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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
19/149

17 恒例行事

 王立魔法研究所。

 いつも、ランチの待ち合わせは魔法研究所のロビーのベンチ。

『おー。流石魔法研究所。精霊がたくさん居るな』

「うん」

『だから、俺に話しかけるなって何度言ったらわかるんだよ』

「こんなにお喋りなのに、話しかけるなって言う方が無理なんじゃないかな」

『アレクは反応がないからつまんないんだよ。リリーは反応があって面白い』

 それ。本当は構って欲しいって聞こえるんだけど。

「リリー」

「セリーヌ」

「二人はまだなの?」

「うん」

 セリーヌが隣に座る。

「色んなバリエーションがあるのね、この黒い服」

「うん」

 今日は昨日着ていたのと違う服だから。

「誰のデザインなの?」

「えっと……」

―クロエのことは御内密に。

「秘密?」

「秘密なの?結構、みんな気にしてるのよね、この服」

「え?そうなの?」

「だって、こんなデザインの衣装見たことないもの。リリーはただでさえ王都で目立ってるのよ。リリーが、どこにも売ってない服を着ていれば目立つわよ」

 そうなのかな……。

「それに、その腰に下げてる武器。これだけフリルの多いワンピースを着て、武器を持って歩いてる子なんてそうそう居ないんじゃないかしら?」

『本当にな。得物持ってないと落ち着かないのかよ。お前』

 ひどい。

 カートって、どうしてそんなに口が悪いの。

「日傘の方がよっぽど似合いそうよ」

「日傘じゃ戦えないよ」

『本当におもしれーな』

「戦う気なの?」

「えっと……」

「リリー、セリーヌ」

「やっほぉ」

 マリーとユリアが来る。

「可愛いねぇ」

 ユリアが私に抱き着く。

「これが噂の喪服なのね」

「そんなに有名?」

「注目の的だよぉ」

 外で着たのって昨日と今日だけなのに。

 でも、中央広場やサウスストリートを歩いていれば、人目に触れることは多いのかも。


 四人で魔法研究所を出る。

「リリー、明日は暇?」

 明日って、八日だよね。お休みの日。

「ルイスとジニーと一緒に、ウエストの製菓材料店に行く予定だよ」

「リリーと遊ぼうと思ってたんだけどなぁ」

「午前か午後、どっちも空かなそう?」

「ルイスに聞いてみないとわからないかな」

「ジニーとデートなら、どうせ朝からよ。ランチの時間から私たちと一緒に遊びましょう」

「えっと……」

「大丈夫よ。私からジニーに言っておくわ」

 勝手に決めちゃって良いのかな。

「今日はパスタの気分ね」

「良いわね」

「カルボにしよぉっと」

「リリーもパスタで良い?」

「うん」

 いつものお店かな。

 四人でしばらく歩いていると、急に目の前にブーケを持った男の人が立つ。

 薔薇?

「マリー」

「……何か用?」

「今日こそは連れて行くからな」

 誰?

