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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
15/149

12 成功か失敗か

 ヴィエルジュの二日。

 ……焼けた。

 でも、自信がない。

 どうして、ショコラティーヌを持って行くなんて言っちゃったんだろう。

 ウォルカさんがアレクさんに作ってあげてって言うから……。

 あぁ。落ち込む。

「どうしたの?リリー」

「思ったようにできなくて」

「え?とても美味しそうよ」

「ありがとう。でも、もっと上手く作れるはずなの。焼き色が、あんまり……」

「リリーは完璧主義者なのね」

「え?そんなことないよ。ただ……、最高傑作とは呼べないと思って」

「落ち込むような出来じゃないと思うわ」

「そうなんだけど……」

 こんな中途半端なものを、ラングリオンの皇太子殿下になんて出せない。

 だめ……。

 納得の行くものが出来るまで、持っていけない。


 ※


 キャロルと一緒に洗濯物を干しにベランダへ。

 それから、ベランダに並んでいるプランターに水をあげる。

 野菜のプランターやハーブ、良くわからない草花もある。

「これは水が要らないのよ」

「そうなの?」

「うん。秋は水が要らないって、エルが言ってたわ」

 錬金術に使うものなのかな。

「トマトがなってる。……トマトって、夏の食べ物じゃないの?」

「時期をずらして種を撒いているのよ」

「もらっても良い?」

「良いわよ。赤くなってるのから取ってね」

「ありがとう」

「何か作るの?」

「キャラメル」

「……え?」

 キャロルがびっくりした顔をする。

 そうだよね。トマトのキャラメルなんて聞いたことがないよね。


 ※


 不味い……。

 どうしよう。

 信じられないぐらい美味しくない。

「どうしたの?リリーシア」

「ルイス……。私、何か間違えたかな」

「え?」

 レシピ通りにやったつもりなんだけど。

「何作ったの?」

「赤いのがトマトのキャラメル」

「トマト?」

「普通のがシナモンのキャラメル」

「普通?」

「コーヒー色がコーヒーのキャラメル」

「……そう。大分、困ってるみたいだね」

「どうしよう。何が間違ってたのかな」

 もう一度レシピを見直す。

 分量は間違ってないはずだ。

 混ぜ方に特別な順番でもある?でも、味に影響するほどかな……。

「誰のレシピ?」

「ユリアから聞いたんだけど……」

「一つもらうよ」

 ルイスがコーヒーのキャラメルを食べる。

「美味しいよ」

「コーヒーは上手く行ったの。トマトとシナモンが……」

 ルイスがトマトのキャラメルを食べる。

「好みは別れそうだね。僕は好きだよ」

 そうかな。美味しくないと思う。

 ルイスが水を飲んで、今度はシナモンのキャラメルを食べる。

「あぁ……。すごいね、これ」

 不味いんだ。

 ルイスの表情は変わらないけど。

「ユリアのレシピなんだよね?だったら、ユリアに食べさせたら?」

「でも、失敗したかもしれないよ」

「失敗したかどうかも、食べてもらわないとわからないじゃない」

「そうだけど」

 ユリアって甘いものが好きだから、こういうのあんまり食べないんじゃ……。

 あ。

 わかった。

 このキャラメル、甘みが少ないんだ。

 もしかして、ユリアがくれたレシピってエルが好きなキャラメルのレシピ?

 だったら成功なのかな。これ。

「ね、ルイス。キャラメル切ってもらっても良い?私じゃ、上手く斬る自信がなくて」

「……切るんだよね?」

「うん」

「わかった」

 ルイスがバットの中で冷えて固まったキャラメルをひっくり返して出し、均等な大きさに切る。

「ありがとう」

 ルイスが切ってくれたキャラメルを包んで、包み紙をひねる。

 エルにあげよう。

「どうしたの?急に機嫌が直ったみたいだけど」

「え?怒ってないよ?」

 怒ってるように見えたかな。

「……包むの手伝うよ。色でわかるから分類はしなくて大丈夫?」

「うん。ありがとう」


 ※


 午後。

 サウスストリートを北に向かって歩く。

 ポラリスの店だった場所って、どこかな。

「あれー、リリーシアさん」

「パーシバルさん」

「可愛いっすね」

「えっと……。喪服なの」

「え?」

 喪服に見えないよね。

「あの人も何考えてるかわかんない人っすよね」

「えっと……。パーシバルさんは、どう思ってるの?」

「エルロックさんのことっすか?」

 頷く。

「死んで喜んでる人も居るんじゃないっすか?」

「えっ」

 あれ?死んだと思われてる?

「リリーシアさんが可愛い服着て歩いてるんっすから」

「好きで着てるんじゃないよ」

「そーいうこと言っちゃダメっす。色々ばれちゃいますよ」

「……ごめんなさい」

 やっぱり、死んだなんて思ってないよね。

「あんまり一人で歩かない方が良いっすよ?」

「どうして?」

「俺みたいなのに絡まれるからに決まってるじゃないですか」

 どういう意味?

