147 虹を架ける騎士
部屋の中が急に明るくなる。
精霊の光?
アイフェルに、デルフィ。見覚えのある精霊たち。
他にも、見たことのない大精霊や精霊、妖精たちがたくさん。
見上げると、通気口から皆が入って来てるのが見えた。
『お客さんが、いっぱい居るね』
『エルも鍵で見てみたら?』
どうして、こんなに精霊が?
鍵を使って見たエルも驚いてるみたいだ。
円卓の方では、部屋に入って来た人たちが円卓の周りを歩いている。
国王陛下に、メルとハルトさん。他にもたくさん。
皆、大陸会議の代表だよね。
『エル』
イリスがエルを呼ぶと、エルが鍵を仕舞って姿勢を正す。
国王陛下が前にある席へ行った。
アレクさんが扉を閉めて、カイトスさん、ミラさん、アルニタクさんと一緒に円卓の前へ行く。
これから、何が始まるの?
「神聖王国クエスタニア代表、ハルトヴィヒ王太子殿下」
「はい」
「ティルフィグン王国代表、ジョヴァンニ国王陛下」
「はい」
「ディラッシュ王国代表、ハーラル王太子殿下」
「はい」
「グラシアル女王国代表、メルリシア大使閣下」
「はい」
「ラ・セルメア共和国代表、ヴィルサー大統領閣下」
「はい」
「メヘン同盟代表、サフィール盟主閣下」
「はい」
「パウリナ王国代表、アクイロリス王子殿下」
「はい」
「アルマデル王国代表、ルミナリア王女殿下」
「はい」
「本日は、お集まりいただきありがとうございます。今回、議長として進行役を務める、ラングリオン王国国王、アントワーヌと申します。それでは、契約のスートの所有者をご紹介いたしましょう」
スート?一揃いって意味だっけ。
「契約の杯の所有者。サダルスウド」
「契約の剣の所有者。カイトス」
「契約の杖の所有者。ミラ」
「契約の貨の所有者。アルニタク」
サダルスウド。
アレクさんも星の名を使うんだ。
契約の杯って……。
「次に、今回の客人のご紹介を。ロマーノの長老、イザヴェラ様」
「はい」
「エルロック」
「はい」
「リリーシア」
「はい」
「以上で御紹介を終了いたします。参加者に異議のある方は発言を」
国王陛下が見てるのは、参加者だけじゃない。大精霊の方も見てる。
もしかして、今、大精霊は顕現してる?
精霊や妖精は顕現してるように見えないけど。大精霊は姿を見せてるみたいだ。
アイフェルとデルフィ、それから、闇の大精霊、水の大精霊、大地の大精霊。
「では、皆様、ご着席下さい」
円卓の周りに居た人たちが椅子に座る。
『リリーもだよ』
急いで椅子に座る。
私にも席があるんだった。
「これより契約の議題に移ります。発言をしたい方は、起立願います」
契約の議題。
アレクさんとイザヴェラ様が話してたことだよね。
「今回の議題は二点。まず、一点目は、古い契約の破棄です。かつて、クレアという種族とブラッドという種族は、大地を分かち、お互いに不可侵とする契約を結びました。今回はこの契約の破棄を宣言します。異議のある方は、御起立の上、発言を」
クレアとブラッド。
ここに居る人たちは全部知ってるのかな。
……知ってるよね。そうじゃなきゃ、話し合いにならない。
お互いに不可侵とする契約が、アレクさんの言う不平等な契約だったの?
―ようこそ、ロマーノへ。里の代表としてお前を歓迎しよう。
ロマーノで、私はイザヴェラ様に歓迎された。
―皆様を歓迎いたします。
―ラングリオン王国を代表し、クレアの皆様、そして、イザヴェラ様を客人として歓迎いたします。
ラングリオンで、イザヴェラ様はロザリーからもアレクさんからも歓迎の言葉を貰ってる。
もしかしたら、これはお互いに言わなければならないことだったのかもしれない。
「異議なしの為、次の議題に移ります」
あれ?もう終わり?
「議題の二点目は、勇者の選出です」
え?勇者?
選出って……。これから皆で、勇者を決めるってこと?
