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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
27/149

26 おかえりなさい

 キャロルと一緒に、昨日焼いたアップルパイをバスケットいっぱいに詰めて、錬金術研究所へ向かう。

「ルイスの馬鹿。本当に帰ってこないなんて」

「研究所に泊まったのかな?」

「きっとそうよ。カミーユだって、しょっちゅう研究所で寝泊まりしてるって言ってたから、休む場所はあるはずだもの」

 そうなんだ。

 朝一で賑わう中央広場に差し掛かったところで、隊長さんに会った。

「隊長さん、おはようございます」

「おはよう、ガラハド」

「おはよう。丁度、お前たちを呼びに行こうと思っていたんだ」

「え?」

 私たちを呼びに?

 ……なんだろう。すごく、嫌な予感がする。

「とりあえず、研究所に来い」

「ルイスに何かあったの?」

「行けばわかるぜ」

「ガラハド、これお願い」

「キャロル、」

 持っていたバスケットを隊長さんに押し付けて、キャロルが走って行く。

「あの、隊長さん……」

「歩きながら話そうか」

 隊長さんに続いて歩く。

「流行病のことは知ってるな?」

「はい」

 この数日で一気に広まった気がする。

「どうやら堀が氷漬けになった直後から、例の病が流行り出したらしいんだ。研究所の連中は堀の氷の調査を行いながら、患者の検査を進めてる。最初は大したことないと思われてたんだが、昨日あたりから、何人か意識障害を起こしてる連中が出たらしくてな」

「え?」

 意識障害って……。

「ルイスも、昨日の夜に倒れてから意識が戻らないらしい。だから俺は二人を呼びに来たんだよ」

 意識が……?

 そんな。だって、昨日は普通に……。

「待て」

 走り出そうとする私を、隊長さんが止める。

「落ちつけ」

「でも、」

「リリーシアが行ったところで何もできないぞ」

 その通りだ。

 私は、病気を治してあげることなんてできない。

「俺がリリーシアを呼びに来たのは、ルイスのことを知らせるだけじゃない。エルとカミーユがどこに居るか知らないか?」

「どこに行ったかは分からないの。十五日までには帰って来るって……。でも、アレクさんならきっと知ってる」

「やっぱり殿下に聞かないといけないのか……」

「私、アレクさんに聞いてきます」

 アップルパイを隊長さんに預けて、お城に向かって走る。

「おい、待て、リリーシア!」

 私が今できること。

 何もないの?

 できること……。

 どうしよう……。

 エル、早く帰って来て。

 そうだ!

「イリス、姿を現せ!」

 お願い。来て!

『リリー。何か用?』

「イリス、」

 良かった。来てくれた。

『ちょ、ちょっと待ってよ、そんなに急いでどこに行くの?呼び出しておいてそれはないんじゃない?』

「ルイスが危ないの」

『えっ?何?どういうこと?……っていうか、この堀、なんで凍ってるの?』

「わからない」

 何人かが堀の氷を切り出す作業をしているのを横目で見ながら、堀の橋を渡りきる。

 そして首から下げている剣花の紋章を門番に見せる。

「お願い!アレクさんに会わせて!」

「リリーシア様?」

 そうだ。きっと光の精霊が居るはず。

 そのまままっすぐ門を通り抜けると、思った通り、見慣れた光の精霊が居た。

『リリーシア』

「アレクさんのところに案内して!」

『……ついて来い』

 光の精霊について、お城の中を走る。

 

