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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅵ.大陸会議編
133/149

144 呼び名

 昨日は楽しかったな。

 早めに起きて、皆でご飯を食べて、エルと一緒にお城へ。

「今日から北の港に行く。明後日までには帰る予定」

 明後日……。

「そっか。気を付けてね」

 大陸会議だから、エルも忙しいんだよね。

「いってらっしゃい、リリー」

「うん。いってきます。エルも、いってらっしゃい」

「いってきます」

 手を振って、アレクさんの部屋を目指す。

 エルが仕事する場所は、皇太子総務事務室。

 私が仕事する場所は、アレクさんの部屋。

 ……ちょっと、遠い。

 

 ※

 

 アレクさんの部屋へ。

「おはようございます」

「おはよう、リリーシア」

「おはようございます」

「おはよう、リリー」

 部屋には、アレクさんとロザリー、アニエスとライーザ、グリフが居る。

 報告は、特に何もないよね?

「コランタンは、ちゃんと仕事をしていたかい」

「え?」

『昨日、給仕をやってただろ』

 そうだった。

「はい。お皿を下げてくれてました」

 横でグリフが笑う。

「大した仕事は任せて貰えなかったみたいだな」

 それ以外のこと、してたかな?

「今日の仕事は、エルの護衛だよ。騎士の衣装に着替えて、すぐに向かうと良い」

「はい!」

『良い返事だねー』

 急がないと。エルのことだから、先に行っちゃうかもしれない。

 

 ライーザに手伝ってもらって、急いで騎士の服に着替える。

 ついでに、予備の騎士の服も貰っておいた。これで、汚しても着替えが出来る。

 それから、アルベールさんに書類を届けると言うライーザと一緒に、皇太子総務事務室へ。

 ノックをすると、ドロシーが出てきた。

 扉の近くにはドニスさんも居る。けど、エルは席に居ないみたい?

「おはようございます、リリーシア様」

「おはよう、ドロシー。ドニスさん」

「おはようございます」

「エルは居る?」

「まだお見えになっておりませんよ。アルベール様の執務室じゃないでしょうか」

「そっか。ありがとう」

「せっかくだから、ご紹介いたしましょう」

 ドロシーが私の手を引いて、事務室の中に入る。

「では、自己紹介をどうぞ」

 えっと……。

「皇太子近衛騎士、撫子のリリーシアです。よろしくお願いします」

「さぁ、拍手ですよー」

 ドロシーが言うと、皆が慌てて拍手を始める。

「ありがとうございます」

「お忙しいところ、ありがとうございました。では、いってらっしゃいませ」

 今度は背中を押されて、部屋の外へ出る。

 そういえば、ちゃんと挨拶をしたのって今が初めてだっけ。

 ライーザと一緒にアルベールさんの執務室に向かって歩いていると、執務室からエルが出てきた。

「エル?」

「リリー?」

 良かった。まだ出かけてなかった。

「どこかに行くのか?」

「今日の主命は、エルの護衛なんだ。だから、港まで一緒に行くよ」

 ……あれ?

 なんだか、朝より元気がない?

「出発は午後だよ。詳しいことは、アルベールに聞いてくれ」

「良いけど……」

 そのまま行こうとするエルの手を掴む。

「何かあった?」

 その顔。

 やっぱり、何かあったんだ。

 そして、話してくれないに違いない。

「少し調べたいことがあるから、今日のランチは一緒に行けないかもしれない」

「わかった」

「午後になったら、執務室で待ってて。港には、ドニスとベルトランも一緒に行く予定だ」

「うん。待ってるね」

 事務室に向かうエルを見送る。

 ……大丈夫かな。

「では、参りましょう」

「うん」

 ライーザが執務室の扉をノックする。

 

「おはようございます」

「おはよう、リリーシア。ライーザ」

 ライーザが、ソフィーさんに書類を渡す。

「今日はどうしたんだ?」

「主命で、エルの護衛をすることになりました。出発は午後って聞いたんですけど……」

「あぁ。午後に行くらしいな。馬車の手配はこちらでする。ドニスは馬で護衛する予定だが、君はどうする?」

「私も馬で護衛します」

「なら、準備を整えるように言っておこう。馬の名前は?」

「陽炎です。ドニスさんのは……」

「浜風だ」

 風の名前。カミーユさんの故郷の出身なのかな。

「他に聞いておきたいことはあるか?」

 聞いておきたいことって言うか……。

「さっき、エルと他に話してたことありますか?」

 アルベールさんがソフィーさんを見る。

「ベルトラン様の奥様の御心配をされていたようです」

「何かあったんですか?」

「いいえ。何も」

『あー……』

 何か悪いことが起こる心配でもしてたのかな。

 だから、調べ物?

「君も苦労するな」

「え?」

 私?

「リリーシア様。一度、アレクシス様の元へ戻りましょう」

「あ、うん」

 ライーザに言われて、一緒に部屋を出る。

 暇が出来ちゃった。

 次は何をするのかな。

 ……自分で考えなくちゃ。

 

 ※

 

 アレクさんの部屋に戻って、出発が午後になったことを説明する。

「時間が空いたので、少し体を動かしてきても良いですか?」

「なら、王国兵士の演習場へ行くと良い。君が稽古をつけてくれるとなれば、皆、喜ぶだろう」

「えっ?」

「セズディセット山の砦でやっていたようにしてごらん」

 あの時も、稽古をつけてたわけじゃないんだけど……。

 でも、あんな風にやれば、お互いに良い稽古になるのかな?