「かつて、光の勇者やラングリオン初代国王も、同じ方法でアンシェラートに祝福され、勇者に選ばれております」
知らなかった。初代国王って、勇者だったんだ。
アルファド帝国と戦った英雄だし、勇者でもおかしくなさそうだけど。
「今回、ヴェラチュールと名乗る世界の脅威に対し、私たちは勇者の選出を目指します。私は、エルロック、リリーシア。この二名を、勇者として推薦します」
「!」
「え……?」
私?
エルはわかるけど、私まで?
「異議のある方は、御起立の上、発言を」
「陛下、」
エルが立ち上がる。
「エルロック。発言をどうぞ」
「勇者は、歴史の中で魔王と戦う存在です。今、世界は勇者なんて必要としていない」
「陛下。反論を」
「サダルスウド。発言をどうぞ」
……ここでは、アレクさんの名前を呼んじゃいけないのかな。
契約の何かの所有者だから?
もしかしたら、カイトスさんたちも本名じゃないのかもしれない。
星の名前だし。
「勇者とは、この地に生きるものの希望となる存在。皆様も御存知のように、この地は今、ヴェラチュールと呼ばれる存在の脅威にさらされています。この脅威に対抗できる力を持つ者は、エルロックとリリーシアの両名だけ」
違う。
「そして、彼との戦いは、大陸のどこで起きるか予測出来ません。つまり、大陸のあらゆる場所での戦闘行為の許可、及び、大陸に生きるすべての者の支援が必要なのです。これには、我々人間の支援はもちろん、精霊の支援も含みます。つまり、勇者の選出は必要なことであると考えます」
勇者に相応しいのは、エイルリオンとジュレイドを使えるエルだけだ。
「こちらからも意見を述べようか」
アイフェル?
「発言をどうぞ」
「私は、勇者の選出に賛成だ。エルロック、リリーシア。君たちはあいつと戦うことを決めていて、勇者の肩書きなんて必要ないと考えているだろう。でもね。私たちが手伝いたいと考えても、今のままでは手伝う度に契約が必要になる。けれど、君たちが勇者となれば、私たちは、世界の希望となる君たちを神の意思に従って自由に支援出来るんだ。これは、十分、お互いにメリットがあることだと思うよ。……何より、気まぐれな風の精霊に邪魔されることもなくなるだろうからね」
「なんだい。失礼な言い草だね。私はいつだって二人の味方だったじゃないか」
二人まで……。
どうして、エルだけじゃなく、私も?
「他に発言がある方はどうぞ」
「陛下。発言の許可を」
「メルリシア様。発言をどうぞ」
メル。
「勇者の選出という、大陸の未来に関わる話し合いに参加出来て光栄です。……エルロック。あなたには守るべき人が居るはずです。その為に出来ることがあるなら、あらゆる方法を試すべきです。リリーシア。あなたの実力は私が誰よりも知っています。ラングリオン王国の剣術大会で優勝を果たしたのが、何よりの証拠。私はエルロックとリリーシアが勇者となることに強く賛成します」
メルも、エルのことを認めてるんだ。
「陛下。私からもよろしいでしょうか」
「ハルトヴィヒ様。発言をどうぞ」
ハルトさん。
「クエスタニアにもヴェラチュールと関係のあるものが現れ、都市を攻撃する事態が起きました。その脅威に対抗することが出来たのは、エルロック様とリリーシア様、そして、その仲間であったと聞いております。歴史の中で、魔王は常に拠点を持ち、そこに存在しておりましたが、今回はどうやら違うように感じます。勇者を選出し、大陸を上げて脅威に立ち向かうことは必要だと考えます。また、このように前例のない事態に対し、勇者を二名選出することにも私は賛成です」
あの時戦ったのは、ジュレイドを持ったエルと、エイルリオンを持ったリックさんなのに。
「陛下。発言の許可を」
「ヴィルサー様。発言をどうぞ」
えっと……。ラ・セルメア共和国の大統領だよね。
「私は、勇者の選出には賛成の立場です。しかし、勇者を二名選出することには疑問があります。歴史で語られる勇者は常に一人。そして、志を共にする仲間が付き添っております。ラングリオン初代国王もまた、仲間と共に大陸の脅威に立ち向かっております。私たちは、勇者の仲間が行う戦闘行為に対し、常に寛容でありました。今回もそれは変わりません。ですから、私には、わざわざ二名選ばなければならない理由が見当たりません。その上で、私は勇者としてエルロック様を推薦します。たった一人で戦争を終結させた手腕は、吟遊詩人もこぞって歌った史実。彼の実力は、ここにいらっしゃる皆様ならご存知のことでしょう」
