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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
31/149

30 そして誰も…?

 キャロルとマリーと一緒に夕食を食べて、キャロルのことをマリーにお願いしてオルロワール家を出る。

 キャロルが元気になって良かった。

 エルが帰って来て、ルイスが元気になったからだよね。


 まっすぐエルの家を目指して、サウスストリートを歩いている途中。

「……?」

 あれ?

 何か、視線を感じる?

「イリス、誰か居る?」

『え?……あ、本当だ。リリー、尾行されてるよ。知らない顔だ』

「何人ぐらい居るかな」

『ここから見えるのは一人みたいだけど。何か合図を送ってるみたいだからまだ居るかもね。戻って三番隊に寄って行く?』

「大丈夫」

 振り返り、周囲を見回す。

「出て来い!」

 雪姫に手をかけて、鞘から刀を少し抜く。

 ……三人。

 サウスストリートは広いから、一度姿を表せば逃げることなんて出来ない。

 ムラサメさんに教わった通りに、刀を引き抜くと、思った以上にするりと刀が抜けた。

 相手も剣を抜く。

『サポートするよ』

「背後に誰か来たら教えて」

『了解』

 雪姫を構えて、走る。

 と、同時に相手が私に向かって何かを投げる。

 紫の玉。

 確か、煙幕じゃなかったっけ?

「イリス、あれを凍らせて」

『了解』

 顕現したイリスが、紫の玉を凍らせる。凍った玉を蹴り上げると、空中で玉が割れ、宙に煙幕が漂う。

 そのまま走って、相手に向かって雪姫を振り降ろす。

「た、助けてくれ」

 あれ……?

『リリー、周りの連中、逃げたみたいだよ』

「去れ」

 雪姫を引くと、相手が走って逃げる。

「何だったのかな……」

『夜中に一人で歩いてるから目をつけられるんだよ』

「え?……うーん」

 そうかなぁ。

『リリーは女の子だって何度言ったらわかるの?』

「でも、」

『王都の人なら凶暴なリリーだってわかるかもしれないけど。王都の人じゃなかったらわからないんだからね』

「ひどい」

 凶暴なんて。

『だったら、その喧嘩っぱやい態度はどうにかした方が良いと思うよ』

「剣術大会の間はしないよ」

『本当に?』

「剣術大会の間って決闘が禁止なんだって。剣術大会中に決闘で捕まると、大会が終わるまで牢から出て来られないの」

『そんな決まりがあるんだ。っていうか、それ以外で牢に入れられることないの?』

「決闘って個人の権利みたいだから」

『ホント、変わった国だよね』

 まだまだ知らないことがたくさんありそう。


 ※


 視界一面に砂の大地が広がっている。

 ……ここは、砂漠?

 砂漠の中央で、レイリスがエルを抱えて座ってる。


 そこから、何かが落ちた。


 砂に足を取られながら、走って傍に行く。

 会いたかった。

 エル。

 閉じたまま開かない瞳。

 頬に触れて。

 柔らかい金色の髪に触れて。

 その頭を抱き上げる。


 ……あれ?


 変だ。

 私は、どうしてエルの……。


 ※


 目を醒ます。

『あ、起きた?リリー』

「イリス……」

『どうしたの?嫌な夢でも見た?』

 手が、体が震える。

 どうして、こんな夢を見るの。

『リリー』

「……大丈夫」

『本当に?』

 夢だ。

 あんなの、夢。

「ねぇ、イリス」

『何?』

「精霊は人を生き返らせることが出来るんだよね?」

『出来るけど。……必ず出来るってわけじゃないよ』

「え?」

『条件があるんだ。精霊だって万能じゃないんだからね』

「条件?」

『精霊はリンの力によって引き裂かれたものを元に戻すことはできない』

 蘇らせることはできないの……?

 夢。今のは夢。

 家に帰って、シャワーを浴びたら眠たくなって、そのまま寝てしまったんだっけ。

『疲れてるんだよ。紅茶でも飲んで、休んだら?』

「……マロングラッセを煮なくちゃ」

 そのために戻って来たんだから。

『あんまり無理しないでよ』

「うん」

 起き上がって、鍋を持って台所に向かう。


 誰も居ない。

 当たり前だけど。

「イリスが居てくれて良かった」

『何?寂しいの?』

 マロングラッセの鍋にシロップを追加して、火にかける。

「一昨日はエルが居なくて。昨日はルイスも居なくて。今日はキャロルも居ないの」

『明日はリリーが居なくなるの?』

 そして誰もいなくなった?

「違うよ。ここはみんなが帰って来る場所だもん」

 キャロルの誕生日には、皆、家に居るよね?

 そうだ。

「キャラメルも作ろうと思ってたんだ」

 言いながら、材料を出して計量していく。

『良いね。エルが喜ぶんじゃない?』

「エル、本当に毎日食べてるの?」

『気が向いたら食べてるよ。周りに配ったりもしてるけど。でも、シナモンって本当に不評なんだね。エルしか美味しそうに食べてないよ』

「そうなんだ。他は?」

『トマトはエレインがすごく気に入ってたよ』

「エレイン?」

『遺跡で会った女の子。ガラハドに用事があるらしくて、カミーユと一緒に王都を目指してる』

 そういえば、エルとカミーユさんは遺跡の調査に出かけてたんだっけ。

「急に呼び出しちゃったけど、エル、こっちに来て大丈夫だったの?」

『大丈夫だよ。ちょうど帰るところだったから』

「良かった」

 鍋を出して、牛乳に茶葉を入れる。

『ミルクティーでも作るの?』

「マリーとキャロルの為に甘いキャラメルも作ろうと思って」

『シナモンは作ってあげないの?エルは、あれが一番気に入ってるみたいだよ』

「もう一種類、ワインのキャラメルを作るつもりだよ」

 喜んでくれると良いな。


 ※


 出来上がったキャラメルをバットに移して冷ます。

 このまま冷まして、明日切れば良いよね。

 ルイスとキャロル、帰って来てくれるかな……。

 もう少しマロングラッセを煮たら、寝よう。

『リリー、ごめん。エルに呼ばれた』

「え?」

 目の前から、イリスが居なくなる。

 エル、気づいたのかな?

