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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
13/149

10 想いを寄せる人

 ガレットデリュヌをみんなで食べた後、エルはカミーユさんと一緒に研究室に行ってしまった。

 台所を片付けて、ルイスが本を読んでいる横で、キャロルと一緒にマカロンに挟むクリームを作る。

「リリーシアは、いつからお菓子作りをしているの?」

「七歳だよ」

 私が女王の娘になってから。

「姉に教わったんだ」

「姉って、ポリシアさん?」

「違うよ。一番上の姉から」

 名前はディーリシア。私はイーシャって呼んでる。

「リリーって何人兄弟なの?」

「血は繋がってないけど、五人姉妹だよ。上から、ディーリシア、アリシア、ポリシア、私、メルリシア」

「四番目なのね」

「うん」

 イーシャはセルメア、アリシアとメルはグラシアルに居る。

 みんな元気にしてるかな。

 イーシャにはしばらく会ってないから、会いに行きたい。

「両親は?」

 親は……。

「私の育った所って変わってて。誰も自分の親を知らないんだ」

「そうだったの。変なこと聞いてごめんなさい」

「あの、本当に変なところだったから。気にしないで」

 私を七歳まで育ててくれた女の人は私と血が繋がっていないし、自分の母親と父親が誰なのかも知らない。

 けれど、それはみんな同じで、当たり前のことだと思っていた。

 世の中の一般的な家庭が血の繋がった親子で暮らすというのは、本で知った知識。

 良く考えれば、そっちの方が当たり前なんだけど。

「リリーシア、今度の休みにウエストの製菓材料店に行こう」

「八日?」

「そう。ジニーと会う約束もあるし」

「それって、デートだよね?」

「気にしなくて良いよ。ジニーも行くだろうし。このマカロン、もらっても良い?」

「うん」

 ショコラの生地に、ショコラのクリーム。

 コーヒーの生地に、コーヒーのクリーム。

 それから無地の乳白色の生地には、ミラベルのジャムで作ったクリームを挟んである。

 出来上がったマカロンを、いくつか袋に詰める。

「カミーユさんに渡して来るね」

 

 ※

 

 研究室の扉の前で、ノックを二回。

 そして、ゆっくり扉を開く。

「あの……」

 錬金器具の前で椅子に座っているエルと、ソファーに座っていたカミーユさんが、こちらを見る。

 あれ?エル……。

「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。新婚なのに邪魔したな」

「待って、カミーユさん。これ、この前のレシピで作ってみたの」

 立ち上がったカミーユさんに、マカロンの包みを渡す。

「この前のレシピ?」

「リリーシアちゃんがマカロンのレシピを知りたがってたから教えたんだよ。上手く行ったかい?」

 昨日よりは上手く行ったと思うけど……。

「タイミングが難しいかも。でも、綺麗な艶は出たと思う」

「流石、リリーシアちゃん。お菓子作りが上手い女の子は良いねぇ」

「からかわないで」

 あんなに美味しいクレープシュゼットを作れる人に言われたくないな。

 そうだ。カミーユさんに聞こうと思っていたことがあるんだ。

「この前一緒に歩いていた人って、恋人?」

「あぁ。そうだけど」

「……そうなんだ」

 違うと思ってたのに。

「それじゃあ、俺はこの辺で。またな。エル、リリーシアちゃん」

「あぁ」

「はい」

 部屋を出て行くカミーユさんを見送る。

 カミーユさん……。

 なんで恋人なんて作るんだろう。

 お菓子作りが趣味なのも、女の子にもてたいからなんて、絶対嘘なのに。

「何か気になることでもあるのか?」

「うーん」

 エルの前では聞けないよね。

 っていうか。それよりも聞きたいことがあるんだった。

「ねぇ、エル、」

「リリー、膝枕して」

「……うん」

 ソファーで膝枕をすると、エルはすぐに目を閉じてしまう。

「寝るの?エル」

「眠くて、限界」

「大丈夫?」

「ん……」

 あぁ。このまま寝ちゃいそうだね。

 間もなく、エルの寝息が聞こえてきた。

 本当に疲れてるんだ。

 昨日、寝ないで何をしてたのかな。

 ドラゴン退治と、婚約者騒動を潰すことと……。他にも、まだ何かしてる?