「また始まったねぇ」

「リリー、少し下がってた方が良いわ」

 セリーヌとユリアに引かれて、マリーを残して数歩下がる。

「行くわけないじゃない」

「何言ってるんだよ」

「しつこいわ」

「いいから来い」

「冗談じゃないわ!」

「そう照れるなって」

 男の人が持っていた薔薇の花束をマリーに渡す。

「照れてないって言ってるじゃない!」

 マリー、怒ってるのに。

 花束は大事に受け取るんだ。

「だいたい、私、働いてるのよ」

「いつでも辞めれるだろ」

「嫌よ」

「ここまで薔薇の似合う女性は他に居ない」

「……嫌って言ってるじゃない」

「ほら、本当は俺と一緒に来たいんだろ?」

 伸ばされた手を弾いて、マリーが私の方に来る。

「リリー、助けて」

「えっ」

 マリーが私の後ろに隠れる。

「なんだ、この娘は」

 どうしよう。

「あの、マリーは嫌がってるみたいですけど」

「はぁ?何言ってるんだ。どけろ」

「嫌です」

 手を伸ばしてきた相手の男の人の腕をひねり上げ……、ようとしたところで、その人は大きく腕を振り上げて私の手から逃げる。

「護衛か?……俺の邪魔をするなら剣を抜け」

「はい」

 腰の鞘を掴んで、雪姫を抜く。

 あ。抜きにくいかも。

 やっぱり、これ、結構長い。

 鞘の方を引きながら抜く。

「待って、リリー」

「マリー、離れてようねぇ」

 相手の男の人も剣を抜く。

 片手剣。

 雪姫を両手で持って構える。

 やっぱり、リュヌリアンと同じ感覚。

 雪姫を相手に向かって振り下ろす。

 軽い。早い。太刀の素早さについて行かないと。

 振り下ろした雪姫を、相手が片手剣で振り払う。

 リュヌリアンみたいに重い大剣じゃないから、相手の反撃に合いやすい。戦い方に気をつけないと。

 一歩下がって薙ぎ払うと、相手が剣を縦に当てて防ぎ、そのまま斬り上げられる。体を回して避けて、その勢いで薙ぎ払う。

 相手はそれを避けて、今度は突攻撃。

 ……防ぐ?かわす?斬り上げる?

 大丈夫。雪姫は早い。

 かわして、相手の背後に回って斬る。

「……っ!」

 剣先が相手の背を斬りつける。

 振り返った相手が、下から片手剣を振り上げる。

「リリーっ!」

 身を引いたけれど、左肩を斬られた。

 一歩離れて、今度は雪姫で突く。片手剣ではじかれたけれど、そのまま片手剣を受け流しながら踏み込み、体勢を低くして薙ぎ払い。……を、しようとしたところで、剣で防がれた。

 ……押し切る。

 相手の剣に向かって力を込める。

 近づいて、鍔迫り合いをしていたところで……。

 左手から……、人影?

 下から斬り上げられた剣の勢いで弾き飛ばされ、一歩下がる。

「そこまでだ!」

 女の人の声?

 ストレートの長い金髪が舞う。

 私と男の人の間に入ったのは、短いフード付きのマントを羽織った人。

 彼女は私の側に来ると、羽織っていたマントをフードごと私にかけて、マントを巻く。

「あの……?」

 深くかぶせられたフードから顔を出して、相手の顔を見る。

 金髪碧眼……?

 彼女は私に背を向けると、男の人の方を見る。

「フェリックス王子。お迎えに上がりました」

 王子っ?

「お前、誰だ?」

 女の人が、持っていた剣を男の人に見せる。

「皇太子殿下の使者です」

「アレクの剣じゃないか」

「殿下がお呼びです」

「なんだよ。俺は今日帰るって言ってあるはずだぞ」

 帰る?

「存じております。御予定を変更して頂けると助かります」

 女の人が王子の耳元で何か囁いてるみたいだけど、聞こえない。

「はぁ?」

「承諾して頂けますね」

「……おい、そこのお前。名前は?」

「え?……リリーシア、です」

「しっかりマリーを守っておけよ」

「えっ」

「リリーは護衛じゃないわ。私の友達よ」

「友達だって?」

「友達に手を出すなんて最低よ」

「先に剣を抜いたのはこの女だ」

「女性の服を切り裂くなんて、さ・い・て・い!」

 あっ……。

 私の服が斬られたから、マントをくれたの?

