


 走って、走って……。

 着いたところは、果樹園?

 林檎の木がたくさんある。あ……。

「ジオ!ナターシャ!」

 どうして、二人がエルから離れて飛んでるの?

『リリー!』

『リリー!助けて、エルが危ないの!』

『ナターシャ、案内してあげて。オイラはメラニーとユールを呼んでくる』

『リリー、こっちよ!』

「うん!」

 ナターシャに続いて、木々の合間を走る。

 え……。

『あいつ!』

 ブルースさんが、エルの首を……。

 だめ。

『リリーっ?』

『待って、』

 許さない。

 まっすぐ、背後から貫く。

「その手を離せ」

「誰、だ……?」

「聞こえなかったか」

「な、んだ、これ……!」

 離す気、ないの?

 まだ力が入るというなら。

 もう、力が入らないようになれば良い。

「リリー」

 エル。待ってて。今、助けるから。

 雪姫を抜いて、相手を思い切り蹴り飛ばす。

 その体は宙に浮いてどこかに飛んで行って。そして、大きな叫び声をあげた。

「エル」

 跪いてエルの頬に触れる。

「大丈夫?」

「俺は平気だ」

「良かった……」

 あぁ。怖かった……。

「エルのばか。どうして、自分の為に魔法を使わないの」

「ごめん」

「苦しくない?本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ」

 どうして、簡単に大丈夫なんて言うの。

 どこが大丈夫なの。

『間に合って良かったねー』

『もう。リリーが来なかったらどうなってたのよ!』

 どうして、自分の為に力を使わないの。

『無事なようだな』

『無理しないでよぉ』

「おかえり」

 メラニーとユールも、エルの傍を離れてたんだ。

 ……だから、こんなことになったの?

「心配かけてごめん」

『エル、良かった……』

 精霊は顕現するのに契約者の許可が必要だから?

 こんなに精霊が一緒に居ても、エルが声を出せなければ、何もできないの?

「あの……」

 ヴァイラさん?

「大丈夫ですか?」

「あぁ。平気だよ。リリーが助けてくれたから。あんたは?」

「リリーシア様とアラクネが守ってくれました」

 私、守られた方だったんだけどな。

「ここで一体何があったのでしょうか」

 ヴァイラさんが辺りを見回す。

「アラクネの卵は?」

 卵?

『全部孵したわよぉ』

『すぐ側に居るだろう』

 メラニーとユール、卵を孵しに行ってたの?

 精霊の力で卵を孵すなんて、まるでドラゴンみたいだけど……。

「え?アラクネの子供ってこんなに小さいのか?」

 かさかさという音がする。

 エルの視線の先……!

 思わず声を上げて、目を閉じてエルの腕の中に入る。

「子供でも蜘蛛は苦手か」

『子供の方が、実際の蜘蛛に近いんじゃないの?』

 だって、アラクネってあんなに大きいのに。

 これは、子供だとしても苦手。

 エルが私の頭を撫でる。

『誰か来た。大勢居るな』

 新手?

 すぐに騒がしい音が聞こえてきた。

「村人か?」

「はい。村の住民です。冒険者を監視してる村人が呼びに行ったはずです」

「ヴァイラ!」

 あれ?この声。

「ヴィアリ」

「ヴィアリさん?」

 顔を上げて後ろを見ると、ヴィアリさんが走って来る。

 本当にそっくり。

「まさか、双子?」

「はい」

「はい」

 二人が同時に返事をする。

「リリーシア様には見破られてしまいましたが」

「え?リリー、区別がつくのか?」

「髪の結び方が違うよ」

 それ以外は、衣装も同じだし、立ち振る舞いも似てる。

 火傷の痕がなければ、髪の結び方ぐらいじゃ気づけなかったと思うけど。

「この辺りには、あの風習はないのか?」

 エルが私を抱きしめたまま立ち上がる。

 足元には、子供のアラクネが何匹かいる。踏まないようにしなくちゃ……。

 ヴィアリさんとヴァイラさんの隣に、年配の男の人が来た。

「あんたが村長か?」

「はい。……御名前と、官職をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「聞くってことは、俺の上司が誰か知ってるのか」

「御部屋を調べさせていただきましたから」

 いつの間に調べたんだろう。

 もしかして、レイリスが居る間?私が居ない間に部屋を調べた人が居たから、レイリスはこの村が変って言ったのかな。

 じゃあ、昨日の内にエイルリオンも見られてるってこと?

「皇太子秘書官のエルロックだ」

「秘書官様でしたか。どうか、村でのご無礼の数々、お許しください」

「別に何もされてないよ」

「皇太子殿下は、どちらへ?」

 やっぱり、アレクさんの正体もばれちゃってる。

「帰ったよ。ここには竜殺し目的で来たわけじゃない。心配しなくても、皇太子はクレアドラゴンを殺したりしない」

「左様でしたか……」

 周りの人が、ほっとしたような顔をしてる。

 どういうこと?全然、話について行けない。

『ふふふ。リリーにも説明してあげるわねぇ』

『天井を見れば答えがわかるだろう』

 天井?

 見上げると、天井には、あちこちに蜘蛛の巣が張っている。

 あれがアラクネの巣だよね。

 あれ?それ以外にも何かある。

 黒い翼みたいな……。

 翼?