「わかりました」

「では、ご案内いたします」

 

 ライーザの案内で、演習場へ。

 城壁に囲まれた場所。こんなところもあるんだ。

「演習を指揮している教官を呼んで参りますので、少々お待ちください」

「うん。わかった」

 演習場では、王国兵士の人たちが素振りをしている。

 でも……。

『ちょっと、どこ行くの?』

 少し気になる人が……。

「右腕に力が入り過ぎてる。持ち手をもう少しずらして」

「……はい!」

 びっくりした……。

 大きな声。

 でも、さっきより良い形になったよね。

 後、こっちの人も。

「もっと胸を張って。腕を伸ばして。そう、そんな感じ」

「はい」

 それから、この人は。

「剣、軽くない?」

「えっ?」

「もう少し重いのにするか、素振りの速さを早くした方が良いと思う」

「はい」

 周りを見る。王国兵士は、女の人も結構居るよね。

「あの!」

「?」

 声をかけられて、振り返る。

「その剣、持たせて頂いてもよろしいですか?」

「うん。良いよ」

『良いの?』

 リュヌリアンを下ろして、王国兵士の子に渡す。

「あ、」

「うわっ」

 渡しそびれて、リュヌリアンが地面に落ちた。

「ごめんなさい。怪我はない?」

「はい、大丈夫です」

 王国兵士の子が、リュヌリアンを拾う。

「重い……」

「俺も試してみて良いですか?」

「私も、お願いします」

「じゃあ、順番に……」

 流石に、王国兵士に大剣を扱う人は居ないらしい。

 持ち慣れてないのか、ちゃんとした構えが出来てる人は一人も居ない。

「こら!お前たち、何をしている!」

「すみません!」

 返事をした皆が、剣の素振りに戻った。

 教官が来たらしい。

 リュヌリアンを鞘に納めて、振り返る。

「おはようございます。お待たせいたしました、リリーシア様」

「おはようございます」

「稽古をつけていただけるというお話でしたね」

「稽古をつけるって言うか……。私の稽古に付き合ってもらいたくて」

「リリーシア様の稽古に付き合えるかどうかわかりませんが」

 皆、大剣には慣れてないみたいだったよね。

 なら、片手剣?でも、片手剣を練習する意味はない。

 練習するとしたら……。

「演習用の短剣ってありますか?」

「短剣ですか?」

「リリーシア様。鞘付きの短剣をご使用になられてはいかがでしょう」

「そっか」

 短剣を鞘ごと持つ。

「私はこれで戦うので、皆さんは好きな武器で相手をしてください。一対一じゃなく、二人か三人でかかってきて欲しいんですけど……」

「かしこまりました。では、一定時間ごとに隊員を入れ替えていくという形を取るのはいかがでしょう」

「はい。大丈夫です」

「では、準備を致しますので、少々お待ちください」

 楽しみだ。

 準備運動をしておこう。

 

 ※

 

 色んなタイプの人の動きを見るのは勉強になる。

 あの人は複数の攻撃を同時に出す。それは、複数人を相手にしているのと同じだ。

 一か所だけに集中していては駄目。常に周りを見ながら、次に来る攻撃が自分に到達するまでの時間を予測して。一つ一つ、攻撃を潰す。

 手前から来た槍の攻撃を避けて、右手から来た片手剣の攻撃を弾き、後方から来た人の攻撃を屈んでかわす。周囲を確認。次の攻撃まで余裕があるから、後方の人を足払いで転ばせて、空いた隙間から囲まれた外へ。片手剣の相手を背後から蹴る。まだ宙に浮いてる槍の棒を引いて相手を転ばせる。

「次!」

 私がやるべきことは、攻撃の無効化。

 確実に防いで、エルがあの人に攻撃を与えられるよう、エルを守る。

 

「次!」

 ……あれ?来ない?

『全員相手し終わったみたいだよ』

 そっか。

 少し物足りないかな。

「リリーシア様!」

 聞き覚えのある女の子の声?

 見上げると、演習場を囲む城壁の上に王国兵士がたくさん集まっている。

 この前、一緒に遠征に言った子たちかな?

