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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
32/149

31 古くからあるもの

「ただいま、リリーシア」

「ただいまー」

「おかえり、ルイス、キャロル。一緒だったんだ」

「ルイスが迎えに来てくれたのよ」

「薬は完成したみたいだからね。オルロワール家にキャロルを迎えに行って、まっすぐ帰って来たんだ」

「良かった」

 薬、完成したんだ。

「リリーは何か食べた?」

「えっと……」

 結局、あの後眠れなくて。

 冷めたマロングラッセをエルの部屋に運んで、乾燥させるために網の上に出す作業をして。

 今は、切ったキャラメルを一つ一つ包装していたところだ。

「エル、帰って来たの?」

「うん」

「キャラメルを切りに?」

「えっ、違うよ」

 綺麗にキャラメルが切られてるから、エルが帰って来たってわかったんだよね。

「キャラメルのレシピを聞かれただけだよ」

「キャラメルのレシピ?」

「えっと……、病原を殺す成分が含まれてたみたい」

「そうなんだ」

「待っててね。今、何か作ってあげるわ。そういえば、マリーがリリーに会いたがってたわよ。今日は一日家に居るらしいから、行ってみたら?」

「うん」

「僕は店を開ける準備をしてくるよ。リリーシア、行くのは午後にした方が良いんじゃない?少し休んだ方が良いよ」

 寝てないのまで、気づかれたのかな。

「うん」

『どっちが大人なんだかわからないね』

 返す言葉がない。


 ※


 お昼まで休んで、包んだキャラメルを持って外に出る。

 サウスストリートを北上……。

 あった。

 綾杉。

 大きな黒い文字で書かれた看板。

 アヤスギって、こう書くんだ。

 なんだか迫力があってかっこいい。

 読める人って少ないと思うけど、インパクトはあるよね。

 これなら、迷わずに来れそう。綾杉さんのお店。

「こんにちは」

「いらっしゃい。……リリーシアか」

「あの、遅くなってごめんなさい。皇太子殿下に献上する刀のことなんですけど」

「どういったのが好みだって?」

 どう、説明しようかな。

「武器として好きなのは直剣みたいなんです」

「直刀か。わかった。いくつか試作してみよう」

「反りのない刀もあるんですか?」

「あるぜ。お前さんの師匠が、あらゆる剣を作るように、鍛冶屋は注文に合わせて色んな物を作るもんだ」

 確かに。

「えっと……。長さとかこだわりはないと思うんですが、普段持ち歩いているものの刀身はこれぐらいで……。あまり派手な装飾は好きじゃなさそうなんですが、一般に目にしないような珍しいものは好きそうです」

 気づいたことってそれぐらいかな。

「刃は片刃で良いのか?」

「はい。刀のイメージって片刃なので、片刃の方が喜ぶと思います」

「わかった。作ってみよう」

「お願いします」

「ちょっと見てもらいたい物があるんだが」

「はい」

 なんだろう。

 綾杉さんが、店の奥からいくつか箱を持って来る。

 中身は……。

「わぁ、素敵」

 刀身に装飾の施された包丁。

「エルロックから娘の誕生日にって頼まれたんだが」

 キャロルの誕生日プレゼント?

