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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
20/149

18 潜入調査

 二つに分けた髪を三つ編みにして、お団子を二つ作る。

 それから、暗い灰色の動きやすい服装。

 皮の手袋に、滑りにくい皮の靴。

『今日行くことにしたのか』

「うん。アレクさんの宝物塔を見て、アレクさんの好きそうなの武器を調べなくちゃいけないし」

『そんな理由かよ。っていうか、黒にしなくて良いのか?服』

「一番ばれそうなのって、壁を登ってる時だから。この服が一番、壁の色に近いと思う」

 上にフード付きのマントを羽織る。

『マントは黒か』

「移動中はこれで大丈夫だと思う」

 フードを被る。

 余計なものは持っていけない。

 短剣だけ一応持って行こうかな。


 部屋を出て、階段を下りる。

「出かけるの?リリーシア」

「うん。今日は帰らないかも」

 夜間は城門が閉まっちゃうから、きっと家に帰れない。

「リリー、夕飯出来たわよ」

 台所から声が聞こえる。

 キャロルにお願いして、早めに作ってもらったのだ。

「ありがとう、キャロル」

「どこに行くの?」

「お城だよ」

「そんな恰好で?」

「うん。ちょっと頼まれたことがあって」

 ルイスと一緒に台所に入る。

「わぁ、美味しそう」

 パイ包みだ。

「今日は白身魚ときのこのパイ包みよ」

 椅子に座って、焼き立てのパイをスプーンで突く。

 中から湯気と共にきのこの良い香りが広がる。

「良い匂い」

「秋は美味しいものがたくさん出てくるからね」

 美味しい。

 そうだ。

「あのね、明日のことなんだけど……」

「用事があるならいいよ」

「大丈夫。ジニーとはどこで待ち合わせなの?まっすぐ行くよ」

「迷子にならない?」

「えっと……」

 場所によるかな?

「王立図書館だよ」

「それなら大丈夫。なるべく早く行くね。……あ、それから、午後なんだけど、マリーの家のランチに誘われたの」

「じゃあ、ランチまでに買い物を終わらせておかないとね。何が欲しいの?リリーシアが来れなかったら、買っておくよ」

「マカロンに入れる着色料。カミーユさんが、ウエストの製菓材料店なら良いのが売ってるって言ってたから」

「わかった。着色料なら錬金術にも使えるし、適当に買っておくよ」

「うん」

 たぶん、行けると思うんだけど……。

「ねぇ、リリー。林檎をたくさん買ったの。今度、アップルパイの作り方を教えてくれる?」

「うん。良いよ」

 キャロルと料理をするのは楽しいから、楽しみ。

 そうだ。

 ルイスとキャロルの誕生日ケーキ、どういうのにしようかな。

 ヴィエルジュの十五日はキャロルの誕生日。

 栗って市場にもう売ってるのかな。

 ……エル、十五日に帰って来るよね?


 ※


 剣花の紋章を見せて城門を通り、右側の庭に入る。

 そして、カートに案内された場所で夜を待つ。


 陽が落ちて、堀にかかっている橋を上げる音が聞こえる。

 これで城門が閉まった。

 閉じた直後は人の動きが多いだろう。

 兵士が自分の持ち場について、夜間の警備態勢が整ってから動こう。


 周囲の音を聞く。

 静かになった。

「カート、行こう」

『了解』

 呼吸をひそめる。

 空には半月。

 月明かりの下に出ないように。カートの後を追う。

『俺の魔法で姿を隠せば楽なんだけどな』

 闇の魔法って、確か暗闇に紛れることが出来るんだよね。

『それじゃ意味ないって言われてるんだよな』

 今さらだけど。

 アレクさん、なんで私にこんなこと頼んだのかな。

 あ。兵士が居る。

 茂みに隠れて、兵士が通り過ぎるのを待つ。

 昼間にアレクさんと一緒に来た時よりも人数が多そう。……当たり前か。

 茂みから顔を出して辺りを伺う。

 どうしようかな……。あっち側から行こうかな。

 でも、アレクさんがおすすめって言ってたルートの方が安全なんだよね?

 さっきの兵士が戻って来るのが見えて、茂みの陰に隠れる。

 足音が通り過ぎる。

 この兵士は、定期的に行ったり来たりしてるのかな。

 もう一度通り過ぎたら、先に進もう。

 ドキドキする。

 小さく、深呼吸。

 ……もう一度、通り過ぎる音が聞こえる。

 兵士が歩き去るのを見送って、足音を立てないように茂みから出る。そして、カートの後を追う。

 見つかりませんように。

 隠れられそうな場所を横目で探しながら、進む。

 兵士の動きを確認しながら、慎重に。


 あの兵士は……?

