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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅶ.七色の弧
142/149

152 混ぜて

 久しぶりに皆で過ごして、ランチを食べて、お喋りをして。

 そして、ガレットデリュヌを食べた。

 新年に家族で食べるお菓子を、今、姉妹で食べられるなんて。

「あっ。誰?私のパイに玩具なんて入れたの」

 皆が、くすくす笑う。

「ジョージは、フェーヴも入れてくれたんだな」

「フェーヴ?」

「当たると良いことがあるのよ。お守りにすると良いんだったかしら」

「やったぁ!あ、でも、お守りならリリーが持ってた方が良いよね?」

「えっ?だめだよ、当たった人が持ってなきゃ」

「そうなのー?」

「うん。一年間持ってると良いんだって」

「じゃあ、大事に持ってようかな」

 

 時間が過ぎるのは、あっという間だ。

 皆は、これから午後の大陸会議に参加する為にお城へ行ってしまう。

「リリー。私は、こっちで頑張るね。だから、リリーも頑張って」

「無理しないで、やばいと思ったらすぐに帰ってくるのよ」

「二人一緒に帰ってくるという約束を信じているよ」

「何を選んでも、私たちは皆、リリーの選択を歓迎するからね」

 皆が、私を抱きしめる。

「ありがとう。私、頑張るね」

 すごく力を貰えた。

 私には、味方になってくれる人が、私のことを思ってくれる人が、たくさん居るんだ。

「イリス。頼んだわよ」

『言われなくても、ボクはリリーの傍から離れないよ』

 ありがとう。イリス。

 大丈夫。

 進める。

 

 ※

 

 大陸会議に参加する皆を見送った後、メイドさんにオルロワール家の裏口まで案内してもらった。

 ここからなら迷わず行けるよね。

 塀を迂回して、門から隊長さんの屋敷の敷地に入る。

 すると、大きな犬が走ってきた。

「ロドリーグ。シメーヌ」

 しゃがんで腕を広げると、二人が私にじゃれつく。

「久しぶり。元気そうだね」

 ふかふかの毛並みが気持ち良い。

「リリー!」

 見上げると、キャロルが走ってきた。

「おかえりなさい!丁度、皆でお庭で遊んでいたのよ」

「皆?」

「ファルとリューよ」

 キャロルが振り返ると、ファルとプリュヴィエが走ってきた。

「おかえり」

「おかえりなさい。リリーシアさん」

「ただいま、皆。……ルイスは?」

「部屋を一つ借りて、エルみたいに、ずーっと引きこもってるわ」

 錬金術の勉強をしてるのかな。

「エルが帰って来る前に、二人と話したいことがあるんだ」

「わかったわ。ファル、リュー、また後でね」

「了解。行くぞ、ロドリーグ、シメーヌ!」

「待って」

 二人が、二匹の犬と一緒に走って行く。

「ごめんね、遊んでたのに」

「良いのよ。……エル、また何か変なことでも決めてきたの?」

「えっと……」

 どこから話そうかな?

 

 屋敷の中に入って、ルイスが研究室として借りてる部屋へ。

 薬のにおいがする。

「ここにある薬って、家から持ってきたの?」

「うん。貴重な薬と危険な薬は移動させたんだ。後は、僕が使うやつかな」

「ルイス、エルから課題を出されてるのよ」

「課題?錬金術の?」

「そう。エリクシールは作れたんだけど。もう一つの課題が難しくて」

 エリクシールって、錬金術の粋を極めないと作れないものじゃなかったっけ?

 それよりも難しい課題?

