表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
34/149

35 夜を彩る七色Φ

 キャロルはいつもお茶の時間には帰って来るはずだから……。

 もうすぐ帰って来るよね。

 エルが何か材料を準備している。

「何を作るの?」

「秋野菜のテリーヌだよ」

 春菊、里芋、しめじ?

「どうして、その食材を選んだの?」

「春菊は彩りに良いし、里芋は触感が良いだろ?秋と言えばきのこが美味いからな」

 どっかで聞いたような台詞だけど……。

 テリーヌにするなら美味しそう?

「嫌いなものでもあるのか?」

「え?ないよ。大丈夫」

 テーブルの上で、マロンケーキの仕上げをする。

 栗のペーストをケーキの上に絞って、マロングラッセと、ショコラの飾りを飾る予定。

「リリー。コールポ、プピーオ、ナイリ、コッロの意味を教えて」

「え?」

 セルメアの古い言葉だよね。

 でも、ずいぶん変な言葉。

「コールポは体。プピーオは瞳。ナイリは爪。コッロは心臓だけど……」

「なんだって?」

 聞いたのはエルなのに。

「どうして、そんな変なこと聞くの?」

「俺だって知りたい。じゃあ、リリーシアって名前は、セルメアの古い言葉で何を表すんだ?」

「え?私の名前?セルメアの古い言葉に、そんな言葉ないと思うよ。だって、私の名前はグラシアルの初代女王リーシアにちなんだ名前だから」

 体、瞳、爪、心臓。

 共通点って……。

 そういえば、精霊との特殊な契約って瞳を交換するよね。

 契約の時には、髪や爪を渡すはず。

 髪って、あるのかな。髪はセルメアの古い言葉で確か……。

「ハラーロもあるの?」

「ハラーロ?」

「髪って意味」

「なんで?」

「瞳とか爪って、魔法使いが精霊と契約する時に渡すものだから」

「あぁ……」

 そうすると、体の意味が少しわからないけど。

 やっぱり関係ないのかな。

 ほかにも、胴体とか肉体、本体って意味もあったと思うけど。

「歯は?」

「デンツォ」

 歯も、契約の時に使えるものなのかな。

 でも、どうしてこんなこと聞くんだろう?

『リリーって本当に詳しいのねぇ』

「セルメアの古い言葉って、誰も知らないの?……あ、そういえば、アレクさんが、ドラゴン王国時代に使われてたもう一つの言葉だって言ってたけど」

『そうみたいねぇ。言葉に聞き覚えはあるけどぉ。意味まではちゃんと知らないわぁ』

 そうなんだ。

『当時の言葉を知っていたとしても、古い言葉などすぐに忘れるだろう』

『言葉なんて人間と話す時にしか必要ないものね』

「そうなの?」

『精霊同士の意思疎通など、古代語で十分だ』

 そっか。

『使ってない言葉なんて忘れちゃうなー』

「古代語は忘れないのに?」

『あれは私たちそのもので、私たちの記号だ。魔法陣は古代語で描かれているんだぞ』

「そうなんだ」

『魔法陣の勉強もしてるはずなんだけどね、リリーは』

「氷の精霊の魔法陣ぐらいなら描けるよ」

『転移の魔法陣は?』

「読めるけど、描けない」

 魔法陣は一部分でも失敗すると発動しないんじゃなかったっけ。

「できた」

 マロンケーキが完成。

 

「リリー、この赤ワイン使って良いか?」

「うん、いいよ」

 キャラメルに使った余りだ。

 テリーヌに使うわけじゃないよね?

 肉料理?何を作ってるのかな。

 邪魔にならないようにお手伝いしよう。

 

 料理は錬金術と似たようなものってエルが言っていたけど。

 錬金術で作ったものは、こんなに良い匂いがしないよね。

「リリー。最近、体の調子が悪かったり、変な感覚に陥ったことはないか?」

「え?ないよ。私は感染しなかったから」

 私は、全然平気だ。

 エルがまた黙って、作業に戻る。

 料理以外のことを考えてるとは思えないぐらい手際良く、料理が出来上がって行く。

「リリー。あのさ……」

「うん?」

 何か言いかけて、エルが黙る。

 どうしたんだろう。

「セルメアの古い言葉。誰かに聞かれても、何も答えないでくれるか?」

「え?どうして?」

「セルメアの古い言葉は語らないで欲しいんだ。何か聞かれても、復唱もしないで欲しい。俺が居ない間は、ずっと」

「うん。わかった」

 変わったお願い。

 さっきの話しに関係してるのかな。

 まだ、秘密の話しなのかもしれない。

 

 ※


 お茶の時間の少し前に、ルイスが帰って来た。

「おかえりなさい」

「おかえり、ルイス」

「ただいま。……キャロルはまだ?」

「うん」

「美味しそうなケーキだね。ジニーが美味しい紅茶をくれたんだ。キャロルが帰って来たら淹れよう」

「うん」

 お湯を沸かしておこうかな。

「それから、アヤスギって人がこれを置いて行ったんだけど」

 あ、あれって……。

「キャロルへのプレゼントだよ。テーブルに置いておいて」

「わかった」

「ただいまー」

 荷物を抱えたキャロルが台所を覗く。

「おかえりなさい、キャロル」

「キャロル、手伝うよ」

「うん」

 ルイスに促されたキャロルが、そのまま台所を出る。

「できた。リリー、これも飾って」

 ショコラでできた薔薇と、誕生日おめでとう、キャロルと書かれたショコラのプレート。

「わかった」

 いつの間にこんなの作ってたのかな。

 ケーキの飾りをずらして、中央にプレートと薔薇を飾る。

 本当にエルって器用。

 

