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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅶ.七色の弧
140/149

150 離さないで

 長い夢。

 世界が始まってから、今までずっと世界を見てきた一人の記憶。

 ヴィエルジュの想い。

 すごく悲しくて……。

 目を開いてるのに、視界がかすむ。

『リリー』

「イリス……?」

 声が聞こえて、目をこする。

 まだ、身体がふわふわしてる。

 視界が戻って目の前に居たのは。

「エル?」

「ただいま」

 エルが微笑む。

 あぁ……。

「会いたかった」

 エルに抱き着くと、エルが優しく私を抱きしめる。

「俺も、会いたかった」

 温かい。

 すごく。

 すごく、こうして欲しかった。

 怖かった。

 とても悲しくて。

 苦しくて……。

 涙が止まらない。

「離れないで」

 一度、手を離しただけで。

「離れないよ」

 二度と触れることのできない関係になってしまったから。

「愛してる」

 伝えられなかった想い。

「愛してる」

 昔は、この感情を伝える言葉が存在しなかった。

 

 生まれてからずっと、神の庇護の元、何の心配も不自由もなく生きてきた。

 言われた通りにすれば、何もかもすべて上手くいった。

 けれど。

 彼は、それを変えた。

 自分の力で、あらゆるものを導いた。

 そして、彼女も同じように変わった。

 彼に憧れて。

 

 エルが、私の背を優しく撫でる。

 少しずつ、視界が戻っていく。

 エルが私の体を起こして、私の目に触れる。

 温かい光……。

 癒しの魔法だ。

「帰ろう」

「……うん」

 

 ※

 

 エルと一緒に、ヴィエルジュの所に戻る。

「リリーシア。……大丈夫か?」

「え?」

『リリーは、急に倒れて意識を失ったんだよ。だから、皆、心配してたんだ』

 そうだったんだ。

「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ」

「そうか」

 私がヴィエルジュの過去の記憶を見てしまったこと、ヴィエルジュは気づいてないのかな。

 ……あれ?

「私、ここで倒れたんだよね?」

『今更、気づいたの?』

 私が目覚めた場所は、湖のほとりだった。

『戻って来たエルが、リリーを湖に連れて行ったんだ』

「せっかく来たから、グラム湖を見に行ったんだよ」

 そうだったんだ。

『綺麗な場所だったわ』

「うん。海みたいに広い湖だったよね」

『そうだねー』

 あれだけ広いなら、森を含めたこの場所がグラム湖って呼ばれるのも頷けるかも。

「そろそろ行こう。ヴィエルジュ、城に連れて行ってくれ」

「了解した」

 大樹の洞が閉じて。

 

 転移する……。

 

 出口が開いて、明かりが差し込む。

 アレクさんが使ってる部屋のバルコニーだ。

「ありがとう。ヴィエルジュ」

「助かったよ」

 エルと一緒に大樹から出る。

 

 そして、バルコニーから部屋の中へ。

「お帰りなさいませ、エルロック様。リリーシア様」

「ただいま」

「ただいま、エミリー」

 ここに居るのは、エミリーだけ?

 ……そっか。皆、大陸会議だから忙しいんだよね。

「エルロック様。アレクシス様よりお言付けがございます」

「伝言?」

「はい。武具で入用なものがございましたら、何なりとお申し付けください。こちらにいくつか御用意いたしましたが、宝物塔の武具も自由に持ち出して良いとのことです」

 サンゲタルがある。

 アレクさんが気に入ってる剣なのに、持ち歩かなくて良いのかな……?

 後は、サーベルと、エルが剣術大会で使ってた刀。

「これ、借りて行っても良いか?」

「どうぞ、お持ちください」

 エルが選んだのは……。

「エル、それを使うの?」

「エイルリオンとジュレイドは、あいつにしか効果が無いからな。他のものと戦う必要が出てきたら、普通の剣も必要だろ?」

「そっか」

 普通の武器も持ってた方が良いよね。

「リリーは良いのか?」

「私は、リュヌリアンとカーネリアンがあれば大丈夫」

 あの人と戦うなら、慣れた武器じゃないと難しそうだ。

 

 ※

 

