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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
16/149

14 作業妨害

 ヴィエルジュの六日。

 よし、綺麗に焼けた。

「リリーシア。今日もショコラティーヌ焼いたの?」

「うん」

「いくらリリーのショコラティーヌが美味しくても、流石に飽きちゃうわ」

 ヴィエルジュの二日から毎日作ってるから……。

「ごめんなさい。アレクさんにプレゼントするなら、自分が一番納得のしたものじゃなきゃいけないと思って」

「アレクシス様に持っていくの?」

「うん。お城に行ってみようと思って」

「で?今日は満足が行く出来なの?」

「うん。焼き加減も香りも、サクサクした食感も、完璧だと思う」

「良く売れそうだね」

「そうね」

 余ったショコラティーヌとクロワッサンは、毎日キャロルが売りに行ってくれている。

「あの……、今日はね、林檎のデニッシュと胡麻とチーズのパンも焼いたの」

「リリー、パン屋さんになりたいの?」

「えっ。違うよ」

「リリーシアってさ、エルが居ないと、パンをたくさん作るよね」

「えっ」

 どうしよう。そうかもしれない。

 エルの為にパンを焼いたのって、大晦日だけかも……。

「さ、朝ご飯にしましょう」

「うん」

 ショコラティーヌ。

 今日のは自信があるけれど……。

 本当に、アレクさん食べてくれるかな。


 ※


 お城までは、サウスストリートをまっすぐ北に進んで、中央広場を越えて、セントラルのお城まで続く道を進むだけ。

 中央広場は賑わっている。

「流石に迷わないわよね?」

 キャロルが笑う。

「一本道じゃ迷いようがないよ」

「そうね。じゃあ、気をつけてね」

 パンを売りに行くキャロルと中央広場で別れて、お城を目指す。

 約束も何もしてないけど、本当に入れるのかな。

 お城に入るから、武器と呼べるものは短剣しか持って来なかったけど。

 城門に行く。

 私がエルを探した堀にかかっている橋を渡りながら、上を見上げる。

 城門の上に兵士が私を見つけて礼をしたので、礼をし返す。

 あそこって、カウントダウンの時にアレクさんが魔法を使ってた場所だよね。

 視線を戻して、城門の前に立つ。

 左右に槍を持った兵士が立っている。

「……あの」

 剣花の紋章は、肌身離さず首から下げて持っている。

 普段は服の中に隠しているそれを出して、見せる。

「アレクシス様に会いたいんですけど……」

「リリーシア様ですね。どうぞ、まっすぐお進みください」

 本当に、通って良いのかな。

 紋章を服の中に仕舞って、兵士の脇を抜けて城門を通る。

 広い前庭。

 そういえば、舞踏会の大広間ってどこにあったのかな。馬車が通れる道沿いにあるんだろうけど。

 桜の庭だって、どこにあるんだろう。

 右側にあるってことしか知らない。

「あ」

 光の精霊?

『まっすぐ進め。迷子になるぞ』

「……はい」

 光の精霊が私の前を飛ぶ。

 それについて歩くと、お城の門に到着する。

「ようこそ、リリーシア様。エミリーと申します」

「こんにちは」

 優雅に礼をするメイドさんに頭を下げる。

「アレクシス様の書斎にご案内いたします」

 光の精霊とエミリーさんについて歩く。

 長い廊下。

 絵画や美術品が飾られている。

 見回りの兵士さんとも何度かすれ違う。

 ……というか。広い。

 アレクさんの書斎って、そんなに遠いのかな。

 桜の庭まではこんなに歩いた気はしないのだけど。

 しばらく歩いて、ようやく廊下の突き当りが見える場所に来た。

 大きな扉の前に、ツァレンさんが居る。

「こんにちは」

「良く来たな。リリーシア」

「はい」

「似合ってるじゃないか」

「……はい」

 この、黒い服のことを言ってるんだよね。

 エミリーさんが扉をノックする。

「リリーシア様をお連れいたしました」

 扉を開いてエミリーさんが脇にずれる。

 促されて、部屋に入る。

 ここがアレクさんの書斎。桜の庭の上にある場所だよね。

「おはよう、リリーシア。座って」

「はい。おはようございます」

 アレクさんは机に向かって眼鏡をかけてる。

 その隣に居るのは……。

 え?

