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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅵ.大陸会議編
134/149

145 深紅の輝き

 少し早起きできたかな。

 エルはまだ寝てるみたいだ。

「エル」

 名前を呼んで頬に触れると、エルが目を開く。

「おはよう」

「おはよう。リリー」

 良かった。思ったよりも、すんなり起きてくれた。

 

 ※

 

 支度を整えたエルと一緒に食堂へ。

 ドニスさん、ベルトランさん、ケヴィンさんとアンナさんが食事をしている。

 皆と挨拶をして空いてる席に座ると、スープが運ばれてきた。

「オニオングラタンスープ?」

「はい。その通りでございます」

 チーズの香ばしい匂いがする。美味しそう。

「いただきます」

「いただきます」

 美味しい。

 スープの温かさが、じんわりと体にしみる。

「温野菜とハムのオランデーソース添えでございます」

 茹でたじゃがいもやブロッコリーに、厚切りの焼いたハム。それにオランデーソースがかかってる。

「リリー。口開けて」

 エルの方を向くと、口に何か入った。……ハム?

『もしかして、食べきれないの?』

 エルの朝食と言えば、スープとパンに林檎。それからコーヒーだ。

 それ以外のものを選んでるところは、あまり見ない。

 でも。

「このソース、すごく美味しいよ?」

 もう少しちゃんと食べた方が良いと思うんだけど……。

 エルがブロッコリーを食べて、フォークを置く。

 興味がないらしい。

「昨日の夜は、ちゃんと食べた?」

「宿の料理人が、酒のつまみを出してくれたよ」

 夜は、ちゃんと食べたみたいだ。

 だったら、朝はスープだけでも大丈夫なのかな。

「リリーは、何を食べたんだ?」

「ミートパイだよ。カリアさんが、美味しいお店に連れて行ってくれたんだ」

 ヤギ乳のチーズも美味しかったよね。

「後で教えて。時間があったら行こう」

「えっ?良いけど、ちょっと変わったところにあって……」

『ボクも覚えてないよ。夜だったし、街外れの方だったから』

 エルが興味あるんだったら、カリアさんから地図を貰っておくんだった。

「ケヴィンとアンナは、ミートパイが有名な店を知ってるか?」

「ミートパイですか?申し訳ありません。私は詳しくなくて……」

「私も、知っているのは魚介が有名な店ばかりです。こちらで調べましょうか」

「いや。今日には発つつもりだし、こっちで探すから良いよ」

 そっか。港町で魚介を扱わないレストランって、ちょっと珍しいよね。

 隣を見ると、エルがじゃがいもを食べてる。

 全然減ってない。

「半分食べる?」

「じゃあ、この辺を食べて」

 エルがフォークでサラダを区切る。

「うん。わかった」

 自分のお皿が片付いたら、食べよう。

 

 ※

 

