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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅵ.大陸会議編
135/149

146 砂の竜

「おはよう」

「おはようございます」

「おはよう。エル、リリーシア」

 食堂で朝食を食べた後、エルと一緒にアレクさんの部屋へ。

 今日は、朝から二人で来るように言われたのだ。

 部屋には、アレクさんの他にアニエスとライーザ、そして、マリユスが居る。

「リリーシアは着替えておいで」

「はい」

「リリーシア様、こちらへ」

 ライーザと一緒に隣の部屋へ行く。

 

「ロザリー?」

 メイド用の待機部屋には、ロザリーが居た。

「おはよう。リリー」

「おはよう。何をしてるの?」

「ハンカチに刺繍をしているんです。リリーのマントにも刺繍をしたんですよ」

 コート掛けには、撫子のマントがかけてある。

「リリーシア様。虹のワンピースに着替えていただけますか?」

「うん」

 虹のワンピースを出して着替える。タイツも履いて良いよね。

 流れ星のリボンを出すと、ライーザが頭に結んでくれた。

「古いマントを出していただけますか?」

「これ?」

 持っていたマントをライーザに渡す。

「お預かりいたします。本日は、こちらをお持ち下さい」

 貰ったマントを見てみる。

「?」

『刺繍なんてある?』

 撫子色に染められた、いつものマント?

 ロザリーがくすくす笑う。

「お守りを縫い込んであるんです」

「お守り?」

『どこに?』

 どこだろう……。

 近衛騎士のマントだから、目立つ場所にしちゃいけないのかな。

 後で探してみよう。

「ありがとう、ロザリー」

 マントを羽織って、リュヌリアンを背負う。

 これで準備は完了。

 ライーザと一緒に部屋を出る。

 

 あれ?

「エルは?」

 居なくなってる。

「客人が来るまで待つように言ったのだけど。それなら仕事をしてくると出て行ってしまったんだ」

 今日は、朝から一緒に居られると思ってたんだけどな。

「リリーシアは、この手紙をイザヴェラ様に届けてくれるかい」

「イザヴェラ様?」

「魔法部隊に行けば解るよ。これは、招待状なんだ。彼女が来てくれると言ったら、護衛を頼むよ」

 護衛任務だ。

「はい」

「ライーザと一緒に行くと良い」

「わかりました」

 

 部屋を出て、ライーザと一緒にお城の外を目指す。

 歩いて行くと、人が増えてきた。

 そっか。まだ出勤時間だから、人の出入りが多いんだよね。

 急いでる人たちにぶつからないように、人の波に逆らって進む。

『リリーって、本当にどこに居ても目立つよね』

 そうかな。

『ほら、リリーとすれ違った人たちが、びっくりして振り返ってるよ』

 後ろなんて見えない。急いで付いて行かないと、ライーザを見失っちゃう。

 

 お城から出て、魔法部隊の宿舎へ。

 ロビーには、レティシアさんとイレーヌさんが居る。

「おはよう。リリーシア」

「おはよう。イレーヌさん、レティシアさん」

「おはよう」

 ロビーに居るのは、これだけ。

「イザヴェラ様は?」

「これから迎えに行くのよ。リリーシア、これを持っていて」

 イレーヌさんから石を貰う。これ……。

「タリスマン?」

「エレインのタリスマンよ。エルロックから何か聞いてる?」

「何かって?」

 エルは今、仕事中だよね?

「これは、私たちの里へ行く為の通行証なの。彼も一度、里に来たことがあるのよ」

「里って、フィカスが居る場所?」

「そうよ」

 いつ行ったんだろう。

「さぁ、行きましょう」

 イレーヌさんに手を引かれて、魔法陣に乗る。

 ライーザは、ここで待っててくれるのかな。

「スタンピタ・ディスペーリ・セントオ・メタスタード」

 魔法陣が輝く。

 そして……。

 

 転移する。

 

 真っ暗な場所に着いた。

『セントオだね』

「セントオ?」

「えぇ。でも、通過点だから明かりは要らないわ。スタンピタ・ディスペーリ・ハラーロ・メタスタード」

 魔法陣が輝いて、周囲の様子が少しだけ見える。

 でも、それは一瞬。

 

 転移する。

 

 次の瞬間には、知らない風景の場所に居た。

「ここは……」

「私たちの里。ロマーノよ」

「いらっしゃい」

 頭上に風の精霊が来る。

「ここに居る間は、オイラが一緒に居るからねー」

「よろしくね」

 ジオみたい。同じ大精霊から生まれた精霊なのかな?

