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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
21/149

19 落としどころ

 何か音が鳴って、目を開く。

 エル……?

 エルがクローゼットの方で着替えてる。

 クローゼットの開く音だったらしい。

 着替えたエルが扉の方に行って、扉を開く。

「おはようございます」

 えっ?誰?

「おはよう、ライーザ。……可愛いな」

 ……誰にでも言うんだから。

「こちらのサービスも致しましょうか」

「いや、自分でやるよ」

 がたがたと、何かを運ぶ音。

 ライーザさん。誰かな。会ったことない人だよね。

「リリーシア様が昨日着ていらっしゃった服は、後日送らせていただきます。黒炎は西大門の厩舎に預けておりますので、そちらからご出発ください」

 厩舎?出発?

 どこか遠くに出かけるの?

「わかった」

「では、失礼いたします」

 扉の閉まる音が聞こえて、エルが来る。

「起きてたのか」

「……うん」

「今日はこれを着て」

「え?」

 可愛い黒い服。

 これ、クロエが作った服だよね。

「あの、えっと……」

 ライーザさんって、聞いても良いのかな。

「リリーが昨日着てた服はないぜ。後で家に届けるらしいから」

「あの、可愛いって、」

「この服も可愛いからリリーに似合うよ。着てくれるだろ?」

 あれ?

 ……もしかして、可愛いって、服のこと?

「ほら、早く着替えて朝食にしようぜ」

「うん」

 エルから服を受け取って着替える。

 今日のは柔らかい素材だ。着心地が良さそう。

 黒いレースのリボンに黒い花がついた髪飾りが二つ。これも作ってくれたのかな。

 鏡のある場所に行って髪を結んで、飾りをつける。

 可愛い。

 それから、腰に短剣をつける。

 あ。この服も腰にリボンがついてるんだ。

 後ろのリボンを結ぶのは苦手……。

 エルが私の後ろに立つ。

「結んでやろうか?」

「うん」

 その結び方も凄く可愛い。

「ありがとう」

 振り返ると、エルと目が合う。

「可愛い」

 ……その笑顔は、ずるい。

 本当に、好きなの……。

「朝食の準備が出来たぜ」

「うん」

 テーブルの上には湯気の上がったポタージュ、サラダとオムレツに、パンを入れたバスケットが並んでる。エルが準備してくれたのかな。

 エルが引いた椅子に座る。

 良い匂い。

 向かいにエルが座った。

「美味しそう」

「デザートもあるぜ」

「楽しみ。いただきます」

「いただきます」

 切り分けられたバゲットを取って、ジャムを塗る。

 そういえば、今日ってヴィエルジュの八日だ。

 お休みだけど……。

「エルは今日、お休みなの?」

「いや。出かけるよ」

「そっか」

 どこに行くかは教えてくれないのかな。

「王都を出る」

「ドラゴンが見つかったの?」

「見つかってないよ。別件。カミーユと行ってくる。十五日までには帰る予定」

「良かった」

 十五日、帰って来てくれるんだ。

「栗のケーキ、頑張って作るね」

「あぁ。楽しみにしてる」

「今日はね、ルイスとジニーと一緒に製菓材料店に行って、午後からマリーたちと遊ぶの」

 それから、マントを返さなきゃ。

「忙しいな」

「エル、金髪碧眼の剣士の女の人、知ってる?」

「そんなのどこにでも居るぞ」

 ラングリオンは、女の剣士も珍しくないよね。

「綺麗な髪だったんだけど……」

 あんまり良く見てないから、他の特徴は思い浮かばない。

「アレクさんの部下だって」

「部下?」

 知ってるかな?

「アレクさんの剣を持ってたんだ。近衛騎士じゃないみたい。セリーヌが、アレクさんの剣術大会の名代じゃないかって言ってたんだけど」

「それだけじゃ、誰のことかわからないな」

「そっか」

 アルベールさんなら知ってるかな。

「それより。昨日、どうやってここに侵入したんだ?」

「えっと……。アレクさんの精霊が案内してくれたの」

「皇太子の棟まで来れたとして。塔に登ったのか?」

「うん」

「どうやって?」

「え?……普通に、壁をよじ登っただけだけど」

 あれ?

「命綱は?」

「えっと……」

 怒ってる?