「エル、お店に来たんですか?」

「あぁ。十五日に家に届けてくれって頼まれたんだが、女の子の趣味ってのは、いまいちわからなくてな」

 花の模様が描かれた包丁が三本。それぞれ違う花だ。

 薔薇と、チューリップと……。

「これ、桜ですか?」

「良くわかったな。この国にもあるのか」

「はい。皇太子殿下は桜が大好きなんです」

「風流な王子だな。……で、嬢ちゃんは何が良いと思う?」

 んー……。

 どれも素敵なんだけどな。

「チューリップが一番可愛いかな」

 横に小さく入っている蝶が可愛い。

「じゃあ、これを届けよう。それから、前に預かっていたルミエールの短刀の鑑定も終わったぜ。鑑定結果は報告書でまとめておいた。ほらよ」

 綾杉さんから、短刀と封筒を受け取る。

「いくらですか?」

「タダでいい」

「え?でも、」

「あんたのおかげで、ずいぶん客が入るようになったからな。リリーシアの持ち歩いてる珍しい武器を見せて欲しいって」

「え?」

『リリー。宣伝して歩いてたの?』

「宣伝なんてしてませんけど……」

「街のど真ん中で決闘して歩いてるんだろ?」

「えっ?……そんなこと、ないですけど」

 雪姫を抜いたのって、フェリックス王子と戦った時ぐらいじゃないかな。

 それから昨日の夜中に抜いたぐらいだ。

 綾杉さんが笑う。

「じゃあ、持ち歩いてるだけで宣伝効果があったようだな。そういうわけだから、今回はタダで良い」

『リリー、有名人だからね』

 あんまり嬉しくないんだけどな、それ。


 ※


 短刀の鑑定結果は、十五日にエルが帰ってきた時に渡せば良いよね。

 短刀を腰に下げて、オルロワール家へ向かう。

 いつも通り、ロジーヌさんが迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、リリーシア様」

「こんにちは。マリーに会いに来たんですが」

「伺っております。その前に、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか」

「はい」

「アルベール様より、鎧の製作を頼まれております。お好みのデザインとサイズをお測りしてもよろしいでしょうか」

『鎧の製作?』

 あ、そっか。

「お願いします」

 ロジーヌさんについて歩く。

「剣術大会の武具を、アルベールさんが揃えてくれるの」

『なんで?』

「えっと……。アレクさんがアルベールさんに言ってくれたみたいで、色々協力してくれるの」

『アレクも知ってるの?リリーが出場すること』

「うん」

『知らないのはエルだけ?』

「話したのはルイスとパーシバルさんだけで、他の人は誰も知らないよ。……その、何故かみんな、私が出場するって思ってるみたいなんだけど」

『まぁ、リリーの普段の態度を見たらそう思われても仕方ないよね。で?鎧で変装するの?』

「うん。名前も偽名にするつもり」

『なんて名前で出るの?』

「んー」

 どうしようかな。まだ考えてない。

「何が良いかな」

『あんまり変な名前にするとリリーだってばれるからね』

「変な名前になんてしないよ」

 そういえば……。

「あの、ロジーヌさん」

「はい」

「病気の人の治療って、もう終わったんですか?」

「はい。午前中には、ロザリー様のお力と、錬金術研究所の薬を使って、すべての方の治療が完了いたしました。体調のよろしい方から順にお帰りになられていますよ。離れは、しばらく患者の隔離場所としての使用を続ける予定でございます」

 この病気って、見た目にはわかりにくい病気だから、感染者はまだいるかもしれないよね。

『ロジーヌって、慣れてるなー』

「何に?」

『リリーがボクと喋ってても口出さないじゃないか。オルロワール家ってみんな光の精霊と契約してるはずだから、リリーの独り言も精霊と喋ってるって分かってるんだろうね』

 精霊と喋ってるのって、独り言に聞こえてるんだよね。

 カートにも言われたっけ。


 ロジーヌさんに、武具保管庫に案内してもらう。

「わぁ……」

 すごい。たくさんある。

 芸術的なものが多い気がするけれど。

 実用的なのもちゃんとそろってる。

 ……あれ?

「これは……」

「そちらは、ラングリオンの建国に携わった英雄を描いた絵画でございます」

 全部で七人の男女が描かれている大きな絵画だ。

 古い絵画で、少しくすんでいる。

 建国時期に描かれたものなら、六百年ぐらい前に描かれたものだよね。

「中央で聖剣エイルリオンをお持ちになっておられるのがラングリオンの初代国王陛下でございます。すぐ左手に寄り添っておいでなのが、王妃となられたリフィア様」

 王妃なのに装備がまるで剣士だ。一緒に戦った人?

