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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
28/149

27 治療者

「エル、」

 目を閉じて脱力するエルを抱き留める。

 首筋が痛い……。

 噛まれた。

『バニラ、やりすぎじゃないー?』

『こうする他ない』

『私が顕現していれば眠らせることも出来たが』

『メラニーの顕現も頼んでおいた方が良かったねぇ』

 その場に座って、腕の中に居るエルの頬に触れる。

「エル、起きて……」

 頭……。大丈夫かな。

 こぶが出来てる?

『治療しておこう』

 バニラがエルの頭に触れる。

『リリー、エルの口を洗浄してぇ』

「洗浄?」

『何か布で拭き取っても良いわぁ』

 ハンカチを取り出して、エルの口の中を拭き取る。

『そのまま、口の中見せてぇ』

 ユールがエルの口の中を覗く。

『大丈夫みたいねぇ』

「大丈夫って?」

『ユール。何故、エルにやらせた』

 バニラ?

『ルイスが死んだら、エルが悲しむものぉ』

『らしくないねー』

『……あたしだって、エルの気持ちはわかるのよぉ』

『ルイスはそんなに危険な状態だったのか?』

『感染が全身に回っていたものぉ。もって三日ってところかしらねぇ』

『どうして治療法を教えた。薬の開発が出来なければ、エルは自分が悪魔に堕ちても治療を続けるぞ』

「悪魔?」

『どういうこと?』

『おい、ユール。エルに何をさせたんだよ』

 そうだ。

「あなた、カミーユさんの精霊だよね?どうしてここに居るの?」

 前に会ったことがある、雷の精霊。

『ルイスに何かあったって聞いたから、エルについてきたんだよ。明日まで情報を集めさせてもらうぜ。王都の流行病なら、カミーユが薬を作る。ユール、何か知ってるんなら洗いざらい話せよ』

『なんであんたなんかに教えなくちゃいけないのよぉ』

『薬を作るにはカミーユの力が必要だろ?』

『エル一人でも作れるわよぉ』

『どうかな』

『作れないって言いたいのぉ?』

『作れないとは言ってないぜ。でも、エルのレシピはエルにしか作れない。それじゃあ意味ないだろ?』

『改良ぐらい、エルが薬を作ってからやれば良いじゃなぁい』

『もうすでに蔓延してるんだ。エル一人で薬を作り続けるのもやばいんじゃねーのか?』

『どうせカミーユが来るのなんてまだ先でしょぉ?』

『すぐに帰るんだから、教えろ』

『それが、人にものを教えてもらう態度なのぉ?』

『そんな事言ってる場合かよ』

『あたしが助けたいのはエルだけだものぉ。他の人がどうなったって知らないわぁ』

『じゃあ、ルイスを助けたのはなんでだよ』

『エルの望みをかなえただけよぉ』

「あの……」

『その辺にしておけ。ユール、ブレスト』

 ブレストって言うんだ。カミーユさんの精霊。

 もしかして、ユールとブレストって、すごく仲が悪い?

 えっと……。

「ユール。私も教えて欲しいの。悪魔に堕ちるってどういうこと?」

『エルの治療方法、見たでしょぉ?』

「吸血鬼みたいに吸いだす方法?」

『大正解よぉ、リリー。……これが、吸血鬼の正体』

「え?」

『プリーギに感染した人間を救うために悪魔に堕ちた人間』

「それって……」

『光の勇者に滅ぼされた魔王と、光の魔法使いたちと神の御使いによって浄化された悪魔たちだ』

『みんな、プリーギに感染した人間を救うために頑張った人たちだねー』

『だからエルが治療を行うのはまずいんだ』

 それじゃあ……。

「治療するのはルイスだけって言ったのは、エルが悪魔になってしまうからなの?」

『そうだ』

「魔王は、もともと……」

『医者だったんだよー』

『この病は以前にも流行っている』

『光の勇者の時代に?そんなの初めて聞いたよ』

 私だってそうだ。

『全部魔王のせいにされてたんじゃないのぉ?魔王が居なくなってぇ、光の魔法使いと神の御使いが悪魔の魂を浄化し尽くす頃には、プリーギの被害はなくなってたものぉ。プリーギが流行ったのは、魔王が魔王になる前のことよぉ?』