「どんな課題?」

「エルが作ったことのない薬を一つ完成させること」

「えっ?」

 エルが作ったことのない薬なんて、あるのかな。

「僕、ずっと、エルのレシピで薬を作り続けてたから、エルが作ったことのないものなんて作ったことが無くて。カミーユも、それは自分で見つけるしかないって言うから」

 困ってるみたいだ。

『そぉねぇ……。エルはぁ、もっと身近なことに目を向けて欲しいんじゃないかしらねぇ』

「身近なこと?」

「身近なことって?」

「えっと……」

『ルイスはぁ、薬を使う時に、困ったことはないかしらぁ?』

「あのね。今、私の傍に錬金術に詳しい精霊が居るんだけど……。その精霊が、ルイスは薬を使う時に困ったことはないかって言ってるの」

「困ったこと?」

 私も、ユールが言ってる意味は解らない。

『ヒントはぁ、リリーの船酔い止め薬かしらねぇ』

「私の船酔い止め薬?」

 船酔いしやすい私の為に、エルが作ってくれた薬。

 薬の成分として必要のない花の蜜が入ってるって、ルイスが教えてくれたっけ。

「その精霊って、いつもエルの錬金術を手伝ってる精霊?」

「えっと……」

『もう、ばれてるんじゃない?』

『そぉねぇ』

「うん……」

 良いのかな、言っちゃって。

「ありがとう。……ちょっと、根本から考え直してみる」

『頑張ってねぇ』

「頑張って、ルイス。エルの精霊も応援してるよ」

「ありがとう」

 ユールがルイスの頭を撫でてる。

 ユールにとっても、ルイスは弟子みたいな感じなのかな。

 ソファーに座っているキャロルの隣に座る。

「それで、引っ越しの日程は決まったの?」

「あ。それなんだけど、しばらく、お店は残すことになったんだ」

「そうなの?」

「うん。フローラのお店を改築することは変わらないんだけど、そのお店をデュグレさんに貸すことになって」

「デュグレさんって、お城の料理人?」

「そう。だから、薬屋は残るんだけど……。誰も使ってない間は、レオナールさんに貸す予定なんだって。勝手に決めちゃったけど、大丈夫?」

 エルが決めたことだから、これ以上、意見を挟むことは出来ないかもしれないけど。

「良いんじゃないかな。空き家のまま放っておくわけにもいかないからね」

「そうね。オルロワール家が管理してくれるなら、任せて良いんじゃないかしら」

 良かった。二人とも、賛成みたいだ。

「それでね。明日は一日、家族で過ごしたいねって話してたんだけど、二人とも、空いてる?」

「大丈夫よ。合唱団の集まりは、お休みするって伝えておくわ」

「僕も大丈夫だよ」

「ジニーと会う約束はない?」

「大陸会議で忙しいみたいだから、しばらく勉強会はしないことになったんだ」

「そっか」

 ユリアもマリーも忙しそうだったし、貴族としてやらなくちゃいけないことがあるんだろうな。

「ユリアがね、時間があったら音楽院においでって言ってたの。エルの先生も居るみたいだし、皆で行ってみない?」

「本当?私、一度で良いから、音楽院の中に入ってみたかったの。どんなところかしら。楽しみだわ」

 キャロルが目を輝かせてる。

 良かった。明日は、音楽院に行けそうだ。

「もし良かったら、そのまま入学手続きをしても良いかもって」

「えぇ?……入学手続きは、まだ早い気がするわ」

「僕も、焦る必要はないと思ってるよ。勉強しに行くなら、住む環境が落ち着いてからの方が良いだろうし」

「そっか」

 確かに、勉強に集中できる環境が整ってからの方が良いかもしれない。

「後ね、エルが家具を買いたいって言ってたんだ」

「家具って、新しい家の?」

「うん。備え付けのもあるけど、使えるものばかりじゃないからって。楽しそうに話してたから、その……。放っておくと、危ないかなって」

 ルイスとキャロルが顔を見合わせて、ため息を吐く。

「私、今使ってる家具が良いわ。あれをそのまま持って行くことってできるのかしら」

「たぶん……?」

 あのベッドも、どこかから運んできたはずだし、物を運ぶ方法はありそうだよね?

「荷物を運ぶ方法はあると思うよ。僕は使えるなら何でも良いけど……。あ、研究室に必要なものはあるよね。薬用の棚とか、機材を置けるテーブルとか」

 確かに、これだけの薬を収納できる棚はなかったような?

「エルって、どの部屋をどういう風に使うか考えてるのかしら」

 二人が唸る。

 部屋割りは、特に考えて無さそうな気がする。

「なんとなくだけど……。家具をいろいろ買って、可愛い部屋とか作ってから、好きな部屋を使って良いよって言いそうな気がする」

「あー」

「あー……」

 二人が、ため息を吐く。

「今回は、買い物は見送ることにしよう」

「うん」

「そうね」

「それから、買い物は、絶対にエル一人で行かせないようにしよう」

「ねー。本当に、困っちゃうわ」

 先に二人に話せて良かった。

 これで、ひとまず安心かな?