「そして陛下の右にいらっしゃるのが初代オルロワール伯爵、初代ノイシュヴァイン伯爵。王妃様の左手にいらっしゃるお二人は左から順にシリウス様、イエイツ様です」

 初代国王陛下はアレクさんに似てる。きっと年が同じぐらいなんじゃないかな。

 オルロワール伯爵は、前にロジーヌさんが言っていた通り左右の目の色が違う。

 左から順に、シリウス様、イエイツ様、リフィア王妃、初代国王陛下、初代オルロワール伯爵、初代ノイシュヴァイン伯爵……。

 あれ?

「一番右に居るのは?」

「その御名前は現在には残っておりません。ラングリオンが国として成立して間もなく、旅に出たと言われております」

 この顔。

 誰かに似てるんだけどな。

 優しい目元が……。

 あぁ、あの人に似てるんだ。

 髭がないから気づかなかった。

 もしかして、血の繋がりがあるのかな。

 今度会ったら聞いてみよう。

「では、お好みの武具を選んでいただいてもよろしいでしょうか」

「はい。わかりました」

 何にしようかな。


 ※


『リリー、ご機嫌だね』

「うん」

 絶対、素敵だよね、あれ。

 今から完成が楽しみ。

 体も鍛えておかないと。


 ロジーヌさんに案内されて外のテラスへ行くと、マリーとロザリーがお茶をしている。

「リリー。待ってたわ」

「マリー、ロザリー」

「こんにちは。リリーシア」

『あなたって本当にどこにでも現れるのねぇ』

 ルキア。

『真空の精霊が契約者の体から出てたら目立つぞ』

 席を勧められて、椅子に座る。

『あなたが言ってた真空の精霊、全然見かけないんだけどぉ』

 まだエルと会ってないんだよね、きっと。

「マリー、お土産。キャラメルを作ったの」

「セリーヌから聞いたわ。ユリアのレシピなら私は食べないわよ」

「ミルクティーとワインのキャラメルだよ」

「あら、美味しそうね」

 マリーがミルクティーのキャラメルを、ロザリーがワインのキャラメルを食べる。

「美味しい」

「美味しいです。こんなに美味しいなんて、キャラメルと思えません」

『ロザリーってそればっかりねぇ。すぐに餌付けされるんだから』

「リリーシアの作るものは、私が好きなものばかりです」

「他にも何か食べたことあるの?」

「ショコラティーヌを頂きました。あれは絶品です。あんなに完璧な食べ物を私は知りません」

 そんなに褒められるなんて……。

「リリー、私も食べたいわ」

「うん。今度作って持って来るね」

「楽しみだわ。……そうだ、さっきね、ちょうどリリーの話しをしていたのよ」

「私の話し?」

「砂漠のお話しを聞いていました。私もいつか行ってみたいです」

「えっと……。少し危ないところだよ?」

「道が整備されているところなら平気よ。ニームやクロライーナなら養成所の時にも行ったことがあるもの」

 そういえば、道が舗装されている場所は歩きやすかったよね。

「ロザリーは旅慣れているんだし」

「はい」

 そういえば、棺で眠りにつく前は一年ぐらい旅をしていたんだっけ?

「病気の治療をしながらいろんな場所を巡るなんて大変よね」

『何話したんだよ?マリーに話した内容、次の日には王都中の話題になるからな』

『アレクが見つけた医者って説明させてるから大丈夫よぉ』

『なら、良いけど』

「王都に来てくれて助かったわ」

「はい。私も、この病で死者が出る前に治療に携われて良かったです」

『ロザリー、なんでも勝手に喋っちゃうんだもん。余計な事言いそうになったら止めてるけど』

『ルキアも大変だな』

『……イリスもよっぽど苦労人なのねぇ。あれ?リリーが持ってるのって、ロザリーの短刀じゃない?』

「え?」

「リリーシア、その短刀は……」

「これ?エルから預かってるの」

「それは、私のものなんです。返して頂けますか?」

「え?ロザリーのなの?」

「はい」

 千年ぐらい前のものって言ってたけど……。

 ロザリーがずっと昔から持ってたものなら、古いのも当たり前か。

 短刀をロザリーに渡す。

「ありがとうございます」

 本人に返すなら、調査結果だけエルに渡せば大丈夫だよね。

 ロザリーは慣れた様子で、その短刀の紐を腰に巻く。

「私、そろそろ行こうと思います」

「あら、もう行くの?もう一日ぐらい王都でのんびりすれば良いのに」

「いいえ。王都で感染者が出た以上、おそらく周辺にも感染が広がっているはずです」

 周辺?