 お茶を淹れているところで、キャロルとルイスが戻ってきた。

「わぁ、素敵!リリーが作ってくれたの?」

「うん。飾りはエルが作ってくれたよ」

「美味しそう!ありがとう、エル、リリー」

「キャロル、これもプレゼント」

 キャロルの前に包みを置く。

「ありがとう、リリー」

「僕からはこれ」

「ありがとう、ルイス」

 ルイスがキャロルの前に包みを置く。

「キャロル、それ開けてみて」

「これ?」

 キャロルがテーブルの上の箱を開く。

 箱の中身は、チューリップの絵が彫られた包丁。

「可愛い」

「包丁だったんだ、それ」

「ありがとう、エル」

「お茶も入ったみたいだし、キャロル、その新しい包丁でケーキを切ってみる?」

「えぇ?なんだか切るのがもったいないぐらい素敵なケーキだわ」

「そのままフォークで食べる?」

「もう、子供じゃないんだからそんなことしないわ。うーん、どうしようかしら」

 本気で悩んでるキャロルを見るのって珍しいかも。

 可愛い。

「どこから切っても一緒だよ」

「エルって本当にわかってないわ。あぁ、もう、飾り、ちょっとどけるわね。……わぁ、中まで栗がぎっしり入ってる!美味しそう!」

 ……そんなに喜んでもらえるなんて。

 キャロルのそんな顔が見られるなんて、本当に嬉しい。


 ※


 夜になって、イリスを置いてエルは出掛けてしまった。

 ベランダに出て、空を見上げる。

 秋の風は少し涼しくて、マントを羽織ってないと寒いぐらいだ。

「エル、何するのかな」

 城の方角を見てたら面白い物が見られるって言っていたけど。

 エルからもらったマカロンを食べながら、城の方角を眺めていると、ベランダの扉が開く。

「あれ?リリーシア」

「ルイス」

 なんで、梯子を持ってるの?

「リリーシアも見物?」

「うん」

 エルから聞いてたのかな。

「屋根に上った方がきっとよく見えるよ」

 そう言って、ルイスが屋根に梯子をかけて上る。

「大丈夫?」

「少し寒そう」

 ルイスの後を追って、屋根に上ってルイスの隣に座る。

 北のお城が良く見える。

「毛布使う?」

「マントがあるから大丈夫」

「一緒に入ろうか」

 ルイスが自分の肩と私の肩に毛布を掛ける。

「あったかい」

「あ、始まったみたいだよ」

 お城の方を見る。

「えっ?」


 遠く、城の近くで一斉に火柱が上がる。

 それと同時に、花火が夜空にきらめく。


「堀の周りに花火を仕掛けてあるらしいよ」

「どういうこと?」

「カミーユとシャルロが色々準備してたから。きっと、今日の夜に、エルが何かすると思ってたんだ」

 ルイスはエルから聞いたんじゃなく、カミーユさんとシャルロさんから聞いたんだ。

 しばらく間をおいて、今度は空高く炎の刃がきらめく。

 あれって、エルの魔法だよね。

 そして。


 夜空の高い位置で、三重の輪を交差させた花火が上がる。


「ミカエルのサインだ」

「ミカエルのサイン?」

「Camilleのmi、Charlotのcha、Elrochのelをとって、Michael。あのマークは、カミーユ、シャルロ、エルのサインなんだよ」

「あんな花火、初めて見た」

「僕も初めて見た。あの花火は、三人にしか作れないって聞いてるけど」

「そうなの?」

「うん。悪戯のサインなんだって」

 ルイスが笑う。


 今度は一斉に、水柱が上がる。


「サインなんて堂々と掲げて大丈夫なの?」

「たぶん、三人が関わってる証拠は残さないんじゃないかな」

「サインでばれるのに?」

「サインは証拠にはならないからね」

 三人にしか作れない花火が上がったなら、証拠になるんじゃないのかなぁ。

 あんなに派手にやって大丈夫?

 お城が炎上して、今度は水が吹き上がってるけど。

「虹だ」

「え?虹?」

 うっすらと、月の傍で七色に輝くあれは……。

 確かに、虹。

「虹って夜でも見られるの?」

「月虹だよ。今日は満月で月の光が強いからね」

 そうなんだ。

 エルも見てるかな。

 夜の虹。

「ねぇ、リリーシア。知ってる?虹を一緒に見ることは出来ないんだって」

「え?どういうこと?」

「虹の中心は必ず観測者なんだ。だから、僕が見ている虹は、僕を中心に弧を描いた虹。リリーシアが見る虹は、リリーシアを中心に弧を描いた虹」

「ルイスが見てる虹と私が見てる虹は違う虹なの?」

「そうだよ。同じ場所に見えても、微妙に位置がずれてるんだ。……ほら、遠くの屋根でも眺めてる人が居る。あそこに居る人が僕と同じ虹を見てるとしたら、きっと中心からずれた見え方になってると思う。でも、あの人が見てる虹もきっと綺麗な弧を描いてると思うよ」

「そういえば、虹って必ず綺麗な弧を描くよね」

 今見てるのだってそう。

 虹を横から見たりすることは出来ない。

 そういえば、虹の麓に辿り着くことが出来たら宝物を手に入れることが出来るって物語があった。……結局、その物語も虹の麓にはたどり着けなかったのだけど。

 本当にないのかな。

 虹の麓に辿り着く方法。

 ?

 精霊が飛んでる。

 何の精霊かな。

 炎の精霊?光の精霊?水の精霊?

 ……なんだろう。

 虹と重なっているから色がはっきり見えない。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