 近くの木陰に隠れて様子を伺う。

 あの兵士、動かないのかな。

『あそこから先が王族の居住区だぜ』

 じゃあ、アレクさんが止まれって声をかけられた場所だよね。

 逆に、ここは絶対通らなければいけない場所なんだろう。

 どうしようかな……。

 何か物音を立てて陽動でもする?

 だめ。そんなことをして周囲の兵士が集まってきたら、余計に身動きが取れなくなってしまう。

 周囲を見回す。

 あ。

 上から行けるかも。

 この木を登って、向こうの木に飛び移れば。

 音を立てないで行けるかは分からないけれど……。

 やってみよう。

 目の前の木に足をかけてよじ登る。

 大きな木。

 枝もしっかりしてる。

 手近な細い枝を一本折って、遠くの木に向かって投げる。

 枝が木の葉に当たって、がさがさと音がする。

 下に居た兵士が音に気付いて顔を上げ、音が鳴った木の方を見て、周囲を見回す。

 もう一回。

 細い枝を折って、同じ木の方に向かって投げる。

 もう一度木の方を見たが、今度はそれほど警戒はしなかったようだ。

 何か小動物が紛れ込んでいるとでも思ったのだろう。

 持ち場を離れる理由がない限りは離れないのかな。

 もう一回、細い枝を遠くの木の方に向かって投げる。

 そして、飛び移れそうな木に飛び移る。

 下を見たけれど、兵士はこちらを見てはいない。向こうの木を見てる。

 もう一つ、行ける。

 続けて隣の木に飛び移って、死角になる場所に自分の体を隠す。

 思ったより、大きな音はならなかったと思う。小枝を投げた木の方が、がさがさと大きな音を立てたんじゃないかな。

 呼吸を整えて、下を見る。

 ……良かった。ばれてないよね。

 音をたてないように木から降りる。

 さっきの兵士はこちらに背を向けている。

 茂みを利用しながら、カートの後に続く。

『木の上から飛び移るなんて芸当、良くできたな』

 それしか方法が思いつかなかっただけだ。

『アレクはあの兵士が向きを変えると同時に近づいて、向きを変えるのに合わせて移動して侵入してたぜ』

「え?気づかれないの?」

『気づかないみたいだな。言っとくけど、闇の魔法は使ってないからな』

 そうなんだ。

『面白かったぜー、あの光景』

 あの兵士、定期的に向きを変えるんだ。

 もっとちゃんと観察すれば良かった。

 木から降りたところを見られてたら大変だ。

 アレクさん、本当になんでも出来る人だな。

「っていうか、私と同じことやったの?」

『そうだよ。俺はその時と同じルートを案内してるだけだぜ』

 それって、私に協力を頼んだ意味あるのかな。


 ※


 無事に、皇太子の棟まで到着。

 マントを脱いで、仕舞う。

『それ、エルが作ったやつか』

「うん」

 なんて言ってたかな。アイテム袋。

 布なら小さく収納できる優れものだ。

 中から服と同じ色の帽子を出して被る。

 ここからは壁昇り。

 今度は落ちないようにしなくちゃ。

 壁に手をかける。

 ……アレクさんが一度登ってるんだよね、ここ。

 なら、私も登れるはず。

『気をつけろよ』

「うん」


 一歩一歩、気をつけて登る。

 案外、登りやすいかもしれない。


『アレクだ』

 見たいけど。

 振り返れない。

「城壁の兵士、こっち見てないかな」

『見てないぜ。あいつらは城壁の外の方が警戒しなくちゃいけないからな』

 そっか……。


 よし。登り切った。

 傾斜している屋根部分から顔を出して、近衛騎士が居るはずのベランダを見る。

 ここからも良く見える場所。

 青いマントってことは、青藍のレンシールさんだよね。

 椅子に座って読書中みたいだけど。

 近衛騎士って、どれぐらい警戒してるのかな。

 屋根の上に転がっている小石を掴んで、投げる。

 小石が屋根に落ちて転がった瞬間。近衛騎士がこちらを見る。

 慌てて、顔を引っ込める。

 ……気づかれた?

『出て来るなよ、リリー』

 頷く。

『まだこっちを見てる』

 どうしよう。

 こんな小さな物音にも気づくの?