『おい、何の話しだよ』

『私たち、王都を出るのよ』

「え……?」

 どういうこと?

 だって、ロザリーは……。

「気を付けてね。また王都に寄ることがあったら、家に来てちょうだいね」

「はい。では」

 ロザリーが頭を下げる。

『お前、だって、ロザリーは……』

 歩いて行こうとするロザリーの腕を引く。

「リリーシア?」

「あの……、えっと……」

『途中まで送る』

「途中まで送るよ」

「はい」

「マリー、ごめんね。また今度ね」

「リリーも慌ただしいわね。ロジーヌ、二人を案内してあげてちょうだい」

 マリーに手を振って、ロジーヌさんの案内でオルロワール家を出る。


「ねぇ、ロザリー、どうして?」

「リリーシア、お願いがあります」

「お願い?」

「誰にも言わないで下さい」

「何を?」

「私が王都を出ることを」

『アレクに何も言ってないんだろ』

「え?アレクさんに言ってないの?」

『リリーシアに見つかったなら、ツァレンとシールを撒いた意味がないじゃない』

 そういえば、誰もロザリーの護衛をしてないよね。

「どうして、何も言わずに行くの?」

「私はメディシノです。治療を続けるのが私の役目です。この病は、撲滅は難しいのです。感染の広がりは簡単には収まりません。この病は何度でも感染します。治療を行っても、何度でもかかるんです」

「でも治療薬は出来たんだよ」

「はい。プリーギを殺せる薬が開発されたことは確認しました。……でも、その薬が存在するのは王都だけです。薬の量産にはまだ時間がかかります」

「すぐに感染者の元に届くようになるよ」

「それまでの間、感染者が治療を受けられない期間が続きます。私は、メディシノとして、この病の撲滅に少しでも貢献しなければなりません」

「待って、一人で行くつもりなの?」

「はい。私にはルキアが居ます」

「危ないよ。私も一緒に行く」

『リリー、何言ってるの?』

「一人旅は慣れています。私の目的のために誰かを巻き込むことはできません。……お願いです。これぐらいしか、アレクに感謝する気持ちを伝える方法がありません」

「え?」

「アレクは記憶のない私を保護し、現代の言葉を教え、私が好きな裁縫をやらせてくれてました。周りに居る人も、みんなとても優しくて。……私は、目覚めてから今まで、ずっと幸せでした」

「それなら、どうして何も言わずに行こうとするの?」

「アレクは国を背負って立つ人です。私は自分の容姿を知っています。アレクの傍に私が居ることが、どういう意味を持つのか、私は知っています」

 黒髪に紅の瞳だから?

 吸血鬼種が皇太子の傍に居てはいけないの?

「アレクさんはそんなこと思ってないよ」

「はい。その通りだと思います。アレクはとても優しい人です。でも、それではいけないんです。これ以上、迷惑はかけられません。今までの感謝を示す方法として私が出来ることは、病の蔓延を防ぐために、少しでも多くの治療を行うことだけです。そしてそれは、私が長い時を生きてきた意味でもあります」

「でも……」

「ありがとう、リリーシア。あなたもとても優しい人です」

 本当に、行ってしまうの?

 だって、アレクさんは。ロザリーと一緒に居たいと思ってるのに?

「ロザリー、アレクさんに返事をしないの?」

 返事、保留のままなんだよね?

