152 混ぜて
久しぶりに皆で過ごして、ランチを食べて、お喋りをして。
そして、ガレットデリュヌを食べた。
新年に家族で食べるお菓子を、今、姉妹で食べられるなんて。
「あっ。誰?私のパイに玩具なんて入れたの」
皆が、くすくす笑う。
「ジョージは、フェーヴも入れてくれたんだな」
「フェーヴ?」
「当たると良いことがあるのよ。お守りにすると良いんだったかしら」
「やったぁ!あ、でも、お守りならリリーが持ってた方が良いよね?」
「えっ?だめだよ、当たった人が持ってなきゃ」
「そうなのー?」
「うん。一年間持ってると良いんだって」
「じゃあ、大事に持ってようかな」
時間が過ぎるのは、あっという間だ。
皆は、これから午後の大陸会議に参加する為にお城へ行ってしまう。
「リリー。私は、こっちで頑張るね。だから、リリーも頑張って」
「無理しないで、やばいと思ったらすぐに帰ってくるのよ」
「二人一緒に帰ってくるという約束を信じているよ」
「何を選んでも、私たちは皆、リリーの選択を歓迎するからね」
皆が、私を抱きしめる。
「ありがとう。私、頑張るね」
すごく力を貰えた。
私には、味方になってくれる人が、私のことを思ってくれる人が、たくさん居るんだ。
「イリス。頼んだわよ」
『言われなくても、ボクはリリーの傍から離れないよ』
ありがとう。イリス。
大丈夫。
進める。
※
大陸会議に参加する皆を見送った後、メイドさんにオルロワール家の裏口まで案内してもらった。
ここからなら迷わず行けるよね。
塀を迂回して、門から隊長さんの屋敷の敷地に入る。
すると、大きな犬が走ってきた。
「ロドリーグ。シメーヌ」
しゃがんで腕を広げると、二人が私にじゃれつく。
「久しぶり。元気そうだね」
ふかふかの毛並みが気持ち良い。
「リリー!」
見上げると、キャロルが走ってきた。
「おかえりなさい!丁度、皆でお庭で遊んでいたのよ」
「皆?」
「ファルとリューよ」
キャロルが振り返ると、ファルとプリュヴィエが走ってきた。
「おかえり」
「おかえりなさい。リリーシアさん」
「ただいま、皆。……ルイスは?」
「部屋を一つ借りて、エルみたいに、ずーっと引きこもってるわ」
錬金術の勉強をしてるのかな。
「エルが帰って来る前に、二人と話したいことがあるんだ」
「わかったわ。ファル、リュー、また後でね」
「了解。行くぞ、ロドリーグ、シメーヌ!」
「待って」
二人が、二匹の犬と一緒に走って行く。
「ごめんね、遊んでたのに」
「良いのよ。……エル、また何か変なことでも決めてきたの?」
「えっと……」
どこから話そうかな?
屋敷の中に入って、ルイスが研究室として借りてる部屋へ。
薬のにおいがする。
「ここにある薬って、家から持ってきたの?」
「うん。貴重な薬と危険な薬は移動させたんだ。後は、僕が使うやつかな」
「ルイス、エルから課題を出されてるのよ」
「課題?錬金術の?」
「そう。エリクシールは作れたんだけど。もう一つの課題が難しくて」
エリクシールって、錬金術の粋を極めないと作れないものじゃなかったっけ?
それよりも難しい課題?