 手を振ると、皆が手を振り返してくれた。

「物足りなそうですねぇ。暇な騎士でも探したらどうですか?」

「バニー!稽古に付き合ってくれる?」

「残念ながら、今日の任務は、城内の見回りです。ランチなら付き合いますよ」

『見回り?ずっと、皆でこっちを見てたけどね』

 城壁の上からは、ここが良く見えそうだ。

「じゃあ、見回りを手伝うよ。そっちに行って良い?」

『リリー、ここから上に行く方法、知ってるの?』

 えっと……。

 入り口はあっちだから……。

 バニーの笑い声が聞こえる。

「迎えに行くんで、そこで待っててください」

「わかった」

 バニーが来る前に、お礼を言わなくちゃ。

 ライーザと教官の所へ行く。

「稽古に付き合っていただいて、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、貴重な経験を積ませていただいて感謝しております。お時間があるなら、大剣の演武を披露していただけますか?」

「演武ですか?簡単な構えとかしか出来ませんが……」

「構いません」

 人に見せられるようなこと、したことないけどな。

「リリーシア様。ヴァネッサ様がいらっしゃいましたら、私は戻ります。何かお言付けはございますか?」

「ランチを食べたら、真っ直ぐ出発するって伝えてもらえる?」

「かしこまりました。お気をつけて」

「ありがとう」

 広い演習場の中央へ行って、リュヌリアンを抜く。

 演武……。

 基本の斬り方を続ける感じで良いのかな。

 構えて、リュヌリアンを振る。

 少し運動した後だから、体も軽い。

 広い場所だから、どんな動きでも試せる。

 良い感じ。

 せっかくだから、刃を伸ばす魔法も使ってみようかな。

 これだけ広い場所なら、被害も出ないよね。

 魔法……。

 エルが、イメージした色を出せるかもって言ってたっけ。何色が良いかな。

 視界の端で、自分のマントが翻る。

 撫子色にしよう。

 リュヌリアンを振り上げ、撫子色に輝く長い剣をイメージする。この前、レティシアさんと勉強した時の感覚を思い出して……。

 いけっ!

『馬鹿!』

 リュヌリアンの剣の先から、天に向かって、優しいピンク色の光が伸びる。

 ……綺麗。

 これ、私の魔法?

 突き抜けた光は、天に向かって伸びた後、消えた。

 この前、月の女神に願った時みたいにはならなかったけど。

 結構、高いところまで届いたよね。

 リュヌリアンを鞘に納めると、周囲から拍手が起こった。

『あんな目立つことして、良かったの?』

「あ」

 大丈夫かな……。

 拍手をしながら、バニーが私の近くまで来た。

「また、派手な魔法をぶっ放しましたねぇ」

 魔法……。バニーは博識だから知ってるかも?

「バニーには、何の魔法に見えた?」

「剣の魔法じゃないんですか?」

「ってことは、リンの魔法?」

「境界を作らない魔法をリンの魔法って呼ぶのも変な気がしますけどね」

 確かに。斬りつけた相手に境界を生じさせないってことは、リンの力でもなさそうだ。

 

 ※

 

 皆で見回りをして、ランチを食べて。

 アルベールさんの部屋でエルと合流して、出発。

 天気は曇り。

 温かい毛皮のマントに変えたけど、頬に当たる風はひんやりしている。

 陽炎に乗って、ドニスさんと一緒に馬車の後ろから付いて行く。

「前は護衛しなくても大丈夫ですか?」

「そうですね。後方や横から敵襲があった場合、先を行く馬が方向を変えるのは時間がかかります。今回は見晴らしの良い場所ですし、要人が乗る馬車を観察できる後方から護衛した方が連携が取りやすいですよ」

 確かに、馬の方向転換は時間がかかる。街道なら前方の様子も良く見えるし、この形が良いみたいだ。

「勉強になります」

 周囲を見渡す。

 亜精霊が居る様子もないし、今のところ安全だ。

 

 ※

 

 途中、街道の街で少し休憩を取る。

「リリー」

「うん?」

 呼ばれて、エルの方を見ると、エルが私の左手を引く。

 あれ?いつもと手の繋ぎ方が違う?

 指が絡む。

 ……もしかして?

 エルの親指の内側に親指を絡めて。

 全部の指を、エルの指の間に入れる。

「知ってたのか?」

「うん。貝殻繋ぎだよね」

 別名、恋人繋ぎ。

 この繋ぎ方するの、初めてだ。

「グラシアルでもするのか」

「こっちではしないの?」

「聞いたことないな。さっき、ベルトランから西南諸国のやり方を聞いたんだ。恋人としかしない繋ぎ方だって」

 ……それで、私としてくれたんだ。

 なんだか新鮮。

「竜の挨拶は知ってるか?」

「竜の挨拶?」

「手を、こんな形にして突き合わせるんだ」

 エルが、左手でこぶしを作って、親指と小指を広げる。

「こう?」

 右手で同じ形を作ると、エルがこぶしを合わせてきた。

「友情を」

「友情を?」

 ここまでが挨拶?