『ねぇ。そんなこと話してる場合?それよりも大事な話があるんじゃないの?』

「大事な話?」

『勇者に選ばれたこと、二人に言わなくて良いの?』

「あ」

「どうしたの?」

「あのね、私とエル、勇者に選ばれたの」

「勇者?」

「勇者って、物語とかに出てくる?」

「光の勇者みたいなもの?」

 あんなにすごい人と並んで良いのかわからないけど……。

「うん。そうだよ」

「すごいわ、リリー」

「でも、勇者って、魔王を倒す役目があるんだよね?魔王が居るの?」

「魔王っていうか……」

 あの人、魔王じゃないよね?

「空を、ずーっと雲で覆ってる人かな?」

「ずっと?雲なら、この前、晴れたよね?」

「晴れた?」

「リリーシアは見なかったの?確か、十一日だっけ。お城の方が光ったかと思うと、空が一気に晴れて。あちこちに虹も出てたんだよ」

 十一日。

 儀式があった日だ。

「皆、あの虹を見てたの?」

「もちろんよ。王都中の人たちが見てたと思うわ」

「屋内に居た人も皆、空を見に外に出たぐらいだから」

「そうだったんだ」

 そういえば、イレーヌさんも、食堂から見えたって言ってたっけ。

「もしかして、あれって勇者に関係ある?」

「あれはね、私が使える魔法みたいなの」

「えっ?リリーの魔法って、虹を出せるの?」

「虹を出したわけじゃなくて……。空に向かって光を放って、雲に穴を開けただけだよ」

 たぶん、雨上がりだったから、虹が出たんじゃないかな。

「すごいわ。そんなことが出来るの?」

「すごいね。リリーシアって、魔王が覆ってる雲を散らせるんだ」

「だから、魔王じゃなくって……」

 ノックの音がして、振り返る。

 扉を開いて入って来たのは……。

「エル」

「エル、おかえりなさい」

「おかえりなさい、エル」

『おかえりなさぁい』

『おかえり』

『おかえりなさい』

「ただいま」

 良かった。早く帰って来れたんだ。

 あ。メラニーとジオも一緒に居る。

「リリーが焼いたショコラティーヌを貰って来たんだ。お茶の時間にしよう」

「リリーのショコラティーヌ?」

「良いね」

 それって、今日、オルロワール家で焼いた……。

「あっ」

『あ』

「どうしたの?リリー」

「私、オルロワール家に忘れ物……」

『全部置いて来ちゃったね』

 帰りは、そのまま裏口から出てきちゃったから。預けたもの、全部忘れてきちゃった。

「全部持ってきたよ」

「ありがとう」

『オルロワール家に寄ったの?』

「私、ブリジットを手伝ってくるわね」

『ディーリシアが来ていると聞いたからな』

「僕も、すぐに行くよ」

『どこで聞いたの?』

「ふふふ。早く来ないと、なくなっちゃうわよ」

『城だ』

 お城にも寄って来たんだ。

 仕事の話があったのかな。

「キャロル。俺の分も残しておいて」

「わかったわ」

 キャロルが手を振って、部屋を出る。

「エリクシールは完成させたのか」

「これは試作品。エルには、もっと完璧なものを提出するよ」

「頼もしいな」

「課題だからね」

 ルイスが微笑む。

 流石だよね。作れるだけでもすごいのに、完璧なものを目指すなんて。

 エルが、エリクシールの横にあるルイスのノートを見る。

「未知のものを作れって課題じゃないぞ」

「大丈夫。……作りたい薬を思い出したんだ。だから、それに挑戦してみる」

 作りたい薬?