「あなた、精霊を見ても驚かないの?」

「え?」

「リリーは、普段から見えてるからね」

「見えてるって……」

「そういう体質なんだよ」

「そうなの?」

 あれ?

「イリス。どうしてイレーヌさんと話せるの?」

「気づいてない?ここ、精霊が皆、顕現してるんだよ」

「え?」

 周りを見渡す。

「顕現しっぱなしで疲れないの?」

 イレーヌさんが笑う。

「ここは、太古の空気を色濃く残す場所だから平気なのよ」

「要は、顕現してても魔力を消費しないってわけ」

「そうなんだ」

「でも、この空気はブラッドには毒になる。だから今回は、その子があなたを守ってくれるの」

 その子って、風の精霊のことだよね。

「ありがとう。よろしくね」

「よろしくねー」

「さぁ、行きましょう」

「うん」

 歩き出したイレーヌさんの後に付いて行く。

「でも、護衛に来てくれたのがあなたで良かったわ。あなたなら信用できるもの」

「……ありがとう」

 そう言ってもらえると嬉しい。

 クレアの人たちは、ブラッドが怖いみたいだよね。

 護衛、頑張らなくちゃ。

 周りを見回す。

 精霊がたくさん居て、緑豊かで、空も晴れてる。お日様を見るのは久しぶりだ。

 ……?

「ここって、雲はないの?」

「それは……」

「当然だ。ここは雲の上だからな」

「え?」

 驚いて、横を見る。

 エルと同じ金色の光。

 月の大精霊。

「あなたが、ルネ?」

「そうだよ」

 エル、ここでルネから精霊玉を貰ったんだ。

「ルネ。お客様なんだから、変なことしないでね?」

「しないよ」

「エルに何かしたの?」

「いきなり、空の上まで連れ去ってたいたわ」

「え?」

「ここの案内をしただけだぞ。あいつは、俺の力で怪我しないからな」

 一緒に空を飛んだってこと?

「私も飛んでみたい。私も月の力で怪我しないよ」

 レイリスの魔法があるから。

「なら、上から見下ろしてみるか」

「うん」

「イレーヌ、後で合流だ」

「もう!」

 ルネが私を抱えて空を飛ぶ。

「待ってよ」

 イリスが私たちを追いかけて飛んで来る。

 すごい。どんどん地面から離れていく。

「空を飛ぶコツってある?」

「コツ?んなこと、地面に這いつくばったことのない精霊に聞いても無駄だ」

 精霊は、飛ぶ練習なんてする必要ないんだ。

「歩ける?」

「どういう意味だ?」

「ずっと飛んでるなら歩けないのかなって」

「何言ってるの?さっき、リリーの横に来て歩いてたじゃん」

 そうだった。

 ルネが笑う。

「人間ほど引っ張られることはないが。地上に居れば、嫌でもアンシェラートの影響は受けるからな」

「引っ張られる?」

「人間は体重の分だけ引っ張られてるだろ?」

 それ、引っ張られるって言い方になるんだ。

「ほら、見てみな」

 空から里の風景を見下ろす。

「きれい」

「そうだね」

 鮮やかな緑。その中を色んな光が飛びかっている。

 人が住む集落や小屋、畑もあるみたいだ。

 緑の切れ目の先は、真っ白な世界が広がっている。

 雲の海。

「ここって……?」

「ここは空中に浮いてるんだ」

「空の上にあるってこと?」

 ルネが笑う。

「そんなところだ」

「どうやって浮いてるの?」

「月の石の力だ」

 不思議な場所。

 だから、精霊が顕現できる特別な場所なのかな。

「フィカスは?」

「あいつは今、ブレスの練習をしに出かけてる」

「生まれつき雷のブレスが出せるわけじゃないの?」

「ブレスには練習が必要だ。それに、フィカスが使うブレスは雷じゃない」

「え?」

「紫竜なのに?」

 ルネが、ゆっくりと下降する。

「紫竜の系統を孵化させる役目は、本来なら光の大精霊か炎の大精霊。つまり、温度を上げるものに祝福された力なんだ。でも、フィカスはレイリスの力で生まれてきただろ?だから、持ってる力は月の力だ」

「え……?」

 孵化に必要な大精霊って、決まってたの?