「エルロック」

「ん?」

 ベルトランさんの声が聞こえて、エルと一緒に後ろを見る。

「握手は右手が基本だ。それに、家族で握手などしないだろう」

 握手だったんだ。これ。

「だってさ」

「わかりました」

 ルールがあるらしい。

 覚えておこう。

「少し休憩したら、北の入口に集合。ドニスも休んでくれ」

 馬と馬車も、北側に移動しておいてくれるはずだ。

「では、私はベルトラン様の護衛を致します」

「私に護衛は必要ない」

「そういうわけには参りません。さぁ、行きましょう」

 ドニスさんとベルトランさんが、先に街に入っていく。

「じゃあ、行くか」

「うん」

 

 人が目まぐるしく移動する街は、いつ来ても違う顔に見える。

「何食べたい?」

 この前、バニーに教えてもらったの……。

「サモサとチャイ、それから、貝焼き?串焼きと、焼き芋と……。あ。アップルパイ」

『それ、全部食べる気?』

「違うよ。この前、バニーに教えてもらったお店。エルは、どれが好きかなって」

 エルが口元に手を当てて唸った後、私の方を見る。

「まだ食べてない奴を食べに行こう」

「うん」

 楽しみだ。

 

 甘い匂いがする。

 この辺りは、甘いものを置いている屋台が多いみたいだ。

 クレープのお店に、チュロスのお店もある。

 でも、エルが行ったのは違うお店。

「ワッフルだ」

 良い匂い。

「どれぐらい食べられる?」

「えっ?えっと……。三つぐらい?」

「じゃあ四つ包んでくれ」

「かしこまりました」

 店員さんが、紙袋にワッフルを入れてエルに渡す。

 代金を払ったエルが、袋の中から一つ出す。

「食べながら、飲み物を探そう」

 バニーと歩いた時もそうだけど。この街の屋台では、買ったものを立ち止まって食べちゃいけないらしい。

 エルが紙袋を片手に、私の手を引いて歩きだす。

 今度は、いつもの手の繋ぎ方だ。

 こっちの方がしっくりくる。

「タルトが売ってるな」

 ジャムタルト。小さなタルト台にジャムを乗せて焼いたお菓子だ。ジャムの色が宝石みたいに光ってる。

「綺麗」

「どれが良い?」

「えぇ?ワッフル、たくさん買ったよ?」

 飲み物探してたんじゃなかったっけ?

「じゃあ、苺ジャムのを一つ」

「かしこまりました」

 店員さんが一つ包む。

 だめだ。こんな調子で買ってたら、また食べ過ぎちゃう。

「座れるところを探そう?」

「そうだな」

 

 屋台の通りから外れた場所にあるカフェで、エルと一緒にお茶を飲む。

 このお店はドリンクしか提供しないお店で、屋台で買った食べ物を自由にテラス席で食べて良いらしい。

「美味しい」

 香ばしく焼きあがったワッフルは、甘くて美味しい。中に入ってるシュガーの食感もすごく良い。

 これなら、いくつでも食べられそうな気がする。

 ……だめだ。仕事中なのに。

「どうした?」

「前に来た時は、バニーと一緒に屋台を回って、食べ過ぎちゃったから」

 気を付けてても、つい気を取られちゃう。

「どこも美味いからな。街道の街が発展したのは、ただの王都への中継地点ってだけじゃなく、食い倒れの街として有名になったのもあるんだ」

「それ、すごくわかるかも」

 誘惑が多すぎて、すぐに立ち止まっちゃう。

 二つ目のワッフルを食べ終えると、エルが目の前で苺ジャムのタルトを半分に割った。

「……苺?」

 苺のタルトって……。

 エルが私の口に割ったタルトを入れる。

「これなら、半分に分けられるからな」

 前は、半分に出来なかったから。

「そういえば、前は機嫌悪くなってたな」

 そうだっけ?

「苺を口に放り込んだ後」

 それは……。

 口に入ったタルトをかじって、手に持つ。

「あれは、機嫌が悪くなったわけじゃなくて……。エルが、物語みたいなことするから……」

「物語?」

「お話の中で、主人公の好きな人が、苺を主人公の口に入れて、初めて名前を呼んでくれるっていうシーンがあるの」

 エルは全然知らないと思うけど。

 憧れてた状況と同じことされたから。

 彼が私の口に苺を入れて……。

「リリーシア?」

 前みたいに呼ばれて顔を上げると、エルが笑ってる。

 もう、わかっててやってるよね?

 エルが私の頬を指でつつく。

「リリーで良いんだっけ?」

「……どっちでも、大丈夫」

 残りのタルトを食べていると、半分にしたタルトをエルが食べる。

 あれ?普通に食べてる?

「甘くない?」

「甘い」

 エルが紅茶をすする。

 でも、眉をしかめてないし、甘さは平気みたいだ。

 前よりも甘いもの大丈夫になってるよね。

「ゆっくり食べて良いよ」

「でも、日が暮れるまでには到着しなきゃ」

 タルトを食べながら、エルと一緒に空を見上げる。まだ、光の精霊がたくさん飛んでる。

「まだ光の精霊の時間だな」

「え?見えるの?」

「まさか」

 ……そうだよね。

「そういえば、今日、エルに言われたことを試してみたんだ」

「言われたこと?」

「魔法の色の実験。剣の刃が伸びる魔法をね、撫子色をイメージしてやってみたの」

「結果は?」

「撫子色になったよ」

 エルの予想通り。

『リュヌリアンで試したら、光が空高く伸びて行ったよね』

「そう。雲を斬ったりはしなかったんだけど……。そんなに魔法の力を込めたつもりはないのに、イメージよりも、すごく伸びたの」

 どうして、あんなことになったんだろう。

 短剣に魔法を込めた時の感覚で、色を撫子色に変えただけのつもりだったのに。

「月の女神の祝福を受けた結果、リリーの魔法の効果を高める祝福が付いたのかもしれない」

「そんなことがあるの?」

「魔法使いが杖を持つのも、属性に合わせた魔法を強化する為だからな。似たようなことが起きてるんだろう」

「そっか」

 研究所で戦った時は、そこまで伸びなかったけど……。

 前より魔法が上手く使えるようになったってことなのかな。

 あんなにすごい魔法を出したのに、全然疲れなかったし。

「俺も見てみたかったな。撫子色の光」

「今、ここでやってみる?」

「だめ」

『駄目に決まってるだろ』

『やめておいた方が良い』

『そうねぇ』

「……はい」

 もっと練習が必要みたいだ。

 