「なんでそう、危ないことばっかりするんだ。……っていうか、アレクの奴」

 怒ってる。そんなに危ないことはしてないと思うんだけど。

「あの、アレクさんはロープを用意してくれるって言ってくれたし、私が登ってる間、見ててくれたみたいなんだけど、」

「そういう問題じゃない」

「えっと……、ごめんなさい」

 危なくないように気を配ってもらったし、落ちても受け身をしっかり取れば怪我はしないと思うんだけど。

「謝るなら、俺が王都に居ない間ぐらいは大人しくしてて」

「ちゃんと大人しく王都に居るよ?」

 エルが王都に居るってわかってるし、すぐに帰って来るってわかってるのに。

 どこかに行く理由なんてない。

「危ないことはしないでくれ」

「しないよ」

 心配し過ぎだよ。

「本当に?」

「……うん」

 そこまで確認されると……。

 でも、大丈夫だと思う。

 エルが居ない間に、ちゃんと頼まれたこともやってるし。

「短刀、アヤスギさんに見せに行ってきたよ」

 まだ終わってないけど、報告できることはある。

「あれはルミエールの作品で、千年ぐらい前のものみたい」

「……は?」

 びっくりするよね。

「えっと、ルミエール、リグニス、アルディア」

 有名な、剣の名工。

「この三人は、千年ぐらい前に居た有名な職人さんで、それぞれが独特の技術を持った人たちなんだって。そして、その技術は名前と共に弟子に継承されているらしいんだ。私の師匠が何代目か知らないけれど、ルミエールの剣の特徴は両刃の曲刀で、剣に光を当てると虹色の輝きが出るってアヤスギさんが言ってたよ」

 師匠がそこまですごい人だなんて知らなかったけれど。

「ルミエールの本名は?」

「本名?」

 聞いたことないな。

「うーん。みんな、ルミエールって呼んでいるし。アヤスギさんから聞くまで師匠の本名だと思ってたから」

 師匠が技術を受け継いだのっていつなんだろう。きっと、私が生まれる前の話しだよね。じゃあ、師匠の師匠もあそこに居たのかな?

「アヤスギさんが詳しい年代の調査をしてくれるって言っていたから、お願いしておいたよ。調査が終わったら家に届けてくれるって。……それから、出所を出すのは難しいって言ってたよ。一度も使われずに大事に保管されていたってことしかわからないって」

「一度も使われてない?」

「うん」

「そんなこともわかるのか」

「わかるみたい。作られた時のままの状態で、誰かを斬ったこともないし、鍛冶屋の手入れもされてないって」

 えっと……。後、エルに言っておくこと。

「アレクさんの刀も頼んだけど、時間がかかりそうだって」

「どうせ急がないから大丈夫だ」

 良かった。アヤスギさんにもそう言っておこう。

 これで全部かな。

 ……そういえば。今日の夢。

「あのね、エル」

「ん?」

「私の髪、切って欲しい?」

「え?切るのか?」

「えっと……。エルは、どう思ってるのかと思って」

「好きにすれば良いだろ」

「……」

 夢では、切ってって言ったり、大切にしてって言ったりしたのに。

 ……夢だけど。

『エル、それはないんじゃない?』

『怒らせたな』

 怒ってない。

『リリー、髪を切りたいの?』

「……そうじゃないけど」

「だったらなんでそんなこと聞くんだよ。髪の長さなんて他人にどうこう言われることじゃないだろ」

 ひどい。

『エルはぁ、長いのと短いのどっちが好きなのぉ?』

「別に長さにこだわりなんてない」

『ばっさり切っちゃっても良いってことぉ?』

「髪なんてどうせすぐのびるだろ」

「わかった」

 エルが私の髪に、興味がないことが。

『エル、せめて今の長さに対する感想ぐらい言ったらどう?』

「リリーらしいと思うよ」

 それだけ?

「短く切っても可愛いだろうし。今のまま長いのもすごく良い」

「エルの、ばか」

 聞きたかったのは、それなのに。

 私が髪を切っても切らなくてもエルは気にしないみたいだ。

 夢なんてそんなものだよね。

 エルが倒れたのだって。ただの夢だ。

「そろそろデザートを準備するか?」

 頷く。

 どうしようかな。

 髪を切るなんて、今まで考えたこともなかったけど。

 でも、魔法使いの人って、精霊との契約に簡単に髪を差し出すよね。

 マリーもそうだった。

 あんまり髪に対してこだわりがないのはそのせいかもしれない。

 エルが、私の前にお皿を出す。

「プリン?」

 平たい皿に?

「ちょっと待ってて」

 エルがプリンの上に砂糖をかける。

 あ、これ……。

 エルが炎の魔法で、砂糖を燃やす。

「わぁ」

 目の前で炎が上がる。

 砂糖が焦げる匂い。

 そして、炎が消える。

「これ、このまま急速冷却しても大丈夫か?」

「大丈夫だと思うよ」

「ん。じゃあ」

 エルが魔法でプリンの表面を冷やす。

 あっという間に固まって、完成。

「どうぞ」

 綺麗なカラメル層に覆われた、クレームブリュレ。

「美味しそう。ありがとう」

 カラメル層を叩いて割るのがすごく楽しい。

 結構厚い。

 あ。割れた。

 カラメル層と一緒に、プリンを食べる。

「美味しい」

 食後のコーヒーを飲みながら、エルが微笑む。

 幸せ。

 


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