 ……だから、ウィリデはセズディセット山で炎の大精霊を待ってたんだ。

 ルネが地面に着地する。

「今はまだ紫竜の見た目だが、月の力に侵食されれば、大人になる頃には体色も変わるだろう。成体のドラゴンは色で属性がわかる。月……。いや。砂竜になるな」

「砂竜……」

「でも、それって変じゃない?紫竜はどうやって生まれるのさ。雷の大精霊なんて居ないのに」

「紫竜は特殊なんだ。……まず、今生きてるドラゴンってのは、ドラゴンの王族みたいなもんって言えばわかるか?」

「王族?」

「純粋な血統。赤竜から生まれた卵に炎の大精霊が祝福を与える。こんな感じで、属性に合わせた孵化を繰り返し続けてきたドラゴンを、人間の言葉で純血種って呼ぶんだ。純血種は、体も大きくて力もブレスも強力、長寿なのが特徴だ」

「それが普通じゃないの?」

「まさか。昔は、純血種以外のドラゴンもたくさん居たんだ。孵化のタイミングに合わせて都合良く欲しい属性の大精霊が居るとも限らないし、そもそもドラゴンはそこまでこだわってなかったからな」

 確かに。大精霊って、どこに居るかわからないよね。

「純血種の強さに気づいたのはドラゴン王国時代の人間だ」

「研究熱心だね」

 ドラゴン王国時代は、人間とドラゴンが今よりもずっと身近な関係だったんだっけ。

「純血種じゃない子はどうなるの?」

「他の力が混ざれば混ざるほど体格は小型化し、ドラゴンとしての力も弱り、寿命も減る」

「じゃあ、フィカスは寿命が短くなっちゃうの?」

「一代でそこまで変化はしない。孫の代までは変化が少ないらしいし、フィカスの子供が光か炎の大精霊の祝福を受けられたら、紫竜として生きるドラゴンが生まれるはずだ。……まぁ、はっきり言いきれないけどな」

「どうして?」

「紫竜は特殊だって言っただろ?こいつは、今までの話に当てはまらない。色んな力が混ざって生まれた変異種なんだ。純血種じゃないのに純血種と同等の体格を持ち、強くて長寿。しかも、光や炎の大精霊の祝福を受けることで子孫へ性質の維持も可能だった。今では純血種と同じ扱いをされてるな」

「雷の精霊の祝福を受けたとかじゃなく?」

「ドラゴンに力を与えられるのは大精霊だけ。雷の精霊は、光の大精霊から生まれた光の精霊の亜種だし、似たような感じの変化が起きたんだろうって言われてる。白竜もそうだ」

 白竜。雪の精霊は、氷の精霊の亜種って言われてるよね。

「私、余計なことしちゃったかな……」

 フィカスは、紫竜ケウスの子供なのに……。

「何?あの時、炎の大精霊を待てば良かったと思ってるの?」

「何言ってるんだ。孵化の時期を過ぎれば、生まれることは出来ない。目の前に大精霊が居たなら、孵化を頼むのは当然だ」

 あの時、炎の大精霊を探しに行く時間は残されてなかった?

 もし、もっと早くアイフェルに会えていれば……。

「お前は、フィカスが生まれたことを祝福してやらないのか」

「そんなことないよ。フィカスが生まれてくれて、すごく嬉しい。でも、それがフィカスの望んだことなのかどうか……」

「生まれ方に魂の望みなんて関係ない。生きることを望む身体に魂が入る。魂は身体を自由に扱う代わりに、身体の望みを叶える義務を負う。それが生き物だ」

 精霊にとって、生き物はそういうものなのかもしれない。

 でも……。

 フィカスは、自分の親と同じじゃなくて良かったのかな。

「ほら、イレーヌが来たぞ」

 本当だ。イレーヌさんが歩いて来る。

「あら。待っててくれたの?」

「え?」

「ここがイザヴェラの家だ」

「手紙を渡す相手だね」

 そうだ。ここには主命で来たんだ。

 扉をノックして、皆で中に入る。

 

「お邪魔します」

 可愛い部屋だ。

 雰囲気は、クエスタニアで会ったヘレンさんの部屋に似てる。

「紹介するわ。彼女がロマーノの長老、イザヴェラよ」

 長老だったんだ。

 年齢は、イレーヌさんと変わらない感じがするけど。

「はじめまして、イザヴェラ様。皇太子近衛騎士、撫子のリリーシアです」

「リリーシア。ようこそ、ロマーノへ。里の代表としてお前を歓迎しよう」

「ありがとうございます。私の主君、ラングリオン皇太子アレクシスより手紙を預かっています。どうぞ」

 アレクさんの手紙をイザヴェラ様に渡す。

「少し待つと良い」

 イザヴェラ様が机の方に行く。

「座って待っていて」

「はい」

 イレーヌさんに言われて、ソファーに座る。

 窓には大きめの通風孔が空いていて、精霊が自由に出入りしてるみたいだ。

 こんなに大きかったら、雨が入ってきそうだけど……。

 あれ?でも、雲の上なら雨は降らない?