 ※

 

 北の港に到着。

 空には闇の精霊が増えてきた。そろそろ夕方だ。

 街に居る間、陽炎は馬車の御者をしてくれた人が預かってくれるらしい。世話をお願いして、皆で街の中へ。

 これから、国賓の出迎えを担当している政務官が居る宿へ向かう。

「メヘン同盟?」

「あぁ。西南諸国は今回、メヘン同盟という形で参加することになってるんだ。これまでは、ラングリオンの同盟各国が独立して参加していたけど、同盟国を基軸に、モラルタ王国が盟主国となって発足したメヘン同盟の代表が参加する」

 西南諸国は、戦争が多い地域って言うけど。地域で同盟を組めるぐらい、今は情勢が落ち着いてるのかもしれない。

「メヘン同盟は、今日、港に到着予定なんだ。会えたら今日中に会う予定。明日には南部のパウリナ国とアルマデル国も来るはずだ」

 それぞれの国との会談を上手くまとめるのが、エルの仕事だ。

 そして、エルの護衛をするのが私の仕事。

 港町は今日もにぎわっている。

「……?」

 今、視線を感じたような?

 周囲を警戒するけれど、特に何もない。

 見上げた空には、羽を大きく広げた鳥が飛んでいる。

 

 皆で、政務官が拠点にしている宿へ。

 ロビーに入ると、メイドさんが頭を下げて出迎えてくれた。

「秘書官のエルロックだ。政務官のケヴィンとアンナは居るか?」

「はい。ただいま、西南諸国のメヘン同盟の代表の方々をお迎えして、会議の最中でございます」

 予定通りに到着してるみたいだ。

「誰が来てるんだ?」

「今、いらっしゃるのは、モラルタ王国の第五王女のカリア様、ベガルタ王国の第三王子パロミデス様です」

 王女様と王子様。

「他は?」

「従者の方々もいらっしゃっております」

「盟主は来てないのか?」

「盟主様は別行動で、まだいらっしゃってないと……」

 玄関の扉が騒々しく開く音がして、半歩エルの前へ出る。

「お待ちください、」

「カリア!早く来て、この騎士に状況を説明してやってくれ」

 誰?

 外で護衛していた騎士が、困ったような顔で引き留めてる。

 武器も持ってないし、攻撃的な人じゃなさそうだけど……。

 っていうか、大きな袋を背負ってるし、商人っぽいよね?

 商人?

「あ」

 この人、見たことある?

 商人さんが私を見る。

「これはこれは。皇太子近衛騎士のリリーシア様ですね」

 誰だっけ……。

『こいつ、リリーがアクセサリーを買った店の商人だ』

 あの時の商人さん?

「あの、どうして私の名前……」

「海での怪物退治に、地上での巨大スライム退治。見事なお手並みでしたよ」

 そっか。港に居た人は、皆、騒ぎを知ってるよね。

「そして、あなたが冒険者としても有名なエルロック様ですか」

 商人さんがエルの方へ行く。

 あの時とは態度も口振りも全然違うのは、私たちがアレクさんの直接の部下だって知ってるから?

「お初にお目にかかります。皇太子秘書官エルロックと申します」

 エルが、竜の挨拶の手を商人さんに向ける。すると、商人さんが微笑んで握手の手を合わせた。

「友情を」

「友情を」

 そう言った後は、ラングリオンでよく見かける一般的な握手を二人が交わす。

「メヘン同盟の盟主、モラルタ王国第一王子サフィールと申します」

 この人が盟主だったんだ。

 ……露店商をしてたのに?

 

 ※

 

 先に来ていたカリア王女、パロミデス王子を交えて、応接室で会談が始まる。

 二人とサフィール王子がソファーに座って、その向かいに、エルとベルトランさんが座る。私は、エルの後ろに立っていたら良いかな。

 部屋に居るのは六人だけ。極秘の会談だから、政務官のケヴィンさん、アンナさん、それからメヘン同盟の従者の人たちは、ロビーで待っていてもらっている。ドニスさんが扉の護衛をしているはずだ。

 ベガルタ王国の第三王子であるパロミデス王子は、盟主第一補佐で、サフィール王子とは従兄弟らしい。

 兄妹とか従兄弟でも、あんまり似てるようには見えないけど……。あ、身に着けてる手袋は同じ?柄や長さが違うけど、皆、中指に引っ掛けるタイプのフィンガーレスグローブを付けている。

 