「楽しみにしてるよ」

 エルもユールも満足そうな顔をしてる。

 答え、見つかったんだ。

「明日の予定は決まったのか?」

「家具は見に行かないことになったよ」

「なんで?」

 ……残念そうだ。

「部屋割りを決めるのが先だよ。そうしないとイメージできないからね。それに、キャロルは今のが気に入ってるから、新しい家に持って行きたいみたいだよ」

「荷物を運ぶ予定はあるけど……」

 エルが、薬が並ぶ棚を眺める。

「薬、移動させたんだな」

「引っ越しも決まったし、置きっぱなしも危ないからね。少しずつ運んでるんだ」

 この部屋の棚には、たくさん薬が並んでいるけど。家には、まだまだたくさん薬があるはずだ。

「危ないのは……」

「ちゃんと、研究所の人に手伝って貰ったよ」

 ……そっか。勝手に触っちゃいけないものもたくさんあるんだ。

「片付けも終わったし、僕、ショコラティーヌを食べに行くけど、まだ居る?」

「あぁ。先に行っててくれ」

「わかった。部屋を出る時は鍵をかけてね」

「ん」

 鍵って、この部屋の鍵かな。

 ルイスが机に鍵を置いて部屋を出る。

「ただいま」

「おかえりなさい、エル」

 隣に座ったエルが、大きく伸びをする。

「イリス、ユール、アンジュ」

『何?』

『はぁい』

『どうしたの?』

「バニラとナターシャは居るか?」

『居ないよ』

 メラニーとジオは、途中で会ったのかな。

「バニラ、ナターシャ、来い」

 エルが呼ぶと、バニラとナターシャが顕現する。

「おかえり」

『ただいま、エル』

『ただいま』

 これで、皆そろったよね。

 エルが私の膝を枕に横になる。

 疲れたのかな。

 エルの柔らかい髪を撫でる。

「魔法の練習、大変だった?」

 エルって、どんな訓練をするんだろう。

「予定を変えて、ルネに教わりに行ってきたんだ」

「え?ロマーノに行ったの?」

「あぁ」

 だから、ジオが一緒だったんだ。

 エルが指先から金色の糸を出す。

「綺麗な糸」

 触れそう。

 糸に触れて、指に糸を絡める。

 なんだか、赤い糸で繋がれてるみたい。

 ……そう思った瞬間、意図が赤く染まる。

「今、何を考えてたんだ?」

「赤い糸みたいって……」

「赤い糸?」

 どうしよう?

 絡まった糸をほどこうとしたけど、逆にエルの手を引っ張ってしまった。

「ごめんなさい」

「良いよ」

 ぴんと張った糸をエルが弾くと、弦楽器みたいに糸が震えた。

「赤い糸って?」

「エルは、知らないの?」

「精霊の傷?」

「え?」

 あっ。

 もしかして、メリブの体から出てた赤い糸のこと?

「あの、精霊の傷じゃなくて……。運命の人とは見えない赤い糸で繋がってるって話があるんだ」

「物語?」

「物語じゃなくて、言い伝え?」

 ラングリオンにはないのかな。

 それとも、エルが知らないだけ?

 エルが魔法を解いて、私の手を取る。

「糸なんてなくても捕まえるし、離さないよ」

 ……そういうところが好き。

 今、こうして居るのは、運命なんかじゃない。

 自分の意思で選んだからだ。

「明日の予定はどうする?何をしたい?」

 そうだ。明日の予定。

「あのね、ユリアが、皆で音楽院においでって言ってたの。キャロルも音楽院を見学したいって言ってたし、エルの先生も居るからって」

「先生?」

 あれ?わからないかな。

「バイオリンの先生だって言ってたけど……」

 急にエルが起き上がって、私を見る。

「ヴュータン・ソーレ?」

「名前は聞かなかったけど……」

『たぶん、そうじゃないかしらねぇ?』

「会いたい。会いに行こう」

 そんなに会いたい人だったんだ。

 エルが、こんなに尊敬してる人って、珍しいかも。

「今日は、後でアレクに会いに行く予定なんだ」

「アレクさんに?」

 お城に行った時は会えなかったのかな。

 ……大陸会議だし、忙しそうだよね。

「オルロワール家にあるヴィエルジュの大樹を使う予定。夜中になるけど、一緒に行くか?」

「えっ?」

 誘われた?

 いつも、こういう時は、一人で行くのに?

「えっと……。一緒に行っても良いの?」

「あぁ。封印の棺のことを話さないといけないからな」

 行ったところで、私、役に立てるのかな……。

 でも。

「わかった。一緒に行くね」

「ん。じゃあ、ショコラティーヌを食べに行こう」

「うん」

 

 ※

 