「どんな課題?」
「エルが作ったことのない薬を一つ完成させること」
「えっ?」
エルが作ったことのない薬なんて、あるのかな。
「僕、ずっと、エルのレシピで薬を作り続けてたから、エルが作ったことのないものなんて作ったことが無くて。カミーユも、それは自分で見つけるしかないって言うから」
困ってるみたいだ。
『そぉねぇ……。エルはぁ、もっと身近なことに目を向けて欲しいんじゃないかしらねぇ』
「身近なこと?」
「身近なことって?」
「えっと……」
『ルイスはぁ、薬を使う時に、困ったことはないかしらぁ?』
「あのね。今、私の傍に錬金術に詳しい精霊が居るんだけど……。その精霊が、ルイスは薬を使う時に困ったことはないかって言ってるの」
「困ったこと?」
私も、ユールが言ってる意味は解らない。
『ヒントはぁ、リリーの船酔い止め薬かしらねぇ』
「私の船酔い止め薬?」
船酔いしやすい私の為に、エルが作ってくれた薬。
薬の成分として必要のない花の蜜が入ってるって、ルイスが教えてくれたっけ。
「その精霊って、いつもエルの錬金術を手伝ってる精霊?」
「えっと……」
『もう、ばれてるんじゃない?』
『そぉねぇ』
「うん……」
良いのかな、言っちゃって。
「ありがとう。……ちょっと、根本から考え直してみる」
『頑張ってねぇ』
「頑張って、ルイス。エルの精霊も応援してるよ」
「ありがとう」
ユールがルイスの頭を撫でてる。
ユールにとっても、ルイスは弟子みたいな感じなのかな。
ソファーに座っているキャロルの隣に座る。
「それで、引っ越しの日程は決まったの?」
「あ。それなんだけど、しばらく、お店は残すことになったんだ」
「そうなの?」
「うん。フローラのお店を改築することは変わらないんだけど、そのお店をデュグレさんに貸すことになって」
「デュグレさんって、お城の料理人?」
「そう。だから、薬屋は残るんだけど……。誰も使ってない間は、レオナールさんに貸す予定なんだって。勝手に決めちゃったけど、大丈夫?」
エルが決めたことだから、これ以上、意見を挟むことは出来ないかもしれないけど。
「良いんじゃないかな。空き家のまま放っておくわけにもいかないからね」
「そうね。オルロワール家が管理してくれるなら、任せて良いんじゃないかしら」
良かった。二人とも、賛成みたいだ。
「それでね。明日は一日、家族で過ごしたいねって話してたんだけど、二人とも、空いてる?」
「大丈夫よ。合唱団の集まりは、お休みするって伝えておくわ」
「僕も大丈夫だよ」
「ジニーと会う約束はない?」
「大陸会議で忙しいみたいだから、しばらく勉強会はしないことになったんだ」
「そっか」
ユリアもマリーも忙しそうだったし、貴族としてやらなくちゃいけないことがあるんだろうな。
「ユリアがね、時間があったら音楽院においでって言ってたの。エルの先生も居るみたいだし、皆で行ってみない?」
「本当?私、一度で良いから、音楽院の中に入ってみたかったの。どんなところかしら。楽しみだわ」
キャロルが目を輝かせてる。
良かった。明日は、音楽院に行けそうだ。
「もし良かったら、そのまま入学手続きをしても良いかもって」
「えぇ?……入学手続きは、まだ早い気がするわ」
「僕も、焦る必要はないと思ってるよ。勉強しに行くなら、住む環境が落ち着いてからの方が良いだろうし」
「そっか」
確かに、勉強に集中できる環境が整ってからの方が良いかもしれない。
「後ね、エルが家具を買いたいって言ってたんだ」
「家具って、新しい家の?」
「うん。備え付けのもあるけど、使えるものばかりじゃないからって。楽しそうに話してたから、その……。放っておくと、危ないかなって」
ルイスとキャロルが顔を見合わせて、ため息を吐く。
「私、今使ってる家具が良いわ。あれをそのまま持って行くことってできるのかしら」
「たぶん……?」
あのベッドも、どこかから運んできたはずだし、物を運ぶ方法はありそうだよね?
「荷物を運ぶ方法はあると思うよ。僕は使えるなら何でも良いけど……。あ、研究室に必要なものはあるよね。薬用の棚とか、機材を置けるテーブルとか」
確かに、これだけの薬を収納できる棚はなかったような?
「エルって、どの部屋をどういう風に使うか考えてるのかしら」
二人が唸る。
部屋割りは、特に考えて無さそうな気がする。
「なんとなくだけど……。家具をいろいろ買って、可愛い部屋とか作ってから、好きな部屋を使って良いよって言いそうな気がする」
「あー」
「あー……」
二人が、ため息を吐く。
「今回は、買い物は見送ることにしよう」
「うん」
「そうね」
「それから、買い物は、絶対にエル一人で行かせないようにしよう」
「ねー。本当に、困っちゃうわ」
先に二人に話せて良かった。
これで、ひとまず安心かな?