 会談は順調みたいだ。

 たまにベルトランさんが西南諸国の言語で通訳をしているけど、ほとんど共通語で意思疎通が出来ている。

 サフィール王子が微笑む。

「それは素晴らしい。我々でお力になれることがあるならば、是非お手伝いさせていただきますよ」

「感謝します」

「では、そろそろ酒宴と参りましょう」

 カリア王女が眉をしかめる。

「お兄様。私から、いくつかお話したいことがございます」

「明日には、王都へ向かうという話だろう。彼とゆっくり話すことが出来るのも今夜ぐらいなものだ。それに勝る緊急の要件でもあると言うのか」

 まだ終わりじゃないらしい。

 王子が大きな袋を開けて、金属製のゴブレットをテーブルに並べる。

「ピューターのゴブレットですか」

「ご名答。ただし、ご安心を。こちらは、わが国で開発された鉛を一切使用していないものですから」

「触っても?」

「どうぞ」

 ピューター。

 グラシアルでも見たことがある素材だ。

 鉛が入った合金は鉛中毒になるから、食器には使っちゃいけないんじゃなかったっけ?

 でも、鉛が入ってない?

 どういうこと?

「ウロボロス?」

 エルが、ゴブレットの脚の裏を見てる。

 環状の蛇。エルの腕輪と同じだ。

「良くご存知ですね」

 王子がインゴットを出して、身を乗り出してエルに説明している。

「グロリアスピューターです」

「グロリアスピューター?」

 ため息を吐いたカリア王女と目が合う。

 立ち上がった王女が、こちらに来た。

「御心配をおかけしてすみません」

「いえ……」

 私、そんなに心配そうな顔してたかな?

「これは、本当に安全なものなのです。ラングリオンの皆様がお使いになっても、健康を害するようなことは一切ございません」

「危ない金属は使ってないってことですよね?」

「その通りです。少しご説明をする時間を頂いても?」

「私に?」

「はい。皇太子……」

「カリア様も何か……」

 パロミデス王子が、王女を見る。

 皇太子って……。

 私を通して、アレクさんに伝えたい秘密の話がある?

「お兄様、リリーシア様と少し散歩に出かけてもよろしいかしら」

「もちろん、構わない」

「パロミデス様、しばしの間、お兄様をよろしくお願いいたします」

「……わかりました」

 大事な話は終わったみたいだし、離れても大丈夫かな?

『ちょっと出かけてくるよ』

「気を付けて」

「うん」

 

 王女と一緒に、部屋を出る。

「お疲れ様です」

「ドニスさん。私はカリア王女と出かけてくるから、エルをお願いしても良い?」

「はい。お任せください」

 ロビーに行くと、政務官のケヴィンさんとアンナさんが居る。

「会談は終わりましたか?」

「終わったんですけど……」

「はい。素晴らしいお話を聞くことが出来、感謝しております。ただ、兄はエルロック様ともう少し話をしたいようなのです。もうしばらく、お部屋を使わせていただいてもよろしいでしょうか」

「もちろん、構いません」

「ありがとうございます。では、リリーシア様。参りましょう」

 従者の一人が、こちらに来る。

「お供いたします」

「ご自由に。ですが、邪魔はしないでくださいね」

「御意」

 護衛に、何人か付いてくるみたいだ。

 

 カリア王女と一緒に宿を出る。

「強引な兄で申し訳ありません」

「いえ。そんなことないです」

 会談も順調だったし。

 そうだ。

 あれ、やってくれるかな。

 右手を竜の挨拶の形に出す。

 すると、カリア王女が同じように右手を出す。

「友情を」

「友情を」

 カリア王女が微笑む。

「まさか、この挨拶をしていただけるとは思っていませんでした。ラングリオンでしていただいたのは初めてです」

「そうなんですか?」

「もしや、エルロック様も兄と挨拶を交わされましたか?」

「はい」

「そうでしたか」

 カリア王女が納得したように頷く。

「私たちの国では、挨拶はとても重要なものです。リリーシア様。どうか、私のことはカリアとお呼びください」

「えっ?王女様なのに……」

「いいえ。私の母は先王の側室の娘で、婚姻で王家を離れています。なので私は王家とは無関係なのですが、早くに父を亡くした為、情けで宮殿での生活を許されていただけの身なのです」

 ええと……?

 まとめると、国王の異母姉妹の娘?

 王女が苦笑する。

「歩きながら話しましょうか」

「はい」

 カリア王女と一緒に歩くと、後ろに居た護衛の人が歩き出す。

 ある程度、距離を置いて付いてきてくれるみたいだ。

「少し複雑で……。血縁で言えば、パロミデス様の方がお兄様と近縁になりますね。私は、サフィール王子の婚約者として第五王女の身分を頂いているだけです」

 婚約者?ハルトさんとドロテアさんと似た感じなのかな。

「幼馴染だったの?」

「とんでもない。当時のお兄様は第五王子とはいえ、高貴な御身分でしたから。お近づきになれたのも、留学に同伴することが決まってから。私とお兄様、パロミデス様は、共通語や大陸の文化を学ぶ為、クエスタニアへ勉強に行っていたのです」

