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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
30/149

29 時代の風

 お城から出ようとしたところで、目の前に騎士が三人立ち塞がる。

「お出かけですか、アレクシス様」

「通してくれるかい」

「できません。国王陛下からのお達しです」

「それは困ったな。とても急ぎの用があるのだけど」

「アレクシス様。ご自身のお立場をお考えください。今、王都へ出かけるのは非常に危険です」

「オルロワール家に出かけるだけだよ」

「なりません。あそこが現在患者の隔離場所になっているのは把握済みです」

「私の元に情報が来ないようにしていたのは父上だったのかな。……しょうがない。リリーシア、ロザリーをオルロワール家へ連れて行ってくれるかい」

「はい、わかりました」

 アレクさんが何かをロザリーに渡す。

「これは……」

「黒に変わるらしいよ。不安だったら使うと良い」

「……はい」

「ツァレン、シール。ロザリーとリリーシアの護衛を頼んだよ」

「御意」

「御意」

 えっ?ツァレンさんとレンシールさん?

 目の前に並んだ騎士の後ろ。城の外から声が聞こえる。

 城の外で待機していたのかな。

 ……いつの間に、そんな指示を出してたんだろう?

「それじゃあ、執務室で大人しくしているとしようか。リリーシア。彼女を頼んだよ」

「はい」

『本当に大人しくしてるのか?あれ』

 どうなんだろう……。

 陛下に呼び出された直後に、お城の正面から出ようとするなんて。わざとらしい気がするけれど。

「ロザリー、行こう」

「はい」

 ロザリーと一緒に、お城の前庭へ出る。

 後ろからツァレンさんとレンシールさんがついて来る。

 アレクさんの近衛騎士。

 いつも居るのって、ツァレンさんとレンシールさんなのかな。

 ヴェロニクさんも研究所で初めて会ったし。

 会ったことないのは、常盤のグリフレッドさんと黒紅のローグバルさん。

 他の人が居るから、ツァレンさんとレンシールさんを護衛につけたのかな?

「リリーシア、少し待ってもらえますか」

「うん」

 ロザリーが、自分の目に何か垂らす。

 ロザリーの瞳の色が、紅色から黒に変わる。

『アレクが作ったの?この目薬』

『エルだよ』

『エルって誰?』

「エルはアレクの弟でリリーシアの夫です」

『そうなんだぁ。錬金術師?』

「うん。錬金術師だよ」

「エルが、この目薬を作ってくれたんですね。エルもこの国の王子ですか?」

「えっ、」

「それならリリーシアはお姫様ですね」

「あの、違うの」

 どうしてそうなるの?

 アレクさん、エルのこと弟としか説明していないの?

 助けて欲しくて、ツァレンさんとレンシールさんの方を見る。

「まぁ、良いんじゃないか?」

「主君にあれだけ不遜な態度を取れる人間が、王族じゃないと説明する方が難しい」

 助けてくれない。

「あの、ロザリー。エルは王族じゃないの。でも、アレクさんとは兄弟みたいに仲が良いの。エルは、アレクさんのお姉さんの子供で……」

「エルは正確にはアレクの甥なんですね」

「ええと……」

 あれ?これは正しいんだっけ?