『ねぇ。そんなこと話してる場合?それよりも大事な話があるんじゃないの?』
「大事な話?」
『勇者に選ばれたこと、二人に言わなくて良いの?』
「あ」
「どうしたの?」
「あのね、私とエル、勇者に選ばれたの」
「勇者?」
「勇者って、物語とかに出てくる?」
「光の勇者みたいなもの?」
あんなにすごい人と並んで良いのかわからないけど……。
「うん。そうだよ」
「すごいわ、リリー」
「でも、勇者って、魔王を倒す役目があるんだよね?魔王が居るの?」
「魔王っていうか……」
あの人、魔王じゃないよね?
「空を、ずーっと雲で覆ってる人かな?」
「ずっと?雲なら、この前、晴れたよね?」
「晴れた?」
「リリーシアは見なかったの?確か、十一日だっけ。お城の方が光ったかと思うと、空が一気に晴れて。あちこちに虹も出てたんだよ」
十一日。
儀式があった日だ。
「皆、あの虹を見てたの?」
「もちろんよ。王都中の人たちが見てたと思うわ」
「屋内に居た人も皆、空を見に外に出たぐらいだから」
「そうだったんだ」
そういえば、イレーヌさんも、食堂から見えたって言ってたっけ。
「もしかして、あれって勇者に関係ある?」
「あれはね、私が使える魔法みたいなの」
「えっ?リリーの魔法って、虹を出せるの?」
「虹を出したわけじゃなくて……。空に向かって光を放って、雲に穴を開けただけだよ」
たぶん、雨上がりだったから、虹が出たんじゃないかな。
「すごいわ。そんなことが出来るの?」
「すごいね。リリーシアって、魔王が覆ってる雲を散らせるんだ」
「だから、魔王じゃなくって……」
ノックの音がして、振り返る。
扉を開いて入って来たのは……。
「エル」
「エル、おかえりなさい」
「おかえりなさい、エル」
『おかえりなさぁい』
『おかえり』
『おかえりなさい』
「ただいま」
良かった。早く帰って来れたんだ。
あ。メラニーとジオも一緒に居る。
「リリーが焼いたショコラティーヌを貰って来たんだ。お茶の時間にしよう」
「リリーのショコラティーヌ?」
「良いね」
それって、今日、オルロワール家で焼いた……。
「あっ」
『あ』
「どうしたの?リリー」
「私、オルロワール家に忘れ物……」
『全部置いて来ちゃったね』
帰りは、そのまま裏口から出てきちゃったから。預けたもの、全部忘れてきちゃった。
「全部持ってきたよ」
「ありがとう」
『オルロワール家に寄ったの?』
「私、ブリジットを手伝ってくるわね」
『ディーリシアが来ていると聞いたからな』
「僕も、すぐに行くよ」
『どこで聞いたの?』
「ふふふ。早く来ないと、なくなっちゃうわよ」
『城だ』
お城にも寄って来たんだ。
仕事の話があったのかな。
「キャロル。俺の分も残しておいて」
「わかったわ」
キャロルが手を振って、部屋を出る。
「エリクシールは完成させたのか」
「これは試作品。エルには、もっと完璧なものを提出するよ」
「頼もしいな」
「課題だからね」
ルイスが微笑む。
流石だよね。作れるだけでもすごいのに、完璧なものを目指すなんて。
エルが、エリクシールの横にあるルイスのノートを見る。
「未知のものを作れって課題じゃないぞ」
「大丈夫。……作りたい薬を思い出したんだ。だから、それに挑戦してみる」
作りたい薬?