「だから、共通語が得意なんですね」

「はい」

『今、第五王子って言ったよね?第一王子じゃないの?』

「サフィール王子は第一王子ですよね?」

「先の政変で、第一王子となられたばかりです。懇意にしていた商人の協力を得て、政治の中枢に居た方々の不正を暴き政変を起こしたとか。第一夫人とその血縁は追放され、サフィール王子が第一王子となったのです」

 そんなことがあったんだ。

「そして、手伝っていただいた商人の方の呼びかけやパロミデス様の御助力によって、メヘン同盟が発足したのです」

「サフィール王子って、すごい人なんですね」

「はい」

 カリア王女が微笑む。

「お兄様は立派な方です。ですが、私の身分はお話した通り。どうか、気軽にカリアとお呼びください」

 良いのかな……。

「リリーシア様は、友情を交わしたお相手。仲良くして頂けませんか?」

 挨拶を交わすと、一気に距離が縮まるのかもしれない。

「じゃあ、カリアさん。私のことはリリーって呼んでください」

「では、リリー様と呼ばせていただきます」

「えぇ?」

「兄から、美味しい料理のお店を聞いているんです。一緒に行きましょう」

「美味しいお店?いつ聞いたんですか?」

 確か、カリアさんたちは、サフィール王子と別行動じゃなかったっけ?

 カリアさんが竜の挨拶の形をした左手を上に伸ばし、口笛を鳴らす。

 すると、カラスぐらいの大きさの鳥が王女の手にとまった。

 違う。鳥じゃない。この翼……。

「ワイバーン?」

「はい。ニミュエと言います」

 カリアさんが、手にとまったワイバーンを自分の肩に乗せる。

「荒野に生息するワイバーンの一種です。鳥のように小さな種類ですが、とても賢く、人に良く懐きます。ニミュエは、私の大事な友達で、この子を通じて兄と連絡を取ることが出来るんです」

「竜の挨拶って、ワイバーンとの挨拶のことだったんですか?」

「古くから使われているので、色んな謂れがあります。ただ、昔から右手は人と、左手は竜との挨拶に使います」

 だから、挨拶は右ってベルトランさんが言ってたんだ。

「撫でてみても良い?」

「どうぞ」

 カリアさんの肩に居るワイバーンを撫でると、ワイバーンが私の手に顔をこすりつける。

「可愛い。暗くても平気なの?」

「この子は、明かりを灯すことも出来ますから」

 カリアさんがワイバーンの額を撫でると、額が瞼のように開き、明かりが広がる。

「いつも、夜道はこの子に照らしてもらうんです。……でも、ここは夜でも明るいですね」

 見渡した通りは、明るい街灯に照らされている。

「お話したいこともありますし、そろそろ行きましょうか」

「はい」

 ニミュエが額の光を閉じる。

 

 カリアさんの案内で、賑やかな通りから少し外れた場所へ。

『こんなところに、ご飯食べるところがあるの?』

 繁華街からは離れてるよね。穴場のお店?

「ここです」

 カリアさんと一緒に、お店の中に入る。

「いらっしゃいませ」

 静かで、温かそうな雰囲気のお店だ。お客さんも何人か居る。

 店員さんに案内された席に二人で座る。

 何にしようかな。

「あ、エルダーフラワーのドリンクがある」

「まぁ。御存知でしたか?」

「うん」

 ラングリオンでは見かけないよね。

「では、これの炭酸割りを」

「かしこまりました」

 店員さんがドリンクを取りに行く。

「ここのミートパイが美味しいと聞いたのです」

「じゃあ、私もそれで」

「後は……」

 