『一番伝えなきゃいけないのってさ、血が繋がってないってことじゃないの?』

 そうだ。

「エルはアレクさんと血は繋がってないの」

「はい」

「で、アレクさんのお姉さんの養子なの」

「そうでしたか。年が近いので弟と呼んでいるのですね」

「そう!そうなの」

『なんていうか。変わってないねぇ、ロザリー』

 そういえば、ロザリーって。

 いつから棺で眠り続けていたんだろう。


 ※


 四人でオルロワール家へ行く。

「こんにちは、ロジーヌさん」

「リリーシア様。……ツァレン様、レンシール様と……」

「はじめまして。ロザリーと申します」

「ロザリー様ですね。本日はどのようなご用件でしょうか」

「隔離されている患者さんの所に連れて行って欲しいの」

「……申し訳ありません。あそこにご案内できるのは患者とご家族のみとなっております」

「主君の命令だ。どうにかならないか?」

「アレクシス様の……?かしこまりました。ご案内いたします。お怪我をされている方は……。リリーシア様、失礼ですが、その首のお怪我は……」

「あっ」

 エルに噛まれたままだ。

「治療しよう」

 レンシールさんが私の首に触れる。

 魔法は青い光。

 水の魔法だよね。

 レンシールさんはたぶん、水の精霊と雷の精霊と契約しているんじゃないかな。

「それでは参りましょう」

 ロジーヌさんに続いて歩く。

「大きなお屋敷ですね。オルロワール家というのも王族ですか?」

「オルロワール家は伯爵家だよ」

「貴族ですか」

「オルロワール家とは、ラングリオンの初代国王と共に、暴君であったアルファド帝国の皇帝を滅ぼし、この国の建国に携わった騎士の家系でございます。そして、オルロワール家は光の祝福の濃い家系としても知られております。その創始者は光の大精霊と特殊な契約を交わした為、現代でも光の精霊との親交が深いのです。初代の瞳が今のラングリオンの皇太子殿下同様、左右の瞳が違っていたのをご存知ですか?」

 え?左右の瞳が違うって……。

「珍しい瞳ですね」

「右がコーラルオレンジ、左が碧眼であったと伺っております」

 それってつまり。

 オルロワール家の初代は、光の大精霊と瞳を交換したってことだよね。

「さぁ、到着いたしました。私も屋敷の中までご案内することはできません。屋内には研究所の方がいらっしゃるはずです。その方にご案内をお頼みいただけますか」

「はい。わかりました」

「それでは、失礼いたします」

 ロジーヌさんが頭を下げて去る。

「リリーシア、ツァレン、シール。あなたたちも外で待っていた方が良いと思います」

「一緒に行くよ」

「来ても何も手伝えません。治療に手伝いは不要です」

「何も出来なくても傍に居るよ」

「リリーシア……」

「俺たちもお供するぜ。主君から護衛を頼まれてるんだ」

「右に同じ」

「私の仲間だと思われてしまうかもしれません」

 仲間って……。

「私の治療方法は、決して誇れるものではありません」

 吸血鬼と思われるから?

「病気が治ればみんなわかってくれるよ」

「すべての人が理解してくれるとは限りません」

『今まで、こっそり治療して逃げるってのを繰り返してたものね』

「ロザリー。……もしかして、治療を行うの、本当は不安なの?」

「いいえ。この病の治療の為だけに私は存在するんです」

 治療の為だけ?