 食事の後は、エル、ドニスさん、ベルトランさんと一緒に、メヘン同盟の人たちを見送りに街の入口へ行く。

 早めに来たつもりだったのに、メヘン同盟の人たちはもう集まっていて、今にも出発しそうな雰囲気だ。

 急いで王子を探しに行くと、隊列の一番前にサフィール王子とカリアさん、パロミデス王子が居た。

「まさか、見送りに来て頂けるとは。あなたの友情に感謝します」

 良かった。間に合ったみたいだ。

 カリアさんが私の方に来る。

「リリー様。来て下さったのですね」

「うん。街道は安全だと思うけど、どうか気を付けて」

「はい。ありがとうございます」

 微笑んだカリアさんと竜の挨拶をする。

「幸運を」

「幸運を」

 カリアさんと握手をする。

「では、また」

 カリアさんとサフィール王子、パロミデス王子が馬に乗る。皆、偉い人なのに、馬車は使わないらしい。

 たくさんの人が出発準備を整えている風景は、砂漠のキャラバンを思い出すよね。

 先頭に立つサフィール王子が、左手を竜の挨拶の形で上げて、口笛を鳴らす。

 これ、カリアさんが昨日やってたのと同じだ。

 空を見上げると、飛んできたワイバーンがサフィール王子の手にとまる。

 カリアさんのとは、違う子かな。

「ワイバーン?」

「私の相棒ですよ」

 エルも、このワイバーンは知らないらしい。

 サフィール王子が腕を振り、ワイバーンが飛び立つ。同時に王子が出発の合図を告げると、メヘン同盟の人たちが一斉に走り出した。

 ……さっき、ワイバーンがとまってたのは、王子の手の甲だったよね。挨拶の形で呼び寄せて、手の甲にワイバーンを乗せるらしい。

 もしかして、カリアさんたちがフィンガーレスグローブを付けてるのは、ワイバーンが手にとまった時に、怪我をしない為なのかな。

 ワイバーンの足の爪って、当たったら痛そうだよね。

「リリー。あのワイバーンが何か知ってるか?」

 王子の手から離れたワイバーンは、空に居た二体のワイバーンと合流している。

「荒野に生息する小型のワイバーンだって。あの中には、カリアさんの友達も居ると思う」

 ここからじゃ良く見えないけど。たぶん、居るよね。

「あのワイバーンは、額に瞼があって、開くと光を放つんだよ」

「三つ目なのか?」

「目じゃなくって、額に光を放つ宝石が隠されてるって感じかな。それで、夜道も照らせるの」

「変わった特技だな。ブレスは吐くのか?」

「うーん?どうなのかな。人懐っこくて、攻撃的な感じはしなかったよ」

 ワイバーンはドラゴンみたいにブレスを吐くって言うけど。あの小さな体から出されるブレスじゃ、戦える相手も限られる気がする。

「ベルトランは知ってるか?」

「西南諸国の荒野には、様々な種類のワイバーンが存在する。あれは、その中でも一番小型で臆病な種だろう。額から放つ光はカーバンクルだ」

「カーバンクルだって?」

「え?それって、ドラゴンの死後に結晶化して出来る石ですよね?」

 ワイバーンとドラゴンは似てるけど、違う種類だ。翼はあっても前脚がない。

 大きさも棲む場所も様々で、色んな種類が居るけど、ドラゴン並みに大きいワイバーンは居ないはずだ。

「ワイバーンがカーバンクルを残すなんて聞いたことがない」

「私も」

「ドラゴンと違い、宝石と呼べるような輝きを持つカーバンクルは稀だからな。ワイバーンの眉間を割ったところで、硬い石が取り出せる程度だろう」

 硬い石……。

 輝きのない石が残る?

「しかし、中には、最初からカーバンクルを結晶として持つ種が居る。カーバンクルを利用した魔法を使う代わりに、魔法のブレスを吐くことはないらしい」

 周囲を照らす光は、魔法だったの?

 でも、光の玉も魔法の力を込めたものだよね。カーバンクルは、魔法の力が込められた石ってこと?

「じゃあ、あの子達はブレスを吐けないってことですか?」

「おそらく。カーバンクルの力を使ってどんな魔法を使うのかはわかりませんが」

 他にも魔法が使えるかもしれないんだ。

「このことから、ドラゴンやワイバーンが魔法のブレスを吐けるのは、結晶化していないカーバンクルの力を使っている為という説がございます」

 カーバンクルのついた腕輪を見る。

 これに、そんな力が……?

「ただ、あのように飼い慣らす文化があるのは初耳です。最近のことなのか、古くから王族に伝わっていたものなのかは私も存じません」

「でも、カリアさんは、竜の挨拶は、右手は人と、左手はワイバーンとするものだって言ってたんです」

「それが、竜の挨拶の語源だと?」

「語源については、色んな説があるって言ってましたけど……。昔から、挨拶はそうだって」

「興味深いお話をしていただき、感謝いたします」

 ベルトランさんから聞いた話の方が勉強になったけどな。

 エルに腕輪を見せる。

「これは、光らないよね?」

 勝手に魔法の力が出てきたら怖いな。

「光らないんじゃないか?アレクのだって、魔法の力は感知できないって言ってたからな」

 良かった。

 結晶化したものは、何の力も持たないのかな。

「もしや、それは王都を襲った紫竜のカーバンクルですか?」

「はい」

 紫竜フォルテの……。

「見せていただいても?」

「私も是非」

 ベルトランさんだけじゃなく、ドニスさんも?