皆、エルの実力は知ってるんだ。
……本当に、エルってすごい。
「陛下。発言の許可を」
「アクイロリス様。発言をどうぞ」
この人は、港でも会った。
パウリナ国の王子だ。
「私は勇者の選出に関し、残念ながら、皆様ほど詳しい情報を持ち合わせておりません。それでも、エルロック様のご活躍は、遠く我が国まで届いております。皆様が仰る通り、勇者に相応しい方なのだと想像できます。しかし、リリーシア様に関しては、私の国まで届くようなお噂を聞いたことはございません。私は勇者を二名選ぶことについて反対するつもりはありませんが、それでも、リリーシア様を積極的に勇者に推薦する理由を持ち合わせてはいないのです。どうか、皆様のご意見をお聞かせ願えますか」
私、剣術大会だって不戦勝だったし、エルみたいに魔法を上手く使えるわけでもない。
なのに。どうして……。
「陛下。発言の許可を」
「サフィール様。発言をどうぞ」
メヘン同盟の盟主様だ。
「エルロック様のご活躍は、遠く西南の地まで届いております。魔法使いとしての活躍もさることながら、様々な難事を解決される手腕もまた見事なものです。そして、リリーシア様。グラシアル御出身にも関わらず、短い期間で皇太子近衛騎士に任命されることとなったのも実力ゆえでしょう。ワイバーンにも匹敵する巨大セイレーンの討伐、そして、外海からやって来た巨大なケトスに勇敢に立ち向かうお姿は、まさに勇者に相応しいと感じました。私は、エルロック様とリリーシア様が勇者となられることに賛成いたします」
でも……。
あの時だって、一人じゃ何もできなかった。
ポリーやバニー、シールと王国兵士の子たちが居たから戦えた。
「陛下。発言の許可を」
「ルミナリア様。発言をどうぞ」
アルマデル国の王女様。
「私もアクイロリス様同様、エルロック様のお話は耳にすることがございます。武勇にも魔法の扱いにも長けた方でいらっしゃると。そして、リリーシア様は、メルリシア様、ハルトヴィヒ様、サフィール様のお話を聞く限り、とても武勇に優れた方とお見受けします」
私が誇れることなんて……。
「ただ、リリーシア様のお力について、私から質問がございます。私がラングリオン王国に船で到着する頃、急に港が晴れ渡るという不思議なことが起こりました。空は雲に覆われ、太陽が一切顔を覗かせていないというのに。まるで私たちの船を歓迎するかのように周囲の海だけが明るくなったのです。不思議に思った私は、望遠鏡を覗きました。すると、光の中心にはリリーシア様がいらっしゃったのです。あれは、リリーシア様のお力なのでしょうか」
それって、港でやってた魔法の練習のこと?
「リリーシア。返答をどうぞ」
「えっ?」
『リリー、立って』
そうだ、立たなくちゃ。
「はい。……あれは、私の魔法です」
どうしよう。
魔法のことなんて全然わからないのに。
これ以上、答えられることなんて何もないのに。
「お答え頂き、ありがとうございます。やはり、リリーシア様は、特別な魔法をお使いになられるのですね。私は、エルロック様、リリーシア様の両名が勇者となられることに賛成いたします」
特別な魔法?
「陛下。発言の許可を」
「ハーラル様。発言をどうぞ」
えっと……。ディラッシュ王国の王太子殿下だっけ。
「私も、エルロック様は勇者に相応しいと考えております。しかし、多くの皆様同様、リリーシア様に関する情報を持ち合わせておりません。そして、天気を晴れに変化させるという魔法の存在も知りません。光の魔法ならば、一瞬、周囲を照らして終わりのはずでしょう。しかし、ルミナリア様のお話は、それとは違う御様子です。もし、誰も知らない魔法が使えるというならば、リリーシア様は、精霊や神から特別な力を授かっている方ではないでしょうか。それならば、まさに勇者に相応しい方であると思うのです。リリーシア様。その魔法を今、見せていただくことは出来ないでしょうか」
今っ?