 光の精霊を追って着いた先は、ツァレンさんが警備してるアレクさんの書斎の前。

「おー?朝っぱらから、そんなに急いでどうした?」

「ツァレンさん、アレクさんに会わせて」

 私が言い終わらない内に書斎の扉が開く。

「リリーシア。何があったんだい」

 アレクさん。

「助けて。ルイスが危ないの。今すぐエルを呼んで」

 きっと、アレクさんならエルを……。

『リリー、落ちついてよ。一体何があったの?』

「イリス。君はエルに転移の魔法陣を使うように伝えてほしい。私が転移の魔法陣でエルを呼ぼう」

『は?何言ってるの?エルは今、王都から遠く離れた場所に居るんだよ?本気?』

「問題ない」

『問題ないって……。あれ、相当魔力使うんだろ?』

「エルに伝えるだけで構わないよ」

『もう。わかったよ!ボクもエルに呼ばれてるし。上手く行かなかったらまた呼んで』

 イリスが目の前から消える。

 そして、アレクさんが書斎に入って、床に転移の魔法陣を描く。

 私が知ってるのと少し違うような気がする。

「レイリスの力を借りるんだよ」

 魔法陣が光る。

「何があったのか話してくれるかい」

「ここ数日で急に流行った病気について知っていますか?」

「変わった病が流行っていることは聞いているよ。けれど、命にかかわるようなものじゃないと聞いている」

「意識障害を起こしている人が出てるみたいなんです」

「具体的には?」

「ルイスが、昨日から意識が戻らないって……」

「大変なことになっているようだね」

「でも、ルイス、この病気についてずっと調べてたみたいで……。それで、汗の主成分が血液だって調べたんです」

「主成分が、血液?」

「はい」

「血液が、汗のように流れ出る……?」

 アレクさんが口元に手を当てて何か考えている。

 ルイス……。

 大丈夫かな。

 研究所に居るってことは、きっと研究所の人が何とかしてくれてるんだよね?

「リリーシア。知らせてくれてありがとう。エルが来たら、私も研究所に向かおう。病について詳しく知りたい」

「え?」

「私の元へ届く報告が、ずいぶん遅いようだからね」

 あれ……。

 もしかして、この話し、アレクさんに教えちゃいけない事だった……?

「ん。繋がったようだね」

 魔法陣が輝く。

 そして。

 

 エルが姿を現す。

 

「……飛べた」

「エル」

「リリー、アレク」

『エル、平気?』

「あぁ。……ルイスがどうしたって?」

 あれっ?エルと一緒に居るの、カミーユさんの精霊?

「錬金術研究所に行こう」

「研究所?」

 アレクさんが扉を開く。

「ツァレン、出かけるよ」

「御意」

 ツァレンさんが部屋の中に入ってくる。

「ちょっと待て」

 エルが足元の魔法陣を消す。

「アレク、変装しなくて良いのかよ」

「変装が必要なのはエルじゃないかな」

「フードを被れば十分だ」

「じゃあ、行こうか」

 アレクさんがそう言って、書斎の奥に進む。

 あれ?そっち?

「わっ」

 エルが私を抱える。

「ただいま」

「おかえりなさい。あの……?」

 なんで抱えられたの?