 そっか。治療を行い続けた結果、魔王になってしまったなら、この病気の流行はそれより前のはずだよね。

『病気が流行してぇ、真空の大精霊が、治療方法を探していた医者の願いを叶えて一緒に人間を治療したのぉ。でも、この治療方法は人間にとってかなり負担になるわぁ。治療を続けるうちに、医者は悪魔に堕ちてしまったのよぉ』

 それが、魔王の正体。

『治療をどれだけ続けても、感染者は減らなかったわぁ。その医者の子供たちは、真空の大精霊が生んだ真空の精霊と共に治療を続けたのよぉ』

 なんだかそれ、グラシアルの状況に似てるかも……。

 大精霊が、契約者の為に精霊を生んでいたところが。

『何代にもわたって、彼らは治療を続けたわぁ。その創始者が魔王となって、自分たちの容姿が迫害を受けるものになったとしてもぉ』

「魔王の容姿って、」

『魔王は黒髪だったけどぉ、もともとブラッドアイじゃなかったのよぉ。治療を続け、真空の精霊の力を強く受け過ぎた結果、ブラッドアイと、プリーギに感染しない血を手に入れたのぉ。それまではプリーギに感染して死んじゃう治療者も居たからぁ、ブラッドアイになって、治療者として完璧になったんだけどねぇ』

 ブラッドアイは、プリーギに感染しない血を持つ人間の証拠?

「じゃあ、エルは感染しないの?」

『そうよぉ。プリーギはエルの血の中では生きられないわぁ。……そして、その中から、平気な子が生まれたのぉ。それが、メディシノと呼ばれる種族。この病に対抗できる完璧な治療者なのよぉ』

「じゃあ、今もメディシノが居れば……」

『この病気が何かもすぐにわかったしぃ、治療もすぐに行ったでしょうねぇ』

『しかし、メディシノはもう存在しないだろう』

「どうして?」

『人間は、これだけブラッドアイの迫害を続けて来たんだよー?生きてるわけないと思うけどねー』

『光の魔法使いたちが、神の御使いと共に悪魔祓いをしていた時代だ。黒髪にブラッドアイという容姿だけで彼らは悪魔とみなされたんだ』

 そうだ。私も歴史で学んだことがある。

『あたしもメディシノと契約していたことがあるのよぉ。彼女は優秀な錬金術師だったわぁ。一緒にプリーギに感染された人の治療を行いながら、この病気に効く薬の開発を目指してたのぉ。でも、ブラッドアイがばれて……』

『メディシノはさ。感染者が居る限り、治療を行い続けていたんだよー。メディシノ王国は黒髪にブラッドアイの人間を保護してる国だったんだ。王国は滅ぼされて、生き残った人は砂漠に逃げたみたいだけどねー』

「ひどい……」

 どうして……。

『リリー、泣かないで?』

 魔王が、魔王になってしまったのも。

 魔王の眷属の多くが悪魔になってしまったのも。

 全部、治療を行ったからなのに……。

 どうして、こんな結果になってしまったんだろう。

「誰も、治療者だってわからなかったの?」

『治療の方法は、吸血鬼と変わらない』

 そうだ。どっちも、首から……。

『治療の為に吸われた子だってぇ、吸血鬼に襲われたって勘違いしてる子が多いのよぉ。この病気って、病気っぽくないんだものぉ』

 確かに。見た目には汗が流れ続けるだけだから。

「どうして、また同じ病気が流行ったのかわかる?」

『わからないわぁ。あいつは血の中でしか増えることが出来ないのよぉ。水中で生息できたとしても、寿命はそんなに長くないはずだものぉ』

 水中では長く生きられないの?

『魔王が光の勇者に滅ぼされたのって、今から千年ぐらい前のはずだろ?』

『千年も生きられないと思うわぁ。血がなければぁ、季節が一つ過ぎるぐらいで死ぬはずだものぉ』

「どうして、そんなのが堀に居たのかな……?」

『なんでだろうね?』

 堀にプリーギが侵入したのは、たぶん夏の間ってことだよね。

 ……あれ?

