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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
26/149

25 アウトブレイク

 ヴィエルジュの十一日。

 ランチが終わった後、お店に行って店番をする。

 キャロルは買い物に出かけて、ルイスは相変わらず研究室にこもりっぱなし。

 食事の時には顔を出してくれるけれど、それ以外はずっと研究室。

 お店には、何人か昨日と同じようなことを聞きに来る人もいたけれど、同じ説明を繰り返すだけで研究所に向かってくれたみたいだ。

 こういうの、珍しくないのかな。

 みんな、病気はすぐに研究所の人が解決してくれるって信じてるんだよね。

 でも、この病気って王都でだけ流行ってるのかな?


 買い物に行っていたキャロルが帰って来た。

「街中でも噂になってるみたい。変な病気」

「汗が止まらない病気?」

「えぇ。同じような病気の人が研究所に行って、検査を受けてるみたいよ。命にかかわるものじゃないって言われてるけれど……。感染してる人が増えているみたいなの」

「流行ってるのって王都だけなの?」

「王都で流行ってるなら近隣の街でも流行ってるんじゃないかしら。王都には冒険者がたくさん来るから……」

 人の流れが多いってことは広がりやすいってことだよね。

 エルとカミーユさん。出先で病気にかかってないと良いけれど……。

「ルイスは、研究室から出てこないまま?」

「うん。ずっと何かしてるみたいだよ」

「そう……」

 キャロルがため息を吐いて、奥の部屋に入る。

 心配なんだよね。

 ルイス、この病気のことを何か知ってるのかな。


 ※


 扉が開く音が聞こえて、顔を上げる。

「いらっしゃいませ」

「リリー。久しぶりだな」

『久しぶり』

「アリシア!リウム!」

 思わず、カウンターから立ち上がる。

「どうして?」

 お店に入って来たのは、銀髪に碧眼の私の姉と、妖精の姿をした氷の精霊、リウム。

 アリシアが私の目の前まで来る。

「元気そうで良かった。エルロックは?」

「エルは、その……」

「黄昏の魔法使いが死んだという噂を聞いたんだ」

「え?グラシアルまで広まってるの?」

「グラシアルまで届いているかは知らないが。旅の途中で聞いたから慌てて来たんだ」

「死んでないよ」

「そうか……。良かった」

 アリシアが私の頭を撫でる。

 私の心配もしてくれてたのかな。

「でも、死んだふりはしてるんだ」

「死んだふり?」

「上手く説明できないんだけど、死んだことにしなくちゃいけなくって」

 アリシアが笑う。

「相変わらず変わったことをしてるんだな。王都に居ないのか?」

「カミーユさんと一緒に出掛けてる。十五日までには帰って来ると思うよ」

「カミーユも居ないのか……。あいつにも用があったのだがな」

「そうなの?」

『アリシア。グラシアルの情勢は伝えないのか?』

「教えて。あの後、どうなったの?」

「だいたい予定していた通りに事が進んで、大事なく収束した。グラシアル女王国は、女王をティリシア、姫をメルリシアにし、共和制を目指すことになった」

「ティリシアって、龍氷の魔女部隊の隊長の?」

「そうだ。ティリシアは女王と魔女部隊の隊長を兼任している。女王が急に居なくなるのは得策ではないから、しばらく彼女とメルに頑張ってもらうことになったんだ。現在、二人は新生女王国の外交大使として、諸国に挨拶回りをしているんだよ」

