23 完成は遠く時間を食う
キャロルも寝たし、始めようかな。
殻を剥いておいた栗を、お湯の中に入れて茹でる。
キャロルが夕飯を作っている間、部屋で一通り剥いておいたのだ。
ルイスは結局お茶の時間に顔を出さなかった。
夕飯は普通に一緒に食べてくれたけど。
食事の時間以外研究室から出てこないなんて、本当にエルみたい。
研究って。何してるのかな。
どう考えても、タイミング的にあの病気のことっぽいけど……。
紅茶を飲みながら、ゆで上がった栗の薄皮を剥く作業をしていると、ルイスが台所に顔を出す。
「リリーシア。まだ起きてたの?」
「ルイス」
シャワーを浴びたのかな。ルイスが頭にタオルを被っている。
あれ?
「ルイス、具合悪い?」
「え?大丈夫だよ」
「なんだか顔色が悪いみたい。キャロルも心配してるよ」
「ごめんね、心配かけて。でも、もう少しで何か掴めそうなんだ」
そんなに研究に没頭してるの?
「無理しないでね?紅茶でも淹れようか?」
「うん。もらおうかな」
「待ってて」
薬缶を火にかける。さっき沸かしたばかりだから、すぐに沸騰するだろう。
ティーポットを洗って、新しい茶葉を入れる。
「何作ってるの?」
「マロングラッセだよ。キャロルの誕生日に栗のケーキを焼こうと思ってるんだ」
「そうなんだ。ありがとう。きっと喜ぶよ」
「まだ内緒にしておいてくれる?」
「いいよ。エルも帰って来るかな」
「帰って来るって言ってたよ」
「そっか。良かった」
お湯が沸いた。
湧いたお湯をティーポットに注ぐ。
「焼き栗、食べる?」
「うん」
焼き栗をお皿に乗せてテーブルに出す。
「お茶の時間に顔を出せなくてごめんね」
「そんなに忙しいの?」
「ちょっとね」
ちょっとって感じじゃないけれど。
薄皮を剥き終わった栗を、先に鍋に作っておいたシロップの中にかき混ぜながら入れる。
そして、鍋を火にかける。
「パーシバルさんに会ったよ。ルイスのこと心配してた」
「パーシィが?どうして?」
「ルイスが堀に落ちたって聞いて心配してたよ」
「あぁ、そうだったね」
「お見舞いに来たかったみたいなんだけど、三番隊も流行病で倒れた人が多くて大変みたいなんだ」
「……流行り出したね」
「お店にも同じこと聞きに来た人が居たよ」
私も甘栗食べようかな。
ルイスの隣に座って、焼き栗に手を伸ばす。
「あ」
焼き栗を剥いているルイスの右手。
「ルイス、手の甲の怪我、全然良くなってないよ」
シャルロさんのところで見たのと同じまま。
「薬、効かないの?」
「塗ってないんだ」
「え?どうして?」
「最初はちゃんと塗ってたんだけどね。……ちょっと試してることがあって。だから、少し悪化させてるんだ」
「だめだよ、そんなの。火傷の薬取って来る」
お店にあるはず。
取りに行こうとする私を、ルイスが止める。
「待ってよ。僕の話し聞いてた?」
ルイスの右手を掴んで、力を込める。
「いたっ」
「痛いなら、ちゃんと治さなきゃだめだよ」
「……わかったよ。薬はこれ」
ちゃんと持ち歩いてるんだ。
ルイスの右手を取る。
「ごめんね、痛くしちゃって」
「怒らせたら怖いって良くわかったよ」
「怒ってないよ?」
ルイスが笑う。
「そうだね。薬、塗ってくれる?」
「……うん」
ルイスの右手の甲の全体に薬を塗る。
「包帯も巻く?」
「大丈夫。……紅茶、そろそろ飲み頃じゃない?」
本当だ。
ティーポットの紅茶を、ルイスと私のカップに注ぐ。
「ありがとう」
それから、ぐつぐつと言い始めた鍋の火を少し弱める。
「まだ起きてるの?」
「うん。もう少し煮ておきたいから。……それに、この甘い匂いを少しごまかさなきゃ」
「ほかにも何か作るつもり?」
「うん」
「その鍋はどうするの?」
「部屋に持って行くよ」
夜中にこっそり作業すれば、きっとキャロルにもばれないよね?
十五日はキャロルが合唱団に行く日だから、ケーキはその時に焼けば大丈夫なはず。
「あんまり無理しないようにね」
「ルイスに言われたくないよ」
ルイスが苦笑する。
「そうだね」
「お願いだから、無理しないでね?エルも心配するよ」
「大丈夫だよ。心配されるようなことはないから」
それ、本当かな……?
※
ルイスにおやすみを言って、もう一つのケーキに取り掛かる。
ドライフルーツとスパイスがたっぷりのケーキ。
こっちはエルの為に。
エルがちゃんと家に帰って来れたら、みんなで食べよう。
一人でお菓子作りをするのって、少し寂しいかも。
いつもお菓子を作る時はイリスが一緒だったから。
オーブンが苦手だっていつも文句言われてたっけ。
イリス、元気にしてるかな……。
そういえば、キャロルとアップルパイを焼く約束をしてたんだ。
明日、一緒に作ろう。
アップルパイを作るときはいつも誰かに手伝ってもらう。
……林檎が上手に切れないから。
グラシアルのみんなは元気にしてるのかな。
女王が崩御して、グラシアルは政変の真っ只中のはずだ。
アリシアは、後は任せろって言っていたけれど……。
冒険者ギルドに顔を出してみようかな。他国の情勢について詳しいはずだ。
王都を攻撃したドラゴンが今どこに居るかも聞いてみよう。
ドラゴン。
今どこに居るんだろう。




