20 春菊、里芋、しめじ
朝食が終わって支度を整えて、エルと一緒に部屋を出る。
エルに続いて歩くと、ベランダにメイドさんが二人居た。
「おはようございます、エルロック様、リリーシア様」
金髪でボブカットの女の人が、アニエスさん。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます、リリーシア様。ライーザと申します」
肩ぐらいまでのストレートの金髪の女の人が、ライーザさん。
「ご出発でしたら、城門までご案内いたします」
「はい。お願いします」
「リリー、気をつけて」
「うん。エルも気をつけてね」
『ちゃんと大人しくしててよ』
「ちゃんと待ってるよ」
私、どう思われてるんだろう。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
エルに手を振って、ライーザさんと一緒に廊下を戻って、扉を開く。
ここって、お城の中だよね。
ライーザさんと一緒に扉を出ると、扉の外に居た兵士が驚いたような顔で私を見る。
「ライーザ様」
「はい」
「この方は?」
「リリーシア様です。昨晩、アレクシス様の密命を受けて、皇太子の棟に侵入していただきました。詳しくはレティシア様が報告されるかと思います」
「……承知いたしました」
「失礼いたします」
ライーザさんが頭を下げたのに合わせて、頭を下げる。
そして、ライーザさんの後に続いて歩く。
「どうしてレティシアさんが?」
「リリーシア様の尾行を依頼しておりましたから」
全然気づかなかった。
そういえばアレクさん、私と話しをする前にレティシアさんと話してたっけ。
「あの兵士さん、皇太子の棟に誰が居るか把握してるんですか?」
「アレクシス様は御自分が気に入られた方しか傍に置きませんから。皇太子の棟の警備を行っている兵士は、アレクシス様の許可のない方は絶対に通しません」
そうなんだ……。
じゃあ、顔見たこともない私が出てきて、すごくびっくりしたんだろうな。
※
ライーザさんに城門まで案内してもらう。
本当にお城って広くて複雑。外から回った方が近そう。
「自宅へお帰りですか?」
「王立図書館で待ち合わせをしてるんです」
「お送りいたしましょうか」
「大丈夫です」
「かしこまりました。……リリーシア様、こちらを」
ライーザさんが私に小箱を見せて、その小箱を開く。
「カーネリアン……」
細工の細かいブローチだ。
濃いカーネリアンが花の形に加工されている。石の選び方も良い。
きっと、良い職人さんが丁寧に加工したんだろう。
「アレクシス様からの贈り物です」
「え?あの……」
「お気に召しませんか」
「すごく素敵なものだと思います」
「では、お受け取り下さい」
「……はい」
受け取る以外の選択肢ないんだよね、きっと。
箱から出して、ブローチを襟元に着ける。
カーネリアンの花の下に伸びた、短い鎖に繋がれた雫型のカーネリアンが二つ揺れる。
箱も受け取って荷物に仕舞う。
「では、お気をつけて」
「はい。ありがとうございました」
※
お城を出て、中央広場に出てから、王立図書館へ向かう。
広い通りを歩いていれば迷わないから。
見慣れた王立図書館の入口から図書館に入る。
休日だから、図書館は人が多い。
どの辺に居るのかな。とりあえず、テーブルが置いてあるスペースを探す。
……見つけた。
テーブルの上で本とノートを広げている二人の側に行く。
勉強中?
「おはよう。ルイス、ジニー」
「おはようございます」
「おはよう、リリーシア。早かったね」
あれっ?
「ルイス、どうしたの?」
ルイスが右手の甲に包帯を巻いてる。
「火傷しちゃったんだ」
「大丈夫?」
「薬を塗ったから平気だよ。傷口が広いからキャロルに包帯を巻かれたけど。大したことはないから」
大丈夫かな……。
「それじゃあ、行こうか」
え?
「あの、勉強中じゃないの?」
「一緒に錬金術の勉強をしてただけです」
「僕がエルから教わったことをジニーに教えて、ジニーが僕に養成所で習ったことを教えてくれてるんだよ」
あれ?エルって養成所を卒業してるんだよね?