「楽しみにしてるよ」
エルもユールも満足そうな顔をしてる。
答え、見つかったんだ。
「明日の予定は決まったのか?」
「家具は見に行かないことになったよ」
「なんで?」
……残念そうだ。
「部屋割りを決めるのが先だよ。そうしないとイメージできないからね。それに、キャロルは今のが気に入ってるから、新しい家に持って行きたいみたいだよ」
「荷物を運ぶ予定はあるけど……」
エルが、薬が並ぶ棚を眺める。
「薬、移動させたんだな」
「引っ越しも決まったし、置きっぱなしも危ないからね。少しずつ運んでるんだ」
この部屋の棚には、たくさん薬が並んでいるけど。家には、まだまだたくさん薬があるはずだ。
「危ないのは……」
「ちゃんと、研究所の人に手伝って貰ったよ」
……そっか。勝手に触っちゃいけないものもたくさんあるんだ。
「片付けも終わったし、僕、ショコラティーヌを食べに行くけど、まだ居る?」
「あぁ。先に行っててくれ」
「わかった。部屋を出る時は鍵をかけてね」
「ん」
鍵って、この部屋の鍵かな。
ルイスが机に鍵を置いて部屋を出る。
「ただいま」
「おかえりなさい、エル」
隣に座ったエルが、大きく伸びをする。
「イリス、ユール、アンジュ」
『何?』
『はぁい』
『どうしたの?』
「バニラとナターシャは居るか?」
『居ないよ』
メラニーとジオは、途中で会ったのかな。
「バニラ、ナターシャ、来い」
エルが呼ぶと、バニラとナターシャが顕現する。
「おかえり」
『ただいま、エル』
『ただいま』
これで、皆そろったよね。
エルが私の膝を枕に横になる。
疲れたのかな。
エルの柔らかい髪を撫でる。
「魔法の練習、大変だった?」
エルって、どんな訓練をするんだろう。
「予定を変えて、ルネに教わりに行ってきたんだ」
「え?ロマーノに行ったの?」
「あぁ」
だから、ジオが一緒だったんだ。
エルが指先から金色の糸を出す。
「綺麗な糸」
触れそう。
糸に触れて、指に糸を絡める。
なんだか、赤い糸で繋がれてるみたい。
……そう思った瞬間、意図が赤く染まる。
「今、何を考えてたんだ?」
「赤い糸みたいって……」
「赤い糸?」
どうしよう?
絡まった糸をほどこうとしたけど、逆にエルの手を引っ張ってしまった。
「ごめんなさい」
「良いよ」
ぴんと張った糸をエルが弾くと、弦楽器みたいに糸が震えた。
「赤い糸って?」
「エルは、知らないの?」
「精霊の傷?」
「え?」
あっ。
もしかして、メリブの体から出てた赤い糸のこと?
「あの、精霊の傷じゃなくて……。運命の人とは見えない赤い糸で繋がってるって話があるんだ」
「物語?」
「物語じゃなくて、言い伝え?」
ラングリオンにはないのかな。
それとも、エルが知らないだけ?
エルが魔法を解いて、私の手を取る。
「糸なんてなくても捕まえるし、離さないよ」
……そういうところが好き。
今、こうして居るのは、運命なんかじゃない。
自分の意思で選んだからだ。
「明日の予定はどうする?何をしたい?」
そうだ。明日の予定。
「あのね、ユリアが、皆で音楽院においでって言ってたの。キャロルも音楽院を見学したいって言ってたし、エルの先生も居るからって」
「先生?」
あれ?わからないかな。
「バイオリンの先生だって言ってたけど……」
急にエルが起き上がって、私を見る。
「ヴュータン・ソーレ?」
「名前は聞かなかったけど……」
『たぶん、そうじゃないかしらねぇ?』
「会いたい。会いに行こう」
そんなに会いたい人だったんだ。
エルが、こんなに尊敬してる人って、珍しいかも。
「今日は、後でアレクに会いに行く予定なんだ」
「アレクさんに?」
お城に行った時は会えなかったのかな。
……大陸会議だし、忙しそうだよね。
「オルロワール家にあるヴィエルジュの大樹を使う予定。夜中になるけど、一緒に行くか?」
「えっ?」
誘われた?
いつも、こういう時は、一人で行くのに?