 そういえば、スカートも肩も切られたんだっけ。

 肌が露出するほどじゃないけど……。

 王子の横に居た女の人が、剣の柄で王子を殴る。

「いってぇ……」

「殿下をお待たせしています」

「なんでアレクは、近衛騎士じゃなくてお前みたいなのを使者に寄越すんだよ……」

 女の人に引っ張られるようにしながら、フェリックス王子が去る。

 アレクさんの部下って、変わった人が多いのかな。

「マリー、俺はしばらく王都に居る!明日も会いに行くからな!」

「冗談じゃないわよ!」

 そういえば、シャルロさんが言ってたっけ。

 フェリックス王子はマリーのことが好きで、マリーに求婚して断られてるって。

「大丈夫?リリー」

 マントから手を出して、雪姫を鞘に納めようとして……。

 上手くいかない。

 長すぎる。

「ちょっと、まだ慣れなくて」

 腰に下げるんじゃなくて、背中に背負った方が良いかな。

「そうじゃなくて、傷の話しよ」

「え?……大丈夫だよ」

 肩に触れるけど、もう血はついていない。

「かすり傷だから」

 服が切り裂かれただけで、ほとんど斬られてない。

「ごめんなさいね」

 そう言いながら、マリーが私の傷に癒しの魔法を使う。

 魔法を使うほどの傷じゃないんだけど……。

「マリー、フェリックス王子のこと嫌いなの?」

「嫌いってわけじゃないわ。……付き合ったこともあるし」

「え?そうなの?」

「でも、しつこい男は嫌いなの」

 マリーが大事そうに薔薇の花束を抱く。

「薔薇だけはしっかりもらっちゃうんだよねぇ」

「花に罪はないわ」

「そんなことだからしつこく迫られるのよ」

「しょうがないじゃない。リック王子の選ぶ薔薇は、いつも素敵なんだもの」

「複雑だねぇ」

 花束のセンスは好きなんだ。

『っはー。なんでリックの奴がうろついてるんだよ』

「?」

『俺の声はリックにも聞こえるんだよ。ばれないように黙ってなきゃいけないだろ』

 そうなんだ。

 そういえば、アレクさんって精霊の声が聞こえるんだよね。

 それがラングリオンの王家に伝わる力なら、王族は皆、精霊の声が聞こえるのかな。

 あれ?

「フェリックス王子って、普段王都に居ないの?」

『居ないよ』

「リック王子は砂漠の緑化の為に、デュランダル地方東のフォション辺境伯のところに居るのよ」

「砂漠の緑化?」

「フェリックス王子は、マリーの前じゃだめだめだけどぉ、あれでも地質学の権威なんだよぉ」

「砂漠を、元の緑豊かな大地にするために尽力していらっしゃるの」

「学者さんなんだね」

『あれを学者って呼ぶのかよ』

「剣術もすごかったけど……」

『幼少アレクを鍛えてたのはリックだからな。アレクの奴、負けず嫌いだからさ』

 なんか想像つかないな。アレクさんの子供時代って。

「あの女性。見たことないわね」

「マリーも知らないのぉ?」

「アレクシス様の剣を持ってるってことは、彼女、今年の剣術大会の名代なんじゃない?」

「そうね。名前、聞いておけば良かったわ」

 あの人も剣術大会に出るんだ。

 顔は、はっきり見てないから分からない。

 どこかで見たような気がするんだけど……。金髪碧眼なんてラングリオンの一般的な容姿だから、思い出せない。

「リリー、着替えに行きましょうか?」

「大丈夫。マントもあるし。……あ。マントどうしよう」

 名前も知らないんじゃ返しに行けない。

「お兄様に預けたら?アレクシス様の従者なら、お兄様に頼めば返してくれるわよ」

 マリーのお兄さんって。

「アルベールさん?」

「そうよ」

 丁度良かった。アルベールさんには会いに行かないといけない。

「アルベールさんって、いつでもマリーの家に居る?」

「お兄様は平日は城で勤務よ。お父様を手伝っていらっしゃるもの。お休みなら居ると思うわ」

 城で勤務なんて。忙しい人に違いない。

「そうだわ。明日は、私の家で遊びましょう。ランチも用意するわ。それで良い?」

「良いよぉ」

「じゃあ、ウォルカのマカロンをお土産にしてあげるわ」

「楽しみね」

 あ。いつものレストランが見えてきた。


 ※


 ランチが終わって、マリーたちにアヤスギさんの店まで送ってもらう。

「案内してくれて、ありがとう」

「リリーの迷子は相変わらずね」

「ふふふ。じゃあ、また明日ねぇ」

 三人と別れて、アヤスギさんの店に入る。

「いらっしゃい」

 アヤスギさんがカウンターの脇で刀の手入れをしている。

「リリーシアか。何の用だ?」

「剣を一振り作って欲しいのと、この短刀の鑑定をお願いします」

 エルから預かっていた短刀をカウンターに置くと、アヤスギさんがそれを鞘から抜く。

「ルミエールの作品じゃないか」

「え?」

 嘘。

「私、師匠が刀作ってるのなんて見たことないです」

「あぁ。これは相当古いんだよ」

 アヤスギさんは何か金属を取り出して、刀を叩く。

「ルミエールは両刃の刀が得意だったんだ。八百年ぐらい前か?……いや。千年ぐらい昔のかもしれないな」

 千年前?