「内容、違うの?」
「ちょっとね。エルは、カミーユとシャルロと一緒に色んなことしてたらしいから。養成所で学ぶ以外のこともたくさん実験してたみたいだよ」
「全校生徒が避難しなければならなかった事件は未だに伝説です。御三方に泣かされた教師の数は数えきれないって言われてますよ」
「……そうなんだ」
そういえば、マリーが三人で悪いことばっかりやってたって言ってたっけ。
「リリーシア、これ」
ルイスから刀を受け取る。
「雪姫。持って来てくれたの?」
「持ち歩きたいかと思って」
「ありがとう。ルイス」
雪姫を右肩に背負う。
「じゃあ……」
「待って」
片づけを始めようとするルイスとジニーを止める。
「私も図書館見たいから……。その、区切りの良いところまで終わったら教えてくれる?」
「僕らはいつでも大丈夫だよ。ここで待ってるから、用事が終わったら来て」
「うん。わかった」
……とは言ったものの。
勉強の邪魔をするのに気が引けただけなんだけどな。
どうしよう。
少し、刀のことについて調べてみようかな。
鞘から上手く抜く方法を知りたい。
刀に関する本……。
「リリーシア様」
聞き慣れない声に振り返る。
「あ。ムラサメさん」
ムラサメさんが近づいてきて、急に頭を下げる。
「え?」
「先達ての非礼、これまで正式にお詫びもせずに申し訳ありませんでした」
えっと……。手を握られたことかな。
「びっくりしただけなので……。大丈夫です」
「聞けば夫を失くされたばかりだったとか。どうかご無礼をお許しください」
あれ?もしかして、エルが死んだと思ってる?
アヤスギさんは、エルのこと気にしてなかったみたいだけど……?
「あの、大丈夫です。……顔、上げて下さい」
ようやく、ムラサメさんが頭を上げる。
とても礼儀正しい人なのかな。
「この国の皇太子殿下に言い寄られてるという噂は本当ですか」
「えっ?その……」
もしかして、舞踏会で私がアレクさんと踊ったから?
マリーが言ってたみたいに、アレクさんが私を婚約者にしようとしてるって思われてる?
「違います」
エルもアレクさんも、そんなことしないよね。
「皇太子殿下はそんな人じゃないです」
「……そうでしたか。ですが、外出の際は気をつけた方がよろしいでしょう」
「どういうことですか?」
「あなたが将来の王妃になると思ってる輩から命を狙われかねません」
「え?」
……そっか。アレクさんの婚約者になるって、そういうことだよね。
もしかしたら、これからそういうことがあるかもしれない?
「ご忠告、ありがとうございます」
「それから、もう一つ。雪姫をお借りしてもよろしいでしょうか」
「はい」
背負っていた雪姫を渡す為に背中から降ろそうとすると、その途中で、ムラサメさんが向きを変える。
「?」
「左肩に背負われた方がよろしいでしょう」
「どうしてですか?」
リュヌリアンはいつも右肩に背負っているけれど。
ムラサメさんが私に自分の刀を見せる。
「この大陸の武具と違って、刀には鯉口が存在します。まず、この鯉口を切らなければ抜けません。鯉口を切る為には、左手の補助が必要になります」
そう言って、ムラサメさんが左手に鞘を持ち、右手で少し刀を抜く。
そういえば刀って、鞘にカチッと嵌るよね。
雪姫の柄を右手で握る。
左手で、左肩の鞘を掴むと、抜けた。
「後は、刃を上に向けた状態で鞘を肩に引っ掛け、刃のない方を肩にこすり付けるように抜くと良いでしょう」
ええと。
鞘を肩に引っ掛けて、このまま……。
急に、咳払いが聞こえる。
「ここは図書館ですから、抜刀はしないほうがよろしいのではないでしょうか」
「あ」
そうだった。
慌てて雪姫を戻して、鯉口を嵌める。
後で練習しよう。
「ありがとうございます。勉強になりました」
「いえ」
そういえば、ムラサメさん。剣術大会に出るんだよね。
「ムラサメさんは、どうして剣術大会に出るんですか?」
「アヤスギの刀の宣伝になると思っただけです。この国には刀の扱いに詳しいものは居ないようですから」
刀って、抜き方にも気をつけなきゃいけないみたいだから……。
「後は、二刀流の娘が居ると聞いていましたから」
二刀流の娘?
もしかして、ポリーのこと?
「ポリーは大陸を出るって言っていたので、剣術大会には出ないと思います」
「知り合いでしたか」
「私の姉です」
「……姉?」
あ。そろそろ戻らなきゃ。
「あの、色々ありがとうございました」
「いえ」
「勉強になりました。それでは」
「お気をつけて」
ムラサメさん。良い人なんだな。
ルイスとジニーのところに戻ると、二人はノートと本を片付けてお喋りをしてた。
「リリーシアさん」
「あれ?本を借りたかったんじゃないの?」
「大丈夫。知りたかったことはわかったから」
「刀の向き?」
やっぱり気づくよね。
「こう背負った方が良いみたい」
「そっか」
そういえば、ルイスは短剣しか持ち歩いてないよね。
成人してないから?