『アリシアはメルリシアに付き添っていたが、途中でエルロックの噂を聞いて先にラングリオンに来たんだ』

「えっと……。ラングリオンまで挨拶回りに来る予定だったの?」

『恩人のいる国だからな』

「グラシアル女王国は、この先も友好的な関係を築く相手として重要視しているよ。剣術大会の時期に来る予定なんだ」

「そうなんだ。メルに会うのも久しぶりだな」

「国賓の扱いだから、メルに会うのは大変かもしれないが」

「一国のお姫様だもんね。えっと……。皇太子殿下にも会いに行く?」

「もちろん。謁見はするだろう」

「なら、会えるかも」

「どういうことだ?」

「アレクさんと知り合いなんだ」

「知り合い?……確か、この国の皇太子はアレクシスという名前だったな」

「うん。アレクさんはエルの、お兄さんみたいな人だから」

「……あいつは王族なのか?」

「違うよ」

「もともと良くわからない奴だと思っていたが。更にわからなくなった」

 私はラングリオンっていう国自体が、まだ良くわからない。

「アリシアは、メルが来るまで王都に居るの?」

「あぁ。私はもともとカミーユの研究チームに呼ばれていたんだ。だから、メルと合流するまで、しばらく研究を手伝おうと思ってたんだが。当てが外れたな」

「それって転移の魔法陣の研究?」

「詳しいな」

「うん。カミーユさんが言ってたから。カミーユさんは居ないけど、セリーヌたちは居るはずだから行ってみたら?」

「室長が不在でも研究活動は行ってるか。……そうだな。行ってみるとしよう」

『リリーシア。イリスが見当たらないようだが』

「イリスはエルと一緒に居るよ」

「またか」

 そういえば、エルがセルメアに行った時も、イリスはエルに着いて行ったよね。

「イリスを取られて良いのか?」

「だって、イリスは……」

 後ろの扉が開く。

「ルイス」

「リリーシア。出かけてくるね」

「どこに行くの?」

「錬金術研究所」

「え?」

「研究所は私も用がある。案内してもらえると助かるんだが」

「……誰?」

「私の姉のアリシア。……こっちは、エルの養子のルイス」

「はじめまして。アリシアだ」

 アリシアが手を差し伸べる。

「はじめまして。握手は傷に触るから、今は控えさせてください」

「傷?」

 火傷の痕、包帯を巻いたままだ。

「良く効く薬をやろうか?」

「大丈夫です。研究所に行くなら案内します。……リリーシア。僕が戻れなかったら、明日からお店はお休みにして」

「え?どういうこと?」

「少し時間がかかるかもしれないんだ。カミーユと話したいことがあるし」

「カミーユは居ないんじゃなかったのか?」

「え?」

「エルと一緒に、王都の外に出かけてるの」

「エルまで居ないの?……まずいな。いつ帰って来るかわかる?」

「十五日までには帰ると思うけど……」

「わかった。アリシアさん、行こう」

「待って。……教えて欲しいの。どうして行くのか」

 だって……。

「言わなきゃだめ?」

「教えて」

 ルイスがため息を吐く。

「王都の流行病について調べてたんだ」

「やっぱり」

 病気について何か知ってると思ってた。

「流行病?」

 アリシアは着いたばかりだから知らないのかな。

「最近になって急に流行った病気。熱もないのに、汗が出続ける病気みたい」

「違う。あれは汗じゃない。体から流れ出るものの主成分は、血液なんだ」

「え?血液?」

「……つまり、流行病の感染者は、常に血を流し続けている状態だと?」

「そう。人間は血液の大半を失うと死ぬ。急いで研究所に知らせて、患者に増血剤の投与をした方が良い」

 ずっと研究室に居たルイスが、病気に関してそこまで詳しいってことは、やっぱり……。

「ルイスも感染してるの?病気に」

「……感染してる」

「汗って、」

「今も出てるよ。僕の場合は背中。体にタオル巻いてるからなんとかなってる」

 全然気づかなかった。

「感染しても見た目には元気なようだな」

「平気だよ。体にじっとり張り付く感じが気持ち悪いぐらいで。だらだら流れてない分、ましかもね」

「大丈夫なの?」

「貧血の対策は取ったよ」

「ルイス、血液に関することなら私の得意分野だ。協力しよう」

「アリシアさんって錬金術師なの?」

「カミーユの研究チームを手伝うことになっていたんだ」

「それは頼もしいね。リリーシア、キャロルをお願い」

「わかった」

「じゃあ行くよ」

「リリー、また来る」

『それでは』

 リウムは相変わらず礼儀正しい。

「いってらっしゃい」

「いってきます」


 血が流れ続ける病気って……。

 どういうことなんだろう。

 それって、ものすごく危険な病気じゃないの?