「違うよ。そんなことない。ロザリーはロザリーだよ。人を救うことが出来る力を持った私の友達」

「……友達?」

「だから、一緒に居る」

『リリーシア』

「何?」

『治療を見られて恐れられなかったことはないわ。ロザリーはそれをよく知ってる。あなたはロザリーがアレクを治療した姿を見て、怖くなかったの?』

「怖くないよ。だって、メディシノは完璧な治療者だって、私が知ってる精霊が言っていたから」

『精霊の言葉を信じるの?……人間が誰も信じなかったのに』

「精霊は嘘を吐かないよ」

『そうねぇ……。うん。ロザリー、大丈夫よ。きっと、時代は変わったんだわ。あなたが生きていた時代と』

「ルキア……」

「一緒に行っても良い?」

 ロザリーが、頷く。

「はい。……本当は、不安なんです。悪魔と罵られることが怖い」

「大丈夫。悪魔なんて言わせない。私がちゃんと説得するよ」

「リリーシア。ありがとう」

「じゃあ、行こうか」

「はい」

 扉を開く。


 広いホールで、子供たちが走り回っている。

 椅子に座って食事を摂っている人や、談笑している人。

 とても病気の人たちが集まって居る場所には見えない。

「あれぇ。リリー。どぉしたの?」

「ユリア?どうしてここに?」

「錬金術研究所が人手不足だからぁ、私も手伝いに来たんだよぉ」

「感染してますね」

「……あれぇ。ばれちゃったぁ?」

「わかるの?」

「はい。匂いでわかります」

「えー。そんな匂いするかなぁ?」

「治療を行っても大丈夫ですか」

「治療?もう、治療方法が確立されたのぉ?」

「えっと……。ロザリーはこの病気を治せる人なの」

「ロザリーって言うんだぁ。私はユリア。よろしくねぇ」

「よろしくお願いします」

「じゃあ、重傷者から順に頼もうかなぁ」

「はい」

「ちょっと待っててねぇ」

 ユリアがどこかに走って行く。

 本当に、見た目には病気ってわからないよね。

『ここに居るのって、みんな患者なの?』

「そんな感じがします。多すぎて、全員かどうかはわかりません」

「匂いでわかるの?」

「はい。私は一年ほど治療を続けていましたから、慣れています」

「お待たせー」

「ユリア」

「許可貰って来たよぉ。重傷者の所に案内するねぇ。怪我人は居ないわよねぇ?」

 ユリアが私たちを見る。

「リリーのそれはぁ?」

「えっ?えっと……」

「ふふふ。これつけてあげるねぇ」

 ユリアがハイネックのつけ襟を私の首につける。

「ありがとう……」

「面白い装飾です。後で見せてもらっても良いですか?」

「可愛いでしょぉ?ロザリーにもあげるねぇ。今、つけ襟にはまってるんだぁ」

 そう言って、ユリアがもう一つ出してロザリーにつける。

「ふふふ。黒い髪には、やっぱり白だよねぇ」

「あなたも、黒い髪に嫌悪感を抱きませんか」

「そうだなぁ。王都でもまだまだ差別はあるけどねぇ。私はエルのブラッドアイも、リリーの黒髪も好きだよぉ」

「エルは吸血鬼種なんですか?」

「違うよぉ。金髪にブラッドアイだもん」

「聞いたことがありません。ブラッドアイは必ず黒髪です」

「んー。会えばわかるんじゃないかなぁ」

 そういえば、エル、お城に居るのにロザリーと会ったことないって言ってたよね。

「重傷者は個室で輸血を行ってるのよぉ。ついて来てぇ」

 ユリアに続いて、ホールの奥の扉に進む。

「輸血?」

「血液を失った人へ、同じ血液型の血を投与する治療方法だって」

 ジニーがそう説明していた。

「そんなことができるんですか」

「私も詳しくは知らないけどぉ。そうみたいねぇ」

『ねぇ。あんなに元気な人たちを患者と呼ぶってことは、この病気について詳しい人間が居るの?』

 どう説明すれば良いかな。

『人間がいろいろ調べた結果だよ。これが病気ってことも、血液感染するってことも、汗と思われていたものが血液だってことも』

『死人が出る前に調べたって言うの?』

『そうみたいだね』

『それだけ優秀なら、メディシノに頼らない治療方法の確立もできそうね』

『そうだね』

「まずはこの人からねぇ」

 ユリアが扉を開く。

 中には、ルイスと同じように赤い管で輸血中の人が、ベッドの上で横になっている。

「寝てるみたいだねぇ。……そういえばぁ、治療に必要な道具って持ってるのぉ?」

「はい」

「何か手伝おっかぁ?」

「いいえ。大丈夫です。ルキア、顕現して」

『うん』

 ルキアが顕現する。

「わぁ、真空の精霊だぁ。人と契約してるなんて珍しいねぇ」

『ロザリーは私のパートナーだもの。さ、始めよっか』

「はい」

 ロザリーが患者に近づいて、その首に顔を寄せる。

「んん?……あの子、何してるのぉ?」

「治療だよ」

「んー……。本物の吸血鬼……?」

「違うの。ロザリーはメディシノって呼ばれている、この病気を治療できる人なの」

「治療ができる人?そんなのどこから連れて来たのぉ?」

 えっと……。

「アレクさんが、探したのかな?」

「アレクシス様が?」

 そういえば、どうしてアレクさん、棺を移動させたんだろう?

 メディシノのことは知らなかったみたいだよね?偶然?

「メディシノって、メディシノ王国のことぉ?ロザリーは、あの国の生き残りなのぉ?」

「えっと……」

 その辺、詳しく知らないんだよね。

「終わりました」

 ロザリーが顔を上げてこちらを見る。

「完治したの?」

「はい。プリーギを取り除けば、すぐに良くなります」

「じゃあ、もう輸血も必要ないのかなぁ……?ちょっと詳しい人に聞いて来るねぇ」

「次の患者はどこですか?」

「この廊下の並びにある個室全部だよぉ。輸血のこと聞いて来るからぁ、順番に回ってくれるぅ?」

「はい、わかりました」

「じゃあ、よろしくねぇ」

 そう言って、ユリアが部屋を出る。

「ユリアも、私の治療法を見て怖がりませんでした」

『そうねぇ』

「治療を続けましょう」


 隣の部屋へ移動する。

 ここの患者さんは起きてるみたいだ。

「こんにちは」

「ん?検査の時間か?」

「いいえ。治療に来ました」

「治療?」

「彼女は、この病気を治せる医者なんです」

「アレクシス様が連れて来たのか?」

「……はい」

 なんでわかったんだろう?