「えっと……。一緒に行っても良いの?」
「あぁ。封印の棺のことを話さないといけないからな」
行ったところで、私、役に立てるのかな……。
でも。
「わかった。一緒に行くね」
「ん。じゃあ、ショコラティーヌを食べに行こう」
「うん」
※
エルと一緒に台所へ。
もう食べ終わったのかな。キャロルとプリュヴィエがお茶を飲んでる。
「ルイスとファルは?」
「フランカにショコラティーヌを届けに行ったわ」
フランカさんは、シャルロさんのところで働いてるんだっけ。
エルがサイフォンを出してる。
「今日は、何を作るの?」
「ロールキャベツだよ」
「わぁ。楽しみ」
上手く作れたら良いな。
コーヒーカップを用意しよう。どれにしようかな。
「そういえば、プリュヴィエは、食べられないものないのか?」
「辛いのは少し苦手です」
「ファルも苦手みたいだったわ。でも、他は大丈夫じゃないかしら」
「ん。わかった」
シンプルなカップを選んで持ってくると、エルが市場で買ったものを見ている。
そうだ。市場で貰ったもの。
「その卵は、生食出来る卵だよ。市場で、デュグレさんから貰ったの」
卵がロールキャベツに必要だったかは、ちょっと思い出せない。
「そんな卵があるの?」
「一般には、あまり出回ってないけどな」
「高級な卵なのね」
良い卵だから、エルが使わないなら、お菓子に使おうかな。
卵を使ったお菓子はいろいろある。
「シューブランにしたのか」
「シューブラン?」
「品種改良された白いキャベツだよ。使うのは初めてだな」
これ、そんなに変わったキャベツだったんだ。
「使えそう?」
「あぁ」
良かった。
八百屋さんには、いつも見かける普通のキャベツも売ってたけど。
何となく白いのを選んじゃったから。
「ブランケット・ド・シューブラン・ファルシってところか」
「どういう意味?」
「今日のコンセプトは、真っ白ロールキャベツなんだろ?」
「うん」
ブランケットは、確か白く仕上げる煮込み料理のことだ。
ファルシは、野菜で別の具材を包んだ料理だっけ。
「面白いわ。今日は、クリーム煮込みにするのね。何か手伝うことはある?」
「そうだな……」
あ。サイフォンのお湯が沸いてる。
慌ててかき混ぜてランプの火を消す。
すると、コーヒーが下の器に降りて行った。
器具を外して、用意していたコーヒーカップに注ぐ。
「怪我しないようにな」
「はい」
「はーい」
振り返ると、キャロルとプリュヴィエがじゃがいもを取り出している。
皮をむく手伝いをするのかな。
「エル、コーヒーが入ったよ」
「ん」
コーヒーをテーブルに置いて、ショコラティーヌを皿に出して、エルの隣に座る。
「いただきます」
「いただきます」
エル、食べてくれるかな。
コーヒーを飲みながらエルの方を見ると、エルがショコラティーヌを食べてる。
「美味しい?」
「あぁ。すごく美味いよ」
良かった。
「ディーリシアの為に焼いたのか?」
「えっと……。作った時は、イーシャが来るなんて知らなかったの」
会えたのは、マリーとナインシェのおかげだ。
「隊長さんの家に帰る途中、オルロワール家の中を通ってたら、ポリーからランチに誘われて。メルが帰るまでオルロワール家で待つように言われて……。その間、ジョージにショコラティーヌの作り方を教えることになったから、いっぱい作ることになったんだ」
姉妹で食べられたのは嬉しかったけど。
元々、目的は違う。
「だからね。これは、エルに食べてもらいたいなって思って作ったの」
「俺に?」
「うん。前に作ったのも食べてくれたって聞いたから」
今度は一緒に食べられたら良いなって。
『美味しそうに食べてたものねぇ』
『そうだな』
「前に食べたのも美味かったよ。パルミエもリリーが作ったのか?」
「うん。食べてくれたんだ」
「あぁ。美味かったよ」
「甘くなかった?」
「気にならなかったな」
やっぱり、エルって、前よりも甘いもの食べられるようになってるよね?
「どうした?」
「食べたいお菓子、あるかなって」
エルが首を傾げる。
「なんでも良いよ」
エルが好きなものが、もう少しわかったら良いんだけど……。
「リリーが作るものは、どれも美味いからな」
そんな風に、真っ直ぐ言われると……。
「ありがとう」
……嬉しい。
※
お茶の時間の後は、二人でロールキャベツ作りを始める。
じゃがいもの皮をむいてくれたキャロルとプリュヴィエは、遊びに行ってしまった。
二人とも、仲良しだよね。
まずは、買ってきた肉をミンサーで挽いて、ひき肉にする。
野菜を切っていたエルが私の方を見る。
「リリー。じゃがいもは、別のメニューにして良いか?」
「うん。良いよ」
何か思いついたのかな。
エルが、じゃがいもと水を軽く入れた鍋に蓋をして、火にかける。
蒸かして何かに使うみたいだ。
……出来た。
「エル、ひき肉が出来たよ」
山盛りの肉になっちゃった。
エルに見せると、エルが調味料を入れていく。
あ。卵も入れるんだ。そういえば、繋ぎになるんだっけ。
「続きは任せても良いか?」
「たくさん捏ねれば良いんだよね?」
「あぁ」
頑張って捏ねよう。
たぶん、パンを捏ねるのと、そんなに変わらないはず。
うん。楽しい。
材料が混ざって、少し粘りも出てきた。
『ルイスとファルが帰って来たな』
「ただいま」
「ただいま。何やってるの?」
「おかえりなさい。ルイス、ファル」
「おかえり。夕飯を作ってるんだよ」
エルが、茹でたシューブランの葉を並べてる。
あれで包むんだよね。
具材は、充分混ざったかな。
「エル、こんな感じで良い?」
エルの方にボールを持って行く。
「良いよ。十六個に分けて、シューブランに乗せていって」
「わかった」
等分に分ける作業もパンに似てるかも。
半分に線を引いて更に分けて。同じ重さに分ける。
それから、エルが並べたシューブランに乗せていく。
……あれ?