「どうぞ」

 腕輪を外して二人に渡す。

 ベルトランさんの話が本当なら、カーバンクルって、タリスマンと似てる気がする。そういえば、エレインが……。

 

 ※

 

 次は港の方へ行く。

 ここは、国賓を歓迎する為の特別な港らしい。

 波止場には、大きな船がたくさん並んでいる。

 ティルフィグン、ディラッシュに、グラシアルの船もある。クエスタニア、セルメア。それから、メヘン同盟。

「どれも豪華だね」

「あぁ」

 ここに、パウリナ国とアルマデル国も来るんだよね。

 二つの国は、オービュミル大陸南部にある。

 オービュミル大陸は、クエスタニアの下の方にある山脈によって、大陸北部と大陸南部に分断されている。山脈が険しいことはもちろん、左の方には渓谷、右の方には大森林が広がっている為だ。陸上での移動は難しく、往来は船が主流だ。

 グラシアルとの交流もそんなにない場所だから、どちらもあまり知らない国だけど。確か、南部のどこかに冒険者ギルドの総本山、自由都市アルスがあるはずだ。

 大きな船に囲まれた波止場の先へたどり着くと、視界が開ける。

 広い。まるで、海の上に立ってるみたいだ。

「潮風が気持ち良いね」

「天気は相変わらず悪いけどな」

 空は曇り。

 たまには、晴れにしてくれても良いと思うんだけどな。

「さっきの話なんだけど……」

 今は二人きりだから、話しても良いよね。

「ワイバーンも、ドラゴンみたいに精霊が卵を孵すのかな」

 ワイバーンはいろんな種類が居るし、ドラゴンに似てるし。ドラゴンに近い種類も居そうな気がする。

「確かに、精霊が孵化を手伝う生き物は居るかもしれない。実例は知らないけど」

 そっか。野生の生き物が生まれるところを見る機会なんて、滅多にないよね。

 しかも、そこに精霊の助けがあったかどうかなんて、判別するのも難しそうだ。

 でも。

「エレインがね、ドラゴンのカーバンクルは、精霊の祝福の結晶って言ってたの。タリスマンも同じで、クレアが生まれた卵の中に入ってるんだって。だから、同じなのかと思って」

 精霊の祝福を受けることで生まれる種族。

 カーバンクルとタリスマンの違いは、その祝福の結晶が、体の中に残るか卵の中に残るかの違いで。

「ワイバーンとドラゴンのカーバンクルの違いは、生まれる時に受けた祝福の強さの違いってことか?」

 ドラゴンは大精霊の祝福で生まれ、ワイバーンは精霊の祝福で生まれる。

 エルも同じ結論みたいだ。

「私も、そうじゃないかなって思って。大精霊の祝福は、生き物にとっては毒になるぐらい強過ぎる力なんだと思う。ドラゴンは、それに耐えられるってだけで……」

 そして、エルが生まれた時も。

 エルはレイリスの力に耐えられたけど、お母さんは……。

 ……話題を変えよう。

 そうだ。

「エル、魔法を使っても良い?エルに見てもらいたいの」

 見てみたいって言ってたから。

 これだけ広い場所なら、大丈夫だよね?

「攻撃的な奴じゃないなら良いよ。光を広げる魔法とか」

「わかった。やってみる」

 目を閉じて、集中して。

 光を広げる魔法。

 レティシアさんと練習した時に出した魔法。

 前みたいに柔らかくふんわり光が広がるイメージで。

 優しい光を……。

 目を開くと、イメージ通りの光が広がっている。

「出来た」

 広がる優しい光。

「何をイメージしたんだ?」

「前みたいに、ふんわり光れって感じかな?」

『前より広がったよね』

 ここまで広がるイメージはしてないけど……。

「疲れてないか?」

「大丈夫。練習したから、前より魔法の使い方は上手くなったと思う」

 研究所の亜精霊と戦った時は、すぐに疲れちゃったけど。

 今のところ、疲れたって感じはしない。

 それに、この魔法、とても綺麗だ。さっきまで暗い色だった海が、晴れの日みたいに明るく鮮やかに色づいてる。

 あ。

「見て、エル。小さな虹が出た」

 波しぶきで七色が浮かび上がる。

 海も虹が見られる場所なんだ。

 あれ?でも、虹が見える条件って決まってるよね?