「どうか、私のことは忘れてください。王都に薬があると解っている以上、私は王都に必要のない存在です。ここに来ることはもう二度とありません」

「それがロザリーの気持ちなの?違うよね?好きだから、」

「さようなら、リリーシア。ここでお別れです。どうか、ついて来ないでください」

「ロザリー」

『あなたの知ってる真空の精霊に宜しく言っておいてねー』

 ルキアが手を振って、ロザリーと一緒に去って行く。

『追いかけないの?リリー』

 好きだから。

 そばに居るのをやめるんだ。

 その気持ちはわかる。

 でも……。

「追いかけるの、私じゃないよ」

 お城に行こう。


 走って、城門を抜ける。

「こんにちは」

「ようこそ、リリーシア様」

『何?リリーって顔パスなの?』

 通り抜けた先には、いつもの光の精霊。

「あの、」

『いつも慌ただしいな』

 光の精霊が私の前を飛ぶ。

「名前、教えてもらっても良い?」

『コートニー』

「いつもありがとう、コートニー」

『来客をアレクに伝えるのが私の役目で、案内は私の役目ではないのだがな』

「ごめんなさい」

 コートニーがくすくす笑う。

『賑やかなことだ』


 コートニーの案内で、アレクさんの書斎へ。

 書斎の前に居るのは、ヴェロニクさん。

「こんにちは」

「リリーシア。そんなに急いでどうしたの?」

「ロザリーが、ロザリーがね、」

「行ってしまったんだね」

「え?」

「知らせの必要はないよ。アレクはもう知っているから」

「どうして?」

「ツァレンとシールが、ロザリーを連れて帰って来なかったから」

「護衛を途中でやめて良かったの?」

「ロザリーが不要だと言ったら、引くように伝えられてたみたいだよ」

 ルキアは撒いたって言っていたけど、もともと追わないように言われてたの?

「追いかけないの?」

「誰が?」

「アレクさん、ロザリーを……」

「たった一人の女性の為に、国の頂点に立つ人間が動くと言うの?」

 皇太子だから?

「でも、好きな人は一人だよ。誰にだって居るよ。それはみんな変わらないはずだよ。……アレクさん!」

「そんなくだらない用事の為に、この扉を開くことはできない」

「本当に、いいの?好きじゃないの?追いかけないの?ロザリーはもう二度と、王都には来ないって言ってたよ!もう二度と会えないかもしれないのに!」

「リリーシア。それ以上騒ぐようなら、つまみ出すよ」

『リリー。帰ろう。これはリリーが首を出す問題じゃないよ』

 アレクさん……。

「今、この部屋を守ってるのは私一人じゃないんだ。あまり騒がないで欲しいね」

「え?」

 ヴェロニクさん一人じゃない?

 ……あ。

 そうか。アレクさんは、見張られてるんだ。

 お城から出ないように、別の騎士からも。

「アレクを動かしたいなら、エルに言った方が早いよ」

 エルに?

「エルは今、どこに居るの?」

「書斎に居ないことは確かだね。どこに行ったかは知らないな」

 どこ行ったんだろう?

「もうすぐ家に帰るんだから、大人しく待っていたらどう?」

 キャロルの誕生日には家に帰るから?

「でも……」

「彼女の行き先を割り出すことは簡単だよ。焦る必要はない」

 そうなの?

 追いかけようと思えば、いつでも追いかけられる?

 だから追いかけないの?

「他に用事はない?」

「え?えっと……。あ、そうだ。これ、エルが帰って来たら渡して下さい」

 綾杉さんから渡された封筒を渡す。

「短刀の鑑定結果って言えば分ります」

「鑑定結果だけ?そのものはないの?」

「短刀は本人に返しました」

「そう伝えれば良いのかな」

「はい。お願いします。……それでは、失礼します」

「気を付けてね」

『案内しよう』

「うん」

 コートニーについて歩く。

 アレクさん……。

「ロザリーの居場所、解ってるみたいだよね?」

『あの容姿なら目立つだろうからね』

『お前はエルに似ているな』

「え?どうして?」

『何にでも首を突っ込むだろう』

『アレクとロザリーの問題なんだから、ほっとけば良いのにさ』

 そうなのかな……。

 本当に、追いかけなくて良いのかな。

 だって、お互いに何も言葉を交わしていないのに。

 


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