 だったら、近衛騎士の視界には入れない。

 屋根を通って北側に回るのって、難しいんじゃないかな……。

 私、アレクさんみたいに気配を消して移動するなんてできない。

 ……侵入ルートは、あと一つ。

 東の窓。

 城壁に居る兵士は二人。ここからも見える。

『おい、どこ行くんだよ』

「東の窓から入る」

 北は無理だ。

『本気か?遠回りだし、落ちたらやばいだろ』

「近衛騎士の前は通れないよ。城壁の兵士が警戒してるのって外がメインなんだよね?だったら大丈夫」

 塔の三階のへりに足をかけて、煉瓦を掴みながら進む。

『気を抜くなよ』

 大丈夫。

 足をかけるところは安定してるから。

 宝物塔の外周を回りながら、東の窓へ向かう。

 兵士の方を見てる余裕なんてない。

 どうか、見つかりませんように。

『もうすぐ窓に着く』

 ……あった、東の窓。

 落ちついて、近くまで行って。

 窓の中に体を滑り込ませる。


 大きく、息を吐く。


「着いた……」

『お疲れ様』

「ありがとう、カート。たくさん助けてくれて」

『ホント、冷や冷やしたぜ。落ちなくて本当に良かったよ』

「ごめんね、心配かけて」

『ほら、ゴールはまだ先だ。行くぜ』

「あ、ちょっと待って」

 ここ、アレクさんの武器を保管してある場所だよね。

 周囲を眺める。

 色んな武器が、丁寧に飾られてる。

 あれ?この前、エルが家に帰って来た時に持ってた剣も置いてある。

 エル、今は違う剣を持ってるのかな。

 ……っていうか。直剣が多い?

 反りがある剣がないよね?ここ。

 騎士が持つ一般的なロングソードと……。

 レイピアもある。すごく装飾が綺麗だ。こういうガードの形は見たことがない。

 これはフランベルジュだ。これも一応、直剣に入るよね?

 クレイモア。長さも理想的。使ってみたい。

 短剣は反りがあるのも結構あるな……。

『おい、リリー。いつまで眺めてるんだ』

「あ、ごめん」

 えっと……。

 直剣が好きみたい。でも、刀が欲しいんだよね?どういう意図があるのかな……。

 刀がどういうものか詳しく知らない?

 でも、これだけ剣を集めてるなら、詳しいはずだよね?

『こら。置いてくぞ』

「待って、カート」

 行こう。

 扉を静かに開く。

 円形の外周に反って、螺旋階段になっているみたいだ。

 足音を立てないように気をつけて、下に降りる。

 明り取りの隙間から漏れる光が階段を照らしてる。

 ぐるぐる回ってるから、今どの辺に居るかわからないな。

 階段を降り切ったところで、扉が見える。

 あれ……?扉が一つしかない?

 こっちで良いのかな。

 扉を静かに開く。

 ここは……。

 扉を、開ききったところで。

「!」

 首元に、剣が突きつけられる。

「リリーシアか」

 相手が剣を降ろす。

「あの……。レンシールさん?」

「皇太子近衛騎士。青藍のレンシール」

 そう言って、レンシールさんが頭を下げる。

「会うの、二回目ですよね」

「舞踏会で一度会っている」

「……はい」

 後ろで、扉の開く音がする。

「こんばんは、リリーシア」

「アレクさん」

 あれ?あっちに扉なんてあったっけ?

『アレク、これで良かったのか?』

「私の部屋に続く扉は、見えないように魔法がかけてあるんだ。きっと、こっちの扉を開くと思っていたよ」

「主君。彼女はどこからここへ?」

「もちろん、侵入者と同じルートを使って来たんだよ」

「実験をさせたということですか」

「そんなところかな。明日、みんなびっくりするだろうね」

「あの……。何の話しですか?」

「今日はもう休むと良い。シール、アニエスがまだ起きているはずだから、彼女に頼んでくれるかい」

「はい」

「それじゃあ、リリーシア。ゆっくりお休み」

「え?……はい」

『じゃあな、リリー』

「あ……。ありがとう。またね」

『返事するなって言ってるだろー』

「うん」

『楽しかったぜ』

 手を振るカートに、手を振り返す。

 カートはアレクさんと一緒に行ってしまった。

 これでお別れになっちゃうのか。

 ……ちょっと寂しい。

「ついて来い」

 レンシールさんの後に続いて、宝物塔を出る。

 渡り廊下から見える月は、とても綺麗だ。

「あの、レンシールさん。実験ってなんですか?」

「何故、ここへ?」

「えっと……。アレクさん、夜に自分の部屋に来いって言ってたから……」

「皇太子の棟に侵入した者が居る、という噂は知っているか?」

「知りません」

「侵入者が居たんだ。主君は侵入者の侵入ルートの検証を行うと言っていた。リリーシアはその検証に協力したということだろう」

 そうなのかな。アレクさんがすでにルートを絞り出していたみたいだけど。

 でも、アレクさんの力があれば余裕過ぎるから、私に依頼した?

