表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
36/149

39 どこでも一緒

 王都の南にあるニバスから、乗合馬車に乗ってセズディセット山を目指す。

 結局、稽古の後にニバスに向かったら、温泉地行きの馬車は出払っていて、ニバスを出発したのは十七日になってしまった。

 馬車で移動するのは、山の麓にあるという、騎士団の砦まで。

 砦なんてあったかな。エルと一緒に温泉に行った時は、麓で降りる人なんて居なかったから気づかなかったけれど。

「今日は砦に泊まって、明日、馬を借りて、子爵邸を目指す」

「馬?」

「リリーシアは馬に乗れるか?」

「馬には一度も乗ったことないよ。ラクダならあるけれど」

 リフィアが笑う。あ。笑うと可愛い。

「私はラクダに乗ったことはないな」

「あの、ラクダも一人で乗ったわけじゃなくて、キャラバンの女の人が乗せてくれたの」

「貴重な体験だな。なら、少し大きい馬を借りて一緒に乗って行こう」

 馬に乗るのなんて初めてだから、楽しみだな。


 ※


 騎士団の砦に到着。

 なんだか賑やかな場所だ。

「街みたい」

「砦の手前は商業区だ。一般人の出入りが自由な場所になっている」

 商業区の上、砦は山の絶壁に立っている。

「ここでは、旅人や砦の兵士に向けた商売をやっているんだ」

「兵士?砦に居るのは騎士じゃないの?」

「騎士はそう簡単になれるものじゃない。騎士はトップの数名だけで、後は兵士。守備隊と似たようなものだと思えば良い」

 似たようなもの?