 エルも空を見上げてる。

 でも、空には太陽なんてどこにもない。

 私の魔法が、太陽の代わりになったってこと?

「やっぱり、光の魔法なのかな」

「違う」

 違うんだ。

 そこまではっきり言えるってことは、もしかして、エルは私が使える魔法が何か知ってるの?

 だったら、教えてくれても良いのに。

 ……何か変な魔法なのかな。

 でも、色々試してって言ってたから、エルにも良く分からないものなのかもしれない。

 海で見えた虹はもう消えている。

 代わりに、大きな船が二隻近づいてきてるのが見えた。

「エル。あの船かな?」

 エルを見ると、エルが頷く。

「来たみたいだな」

 

 ※

 

 ケヴィンさん、アンナさんを先頭に、皆でパウリナ国とアルマデル国から来た人たちを出迎える。

 パウリナ国からは、アクイロリス王子が。アルマデル国からはルミナリア王女が、大陸会議の代表として来てくれたらしい。

 どちらも、王族という感じの煌びやかな衣装を着ている。

 二人が象徴的に身に着けてる宝石は珊瑚だ。

 そういえば、珊瑚は南部の国の特産品だったっけ。

 珊瑚といえば、可愛いピンク色やオレンジ色のものが多いけど、深い紅色をしたものは別格だ。二人が身に着けていたのは、見惚れるほど美しく深い色をした紅の珊瑚。傷も色のぼやけもない完璧なものだ。きっと、王族が身に着ける特別なものなんだよね。

 

 船には、王族の従者ばかりじゃなく、冒険者もたくさん乗っていたらしい。南部の王族は、冒険者と仲が良いのかな。

 無事に会談の約束が出来たから、この後は、宿に戻って会談をするらしい。

 

 ※

 

 パウリナ国とアルマデル国との会談は、特に長い時間をかけることなく、午前中の内に終わった。会談の内容も良かったらしい。最後は、皆で握手をして、ベルトランさんがワインを贈っていた。

 ……というか。

 エルが議題として扱う予定の大陸河川の話は、今回の議題になる予定じゃなかったものだし、公になっていない話題のはずなのに。会談した人は皆、内容に驚くこともなく、エルの簡単な説明で十分に理解してた気がする。その上で、細かい質問に答えたり、現在計画中の話や、大陸会議で重点的に話し合うべきことを確認しあっていた。

 なんとなく、議題を担当してるのがエルだって知っていたような雰囲気まである。

 皆、一体、どこで知ったんだろう。

 移動に時間がかかるはずの遠い国なのに、情報の伝達だけはとても速いらしい。

 

 会談が終わって、ケヴィンさんとアンナさんにお礼を言って。

 荷物の整理を済ませて、宿を出る。

「ランチを食べたら出発する予定だ。俺とリリーはミートパイの店を探す予定だけど、二人はどうする?」

「私も同行する」

「では、私もご一緒いたします」

 後は帰るだけだから、皆で行動してた方が良いよね。

「じゃあ、冒険者ギルドに行って情報を集めよう」

「冒険者ギルドに行くの?」

「変わった場所にあるなら、ギルドで聞いた方が手っ取り早いからな」

 そっか。ここを拠点にしてる冒険者なら、街に詳しいはずだよね。

 

 ※

 

 皆で、冒険者ギルドへ。

 すごく広くて賑やかだ。王都のギルドより広いんじゃないかな。港町なら、国をまたいで活動する冒険者が拠点にしやすいのかもしれない。

「エルロック。こんなところに居るなんて珍しいな」

 レストランに居た冒険者がエルの方に来る。

 エル、ここにも知り合いが居るんだ。

「この街に詳しい奴を探してるんだ」

「街の案内なら、格安で引き受けてやっても良いぜ」

「探してるのは案内人じゃなくて、ミートパイが美味い店だ」

「港まで来て海の幸を食わないなんて変わった奴だな」

「知ってるなら情報量は払う」

「ミートパイねぇ……。知ってるか?」

 冒険者の人が、近くに座っていた人に声をかける。

 一人は、大きな荷物を脇に置いている男の人。冒険者なのかな?