「ツァレン様とレンシール様がいらっしゃるってことは、そうじゃないのか?」

「主君が探し当てた、病を確実に治せるお医者様です」

 ツァレンさん?

「そうだったのか」

「少し痛いですが、治療しても構いませんか?」

「あぁ、頼むぜ」

 ロザリーが患者に近づく。

「どうか動かずに居てください」

「わかったよ」

 ロザリーが、首に噛みつく。

 と、同時に悲鳴が上がる。

『ロザリー、まだよ』

 手伝わなくて大丈夫かな……。

 患者さんは、大人しくしていてくれるみたいだけど……。

『完了!』

 ロザリーが口を離す。

「終わりました」

「えらく変わった方法だな」

「あの……。怖くありませんでしたか」

「治療なんだろ?」

「はい。これで病原はすべて取り除かれたので、すぐに良くなります」

「あんたも大変だな。……ほかの連中も頼んだぜ」

「はい」


 次の部屋へ。

「あ、リリーシアさん」

「こんにちは」

 えっと、三番隊の人だよね。

「どうしたんですか?こんなところに」

「この病気のお医者さんの付き添いをしてるの」

「この人が、アリシアさんですか?」

「え?違うよ」

 姉妹と思われたのかな。

『リリーとロザリー、顔は全然似てないのにね』

「私は、あなたの病を治療するために来ました。少し痛いですが、治療を行っても構いませんか」

「はい。是非お願いします」

 ロザリーがルキアと一緒に患者さんのところに行って治療を行う。

 さっきの人と違って悲鳴は上がらなかった。

『はい。完了』

「終わりました」

「ありがとうございます。案外簡単な方法ですね」

「え?」

「あ、すみません。治療してる方は大変ですね。血に触れても大丈夫なんですか?」

「はい。私は感染しないんです」

「それは良かった。どうか無理はしないでくださいね」

「……ありがとうございます」

 みんなで部屋を出る。


 ……出た後、ロザリーがその場にうずくまる。

「ロザリー?」

 慌てて、しゃがんでロザリーの背を撫でる。

「大丈夫?」

「……はい」

「無理してない?どこかで少し休もう」

「休む場所がないか聞いてこよう」

 レンシールさんが走って行く。

「待ってください、大丈夫なんです。違うんです……」

 聞かずに、レンシールさんは行ってしまう。

「どうしたんだ?」

『こういうの、慣れてないんだよねぇ?』

 どういうこと?

 しばらくして、嗚咽が聞こえてきた。

 泣いてる?

