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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
14/149

11 待ってる時間は長い

 エルは全然起きない。

 あれからずっと、部屋で寝たままだ。

「リリー、私、もう寝るわ。エルが起きたら、グラタン温めてあげてね」

「うん。わかった。おやすみ、キャロル」

 キャロルが欠伸をしながら台所を出て行く。

 夕飯も終わって、寝る支度も終わって。

 エル、このまま起きずに朝まで寝ちゃうのかな……。

 マリーから借りた本を読んでいると、今度はルイスが台所に顔を出す。

「エル、まだ起きないの?」

「うん」

「僕もそろそろ寝るね。リリーシア。エルに、店を開けるのかどうか聞いておいてくれない?」

「わかった」

「エル、いつまで死んだことになってるのかな」

「二か月ぐらいって言ってたよ」

 アレクさんが。

「二か月も?……エルは王都に居るのに。旅に出てるのと変わらないことになるなんて、思ってなかったな」

 確かにそうかも。

「でも、無事だってわかって良かった」

「本当にね。人を心配させてるなんて思ってないよ、エル。リリーシアはもっと怒って良いと思うよ」

 マリーにも言われたな。

「怒らないよ」

「どうして?」

「エルは、いつも自分より誰かのことを考えてるから」

「……そうだね」

 だから今日だって無理して帰ってくれたんだ。

 そして、アレクさんの為にアレクさんを手伝ってるんだよね。

 アレクさんが望まない婚約をしないように。

 私も何かできないかな……。

「ねぇ、ルイス」

「うん」

「私、剣術大会に出ようかな」

「え?出ないんじゃなかったの?」

「うん。エルには内緒にしておいてくれる?」

「良いけど。どうして気が変わったの?何か叶えたい願いでもあるの?」

「叶えたい願いがあるわけじゃないけど……。もしかしたら、エルを手伝えるかもしれないと思って」

 剣術大会で勝ち進めば、アレクさんの婚約者候補を倒せるってことだよね。

「そうなんだ。内緒って、偽名で出場するつもり?」

「そっか。偽名で出場しても良いんだよね」

 エルが知ったら反対しそうだから。全部内緒にして、何か偽名を考えておこう。

「リリーシア、剣術大会はオルロワール家が管理してるって知ってる?」

「そうなの?」

「そうだよ。だから、マリーに協力してもらったら良いんじゃないかな」

「ありがとう。聞きに行ってみる」

「喪服を着て?」

「……うん」

 あの服を着ることも、エルに協力することになるはずだから……。

「リリーシア。どうしてそんなに嫌なの?その理由ってさ、スカートが苦手だから、だけ?」

「え?」

「……ねぇ、イリス、居る?」

「居ないよ。イリスはエルと一緒に居るの」

「そうなんだ。イリスに聞こうと思ったのに」

 どうしてルイスとイリスって仲が良いんだろう。

「僕は似合うと思うよ。エルはお世辞なんて言わない。似合わないって言う人がいたら教えて。僕が怒りに行ってあげる」

「えっ、怒るの?」

「怒るよ。だから、エルの為に着てあげなよ」

 エル、そんなに私にあの服着て欲しいのかな。

「ちゃんと着るよ。だから、怒らないで」

「そう?なら良いけど。……おやすみなさい、リリーシア。エルによろしくね」

「うん。おやすみ、ルイス」

 今、イリスがここに居たら、絶対ルイスに味方したんだろうな。


 ※


 エルの部屋に戻って、眠っているエルの隣に座る。

 本当にぐっすり眠ってる。

 しばらく、ゆっくり休む暇がなかったのかな。

 起きるまで本を読んで待ってよう。

 スピカを抱いて、エルからもらった眼鏡をかける。


 マリーから借りたのは眠り姫の物語をベースにした恋物語。

 眠り姫の物語もすごく好き。

 雪のように白い肌、黒曜石のように輝く艶のある、黒く長い髪を持つ美しいお姫様。

 彼女は永遠に年を取らない代わりに、永遠に目覚めることのない呪いをかけられた。

 ガラスの棺の中で百年間眠り続けた末、運命の王子様のキスで目覚めて幸せになる。

 眠り姫のお話しにはいくつかバリエーションがある。お姫様が金髪のこともあるし、棺がガラスじゃなくて豪華な箱だったり、ベッドで普通に眠っている場合もある。眠っている間守ってくれる精霊が居たり、魔法使いが居たりと色々だ。