「ここって、雨が降らないのに、どうやって植物が育ってるんですか?」

「雨は僕たちが降らせるよ」

「必要な分だけね」

「水は私たちが完璧に管理してるのよ」

 水の精霊たちが口々に喋る。

「光の加減が良いんだよ」

「いや、良い土が力を与えてるからだよ」

 光の精霊と大地の精霊も加わって、揉めてる……?

「あの……。精霊がこれだけ助けてくれるなら、すごく良い環境だって解るよ」

 急に精霊が黙って、顔を見合わせる。

「変な子」

「……どこでも言われるね」

 そんなに変なこと言ってるかな。

「イレーヌ。少し、皆と話をしてくる」

「なら、里の案内をしてきても良い?」

「構わない」

 イザヴェラ様が出ていく。

「リリーシア。時間もあることだし、フィカスに会いに行きましょうか?そろそろ帰ってるかもしれないわ」

「お願いします」

 楽しみだ。

 

 イレーヌさんと一緒に外に出る。

「そういえば、ここって温かいよね?」

「えぇ」

「当然だよ。僕らが居るからね」

「冷気の精霊はそんなに居ないからね」

「上手くバランスを取ってやってるんだろ」

 反対属性の子は、張り合いやすいのかな。

「また、喧嘩してるね」

「これでも仲は良いのよ」

 そうだよね。

 温暖で、とてものどかで静かな場所だし。

 空気も気持ち良い。

 あ。私の周りの空気は、風の精霊が作ってくれてるんだっけ。

 ……?

 遠くから聞こえるのは、どこか聞き覚えのある金属音。

 これ、鍛冶の音だ。

「鍛冶屋さんがあるの?」

「そういえば、あなたはこういうの好きだったわね。ここには、剣の名工が居るのよ。ルミエール、リグニス、アルディア。彼らはクレアなの」

「え?」

 クレア?

 どういうこと?

「会いたい人は居る?」

「ルミエール」

「わかったわ。案内してあげる」

「あの、クレアって……」

「クレアからブラッドになる人間が居るように、ブラッドからクレアになる人間も居るの。彼らは長い時をかけてブラッドの技術を極めた武器職人。ガラハド様はね、その武器を売って、ここに様々なものを仕入れてくれた武器商人だったのよ」

 武器商人?

「隊長さんは、傭兵だったんですよね?」

「この里がワインで稼げるようになるまでは、武器商人をしていたわ。私たちがブラッドと取り引き出来るよう、様々な助力をしてくださったのよ。弓を教えてくれたのも、乗馬を教えてくれたのも全部、ガラハド様よ」

―不老なんて色んな理由でなるからな。

 ……隊長さん、クレアだったの?

 エルは知ってるのかな。

 

「着いたわ。ルミエール、下からお客様が来たわよ」

 懐かしい匂いがする。

 置いてあるものも一緒だ。

 工房の中に入る。

「師匠」

 剣を叩いていた師匠が、こちらを見る。

「リリー」

 懐かしい声。

 師匠だ。

「え?知り合いだったの?」

「うん。私の鍛冶の師匠なの」

 カーネリアンを出して、師匠に見せる。

「私が作ったんです。宝石は、炎の大精霊が入れてくれたんだけど」

 師匠がカーネリアンを見る。

「美しい仕上がりだ」

「ありがとうございます」

 褒められちゃった。

「それも貸しなさい」

「はい」

 カーネリアンを仕舞って、リュヌリアンを抜いて師匠に渡す。

 すると、師匠が丁寧に剣を見る。

「少し待っていなさい」

「はい」

 師匠が、使い込まれた道具でリュヌリアンを叩く。

 久しぶりの音。リズム。

「ごめん。ボク、外に行ってるね」

「うん」

 イリスが飛んで行く。

 ごめんね。熱いところに連れてきて。

 でも、久しぶりだから。

 見てて飽きない。

 きらめく火花。

 炉に灯された炎の赤。

 金槌の音の微妙な違い。

 懐かしい音。

 

「持って行きなさい」

「はい」

 外に出て、剣を太陽の光にかざす。

―刃を光に当てると、独特の光学現象が現れるんだ。

 虹色の輝き。

 すごくきれい。

「良いの?話したいことがあったんじゃないの?」

「たくさん話しました」

「え?」

 師匠は、いつも通りだ。

 リュヌリアンを鞘に納める。

「その鞘、そういう構造になっていたのね」

 リュヌリアンの刀身と同じ形の鞘は、収納の為に右側だけ開いている。剣を右側から入れて、下の湾曲した部分に剣先を押し込んでから、鞘の手元側にある磁石に、剣をくっ付ければ納刀完了。