「面白いじゃないか」
デルフィ?
「私も君の魔法を間近で見たいと思っていたんだ。君の魔法はとても派手だからね。丁度雨も降っていることだし皆で外に出てみるとしよう」
デルフィが軽く腕を上げると、部屋に居た人、全員が宙に浮く。
デルフィが使った風の魔法?
「あまり人間をからかうものじゃない。皆、驚いてるじゃないか」
「これぐらいで驚くような肝の小さい奴なんて居ないさ」
風の魔法で飛べば怪我をするはずだけど……。
大精霊が上手に使えば、誰も怪我はしないのかな。
「おや。君たちは少しばかり魔法のかかりが違うようだね」
「俺は今、風の魔法が強くかかる状態なんだよ。リリーは逆で、魔法が効かない状態だ」
そうだった。
だから、私だけ浮いてないんだ。
「そいつは素晴らしいね。魔法を使う敵と戦うのに適してると言いたいところだけど肝心の君を連れていけないんじゃ困るねぇ」
「大丈夫。たぶん、私も飛べると思う」
砂の魔法で。
今朝、ルネにやって貰った感じで……。
飛ぶ。
エルに向かって飛ぶと、エルが私の手を取る。
「エル、出来たよ」
ちゃんと浮かぶことが出来た。
「じゃあ皆で外に行こう」
「え?どこから?」
「あっち。アレクが窓を開いてる」
本当だ。
天井近くの大きな窓って、外せるようになってたんだ。
「俺たちは先に行く。客人は丁重に扱えよ」
「わかっているよ」
エルに手を引かれて、一緒に窓の外に出る。
雨……。
さっきよりは落ち着いてるけど、傘が必要なぐらい、たくさん降ってるよね。
隣にエイルリオンを安置する塔があるけれど、それ以外は結構、広い場所だ。
「リリー。空に向かって放て」
「わかった」
剣の魔法でも、空に向かって放った時は何も被害がなかったし、失敗しても大丈夫だよね?
というか、これだけ大精霊が居るならどうにかしてくれるはず……?
皆が屋根の上に到着する。
メルのドレスが濡れないか心配だ。
エルが私の方を見る。
……うん。
港で練習した感じで。
目を閉じて、手を組んで。
光を広げるイメージで手を広げる。
温かい光。
晴れ渡った空。
優しい光。
太陽の……。
『リリー。これ、やり過ぎじゃないの?』
「え?」
目を開くと、空を覆っていた雲が一気に吹き飛んだ。
輝く太陽の力で、辺り一帯が晴れ渡って。
虹が架かる。
「綺麗……」
「これが、ルミナリア様の仰られた魔法?」
「はい。その通りです。当時は雲が晴れることはありませんでしたが、このようなことも出来たのですね」
「こんなことが……」
「太陽を見たのは久しぶりだ」
「濡れたはずの服が乾いていますね」
「本当だ」
「こんな魔法が存在するなんて」
「あぁ、なんて美しい光景だ」
ずっと目を閉じてたから、いつから魔法を使ってたのかわからないけど……。
今のは、成功?
「あの雲は、ヴェラチュールが出したもの。リリーシア。君は、間違いなく彼に対抗する為の力を備えているね」
「私が……?」
この力があれば、エルと並べる?
もう一度、空を見上げる。
空が明るい……?違う。今、輝く光の中に居るんだ。
エルの方を見ると、エルの左腕が光ってる。
「エル、それ……」
エルが自分の腕を見る。光ってるのは、腕に巻いてあるスカーフ?
『リリーのマントも光ってるよ』
「え?」
自分のマントを引っ張って背中の方を見る。
良く見えないけど、確かに光ってるような……?