葉っぱが余る?
「エル、十六個で良いんだよね?」
「あぁ」
数は合ってるみたいだ。予備の葉っぱなのかな。
見ていると、エルがシューブランの上に置いた肉を手際良く包む。
「おー。面白そう」
「やるか?」
「やる!」
「ファル、料理をするなら、手を洗おう」
今度は、二人が手伝ってくれるみたいだ。
じゃあ、私は溜まった洗い物をしておこうかな。
「準備出来たぞ」
「まず最初は、こんな風に丸めて、右側を折り込んで……。くるくる巻く。巻き終わったら、左側を詰めるんだ」
「了解」
エルって、人に教えるのも好きそうだよね。
「最後は?」
「端を、こんな風に中に……。出来るか?」
子供が好きなのもあるだろうけど、何でも丁寧に教えてくれる気がする。
「これで良い?」
「良いよ」
楽しそうだ。
「僕もやるね」
「じゃあ、残りは任せる」
「あっ、破けた」
「破けたら、他の葉を使って良いよ」
後、洗い物は……。
「じゃあ、こっち」
コンロの上に、シューブランを茹でた鍋が乗っている。
「エル、その鍋も洗って良い?」
「いや。これは、このままロールキャベツを敷き詰めるんだ」
ゆで汁ごと使うんだ。
「じゃあ、出来上がったのを入れて行くね」
「巻き終わりが下になるように並べて」
「わかった」
鍋をテーブルの上に置いて、出来上がったロールキャベツを並べていく。
どれも同じ大きさで、すごく綺麗に仕上がってる。
それに、ルイスもファルも作るのが早い。
あっという間に全部終わってしまった。
「エル、出来たぞ」
エルが鍋の中を見る。
「上出来だ。綺麗に包んだな」
「まぁね」
これを煮込んでいくんだよね。
コンロに置いておこう。
「あー。疲れた」
「まだ手伝う?」
「いや。後は煮込むだけだから良いよ」
「わかった」
お手伝いは終わりみたいだ。
「リリー、皿取って」
「うん」
何に使うのかな。
とりあえず、大きめの皿にしておこう。
お皿を渡すと、エルが鍋の中から、あつあつのじゃがいもを出す。
あ。もしかして?
バターを渡すと、エルがじゃがいもの上にバターを乗せた。
「ルイス、ファル。手伝いの礼だ」
「蒸かしいも?」
「あぁ」
やっぱり。
「おー。美味そう」
「キャロルたちと食べて」
「ありがとう。食堂で食べようか。ファル、フォークを出して」
「了解」
蒸かしいもとフォークを持って、二人が出ていく。
「リリーも食べるか?」
「今は、お腹いっぱい。蒸かしたいもって、何に使うの?」
「このまま水分を飛ばして、粗く潰してサラダにするんだ」
「サラダ?」
「せっかく生で使える卵があるからな」
卵を使ったサラダってこと?