「ねぇ、アレクさんの手伝いって何をしてるの?」

『それ、もしかしてボクたちに聞いてる?』

「うん」

『エルが言う気ないのに?』

「ドラゴン退治なんだよね?」

『なんでリリーが知ってるの』

「アレクさんに聞いたの」

『いつアレクに会ったんだよ』

「立秋の三日。舞踏会に行ったんだ」

『舞踏会ってぇ、リリー、ドレスを着たのぉ?』

「……うん」

『マリーに連れて行かれたのか』

「そうだよ」

『良くドレスを着る気になったね』

『リリーって、どうしてスカートを嫌がるの?』

「……苦手なの」

『女の人って、スカート着てる人の方が多いのに?』

『アンジュ。人には好みがあるんだ』

『でもさ、エルも見たかったんじゃないかなー。リリーのドレス姿』

『私も見たかったわ』

『あれだけ忙しかったら無理だろう』

『三日の日って、ずーっと執務室に居た日よね?』

「執務室?」

 あれ?

―アレク様ってば人使いが荒いんですよー。新人君が入っても楽にはならないんだよね。

―やっぱり。愛しのリリーちゃんだねー。

―コーヒーでも飲んで行く?きっと、執務室の士気が上がると思うなー。

―残念だなー。きっと喜ぶと思うのにー。

『リリー、どうしたの?』

 あぁ……。

 ちゃんと、メルティムさんの言うこと聞いていれば良かったんだ。

 年末年始の中途半端な時期に新人が入ったこと、私のことを愛しのリリーちゃんって呼んでくれたこと、私が行けば喜ぶことまで、せっかく教えてくれたのに。

 全然気づかなかった。

「エル、アレクさんの秘書官になったんだね?」

『えっ。今ので気づいたの?』

「違うよ。私、舞踏会の日、メルティムさんに会ったの。執務室でコーヒーでも飲んで行かないかって誘われたんだ。……エルが居るって、暗に教えてくれてたのに。私、ちっとも気づかなかった」

 エルはあの日、メルティムさんたちと執務室で仕事をしてたんだ。

 誘いに乗っていれば、エルに会えたのに。

 あぁ。落ち込む……。

 っていうか。

「エルって、ドラゴン退治と、婚約者潰しと、アレクさんの秘書官をやってるの?」

『ばればれねぇ、エル』

 すごく忙しいんだ。

 それなのに、家に帰るために寝ないで頑張ってくれたんだ。

 ……ごめんなさい。

『婚約者の話しまで、アレクから聞いたの?』

「その話しは、マリーが言ってたの。きっと、アレクさんとエルが何かしようとしてるって」

『何かって?』

「エルが死んだことにすれば私は未亡人になるから、アレクさんは私を婚約者にするんだって。そうすれば、剣術大会では、誰もアレクさんの婚約者を願いにできなくなるでしょ?」

 目の前に居る精霊たちが顔を見合わせる。

 やっぱり、違うのかな。

「剣術大会が終わったらエルが復活して、婚約が解消されるから問題ないって言ってたけど……」

『それ、エルが賛成すると思う?』

「しないで欲しい」

『しないだろうな』

『エルはリリーが大切だから……』

『そうよ。エルはリリーに会いたくてずっと仕事頑張ってたんだもの』

『エルはリリーが大好きだからねー』

『独占欲が強いからな』

『っていうかさ。エルが起きるまでここに居るつもり?エル、一睡もしてないから、しばらく起きないと思うよ』

 本当に熟睡してるみたい。

 ちっとも起きない。

「部屋に運んであげようか」

 エルの体を抱えて立ち上がる。

「あれ?」

 エルが持っている剣。

 一つは見たことのない片手剣で、もう一つは鞘だけ。

 この鞘に収まっているはずの剣は……?

「どうして、イリデッセンスがないの?」

『ドラゴンに持って行かれちゃったのよぉ』

「ドラゴンに?」

『あのレイピアは、今も紫竜に突き刺さったままのはずだ』

『エルはイリデッセンスを取り返すためにドラゴン退治に行くんだよ』

「そうだったんだ……」

 剣ならまた作ったのに。

 エルのばか。

 お願いだから、無理しないで。



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