 刃部分が外側になっているけれど、ちゃんと鞘で覆われているから誰かが怪我をすることはないはずだ。

「終わった?」

 イリス。

「うん」

「ウィリデとフィカスは向こうに居たよ」

「本当?」

「じゃあ、行きましょうか」

 

 木に囲まれた広場。

 そこで、緑色のドラゴンと、紫色のドラゴンが羽を休めている。

「フィカス!」

 走って行くと、フィカスが羽を広げてこちらに歩いて来た。

 前より大きくなってる。

「久しぶり」

「ひさしぶり」

「フィカス?喋れるの?」

「しゃべる」

 可愛い。

 フィカスの頭を抱きしめる。

「フィカス。リリーよ」

「リリー」

「よろしくね」

「よろしく」

「ドラゴンなのに、現代語なんだね」

「今の時代の言葉の方が良いだろうって。他のドラゴンとも相談して決めたのよ。まだ練習中だけど」

 フィカスの頭を撫でる。

「ブレスの練習は上手くいった?」

 フィカスが首を振ったので、手を放す。

 すると、フィカスが遠くに向かって金色に輝くブレスを吐いた。

 月の力のブレス。

「すごいわ、フィカス。ブレスの扱いが上手くなったわね」

「いっぱい練習したんだね」

 顔を寄せてきたフィカスを撫でる。

「リリー」

 ……そっか。

 フィカスは、元気に生きてるんだ。

「大きくなったね。ブレス、とってもきれいだったよ」

 フィカスが嬉しそうに鳴く。

 こうしてみると、ドラゴンも結構表情があるよね。

「リリー、イレーヌ。イザヴェラが魔法陣で待ってるぞ」

「ルネ」

「わかったわ。リリーシア、長老を皇太子殿下の元へ案内しましょう」

「うん。……また会おうね、フィカス」

 フィカスが私に頬ずりする。

 

 イレーヌさんとルネと一緒に、魔法陣の所へ戻る。

「イレーヌ、これを」

「お土産ね。預かるわ」

「ルネ。里の者を頼む」

「あぁ。任せておけ。リリー、イザヴェラを頼んだぜ」

「はい。任せてください。風の精霊さん、一緒に居てくれてありがとう」

「またおいでー」

「うん」

「じゃあ、行きましょうか」

 

 ※

 

 セントオを経由して、王都の魔法部隊のロビーへ。

「イレーヌさん。これ、返します」

 持っていたタリスマンを渡す。

 確か、エレインのって言ってたよね。

「そうだったわね。ありがとう」

「では、城内へご案内いたします」

 ロビーで待っていたライーザの案内で、城の中へ。

 今朝みたいな混雑は無くて、とても静かだ。

 真っ直ぐアレクさんの部屋へ行くのかと思ったら、隣の部屋に案内された。前にハルトさんが使ってた部屋だ。

 マリユスが護衛してるってことは、中に誰か居る?

 ノックをして部屋に入ると、ロザリーが出迎えてくれた。

「ようこそ、ラングリオンへ。イザヴェラ様、イレーヌ様。私は皇太子アレクシスの婚約者のロザリーと申します。皆様を歓迎いたします」

 ロザリーが丁寧に礼をする。

「はじめまして。歓迎の言葉に感謝いたします」

「どうぞ、こちらへ」

 ロザリーに勧められて、イザヴェラ様とイレーヌさんが席に付く。

 ライーザはお茶の準備をしに行ったみたいだ。

「儀式は午後の予定です。お時間まで、こちらでお寛ぎください」

 儀式……?

 午後に何かやるのかな。

 部屋の外はマリユスが居るし、私は部屋の中で護衛していよう。

「イザヴェラ様。イレーヌ様。こちらをどうぞ」

 あ。今朝、刺繍してたハンカチだ。

 葡萄の刺繍がしてある。

「素敵。ありがとうございます」

「美しい刺繍だ」

「お褒め頂き光栄です」

「イザヴェラ、これを渡しても良い?」

「構わない」

「こちらも、ラングリオンの皆様へ贈り物をご用意しています」

 イレーヌさんがテーブルにワインを置く。

「今年リリースのロマーノ・ベリル・ロゼです」

 そういえば、隊長さんとシャルロさんにもプレゼントしてたよね。

「ありがとうございます。お預かりいたしますね」

 ノックの音が鳴る。

 私が開けて良いのかな?