 黒髪に紅の瞳のメイドさん?

「リリーシア様、こちらへ」

 エミリーさんに案内されてソファーまで行く。

「クロエ、彼女に紅茶を」

「はい」

 クロエさんっていうんだ。

 お茶を準備に行こうとする彼女と目が合う。

 クロエさんが立ち止まって、スカートを軽く持ち上げて礼をする。

「はじめまして。クロエと申します」

 立ち上がって礼をする。

「はじめまして。リリーシアです」

 綺麗な人。

 座ってクロエさんがお茶の準備をするのを眺めていると、アレクさんが私の前に座る。

「良く来たね。リリーシア」

「ショコラティーヌ持ってきました。召し上がってください」

 バスケットをテーブルの上に出す。

「ありがとう。ツァレンから聞いて楽しみにしていたんだ」

 楽しみにしてたの?

「エルはどこに居るの?」

「どこだろうね」

 教えてくれない……。

 会えないのかな。

 会えると思っていたんだけど。

「どうぞ」

 クロエさんが私とアレクさんの前に、カップとお皿を置く。

「クロエもお茶にしよう」

「え?……でも」

「おいで」

「はい」

 クロエさんがティーポットとカップを一緒に持って来て、アレクさんの隣に座る。

「私の作った服を着てくれてありがとう。リリーシア」

「え?……あの、この服作ってくれたのって、クロエさん?」

「はい。クロエと呼んでください」

 そう言って彼女が微笑む。

 作ってくれたの、アレクさんのメイドさんだったんだ。

 舞踏会で教えてくれても良かったのに。

「あなたは、とても可愛いです。こんなに可愛い人に着てもらえてすごく嬉しい」

「えっ。あの……。そんなことないです。……服、とても可愛いよ。どれもすごく素敵。見たことのないデザインで……」

「そうですか?」

「彼女の故郷では珍しくなかったようだよ」

「そうなんだ」

 ラングリオンの人じゃないのかな。

「ショコラティーヌを頂こうか」

 アレクさんがお皿にとって、クロエさんに渡す。

「ショコラが入ってるからショコラティーヌですか」

「そう。クロワッサン生地にショコラが入ってるんだよ」

 知らないのかな。

「美味しい」

 クロエがにっこりとほほ笑む。

 可愛い。

「あなたは料理の才能があるんですね」

「えっ、全然ないよ」

「謙遜?」

「謙遜じゃなくって、その……。お菓子作りは好きなんだけど」

「ショコラティーヌは、クロワッサンなのにお菓子?」

「えっと……。お菓子としても食べられているパン?」

「食べ物を作れるのに、料理は出来ないって変だと思います」

「お菓子とパン以外は作れないよ。包丁が苦手なんだ」

「包丁が苦手だと料理が出来ない?……アレク、どうなんですか?」

 アレクさんはクロエの横で、ずっと笑いを抑えてる。

「表現の仕方は人それぞれだね。リリーシア。しばらくクロエの話し相手になってあげてくれるかい。私は仕事に戻るよ」

 アレクさんがショコラティーヌを一つと紅茶のカップを持って、机に戻る。

 エミリーさんがアレクさんの机にお皿を出して、アレクさんがお皿の上に一口かじったショコラティーヌを置く。

「リリーシア。もう一度議論してください。料理とは、何を指すのか」

「えっ?」

 どうしよう。なんて言ったらいいのかな。

「えっと、広いくくりでは、食べ物を作ることはすべて料理と呼ぶと思うよ」

「はい」

「でも、料理って、お菓子よりも食事を作ることを呼ぶと思うの」

「パンは食事ではありませんか」

「えっと……。食事だと思うけど、その、もっと細かい作業を呼ぶんじゃないかな。野菜を刻んだり、煮込んだり、炒めたり、お肉を切ったり、焼いたり、ソースを作ったり……」