 でも、大筋はだいたい同じ。

 眠っているお姫様に王子様がキスをして、呪いを解くのだ。


 本を読んでると、急にエルが体を起こす。

「エル、起きたの?」

 エルがこちらを見る。

「今って……」

「もう夜中だよ」

「……寝過ぎた」

 そんなに寝る気なかったのかな。

「すごく気持ち良さそうに寝てた」

『爆睡だったわね』

「久しぶりにぐっすり寝た」

「良かった」

 ゆっくり休めて。

「夕飯の支度するね。キャロルがグラタンを作ってくれたんだ。焼き直すから待ってて」

「じゃあ、その間にシャワー浴びて来る。……あ。そうだ」

「うん?」

「明日から店開けてってルイスに伝えておいて。注文は、知り合いからなら受けていいよ」

「うん。わかった」

 エルとルイスって、考えてることが一緒。


 ※


『これぐらいで大丈夫?』

「うん」

 アンジュが助けてくれたから、すぐに焼き上がるんじゃないかな。

 エルがアンジュとイリスを置いて行ってくれたのだ。

『ねぇ、リリー』

「何?イリス」

『あれ、話しておかなくて良いの?……アヤスギが来たこと』

「あ」

 すっかり忘れてた。

 なんだか色んなことがありすぎて。

『忘れてたね?』

「うん。イリスが話しておいてくれても良かったのに」

『刀を貰ったことも話して良かったの?』

「それは、ちょっと……」

 あの太刀のこと、エルは全く気付いてないよね。

 ルイスとキャロルも気づいてないみたいだった。

 そうだ。剣術大会、あの太刀で出場しようかな。

「ポラリスのお店ってどこだっけ?」

『わからないの?』

「えっと……」

『サウスストリートを歩いていれば、イースト側にあるはずだよ。迷ったら守備隊にでも案内を頼んだら?』

「……うん」

 サウスストリート沿いには、武器屋も鍛冶屋もなかったはず。

 だから、アヤスギさんの店があればきっとわかるよね。

『リリー、まだ焼く?』

「あ、そろそろ良いかも。ありがとう、アンジュ」

 オーブンを開けて、グラタンを取り出す。

 良い匂い。

 ティーポットに茶葉を入れて紅茶を蒸らしているところで、エルが台所に入って来た。

『エル』

「リリーを手伝ってくれてありがとう、アンジュ」

 アンジュがエルの体に帰って行く。

 椅子に座ったエルの後ろに行って、エルの濡れた髪をタオルで拭く。

「あのね、言うの遅くなっちゃったんだけど、大晦日にアヤスギさんが来たんだ」

「アヤスギって?」

 あ。エルは名前を知らないんだっけ?

「セルメアの鍛冶屋だって」

「あー、刀鍛冶か」

 覚えてるのかな。

「今度、王都でお店を開くんだって。場所は、ポラリスのお店って言ってたよ」

「そうか」

 刀を貰ったかなんて……、聞かれないよね。

「それから、ムラサメさん」

「村雨?」

「アヤスギさんと一緒に来た人。剣術大会に出場するみたい」

「どんな奴?」

「えっと……。私と同じ黒髪で黒い瞳の男の人」

『リリー、口説かれそうになってたのよぉ』

「え?」

「えっ。そんなことないよ」

 別に何も言われてないのに。

「剣術大会に出るんだっけ?」

「えっ?……あ、うん。出るって言ってたよ、ムラサメさん」

 私のことじゃないよね?