 扉を開くと、アレクさんが居た。

「おかえり、リリーシア」

「はい。……アレクシス様がいらっしゃいました」

 ロザリー達に向かって言って、扉の脇に避ける。

 アレクさんが部屋に入ると、イレーヌさんとイザヴェラ様が立ちあがった。

「はじめまして。あなたが長老のイザヴェラ様ですね。私はラングリオン王国の皇太子、アレクシスと申します」

「はじめまして、皇太子殿下。イザヴェラと申します。お招きありがとうございます」

「こちらこそ。呼びかけに応えて頂き、光栄です。ラングリオン王国を代表し、クレアの皆様、そして、イザヴェラ様を客人として歓迎いたします」

 アレクさんがイザヴェラ様と握手を交わす。

「ゆっくりお話しをしたいところですが、あまり時間もありません。手紙に関して、ご質問があれば伺いましょう」

「では、一つ。何故、あなた方には何の得にもならない契約の破棄をご提案になられたのでしょう」

 契約の破棄?

「目的が二点あることは手紙に書いた通りです。契約を行う以上、クレアの皆様からの祝福も得たいと考えただけですよ」

「納得できかねます」

「あまりにも不平等な契約は是正されるべきです」

「私たちは不平等だとは思っておりません。当時は公正公平な判断で、皆が納得して行われた契約です」

「意外ですね。現状はそうは見えませんが」

「時と大地が移り変わっただけのこと。ブラッドが是正を考える必要はありません」

 何の話だろう……?

 イザヴェラ様、アレクさんからの手紙を貰って、その内容に賛同したから来てくれたんだよね?

 アレクさんが肩をすくめる。

「では、巨大な月の石が降ってくる可能性を回避出来るという理由はいかがでしょう?あれほど広大な土地がラングリオンの上に存在すると知れば、皆、怖がるかもしれませんから」

 ロマーノって、ラングリオンの空に浮いてるんだ。

「あれは月の石。ルネの意思で動かすことは可能なもの。出て行けと言うのならば、この土地から去りましょう」

「これは申し訳ありません。あなた方が得た場所が空ならば、どうか御自由に」

「……」

「……」

『なんか、アレクが圧されてるの珍しいね』

 何の話をしているのか、全然わからないけど……。

「あの……。イザヴェラ様」

 イザヴェラ様がこちらを見る。

「クレアの人たちが私たちブラッドのことをあまり良く思ってないのは知ってます。でも、悪い人ばかりじゃなく、良い人も理解のある人もたくさん居ます。少なくとも、私はエレインとイレーヌさんと仲良くなれたと思うんです。……イレーヌさんは、どう?」

 イレーヌさんが頷く。

「前にも言った通りよ。あなたに会ってから良いことばかり。エレインもすぐに見つけられたし、助かってるわ。私はイザヴェラの護衛をあなたに任せられるぐらい、あなたのことを信頼してる」

「ありがとう。……だから、イザヴェラ様。少しずつで良いので、私たちのことを信用してください。私の主君は、損得じゃなく、自分が掲げた理想を叶えようとしてる人です。イザヴェラ様が思ってる以上に信頼できる人です」

 イザヴェラ様が頷く。

「その言葉を信じるとしよう」

「ありがとうございます」

「アレクシス皇太子殿下。私は、静かに運命に身を任せるつもりでした。しかし、それを次の世代へ押し付けるのが酷であることも承知しています。里の者は私の決定に従うと約束してくれました。私は、あなたの提案を快く受け入れる準備があります」

「ありがとうございます。イザヴェラ様。すべてが上手く進むよう、こちらも最大限の努力を致します」

「あなたの誠意に感謝いたします」

 二人が、もう一度握手を交わす。

「では、私は失礼いたします。時間までお寛ぎください。……ロザリー、頼んだよ」

「はい。お任せください」

 アレクさんが部屋を出る。

『アレクも忙しいね』

 今日は大陸会議参加者の晩餐会があって、明日は大陸会議の開催宣言がある。

 ……忙しいはずだよね。

 

 ※

 

 外は雨。

 ランチの時間はシールが護衛を変わってくれることになったから、エルと一緒に過ごせる。

 アレクさんの部屋に居たエルと一緒に食堂でサンドイッチとデザートを選んで、皇太子の棟の部屋に戻る。

 エルはお湯を沸かしてるみたいだ。

 なら、私はテーブルの準備をしようかな。お皿を並べながら、さっき、ロマーノに行ってきた時の話をする。

「ルネがね、フィカスは紫竜じゃなくて砂竜になるって言ってたの」

「砂竜?」

「レイリスの月の力を受けて生まれてきたから……」

 本当だったら、炎の大精霊の祝福を受けていたのかもしれなかったのに。

「カーバンクルと同じだな」

「え?」

「ベルトランが言ってただろ?ドラゴンが吐くブレスは、結晶化していないカーバンクルの力を使ってるって。それは、大精霊から受けた祝福の力だ。フィカスがレイリスから祝福を受けたなら、使える魔法が月の力になるのは自然なことなんだろうな」

「そっか……」

 そう言われると、ブレスは魔法使いが魔法を使う方法と同じ感じに聞こえる。

 そんなに気にすることじゃないのかな。

 フィカスが大きくなるまでわからないけど。

 強い雨の音が聞こえて、窓を見る。

「雨、さっきより強くなってるかも」

 そういえば、さっき、水の精霊が雨を降らせることが出来るって言ってたよね。

 ……水の魔法だったら、ワンピースで弾ける?