「え?ガラハド隊長も騎士なの?」

「ガラハドは、国王陛下から名誉騎士として騎士の叙勲を受けている。守備隊の隊長は全員騎士だ」

「副長も?」

「副長は騎士じゃなくても務まる」

 騎士の仕組みって複雑だな。

「そういえば、出発前に三番隊に行っていたな」

「はい。三番隊の人たちの訓練に参加させてもらってるんです」

「この砦の団長にも頼んでみるか?」

「え?」

「どうせ出発は明日だ。ランチを食べれば暇になる」

「じゃあ、お願いします」

『え?本当にやるの?』

「演習場は厩舎の近くだ。後で案内しよう」

 だって。剣術大会までに、出来るだけ訓練をしておきたい。


 ※


 商業区で宿をとって、そこでランチを済ませて厩舎へ。

「馬術の訓練をしてるな」

 柵で覆われた広い敷地。

 馬に乗って弓を構えた人が、的当てをしている。

「演習場は向こうだ」

「はい」

 その横にある建物の中へ入る。

「入団をご希望ですか?」

 リフィアが受付けの人に何か見せる。

「視察に来た。訓練に参加させてもらえるか?」

「……えっ、少々お待ちください」

 受付けに居た兵士が、走って奥の部屋に行く。

「何を見せたんですか?」

「官位章だ」

 これ、いつも胸に付けてるものだよね。

 あ。裏に何か書いてある。

 リフィア・レンシールを近衛騎士とする。

「アレクシス・サ……」

 リフィアが私の口を塞ぐ。

「語ってはいけない」

 そう言って、リフィアが官位章を仕舞う。

「決して誰にも言わないように」

 見ちゃいけないものだったんだ。

「あの、ごめんなさい」

「解決する方法が一つだけあるが」

「え?」

「エルの許可を取ってからだな」

「許可?」

 何の話しだろう。

「来たようだ」

 奥の扉が開いて、さっきの兵士と、重鎧を着た男の人が出てくる。

 この人が団長さんかな。

「レンシール様。お久しぶりです」

「久しぶりだな。彼女の名前はリリーシア。訓練に参加させても構わないか?」

「え?彼女が参加するんですか?」

「そうだ。演習用の武器を……。何が良い?」

「自分で選んで良いですか?」

「残念ですが、部外者を武具保管庫に入れることは出来ません」

 ……そうだよね。

「それじゃあ、これぐらいの長さの大剣をお願いします。直剣でも曲刀でも構いません」

「レンシール様、よろしいんですか?」

「言われた通りに」

「……取って来い」

「はい」

 兵士が走って行く。

「彼女の実力は?」

「リリーシアの稽古相手はガラハドだ」

「ガラハド様?」

 団長さんが私を眺める。

「本当ですか?」

「嘘を吐く理由がない」


 ※


 長さはリュヌリアンと同じ直剣。

 重さは、まぁまぁかな。

「その大剣と刀は預からなくて良いのか?」

「はい」

 邪魔にはならないと思うし。

 演習場の中央に立つ。

「よろしくお願いします」

 一礼をして、剣を構える。


 一人目、二人目、三人目。どれも訓練になるような戦い方は出来ない。

 相手をしてくれる人は、みんな同じ装備の人だ。

 兜も、軽鎧も、武器まで。

 三番隊の方が、強いかな。

 大剣の相手と戦い慣れてないのかもしれない。

 単に、強い人を出してくれる気がないだけかもしれないけれど。


 四人目。

 動きは悪くない。けど。

「その握り方じゃ、剣を落とす」

 力を入れて斬り上げると、相手の持っていた剣が吹き飛ぶ。


 五人目。

 武器が変わった。細身の剣。

 動きが軽快な人だ。でも。

「攻撃が軽すぎる」

 相手の攻撃を力ずくで弾いて、続けて薙ぎ払う。


 六人目。

 ロングソードか。うん、力もある。

 少し楽しめるかな。

 何度か剣を合わせる。

 ……慣れてないのかな、ロングソード。

 さっきから、似た動きしかしない。

「隙だらけだ」

 左から斬りつける。

「あ、ごめんなさい」

 思った以上に、攻撃が綺麗に入ってしまった。

 いくら演習用の武器でも痛かったかもしれない。


 七人目。

 一人目の人が持っていたのと同じ片手剣に戻った。

 最初の一撃……。

 速い。

 攻撃しようとしていた体勢から、一歩引いて防御に回ると、相手の剣が大剣に当たる。

 ……予想よりも攻撃が軽い?