 エルと一緒に台所へ。

 もう食べ終わったのかな。キャロルとプリュヴィエがお茶を飲んでる。

「ルイスとファルは?」

「フランカにショコラティーヌを届けに行ったわ」

 フランカさんは、シャルロさんのところで働いてるんだっけ。

 エルがサイフォンを出してる。

「今日は、何を作るの?」

「ロールキャベツだよ」

「わぁ。楽しみ」

 上手く作れたら良いな。

 コーヒーカップを用意しよう。どれにしようかな。

「そういえば、プリュヴィエは、食べられないものないのか?」

「辛いのは少し苦手です」

「ファルも苦手みたいだったわ。でも、他は大丈夫じゃないかしら」

「ん。わかった」

 シンプルなカップを選んで持ってくると、エルが市場で買ったものを見ている。

 そうだ。市場で貰ったもの。

「その卵は、生食出来る卵だよ。市場で、デュグレさんから貰ったの」

 卵がロールキャベツに必要だったかは、ちょっと思い出せない。

「そんな卵があるの?」

「一般には、あまり出回ってないけどな」

「高級な卵なのね」

 良い卵だから、エルが使わないなら、お菓子に使おうかな。

 卵を使ったお菓子はいろいろある。

「シューブランにしたのか」

「シューブラン?」

「品種改良された白いキャベツだよ。使うのは初めてだな」

 これ、そんなに変わったキャベツだったんだ。

「使えそう?」

「あぁ」

 良かった。

 八百屋さんには、いつも見かける普通のキャベツも売ってたけど。

 何となく白いのを選んじゃったから。

「ブランケット・ド・シューブラン・ファルシってところか」

「どういう意味?」

「今日のコンセプトは、真っ白ロールキャベツなんだろ?」

「うん」

 ブランケットは、確か白く仕上げる煮込み料理のことだ。

 ファルシは、野菜で別の具材を包んだ料理だっけ。

「面白いわ。今日は、クリーム煮込みにするのね。何か手伝うことはある?」

「そうだな……」

 あ。サイフォンのお湯が沸いてる。

 慌ててかき混ぜてランプの火を消す。

 すると、コーヒーが下の器に降りて行った。

 器具を外して、用意していたコーヒーカップに注ぐ。

「怪我しないようにな」

「はい」

「はーい」

 振り返ると、キャロルとプリュヴィエがじゃがいもを取り出している。

 皮をむく手伝いをするのかな。

「エル、コーヒーが入ったよ」

「ん」

 コーヒーをテーブルに置いて、ショコラティーヌを皿に出して、エルの隣に座る。

「いただきます」

「いただきます」

 エル、食べてくれるかな。

 コーヒーを飲みながらエルの方を見ると、エルがショコラティーヌを食べてる。

「美味しい?」

「あぁ。すごく美味いよ」

 良かった。

「ディーリシアの為に焼いたのか?」

「えっと……。作った時は、イーシャが来るなんて知らなかったの」

 会えたのは、マリーとナインシェのおかげだ。

「隊長さんの家に帰る途中、オルロワール家の中を通ってたら、ポリーからランチに誘われて。メルが帰るまでオルロワール家で待つように言われて……。その間、ジョージにショコラティーヌの作り方を教えることになったから、いっぱい作ることになったんだ」

 姉妹で食べられたのは嬉しかったけど。

 元々、目的は違う。

「だからね。これは、エルに食べてもらいたいなって思って作ったの」

「俺に?」

「うん。前に作ったのも食べてくれたって聞いたから」

 今度は一緒に食べられたら良いなって。

『美味しそうに食べてたものねぇ』

『そうだな』

「前に食べたのも美味かったよ。パルミエもリリーが作ったのか?」

「うん。食べてくれたんだ」

「あぁ。美味かったよ」

「甘くなかった?」

「気にならなかったな」

 やっぱり、エルって、前よりも甘いもの食べられるようになってるよね?

「どうした?」

「食べたいお菓子、あるかなって」

 エルが首を傾げる。

「なんでも良いよ」

 エルが好きなものが、もう少しわかったら良いんだけど……。

「リリーが作るものは、どれも美味いからな」

 そんな風に、真っ直ぐ言われると……。

「ありがとう」

 ……嬉しい。

 

 ※

 