あ。
エルの近くに居た精霊と目が合う。
この子たち、砂漠で会ったエルの友達だ。
ナインシェとメリブも居る。
皆、来てたんだ。
「さて。良いものも見せてもらったし帰るとしようか」
そう言って、デルフィがさっきのように皆を運んでいく。
あ、精霊たちも行っちゃう。
「待って。行かないで。エルも皆のことが見えるから」
『どういうこと?』
ナインシェたちが顔を見合わせる。
良かった。待ってくれた。
「エル。黒い鍵で周りを見て」
エルがカイトスさんから貰った鍵を使って周りを見る。
「皆……?」
皆がエルの方に行く。
『エル』
『見えるの?』
「あぁ。これを使えば」
『元気そうだね』
『こっちも見て。メリブも居るのよ』
『良いのよ、私の声はきっと聞こえないもの』
「聞こえるよ。これ、見えるだけじゃなく、契約中の精霊の声も聞こえるんだな」
『そうなの?なんだかリリーみたいね』
不思議な鍵だ。
「なんで、ここに?」
『エルとリリーが勇者になるって聞いたからだよ』
『デルフィが連れてきてくれたの』
『私たちもマリーにお願いしてきたのよ』
「でも、俺は勇者になんて……」
『大丈夫だよ』
『エルもリリーも、人間からも精霊からも信頼されてる』
『私たちも二人を祝福するわ』
二人……。
『もしかして、迷ってるの?』
「いきなりこんなところに連れて来られて、勇者になれなんて。引き受ける奴が居るかよ」
「だって、私、そんなにすごいことなんて出来ないのに」
『いい加減、認めたら?』
『そうよぉ』
『僕は、エルもリリーもすごいかっこいいと思うよ』
『勇者っぽいよねー』
『そうね。二人とも強いわ』
『あいつと戦いに行くのなら、援護はいくらあっても良いだろう』
『私たちは、はじめから賛成の立場だ』
私は……。
『まぁ。ボクらは、二人が勇者でも勇者じゃなくても、付いて行くけどね』
……そっか。
「いつまでそこに居るんだい。早くおいでよ」
「デルフィ」
エルと顔を見合わせて、頷く。
「行こう」
「では、再開いたします」
部屋に戻って席に座る。
大精霊たちも元の場所に居るみたいだ。
「ハーラル様。発言をどうぞ」
王太子殿下。
「素晴らしい光景を見せていただき、感謝いたします。私はエルロック様とリリーシア様のお二人が勇者となることに賛成いたします」
賛成……。
「陛下。発言の許可を」
「アクイロリス様。発言をどうぞ」
パウリナ国の王子様。
「私も考えが決まりました。エルロック様とリリーシア様のお二人が勇者となることに賛成いたします」
この人も。
「陛下。発言の許可を」
「ジョヴァンニ様。発言をどうぞ」
ティルフィグンの国王陛下。
そういえば、発言するのは今が初めて?
「エルロック様が剣技と魔法の技術に長けたお方であることは皆様も知るところでしょう。その技術はまさに、勇者として相応しいものです。一方で、私はリリーシア様は剣技にのみ長けた方であると考えていました。その為、皆様同様、勇者としての選出には疑問を感じて居た次第です。しかし今、リリーシア様は、誰も目にしたことのない魔法をお使いになられた。これは、魔法に御詳しいエルロック様も知らない魔法なのではありませんか?」
「エルロック。返答をどうぞ」
エルが立ち上がる。
「仰る通り、私も知らない魔法です。そして、これは私が知る限り、リリーシアにしか使えないものです」
断言できるんだ。
「やはり、そうでしたか。この力をリリーシア様が授かったのも神と精霊の御意思なのでしょう。だとすれば、お二人が勇者となることに私は賛成いたします」
この人も、賛成。
「陛下。発言の許可を」
「ヴィルサー様。発言をどうぞ」
セルメアの大統領だ。
「お二人とも、勇者として申し分のない素質をお持ちのようです。私も、エルロック様とリリーシア様のお二人が勇者となることに賛成いたします」
皆が。
大陸会議の代表者の皆が、二人で勇者になることに賛成してくれた。
本当に、エルだけじゃなく私も?
「陛下。発言の許可を」
「サフィール様。発言をどうぞ」
やっぱり、だめって言われるんじゃ……。
「皆様の御意思が賛成にまとまったようで何よりです。そこで、一つ提案があります。彼らにも光の勇者のような二つ名が必要ではないでしょうか。私は、さっき見た美しい虹こそが相応しいと思うのです。いかがでしょう」
二つ名?
勇者の?