「あのね、アヤスギさんのお店知ってる?」

「誰っすか?」

「あの、ポラリスのお店の跡に、刀のお店を開いてるはずなの」

「あー。あの、看板のない店っすね」

「看板のない店?」

「もうすぐ見えてきますよ」

 パーシバルさんに案内されながら、店の前に行く。

「外観は占い屋のまんまっすねー」

 急に扉が開いて、人が走って出て行った。

 なんだろう?あれ。

 パーシバルさんと顔を見合わせて、お店の中に入る。

「あの……」

「ここはポラリスの店じゃないって言ってるだろ」

「え?」

「あー。そういうことっすか」

「……なんだ。嬢ちゃんか」

「こんにちは」

 カウンターにはアヤスギさんが居て、刀が並んでいる。

「へー。刀って初めて見ました」

 パーシバルさんが一本取って、鞘から抜く。

「細い剣っすね」

「リリーシア。エルロックはどうしたんだ?」

「え?えっと……」

「エルロックさんは居ないっすよ。あの人、大人しく王都に居る方が珍しいっすから」

「なんだ。居ないのか」

 エルが堀に落ちたことは知らないのかな?

「エルロックさんのお知り合いですか?」

「あいつがラングリオンに来いって言ったんだよ。騎士が俺の剣を扱えるか試しに来てやったんだ」

「それなら、三番隊に売りに来たらどうっすか?隊長はどんな剣でも扱う人で有名っすから。刀も知ってるんじゃないっすかね」

「そうなの?」

 そういえば、大剣でもレイピアでも自在に使いこないしていたっけ。

「あれ。リリーシアさんは知らないっすか?隊長は最強の傭兵って言われてて……」

「最強の傭兵?」

 そんな二つ名が存在するの?

「ガラハドか?」

「そうっすよ」

「直接会ったことはないが、俺も知ってるぞ。主君を一人に定めないことで有名だった放浪者。誰も彼が血を流すところを見たことがないから、最強の異名を得た傭兵。……今はここに居たのか」

「居るも何も。皇太子殿下を主君に仰いで、守備隊の隊長をやっているんっすよ」

「なんだって?」

「殿下に負けたからって言ってましたけど」

「そうなの?」

 隊長さんって、あんなに強い人なのに。

 アレクさん、どれだけ強いんだろう……。

「おいおい。この国の皇太子ってのは自ら武器を持って戦うのか?」

「殿下は強い人っすから」

「お偉いさんってのは、守られてふんぞり返ってるもんじゃないのか」

「それ、殿下に似合わないっすねー。あの方は、何でも自分でやりたい人っすから」

 そんな感じするかも。

「なんだかイメージしてたのと違うな」

「まぁ、殿下は変わった人っすよ」

「そうだな。……リリーシア、雪姫に銘を掘ってやろう。貸しな」

「あ、はい」

 持っていた太刀をアヤスギさんに渡すと、アヤスギさんが続き部屋に歩いて行く。

「雪姫?」

「あの刀の名前なの。銘を掘ってもらう約束をしてたんだ」

「へー。雪って白いのに、鞘は黒なんっすね」

「確かにそうかも」

 黒い服に白い鞘は目立ちそうだから、ありがたいけれど。

「リリーシアさんの新しい武器っすか?」

「うん。雪姫で剣術大会に出ようと思って」

「え?この前の決闘の賭けって、」

「リュヌリアンを取り上げられただけで、剣術大会に出ちゃだめって言われてないよ。……その、エルには出ないって言っちゃったけど」

「俺はリリーシアさんには出て欲しいっすから、応援しますよ」

「ありがとう。あの……。みんなには内緒にして欲しいんだ。マリーにもお願いして、偽名で出ようと思ってるの」

「エルロックさんにばれないように?」

「うん。だから、剣術の練習に三番隊にお邪魔しても良い?」

「大歓迎っすよ。年末年始の重労働明けで、皆弛んでますから。引き締めてやってください」

「えっと……、私は、稽古をつけてもらう側だよ」

「そんなことないっすよ」

 何かお礼を考えておかないと。

 お菓子でも焼いて行こうかな。

 あ。そうだ。

「パーシバルさん。キャラメル好き?」

「キャラメル?」

「あのね、変わったレシピで作ったの」

 キャラメルを三種類出して、パーシバルさんに渡す。

「味見してもらっても良い?コーヒー味は自信があるの。でも、トマトは好みが分かれる味で、シナモンは美味しくなさそうなの」

「リリーシアさんも錬金術に目覚めたんっすか?」

「え?どうして?」

 答えずに、パーシバルさんがシナモンのキャラメルを食べる。

「シナモンを舐めてるみたいっすね」

 とても味の感想とは思えない。

「美味しくない、よね?」

「これ、もっともらえませんか?」

「えっ?」

「三番隊で配ります」

「でも……」

「こういうのが好きな奴も居るから大丈夫っすよ」

 大丈夫かな。

「今持ってるのはこれだけだけど」

 言いながら、持っていたものを渡す。

「ありがとうございます」

 本当に、こんなの好きな人いるのかな。

 エルに食べてもらうまで何とも言えない。


「ほら、出来たぞ」

 アヤスギさんが刀を持って戻ってくる。

 あ……。

「少し磨きました?」

「良くわかるな」

「ありがとうございます」

 鞘に戻して、太刀を腰に着ける。

「太刀を使えるのか?」

「使ってみないとわからないです。でも、私が前に使ってたものに似てるから、大丈夫だと思います」

「前に使ってたのってなんだ?」

「リリーシアさんは、曲刀の大剣を扱う剣士ですよ」

「やっぱり、噂の女剣士はあんただったのか」

「えっと……。今は、私の剣はエルが預かってるの」

「そうか。エルロックが帰ってきたら教えてくれ」

「はい。ありがとうございました」

 アヤスギさんにお礼を言って、店を出る。

 ……あ。刀を作ってるところ見せてもらうの忘れてた。

 また今度来よう。

 看板が出てないお店だけど。迷わずに、来れるかな……。

 


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