 もう一人は、胸元の広いワンピースとマントに、長い杖を持った女の人。でも、杖を持ってるのに魔法使いの光が見えない。魔法使いじゃないのかな?でも、なんだか違和感がある……?

 女の人がこちらを見る。

「だったら、一緒に探せば良いわ。私もそろそろランチにしたいもの。皆様、ご一緒してもよろしい?」

「どうする?」

 エルに聞かれて、慌てて頷く。

 えっと……。一緒でも大丈夫だよね?

「じゃあ、それで良いよ」

「ふふふ。ありがとう」

「なら、行くとするか。あぁ、一緒に行くんだから情報量は取らないぜ。俺の名前は、カイトス。冒険者だ」

「私は、ミラよ」

「商人のアルニタクだ」

「俺はエルロック。彼女はリリーシア。それから、ベルトランとドニスだ」

「よろしくお願いします」

「よろしく」

 ……皆、星の名前?

 

 外に出て、エルと手を繋いで三人の後を歩く。

「エル、」

「リリー、」

 声が被った。

「先に話して」

 もしかして、エルが気になってることと同じ?

「あの人、魔法使い?」

「見えないのか?」

「うん」

 後ろから見ると、そんなに違和感がないんだけど。

 前から見た時は違和感があった。

「隠してるのかな」

「どうだろうな」

 あの人が魔法使いだったとしたら、エルみたいな魔法使いの光を隠す防具を着てるってことになる。

「防具としては珍しい素材じゃないし、服の中に別の防具を着込む魔法使いも居る」

「そうなんだ」

 ガラス繊維だっけ。

 魔法使いの光を持ってないと、どんな魔法を使う人かわからない。

 ……良く考えたら、それは普通のことなんだけど。

「あの人たちは、皆、冒険者なの?」

「さぁ?カイトスは冒険者って言ってたけどな。他の二人が冒険者ギルドに所属してるかは知らない」

「ギルドに所属してなくても、仕事は出来るの?」

「出来ない。依頼を受けることが出来るのは冒険者だけだ。誰かに手伝いを頼むのは自由だけど、報酬は、冒険者の人数分しか支払われない」

 報酬が一人分しか出ないなら、三人でやる意味はないよね。

 あ、でも、ランク黒の依頼は誰でもできるんだっけ?

 ……でも、冒険者を本職にしてるような人たちなら、高い依頼を選ぶはず?

「着きましたよ。こちらで間違いないですか?」

 え?もう?

『ここだね』

「はい。ここです」

 ……そんなに変な場所じゃなかったみたいだ。

 

 皆で、お店に入る。

 昨日と同じ店員さんが、大人数で座れる席に案内してくれた。

 エルの隣に座ると、私の左隣にミラさんが座る。

「女の子同士、仲良くしましょう」

「はい」

 近くに居ると、やっぱり違和感がある。

 なんとなく、魔法使いの光が見えそうな気がするんだけど……。

 あんまり見るのも失礼だよね。気にしないようにしよう。

 ドリンクは、昨日と同じエルダーフラワーシロップを炭酸で割ったものを皆で頼んだ。

 料理は、カイトスさんが主導して選んでくれた。

 皆はミートパイにするみたいだけど、私は昨日食べたから、コテージパイにした。カイトスさんはパスティを選ぶことにしたらしい。どちらも、ラングリオンでは見かけない料理だ。ベルトランさんは悩んでたみたいだけど、コテージパイにしたらしい。

 というか。昨日は、あんまり気にしなかったけど。ここって、大陸の西の方の料理を出してるお店なのかな。

「少し、店の調度品を見せていただいてもよろしいでしょうか」

「はい。どうぞ、ご自由にご覧下さい」

 ベルトランさんが席を立つ。

「では、私も」

「じゃあ、私も見せていただきます」

 ドニスさんとアルニタクさんも見に行ったみたいだ。

 お店には、変わったものも並んでる。

「ミートパイって、西南諸国の名物料理なのか?」

「え?ミートパイは、どこでも食べられるものだと思うけど……」

 どこかの一つの国の名物って感じはしないよね?