「それじゃあ、行きましょう」
「うん」
※
王立図書館を出て、ウエストにある製菓材料店を目指す。
「リリーシアさん、マカロンを作れるって本当ですか?」
「え?……まだ上手くは焼けないんだけど」
「教えてもらえませんか?」
「まだ誰かに教えられるほど上手に焼けないんだ」
もう少し試してみないとコツがつかめない。
「私、カミーユさんから教わったんだ。カミーユさんの方が上手いんじゃないかな」
「カミーユさん、いつも忙しいって付き合ってくれないんですよ」
錬金術研究所のエースって言われてるぐらいだから、忙しそうだよね。
あれ?でも今日、エルが一緒に出かけるって言ってたよね?……もしかして、研究に関係あること?エルの方がカミーユさんに付き合ってる?
「ジニー。マカロンは難しいみたいだよ。もっと簡単なのから挑戦してみたら?」
「リリーシアさんって、」
「リリーでいいよ」
「リリーさんって、何が得意なんですか?」
「え?」
得意なもの?
「えっと……。剣術なら得意かな?」
「リリーシア。お菓子の話しだからね」
「あの、えっと、」
「ルイスが言ってた通り。面白い人なんですね」
「本当にね。……ねぇ、リリーシア。僕らがどこ目指してるか気にならないの?」
「え?ウエストじゃないの?」
「見上げてごらん」
ルイスに言われて、お城を見上げる。
えっと……。お城の尖塔が左側に見えるから、今は王都の東側に居る。
まだイーストストリートにも出てないし、中央広場も通ってないから、セントラルの東側に居るはずだよね。
……あれ?なんで、こんなにお城が近いの?
ルイスとジニーが笑ってる。
「僕らは北に向かって歩いてたんだよ。ここをもう少し歩けば……。ほら、堀が見えてきた」
「本当だ」
ルイスが言う通り。城壁と、城壁を囲うように廻った堀が現れた。
「どこで気づくかと思ってたんだけどね」
「ジニーは気付いてたの?」
「この辺りには詳しいですから」
セントラルに住んでるのかな。
ってことは、貴族?
……養成所に通ってたってことは、どこかのお嬢様に違いないよね。
「あ、」
突然、風でジニーの帽子が飛ぶ。
煽られた帽子を、跳んで取ろうとしたけれど、届かない。
帽子はそのまま、堀に落ちてしまった。
「守備隊に頼んで取ってもらおうか」
「届くかも」
「え?」
背中に背負っていた雪姫を手に持って、浮かんでる帽子に向かってのばす。
「引き寄せられるだけ引き寄せてみます」
水が、私の近くに向かって波打つ。
水の魔法だよね。
ジニーの光は青いから、水の精霊と契約しているはずだ。
「届いた」
帽子を雪姫で手繰り寄せる。
そろそろ手でも届きそう。
雪姫をその場に置いて手を伸ばす。後、もう少しなんだけど……。
帽子に手が届きそう、と思った瞬間。
「あ」
落ちる。
「リリーシア!」
ルイスが私の手を引き、思い切り振り回された。
「え……」
手が離された反動で地面に吹き飛ばされた瞬間。
ジニーの悲鳴と、ルイスが堀に落ちる音が聞こえた。
慌てて堀に飛び込もうとする私をジニーが抑える。
「そんな恰好で飛びこんだら危険です」
「でも、」
浮かんでこない。
あぁ……。
どうしよう。
「ルイス!」
叫んだ瞬間。
堀の水のあちこちに、氷が浮かび始める。
「え……?」
「……っはぁ」
ルイスがようやく水面に顔を出し、近くに出来た氷に捕まる。
「何?これ……」
「誰か!魔法部隊を呼べ!」
上から声が聞こえる。
城壁の上に居た兵士が気づいてくれたみたいだ。
「誰の仕業?」
周囲を見回す。
氷の精霊なんて居ないよね?
エルとイリスなら、絶対ルイスを助けに来てくれるはずだから違う。
「このままじゃ、ルイスまで凍っちゃうんじゃ……」
浮かんだ氷は、徐々にその大きさを広げているけど、ルイスを凍らせようとはしていないみたいだ。
「ルイス、氷の上に登れる?」
ルイスが水の中から這い上がって、氷の上に乗る。
「氷が広がってく……」
ルイスの乗った氷も、他の氷と同様に大きくなって、水面を凍らせていく。
「ルイス、大丈夫?」
「風邪ひきそう」
言いながら、ルイスがジニーの帽子の側まで行って、帽子を取って頭に被る。
「帽子、回収したよ」
「もうっ。それどころじゃないよ、ルイス」
「すぐに魔法部隊が来るよ」
「ここまで来れる?」
「もう少し全体が凍ったら行けそうだね」
この堀、全部凍るの……?