 アリシアも居るし、エルとカミーユさんも十五日には帰って来るはずだから……。

 きっと、大丈夫だよね?

「……」

 このまま、お店を閉めちゃおう。

 看板を閉店にして、扉に鍵をかけて台所に行くと、キャロルがぼーっとコーヒーを飲んでいる。

 ずっと元気ないな。

「あ、リリー」

「大丈夫?」

「うん」

「お店、閉めてきちゃった」

「え?もう?」

「エルもルイスも居ないから、良いよね?」

 キャロルが苦笑する。

「そうね。どこかに出かけるの?」

「キャロルに見てもらいたいものがあるんだ」

 戸棚から、蓋をしていないブリキの丸い缶を出す。

「何?これ」

 中には布でくるんだケーキが入っている。

 昨日、ケーキを乾かさないように冷ます為にくるんでおいたのだ。

 布ごと取り出して、中身をキャロルに見せる。

 ドライフルーツとスパイスをたっぷり練り込んだフルーツケーキ。

「今朝の匂いの正体って、これ?」

 やっぱり甘い匂い、残ってたよね。

「このケーキを熟成させようと思って」

「熟成?」

 昨日、酒屋さんで買ったラム酒を出す。

ラム酒をお皿に入れて、刷毛でケーキにラム酒を染み込ませる。

「数日置きに、こうやってラム酒を塗るんだ」

「いつまで?」

「一月ぐらい」

「そんなに?悪くならないの?」

「大丈夫。熟成させればさせるほど美味しくなるんだ」

「面白いケーキね」

「エルがちゃんと帰ってきたら、みんなで食べようと思って」

 キャロルの顔が笑顔になる。

「それってすごく良い案だわ。私もやってみて良い?」

「うん」

 キャロルが刷毛でラム酒をケーキに塗る。

「楽しい」

「塗り終わったら、一緒にアップルパイを作ろう」

「本当?」

「うん。たくさん作ろう」

「そうね。たくさん作って、明日配りましょう」

 刷毛で万遍なくラム酒を塗ったケーキは、ブリキ缶の中に入れて、しっかり蓋をしておく。

「じゃあ、準備しようか」

「えぇ。何から始めるの?」

「私はパイの生地を作るから、キャロルは林檎を切ってくれる?」

「……もしかして、リリーって林檎も切れない?」

「うん」

「じゃあ、一緒に練習しましょう」

「えっ、あの……」

「ほら、一緒にやりましょう」

「……うん。教えてくれる?」

「もちろん」


 キャロルと一緒に林檎を切って、切った林檎は砂糖をまぶしておいて。

 アップルパイの為のパイを作る。

 涼しいからパイを作るのには向いた季節だ。


 何か、気を紛らわせたいことがある時は、体を動かしていた方が良い。


 砂糖をまぶしておいた林檎から水分が出てきたら、鍋を火にかける。

 焦がさないようにじっくり炒め煮をして、最後にシナモンパウダーを絡めておく。

「ルイス、今日帰って来るのかしら」

 どうなのかな。

 帰らないかもしれないって言ってたけれど……。

「なんだか避けられてるみたい」

「え?」

「こんなの初めて」

「キャロル……」

 たぶん、ルイスは自分が感染してるって気づいてたから、避けてたんだ。

「私……」

「キャロル、色んな形を作ってみない?」

「色んな形?」

「オーソドックスなのは格子状だけど、サブレの型で型抜きして、飾ってみない?」

 お花の形や葉っぱの形を包んだパイの上に飾れば可愛いと思う。

「素敵ね。……うん。色々作ってみましょう」

 良かった。少し、元気になってくれたかな。


 ※


 夜になって、キャロルが寝て。

 部屋に置いておいたマロングラッセの鍋を持って来て、砂糖を加えて火にかける。

 待っても待っても、誰も帰ってこない。

 ルイス、大丈夫かな……。

 何もないよね?

 きっとすぐに薬が開発されて、皆の病気は良くなるんだよね?

 ……エル。

 お願い。

 早く帰って来て。

 


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