 でも、あの人の魔法だったら……?

 窓を開いて、腕を伸ばす。

「リリー?何やって……」

 冷たい。

 雨で濡れた腕をエルに見せる。

「このワンピースはね、魔法はすべて跳ね返すけど、自然現象は防げないの」

 水の精霊が使う魔法じゃないのは確かだけど。

「これは、どっちだと思う?」

 自然現象?

 もし、これがワンピースでも弾けない種類の魔法だったら……?

「水の精霊は、雨を降らせることは可能なのか?」

『水を呼ぶことは可能だ』

『でもぉ、雨とはちょっと違うでしょうねぇ』

「どういう意味だ?」

『水の精霊はぁ、雲は作れないものぉ』

『雪の魔法もそうよ。一定の場所に雪を降らせることは出来るけど、雲なんて要らないわ』

 水の精霊が雨を降らせる時には、雲は必要ないんだ。

 エルの魔法もそうだよね。太陽のある場所でも一定の空間だけ夜に出来る。

「あいつが使う魔法は雲で、雲をコントロールすることで自然現象を引き起こしてるってことか?」

 そういう魔法の使い方もあるの?

『知らない奴の話なんかされても、ボクらにはわからないよ』

 ……自分の属性以外のことに詳しい精霊なんて居ないよね。

 ハンカチを出して腕を拭く。

 普通の水みたいだけど、これだけじゃ何もわからない。

「あの人の魔法って、わからないことが多いよね。槍の魔法がリンの力だったら、このワンピースでも防げそうな気がするけど」

「刃物による攻撃は防げるんだっけ?」

「うん。強い魔法の力が働いてるから、物理的な攻撃にも強いみたいなの。バニーに試してもらった感じだと、斬撃と突撃に強くて、打撃には効果がないみたい」

 あの時、実用的な実験が出来て良かった。防具としての効果を体感できたのは大きい。

 エルが私の頭のリボンを触る。

「こっちは、打撃にも効果があるはずだ。俺が着てるベストと同じ素材なら、すべての物理的な攻撃に対して耐性があるから」

 エイルリオンとジュレイドで戦うなら、エルも接近戦になる。

 防具は重要だ。

「あ。マントにも、ロザリーが何か縫い込んでくれたって言ってたよ」

 エルにマントを見せる。

「何を縫い込んだんだ?」

「わからないの」

 すぐに探せる場所にはなさそうだったよね。

「お守りって言ってたよ」

 エルがマントを見てる。でも、エルでも見つけられないみたいだ。

 後で、ロザリーに聞いてみようかな。

 あ。お湯が沸く音がする。

「お昼、食べよう?」

「あぁ。お茶の準備をするから待ってて」

「うん」

 エルがお茶の準備をして、テーブルに持ってくる。

「いただきます」

「いただきます」

 ランチの後は、二人でアレクさんの部屋に行く予定だ。

 ここからなら近いし、少しのんびりできそう。

 サンドイッチを頬張ると、エルがテーブルに何か置いた。

「それは?」

「カイトスから貰ったんだ。南部では、鍵をお守りとして持ち歩く習慣があるらしい」

「そうなんだ」

 これもお守り。

 黒光りする鍵を手に取る。

 この素材……。

「綺麗なヘマタイトだね」

「ヘマタイト?」

「赤鉄鋼の中でも、宝石のように輝くものだよ。でも、中に入ってる透明な石は何だろう」

 透き通った水晶のようにも見えるけど……。傾けると、変わった色も見える気がする。何だろう?これ。

 鍵を通して、イリスが見える。

「あれ?」

 いつもと見え方が違う?

 部屋の中を飛んでるナターシャやアンジュの見え方も。

 じゃあ、エルの光は……?

 すごい。

「これ、すごく見やすい」

「見やすい?」

「精霊の輝きが。エルの光も。いつもは、蝋燭の火みたいに光がぼやけてるんだけど、その中央の輝きが良く見える。宝石みたい」

 光の元が、くっきり見える。精霊によって輝きの強さって結構違うんだ。

 光の強さが精霊の強さだとしたら、メラニーとユールって、かなり強い精霊だよね?