「でも、手づかみで食べられるパスティとか、パイ生地を使わないコテージパイは、西の方のイメージがあるかな?」

「パイ生地を使わない?」

「コテージパイは、マッシュポテトを乗せて焼いたものだから」

 パイの代わりにポテトを使うミートパイ。

 楽しみだ。

「ドリンクをどうぞ」

 店員さんが、テーブルにグラスを並べる。

「先に乾杯するか」

「そうだな」

 良いのかな?

 でも、三人とも、楽しそうに見てるみたいだ。

「乾杯」

 皆に合わせて、乾杯をする。

 うん。やっぱり美味しいよね。

「良い香り。あなたのお勧めで正解ね。お名前は、リリーシア様だったかしら」

「リリーで良いです」

「そうなの?確か、皇太子近衛騎士様よね」

「え?どうして……」

「有名人だもの。今日は何を討伐しに来たの?手伝いが必要なら言ってね」

「今日は、エルの護衛で来たんです」

「残念ね。護衛の仕事だったの。のんびりしてるってことは、もう王都へ帰還する予定なのかしら」

「はい」

「なら、私たちと一緒ね。この先も御一緒しようかしら」

「でも、私たちは馬車で移動してるから……」

「素敵。馬車があるのね」

 ミラさんが、エルを見る。

「ねえ。私たちも、王都に向かう予定なの。そちらの馬車に乗せてもらっても良いかしら」

 えっ?

「馬車に?」

『リリーは口が軽すぎるよ』

 だって……。

「四人乗りの馬車だから、乗せられても後二人だ」

「アルニは馬に乗れるって言ってたから平気よ」

「そうだな。俺も乗せてもらえると移動が楽だ」

 アルニって、アルニタクさんのことだよね?

「乗りたいなら、身分の確認が必要だ。ギルド証を見せてくれ」

「冒険者は俺だけだぜ」

 冒険者のギルド証だ。

 これ、ランクブラン……?

 この人、エルと同じぐらいすごい冒険者だったんだ。

「ミラは?」

「私は、魔術師ギルドにしか所属してないわ」

 ミラさんもギルド証を出す。

 魔術師ギルドのギルド証は、初めて見るよね。

 エルが一通り見た後、ギルド証をミラさんの前に出して、ギルド証を指で叩く。

「示して」

 ミラさんが、ギルド証のホログラムに触れる。

 すると、ギルド証の上に炎が浮かんだ。

 ミラさんは、炎の魔法が使えるってこと?

 魔術師ギルドのギルド証って、こんなことが出来るんだ。

「二人とも、同乗して構わない」

「ふふふ。ありがとう」

「助かるよ。アルニは商人だから、商人ギルドのギルド証を持ってるはずだ」

「ん。わかった」

 冒険者と、魔法使いと、商人?

 冒険者の仕事は、冒険者ギルドに所属してない人への報酬はないのに?

 どういう関係?

「三人は、仲間じゃないんですか?」

「今日、港で会ったばかりよ」

「今日?」

「私もアルニも、冒険者ギルドに情報を集めに来たの。そこで、カイトスに声をかけられたのよ」

「仲間にするなら美人の魔法使いと頭のきれる商人に限るだろ?」

「それから、お酒を奢ってくれる冒険者かしら?」

「良いぜ。次は何を飲むんだ?」

「王都に行ったら、アルニから、お勧めを聞くわ」

 仲は良さそうだけど。ランクブランなら、どんな依頼でも受けられる立場だし、仲間にする人は誰でも良いのかな。

「お料理をお持ちいたしました」

 香ばしい良い匂い。

 料理が運ばれてきたことに気付いたドニスさんたちも戻ってきた。

 

