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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
37/149

43 降って湧くΦ

 ヴィエルジュの二十三日。

 馬を走らせながら、障害物を飛び越える。

 うん、良い感じ。

 手綱に頼らずに、バランスを保って乗れるようになれたと思う。

 ずっと訓練に付き合ってくれている馬の名前は陽炎。

 右へ、左へ。

 思い通りに、ちゃんと動いてくれる。

 演習用の片手剣を持って、左手に手綱を持ちながら陽炎を走らせる。

 馬に乗ったまま戦うことなんてきっとないだろうけど。

 設置されている的に向かって移動して、剣を的に当てて壊す。

 地面の的に当てるのは少し難しい。

 ……よし、当てられた。

 後は、柵に覆われた広いスペースを一周して、シールの傍に陽炎を止める。

 リフィアと呼ぶのはもう禁止になってしまった。

「上出来だ。弓の技術もあれば、矢を射る訓練も出来たんだが」

「弓なんて使ったことないよ」

 陽炎から降りて、陽炎の顔を撫でる。

「お疲れ様、陽炎」

「こんなに早く乗りこなせるようになるとは思わなかったからな。弓術か槍術の訓練と併用したメニューを考えても良かったか」

「私、弓も槍も使う気ないよ」

「……そうだな。主君の命令は、子爵邸まで馬で移動できるようになることだからな」

 今朝、砦に戻って来たアレクさんとロザリーが、遠くで団長と一緒に、兵士の訓練を眺めてる。

 私に気付いたロザリーが手を振ってくれたので、手を振り返す。

 アレクさんの本当の名前を知ってしまった代償が、どうして私が馬に乗れるようになることなのかな。

 きっと、遊ばれてるんだろうけど。

 アレクさんってエルに似てるから。

 ……それとも、エルがアレクさんに似てるのかな。

「陽炎を厩舎に戻そう」

 陽炎の手綱を引いて、シールと一緒に歩く。

 もうすぐお昼だ。

「エル、まだ来ないのかな」

「今日来てもらわないと困るんだが」

 困るの?


 厩舎に行くと、見慣れない緑のマントの男の人が居る。

「シール、リリーシア」

「グリフ」

 近衛騎士かな?

「初めまして。リリーシアです」

「おお。初めまして。俺は常盤のグリフレッド。グリフで良いぜ。よろしくな」

「よろしくお願いします。グリフさん」

 大柄な人だ。

「グリフ。エルは?」

「別行動になったんだよ」

「え?……エル、来ないんですか?」

「トゥンク村の様子を見に行くらしい」

「トゥンク村?」

「王都の北西にある村なんだ。ちょっと気になることがあるらしくてな。ほら、手紙を預かってる」

「え?エルから手紙?」

 手紙なんて書くのかな。

 グリフさんからもらった手紙を開く。

『手紙じゃないね』

 地図だ。

 ラングリオンの王都周辺の地図かな。

 街を結ぶラインと日付けが書いてある。

 一番最初は十五日。王都を出発。

 それから、王都の周囲の街をたくさん回ってる。十八日、東の街でリックと別行動。

「リック?」

「フェリックス王子と東の街で別れたってことだろうな」

 それまではフェリックス王子と行動してたのかな。

 十九日に南東の街を目指して、街を二つ回ってる。

 移動の速度が落ちてるってことは、フェリックス王子とは馬で移動してたのかな。

 二十日、ニバスでグリフと合流。

「二十日にエルと会ったんですか?」

「んー。書いてある通りだぜ」

 二十一日に王都に移動してる。

 二十二日に西大門を出て、北西に向かって、二十四日に周辺の村で情報収集、二十五日にトゥンク村の調査。そこで終わってる。

 帰る日は調査次第ってことだよね。

 これ、追いかけて良いのかな。

 ここから追いかけて間に合うかな……。

 地図の裏を見る。


 アレクと一緒に行動すること。


 それって。

 追いかけちゃだめってこと?