「バルコニーから飛ぶんだよ。その方が早いから」

「飛ぶ?」

 アレクさんが、書斎のバルコニーから遠くの木に向かって……、飛んだ。

 たぶん、魔法の補助を使ってるんだろうけど。

「ちゃんと捕まってろよ」

 エルが私を抱えたまま、その後を追う。

 なんていうか。

 エル、何も知らないはずなのに、アレクさんにすぐ行動を合わせられるんだ。

 本当に仲が良いんだな。

 そのままいくつかの木を越えて、城壁の上へ。

 後ろからツァレンさんも追ってくる。

 ツァレンさんはたぶん、炎と風の魔法が使える人だ。

「アレクシス様、おでかけですか?」

 アレクさんが城壁の兵士と話してる。

「内緒にしておいてくれるかな」

「また内緒ですか?」

 アレクさん、そんなにしょっちゅう抜け出してるのかな……。


 ※


 お城から研究所に来るまでの間に、エルに王都で蔓延している病気について説明する。

 ルイスが病気について調べてたこと、そして病気のせいで倒れた事を。


 アレクさん、エル、ツァレンさんと一緒に錬金術研究所へ。

 研究所員の人は皆、白衣を着て走り回ってるみたいだ。患者さんらしき人と話をしている人も居る。

 私たちに気付いた一人が、アレクさんを見て叫ぶ。

「アっ、アレクシス様っ?」

 一瞬で、騒々しかった研究所が静まり返った。

「状況を説明してくれるのは誰かな」

「はい!私!私がします!」

「ジニー」

 ジニーが走って来て、礼をする。

「アレクシス様、ルイスはこっちです!」

 速足で歩くジニーについて行く。

「汗の成分が、血液と全く同じ成分ってルイスが調べてくれたんです。アリシアさんが患者の血液型を全員調べて、重症患者から順に輸血を開始しています」

「アリシアが来てるのか」

「はい。すごく助かってます。あんなに血液に詳しい人、うちには居ませんから」

「……輸血って?」

「えっと、血液を失った人へ、同じ血液型の血を投与する治療方法です。重症じゃない人には増血剤を投与して経過を観察しています。今、医療機関に呼びかけて、血液を集めてるところです。おかげで状況はかなり改善されました」

「意識障害の原因は、血液を大量に失ったことによるもので間違いないのかな」

「はい。輸血によって意識障害が回復した人も居ます」

 良かった……。

 きっとルイスも良くなるってことだよね。

「感染源は?」

「堀の水と考えられています。堀の氷を切り出す作業を行っていた数名が、怪我をした際に感染したみたいなんです」

 え?じゃあ、ルイスが病気に感染したのって、堀に落ちたから?

「氷の切り出し作業を中断しない理由は?」

「感染経路は必ず傷口です。この病原が必ず血液から侵入することが判明しています。氷を食べても問題ありません」

 ……どうしよう。私のせいだ。

 私が、無理をして帽子を取ろうとなんてしたから。

 代わりに怪我をしているルイスが落ちて、この病気に感染してしまったんだ。

 ルイス……。

 もしかして、ルイスは堀に落ちて感染したことも知っていたの?

 だから、私に何も言わなかったの?

『アレク、帰ってちょうだい』

 え?ユール?

「どういうことかな」

『この病にかかれば死ぬわよぉ?』

「え?」

 死ぬの?

「なんだって?」

「帰るつもりはないよ」

『困った皇太子ねぇ。あなたの替えはないのよぉ?この国を潰すつもりなのぉ?』

 どういう、こと?

 ルイス、死んじゃうの……?

「あの……?」

 ジニーが首を傾げる。

 きっと、ユールの声を聞くことが出来るのが、エルとアレクさんと、私だから。


「ここです」

 ジニーに案内された先の部屋。

 赤い管に繋がれて、ルイスがベッドの上で眠っている。

 その横で伏せっていたキャロルがこちらを見る。

「エル……、帰って来てくれたの……?」

 すでに泣きはらした顔のキャロルが、エルに飛びついて泣きはじめる。

「ただいま、キャロル」

「おかえりなさい……。待ってた……」

 エルがキャロルを抱きしめて、ルイスを見る。

「なんだ?この怪我。火傷?」

 エルがルイスの右手を取る。

 包帯の外された火傷の痕。

「薬品の火傷みたい。七日の夜に怪我したみたいなんだけど……」

「包帯、私が巻いたの……。その時から、ちっとも良くなってないわ。……病気と関係あるの?」

 この傷から感染したのは間違いない。

「今の時点じゃ何とも言えないな」

「ルイス、薬塗らなかったみたいなの。何か実験するからって言ってて」

「実験?」

「病気のこと、調べてたのかも……」

「ルイス……」

『リリー。ジニーとキャロルを外に連れ出してくれなぁい?』

「キャロル、ルイスの様子を見たいから外で待っててくれるか?」

「ジニー、キャロルをお願いできる?」

「はい」

「エル、ルイスをお願いね?」

「あぁ。まかせておけ」

『ツァレンは外の警備してねぇ。ここ、立ち入り禁止よぉ』

「ツァレン。人払いをしてくれるかい」

「御意」

 ツァレンさんが、キャロルとジニーと一緒に出て行く。

『リリーにも出て行って欲しかったんだけどぉ』

「私、一緒に居るよ」

『ふふふ。何を見ても、知らないわよぉ』

 どういう意味かな。

 ユールが目の前で顕現する。

「真空の精霊か」

『エル、あたしはこの病気について詳しいわぁ。今すぐ病気を治す方法も一つだけ知ってる』

『……』

「本当か?」

 治せるの?