 ※

 

 ランチの後は、皆で王都に向かう。

 馬車には、エル、ベルトランさん、ミラさんとカイトスさんが乗っている。

 その馬車の前方をドニスさんが護衛して、後ろから私とアルニタクさんが付いていくことになった。

『まぁ、リリーに先頭は無理だよね』

 先頭を行く人は、周囲の安全確認はもちろん、馬車に合った速度を保つとか、気を使わなくちゃいけないことがたくさんありそうだ。

 後方の護衛は、行く時にドニスさんともやっていたから大丈夫。馬車に異常がないか注意して、後方への警戒を怠らないこと。

「リリーシア様」

「あの、リリーで良いです」

「いえ。いずれ、お客様になって頂くかもしれませんからね。どうかリリーシア様と呼ばせてください」

「……はい」

 アルニタクさんは、商人ギルドに所属してる商人らしい。さっき、エルが身分の確認の為に、ギルド証を見せてもらっていた。

「リリーシア様は以前、セイレーン討伐にいらっしゃった時に、アンティークの首飾りの宝石を一目でトパーズだと鑑定されたとか」

『そんなことしてたの?』

 してたっていうか……。

「あれは、珍しいトパーズだったから……」

「宝石にお詳しいのですね。よろしければ、こちらの宝石の鑑定もお願いできますか?」

 アルニタクさんが、赤い宝石の付いたペンダントを出す。

 ルビーっぽい?

 でもそれなら、この話をした後に鑑定する必要なんてある?

「見せてもらっても良いですか?」

「はい」

 馬上でペンダントを受け取って、宝石を見る。

『落ちないようにね』

 この速度なら、手綱を持ってなくても落ちないと思う。

 この宝石は……。

 やっぱり、ルビーだよね?

 どこからどう見ても、他の宝石には見えない。

 ただ、ものすごく綺麗なルビーなのは確かだ。

 燃えるような赤い色をした強い輝きを持つルビー。

 私が知る中でも、かなり好きな部類に入る色。

 ……?

 待って。

 私、これと同じ色のルビーを知ってる。

『どうしたの?』

 腰の鞘から、カーネリアンを出す。

 そして、刀身に嵌め込まれたルビーとペンダントのルビーを見比べる。

 この、人を惹きつける不思議な色合い。

 生き物のような輝きを失ってもなお、意思があるかのように人を惹きつける濃い赤。

「アルニタクさん。これを手に入れたのはいつですか?」

「私が手に入れたのは、十年以上前のことですよ。古い言い伝えのあるペンダントで、数百年前のものと言われています」

 丁寧に手入れされてるから、そんなに古いものだと思わなかった。

「古い言い伝えって、精霊と関わりがありますか?」

「はい。仰る通りです」

 やっぱり。

 これは、エイダの精霊玉だ。

 炎の大精霊は、エイダ以外にも居るけど。

 エルの精霊玉と、エルの杖に使われている月の大精霊の精霊玉は別物だったように、同じ属性の精霊でも、生まれる精霊玉は精霊ごとに違う。

 一致するってことは、同じ精霊のものに違いない。

「これは、炎の大精霊の精霊玉です」

 短剣を鞘に戻して、ペンダントをアルニタクさんに返す。

「しかし、精霊玉のような輝きはありませんが」

「大精霊が根源の神オーに還ると、精霊玉の輝きは変化するんです」

「まさか、そんなことがあるとは。博識でいらっしゃいますね」

 博識なんかじゃない。

 私が知ってるのは、輝きの変化の原因を目の前で見たからだ。

 ……二人が消えていく瞬間は、今でも覚えてる。

 残された輝き。

 これも、カーバンクルと同じものなのかもしれない。

 

 ※

 

「お疲れ様、陽炎。また一緒に行こうね」

 陽炎を抱きしめて、王都の東大門にある厩舎に預ける。

「よろしくお願いします」

「はい。確実に北の厩舎へ送り届けますので、ご安心を」

「ありがとう」

 

 厩舎で陽炎と浜風と別れた後は、馬車に乗ってお城を目指す。

 カイトスさんたちは、先に王都へ行ってしまったらしい。しばらく王都に居るみたいだから、また会えそうだよね。

 エルとベルトランさんは、仕事の話をしてる。この後も仕事するのかな。

「お前は、商人ギルド総長の名を知っているか?」

「知らない」

 ギルド総長?