「そういえば、私、堀に落ちた時、怪我してたんだ」

『何の話し?』

「あの、私、エルがドラゴンと戦った日、エルが堀に落ちたと思って、堀に探しに行ったの」

『あー。大晦日の日?』

「うん。私、指に怪我してて、堀に飛び込む前に傷口が開いてたから、怪我したまま堀に飛び込んだんだ。……でも、私が感染してないってことは、大晦日の日には堀にプリーギが居なかったってことだよね?」

「……プリーギって何?病原の名前?」

「ルイス……?」

 ルイスがベッドの上で起き上がっている。

「気づいたの?」

「うん。……僕、どれぐらい寝てたの?エルが居るってことは、十五日?」

 気を失ってたから分からないのかな。

「ヴィエルジュの十二日だよ」

「良かった。エル、予定よりも早く帰って来たんだね」

「うん。エルがルイスの治療をしてくれたんだよ」

「治療?僕、完治したの?」

「そのはずだけど……。調子はどう?」

「少しだるいぐらいで平気。汗はかいてないみたい。……なんだかここ、血だらけだね」

 腕に繋がれた赤い管を外して、ルイスが立ち上がる。

「大丈夫?」

「うん。嫌な感じはしないよ」

 ルイスがベッドのシーツを外して、棚から新しいシーツを取り出してベッドにかける。

「どうやって治療したの?」

「えっと……」

『解らないって言っておけば?』

「ごめんなさい。わからないの」

「そっか。……エルが疲れて寝ちゃうぐらい、きっと難しい方法なんだろうね。ベッドに寝かせてあげてくれる?」

「うん」

 エルを抱えて、ベッドに寝かせる。

『リリー、バケツの水、触っちゃだめよぉ』

「あのね、ルイス。このバケツの中に今回の病気の原因が入ってるの」

「……僕から病原を取り出したの?」

「そうみたい。だから、絶対に触らないでね?」

「うん。わかった。さっき言ってたやつ?」

「そう。プリーギっていうのが、この病原菌の名前みたいなの。大昔にも流行ったことがあるんだって」

「そうなの?全然聞いたことないな。……でも、これがあれば病気の治療薬の開発が進みそうだね」

 そうなのかな。

 扉が開く。

「ルイス。気づいたのかい」

「アレクシス様……?」

「エルは寝てるのかな」

「えっと……」

 気を失ってるんだよね?

『バニラが気絶させたのよぉ』

「ルイス、調子はどうだい」

「大丈夫です。問題ありません。……今ってどうなってるんですか?」

「状況は君が気を失う前とさほど変わっていないんじゃないかな。オルロワール家の離れに、患者を隔離する場所を設けてもらった。患者はすべてそこに移動してもらっている。これ以上の感染は防げるだろう」

「エルに患者の治療をさせるんですか?」

「一人治療するだけで気を失うほど体力を消耗するんだよ。それなら、治療薬の開発に専念してもらった方が早いし、多くの人を救えるだろう」

「死人が出ませんか?」

「君が病気の正体を突き止めてくれたおかげで、輸血を行えば患者の状態が改善されることがわかったからね。この先、重傷者が出るまでは、エルに治療を行わせたりはしないよ」

『もうエルに治療なんてさせないわよぉ』

「カミーユは……」

「エルとは別行動で、こちらに向かっている。もし研究所で薬の開発に携わりたいというのならば、私の名前で許可しよう」

「はい。是非、お願いします」

「ただし、その火傷は治した方が良いようだね」

「あ……」

『治療しよう』

 光の精霊が顕現して、ルイスの右手の甲に触れる。

「汗の成分が血液だと気づいた理由について教えてくれるかい」

「はい。……僕が感染したのは、たぶん八日に堀に落ちた時です。自分の体調の変化にはすぐに気づきました。これがただの風邪の症状じゃないということにも。手の甲から細菌が入ったのかと思って、ずっと傷口から入る細菌について調べていたんです」