 バニラのぶつけた岩、すごく痛そうだったけど……。

 こんな時間まで気づかないってことはないだろうから、普通に起きたのかな。

 アレクさんが薬の開発をするように言ってるはずだから、今はきっと、薬を作ってるはずだよね。

 早くできると良いけど……。

 どれぐらい難しい事なのか想像がつかない。

 もしかして、イリスの力が必要?


 ……あぁ。本当に、一人になるなんて。

 落ち込む。


 ※


 夢を見るのが怖くて、眠れない。

 なんであんな夢を見るんだろう。

 最初に見たのは、グラシアルに一人で行ってしまったエルを追いかけてる時。

 次に見たのはこの前。

 あれは、エルが私の目の前で倒れる夢だった。

 口に血をつけたエルが……。

 全く、同じだった。

 ルイスの治療直後に見たエルの横顔と。

 怖い。

 その、奇妙な一致が。

 怖くて……。

 どうしよう……。

 眠りたくない。

 エル……。


 ……?

 今、何か音がした?

 気のせい?

 扉が開く音がしたと思うんだけど……。

「誰?」

 台所の入り口を振り返って見るけれど、誰も居ない。

 気のせい?

「ただいま」

 エル?

 突然、エルの姿がその場に現れる。

「エル!おかえりなさい!」

 本物だよね?

 走って傍まで行って、エルに抱きつく。

 あぁ。本物。

 本物のエルだ。

 そっか。闇の魔法で姿を隠してただけなんだ。

「会いたかった」

 エルが、私を抱きしめる。

「薬の開発してたんじゃなかったの?」

「ずっと研究してるよ。リリーが作ったシナモンのキャラメルが病原を殺せる成分を含んでるんだ。レシピを教えてくれないか?」

「え?キャラメルが?」

 病気に効くの?

「シナモンは、砂糖、ミエル、牛乳、フレッシュクリーム、シナモンだよ」

 特別なものは使ってないと思うけど……。

 あんなに怖い病気なのに、こんなものに弱いの?

「何してたんだ?」

「マロングラッセを煮ていたの。キャロルの誕生日ケーキに使おうと思って。……それから、キャラメルも作ってたんだ」

「キャラメルか。ちょうど欲しかったんだ」

「本当?良かった。そろそろ固まったんじゃないかな。切るの、手伝ってくれる?」

「いいよ」

 調理場に戻って、バットに移したキャラメルの様子を見る。

 うん。良い感じ。

「ミルクティーと赤ワインだよ」

「おぉ」

 イリス、エルに教えてあげなかったのかな。

「切ってもらえる?」

「一緒に切ろう」

 エルが私の右手に包丁を握らせる。

 大丈夫かな……。

 そう思ってると、包丁を持った私の手を、後ろからエルが握る。

「あの……」

 どうしよう。ドキドキする。

「大きさはこの前と同じで良いのか?」

「うん」

 エルが包丁の先端で、キャラメルに薄い筋をつける。

「これぐらいの大きさ?」

「うん」

 そして、筋に沿ってキャラメルを切る。

 すごい。同じ大きさに切れてる。

「なんだか自分で切ってるみたい」

「自分で切ってるんだろ」

「力入れてないよ」

「入れていいよ」

「んー……」

 私がやると、こんなに上手くいかない気がする……。

「リリー。全部終わったら、一緒にどこかに行こう」

「どこかって?」

「リリーの行きたいところ」

「どうして?」

「旅をしてる方が、一緒に居られる気がするから」

 それ、私も思ってたことだ。

「そうだね」

 包丁を置いて、切り終わった赤ワインのキャラメルをバットに戻す。

「すぐに戻らなきゃいけない」

「うん。忙しいんだよね?」

「キャラメルを全部切ったら行くよ」

 エルが私を離す。

 あ、そうだ。マロングラッセ、火にかけっぱなしなんだ。

「美味しい」

 エルが切ったばかりのキャラメルをつまんでる。

「良かった」

 きっと、ワインのキャラメルは気に入ってくれると思った。

 エルがミルクティーのキャラメルをバットから出して、同じように切る。

「ありがとう」

 マロングラッセは、もう火を止めて大丈夫かな。

 このままゆっくり冷まして、朝になったら全部取り出して乾燥させよう。

 キャラメルを切り終わったエルが、私の口の中に一つ入れる。

「美味しい」

 甘くて良い感じ。

「今、包むね」

「このままで良いよ」

 切ったキャラメルをエルが紙袋に入れる。

 研究所の人たちと食べるのかな。

「じゃあ、残りは包んで、明日研究所に持って行くね」

「どうせ十五日に帰って来るから良いよ。……キャロルとリリーが焼いたアップルパイ、食べたよ」

「本当?」

 そういえば、あれがどうなったのか全然気にしてなかった。

 隊長さん、研究所に持って行ってくれたんだ……。

「シナモンが効いてて美味しかった。また今度作って」

「うん」

 良かった。エルが食べてくれると思ってなかったから、すごく嬉しい。

「イリス、リリーを頼む」

『了解』

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 帰って来る人が居るって分かっている限り、一人じゃないよね。

「おかえり、イリス」

『ただいま』

 次は、誰が帰って来るかな。



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