『アレクたちが来たよ』

『私も居るわよぉ』

『わかってるよ』

「グリフ。報告は?」

「紫竜の有力な情報はなし。ロニーからの報告書がこれ」

 グリフさんが手紙をアレクさんに渡す。

「エルは?」

「別行動になった。リリーシアの方が詳しいみたいだぜ」

 持っていた地図をアレクさんに渡す。

「詳細な地図だね」

『予定通りなら、まだトゥンク村まで移動中ってことだよな』

『つくづく、ロザリーと相性悪いわねぇ』

「まだ会ってないんだよね」

「はい。でも、リリーシアとこれだけ会えるなら、会えそうな気がします」

『私は会えそうな気がちっともしないわ』

『最近は全然一緒に居ないからね』

『本当に夫婦なの?』

 あんまり考えないようにしてたのに。

 ……あぁ。落ち込む。

 また、一月ぐらい会えなかったらどうしよう。

「あの、リリーシア、元気を出して下さい。ミラベルのタルトがあるんです。後で一緒に食べませんか?」

「ミラベルのタルト?」

『ロザリーが初めて料理したのよぉ』

「ロザリーが作ったの?」

「はい。ミラベルを並べるだけでしたが、楽しかったです」

『並べるだけなのに、どれだけ時間がかかったかわからないけどぉ。本当、ロザリーってのんびりしてるんだから』

 確かに、ロザリーってすごくマイペースな感じがする。

「エルは相変わらずだね」

 アレクさんがそう言って、地図を裏返す。

「コートニー」

 光の精霊が顕現して、地図の裏に魔法を使う。

「リリーシア、エルからの手紙だよ」

「手紙?」

 アレクさんから受けとった地図を見ると、さっきはなかった一文が浮かび上がってる。


 リリー、愛してる。


 ……エル。

『こんな一言、魔法で隠す必要なんてないのにね』

 手紙書くの、苦手なんだよね。

 それなのに書いてくれたんだ。

 嬉しい。

「グリフ、シール。ロザリーを子爵邸へ案内するように」

「御意」

「御意」

「ロザリー。剣術大会までのんびりしておいで」

「はい。わかりました」

「リリーシア。馬術の稽古は順調だったようだね」

「えっと……」

「どこへ行くにも問題ないほどの腕はあります」

「合格だ。私はリリーシアと共にウィリデの調査後、北を目指す」

『えっ?』

「エルに会いに行くの?」

「その予定だよ。みんなでランチとタルトを食べたら出発しようか」

『本気?』


 ※


 アレクさんの進む方向に合わせて、馬を並走させる。

 私が乗っているのは陽炎。アレクさんが乗っているのは不知火。

 このまま平原を走って、山の西側を目指す。

 陽が暮れるまでには到着予定だ。

「どうしてウィリデがここに居るのかな」

『ドラゴンが根城を変えるなんて、そうそうないと思うけどね』

「西側にも温泉があるんだよ」

「ドラゴンも温泉に入りに来たんですか?」

 アレクさんが笑う。

「そうかもしれないね」

 違うんだ。

「どうしてウィリデがここに居るか、心当たりがあるんですか?」

「セズディセット山には、炎の大精霊が住んでいたのを知っているかい」

「はい」

 エルが前に言っていた。

 エイダではない、炎の大精霊が居たって。

「ウィリデは炎の大精霊を待っているんじゃないかな」

「今は居ないのに?」

「大精霊の居場所を知ることは難しいからね。ドラゴンは人間のように情報を集めることは出来ないから、過去の知識に頼るしかないんだろう」

 今も居ると思ってるってこと?

『アレク、警戒しろよ』

「カート?」

『嫌な感じがする。何かが近づいてるような……』

 何かが近づいている?

 平原を見渡しても何も居ない。

 山の方を見ても、何かがこちらを狙っているようには感じないけれど。

『上だ!』

 空を見上げる。

「え?」

 暗い雲が突然渦巻いて、黒い雨のようなものが……。

『なんだよ、あれ』

『魔法だ』

 イリスが顕現して、空に向かって氷の盾を張る。

「リリーシア。急いで」

 アレクさんに続いて陽炎を走らせると、私たちがさっきいた場所に、氷を突き破って黒い槍が降り注ぐ。

 敵の姿が見えない。どこ?

 周囲がどんどん暗くなる。

 見上げると、雲が黒く渦巻いて……。その中央から、光が落ちる。

 雷のようなそれが落ちた場所に現れたのは。

 人間?

 ……違う。何か揺らめいていて、実体が見えないような。

『アレク、エイルリオンを呼べ』

「イリス。来た道はわかるね」

『わかるけど……』

「隙を見てリリーシアと戻るように」

『あいつ、そんなにやばい相手なの?』

「王家の敵だ」

 王家の敵?