全部凍らせる勢いで、氷は広がっているみたいだけど……。
一体誰が?
堀の端まで氷が広がって、ルイスが私の近くまで歩いて来る。
「滑らないの?」
「案外でこぼこしてるよ」
「掴まって」
ルイスの手を取って、ルイスを掘りの上に引っ張り上げる。
「ありがとう」
「良かったぁ……」
本当に良かった……。
そうだ、マント。
持っていた荷物から自分のマントを出して、ルイスにかける。
「ごめんね、ルイス」
「大丈夫。リリーシアが水に落ちなくて良かった」
「私、泳げるし平気だよ」
「せっかく可愛い服着てるのに。もう少し女の子らしく守られたら良いと思うよ」
「……ルイス」
ばたばたと足音がして振り返ると、レティシアさんたち魔法部隊が走って来た。
「無事か」
「はい、大丈夫です」
「掘りを凍らせたのは誰だ」
「……わかりません」
ルイスもジニーも首を傾げる。
レティシアさんが周囲を見回す。
「ルイスが堀に落ちて、周囲が凍りだしたという話しだったな」
「ルイス、私の帽子を取ろうとして……」
ルイスが大きなくしゃみをする。
「風邪を引く。一先ず、服を乾かして来い」
「シャルロのところに行こうか」
「リリーさん、ルイスをお願いします。一通り説明したら私も行きます」
「うん、わかった」
堀を凍らせるなんて、誰がやったんだろう。
近くには誰も居なさそうだったけど、魔法って遠くからでも使えるはずだからわからない。
※
「いらっしゃいませ」
「ごめんね、カーリー。着替えさせてもらって良い?」
「あら、まぁ……。濡れたお召し物はすぐに脱がれた方がよろしいでしょう」
カーリーさんがメイドを呼ぶ。
「リリーシア様を書斎へ」
「はい」
カーリーさんがルイスを連れて行くのを見送ると、メイドさんが私を書斎へ案内する。
「リリーシア様をお連れいたしました」
「どうぞ」
メイドさんが扉を開いて、書斎に通される。
「何の用だ?」
「あの……。ルイスが堀に落ちちゃって」
「ルイスが?無事なのか」
「大丈夫です。溺れたわけじゃないから」
「そうか」
シャルロさんが暖炉に向かって炎の魔法を使う。
ルイスの為につけてくれたのかな。
「王都に氷の魔法使いって居ますか?」
「氷?……エルじゃないのか」
エルが氷の魔法使えること知ってるのかな。
「エルなら、堀を氷漬けにするなんてしないと思う」
「氷漬け?」
「ルイスが落ちた時、堀が凍ったの」
「……エルではなさそうだな。この辺りには氷の精霊は居ないはずだ。王都に氷の魔法使いが居るかどうかは、リリーシアの方が詳しいだろう」
魔法使いかどうかも、どんな精霊と契約しているかもだいたいわかるけど……。
「氷の魔法使いなんて見たことないですけど……」
ただ、氷の精霊は水色で、水の精霊は青。複数の精霊と契約していると色が混ざるから、私が見たものがそのまま精霊の光だとは言い切れない。
「氷か……」
ノックが二回あって、扉が開く。
「お邪魔します、シャルロさん」
「ジニー」
「ジニーか」
あれ?
「知り合い?」
「親戚です」
「親戚?」
「ジニーはノイシュヴァイン家の令嬢だ。あそこはシュヴァイン家の本家だからな。付き合いがある」
「えっ。そうなの?」
ノイシュヴァインって、オルロワール家と並ぶ名家だよね?
「でも私、正妻の娘じゃないですから」
「ジニー。嫡子として迎えられているんだから、その言い方はやめるように言ってるだろう」
「だって、事実じゃないですか」
「嫡子として迎えられている以上、法律上の権限は、正妻の子供と同じだ」
「気分が違います」
「まだ成人もしてない子供なんだから、伯爵を困らせるような発言を繰り返すな。家を出るまでは我慢しろ」
「むぅ」
ノックの音がして、カーリーさんが入ってくる。
「ジニー様。お久しぶりです」
「カーリー。久しぶり。今日のコーヒーは何?」
「本日は温かいココアをお持ちいたしましたよ」
「美味しそう」
カーリーさんがテーブルにお菓子とココアを並べる。
ジニーがソファーに座ってココアを飲む。
「そうだ、私、お菓子を作って来たんです」
「お菓子?」
「出すな」
「どうしてですか?」
「自分で食べたか?」
「食べません」
「味見をしないものを人に出すなと言ってるだろ」
「自信作です」
えっと……?