「あの……、どういうことですか?」

「あんたは次のルミエールじゃないのか?」

「え?」

 何の話し?

「知らないのか。ルミエールってのは、かなり昔から存在してる謎の鍛冶屋だ。今言った通り、千年ぐらい前から存在してるんだ」

「千年って……」

「世代交代してるんだよ。ルミエール、リグニス、アルディア。この三人は古くから有名な鍛冶職人で、年齢も所在も不明。けれど、彼らが独自に生み出した技術はその弟子に継承されてるって話しだ。ルミエールの特徴は、曲刀で両刃の剣」

「師匠は曲刀以外も作ってます」

「そりゃあ、色々作るだろう。でも、ルミエールが心血を注いで作る一品は、こういう作品だ」

 そういえば、リュヌリアンも。曲刀なのに両刃の大剣だ。

「この製法を、その名を背負う職人が継承しているのは間違いないんだ。俺はルミエールの剣を研究していたから分かる。これがルミエールの作品なら……」

 アヤスギさんが短刀を持って窓辺に寄り、短刀に光を当てる。

「あぁ、やっぱり。間違いないぜ。刃を光に当てると、独特の光学現象が現れるんだ」

「見せて下さい」

 アヤスギさんに角度を教えてもらいながら、光に当てると、光を当てた場所が虹色に光る。

「本当だ……。リュヌリアンも光るのかな」

「リュヌリアン?」

「私の剣です。今は預かってもらってるからないんですけど」

「見たかったな」

 私もアヤスギさんに見てもらいたかった。

「返してもらったら持ってきますね」

「そりゃあ楽しみだ。……で?細かい鑑定をして欲しいのか」

「これの出所を調べるように言われてるんです」

「出所?そんなもんわかるわけないだろう。保管状況がかなり良いから、どこかで大事にされてたってことぐらいしか……。いや、待て。これはたぶん、一度も使われていない。少なくとも、誰かを斬ったりはしてないな」

「わかるんですか?」

「虹がこんなに美しく出てるってことは、作られてから一度も鍛冶屋の手入れを受けてないってことだ。一度でも人を斬った刀は劣化しやすい。今までこんなに良い状態で保管できてるってことは、作られた当時のままの姿ってことだ」

 そんなことまでわかるんだ。

「ルミエールの武器のコレクターなら、喉から手が出るほど欲しい逸品だぜ」

「師匠の、ずーっと師匠が作った作品なんですよね」

「あぁ。詳しい年代を出して欲しいなら、時間を貰うぜ。料金も取る」

「お願いします」

「鑑定が終わったら、あの薬屋に連絡すれば良いのか?」

「はい」

「わかった。……で?刀を一振り作ってほしいんだったか」

「はい」

 エルから頼まれたこと、もう一つ。

「誰が使うんだ?」

「皇太子殿下に献上します」

「はぁ?」

「あの、頼まれたんです。……直接じゃないんですけど。アヤスギさんに刀を作ってもらいたいって」

「……時間がかかる」

「どれぐらいかかりますか?」

「わからない。ここの皇太子ってのは、自分で戦うんだろ?装飾を派手にしたお飾りじゃ満足しないってことだろ」

 アレクさん、そういうのは好きじゃなさそう。

「実用的な物の方が喜ぶと思います。戦っているところを見たことがないからどんなのが好きかわからないけれど……」

 あ。そうだ。

 アレクさんの部屋に忍び込む途中で、宝物塔の武具を見てくれば好みの系統がわかるかも。

「ちょっと待ってもらっても良いですか?好みの系統、調べてみます」

「そうしてくれるとありがたいな」

「はい。……また来ますね」

 看板が出てないこのお店にちゃんと来れるかわからないけれど……。

「あの、どうして看板掲げないんですか?」

「看板?そういや忘れてたな。ラングリオンの文字は上手く書けないんだ。その内、掲げておく」

 アヤスギさんはオービュミル大陸の人じゃないんだっけ。

「アヤスギさんの国の文字じゃだめなんですか?」

「誰も読めないだろ」

「でも、わかりやすいと思います」

「……そうだな。どうせわかる奴しか来ないだろうし、そうするか」

 良かった。特徴的な看板なら見落とさないよね。

「また来ますね」

「じゃあな」

 アヤスギさんのお店を出る。

 


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