「陛下。発言の許可を」
「サダルスウド。発言をどうぞ」
アレクさん。
「二つ名には、アンシェラートの封印を手伝って頂いた月の女神の名が相応しいと考えておりました。しかし、サフィール様が仰るように、私たちが見た虹もとても良く似合うように感じます。この二つを合わせて、月虹の二つ名を冠するのはいかがでしょう」
月虹。
月と虹。
前に見た。月の光を浴びて浮かぶ虹。
「では、新しい二人の勇者に、月虹の名を与える。これに異議のある方は発言を」
月虹の勇者。
綺麗な名前……。
「エルロック、リリーシア」
「はい」
「はい」
エルと一緒に立ち上がる。
「両名を月虹の勇者として選出する。この決定に従ってくれるか?」
エルと顔を合わせる。
私なんかに務まるかわからないけど……。
答えは決まった。
「はい」
「はい」
部屋中に拍手の音が響く。
人も、大精霊も精霊も妖精も……。
「では、これより契約の儀式を行います。契約のスートは儀式の準備を」
「はい」
契約のスート。
さっきも言ってたよね。
アレクさんが杯を、カイトスさんが剣を、ミラさんが杖を、アルニタクさんがコインを持つ。
「星の神、アンシェラートよ」
「我らの祈り」
「我らの願い」
「我らの声を聞き給え」
「ここに人の代表が集い」
「共に生きる精霊の立ち合いの元」
「我らは新たな約束を願う」
「この声が届くならば、応え給え」
四人が持っている道具が輝く。
すると、さっき精霊が出入りしていた通気口や窓から、光る帯が次から次へと部屋の中に入って来た。
『アンシェラートの手だ』
手?
本当だ。長く伸びる帯の先は手の形になってる。
これ、全部アンシェラートの手なの?
「契約の杯の所有者。サダルスウド」
「契約の剣の所有者。カイトス」
「契約の杖の所有者。ミラ」
「契約の貨の所有者。アルニタク」
「アンシェラートよ。今、新たに結ぶ契約の内容を二つ語ろう。一つは、クレアとブラッドの間で結ばれた土地の不可侵契約の破棄。我らは、お互いの自由を望む。……もう一つは、勇者の選定。我らは、エルロックとリリーシアを月虹の勇者として選定する」
光る手が、四つの道具にまとわりつく。
「では、これより儀式を行う。契約の杯の所有者、サダルスウド。私は、この契約に賛成する」
アレクさんが左手で杯を持って、右手でアンシェラートと握手を交わす。
空気のように光って透けてるのに、あの手は触れることが出来るんだ。
カイトスさんが剣で握手を交わしているアレクさんの手の甲を少し切る。
そこから流れ落ちた血が、ミラさんの持つ杖、アルニタクさんの持つコインを伝って、アレクさんが持つ杯の中に入った。
アレクさんが右手で杯に触れると、傷が治って、その代わりに手の甲に魔法陣が浮かぶ。
あれは、何の魔法陣?
「契約の剣の所有者。カイトス。私は、この契約に賛成する」
カイトスさんもアレクさんと同じことをする。
儀式って、皆、アンシェラートと握手をして、傷を作って、手の甲に不思議な魔法陣を刻まれることをするの?
……少し、怖い。
エルの手を握ると、エルが私の手をしっかり掴んでくれた。
次は、ミラさんの番。
そして、アルニタクさんの番。
道具を持っている人たちが終わったら、次はハルトさんがやるみたいだ。
そういえば、この円卓って、騎士物語に出てくるのに似てたよね。
騎士物語は、聖杯伝説と結びついているものが多い。騎士は色んな目的で、聖杯探索に出かけるのだ。
聖杯は、あらゆる傷や病を癒すと言われている不思議な道具。
アレクさんが持ってるのも、傷を癒す力を持ってるみたいだ。
聖杯伝説は、ラングリオンの初代国王がモチーフって言われてるし、もしかして、あれは物語で語られる聖杯なの?
最後。
サフィール王子が儀式を終えて、円卓の席に戻る。
これで全員終わった。
次は……。
「星の神、アンシェラートよ」
「我らの祈り」
「我らの願い」
「我らの声を聞き給え」
アンシェラートの手が、吸い込まれるようにアレクさんが持つ杯の中に入っていく。
陛下とイザヴェラ様、エルと私は、儀式はやらなくて良いみたいだ。
ちょっと安心した。
今度は、杯の中からアンシェラートの手が二つ出てきた。
一つは外へ向かったけど、もう一つは……。
こっちに来る!