「私は料理ができないから、何を言ってるかわからないです」

 困った。

「うーん。クロエの好きな食べ物は?」

「これ。リリーシアの作ったショコラティーヌ。最近食べたもので一番美味しかったです」

「本当?」

「はい」

「嬉しい。ありがとう。アレクさんが食べるものだから、完璧なものを作らなくちゃいけないと思って、頑張ったの」

「リリーシアはアレクが好きなんですか?」

「私が一番好きなのはエルだよ」

「エル?……アレクの弟で、あなたの夫の?」

「うん」

「彼の為に作ったんですか?」

「エルは、ショコラティーヌはあまり好きじゃないかも」

 甘いから。

「あなたは、好きな人の嫌いなものを作るのが好きなんですか?」

 アレクさんの笑い声が聞こえる。

「違うよ。えっと……」

 なんて言ったら良いのかな。

 でも、もしかしてものすごく正論?

「これじゃあ仕事にならないな。エミリー、執務室に行ってくるよ」

「彼女はどういたしましょうか」

「まかせるよ」

「はい」

「あの、アレクさん。エルは執務室に居るの?」

「どうしてそう思うんだい」

「エルはアレクさんの秘書官になったんですよね」

「誰に聞いたのかな」

「メルティムさんが、そんなことを言ってたから……」

「エルは執務室には居ないよ」

「アレク、意地悪しないで会わせてあげて下さい。リリーシアが可哀想です。夫と妻は一緒に居るものでしょう」

「参ったな。……エルは今、王立図書館に居るんだ」

「本当?じゃあ、私、王立図書館に行きます」

「エルは変装してるから、名前を呼ばないようにね」

「はい。わかりました」

「お帰りですか、リリーシア様」

「はい」

「お送りいたします」

「リリーシア、また遊びに着て欲しいです」

「うん。また来るね」

「今度は午後のお茶の時間においで」

「はい。わかりました」


 ※


 エミリーさんの案内で城の外に出る。

「王立図書館までご案内いたします」

「え?……大丈夫だよ」

 王立図書館の場所は迷わず行けると思う。

「近道を存じておりますから」

「じゃあ、お願いします」

 エミリーさんと一緒に、王立図書館へ向かう。

 近道、なのかな?

 セントラルの細い道はわからないから難しい。

「リリーシア様」

「はい」

「クロエのことは御内密に」

「え?」

「吸血鬼種が皇太子のメイドとあっては、悪い噂が立ちます」

 黒髪に紅の瞳。

 その容姿を持つ人は吸血鬼種と呼ばれ、差別の対象になる。

 王都で黒い髪を見かけないのは、吸血鬼種を彷彿とさせるから。

 エルの紅の瞳だってそうだ。

 ……だから、吸血鬼種の容姿を持つ人は、ラングリオンでは迫害され、砂漠に逃れるらしい。

「わかりました」


 エミリーさんの案内で王立図書館に入る。

 いつ来ても大きくて迫力のある図書館。

 蔵書数がどれぐらいあるかわからない。

「書庫にいらっしゃいます」

「書庫って……、あっち?」

 エミリーさんが驚いた顔で私を見る。

「ご存知でしたか」

「うん。何度か来てるから」

「迷いませんか?」

「図書館じゃ迷わないよ。どこにどんな本があるか書いてあるから」

 書棚は整列していて、全部綺麗に分類されて並んでいるのに。

 どうやったら図書館で迷うって言うんだろう。

「では、失礼いたします」

 丁寧に礼をして去るエミリーさんを見送る。

 そういえば、クロエ。どうしてアレクさんのところに居るんだろう。

 黒髪の人なんて王都では見かけないのに。

 アレクさんはエルを気に入ってるし、私の黒髪を見ても何も言わないから、吸血鬼種を差別してないみたいだけど……。

 あれ……。

 そういえば、クロエはアレクさんのことアレクって呼んでなかった?

 メイドさんなのに。良いのかな。

 


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