 エルの頭を乾かしていたタオルを取って、椅子にかける。

 そうだ。紅茶、蒸らしてたんだ。

 ティーポットに入ったままの紅茶をカップに移す。

 色が濃い。

「少し濃く出すぎちゃったかも」

 苦かったら淹れ直さなくちゃ。

 エルの前にカップを一つ置く。

 それから椅子に座って、自分の紅茶を飲む。

 大丈夫かな。

「リリー。俺の光って、金色に見えるのか?」

「うん」

 眼鏡をずらしてエルを見る。エルの色は金色。砂の精霊の色。

「エルはいつも特別だよ。金色の光なんて砂漠じゃないと見かけないからすごく目立つ」

「……眼鏡をかけてたら見えないんだっけ?」

「うん。そういえば、鏡越しでも見えないみたい」

 この前、イリスは鏡には映っていなかった。

「光ってるって、具体的にどの辺りが光ってるんだ?」

「心臓のあたりが一番強い」

 だから、エルの胸に顔をうずめると、エルに包まれている感じがして安心する。

 エルは、すべてにおいて私にとって特別。

 紅茶を飲みながら、親指の指輪を見る。

 エルが私にくれた精霊玉。

 ……そういえば。

「あのね、エル。私、エイダから精霊玉を貰ってたんだ。エイダは私の短剣につけてくれたんだけど……。あの精霊玉、今は何故かルビーになってるの」

「エイダの精霊玉とルビーって、そんなに違うものか?」

「違うよ」

 だから。

 この精霊玉を持っていれば、エルに何かあったらすぐにわかるのかもしれない。

 エルとは、しばらく離れていなきゃいけないみたいだから……。

「あの……、夕飯食べたら、すぐに出かけちゃう?」

 エルは、お城に戻らなきゃいけない。

「試してくる」

「え?」

 エルが突然立ち上がって、廊下に出る。

 描いている魔法陣は……。

「転移の魔法陣?」

 しかも、入口と出口の二つ。

 私が知ってるのと少し図柄が違うような気がする?気のせいかな。

「イリス、ちょっと留守番しててくれ」

『了解』

 エルが転移の魔法陣の入口に、手をつく。

 あれ?これ、もしかして……。砂の魔法?

 目を閉じて集中していたエルが、顔を上げて私を見る。

「?」

 そして、もう一度目を閉じて俯いて……。

 転移の魔法陣が、起動した。

「エル?」

 消えた。

「ねぇ、イリス。エルはどこに飛んだの?」

『城に魔法陣の出口を設置して来たんだよ』

「どういうこと?エル、自分の魔力で繋いでるの?」

『原理はボクにも上手く説明できないけど……。ほら、アレクがドラゴンから落ちたエルを助けただろ?あの時、アレクは出口を描いて、エルは入口を描いた。そして、砂の精霊の力で空間を繋いだんだ。それの応用が出来ないか検証してたみたいだよ』

「そんなこと、簡単に出来るの?」

『さぁ?すぐ戻って来るんだから、聞いてみたら?』

 本当に、すぐ戻って来るのかな。

 転移の魔法陣を眺める。

 ……来ない。

「遅い。何かあったのかな」

『遅いとは思わないけど』

「帰って来るんだよね?」

『エルが食事の途中で消えるって言うの?』

 そういえば、まだ食べ終わってなかったよね、グラタン。

「私も魔法陣が使えたら会いに行きやすいのかな」

『精霊と契約すれば良いんじゃない?』

「イリスと半分契約してるよ」

『リリー。氷の大精霊はボクをリリーの為に生んだ。元の契約者の意思に従って、氷の大精霊の意思に従って、ボクはリリーを守っていたんだ。今のエルとアンジュに近い関係で、これは正式に契約してるとは言わない。正確に言えば、契約が不要な関係』

「契約をしていないのに契約関係にあるってこと?」

『簡単に言えばそうだね。でも、ボクはエルの体の一部をもらって正式に契約したから、エルとの繋がりの方が強くなった』

 つまり……?

「イリス、姿を現せ」

『リリー』

 イリスを呼び出すと、イリスが消える。

 ……そして、イリスが私の目の前に現れる。

「呼び出せるよ」

『なんでだろうね。リリーとの繋がりは徐々に消えて、リリーはボクを呼び出すことも、魔法を使うことも出来なくなると思ってたのに。一緒に過ごした時間が長いからかな。まだ繋がりが残ってるなんて』

「私、魔法も使えるの?」

『使えるかもしれないね。でも、ボクが傍に居なかったら意味ないよ』

「どうして?」

『契約している精霊は、魔法の媒介になる。リリーはボクの氷の力を引き出して、自分の魔力に乗せて放つんだ。ボクが傍に居なかったら、力をうまく引き出せないよ』

「そっか」

 契約中の精霊って、あんまり傍から離れちゃいけないんだ。

 イリスが傍に居ない状態では魔法は使えない。


 転移の魔法陣の出口が光る。

 そして、エルが転移の魔法陣の出口から現れた。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 エルが魔法陣を消す。

 さっきまで淡く輝いていた魔法陣は光を失って消えた。

「エル、転移の魔法陣が使えるようになったの?」

「限定された状況でなら。俺もまだ完璧に理解してるわけじゃない。……俺だけが使えるんなら、家に描いて毎日帰って来るんだけどな」

 出口を描きっぱなしにするのは、やっぱり危険なんだ。

 ……エルが毎日帰って来てくれたら嬉しいんだけど。

 でも、また帰って来てくれるよね。

「待ってるよ。帰って来るの」

「次、いつ帰れるかわからないぞ」

「それでも良いの。エルが帰る場所がここだから」

 今日、帰って来てくれたことがすごく嬉しいの。

「本当に、大人しく待ってられるか?」

 大人しく?

「えっと……。たぶん」

 そう言われると自信がない。

 剣術大会に出ることだって、内緒にしてるし。

 


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