手が向かう先はイザヴェラ様だ。
「イザヴェラ様、」
「心配ない」
アンシェラートの手がイザヴェラ様に巻き付いて、包み込む。
本当に、大丈夫……?
心配したけど、すぐにイザヴェラ様は解放された。アンシェラートの手は外に出て行ったみたいだ。
また、杯からアンシェラートの手が出てくる。
次は三つ?
伸びてきた手が、私を包む。
……なんだか温かい空間。
虹の勇者に祝福を与えよう。
リリーシア。
お前が呪われることはもうない。
魂が死者の世界へ向かうまで。
この身体が私の元へ還るまで。
私が守護しよう。
今のは、アンシェラート……?
急に、景色が戻る。
さっきよりも暗い?
何人かの精霊や大精霊は残ってるけど、さっきまで部屋中にたくさん居た精霊も妖精も帰ったみたいだ。
『はじまった』
『行こう』
『皆は待っていているんだよ』
急に、大精霊たちが外に向かって飛んで行く。
はじまったって……。
「契約の儀式は完了しました。皆様のご協力に感謝します」
国王陛下。
儀式が終わったから精霊たちも帰ったの?
でも、大精霊はそんな雰囲気じゃ無かったよね?
国王陛下が扉の方に行って、アレクさんが扉を開く。
「お疲れでしょう。別室に寛げる場所をご用意しております。晩餐までの間、ごゆっくりお過ごしください」
確かに、皆、疲れた顔をしてる。
部屋から出るメルと目が合って、手を振る。
転ばないかちょっと心配だったけど、ハーラル王太子殿下がエスコートしてくれるみたいだ。
外には国王陛下の近衛騎士も居るし、大丈夫かな。
大陸会議の代表者たちが全員、部屋を出る。
「エルロック。リリーシア」
「カイトス」
「冒険者ギルドは、これより勇者二名を全面的に支援する。困ったらギルドに寄りな。俺たちは二人の味方だ」
「魔術師ギルドもよ。手助けが必要だったら言ってね」
「商人ギルドも支援いたします」
「ん。助かる」
「ありがとうございます」
皆、手伝ってくれるんだ。
カイトスさんたちが国王陛下の方へ行く。
「国王陛下。皇太子殿下。本日はありがとうございました」
「こちらこそ。今回の議題を御三方に賛同頂き、感謝しております。皆様にも、別室にお寛ぎ頂ける部屋を用意しておりますよ」
「冒険者たるもの自由であれ。ありがたいお話ですが、早々に退出させていただきますよ」
「私も研究に勤しむ身ですから。また別の機会に」
「残念ながら、私も別の用件がありますので。またお会いする機会を楽しみにしております」
「左様でしたか」
「どうかお気をつけて」
「ありがとうございます」
カイトスさん、ミラさん、アルニタクさんが部屋を出る。
部屋に居るのは、エルと私、国王陛下とアレクさん、そして、イザヴェラ様だけ。
……聞いてみよう。
「あの、アレクさん。大精霊は、どこへ?」
「大精霊なら、今、ロマーノで戦っているよ」
「え?」
「ロマーノで?」
どうして……?
「クレアとブラッドの契約の破棄は、過去の契約に立ち合ったヴェラチュールにも知らされる。勇者の敵として定められたことも」
「この場に居ないのに?」
「アンシェラートの手の届く場所に居る限り。契約の内容は、関係者に周知される。過去の魔王が勇者の存在を知っていたようにね」
……勇者に選ばれるって、そんな意味もあるんだ。
「契約の破棄を知った彼が真っ先に取る行動は、ロマーノにある棺の回収だ。しかし、彼が勇者の敵である以上、大精霊は彼と戦える。……ロマーノの棺が、彼には解けない力で封印されていると知れば、すぐに引き下がると思うよ」
あの人は月の力には弱いみたいだよね。
ロマーノにはルネが居るし、他の大精霊も駆けつけるなら大丈夫なのかな……。
『ただいま』
「デルフィ」
あれ?デルフィだけ?