『でも、これはとても危ない方法なのぉ。治すのはルイスだけって約束してくれるぅ?』

「この病気、蔓延してるんだろ?治療できるなら全員治療した方が良い」

『だめよぉ。約束できないなら、力は貸せないわぁ』

「ユール」

『エル、約束したじゃなぁい?薬を作ってくれるって』

「その薬って、この病の薬なのか?」

『そうよぉ。あたしにも作れない薬。今の技術なら、きっと作れるわぁ。その為のサンプルを、ルイスから取り出すのぉ』

「病原を取り除けば良くなる病気なのか、これは」

『すぐに良くなるわぁ』

「わかった。ルイスの治療を行おう」

『約束よぉ?他の人にはしないってぇ』

「わかったよ。薬を開発すれば良いんだろ?」

『ふふふ。そういうことぉ。ちょっと準備するからぁ、エルはルイスの傍で待っててねぇ』

 ユールがアレクさんの側に行く。

『あのねぇ、アレク』

 ユールがアレクさんの側で、何か話している。

「持ってるよ」

 何を?

「わかった」

 アレクさんが頷いて、流し台の方に向かってビーカーを手に取る。

『リリー、バケツ取ってくれるぅ?』

 バケツ……。あった。

『それ、ベッドの脇に置いてねぇ。それからコップに水を準備してぇ』

 バケツをエルの横に置いて、ベッドの脇にある水差しから、コップに水を移す。

「エル。……ルイスが感染したの、私のせいなの」

「なんで?」

「私が、堀に落ちた帽子を無理に取ろうとしてなければ、ルイスは……」

「ルイスはリリーを助けたんだろ?」

「うん」

「リリーが無事で良かった。ルイスが起きたら礼を言わなきゃな」

 エルが微笑む。

「あの……」

「心配しなくても、ルイスは俺が治す。リリーが倒れてたら、俺はここに来れなかったんだ。知らせてくれて感謝してる」

「……うん」

 どうか、良くなりますように。

『アレク、綺麗な短剣持ってなぁい?』

「一度も使ってないって意味なら、あるよ」

 アレクさんが短剣を出す。

『流石アレクねぇ。ちなみに今、怪我してる人は居ないわねぇ?』

「あぁ」

「していないよ」

「私も大丈夫」

『じゃあ、みんな離れて』

 エルから離れて、アレクさんのそばに行く。

 アレクさん、何作ってたのかな?

「あれ?これって」

 アレクさんが人差し指を口に当てる。

 このビーカーの中身って。

 どういうこと?

『バニラ、手伝ってくれるぅ?』

「バニラ、顕現してくれ」

『了解』

 バニラが顕現する。

「癒しの精霊が必要なら私も貸そう」

 光の精霊と水の精霊が顕現する。

『エル。今から言うことを全部やってねぇ』

 何を始めるの?

『まず、ルイスの首を短剣で切るのよぉ』

「は?」

 え?

『それから、血を吸いだすのぉ』

「……何、言ってるんだ?」

 首から血を吸いだす?