「メディシノが……。治療で感謝を言われることはありません」

 ロザリー……。

「だから、嬉しくて。こんなこと、望んだことがないので……」

「ロザリー。どうして、あなたたちはそこまでして、治療を続けるの?」

『プリーギの撲滅は、真空の大精霊の願いなの』

「願い?」

『真空の大精霊が契約した相手との契約内容だから』

『真空の大精霊と魔王の契約ってこと?』

『知ってるの?氷の精霊のくせに』

『聞いたんだよ。知り合いの真空の精霊から』

『真空の精霊は、契約者なしに地上に存在できないのよ』

『契約して地上に存在してる精霊が居るんだよ』

『真空の精霊が、魔王の眷属以外と契約するなんて』

 えっと……。エルはブラッドアイだから、魔王の眷属になるんだよね。

『その真空の精霊の名前を教えて』

『嫌だよ。直接会えば良いだろ』

『誰と契約してるの?』

『そのうち会うよ』

「ルキア、治療を続けましょう」

「休まなくて大丈夫?」

 ちょうど、レンシールさんが戻って来た。

「休むなら離れを出て、オルロワール家に戻った方が良いようだ」

「ありがとう、シール。でも、もう大丈夫です。治療を続けましょう」

「君が無理をすると主君が心配される」

「大丈夫です。無理はしていません」

 ロザリーが微笑む。

「行きましょう」


 ※


 重症患者の治療を終えて、ホールに戻る。

「あ、終わったのぉ?」

 最初に来た時と同じように、ユリアがホールの入り口で座っている。

「はい。重症患者の治療は終了しました」

「ありがとぉ。じゃあ、次は私が頼もうかなぁ」

「はい」

「ちょっと待ってねぇ」

 ユリアが立ち上がる。

「みんなー、注目してー」

 ユリアの大声に、ホールに居た人が集まってくる。

「この病気を治療してくれる人を、アレクシス様が探してくれたのぉ」

 ホールがざわつく。

「でもぉ、この治療方法ってぇ、少し変わってるのよぉ。私が治療してもらうからぁ、みんな見ててねぇ」

 ユリアがロザリーの前に行く。

「少し痛いと思います」

「大丈夫よぉ」

 ロザリーが、ユリアの首に噛みつく。

 その様子を見た人たちから、小さな悲鳴が上がる。

「吸血鬼……?」

「吸血鬼だ」

「黒髪の……」

『完了よ』

 ロザリーがユリアから口を離す。

「ありがとう、ロザリー。なんだかすっきりしたわぁ」

「……はい」

「ってわけでぇ、病原を吸いだしてもらいたい人は、ここに並んでねぇ?」

 ホールがざわついてる。並んでくれる様子はない。

 どうして?

「ロザリーは、この病気を完璧に治療できる人です」

 ホールの人たちが顔を見合わせる。

「だから、怖がらないでください。この病気は、病原を吸い出せばすぐに良くなります」

 どうしよう。

「お姉ちゃん」

 あ。この子……。

 この前、礼拝堂前の広場でボール遊びをしていた子だ。

「僕を治してくれる?」

「やめてっ、うちの子に触らないで!」

 母親らしき人が走り寄ってくる。

「ママ、僕、痛いのなんてへっちゃらだよ」

「危険よ」

「だってアレクシス様が連れて来た人だよ」

「でも……」

「治療を行えば必ず治ります。どうか、治療させていただけませんか」

「ママ、僕、早く治して家に帰りたいよ」

 母親が子供を抱きしめたままうなだれる。

「本当に治療なんですね?」

「はい。彼の感染は軽微なので、すぐに終わります」

「お願いします」

 母親がその子を離す。

 そして、ロザリーがしゃがんで、男の子の首に口をつける。

「……あぁ。月の女神様、この子をお守りください」

『はい、完了よ』

「終わりました」

「え?もう終わったの?」

「はい。完治しました」

 母親がその子を抱きしめる。

「本当に……?」

「はい」

「僕、もう家に帰って大丈夫?」

「んー。病気が完治しても、予後を観察したいから、もう少し残ってもらいたいのよねぇ。もう一日我慢できるぅ?」

「うん。わかった」

「すぐに帰れるようになると思うからぁ。ママと待っててねぇ?」

「はーい」

「ありがとうございます」

「いえ、私は……」

「さ、次々治療しなくっちゃねぇ」

「え?」

「子供が先だよぉ!小さい子から順にこっち来てねー」

「リリーシア、私……」

『泣いてる暇はないわよ、ロザリー。メディシノはあなたしか居ないんだから』

「……はい」


 ※


 夕方になって、ユリアが今日はここまで、と強制的に終了させた。

 患者さんはまだ居たけれど、ロザリーの負担が大きすぎるから。

 明日もう一度来ることを約束して、ロザリーはツァレンさん、レンシールさんと一緒にお城へ帰る。

「リリーシア様。本日はオルロワール家にお泊り下さい。キャロル様もマリアンヌ様のお部屋にいらっしゃいます」

 キャロルはマリーと一緒に居るんだ。

 それなら安心かな。

「ルイスは研究所?」

「おそらく」

「あの、錬金術研究所に行っても良いですか?」

「構いませんが……。ロザリー様のことは、研究所には伝えてはいけないとお達しを受けております」

「え?」

 どうして?

『アレクはきっと、薬の開発をさせたいんだよ。だから自分が感染したって言って、研究所の連中を焚きつけたんだろ』

「そっか……」

 だからあんなことしたんだ。

『リリーは口が軽いんだから。今日は大人しくしてたら?』

「……うん。わかった。研究所に行くのはやめます」

「そうしていただくと助かります」

「でも、今日は家に帰ろうと思います」

『なんで?』

「マロングラッセの様子が気になるの」

『マロングラッセ?』

「まだ作ってる途中だから……」

「ご夕食だけでもご一緒されてはいかがでしょうか」

 そっか。もう、そんな時間なんだっけ。

「はい。お願いします」

「では、こちらへどうぞ」

 


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