でも、茹で卵にはしないみたいだ。
エルが、卵を割って、卵黄と卵白に分けてる。
他に使うものは、オイルとビネガー、マスタードを少し。
何を作るつもりなんだろう。
「卵黄と卵白って、両方使う?」
「卵黄だけ」
「じゃあ、卵白は貰っても良い?」
「何か作るのか?」
「うん。お菓子を作ろうと思って」
「じゃあ、任せるよ」
「ありがとう」
卵白だけを使うお菓子はいろいろある。
何にしようかな。
エルも食べれそうなもの……。
でも、子供たちは甘いものが好きそうだから、甘さの調節が自分で出来るものが良いかもしれない。
なら……。
※
「いただきます」
ルイスとキャロル、ファルとプリュヴィエ。それから、帰ってきたフランカさん。
料理の並んだテーブルに、皆が座って食べ始める。
「ブリジットも座ってくれ」
「食事のお手伝いがありますから」
「今日は俺たちがやるよ」
「美味しく出来てるので、温かい内に食べて下さい」
ブリジットさんを席に案内する。
たまには、ゆっくりして貰っても良いよね。
「では、いただきますね」
ブリジットさんがそう言って、食事を始める。
これで揃ったよね。
「リリーも座って。一緒に食べよう」
「うん」
エルの隣の席に座る。
今日のメニューは、真っ白ロールキャベツと、特製ソースのじゃがいものサラダ。それから、私がお昼に焼いたブールだ。
ロールキャベツは、スプーンで切れるぐらい柔らかく煮込まれてる。
湯気の立つロールキャベツに息を吹きかけて、口に運ぶ。
うん。すごく美味しい。優しい味だ。
野菜もたくさん入ってる。
「可愛い」
星形の白い野菜。これは……。
「カリフラワーだ」
「あぁ。芯を星形に切ったんだ」
そういえば、マリーの家で見た雪の結晶も、カリフラワーで作ってたんだよね。
「今日のメニューに白い野菜を選んだのはね、この前食べたカリフラワーのポタージュが美味しかったからなんだ」
「あれが食べたかったのか?」
どうして、そうなるの。
「違うよ。味までは考えてなかったから。エルと一緒に作るのが、どんなのになるか楽しみだったんだ」
「気に入った?」
「うん。すごく美味しい」
ふんわり優しい味がする雪のように真っ白なロールキャベツ。
寒い季節にぴったりの、あったかい食べ物だよね。
「エル、このサラダに使ってるのって、何のソース?」
「すごく美味しいね、これ」
「マヨネーズだよ。生卵で作るんだ」
「えっ」
ファルが急に食べるのをやめる。
フランカさんとプリュヴィエもだ。
「心配しなくても、生で食べても平気な卵だ」
「さっき話してた高級卵ね」
「本当に大丈夫なのか?」
「心配症だな」
「ファルは一度、生卵に当たってるんだ」
当たってるって、お腹を壊したってこと?
「ビネガーも充分使ってるから、腹を壊すことはないぞ」
エルが言うなら大丈夫だよね。
きっと、安全に食べられるように加工してるはずだ。
蒸かしたじゃがいもをマヨネーズで和えたサラダを食べる。
あっ。
これ、すごく美味しい。
ちょっと入ってるマスタードも良い感じだ。
「なら、おかわり」
「あ、私がやるね」
立ち上がろうとしたブリジットさんを見て、慌ててファルのお皿を受け取る。
最初と同じぐらい入れても大丈夫かな?
「これ、開けても良いか?」
「あ、それは……」
テーブルの真ん中にある大皿の蓋をファルが取ってしまった。
中には、後で食べるお菓子が入ってるのに。
「何これ?」
「ダコワーズだよ。メレンゲのお菓子なんだ。ショコラとナッツのスプレッドと、ミラベルのジャムを加えた生クリームがあるから、好きな方を付けて食べてみて」
「美味そー」
いつの間にか立ち上がっていたブリジットさんが、ファルから蓋を取り上げて閉める。
「お食事が終わってからですよ。後で、お茶をお淹れ致しましょう」
「もう終わるって」
あっ。おかわりのサラダ、食べてくれるかな?
「ファル、これぐらいで良い?」
「良いぜ」
ファルがサラダを取って、食事に戻る。
良く見たら、ロールキャベツもまだ残ってる。でも、この勢いで食べてるなら、あっという間に空になりそうだ。
……こうやって、皆がいっぱい食べてくれると嬉しい。
エルの方を見ると、目が合う。
「皆、喜んでくれてるみたいで良かった」
「そうだな。また、一緒に作ろう」
「うん」
楽しかったから。
少しずつ、美味しいものを作れるようになろう。