 エルと一緒に、お城を出て、サウスストリートを真っ直ぐ歩く。

 帰ろうって、やっぱり、家に帰るって意味だったんだ。

 

 エルと一緒に家に帰る。

 そういえば。

「誰にも会わなかったね」

「そうだな」

 ちょっと珍しいかも。

 いつもなら、この辺を歩いていたら誰かに会うのに。

 お店の中を眺める。

「あれ?お店を開いた跡がある」

「開いた跡?」

「ほら。薬が減ってる」

 ここまで減ってたら、いつもなら補充するはずだ。

「本当だ。良く気付いたな」

 ルイスがお店を開いてるんだよね。

 減ってるのは、風邪薬。

 寒いから風邪が流行ってるのかもしれない。

 後で補充しておかなくちゃ。

 

 キッチンへ行くと、エルが慣れた手つきでコーヒーの準備を始める。

「何か手伝う?」

「コーヒーを淹れるだけだから良いよ。……っていうか、ランチはグラム湖で食べてきても良かったな」

 最初は、ピクニックのつもりだったっけ。

「大丈夫。ここなら、あったかいコーヒーを飲めるよ」

「そうだな」

 それに。

 少し歩いて、気分転換も出来たから。

 お皿を出して、テーブルにランチの準備を整える。

 コーヒーの良い匂い。

 エルの方を見ると、エルが私を抱きしめる。

「愛してる。リリー」

「エル、愛してる」

 温もりに包んで。

 もっと近くで、触れていたい。

 

「私ね。ヴィエルジュの過去を見たの」

 さっきの不思議な体験。

「俺は、あいつの過去を見てきた」

「エルも見たの?」

「あぁ。ジュレイドで」

 ジュレイドで?

 確か、私はエイルリオンに触れて気を失ったはずだ。

 エイルリオンとジュレイドは、二人の記憶を持っていたの?

「ヴィエルジュは、この気持ちが何か知らないのかな」

 あの想いは、間違いなく愛。

「知ってるんじゃないか?」

 ……そうだよね。

「でも、きっと、あの人には伝えてないよね」

「だろうな」

―これでもう、何ものにも邪魔されることなく、共に過ごせる。

―一緒に行こう。

 でも……。

―これ以上、何も壊さないで。

 ヴィエルジュは、断った。

 彼が、あまりにも変わってしまったから。

 このままでは、すべて壊されてしまう。

 そして、弱いものを守るものが何一つなくなってしまう。

「どこで、すれ違っちゃったのかな」

 ヴィエルジュが最後に見た世界は、とても安定していて。神さまの力やヴィエルジュの力が無くても、充分に平和を保っていた。

 でも。

 リラとアルテアの物語のように、二人が二人だけで過ごしている間に。

 世界は崩壊した。

 ……あまりにも、無惨な姿に。

 その結果、ヴィエルジュが今までやって来た役目は、全部、あの人の義務となって。ヴィエルジュがやることは何もなくなって。世界を静観することしかできなくなってしまった。

 でも、そんな風に大人しく待っているだけなんて無理だよね。

 いつまでも蚊帳の外に置かれたままでは居られない。

 ヴィエルジュは、世界を元に戻す為、あの人を手伝う為に、力を求めた。

 だから、アンシェラートを頼ることにしただけ。

「ただ、もう一度、会いたかっただけなのに」

「ただ、もう一度、会いたかっただけなのに」

 エルと顔を合わせる。

「あの人も、そうだったの?」

「そうだよ。会う為だけに行動してた。その結果だ」

「ヴィエルジュもだよ。でも……」

 結果的に、ヴィエルジュはあらゆるものを守る盾の役目を選んだ。

 そして。

 もう一度、手を取り合うことを諦めた。

「あの人を元に戻せば、二人は、やり直せるのかな」

「……戻せない」

「え?」

「エイルリオンとジュレイドで本来あるべき姿に戻すことは可能だ。でも、戻したところで、封印の棺や精霊が存在する限り、あいつが力を手に入れる方法は存在する」

「精霊も?」

「そう。だから……」

 本来あるべき姿に戻すだけじゃ、だめ……?