 お茶の時間の後は、二人でロールキャベツ作りを始める。

 じゃがいもの皮をむいてくれたキャロルとプリュヴィエは、遊びに行ってしまった。

 二人とも、仲良しだよね。

 まずは、買ってきた肉をミンサーで挽いて、ひき肉にする。

 野菜を切っていたエルが私の方を見る。

「リリー。じゃがいもは、別のメニューにして良いか?」

「うん。良いよ」

 何か思いついたのかな。

 エルが、じゃがいもと水を軽く入れた鍋に蓋をして、火にかける。

 蒸かして何かに使うみたいだ。

 ……出来た。

「エル、ひき肉が出来たよ」

 山盛りの肉になっちゃった。

 エルに見せると、エルが調味料を入れていく。

 あ。卵も入れるんだ。そういえば、繋ぎになるんだっけ。

「続きは任せても良いか?」

「たくさん捏ねれば良いんだよね?」

「あぁ」

 頑張って捏ねよう。

 たぶん、パンを捏ねるのと、そんなに変わらないはず。

 うん。楽しい。

 材料が混ざって、少し粘りも出てきた。

『ルイスとファルが帰って来たな』

「ただいま」

「ただいま。何やってるの?」

「おかえりなさい。ルイス、ファル」

「おかえり。夕飯を作ってるんだよ」

 エルが、茹でたシューブランの葉を並べてる。

 あれで包むんだよね。

 具材は、充分混ざったかな。

「エル、こんな感じで良い?」

 エルの方にボールを持って行く。

「良いよ。十六個に分けて、シューブランに乗せていって」

「わかった」

 等分に分ける作業もパンに似てるかも。

 半分に線を引いて更に分けて。同じ重さに分ける。

 それから、エルが並べたシューブランに乗せていく。

 ……あれ?

 葉っぱが余る?

「エル、十六個で良いんだよね?」

「あぁ」

 数は合ってるみたいだ。予備の葉っぱなのかな。

 見ていると、エルがシューブランの上に置いた肉を手際良く包む。

「おー。面白そう」

「やるか?」

「やる!」

「ファル、料理をするなら、手を洗おう」

 今度は、二人が手伝ってくれるみたいだ。

 じゃあ、私は溜まった洗い物をしておこうかな。

「準備出来たぞ」

「まず最初は、こんな風に丸めて、右側を折り込んで……。くるくる巻く。巻き終わったら、左側を詰めるんだ」

「了解」

 エルって、人に教えるのも好きそうだよね。

「最後は?」

「端を、こんな風に中に……。出来るか?」

 子供が好きなのもあるだろうけど、何でも丁寧に教えてくれる気がする。

「これで良い?」

「良いよ」

 楽しそうだ。

「僕もやるね」

「じゃあ、残りは任せる」

「あっ、破けた」

「破けたら、他の葉を使って良いよ」

 後、洗い物は……。

「じゃあ、こっち」

 コンロの上に、シューブランを茹でた鍋が乗っている。

「エル、その鍋も洗って良い?」

「いや。これは、このままロールキャベツを敷き詰めるんだ」

 ゆで汁ごと使うんだ。

「じゃあ、出来上がったのを入れて行くね」

「巻き終わりが下になるように並べて」

「わかった」

 鍋をテーブルの上に置いて、出来上がったロールキャベツを並べていく。

 どれも同じ大きさで、すごく綺麗に仕上がってる。

 それに、ルイスもファルも作るのが早い。

 あっという間に全部終わってしまった。

「エル、出来たぞ」

 エルが鍋の中を見る。

「上出来だ。綺麗に包んだな」

「まぁね」

 これを煮込んでいくんだよね。

 コンロに置いておこう。

「あー。疲れた」

「まだ手伝う?」

「いや。後は煮込むだけだから良いよ」

「わかった」

 お手伝いは終わりみたいだ。

「リリー、皿取って」

「うん」

 何に使うのかな。

 とりあえず、大きめの皿にしておこう。

 お皿を渡すと、エルが鍋の中から、あつあつのじゃがいもを出す。

 あ。もしかして?

 バターを渡すと、エルがじゃがいもの上にバターを乗せた。

「ルイス、ファル。手伝いの礼だ」

「蒸かしいも?」

「あぁ」

 やっぱり。

「おー。美味そう」

「キャロルたちと食べて」

「ありがとう。食堂で食べようか。ファル、フォークを出して」

「了解」

 蒸かしいもとフォークを持って、二人が出ていく。

「リリーも食べるか?」

「今は、お腹いっぱい。蒸かしたいもって、何に使うの?」

「このまま水分を飛ばして、粗く潰してサラダにするんだ」

「サラダ?」

「せっかく生で使える卵があるからな」

 卵を使ったサラダってこと?