「協力に感謝する。これで侵入者のルートが判明するだろう」

 レンシールさんが橋を渡った先にある部屋の一室をノックすると、中からメイドさんが出てきた。

 この人がアニエスさん?

「彼女を頼む」

「はい」

 レンシールさんはそう言うと、ベランダに戻る。

「アニエスと申します」

 アニエスさんがスカートを軽く上げて礼をする。

「リリーシア様、こちらへ」

 アニエスさんが私を案内する。

 廊下の突き当りには扉がある。そこから外に出るのかと思ったら、アニエスさんは扉の横の部屋を開いた。

 薄暗い部屋にアニエスさんが灯りをともす。

「今日はこちらでお休みください。何かお食事をお持ちしましょうか」

「大丈夫です」

「シャワー室はそちらにございます」

 アニエスさんが示した方に、扉がある。

 シャワーも完備されてる部屋なんて。ここにある部屋って全部そうなのかな。

 アニエスさんが棚を開いてタオルを出す。

「タオルはこちらにございますのでご自由にお使いください。寝間着をご用意いたします。他に御入用なものはございますか」

「大丈夫です」

「では、少々お待ちください」

「はい」

 アニエスさんが頭を下げて出て行く。

 

 ※

 

 シャワーを浴びて出ると、テーブルの上に紅茶が準備されていた。

 良い香り。

 椅子にかかっていた寝間着を着る。

 あれ?私が脱いだ服がない。もしかして、アニエスさんが持って行っちゃったのかな。

 着替え、持って来るんだったな。

 椅子に座って紅茶を飲む。

 ……落ち着く。

 ずっと緊張してたから。

 疲れたかも。

 髪、ちゃんと乾かさなきゃ……。

 

 うつらうつらした状態で、ベッドに行く。

 サイドテーブルに私のリボンと短剣、荷物が置いてある。

 ……眠い。

 着替えは明日、聞こう。

 布団にもぐって、枕を抱く。

 エルって今、どこに居るのかな。

 聞きそびれちゃった……。


 ※


 いつも使っている櫛で、髪を梳かす。

 ……あれ?梳かしてるのは私じゃない。

 エル?

「髪、伸びたな」

「うん。ずっと伸ばしてるから」

 いつから伸ばしてるんだっけ。忘れちゃったな。

 あぁ。女王の娘になった時。

 あの時、短くばっさり斬ってから、手入れをしながら、ずっと伸ばしてるんだ。

「切って」

「え?」

 エルが私の髪を持ち上げる。

 そして、短剣を手に取る。

 その短剣は、カーネリアン?

「待って」

 エルが髪をおろす。

「大切にして」

 さっきと言ってることが違う。

「エル、」

 血の付いた口で、エルが目を閉じて……。

 倒れた。

 エル……?

 身動きが、取れない。

 何が起こってるの?

「エル、」

 腕を伸ばそうとするのに、届かなくて。

 視界がかすむ。

 エル、目を覚まして。

 お願い。

 エル。


「エル!」


 ぼんやりとしたランプの灯りが、部屋を照らす。

 見覚えのない……。

 いや。見覚えはある。

 だって、私はアニエスさんに案内されてここに来たのだ。

 ってことは。

 今の、夢?

 ……夢だよね。

 だって、色々変だった。

 嫌な夢だったな。

「?」

 水の音が聞こえる?

 誰かシャワーを使ってる?

 

 水の音が止む。

 

 扉が開閉する音が聞こえる。

 シャワー室から誰か出て来た。

 足音が、近づいてくる。

 見慣れた金色の光が見える。

 え?

「あの……。ここって、エルの部屋なの?」

「知らなかったのか?」

「この部屋で休んでって、アニエスさんに言われたから……」

 エルの部屋だったなんて、知らなかった。

 ……でも、良く考えたら、そうだよね。

 アニエスさんが私を誰かの部屋に案内するなら、エルしか居ない。

 


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