「見せて」

 エルに鍵を渡すと、鍵を覗き込んだエルが首を傾げる。

「イリス?なんで……」

『?』

 え?

 エル、今、イリスを見てイリスを呼んだよね?

「皆、この辺に集まってくれ」

『え?顕現するの?』

「そのまま」

 エルが手を出した方に、精霊たちが集まっていく。

 エルの手の動きが、まるで精霊を撫でてるみたいだ。

 もしかして……。

『エル、見えてるの?』

 アンジュ。

「この鍵を通すと、姿が見えるんだ」

『え?そうなの?』

 鍵にナターシャが近づく。

『私のこと見える?』

「見えるよ、はっきり。これが、リリーが見てる世界なんだな」

「うん」

 皆が嬉しそうにエルの周りを飛んでる。

 エルも、これを使えば精霊が見えるんだ。

「でも、なんで?この石は、リリーも解らないんだよな?」

「たぶん、私が知らない石だと思う」

 こんなのはじめて。

 確か、カイトスさんから貰ったんだよね?

「カイトスさんに聞きに行けるかな」

「行けるよ。今、城に来てるんだ」

「えっ?そうなの?」

 アレクさんが今朝、エルに会わせるつもりだった客人って……。

「昨日会った三人組。カイトスは、冒険者ギルド総長。ミラは、魔術師ギルド総長。アルニタクは、商人ギルド総長なんだ」

「三人とも総長だったの?どうしてここに?」

「午後から儀式をやるらしいんだ。リリーが連れてきたイザヴェラも参加する。他にも、大陸会議に参加する代表や国王陛下も」

「そんなに?」

「あぁ。詳しいことは教えてもらってないけど。アンシェラートとの契約を交わす儀式らしい」

「アンシェラートと……?」

 そんなことが出来るの?

 

 ※

 

 午後になって、皆で儀式を行う場所へ移動する。

 ここ、前にも来たことがある場所だ。

 エイルリオンが安置されている塔の螺旋階段。

「ここから先へは関係者しか入れません。イレーヌ。私の近衛騎士と共に待っていてくれるかい」

「はい。リリーシア。長老をお願いね」

「はい。任せて下さい」

 グリフ、ローグ、マリユスとイレーヌさんは、階段の下に残るみたいだ。

「こちらへ。螺旋階段となっておりますので、足元にお気をつけ下さい」

 アレクさんの後にイザヴェラ様が続く。私は、後ろから護衛をしよう。

 私の後ろからは、エル、カイトスさん、ミラさん、アルニタクさんが付いてきている。

 

 螺旋階段をぐるぐる回って、途中でアレクさんが立ち止まる。

 そして、壁に鍵を差し込む。

 良く見ると、壁に扉のような隙間がある?

 アレクさんが鍵ごと引くと、壁の一部が扉のように動いて、開く。

「どうぞ、お入りください」

 イザヴェラ様と一緒に、少し暗い部屋の中に入る。

 大きな円卓だ。

 円卓の周りには、等間隔に椅子が並んでる。

 奥の方にも椅子が一つ。右側にも椅子が三つ並んでる。

 この光景、何かで見たような……?

 明かりが見えて上を見上げると、左右の通気口から精霊が出入りしてるのが見えた。

「客人の皆様は、こちらへ」

 アレクさんが、奥の三つの席を示す。

 客人って、イザヴェラ様だよね。

 イザヴェラ様を案内する。

「エルとリリーシアも、その席だよ」

「私も?」

 客人を護衛するのが主命なのに?

 もしかして、ここに来る人は、皆、席が用意されてるのかな。

 円卓に並ぶ席は十二席。アレクさん、カイトスさん、ミラさん、アルニタクさんが座るとして、残りは八席。大陸会議に参加する国は、グラシアル、ディラッシュ、クエスタニア、ティルフィグン、ラ・セルメア共和国、メヘン同盟、パウリナ国、アルマデル国で、八席?

 確か、陛下も来るんだよね。一番奥の席は陛下の席なのかな。

 ……あ。わかった。

 この円卓、騎士物語の挿絵に似てるんだ。

 円卓は、座る人に序列を付けない為に用いられるテーブルだ。議決権が平等に一票ずつあることを示している。

 騎士物語の中の騎士は、円卓に席を持つ。お互いを尊敬し合う関係だ。

 これも、同じ意味なのかな。

 階段を上がる人の音が聞こえてきた。

「参加者が来たようだね」

 


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