「初めから流行病を疑っていたわけではないのかな」

「はい。……でも、調べてる最中に、僕と同じような症状の人が店に来たので、伝染病の可能性を疑いました。この病気の特徴が汗が流れ出る事なのは気づいていましたから。……汗に注目したのは、誰も調べないと思ったからです」

「面白い発想だね」

「研究所には十分な設備があります。あらゆる方法で新種の病気について調べる方法があります。でも、汗はこの病気の症状であって原因だなんて思わないから、きっと研究所では詳しく調べないと思いました。だから、意味がなくても僕が調べる価値があると思ったんです。そして、自分の血液と同じ成分であることが分かったので、研究所に報告に来ました」

「まさに予想通りの結果だったようだね。誰も汗の成分には注目しなかったようだから。おかげで多くの人が危機を回避した。ありがとう、ルイス」

「……いえ、とんでもないです」

「そのバケツを持って、ちょっと付き合ってくれるかい。リリーシアもおいで。エルには精霊がついているから大丈夫だろう」

「はい」

『何かエルに伝言はあるか?』

「エルは、薬の開発が終わるまで城に戻らなくて良いよ」

『了解』

『城に居るのと、どっちが楽かしらねぇ』

 お城も仕事が多くて大変そうだもんね……。

『リリー。ボクはリリーについて行くよ』

「ありがとう、イリス」


 ※


 アレクさんとルイス、それからツァレンさんと一緒にロビーへ行く。

「ルイス、久しぶり」

「ロニー。来てたの?」

 誰だろう?

「主君に帰還命令が出てるんだよ」

「帰還命令?」

「陛下が、主君を城に連れ戻せってお怒りなんだよ」

 それ、そんなに暢気に話すことかな……。

「怒らせるのはまずいから、早く帰らないとね」

 やっぱり、アレクさんがここに居るのってまずい事なんだよね。

「あ。初めましてだね。私は白花のヴェロニク」

 綺麗な人。

 アレクさんの近衛騎士だよね。

「初めまして。リリーシアです」

「みんな、ちょっと集まってくれるかい」

 アレクさんの呼びかけで、ロビーに居た人が集まってくる。

「さっき話した病原菌のサンプルだよ。ルイス、バケツを床に置いてくれるかい」

「はい」

 ルイスがバケツを床に置く。

 アレクさんは、試験管を取り出して、バケツの水を汲む。

 バケツに手を突っ込んでも平気なのかな?

 怪我をしていなければ平気なはずだけど……。

「見ててごらん」

 アレクさんが自分の指を短剣で切って、自分の血を試験管の中に垂らす。

 滴り落ちた血が、試験管の中を真っ赤に染めたのを見て、試験管の上から指を離す。

「……え?」

 研究所内がざわつく。

 ビーカーの中の赤い色が、どんどん透明に澄んでいく。

 どうして?

 そういえば、バケツだって透明になっていた。

「この病原菌は血液に何らかの作用を起こし、人間には合わないものに変化させるようだね。その結果、汗となって排出されてしまうんだろう。……ここまでわかったなら、薬の開発もすぐに終わるね?」

 アレクさんが周りを見渡す。

「患者がこれ以上増えないような対策はとったけれど、このままじゃ重傷者が出る可能性もある。だから、」

 アレクさんが、試験管の中身を自分の傷口にかける。

『馬鹿!感染するぞ!』

「タイムリミットを設けよう。この病原は血液感染する。つまり、私もこれで感染した」

「アレクシス様、」

「私は輸血は受けない。私が死ぬより先に、薬を開発するように。……以上」

 アレクさんの指を光の精霊が治療する。

「ロニー。研究所に残るかい?」

「是非」

「定期報告も欠かさずにね。それじゃあ、みんな。頼んだよ」

「はい!」

 研究所の人たち全員が返事をする。

「おいで、リリーシア」

「あの……」

 そのまま背を向けて歩くアレクさんについて行く。

 アレクさん、どうしてこんなこと……。

 

 


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