 じゃあ、どうしたら……。

「もっと、気持ちをぶつけあうことが出来たら良いのに」

「あいつとヴィエルジュが?」

「うん。お互いの不安なことも、辛いことも、愛してることも、全部。……言えたら、こんなすれ違いは起きてなかったんじゃないかって」

 想いは同じだって。

「教えて」

「え?」

「不安なことも、辛いことも。……たとえそれが、俺が解決できることじゃなくても」

「エル……」

 そうだ。

 私たちも同じ。

 エルが、私の気持ちを聞いてくれて。

 私と一緒に居ることを望んでくれてるって。

 私のことが、一番大切だって……。

 ちゃんと話し合えたから、今がある。

「エル。あの人と賭けをしよう」

「賭け?」

「私たちが勝ったら、ヴィエルジュに告白してもらうの」

「……」

 やっぱり、伝えたい気持ちがあるなら、ちゃんと言葉にしなくちゃ伝わらない。

「まず、賭けをするなら対価が必要だ」

 対価……?

「あの人の願いを聞くとか?」

「誰が?」

「誰って……」

「勇者の敗北は、俺たちを支援してくれたすべての人間、精霊と妖精たちの敗北なんだ。あいつと賭けをするなら、全部巻き込むことになる。だから、下手な交渉は出来ない」

 他の人も、精霊も妖精も巻き込むことは出来ない。

 世界が欲しいって言われても困るよね。

 確か、あの人が一番欲しいのは、ヴィエルジュの種だっけ。

 でも、それは無理だから……。

「封印の棺は?」

「封印の棺?」

「私たちが負けたら、封印の棺を一つ渡すの。それなら、他の人は巻き込まないでしょ?」

 あの人が、神の力を欲しがってるのは確かだよね。

「本気で、あいつと交渉するつもりか?」

「だめ?」

 エルが頭を抱える。

 あの人がヴィエルジュのことを好きなら、賭けに乗ってくれると思うんだけど……。

「わかったよ」

「ありがとう!エル」

「封印を解いた棺を一つ、ヴィエルジュに運んでもらおう」

「えっ?解いてから持って行くの?」

「あいつと砂漠で戦っただろ?あいつは、封印されてる棺の所在は知ってるんだ。だから、封印を解いた棺じゃないと交渉にならない」

「そっか」

 そういえば、あの人は私を人質にして、エルに封印の棺を開けって言ったんだっけ。

 あの人は、封印の棺を開くことが出来ないし、封印を解くことも出来ない。

 あれ?

 それって、私たちも?

―封印魔法は必ず対になる力じゃないと解くことはできない。

―月の力で封印されたものは、太陽の力でなければ解くことはできないってわけだ。

「どうやって封印を解くの?」

 エルが封印し直したのに。

「俺が封印したものは、リリーが解ける」

「え?」

 どういうこと?

「そのままの意味。俺が描いた魔法陣に向かって、リリーが封印解除って言えば良いだけ」

「そんなに簡単に解けちゃうものなの?」

「リリーなら出来るよ」

 私の中にある神の力を使って?

 エルが言うなら、出来るのかな……。

「リリー」

 エルが私を抱きしめる。

 賭けに勝って、あの人がヴィエルジュに告白したら、ヴィエルジュは、なんて答えるのかな。

 私は、エルを好きになって。

 エルと結ばれて。

 真っ直ぐに気持ちを受け止めてくれる存在と愛しあえる喜びを知って。

 あの夜。

 エルが、私の気持ちに寄り添ってくれて。たくさん話し合えて。

 そして。

―リリー。俺の一番大切な人になって。

 あの言葉が、すごく嬉しかったから……。

「愛してるよ」

 今、幸せだから。

「愛してる」

 ヴィエルジュの記憶を見て。

 きっと、ヴィエルジュも、あの人の気持ちを知ったら嬉しいだろうなって思ったから。

 だから、大丈夫。

「怖くないか?」

「怖くないよ」

 エルの紅の瞳を見つめる。

「外に出たら、世界が終わってるかも」

「それでも、一緒に居て」

 離さないで。私を。

 


「sept:七」+「arche:アーチ」

→七色の弧


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