 でも、茹で卵にはしないみたいだ。

 エルが、卵を割って、卵黄と卵白に分けてる。

 他に使うものは、オイルとビネガー、マスタードを少し。

 何を作るつもりなんだろう。

「卵黄と卵白って、両方使う?」

「卵黄だけ」

「じゃあ、卵白は貰っても良い?」

「何か作るのか?」

「うん。お菓子を作ろうと思って」

「じゃあ、任せるよ」

「ありがとう」

 卵白だけを使うお菓子はいろいろある。

 何にしようかな。

 エルも食べれそうなもの……。

 でも、子供たちは甘いものが好きそうだから、甘さの調節が自分で出来るものが良いかもしれない。

 なら……。

 

 ※

 

「いただきます」

 ルイスとキャロル、ファルとプリュヴィエ。それから、帰ってきたフランカさん。

 料理の並んだテーブルに、皆が座って食べ始める。

「ブリジットも座ってくれ」

「食事のお手伝いがありますから」

「今日は俺たちがやるよ」

「美味しく出来てるので、温かい内に食べて下さい」

 ブリジットさんを席に案内する。

 たまには、ゆっくりして貰っても良いよね。

「では、いただきますね」

 ブリジットさんがそう言って、食事を始める。

 これで揃ったよね。

「リリーも座って。一緒に食べよう」

「うん」

 エルの隣の席に座る。

 今日のメニューは、真っ白ロールキャベツと、特製ソースのじゃがいものサラダ。それから、私がお昼に焼いたブールだ。

 ロールキャベツは、スプーンで切れるぐらい柔らかく煮込まれてる。

 湯気の立つロールキャベツに息を吹きかけて、口に運ぶ。

 うん。すごく美味しい。優しい味だ。

 野菜もたくさん入ってる。

「可愛い」

 星形の白い野菜。これは……。

「カリフラワーだ」

「あぁ。芯を星形に切ったんだ」

 そういえば、マリーの家で見た雪の結晶も、カリフラワーで作ってたんだよね。 

「今日のメニューに白い野菜を選んだのはね、この前食べたカリフラワーのポタージュが美味しかったからなんだ」

「あれが食べたかったのか?」

 どうして、そうなるの。

「違うよ。味までは考えてなかったから。エルと一緒に作るのが、どんなのになるか楽しみだったんだ」

「気に入った?」

「うん。すごく美味しい」

 ふんわり優しい味がする雪のように真っ白なロールキャベツ。

 寒い季節にぴったりの、あったかい食べ物だよね。

「エル、このサラダに使ってるのって、何のソース?」

「すごく美味しいね、これ」

「マヨネーズだよ。生卵で作るんだ」

「えっ」

 ファルが急に食べるのをやめる。

 フランカさんとプリュヴィエもだ。

「心配しなくても、生で食べても平気な卵だ」

「さっき話してた高級卵ね」

「本当に大丈夫なのか?」

「心配症だな」

「ファルは一度、生卵に当たってるんだ」

 当たってるって、お腹を壊したってこと?

「ビネガーも充分使ってるから、腹を壊すことはないぞ」

 エルが言うなら大丈夫だよね。

 きっと、安全に食べられるように加工してるはずだ。

 蒸かしたじゃがいもをマヨネーズで和えたサラダを食べる。

 あっ。

 これ、すごく美味しい。

 ちょっと入ってるマスタードも良い感じだ。

「なら、おかわり」

「あ、私がやるね」

 立ち上がろうとしたブリジットさんを見て、慌ててファルのお皿を受け取る。

 最初と同じぐらい入れても大丈夫かな?

「これ、開けても良いか?」

「あ、それは……」

 テーブルの真ん中にある大皿の蓋をファルが取ってしまった。

 中には、後で食べるお菓子が入ってるのに。

「何これ?」

「ダコワーズだよ。メレンゲのお菓子なんだ。ショコラとナッツのスプレッドと、ミラベルのジャムを加えた生クリームがあるから、好きな方を付けて食べてみて」

「美味そー」

 いつの間にか立ち上がっていたブリジットさんが、ファルから蓋を取り上げて閉める。

「お食事が終わってからですよ。後で、お茶をお淹れ致しましょう」

「もう終わるって」

 あっ。おかわりのサラダ、食べてくれるかな?

「ファル、これぐらいで良い?」

「良いぜ」

 ファルがサラダを取って、食事に戻る。

 良く見たら、ロールキャベツもまだ残ってる。でも、この勢いで食べてるなら、あっという間に空になりそうだ。

 ……こうやって、皆がいっぱい食べてくれると嬉しい。

 エルの方を見ると、目が合う。

「皆、喜んでくれてるみたいで良かった」

「そうだな。また、一緒に作ろう」

「うん」

 楽しかったから。

 少しずつ、美味しいものを作れるようになろう。

 

 


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