「大丈夫だった?」
『あいつなら追い払ったよ。イザヴェラ。里の子たちは無事だからね』
「すまない。助かった」
「他の皆は?」
『帰ったよ。でもアーランは二人に会いに来て欲しいって言ってたね。他の連中もそうだけど。私はこの子達を砂漠まで送り届けてくるよ』
「アーラン?」
『エル、またね』
『待ってるよ』
「また、会いに行くよ」
デルフィの腕に抱かれた精霊たちが、早口で挨拶をする。
そうかと思うと、あっという間に外に出て行ってしまった。
「っていうか。アーランって誰だ?」
『エル。アーランは、闇の大精霊。私の親だ』
ここに来てた闇の大精霊のこと?
あの精霊、メラニーの親だったんだ。
「他の連中って?」
『さぁ?』
また、デルフィを探して聞かなくちゃいけない?
あ、でも、精霊玉を貰ってるから、困ったら聞けそう?
「国王陛下」
「エルロック」
「私たちの為に、このような特別な防具を用意していただき、ありがとうございます」
国王陛下がエルの頭を優しく撫でる。
国王陛下って……。
「未来ある若者に勇者の責を負わせなければならないのは、どうやら呪われた伝統らしい。エルロック。リリーシア。二人の命を守るために出来ることがあるならば、どんなことでも力になろう」
オルロワール伯爵のように、エルのことをずっと見守ってくれていたんだろうな。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
深く礼をして顔を上げると、国王陛下と目が合う。
「リリーシア。君もエルロック同様、私の家族だ。親より先に命を落とさぬようにな」
「はい」
国王陛下が頷いて、部屋から出て行く。
私のことまで気遣ってくれるなんて。
陛下が、この国の人たち皆から敬愛されているのが良く解るかも。
「リリーシア。イザヴェラ様のご案内を」
「御意」
里まで安全に送り届けるんだよね。
「イザヴェラ様。イレーヌさんのところへ行きましょう」
「よろしく頼む」
イザヴェラ様と部屋を出て、螺旋階段をゆっくり降りる。
※
階段を下りた先には、皇太子近衛騎士たちとライーザ、そして、イレーヌさんが待っていた。
「おかえりなさい。ようやく終わったのね」
「はい」
『ずっと待ってたの?』
「あの、ずっとここに居たんですか?」
「マリユス様に城を案内してもらったわ。そういえば、食堂に居た時、急に空が晴れたのよ。綺麗な虹も出ていたの。皆、歓声を上げて喜んでいたわ。イザヴェラとリリーシアも見た?」
見たっていうか……。
「私も見た。まさに、勇者の誕生を祝福するような美しい虹を」
「イザヴェラ様……」
イザヴェラ様が微笑む。
「イレーヌ。里に戻るとしよう。やらなければならないことも多い」
「わかったわ」
「皇太子近衛騎士、琥珀のマリユス。主命によりお二人の護衛を致します」
「よろしく頼む」
今度は、マリユスも付いてきてくれるみたいだ。
「では、皆様。参りましょう」
ライーザが先頭だ。マリユスは後ろから付いてきてくれるみたいだし、私はイザヴェラ様の隣で護衛しよう。
※
魔法部隊の宿舎へ到着。
送るのは、ここまでで良いらしい。
魔法陣を使って二人が飛ぶのを確認したら、任務完了だ。
「お疲れ様、リリー」
「マリユスも、お疲れ様」
これで一段落。
「リリーシア様。この後は、お部屋へお戻りください。エルロック様も直ぐに戻られるはずです」
「うん。わかった」
この後、やること……。
勇者になったから。
部屋に戻って……?
あれ?そんなことしてる場合?
私、ちゃんとしなきゃ。
何を?
あの人との戦いに備えなきゃ。
足手まといにならないよう。
本当にできる?
どうしよう……。
「リリーシア様?」
「リリー?」
『リリー。聞こえてる?』
「え?」
顔を上げると、ライーザとマリユスが心配そうに私を見てる。
「お部屋まで、ご一緒いたしましょうか」
「大丈……」
「途中まで一緒に行くよ」
『付いてきてもらいなよ』
「……うん。お願い」
なんだか変。
どうしよう。
落ち着かない。