ノックがあって、今度は毛布をかぶったルイスが入ってくる。
「ルイス様、お風呂の御準備は……」
「断って来た。シャワーを浴びれば十分だよ」
「では、何か温かいものをご用意いたしますね」
カーリーさんが出て行く。
「ルイス、こっちに座れ」
シャルロさんが暖炉のそばに椅子を置き、ルイスがその椅子に座る。
「ココア飲む?」
まだ手をつけていないココアをルイスに渡す。
「ありがとう」
「ルイス。その手はどうした」
「ちょっと火傷をしただけ」
「見せてみろ」
シャルロさんがルイスの右手の甲を見る。
思ったより酷い傷だ。
「薬品の火傷か?ジニーに治してもらえば良いだろう」
「治そうか?ルイス」
「平気だよ。薬の効能を試す実験にもなるから良いんだ」
「そんなことばっかり」
「エルが聞いたら怒るぞ」
確かに、怒りそう。
「シャルロ、エルに会ったの?」
「この前来た」
「エルって、そんなに出歩いてるの?」
「さぁな。変装していれば出歩いても問題ないだろう」
そうかな……。
「リリーシアもこの前会ったんだよね?」
「この前は、マントを羽織ってるだけだったけど……」
「何だって?……あの馬鹿。そんなのは変装と言わない」
シャルロさんのところに来た時はちゃんと変装してたのかな?
変装したエル、見てみたいな。
たぶん、エルは金色の光を持っているから、どんな恰好をしてても見間違えることはないと思うんだけど。
「ルイス、お菓子食べない?」
「あぁ。図書館でも言ってたね」
図書館内は、ロビー以外での食事は禁止だ。
「今日は何を入れたの?」
「春菊」
「え?」
春菊?
言いながら、ジニーがお菓子の包みをルイスに渡す。
シャルロさんが頭を抱えてる。
「ジニー……」
「後は、里芋と、しめじを入れてみました」
里芋?
しめじ?
「あの、お菓子なんだよね?」
「野菜のお菓子に凝ってるんです」
ルイスがジニーのお菓子を食べる。
「また砂糖入れ忘れたの?」
「あ!そうかも」
えっ。
「きのこは合わないから入れないでって言ったよね?」
「そうかなぁ」
「春菊はもう少し細かく切った方が良いかな。里芋は潰して練り込んでるの?」
「うん」
「これ、砂糖入れなくて正解かもね」
「甘くなきゃ、お菓子じゃないよ」
えっと……?
今の、お菓子の話しだった?
「感想はそんなところ。あぁ、チーズも入れたら良いんじゃないかな」
「ありがとう」
本当にお菓子?
「ルイス、無理しなくて良いぞ」
「せっかく作ってくれたんだから食べるよ」
「あのね、ジニー、」
「なんですか?」
「カボチャとかサツマイモで作ってみたらどうかな」
甘みのあるものの方が、きっとお菓子に向いてる。
「美味しそうですね。でも、秋の味覚と言えばきのこですよ」
きのこか……。
「それなら、トリュフとかどうかな」
「面白そうですね。試してみます」
面白そう?
「シャルロさんも食べて下さい」
「俺は要らない。ルイス、生焼けじゃないだろうな」
「今日はちゃんと火が通ってるよ」
今日は?
―お前、ジニーの作ったもの食って平気なのか。
そういえば、カミーユさんが言ってたっけ……。
「もう少しまともなものを作れないのか」
「食べてから言ってください」
「もう少し食べたくなるようなものを作れ」
「作ってますよ。そうだ、リリーさん、」
「リリーシア。マリーたちと約束があるんじゃなかった?」
「あ」
そうだ。
「私、マリーの家に行かなくちゃ」
「送らなくても平気?」
「大丈夫」
マリーの家には、何度も行っているから。
「ルイスは大丈夫?」
「大丈夫だよ」
ルイスの頬に触れる。体は温まってきたみたい。
「風邪ひかない?」
「心配しなくても大丈夫だよ。自分のことぐらい自分でわかるから」
シャルロさんも居るし、大丈夫かな。
「うん。それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」