 待って、動いてる。

 目でその全体像を追う。

 大きな黒い影が林檎が生った木を食べてる?

 黒いドラゴンって、黒竜ニゲル?

 どうして、こんなところに?

『ニゲルは、土砂崩れからこの村を守って、そのまま閉じ込められちゃったみたいよ』

『アラクネも村人も、ここの精霊たちも。みんなでドラゴンを守ってたんだ』

 村の人たちが隠していたものって、黒竜ニゲル?

 精霊が外に居なかったのは、ここを守ってたからだったんだ。

『アラクネはここを気に入って巣にしたみたいだけどぉ』

『産んだ卵を、メラニーとユールが孵して来たんだよー』

『ここを引き払ってもらう代償だ』

 卵を孵すのって、大精霊じゃなくても良いのかな。

 亜精霊の卵だから?

『ここ、今は林檎の林みたいになっているけど、少し前までは全部苗木だったのよ』

『村人は、ここに林檎の苗木を植樹していたんだ』

 ニゲルはクレアドラゴンだから、植物や果実を食べるはずだよね。

『でも、ドラゴンは、若い木は食べないんだって』

『だから、エルが魔法で成長させたのよ』

 これ、全部エルが成木にしたの?

『おかげで魔力が一気に減ってさー。ブルースなんかに後れを取ることになっちゃったんだ』

『魔力が低下し、集中力を欠いた状態で魔法を発動すれば、暴発の恐れがあるからな』

『魔力切れじゃなかったのね』

『エルが魔法を使わなかったのって、誰かを傷つけてしまうから?』

『そうだ。動けなくなるほど消耗はしていない。目の前の人間と戦うぐらい、余裕で出来ただろう』

 エルの魔力って底なしだよね。

『でも、本当に無事で良かったわ』

『怖かった……』

『平気よぉ。私たち、エルを死なせたりなんかしないものぉ』

『どういうこと?』

「村長、だめです!」

「村長、だめです!」

 え?

 急に、耳にヴィアリさんとヴァイラさんの声が入ってくる。

「ドラゴンを助けたかったのは、私たち全員の意思です」

「命の恩人を助けたかったのは、私たち全員の意思です」

 私が精霊の声を聞いてる間、ずっとエルと話してたんだよね?

「じゃあ、一つだけ」

 エルが荷物から取り出した紙に何かを書き込み、村長さんに渡す。

「命令書だ。神聖王国クエスタニアからの密入国者五名を、大至急、王都のヴェロニク・イエイツの元へ連行すること」

「密入国者……?」

「そこでアラクネの糸に引きずられてる四人と、あっちに転がってるブルースで五人。こいつらは重要人物なんだ。……そいつは、大剣狩りのブルース。二つ名持ちの犯罪者だから、騎士団に連れて行ったら良い金になる」

 みんな、もともと悪い人たちだったんだ。

「かしこまりました。ご命令とあらば従いましょう。しかし……」

「良いんだよ」

 えっと……。

 解決したのかな?

「ニゲルの傷は癒えた。満腹になればここを飛び立つよ。ニゲルが飛び立てばここは崩れる。アラクネにも出て行くように頼んだし、全員ここから出てくれ」

「本当に、よろしいのでしょうか」

「俺は皇太子からこの村の件をすべて頼まれてるんだ。どうするかは俺が決める。文句があるなら、この国の皇太子に言え」

 なんだかそれ、すごくエルっぽい。

「そんな、恐れ多いことは……」

「だったら、後のことは上手くやれよ。俺は、全員が無事に撤収したら、ニゲルに伝えてリリーと一緒にここを出る。他に質問は?」

「いいえ。何もございません。……本当に、本当に、ありがとうございます」

 村長さんと村の人たちが、エルに向かって頭を下げる。

 ……解決したんだ。

「さぁ皆、村に帰ろう。ここへ来るのはもう最後だ」

 皆が、来た道を戻って行く。

 けど、ヴィアリさんとヴァイラさんは立ち止まったままだ。

「秘書官様。先ほどは失礼いたしました」

「いいえ、私こそ」

「気にする必要はない。それより、感謝したいことがある」

「感謝ですか?」

「双子として生まれて、二人一緒に生きててくれてありがとう」

「何故ですか?」

「何故ですか?」

「どういうこと?」

 さっきも言ってた。悪い習慣に関係がある?

「ラングリオンの田舎では、双子の片方は間引かなければならないって風習があるんだ」

「間引くって……」

「ただの迷信。俺はこの風習が嫌いだ。だから、二人の存在が。……救いになるんだ」

「あなたは双子だったんですか?」

「違うよ。そういう話しを身近に知ってただけだ」

 身近って、誰のことだろう。

「ラングリオンの法律で、双子の存在は禁じられてない。誰かに文句を言われる筋合いなんてないんだよ。堂々と生きれば良い」

「はい。ありがとうございます」

「はい。ありがとうございます」

 グラシアルでそういう風習があるかは知らないし、聞いたことがないけど。

 エルの知ってる人に、双子として生まれた人が居たのかな。

 ……まだまだ、知らないことばかりだ。

 


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