 アレクさんが速度を落として、不知火を止める。

 それに合わせて、少し離れた場所で、陽炎を止める。

「エイルリオンよ。その主の元へ」

 アレクさんが右手を掲げると、右手に光が集まって、その光が剣の形をとる。

 ラングリオンの王城に飾ってあるのと同じ。

 エイルリオン。

 現れた美しい装飾の剣の柄をアレクさんが握ると、その剣が実体化する。

『リリー、逃げるよ』

「でも……」

 アレクさんが体の周囲に光の剣を浮かべながら相手に近づき、不知火から飛び降りて敵に斬りかかる。

 敵がさっきと同じ黒い槍を放ち、アレクさんが光の剣で応じながら、エイルリオンを振るう。

 相手が持っているのは、血のように赤く染まった、深紅の剣だ。

『魔法で応戦しながら戦ってるよ……。リリー、離れよう』

「エルは、アレクさんと一緒に行動しろって言ってたよ」

『そんなこと言ってる場合かよ』

 あの、黒い槍。

 すごく……、嫌な感じが。

「……リリーシア!」

 目の前に、黒い槍が飛んでくる。

 リュヌリアンを抜いて、その槍を斬る。

 斬れる。

「援護します」

 陽炎から降りて走って近づき、アレクさんから離れた敵をリュヌリアンで斬りつける。

「え……」

 確かに斬ったはずなのに?

 相手の口元がゆがんで、私に向かって手が伸びる。

 一歩引いて避けたのに、その手がまっすぐに私の首めがけて……。

 伸びた?

 私の首をその腕が捕らえるよりも先に、アレクさんがその腕を斬って私の前に立つと、伸びていた手が霧散した。

 相手を見ると、敵は一瞬でその腕を再生する。

「彼女に手を出すことは許さない」

 相手の口元が動く。


 アーク、リフィア


 言葉が、頭に響く。

「アーク?」

『封印解除』

「え?……えっと、スタンピタ・ディスペーリ?」

『馬鹿!何言ってるんだ!』

 持っていたリュヌリアンが、光る。

 なんだろう、この感覚。

 リュヌリアンに力が溢れてる。

 もう一度向かってきた敵をアレクさんが薙ぎ払ったのに続いて、斬る。

「!」

 今度は斬れた?

 斬り払った箇所が切断されて、そして、くっつく。

 亜精霊とは違う。どうなってるの?

 相手も驚いた顔をして、斬られた箇所に手を当てる。

「リリーシア。援護する」

「えっ?……はい」

 まっすぐ、敵を薙ぎ払う。まただ。斬れたのに、すぐに再生する。

 相手が振り降ろした深紅の剣をアレクさんが防いで、相手に攻撃する。

『またかよ!』

 上から降り注ぐ黒い槍に向かってイリスが氷の盾を張る。

 貫通して現れた槍を薙ぎ払うと、リュヌリアンから出た光が、黒い槍を消し去る。

 状況は不利なはずなのに、斬られながら相手が楽しそうに笑ってる。

 アレクさんが相手の深紅の剣を弾いた直後に、リュヌリアンを振る。

 斬っても、斬っても、再生する。

 これ、ダメージ通ってるのかな……。

 何度かの攻撃の後。

 突然、砂嵐が舞った。

「リリーシア」

 アレクさんが私を抱いて数歩後退すると、目の前に金色の精霊が現れる。

「レイリス?」

 レイリスが相手を見据える。

「失せろ」

 レイリスと、深紅の剣を持った人が向かい合う。

「聞こえなかったか。今のお前を消すぐらい楽にできるからな」

 ……消えた。

 上空の雲が散り散りに消えて、元のように空が晴れる。

 レイリスが振り返って、私の額に触れる。

「パスカルの奴、とんでもない置き土産を残しやがって」

 あ……。

「リリーシア?」

 手からリュヌリアンが落ちる。

 そして、体中の力が抜けて崩れた私をアレクさんが腕に抱く。

 くらくらする。

「大丈夫かい」

 だめ、もう、起きていられない……。

「エル……」

 助けて……。


 ※


 目の前に、さっきと同じ敵が居る。

 さっきは精霊のように非実体的な感じがしていたけど、今は、はっきりとした輪郭を持ってる人。

 人?

 この人、浮遊してる。

 人間って空を飛べないんじゃなかったっけ?どうして浮かんでいられるの?

 周りを見渡すと、どこかで見たことのある人たちが並んでいて、敵に攻撃をしている。

「リフィア!」

 誰かが私を庇って、黒い槍の攻撃をその身に受ける。

「大丈夫かい」

 頷く。

「良かった」

 その微笑み方を私は知ってる。

「アーク、無事か?」

「平気だよ」

 誰かが、私を庇った人に向かって癒しの魔法を使う。

 右がコーラルオレンジ、左が碧眼の男の人だ。

「リフィア、さっきと同じ奴をもう一度できるかい」

「はい」

 あれ?返事をしたのは、私?

「次こそ、とどめを刺そう。行くよ、リフィア」

 左右の瞳が碧眼の、聖剣エイルリオンを持ったこの人は……。

 


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