「エル。総長って?」

「ギルドの代表だよ」

「代表って、ギルドマスターじゃないの?」

「少し違うな。ギルドマスターはギルドを運営する側で、代表じゃない。冒険者ギルド総長になるのは、冒険者。魔術師ギルド総長なら、魔法使いや錬金術師。商人ギルドも同じだ」

 冒険者ギルド、魔術師ギルド、商人ギルド。

 後、私が知ってるギルドは……。

「職人ギルド総長と盗賊ギルド総長も?」

「どっちも歴史的には新しいし、所属してないから知らないな」

 ギルドに所属してないと、わからないことって多いよね。

 でも、ギルドマスターじゃないなら、何をする人なのかな。

「総長の役割って?」

「ただの、対外的な代表だ」

「特別な役割じゃないの?」

「あぁ。各ギルドは独立した存在だし、ギルドの運営なんて、ギルドマスターが居れば問題ないからな」

 各地にある冒険者ギルドをまとめてる人でもなさそう……?

 エルの話だと、冒険者の中で一番偉い人って感じだけど。冒険者はそれぞれ自由に活動してるし、その中で一番偉い人が居るっていうのも、なんだか変?

「あ。でも、ギルドの認可を出せるのは総長だけだったな」

「認可?」

「たとえば、王都の冒険者ギルドが冒険者ギルドを名乗れるのは、冒険者ギルド総長の認可があるからだ。総長が認可を取り消せば、冒険者ギルドを名乗れなくなる上に、所属する冒険者も異動手続きを行わなければ冒険者活動を行えなくなる」

『それ、かなり重要な役割じゃない?』

「元々、ギルドの立ち上げをしたのは初代総長だからな。運営に関わる業務はギルドマスターに割り振ったけど、認可業務だけ残ったってところじゃないか?」

 これだけ各地にギルドが出来た後なら、ギルドを新しく認可する仕事はなさそう?

 どちらかというと、悪いことしてるギルドがないか監視する役割なのかな。

 ギルドの王様みたいな感じ?

「で?商人ギルドの総長がどうしたって?」

「現在の商人ギルド総長の名は、アルニタクだ」

「え?」

「さっきの奴がそうだって?」

「確証はない。名前は広く知られているが、本人の顔を知る商人はわずかだ。偽名として騙られることも多い」

「商人の癖に顔が知られてないのか?」

「一部の者しか知らないらしい。お前が言うように、総長が出来ることはギルドの認可だけのはずだが。商人ギルド総長ともなれば、他の役割を兼任してることも多く、命を狙われることもあるという話だ。護衛二人で出歩くとも思えないが……」

 え?

 二人って、カイトスさんとミラさんが、アルニタクさんを護衛をしていたってこと?

「でも、アルニタクさんは外で馬に乗ってたよね?護衛対象だったとしたら、危険じゃない?」

「あぁ。あの二人が護衛を請け負っていたようには見えない」

 エルも同じ意見だ。

 街道がいくら安全だからって、馬車があるなら馬車に乗ってもらうはずだよね。

「じゃあ、商人ギルドの総長さんじゃなかったのかな」

「わからない。判断に必要な情報が足りないからな」

 守られてないだけで、本人の可能性もある?

 でも、商人の中で一番すごい商人さんが総長になるとしたら、大きな商会の偉い人だろうし、単独行動なんてしないはずだよね。

 というか。

 冒険者と魔法使いと商人の組み合わせって一般的なのかな。

 一緒に仕事するなら、ミラさんとアルニタクさんも冒険者ギルドに入れば良い気がするけど。二人とも、冒険者ギルドには所属してないって言ってたよね。

 だったら、仕事の為に組んでるわけじゃないのかな?

 

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