 料理は、ミートパイとサラダ、それからヤギの乳で作ったチーズを頼むことにした。

 丁度、ドリンクを運んできてくれた店員さんに注文して、二人でグラスを持つ。

「乾杯」

「乾杯」

 少し強めにぶつかったグラスが、大きな音を立てる。

「申し訳ありません。割れてしまいますよね。私の国では、グラスを強く乾杯するのが慣例なのです」

「もしかして、金属のゴブレットを使うのはその為?」

「はい」

 爽やかな香りのするドリンクを飲む。

 美味しい。久しぶりだ。

「リリー様は、どこでこれを?」

「私はグラシアルの出身なんだ。向こうでも、このシロップはあったから」

「そうでしたか。皇太子殿下は、国籍に関係なく騎士を迎えられるのでしょうか」

「どうなのかな」

 グラシアルの市民証も持ったままたけど。

「私は、エルと……、皇太子秘書官のエルと結婚してるから、元々、ラングリオンの市民証は持ってるの」

「まぁ。お二人は御夫婦だったのですね」

 そう言われるのは、まだ慣れないんだけど……。

 カリアさんが笑う。

「新婚なのですね。では、エルロック様がお付けになっていた腕輪のこともご存知でしたか?」

「ウロボロスの腕輪?」

「はい。あれは西南諸国でしか見かけないものと思っておりました。竜の挨拶に加え、こちらのアクセサリーを身に着けていらっしゃったことを、兄は喜んでいたと思います」

 ウロボロスも知ってたし、エルも西南諸国のこと、調べてたのかな。

「こちらは小国の寄せ集めで、大陸会議で事前会議をやって頂けるような地位にはありませんから」

「そんなことないです。エルは最初から、ちゃんと話し合うつもりで資料とか作ってて……」

『あんまり余計なこと言わない方が良いんじゃないの?』

 そうだった。機密情報もあるんだよね。

「そう仰っていただけて、光栄です」

「それに、エルが付けてる腕輪は、サフィール王子が露天商をしてる時に私が買ったものなの」

「兄が、露天商?」

 カリアさんが驚いてる。知らなかったみたいだ。

「前に港に来た時に、トルマリンのアクセサリーを売ってて……。あ、まだ持ってます」

『そういえば、お土産渡してなかったね』

 渡しそびれていたお土産を出す。

 水色のトルマリンの腕輪と、ピンク色のトルマリンのペンダント。

「こっちは、その時に私の姉に買ってもらったのです」

 ポリーに買ってもらった透明なトルマリンのペンダントも出す。

「リリー様は、すべてトルマリンだと御存知だったのですか?」

「うん。エルに渡したのは、珍しい猫目のトルマリン。どれも銀貨一枚で良いのかなって値段だったけど……」

「どれぐらいの価値があると思いますか?」

「このピンクトルマリンは、色合いも綺麗だし、最低でも銀貨二枚。アクロアイトは銀貨三枚。腕輪はペンダントより珍しくて丁寧な装飾だから、これだけで価値が上がると思う。パライバトルマリンは銀貨三枚……、四枚でも売れるかも。エルのキャッツアイは五枚以上の価値があるよ」

「すみません。もう一度、仰っていただけますか?書き留めます」

 もう一度、カリアさんに説明してる間に、料理が運ばれてきた。

 邪魔にならないようにアクセサリーを仕舞う。

 カリアさんは、今話したことをメモしてるみたいだ。あの文字は、モラルタ王国の言語だよね。

「参考になります。兄も、トルマリンの販路を開拓する為に露天商をやっていたと思います。エルロック様にゴブレットを勧めたのも、その一環でしょう」

「あのピューターって……」

「国王陛下と皇太子殿下には、グロリアスピューターの安全を保障して頂く為に、材料をお伝えする予定だったのです。配合はお教え出来ませんが、スズの他に含まれている材料はこちらです」

 カリアさんが、テーブルに鉱物を置く。

 真鍮だ。つまり、銅と亜鉛が含まれてる?

「そして、こちらも秘密の材料として、わずかに含まれています」

 カリアさんが置いたのは、月の石。砂漠にしかないはずじゃ……。

「どうしてこれが?西南諸国にもあるんですか?」

「リリー様は博識でいらっしゃいますね。どうか、この秘密は公にはなさらないで下さい」

 エルにも言っちゃいけないってこと?

「わかりました。確実に主君に報告します」

「ありがとうございます」

 月の石が含まれていることは、アレクさんにも口頭で報告した方が良さそうだ。

 

 ※

 

 一緒に食べたミートパイは、すごく美味しかった。

 カリアさんと一緒に宿に戻る。

「本日は、ありがとうございました。私は宿に戻ります」

 そっか。カリアさんが泊まってる宿はここじゃないんだ。

「送ってくれてありがとうございます」

「いえ。……明日は、朝一で王都に向けて出発する予定です。名残惜しいですが、もう一度、大陸会議でお会いできることを願ってます」

 カリアさんと竜の挨拶をする。

「幸運を」

「幸運を」

 別れの時は、こう言うらしい。

 カリアさんが護衛の人と合流したのを確認してから、宿に入る。

 

 エルは、まだサフィール王子たちと居るらしい。

 ドニスさんが護衛している部屋からは、賑やかな声が聞こえる。

「邪魔しない方が良いかな?」

「そうですね。先にお休みなられても大丈夫ですよ」

 明日も会談はあるし、休めるうちに休んでおいたほうが良いよね。

「わかった。よろしくお願いします」

「はい。お任せください」

 

 ※

 

 政務官のアンナさんに案内してもらった部屋へ行く。

 エルと同じ部屋にしてもらうようにお願いしたら、ベッドが二つある部屋に通してもらった。

 派手じゃないけど、造りの良い家具がそろった部屋だ。

 シャワールームまである。

 ゆっくり休めそうだ。

 

 シャワーを浴びて寝る支度をしていると、ノックの音が鳴った。

 エルかな?

「どうぞ」

 返事をすると、扉が開いてエルが入って来る。

「おかえりなさい」

「ただいま。リリー」

 エルが上着と荷物を下ろして、倒れるようにベッドに横になる。

 疲れてるみたいだ。

「大丈夫?」

「少し酔った」

 エルの体を引き寄せて、膝枕をする。

 カリアさんから聞いた話、しておいた方が良いよね。

 

 ※

 

 一通り話を聞いたエルが欠伸をする。眠そうだ。

「明日は、朝一で出発するって言ってたよ」

「じゃあ、早く起きて見送らないとな」

「早起き出来る?」

 エルが私の頬を撫でる。

「起きられなかったら起こして」

「良いよ」

 だから、ゆっくり休んで。

 おやすみなさい。

 

 


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