 一瞬。片手剣が揺らいだように見えた。

 危険だ。

 体勢を低くすると、相手の片手剣が私の頭上で弧を描く。

 すかさず左手を地面について、相手に足払いをかけて右側に移動し、構え直す。

 相手は足払いを避けて数歩下がった位置に居る。

 私が構え直したのを見て、相手が剣を振る。下から斬り上げられた攻撃を弾こうと力を込めたところで、相手が私の右手に移動する。

 すぐ近くで腕が動いたのが見えて、一歩下がり、斬り上げる。

 その攻撃を剣で防がれる。

 まただ。軽くて変な感じ。

 ……見えた。

 相手が手首を返して、今度は突き刺す。

 大剣を押し付けて軌道をずらし、柄で相手の腹部目がけて攻撃する。けど、かわされて、逆に大剣を強く叩かれ、そのまま斬りつけられる。

 ここまで斬り返しの上手い人は初めてだ。

 速くて、正確で、力も強い。

 気をつけないと、一瞬で終わってしまうだろう。

 攻撃を防いで二歩下がる。少し右手にずれて、右から薙ぎ払う。

 くるり、と相手は体を回して攻撃をかわす。

 捕らえるのも難しい。

 薙ぎ払った勢いのまま回転して、そのまま相手の攻撃を防ぐ。

 やっぱり。回転後の攻撃は入らないと思ってた。このまま弾いて……。

 相手が微笑む。

「!」

 初めて、ちゃんと顔が見えた。

 ……負けない。

 大剣を握り直し、思い切り相手の片手剣を弾く。

 防ぎきれなかったのか、相手が一歩引く。

 どうして?今の攻撃を防ごうと思うのなら……。

 ……あぁ。そういうことか。遊ばれてるんだ。

 実力差を思い知らされる。

 この人は強い。

 なら、力ずくで。

 一撃一撃を丁寧に。力を加えて。

 追い詰める。

 その動き。次はどこを……。右かな。一手先を読んでかわし、下から斬り上げると、その攻撃をかわされる。

 あの技。あの、速くて正確な斬り返し。こうやってやるのかな。

 手首を返して。

 薙ぎ払う……。

 だめだ、上手く力が入らなくて、相手の片手剣に防がれた。

「無理な力を加えると、手首を痛めるよ。大剣で、その練習は勧めない」

「どうして左手を使わないんですか」

「教えて欲しいのかい」

 相手は、左手から何か光るものを宙に投げると、片手剣を両手で持って私の剣を弾く。

「っ!」

 攻撃に耐え切れなかった。

 そのまま右手で掴んだ片手剣を私の額に突きつけ、落ちてきたものを左手で掴むと、左手を広げて私に見せる。

「落としそうだったから、預かっていたんだ」

「え?」

 大剣を手放して自分の両耳に触れると、相手が片手剣を降ろす。

 右耳にあるはずのイヤリングがない。

 ……いつ、外れたんだろう。

「ありがとうございました」

 真珠のイヤリングを受け取って右の耳に付けると、相手が兜を外す。

 菫と碧の瞳。

「君は強いね。ガラハドのことを思い出す」

「隊長さんと戦った時、隊長さんは何を装備してたんですか?」

「大剣だよ」

 そうなんだ。

「左手を使わなかったのって、イヤリングを持っていたからじゃないですよね?」

「すでに六人と戦っている上に、リュヌリアンと雪姫を背負っている相手と、ハンデなしで戦うなんてできないからね」

 本気を出されてたら一瞬で勝負がついてしまったことは、最後の一撃で証明されてしまったんだけど。

「どうして私の相手をしてくれる気になったんですか?」

「あまりにも君がつまらなそうに戦っていたから」

 そんな風に見えてたかな。

 だから、私の相手をしてくれたの?

「ありがとうございます。楽しかったです」

 また相手をしてくれるだろうか。

 ……もっと、強くならなきゃ。

『リリー、もっと聞くべきことがあるんじゃないの?』

「え?」

『なんでこんなところに居るの?』

「ロザリーも一緒だよ」

『何?ロザリーを拾って、暢気に二人旅をしてるって言うの?』

 そうだ。ここは王都じゃない。こんなところに居るはずがないんだった。

「そんなところだね。いつまでも城に居るのもつまらないだろうから、エルを待ってヌサカン子爵邸を目指す予定なんだ」

 エルが来ることも知ってるんだ。

 遊びに行くってこと?お城に帰らなくて良いのかな。

「リリーシア。シールの官位章の裏を見たんだってね」

「はい。あれが本当の名前なんですか?」

「アレクシス・サダルスウド・ラングリオン。これを知っているのは、エルと父上と近衛騎士だけだ」

「え?」

「伝統的に、信頼の証に王族が騎士に教える名前なんだよ」

「えっと……」

 私が知っても良かったのかな、それ。

「秘密を知った代償を払ってもらおうかな」

 やっぱり、だめだったんだよね。

「はい」

 アレクさんが笑う。

「素直だね」

 だって。逆らうことを許さないだろうから。

「どうせエルが来るまで暇だろうから、しっかり学んでおいで」

「学ぶ?代償って何ですか?」

「シールに聞いてごらん」

 何をするんだろう?


 ※


 武具を返して、アレクさんと一緒にリフィアとロザリーが居る場所に行く。

 あ。ルキアの他に、コートニーとカートが居る。それから、砂の精霊。

 そういえば、いつもたくさん精霊を連れてるのに、今日は三人しか連れて来てないのかな。

「リリーシア、久しぶりです」

「久しぶり、ロザリー」

『どうしてあなたって、私たちの行く先々に現れるの?』

「えっと……」

『それはこっちの台詞だけどな』

「なんだか王都に戻ったみたいですね」

『ここは王都からずっと離れた場所よ?』

「例え話です」

『ロザリーも方向音痴なわけじゃないよな?』

『方向音痴で一人旅が出来るわけないじゃない。地図さえあれば迷わないわ』

「ロザリー、出発するよ」

「はい」

「え?出発?」

「温泉に寄って行こうと思ってね。二十三日にはエルがここに到着するだろうから、それまでには戻るよ」

 えっと、今日がヴィエルジュの十九日だから、四日後?

「シール、それまでリリーシアを頼んだよ」

「御意」

「それじゃあ、四日後に」

『またねー』

「はい」

「お気をつけて」

 アレクさんとロザリーを見送る。

「リリーシア、予定が変わった」

「えっと……。官位章の裏を見た代わりに、何かするんだよね」

「そうだ」

「何をするの?」

「稽古だ」

 稽古?

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