 それって、まるで……。

『絶対に、血は飲んじゃだめよぉ。バケツに出してねぇ。後はぁ、あたしが補助するわぁ』

「ルイスを殺す気か」

『救う方法はこれだけ。エル。今、この病を治療できるのはエルだけなのよぉ』

「なんで?」

『あたしと契約してるからぁ。……じゃあ、始めましょうか』

 エルが、ルイスの首に短剣を近づける。

「ユール、頼んだぜ」

 そして、首筋を斬る。

 エルが、その首に口をつける。

 ユールがエルに近づいて、何か魔法を使う。

『エル、吐いて』

 エルが血をバケツに向かって吐く。

『まだまだよ』

 もう一度。

『吐いて』

 エルの血の付いた口が……。

 夢のエルを思い出す。

「……これ、エルは大丈夫なの?」

『吐いて』

 怖い……。


 どれぐらい、その光景を眺めていたのかわからない。

 本当は短かったかもしれないけれど。

 とても、長く感じて……。


『みんな、ルイスを治療してぇ』

『了解』

『エル、全部吐いて、口をゆすいでねぇ』

「ん……」

 エルが机の上のコップを手に取って……。

『だめよ!吐いて!』

「エル!」

 アレクさんがエルの背を叩いて、エルを無理やり吐かせる。

 エルがゴホゴホと咳をしながら口の中のものを出す。

『アレク、さっきの、エルに飲ませてくれるぅ?』

 流し台に置いてあったビーカーを取って、アレクさんに渡す。

「エル。飲んでいいよ」

 アレクさんがビーカーの中身をエルに飲ませる。

 あの中身って確か……。

「エル、大丈夫?」

「ん……」

 すごい勢いで飲んでるみたいだけど……。

「……んんっ?」

 エルが急に立ち上がって、流し台に向かう。

 そして、吐いた。

 さっき、ユールに言われてアレクさんが作ってたもの。

 ビーカーの中身は、ショコラをお湯に溶かしたものだ。

「エルは治療を行うには向いていないのかな」

『向いてないわねぇ。メディシノじゃないものぉ』

 メディシノって……。

「メディシノ?それは、アルファド帝国時代の……」

「医者?」

「……医者?」

『リリー、メディシノの意味を知っているのぉ?』

「セルメアの古い言葉だよね?」

「あの国には、医者という意味があったのか」

 どういうこと?

『アレク。リリーは歴史がダメだから』

「イリス。酷い」

『じゃあ、アルファド帝国時代の地理はわかるの?』

「えっと……。アルファド帝国はラングリオンの前にあった国で、オービュミル大陸の東を支配していた大帝国だよね。周囲にはクエスタニアの前身となったモルティーガ都市同盟があって、西側は小さな国が乱立してて……。そうだ。帝国の南に吸血鬼種の国があったんだよね」

「メディシノ王国。吸血鬼種が治めていた国だよ」

 そんな名前だったかな……。

 あれ?メディシノって医者って意味なのに?

 医者の国?

『リリーって本当に歴史覚える気ないよね』

「古い言葉には精通しているのかな」

『古代語は全然だめだけど。ラングリオンの古い言葉やセルメアの古い言葉は好きみたいだよね。剣だって……』

「イリスっ」

 それ以上、言わないで。

「ユール。いくつか確認しよう。ルイスの治療は完了したのかな」

『したわよぉ』

「あのバケツの中に病原が入っているんだね?」

『もちろん。まだ生きてるわぁ』

 あれっ?

 バケツの中が透明になってる。

 どういうこと?

「空気感染はしないようだけど。水中と血液中でのみ生きられるのかな」

『そうねぇ』

「殺す方法は?」

『乾燥と高熱、酸に弱いわよぉ。後は知らないわねぇ』

「飲み込んでも平気なのかな」

『口内に怪我がなければ、胃酸で溶けるわよぉ』

「温度は低くても生きられるようだね。堀を凍らせるような力はあるのかな」

『ないと思うけどぉ』

「病原の名前は?」

『プリーギ。現代に、その名前が残ってるかしらねぇ』

 プリーギって確か……。

「リリーシア。プリーギの意味も分かるかい」

「たぶん、浄化」

「浄化か……。リリーシア。エルを頼むよ」

 アレクさんが部屋を出る。

 エルは……。

 ずっと吐いてる?

「エル?」

 エルが振り返る。

「リリー」

 そして、私を抱きしめる。

「大丈夫?」

『エルっ!』

『リリー!』

「!」

 思わず、叫びそうになるのをこらえる。

『馬鹿者!』

 ごんっ、とものすごく良い音がして。

 バニラがエルの頭に叩きつけた岩が砕け、エルが脱力した。

 


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